弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を取消す。
     光市大字a字bc番地宅地二百三十二坪について定められた買収計画を
容認して控訴人のなした訴願を棄却した被控訴人の昭和二十六年三月二日付の裁決
を取消す。
     訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴指定代理人は本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。
 当事者双方の主張は控訴代理人において
 一、 被控訴人の本案前の抗弁について
 控訴人は昭和二十六年三月十五日被控訴委員会の訴願裁決書の送達を受け、同月
二十日山口地方裁判所に訴を提起し、その請求の趣旨には農地買収計画はこれを取
消すとの旨の記載があるがその内容は被控訴委員会のなした訴願裁決の取消を求め
る趣旨であることが被告を被控訴委員会としたことや、請求の原因によつて明かで
あり、只その表現に誤謬があつたからこれを訂正したもので訴の変更をなしたもの
ではない。従つて自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第四十七条の二
の提訴期間を徒過してはいない。
 二、 異議、訴願が法定期間を徒過しているとの抗弁について
 光市第二区農地委員会より控訴人に対し本件土地の買収計画の通知がなく昭和二
十五年十月五日山口県知事から買収令書が送達されて始めて控訴人は買収計画のあ
つたことを知り翌十月六日直ちに光市第二区農地委員会に異議申立をなし、右申立
は受理されたが同月十日理由なしとして却下された。同月二十五日被控訴委員会に
訴願したところ昭和二十六年三月二日被控訴委員会は右訴願棄却の裁決をなし該裁
決書は同月十五日控訴人に送達された。自創法には買収計画を立てた際これを所有
者に通知することを要件としていないが、光市第二区農地委員会は本件土地につき
昭和二十四年十一月一度買収計画を立てたときには所有者である控訴人に通知して
きたので控訴人は早速該土地の監視人であり納税管理人であるAをして異議申立の
ため同委員会に出頭せしめたところ同人は同委員会と光市役所で本件土地は宅地で
あるから買収の対象とならないと云うことを聞かされその旨控訴人に通知してき
た。その後右買収計画は取止めとなり、控訴人は右は宅地であるから買収にならな
いものと信じ安心していた。然るに同委員会は昭和二十五年六月第二次買収計画を
立てたに拘らず控訴人に通知しなかつた為これを知るに由なく前述のように異議申
立をしたときには法定期間を経過していたのであるが右の如き事情は訴願浅第八条
第二項に所謂宥恕すべき事由に該当するから同委員会も異議申立を受理し実体的審
議をしてこれを排斥し、これに対し控訴人は法定期間内に被控訴委員会に訴願し、
被控訴委員会も亦実体的審査をなした裁決をなし、これに対し控訴人は本訴を提起
したのであるから本訴はもとより適法である。又光市第二区農地委員会は第二次買
収計画樹立に際しその公告、書類の縦覧には自創法第六条第五項により土地台帳上
の地目を記載すべきであるのに該地目は宅地となつているのを殊更畑となして事実
に反する記載をなした。かくの如き公告や縦覧期間の設定は無効であるから期間の
徒過も実際上あり得ないし、かかる違法手続による買収計画も違法である。
 三、 控訴人は本件土地についての納税管理を訴外Aに依頼したが偶々本件土地
が海軍から返還された後控訴人不知の間に何者かが無断でその一部に耕作している
ことが分つたので伝手に同人にその監視方も依頼したが、土地の管理を委託しては
いない。然るに右Aは控訴人に無断で訴外Bに該土地の耕作をなさしめたが右Aの
権限外の行為により右Bも無権限で耕作したのであるから宅地が変じて農地となつ
たわけではない。仮に控訴人が右Aに該土地の使用収益を許し同人が右Bに転貸し
たとしても控訴人に無断でしたものであるから効力はない。又右AがBに耕作さし
たとしても控訴人が家屋を建築する迄一時的使用を許容したものであり、該土地は
光市都市計画区域に入り隣接地の状況、道路の施設等附近の情勢は都市における宅
地の外形を呈して居り唯一時的休閑時に耕作させたものであるから依然として宅地
であり農地ではない。然るにこれを農地と認定した買収計画を認容した訴願裁決は
違法である。仮に農地であるとしても右Bは農耕により主食を生産している者では
なく主食の消費者で供出は全然していない。かかる者が片手間に麦を耕作していた
としても小作を業とする者には当らない。従て本件土地は小作地でないからこれを
不在地主の小作地と認定した訴願裁決は違法である。
 と述べ、被控訴指定代理人において
 一、 本案前の抗弁として
 本訴請求は自創法第四十七条の二第一項の規定する出訴期間を遵守しない違法が
ある。即ち控訴人が訴願裁決書を受領し裁決処分があつたことを知つた日は昭和二
十六年三月十五日であり、控訴人が原審において「請求の趣旨訂正の申立書」を提
出したのは同年十一月二日であり同日訴の変更をなしたものであるから民事訴訟法
第二百三十五条の趣旨に従い行政処分の取消を求める訴は右同日提起されたものと
みなければならない。結局右は出訴期間を著しく徒過して不適法であるから本訴請
求は却下さるべきである。
 二、 本件訴願は法定期間を徒過した違法がある。元来訴願裁決は文書を以てな
し理由を附すればよいので訴願を排斥するに足る一つの理由を附すれば十分であ
る。従て本件裁決が実体的に審査して理由なしとしたからと云つて訴願申立期間の
徒過に対する責問権を拡棄したなどと云う問題は起らない。尚本件土地は当時事実
上農地となつていたから公告等に畑地となつていても本件買収計画樹立に対し何等
影響がない。
 と述べた外は何れも原判決の事実摘示と同一なのでここにこれを引用する。
 立証として控訴代理人において甲第六号証の一、二、三、第七号証の一、二、第
八乃至十号証を提出し、乙第一号証の二、当審証人A、C、Bの各証言、控訴本人
訊問の結果並に当審検証の結果を援用し、被控訴指定代理人において当審証人D、
Bの証言を援用し、甲第六号証の一、二、三、第八乃至十号証の成立は認めるが甲
第七号証の一、二の成立は不知と述べた外は当事者双方の証拠の提出、認否、援用
は何れも原判決の摘示と同一なのでここにこれを引用する。
         理    由
 一、 先づ被控訴人主張の本訴が出訴期間を遵守しない違法があると云う抗弁に
ついて考えてみると、被控訴委員会の本件訴願の裁決書が控訴人に送達されたのは
昭和二十六年三月十五日であることは当事者間に争なく、本訴が原審に提起された
のは同年三月三十日であり同年十一月二日の準備手続期日に請求の趣旨訂正が申立
てられたことは本件記録により明かである。然るに右は何れも本件訴願の裁決に不
服であるからその取消を求める趣旨であるが表現方法を適切ならしめる為に請求の
趣旨訂正をしたものと認められるので訴の変更があつたわけでなく結局本訴は自創
法第四十七条の二所定の期間内に提起されているから右抗弁は採用できない。
 二、 次に被控訴人は本件異議の申立、訴願は何れも法定期間を徒過している違
法があると抗弁し、控訴人は右期間の徒過は宥恕すべき事由に該当しているから被
控訴委員会等が訴願の実体につき判断していると主張しているので考えてみると、
控訴人主張の土地は元来控訴人の所有であつたが光市第二区農地委員会が昭和二十
五年七月二日右土地につき不在地主所有の小作地として買収計画を樹立し被控訴委
員会が右計画を承認し、右承認に基いて山口県知事が買収令書を発行し、控訴人が
昭和二十六年十月五日右令書を受領したこと、控訴人はそれまでに該買収計画に対
し異議、訴願の申立をしたことなく右令書受領後始めて控訴人主張のように異議、
訴願の申立をしたことは当事者間に争がない。従て右異議、訴願が適法の期間を徒
過してなされたことになるが、光市第二区農地委員会の異議申立却下も、被控訴委
員会の訴願棄却の裁決も何れも期間徒過を問題とせず該申<要旨第一>立の実体につ
き判断してこれを排斥していることも当事者間に争がない。而して原審並当審証人
A、当審証人Dの各証言と当審控訴本人訊問の結果を綜合すると光市第
二区農地委員会は昭和二十四年十一月他の土地と共に本件土地につき第一次の買収
計画を立てた際に右各土地所有者に通知をなしたので控訴人もこれを知り本件土地
の納税管理と監視を委託していたAを同委員会に出頭させて異議の申立をさせ結局
その買収は取止めとなつたが、その後昭和二十五年七月二日同じ本件土地につき第
二次買収計画を立てその際には同委員会は公告、書類の縦覧等の手続はしたが前回
とは異り所有者である控訴人には何等通知せずそのため控訴人はもとより右Aも右
買収計画を知らなかつた事実が認められる。従て以上のような事情の下において前
示のように買収令書を受領して始めて買収計画を知り直ちに異議の申立(異議の申
立も訴願の一種と認める)をなしたのは正に訴願法第八条第三項に所謂宥恕すべき
事由ある場合と認められるから本件異議の申立は適法である。右農地委員会や被控
訴委員会が申立の実体につき判断したことは右と同一見解に出たものと解されるか
らもとよりその措置は妥当である。結局本訴は適法な異議訴願を経由したもので此
の点に関する被控訴人の抗弁も亦採用できない。
 三、 次に本件土地が前示のように不在地主の所有する小作地として買収計画が
樹立されたのであるが、果して控訴人主張のように該土地が宅地であるか否かの点
につき考えてみると、成立につき争のない甲第八、九、十号証に原審証人E、原審
並当審証人A、B、当審証人Cの各証言、当審控訴本人訊問並当審検証の各結果を
綜合すれば元来本件土地二百三十二坪は控訴人が家屋建築のつもりで昭和十四年九
月二十日競落により取得したものであるが、今次戦争中海軍からこれを借り上げら
れ、海軍はここに工廠工員の寄宿舎を建てたが終戦後該建物を解体しコンクリート
の土台はそのままとして昭和二十二年一月頃これを控訴人に返還するに至つた。そ
こで控訴人は早速右土地の地目を畑から宅地に変更することとして土地台帳、登記
簿上その変更手続をすませたが戦災を受けた上資金難により早急に建築することが
できず僅かに軍から払下を受けた元倉庫の建物の材料と新しい建材三馬車分を獲得
し更に屋根瓦を用意して自宅の屋敷内に保存したが建築に着手するに至らなかつ
た。当時光市役所から右土地の納税につき市内居住者で連絡のできるような管理人
を置いてくれと頼まれ、昭和二十四年六月十四日遠縁に当るAにこれを依頼すると
共に当時食糧不足から空地であれば他人の土地にも平気で農作物を作るような時代
であり現に該土地の一部に隣地の所有者が侵入して勝手に大豆を作つていたので該
土地の監視をも依頼した。その際右土地の大部分は寄宿舎の土台であるコンクリー
トが敷きつめられてあつてその上に砂がかぶつて居り元来耕作不適であるがそれで
も一部に大豆を作つていた位なので家屋を建築する迄の間境界確保の為にも野菜で
も作れるなら作つてもよいとは言つてあつた。然るに右Aは同年九月七日訴外Bに
対し右土地に地主が家屋を建築する迄の間原状のままで耕作することを許容した。
ところが右Bは右約に反し右コンクリートの土台の約三分の二を掘り返して麦、野
菜類を作るに至つたが他のコンクリートの残部には砂をかぶせて野菜を作つている
程度であつて全体が砂地ではあるし作柄は不良であつた。而して本件土地は光市都
市計画区域内に入つて居り、その南側に接したところと、北側約二十間離れたとこ
ろに東南方から北西方へ海岸線に平行して約六尺幅の道路が整然と通し、南側道路
を隔ててやや西寄りに二階建市営アパート二棟が新築されて居り、その東寄りは砂
地と松林になつている。東西北の直ぐ隣地は耕地となつているが少し離れては二棟
の新築家屋があり、北側道路向側には住宅が並んでいるので附近の耕地と一体をな
して住宅地として適当であり且つ宅地化の傾向が顕著であることが認められる。右
認定に反する部分の前顕B、控訴本人の各供述部分は措信しないし他に右認定を左
右するに足る証拠はない。
 <要旨第二>以上認定のように本件土地は元来地目も実状も宅地であり且つその所
有者において家屋の建築を準備中にその宅地の監視人が所有者に無断で
他人に一時的にその使用を許容し同人は買収計画当時所有者の意思に反して既存の
コンクリートの土台を掘り壊して耕作の用に供していたものであるからこのような
土地は自創法第二条に所謂農地には該当しないものと解するのが相当である。
 然らば右土地が農地であり小作地でありとした買収計画は違法であり、従てこれ
に対する控訴人の訴願を棄却して右買収計画を認容した被控訴委員会の本件裁決も
亦違法であること明白である。
 よつて爾余の争点について判断する迄もなくこれが取消を求める控訴人の本訴請
求は正当であるからこれを認容すべきである。右と異る見解を以て控訴人の本訴請
求を排斥した原判決は取消を免れないから民事訴訟法第三百八十六条、第九十六
条、第八十九条を適用して主文のように判決した。
 (裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛