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平成19年11月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(行ケ)第10015号審決取消請求事件
平成19年10月25日口頭弁論終結
判決
原告アフィメトリックスインコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士宮原正志
訴訟代理人弁理士山本秀策,馰谷剛志,長谷部真久
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人鵜飼健,徳永英男,平田和男,森山啓
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2002−7498号事件について平成17年9月6日にした
審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
アフィマックス・テクノロジーズ・ナームロゼ・ベノートスハップは,発明
の名称を「非常に大規模な固定化ペプチドの合成」とする発明につき,平成2
年6月7日(優先権主張1989年6月7日及び1990年3月7日,米国)
に国際出願し,この出願をもとの出願として,平成8年12月4日,分割して
特許を出願(以下,「本件出願」といい,このときの明細書(甲第12号証)
を「本件明細書」という。)した。その後,同社から原告が特許を受ける権利
を譲り受け,平成11年1月26日,特許庁長官に対しこれを届け出たが,平
成14年1月24日付け拒絶査定を受けたため,同年4月30日,審判を請求
した。
特許庁は,上記審判請求を不服2002−7498号事件として審理し,そ
の過程で平成16年9月8日付け手続補正書による補正がされたが,平成17
年9月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月16
日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲
平成16年9月8日付け手続補正書(甲第14号証)による補正後の本件出
願の請求項1ないし14は,次のとおりである。
【請求項1】オリゴヌクレオチド,核酸,ペプチド及びポリペプチドからな
る群より選択される成分を解析する装置であって,1cmまでの位置決定され2
た領域内に少なくとも10の異なる成分を有する表面を有する基板を備え,3
前記各成分が,既知の異なる位置決定された領域を占めており,かつ各位置決
定された領域にどの成分が占めているのかが既知であり,各既知の位置決定さ
れた領域が少なくとも100μmであることを特徴とする,前記装置。2
(以下,審決と同様に,請求項1に係る発明を「本件発明」,「成分を解析す
る装置」という場合の「成分」を「解析対象成分」,「異なる成分を有する表
面」という場合の「成分」を「基板表面成分」という。)
【請求項2】各既知の位置決定された領域が,10,000平方マイクロメ
ートル未満である,請求項1に記載の装置。
【請求項3】各既知の位置決定された領域が,10以上の異なる成分が存4
在する,請求項1に記載の装置。
【請求項4】各既知の位置決定された領域が,10以上の異なる成分が存5
在する,請求項1に記載の装置。
【請求項5】前記成分が2∼20merの長さである,請求項1に記載の装置。
【請求項6】基板が0.5mm未満の厚さである,請求項1に記載の装置。
【請求項7】基板が0.05mm未満の厚さである,請求項6に記載の装置。
【請求項8】前記位置決定された領域が,約10未満の表面積を有する,−5
請求項1に記載の装置。
【請求項9】前記各成分が,既知の位置決定された領域内において,少なく
とも50%の純度を有する,請求項1に記載の装置。
【請求項10】前記各成分が,既知の位置決定された領域内において,少な
くとも90%の純度を有する,請求項9に記載の装置。
【請求項11】前記各成分が,既知の位置決定された領域内において,実質
的に純粋である,請求項10に記載の装置。
【請求項12】前記成分が,既知の配列を有する請求項1に記載の装置。
【請求項13】生物学的活性をスクリーニングするための装置であって,
(a)1cmまでの位置決定された領域内に少なくとも10の異なるオリゴヌク23
レオチド,核酸,ペプチド及びポリペプチドからなる群から選択される成分を
有する表面を有する基板であって,前記各成分が既知の異なる位置決定された
領域を占めており,各既知の位置決定された領域が少なくとも100μmであ2
る,基板,
(b)前記基板をレセプターに暴露する手段であって,前記レセプターが蛍光マ
ーカーで標識されており,前記レセプターが少なくとも前記成分の一つと結合
するような前記手段,
(c)前記基板上の前記蛍光マーカーの位置を検出する手段,
を備えた装置。
【請求項14】基板上の蛍光標識領域を検出するための装置であって,
(a)1cmまでの位置決定された領域内に少なくとも10の異なるオリゴヌク23
レオチド,核酸,ペプチド及びポリペプチドからなる群から選択される成分を
有する表面を有する基板であって,前記各成分が既知の異なる位置決定された
領域を占めており,各既知の位置決定された領域が少なくとも100μmであ2
る,基板の表面へ光を照射するための光源,
(b)前記光源に応答して前記異なる成分から発する蛍光を検出する手段,
(c)前記基板を第1の位置から第2の位置へ移送するための手段,
(d)蛍光強度を前記基板上の位置の関数として蓄えるための手段,
とを備えた装置。
3審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件出願は平成2年法律第3
0号による改正前の特許法36条3項又は4項及び5項(以下,各項を単に
「特許法36条3項,4項,5項」という。)の要件を満たしておらず,本件
発明は特許法29条柱書の産業上利用することができる発明として完成したも
のではないから,特許を受けることができないとするものである。
審決は,特許法36条3項又は4項及び5項の要件を満たしていない点とし
て以下の(1)ないし(3)を挙げ,発明として未完成であるとして(4)のとおり述
べた。
(1)請求項1には,本件発明の必須の構成が記載されていない。
請求項1の記載では,単に1cm当たり10∼10箇所の決められた位236
置に,10∼10種類の基板表面成分があるという密度が規定されている36
にすぎない。
本件明細書(段落【0144】)には,「本発明は,基体上でポリマーを
合成するための非常に改良された方法及び装置に関する。」との記載がある
以上,本件発明を特定するためには,「光除去可能な保護基を用いたフォト
リソグラフィー技法を利用して基板上でポリマー成分を合成する」点が「必
須の構成」であるというべきであるが,請求項1には上記「必須の構成」が
記載されていない。
また,上記の数値自体に何らの臨界的意義はなく,物としての「基板」を
特定する要件としては不適切である。また,「基板」の特定が不適切である
から,上記「基板」を備えた本件発明の「解析装置」がどのようなものであ
るかを適切に特定したことにもならない。
上記のとおり,請求項1の記載は,ペプチド解析及びDNA解析分野にお
ける「自明の技術的課題」であった「高密度アレイ」の成分密度の目標値を
数値的に表現したものに相当し,特許法36条4項及び5項の要件を満たし
ていない。
(2)本件各請求項の解析装置において解析対象成分が「オリゴヌクレオチド」,
「核酸」及び「ポリペプチド」である場合の発明は,本件明細書中に実質的
に開示されていない。また,このことは,各請求項に記載された発明につい
て,本件明細書は当業者が容易に実施することができる程度に記載されてい
ないことでもある。したがって,本件出願は特許法36条3項又は4項及び
5項の要件を満たしていない。
ア解析対象成分が「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」である場合
本件明細書中には,アミノ酸をモノマーとして複数の「オリゴペプチド」
を基板表面に存在させた「オリゴペプチド」用の解析装置が記載されている
のみであり,ヌクレオチドモノマーを用いなければならない「オリゴヌクレ
オチド」及び「核酸」用の解析装置についての具体的記載はない。
本件明細書中に記載されているアレイ製造方法は,基板表面のアミノ酸の
NH基に結合させた保護基を光(紫外線)で除去しながら合成していくフォ
トリソグラフィー法でペプチド鎖を伸張させる手法であるから,「オリゴヌ
クレオチド」及び「核酸」用解析装置が開示されているというためには,ヌ
クレオチドをポリヌクレオチド鎖に伸張させるためのフォトリソグラフィー
技法が確立していた,もしくは実施例でのオリゴペプチド合成と同様の手順
で特段の工夫もなく行うことができると考えられる明らかな合理的な根拠が
必要である。ところが,本件優先日前にNVOC−基,NBOC−基その他の例示さ
れたニトロ芳香化合物がヌクレオシド中のOH基に対する光除去可能な保護
基として用いることが本件優先日前の技術常識であったということはできな
い。
イ解析対象成分が「ポリペプチド」である場合
請求項1には,「ポリペプチド」を「ペプチド」と並列的に記載している
ことからみて,ここでいう「ポリペプチド」はオリゴペプチドのような短い
ものではなく,例えば20mer以上の長鎖ポリペプチドを包含するものと解
される。
本件明細書中には,アミノ酸モノマーをフォトリソグラフィー法により基
板上に合成していくことが記載されているが,せいぜいオリゴペプチドに1
mer又は2mer分のアミノ酸を付加する程度のものである。「光フォトリソグ
ラフィー技法」は多段階工程からなり,本件明細書に記載された手法をその
まま適用したのでは各工程での収率が低く,「ポリ」といえるほどの大きな
分子を高密度に基板上で合成できるとは考えにくい。そして,本件明細書中
には,大きな分子の合成を可能にするために予想される多段工程での収率を
上げるための工夫等の解決手段も全く示されていない。
一般に,「ポリ」と呼ばれる大きな分子からなる「アレイ」を作製しよう
とすれば,J.Am.Chem.Soc.(1963)85:2149-2154(甲第1号証。以下,審決と
同様に「引用文献1」という。)記載のメリフィールド法などにより基板上
で合成する場合には,個々のポリマー分子をある程度の広い領域内で1分子
ずつ合成する必要があるから高密度合成は望むべくもない。また,基板外で
合成するとしても,当該合成ポリマー分子をプリンティング又はスポッティ
ングする必要があるが,本件明細書中には,これらの技術を用いて,どのよ
うに基板外合成ポリマー分子を高密度にプリンティング(又はスポッティン
グ)し,各請求項で掲げられた数値範囲を満たす高密度の「アレイ」を達成
するのかについて,何ら具体的な解決手段が示されていない。
(3)各請求項で規定される数値範囲が,本件明細書中の記載により技術的に裏
付けられていないから,本件明細書中には各請求項に係る発明についての実
質的な開示がなく,各請求項に記載された発明を当業者が容易に実施するこ
とができる程度に記載されておらず,本件出願は,特許法第36条第3項又
は第4項及び第5項の規定を満たさない。
ア本件明細書中には,請求項1に記載された成分のうちで,オリゴペプチド
のみについての実施例しか記載されていないところ,オリゴペプチドの場合
に限ってみても,光フォトリソグラフィー技法で基板上に10∼10種類36
のオリゴペプチドを合成しようとすれば,1基板当たり膨大な工程を経なく
てはならないが,いずれの工程においても,目的ペプチドの反応収率(純
度)を下げる要因が存在し,本件優先日当時の技術水準では,それぞれの収
率はかなり低かったはずである。本件の合成法では各工程を全て同一の基板
上で行わなくてはならないことから,各工程後の合成ペプチド群に対して精
製工程を設けることができない。このことは,各工程で「区画」内に混入し
てきた「密航者」は最後まで取り除くことができずに増殖し続けることにほ
かならない。1merだけでも多段工程であるから各工程での収率低下が掛け
合わされ,さらに1mer増えるごとに次々に全て掛け合わせられていくから,
実施例のような16種類で2mer分合成であればともかく,それ以上オリゴ
ペプチドの種類が増えるごとに,又は1mer分増えるごとに,各区画での純
度低下は無視することができないレベルとなるはずである。そして,このよ
うな状況にあるにもかかわらず,本件明細書中には,各工程での反応収率低
下要因を回避する解決手段が全く示されていない。したがって,請求項1に
おける1cm当たり10∼10種類という基板表面成分の密度の数値範囲236
は,オリゴペプチドの場合について技術的に裏付けられていない。
イオリゴペプチド以外の請求項1記載の基板表面成分については,基板上で
合成する手法自体が開示されていないし,1cm当たり10∼10種類と236
いう高密度で基板表面に存在させたアレイについての開示がなされているは
ずもない。
ウ請求項9ないし11においては請求項1における基板表面上の各成分の純
度について規定するものであるが,特に請求項10では,「既知の位置決定
された領域内において,少なくとも90%の純度を有する成分」と記載され,
基板表面上に「10∼10/1cm」という高密度に存在する成分がそれ362
ぞれ「少なくとも90%の純度」を有することが規定され,請求項11では,
それが「実質的に純粋である」ことが規定されている。
しかし,本件明細書中の唯一具体的に基板表面で合成されたオリゴペプチ
ド成分の場合についても,その純度は測定されておらず,具体的にどの程度
の純度が達成できたのかは不明である。
ところで,本件出願直後のScience251:767-773(1991.2)(甲第7号証。
以下,審決と同様に「引用文献7」という。)には,フォトリソグラフィー
手法の「1サイクルごとの典型的な純カプリングの収率が85%から95%
の間」であると記載されている。本件明細書中での実験は,それ以前の技術
水準に基づくものであり,本件明細書中には収率を上げるための何らの解決
手段も示されていないから,「少なくとも90%」,「実質的に純粋」とい
う高純度の高密度アレイは,本件明細書の記載からは達成不可能である。し
たがって,請求項10及び11に記載された成分の純度についての数値範囲
は明細書中に技術的に裏付けられておらず,請求項10及び11に係る発明
については,その点でも明細書中に実質的に開示されていない。
(4)上記のとおり,本件請求項1ないし14に係る発明は,自明の技術的課題
のみで表現されたものであり,本件明細書中に開示されておらず,当業者が
反復実施して目的とする技術的効果を挙げることができる程度まで具体的・
客観的なものとして構成されていない発明であるから,そもそも特許法29
条柱書に規定する産業上利用することができる発明として完成した発明では
ないので,特許を受けることはできない。
第3審決取消事由の要点
審決は,以下に述べるとおり,本件出願が特許法36条3項又は4項及び5
項の要件を満たしているのに,これを満たしていないと認定判断を誤り(取消
事由1及び2),ひいては本件請求項1ないし14に係る発明について,特許
法29条柱書に規定する産業上利用することができる発明として完成した発明
ではないと誤って判断した(取消事由3)ものであるところ,これらの誤りが
いずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り
消されるべきである。
1取消事由1(特許法36条4項及び5項の要件判断の誤り)
(1)本件発明の必須の構成
審決は,請求項1に本件発明の必須の構成が記載されていないと判断して
いるが,請求項の記載は,その発明を特定するために不可欠かつ最小限度の
記載をすべきであって,物の発明において,請求項の記載は,物の構造等に
関連する記載で十分にその発明を特定することができる限り,その他の記載
は不要である。請求項1の記載により,本件発明における物(解析装置)の
特定がされており,その構造が明らかであるから,更に「製法による特定」
は必要でない。
(2)数値の臨界的意義
審決は,基板表面成分の密度を表す数値に臨界的意義がなく,物としての
「基板」を特定する要件としては不適切であると判断するが,特許法は,請
求項における数値限定に,物性値の観点での「臨界的意義」が常に備わって
いることを必須とは規定していない。そして,本件発明は,高密度という特
性を有するアレイの提供により,一度の実験で著しく多量の分析を可能にし,
そのことによって従前とは全く異なる画期的な成果を得たものであり,従前
の方法とは全く異質の効果を奏するものであるから,本件発明における下限
値及び上限値の記載は,臨界的意義を必要としない。
2取消事由2(特許法36条3項の要件判断の誤り)
(1)オリゴペプチド以外を解析対象成分とする解析装置
ア審決は,解析対象成分が「オリゴヌクレオチド」,「核酸」及び「ポリペ
プチド」の場合については,本件明細書に実質的に記載されていないと判断
したが,当業者であれば,「オリゴ」で実施可能であれば通常「ポリ」も実
施可能であると考えることが明白である。また,本件発明を実施しようとす
る当業者は,解析対象成分に基づいて,基板表面成分としてどのような成分
を基板上に固定化すべきかについて,解析の目的に合わせて適宜選択するこ
とが容易にできる。例えば,通常の実験条件下では,基板上に存在するポリ
ヌクレオチドは,20mer程度の長さがあれば十分結合反応が起こる。また,
あるポリペプチドについて抗原抗体反応を行う場合には,そのポリペプチド
中の数アミノ酸程度の長さで十分に結合反応を検出することができることは,
甲2等にも明記されているとおり,本件優先日当時の技術常識であった(特
表昭60−500684号公報(甲第2号証。以下,審決と同様に「引用文
献2」という。)のであるから,必ずしも,そのポリペプチドの全長を固定
化する必要はない。
イ原出願については,不服2003−4356号事件において,平成17年
12月14日付けで特許審決(甲第23号証)がされているから,被告は,
オリゴヌクレオチド及び核酸を解析対象成分とする解析装置に係る本件発明
が容易に実施することができる程度に具体的であることを認めているに等し
い。すなわち,本件明細書の実施例においてアミノ酸モノマーからオリゴペ
プチドを合成する際に具体的に用いられている「NVOC」及び「NBOC」のいず
れもが,光開裂可能なヌクレオチドのヒドロキシル基保護のために用いるこ
とが本件優先日前に周知であり,そのため,当業者はこれら保護基をそのま
ま用いてヌクレオチドモノマーからオリゴヌクレオチドを容易に合成するこ
とができるということは,既に,上記審決において認められている。
(2)オリゴペプチドを解析対象成分とする解析装置
審決は,本件明細書の実施例に記載されたものは,2mer分程度のバラエ
ティを持たせた1cm当たり256種類程度のもので,請求項1における最2
低レベルの数値すら達成できていない,光リソグラフィー技法では,1工程
ごとに収率が低下し,最終的には各区画での純度の低下は無視することので
きないレベルとなるはずであるにもかかわらず,本件明細書には,各工程で
の反応収率低下要因を回避する解決手段が全く示されていないとして,請求
項1における基板表面成分の密度の数値範囲は,本件明細書に裏付けられて
いないと判断した。しかし,以下に述べるとおり誤りである。
ア収率について
(ア)1工程における収率
本件明細書の段落【0031】の文言からも明らかなとおり,成分解析
のためには,目的ポリマー成分が,他の領域にあるものと識別可能な程度
に狙った領域に存在することが必要であり,かつ,それで十分である。仮
に,40サイクル分の収率低下の影響を受けたとしても,一領域には,少
なくとも4.5×10∼9.0×10個の目的ポリマー成分が存在する66
ことは明白であって,本件発明によって製造される装置が,解析装置とし
て機能する上で何ら問題がない。
アレイの各領域においてアミノ酸重合反応を行う分子数は,「莫大な」
数存在するのであるから,1工程における収率を低めに見積もったとして
も,解析という目的にとって余りにも十分な量であることは明らかであり,
収率に拘泥することは全く意味がない。例えば,20merであれば,4∼
35%の収率が達成されている。
最高裁判所平成12年2月29日判決・民集54巻2号709頁(以下
「黄桃事件判決」という。)においても,「反復可能性は,『植物の新品
種を育種し増殖する方法』に係る発明の育種過程に関しては,その特性に
かんがみ,科学的にその植物を再現することが当業者において可能であれ
ば足り,その確率が高いことを要しないものと解するのが相当である。」
と判示されていることからみても,収率が高いことは,要求されない。
したがって,1工程当たりの収率は問題とならない。
(イ)1サイクル当たりの収率
本件発明のフォトリソグラフィー法と同一の合成法である引用文献7記
載の合成法で,各反応の収率が85∼95%であることが記載されており,
NatureBiotechnology(Sep.2002)Vol.20,p.922-926(乙第4号証。以下
「乙4文献」という。)を参酌したとしても,1サイクルの収率は,85
∼95%あることは明白である。
(ウ)必要なサイクル数
1cm当たり10種類のオリゴペプチドを,各々10μm×10μmの26
領域ごとに合成するために,どのようなマスクをどのような順序で用いて
合成するのかの具体的手順は,合成するアレイに応じて当業者が適宜決定
することのできる選択的事項にすぎず,本件発明の本質とは何ら関係がな
い。なお,具体的手順は,本件明細書の段落【0088】∼【0089】
に明記されている。
被告は,10種類のオリゴペプチドを提供するためのサイクル数につ6
いては,40サイクルであると自白している。
(エ)サイクル数が少ない態様
本件明細書にいう「モノマー」とは,必ずしもアミノ酸1個のみを意味
するものではなく,オリゴペプチド又はポリペプチドをも包含するもので
あり,本件発明には,サイクル数が少ない態様も包含されるから,サイク
ル数の増加による収率の低下をいう被告の主張は根拠を欠くものである。
イノイズ(「密航者」及び「短縮ポリマー成分」)について
(ア)「密航者」
反応温度を目的ポリマー成分の融点に保つという単純な制御により,そ
れより融点が低い密航者への結合を極めて容易に回避することができる。
「密航者」は,フォトリソグラフィー技法の高い精度のために,ほとんど
生成されず,これに対する結合を事実上排除し得ることから,成分解析の
妨げとはならない。
本件優先日当時,半導体分野において精密な高密度集積回路の作成を可
能ならしめていたフォトリソグラフィー技法の光照射において,光の「回
折」や「屈折」はほとんど起こらないものであったから,意図されていな
い部分光が照射されることはほとんどあり得ない。そのため,光照射が意
図されない領域では殆ど全く反応が起こらないといってよいから,光照射
を意図しない工程数は,当該領域における収率の問題とは全く関係がない。
さらに,ペプチドの場合において,1アミノ酸の付加によっても反応性
が異なるから,「密航者」であることが容易に解析可能であり,容易に排
除することができる。
(イ)短縮ポリマー成分
別紙1に示すとおり,収率が100%でないことに起因して目的ポリマ
ー成分よりも短いポリマー成分(短縮ポリマー成分)が特定領域内に合成
され得るが,これは,そもそもそのような短いポリマー成分が合成されて
しまう可能性が低い上に,かかるポリマー成分への結合の割合も低いため
に,蛍光反応における誤謬は事実上排除され,解析にとって全く妨げには
ならないから,目的ポリマー成分よりも短い長さのポリマーが合成された
としても,解析装置に与える影響はない。
短いポリマー成分の影響については,ヌクレオチドの場合は,Tm値を考
慮することによって排除することができることは,被告も自白するところ
である。
被告は,ある領域Aにおいて合成される短いポリマー成分が他の領域B
の目的ポリマー成分である場合に,領域Aにおいて合成された短いポリマ
ー成分によってもたらされる信号と,領域Bの目的ポリマー成分によって
もたらされる信号とを区別できない問題点を指摘するが,そもそも本件発
明は解析装置に係る発明であるから,当業者は,各領域の信号が別の領域
の信号と異なる意味を有するように,ポリマーを基板上に固定化する設計
をすることは当然であり,被告が指摘する問題は,設計事項として適宜容
易に回避できる事項である。
(ウ)キャッピング工程
特定領域内において,カップリング反応に失敗した官能基は,キャッピ
ング工程により,更なる反応が防止されることから,それ以上ポリマー鎖
が伸長せず,解析へ影響を与える可能性も低いので,問題とはならない。
被告は,本件明細書には「キャッピング工程」を各サイクルに設けるこ
とで解析の際のノイズを減少させようとする技術思想が存在しないなどと
主張している。しかし,キャッピング工程を各サイクルに設けることで解
析の際のノイズを減少するという技術思想自体も,本件明細書に明確に記
載されているばかりか,そのような技術思想は,基板上におけるポリマー
合成の分野においては,本件優先日当時の技術常識であった。
ウ基板表面成分の密度について
基板上に,10∼10種類/1cmの成分密度を達成することができる362
かどうかは,基板1cm当たり10∼10箇所の領域を作り得るか否かと236
いうことにほかならない。そして,フォトリソグラフィー技法によって基板
上に作成される領域の密度は,光照射の制御密度,すなわち,解像度に依存
する。
被告は,本件出願におけるフォトリソグラフィー技術が半導体チップ作製
におけるフォトリソグラフィー技術とは本質的に全く異なる技術であり,本
件出願の解析装置の製造における解像度と半導体製造における解像度とを同
列に論じることができないと主張する。しかし,解像度は使用する波長の平
方根に比例する(VLSITECHNOLOGY,SecondEditionp.153-154(甲第30
号証)のであり,マスクと基板表面との間に存在する物質が何であるかとい
うことには関わりがないから,被告の主張は何ら科学的根拠を伴わないもの
である。
(3)請求項10及び11に記載された成分の純度
本件明細書の段落【0031】の記載から明らかなとおり,「純度」とは,
「基板上の特定領域に存在する,その領域に合成されることが意図されるポ
リマー成分(目的ポリマー成分)の割合であって,分母は,目的ポリマー成
分及び基板上のその他の領域で合成が意図されたポリマー成分(他領域目的
ポリマー成分)の和である。そして,成分解析のためには,目的ポリマー成
分が,他の領域にあるものと識別可能な程度に狙った特定領域に存在するこ
とが必要であり,かつ,それで十分である。請求項9及び10に記載される
「純度」は「機能的」に表現されたものであり,「純粋」に対する「まじり
け」とは,特定の領域における「目的ポリマー成分」以外の物質であって
「機能」を有する物質,すなわち,「信号」を発する物質を示すことが明白
である。アレイ上において「信号」を発する物質とは,基板上のその他の領
域で合成が意図されたポリマー成分のことであるから,発明の詳細な説明の
記載を参酌しなくとも,純度については上記のとおりのものであることが明
白である。そして,「機能として測定される」とは,本件発明が目的ポリマ
ー成分の「機能」である「結合」によって生じる「信号」を測定するもので
あるとの意味である。したがって,請求項10及び11に記載された成分の
純度の数値範囲について,「少なくとも90%」,「実質的に純粋」という
高純度は達成不可能であるとする審決の判断は,誤りである。
被告は,請求項11の「実質的に純粋」との記載が,「実質的に100%
の純度」という意味に解している。しかし,形式的に従属関係にある請求項
でも,各々独立して解釈されるべきであり,本件明細書の段落【0031】
の記載により,基板の一つの領域がそれを他の所定の領域から区別する特性
を示す場合には,ポリマーは所定の領域内で「実質的に純粋である」と考え
られるから,純度が90%未満の場合においても,「実質的に純粋」である
場合が存在する。
3取消事由3(特許法29条柱書の発明未完成の判断の誤り)
上記のとおり,本件請求項1ないし14に係る発明は,自明の技術的課題の
みで表現されたものではなく,本件明細書中に十分開示されており,当業者が
容易に実施することができる程度に本件明細書に記載されているのであって,
産業上利用することができる発明として完成しているものである。したがって,
特許法29条柱書に規定する発明ではないとする審決の判断は誤りである。
第4被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(特許法36条4項及び5項の要件判断の誤り)について
(1)本件発明の必須の構成
基板表面成分の密度を10∼10種類/1cmとする解析装置は「マイ362
クロアレイ」と一般的に呼称され,本件優先日よりも前に,ペプチド解析及
びDNA解析の分野において「自明の技術的課題」であったものである。そ
れぞれの解析装置の基板以外の構造は従来からのそれと変わりはないから,
成分の密度を規定しても,解析装置を特定するための要件,すなわち,それ
ぞれの成分に対応する装置とその他の解析装置とを識別するための必須の構
成要件を規定したことにはならない。
(2)数値の臨界的意義
10∼10種類/1cmという数値範囲の前後において,基板が有する362
固有の性質,構造が特別に変化するわけではないから,そのような数値範囲
を規定しても,解析装置の特定にはならない。
2取消事由2(特許法36条3項の要件判断の誤り)について
(1)オリゴペプチド以外を解析対象成分とする解析装置
ア本件請求項1は「成分を解析する装置に係る発明」であり,その成分を特
定するにあたり,「オリゴヌクレオチド,核酸,ペプチド及びポリペプチド
からなる群より選択される成分」という選択肢を並列的に列記した形式を採
用している。したがって,請求項1に係る「装置」が解析の対象とする解析
対象成分は,これら4種類の化学物質群の全ての場合が並列的に表現されて
いることになる。
そして,請求項1における「成分を解析する装置」と「成分を有する表面
を有する基板」の「成分」は同一の意味に解釈するのが自然であるから,審
決が本件発明には,「オリゴヌクレオチドを有する表面を有する基板を備え
た,オリゴヌクレオチドを解析する装置」,「核酸を有する表面を有する基
板を備えた,核酸を解析する装置」,「ペプチドを有する表面を有する基板
を備えた,ペプチドを解析する装置」及び「ポリペプチドを有する表面を有
する基板を備えた,ポリペプチドを解析する装置」という4種類の装置が包
含されるとした点に誤りはない。
イ本件明細書において唯一実施例が示されているオリゴヌクレオチドの場合
でさえも,本件明細書中には,1cmの領域に16種類のジヌクレオチドを2
作成するストラテジーを示したに留まり,これが実際に追試することができ
たとしても,そのような密度では「マイクロアレイ」とは呼べないものであ
り,本件明細書の教示事項をもって,1cm当たり10種類という高密度の26
オリゴヌクレオチドのマイクロアレイを提供したに等しいといえないことは
明らかである。
さらに,「ポリペプチド」及び「ポリヌクレオチド」が解析対象成分であ
る場合については,高密度で基板上に合成するためのストラテジーも示され
ていないから,これらの解析装置の発明は全く開示されていない。
ウ光脱保護の際に生じる副生成物の影響により,収率低下が起きることは,
J.Org.Chem.,Vol.60,No.20(1995)6270-6276(乙第16号証)に,固相D
NA合成における光化学による脱保護工程が品質の低下したオリゴヌクレオ
チドを生じさせることが記載されていることからも明らかである。
(2)オリゴペプチドを解析対象成分とする解析装置
本件明細書に記載された実施例は,いずれも,10種類の「オリゴペプ6
チド」合成とはほど遠く,本件明細書の段落【0124】∼【0126】の
実験は,本件「発明の数値範囲の全てにわたって『具体的に識別可能である
ことを確認する実験』」ではなく,本件発明が実施可能であることが確認さ
れたものではない。
ア収率について
(ア)1工程における収率
所定領域内の分子数がいかに「莫大」な数であろうと,1サイクル毎の
失敗産物の分子数もまた「莫大」であるから,サイクルが増すごとにそれ
が加算され,それが解析の際の「ノイズ」となり,「マイクロアレイ」と
しては機能しないほどに解析精度が落ちることは疑いのないことである。
原告の挙げる黄桃事件判決は,「植物の新品種を育種し増殖する方法」
についての判決であり,植物の育種という技術分野の特殊性を考慮したも
のであるから,本件発明のような「解析装置」についての発明にまで,そ
の射程が及ぶものではない。
(イ)1サイクル当たりの収率
原告が「モノマーの反応を繰り返したところで,解析に必要充分な量の
ポリマーが合成できること」の根拠の1つとして「カップリング技術が8
5∼96%程度であり」と述べているが,この点は本件明細書の記載に基
づかない上,その数値の根拠も示されていない。
本件明細書中には,光脱保護基の除去と引き続き行うアミノ酸とのカッ
プリング反応の1サイクル毎の反応収率については明記されていない。ま
た,領域内にどの程度の純度で(収率で)それぞれの異なる「オリゴペプ
チド」が合成されていれば識別可能であるかについての記載もない。引用
文献7では,1サイクルの収率を85∼95%(90%)と見積もってい
るが,たかだか「62.5μm×62.5μm」の領域内に8サイクルで合
成された16種類の異なるオリゴペプチドがそれぞれに識別可能であった
ことが確認されたにとどまるから,当該実験結果から,直ちに,1サイク
ルの収率が,例えば90%などの高収率であることは認識できないし,そ
もそも「マスクから漏れる光の散乱,回折,内部反射」の寄与が極めて大
きいはずの「10μm×10μm」という小さな領域内での「オリゴペプ
チド」合成が全くされていないのであるから,1サイクル収率を推し量る
ことはできない。
(ウ)必要なサイクル数
本件明細書には,1cm当たり10種類のオリゴペプチドを,各々1026
μm×10μmの領域ごとに合成するために,どのようなマスクを,どの
ような順序で用いて合成するのかの具体的手順が記載されていないから,
1cm当たり10種類のオリゴペプチドを合成するのに必要なサイクル数26
が明記されていない。
本件明細書の段落【0110】に記載された一般的なサイクル数の計算
手法によると,10種類のオリゴペプチドを得るためのサイクル数は,6
20種類のアミノ酸を用いると100サイクル,2種類又は4種類のアミ
ノ酸を用いると40サイクルとなるが,どのようなマスク法が用いられる
のかは,本件明細書中に具体的に記載されていない。
20サイクルの場合において,1サイクル当たり収率90%だと仮定し
ても,目的とする20merのペプチドは,0.9の20乗となり,最終的
には約12%しか残らない。上記の90%という数値が理想的状態につい
てのものであることを考慮すれば,実際には,20サイクルも過ぎた後で
は,目的とする20merのペプチドの存在はノイズに隠れて閾値以下とな
ることは必定である。
(エ)サイクル数が少ない態様
原告は,基板外で合成したポリペプチド又はポリヌクレオチドを,基板
表面の各領域にそれぞれ固定する発明も本件発明に包含されていると主張
するが,その発明は,本件明細書に開示されていない。本件明細書の段落
【0124】∼【0126】の実施例Hは,1種類のポリペプチドの基板
表面への固定化でしかない。「フォトリソグラフィー法」で1種類の基板
外合成ポリマーの固定化ができるとしても,残りの領域のポリペプチドを
基板外で用意し,基板表面の残りの箇所にマスクの穴をずらしながら固定
する必要があることになり,現実的でない。
イノイズ(「密航者」及び「短縮ポリマー成分」)について
(ア)「密航者」
原告は,反応温度を目的ポリマー成分の融点に保つという単純な制御に
より,予想外のポリマー成分に対する結合を事実上排除し得ることから何
ら成分解析の妨げとならないと述べ,その根拠としてSambrookらによるMo
lecularCloning-ALABORATORYMANUALSECONDEDITION(ColdSpringH
arborLaboratoryPress,1989)(甲第16号証。以下「甲16文献」と
いう。)の融点(Tm)を挙げているが,このTm値というハイブリダイズ条件
設定で解析精度を調節することができるのはDNAの場合であり,オリゴ
ペプチドには通用しない。
また,「密航者」の問題については,ProcNatl.Acad.Sci.USA91:5
022-5026(1994)(甲第8号証,乙第10号証。以下,審決と同様に「引
用文献8」という。)に,「光による合成において,合成全体の収率は,
光脱保護反応の収率,光脱保護反応のコントラスト,そして化学結合の効
率に依存する。光反応速度条件は,光脱保護反応の収率が確実に99%を
超えるように選択される。基板の通常の暗領域における望まない光分解は,
合成の忠実度に反して作用する場合があり,高い光学密度(50Dユニッ
ト)を持つリソグラフィックマスクを用い,慎重に指標を光学表面に適合
させることによって最小化し得る。」との記載があり,乙4文献,Molecu
larDiversity8:177-187(2004)(乙第15号証)にも,一般に,光脱保
護基を用いる光反応の効率,収率が悪いことの記載がある。
(イ)短縮ポリマー成分及びキャッピング工程
原告は,各サイクル毎に「キャッピング工程」を設け,これにより,解
析の際に各領域内の目的ポリマー以外の副生成物(短縮ポリマー成分を含
む。)に基づく「ノイズ」を無視することができると主張するが,本件明
細書中には,原告が主張する意味での「キャッピング工程」に関する開示
はなく,原告の主張は失当である。
ウ基板表面成分の密度について
原告は,1cm当たり10∼10種類という密度を達成することができ236
るか否かは,基板上に1cm当たり10∼10箇所の領域を作り得るか否236
かということにほかならないと主張するが,請求項1で規定されているのは,
領域を作ることではなく,異なるポリマー成分で占められた10∼10箇36
236
所の領域を1cm中に作ることができるか否か,換言すれば,10∼10
種類のポリマー成分を1cm中の決められた位置に配置することができるか2
否か,とりわけ,10種類のポリマーをそれぞれ基板上の10μm×10μ6
mという小さな既知の位置決定された領域内に配置することができるか否か
が問題となり,単なる領域形成の問題ではない。
本件発明の「フォトリソグラフィー法」においては,マスクから基板まで
は通常溶媒に満たされた空間があり,「光の回折,内部反射,及び散乱」に
基づく暗部での意図しない照射を無視することはできない(引用文献7)。
しかも,「フォトリソグラフィー法」を用いて基板上でポリマー合成するに
は,光照射による保護基の除去工程後に,モノマーとの化学的カップリング
工程を必須とし,両工程を何十サイクルも反復する必要があるのであるから,
1回の光照射によるレジスト除去に対応する,半導体フォトレジスト技法に
おける解像度と同列に論じられるものではない。
(3)請求項10及び11に記載された成分の純度
請求項10及び11は,請求項1に記載された解析装置のうち,特に既知
の決められた領域内の純度について,「少なくとも90%」及び「実質的に
純粋」と規定している。しかし,「10種類以上」を達成するために,ど6
んなに特殊なマスキング法を用いても20サイクルは必要であることを勘案
すれば,領域内の目的生成物の純度が「少なくとも90%」及び「実質的に
純粋」になることは不可能である。
原告は,「実質的に純粋」という用語について,本件明細書の段落【00
31】の記載を根拠にして「目的ポリマー成分が,特定領域内に存在する他
領域目的ポリマー成分の量との関係で識別可能な程度の存在する状態」であ
ることを意味すると主張しているが,請求項11では請求項10を引用して
記載している以上,請求項10で規定される「純度90%以上」を下回るこ
とはあり得ず,「純粋」という用語本来が有する「100%」を表すと解釈
する方が自然である。
3取消事由3(特許法29条柱書の発明未完成の判断の誤り)について
上記の点を総合すれば,本件発明は,当業者が反復実施して目的とする技術
的効果を挙げることができる程度まで具体的・客観的なものとして構成されて
いない発明であるから,産業上利用することができる発明として完成したもの
ではなく,特許法29条柱書に規定する発明に該当せず,特許を受けることは
できない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(特許法36条4項及び5項の要件判断の誤り)について
請求項1の記載では,単に1cm当たり10∼10箇所の決められた位置236
に,10∼10種類の基板表面成分が存在するという基板表面成分の密度が36
規定されているにすぎない。また,本件明細書をみても,上記の数値範囲の前
後において,基板が有する固有の性質,構造が特別に変化することを示す記載
はない。
しかし,本件発明のような解析装置において,基板表面成分の密度を高める
ことが課題であって,その課題が自明のものであったとしても,従来,高密度
化が技術的に実現困難であったものが,発明によって高密度化を実現した場合
には,特許を受ける可能性があるのであり,その場合には,従来実現が困難で
あったが,発明により実現が可能となった密度の数値範囲を発明を特定する要
素の一つとして規定することは妨げられない。
したがって,請求項1の記載が特許法36条4項及び5項の要件を満たして
いるか否かは,本件発明により高密度化が技術的に実現されたことを前提とし
て判断すべきであるところ,取消事由2において本件出願の実施可能要件(特
許法36条3項)が争われているから,まず,この点から判断することとする。
2取消事由2(特許法36条3項の要件判断の誤り)について
本件発明に係る解析装置は,1cm当たり10∼10箇所の決められた位236
置に,10∼10種類の異なる基板表面成分を表面に有する基板を備えるも36
のであるから,発明の詳細な説明に,本件発明を容易に実施することができる
程度に記載されている(特許法36条3項)というためには,10∼10/36
1cmという成分密度で,各成分が基板上に存在するものを製造することがで2
き,かつ,それが解析装置として使用可能なものであることが示されている必
要がある。
原告は,黄桃事件判決を挙げて,本件発明の実施可能性を判断する上では,
収率は問題にならないと主張するが,黄桃事件判決は,「発明は,自然法則の
利用に基礎付けられた一定の技術に関する創作的な思想であるが,その創作さ
れた技術内容は,その技術分野における通常の知識経験を持つ者であれば何人
でもこれを反復実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度に
まで具体化され,客観化されたものでなければならないから,その技術内容が
この程度に構成されていないものは,発明としては未完成のものであって,特
許法二条一項にいう『発明』とはいえない(最高裁昭和三九年(行ツ)第九二
号同四四年一月二八日第三小法廷判決・民集二三巻一号五四頁参照)。したが
って,同条にいう『自然法則を利用した』発明であるためには,当業者がそれ
を反復実施することにより同一結果を得られること,すなわち,反復可能性の
あることが必要である。そして,この反復可能性は,『植物の新品種を育種し
増殖する方法』に係る発明の育種過程に関しては,その特性にかんがみ,科学
的にその植物を再現することが当業者において可能であれば足り,その確率が
高いことを要しないものと解するのが相当である。けだし,右発明においては,
新品種が育種されれば,その後は従来用いられている増殖方法により再生産す
ることができるのであって,確率が低くても新品種の育種が可能であれば,当
該発明の目的とする技術効果を挙げることができるからである。」と判示して
いるのであり,植物の育種という技術分野の「特性にかんがみ」,植物の再現
の「確率が高いことを要しない」と判断したものである。したがって,本件発
明のような「解析装置」についての発明の実施可能性の判断にまで,黄桃事件
判決の趣旨が及ぶものではない。本件発明は「装置」の発明である以上,常に
一定の効果を発揮するからこそ「発明」ということができるものであり,当業
者が反復実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具
体化され,客観化されたものでなければならない。また,明細書の記載は,当
業者が容易に反復して発明の実施をすることができる程度のものでなければな
らない。
(1)本件発明に係る解析装置の種類
審決は,請求項1における「成分を解析する装置」と「成分を有する表面
を有する基板」の「成分」は同一の意味に解釈するのが自然であるから,本
件発明1は,①「オリゴヌクレオチドを有する表面を有する基板を備えた,
オリゴヌクレオチドを解析する装置」,②「核酸を有する表面を有する基板
を備えた,核酸を解析する装置」,③「ペプチドを有する表面を有する基板
を備えた,ペプチドを解析する装置」及び④「ポリペプチドを有する表面を
有する基板を備えた,ポリペプチドを解析する装置」という4種類の装置を
包含すると認定したのに対し,原告は,上記各成分を同義に解釈しなければ
ならないものではないとして,この認定が誤りであると主張する。
ア本件明細書には,次の記載がある。
a「リガンドリガンドは特定の受容体により認識される分子である。本発
明により研究され得るリガンドの例には,限定的ではないが,細胞膜受容
体に対するアゴニスト及びアンタゴニスト,・・・ペプチド,酵素,・・
・オリゴヌクレオチド,核酸,オリゴサッカライド,蛋白質,及びモノク
ローナル抗体が含まれる。」(段落【0018】)
b「受容体所与のリガンドに対する親和性を有する分子。・・・本発明に
より使用され得る受容体の例には,限定的ではないが,抗体,・・・,ポ
リヌクレオチド,核酸,ペプチド,・・・が含まれる。」(段落【002
2】)
c「典型的には純度は,均一な配列の結果としての生物学的活性又は機能と
して測定されるであろう。この様な特性は典型的には選択されたリガンド
又は受容体との結合により測定されるであろう。」(段落【0031】)
d「調製された基体は,例えば,受容体との結合のためのリガンドとして種
々のポリマーをスクリーニングするのに使用される」(段落【003
3】)
e「相補的リガンド分子及びその受容体の相互作用する表面の形態的(to
pological)適合性又は一致性に関する。すなわち,受容体とそのリガンド
は相補的であると記述することができ,そしてそれ故にその接触表面特性
は相互に相補的である。」(段落【0017】)
イ以上の記載によれば,本件発明に係る解析装置は,「リガンド」と「受容
体」との結合反応を利用して解析を行うものであると認められる。これを前
提にすると,解析対象成分と基板表面成分とは結合親和性を有する必要があ
ると解される。しかし,結合親和性があればよいのであって,解析対象成分
と基板表面成分とが同一物質である必要はない。被告の主張するように,請
求項1の中に「成分」という文言が異なる意味で用いられることになるが,
「成分を解析する装置」及び「成分を有する表面を有する基板」との文言が
あることからすれば,「成分」には,基板に定着しているものと解析を行う
際に反応させるものの二種があることは明確であり,解析対象成分と基板表
面成分とが同一の物質でなければならないと解すべき必然性はない。
そうすると,本件発明に係る解析装置として実施可能性を判断すべきもの
は,①「オリゴヌクレオチド又は核酸」を解析対象成分とし,ヌクレオチド
鎖を基板表面成分とする解析装置及び②「ペプチド又はポリペプチド」を解
析対象成分とし,ペプチド鎖を基板表面成分とする解析装置である。
(2)ペプチド鎖を基板表面成分とする解析装置について
ア本件明細書には,実施例として以下の記載がある。
a「G.NVOCの除去におけるマスクの使用
次の実験を0.1%アミノプロピル化スライドを用いて行った。Hg−
Xeアーク灯からの光を,レーザー切除したガラス上クロムマスクを通し
て,基体を直接接触させることにより基体上に像形成した。このスライド
を12mWの350nm広バンド光により約5分間照明しそして次に1mMF
ITC溶液と反応させた。これをレーザー検出スキャンニングステージ上
に置き,そして蛍光強度のポジションカラーコードの2元表示としてグラ
フをプロットした。種々のマスクを通して実験を多数回反復した。100
×100μmマスク,50μmマスク,20μmマスク及び10μmマス
クの蛍光パターンが示すところによれば,このリソグラフィー技法を用い
てマスクパターンは少なくとも約10μm以上で区別される。」(段落
【0123】)
b「H.YGGFLの付加,並びにこれに続くHerz抗体及びヤギ抗マウ
スへの暴露
特定のポリペプチド配列に対する受容体が表面結合ペプチドに結合しそ
して検出されることを確立するために,Leuエンケファリンを表面に結
合させそして抗体により認識させた。スライドを0.1%アミノプロピル
−トリエトキシシランにより誘導体化し,そしてNVOCにより保護した。
裏側接触印刷(backsidecontactprinting)を
用いて流れセル中のスライドを暴露するため500μmチェッカーボード
を用いた。
Leuエンケファリン配列(HN−チロシン,グリシン,フェニルア2
ラニン,ロイシン−COOH,あるいは本明細書においてYGGFLと称
する)をそのカルボキシ末端を介して,スライドの表面上の露出されたア
ミノ基に結合させた。・・・Herz抗体として知られる第一抗体をスラ
イドの表面に45分間,2μg/mにて,スーパーカクテイル(この場合
さらに1%BSA及び1%オバルブミンを含有する)中で適用した。次に,
第二抗体,すなわちヤギ抗−マウス・フルオレッセイン複合体を2μg/
mlでスーパーカクテイル緩衝液中に加え,そして2時間インキュベートし
た。
この結果を,位置の関数としての蛍光強度としてプロットした。この像
を10μm段階でとり,そして次のことが示された。よく定義されたパタ
ーンで脱保護が行われ得るのみならず,(1)この方法は基体の表面への
ペプチドの好結果のカップリングをもたらし,(2)結合したペプチドの
表面は抗体との結合のために利用可能であり,そして(3)検出装置の能
力は受容体の結合を検出するのに十分であった。」(段落【0124】∼
【0126】)
c「I.YGGFLのモノマー並列形成及びそれに続く標識抗体への暴露
交互の正方形におけるYGGFL及びGGFLのモノマー並列合成をス
ライド上チェッカーボードパターン中で行い,そして得られるスライドを
Herz抗体に暴露した。この実験を図16及び図17に示す。図16に
おいて,この場合はt−BOC(t−ブトキシカルボニル)で保護されて
いるアミノプロピル基により誘導体化されたスライドを示す。スライドを
TFAで処理してt−BOC保護基を除去した。次に,そのアミノ基にお
いてt−BOC保護されているE−アミノカプロン酸をアミノプロピル基
に連結した。アミノカプロン酸はアミノプロピル基と合成されるべきペプ
チドとの間のスペーサーとして機能する。
スペーサーのアミノ末端を脱保護し,そしてNVOC−ロイシンに連結
した。次に,スライド全体を12mWの325nm広バンド照明により照明し
た。次に,スライドをNVOC−フェニルアラニンと連結しそして洗浄し
た。スライド全体を再び照明し,そして次にNVOC−グリシンに連結し
そして洗浄した。スライドを再び照明し,そしてNVOC−グリシンに連
結して図16の最後の部分に示す配列を形成した。
次に,図17に示すように,スライドの交互の領域を500×500μ
mチェッカーボードマスクを用いる投影プリントを用いて照明し,こうし
てグリシンのアミノ基を照明された領域においてのみ露出させた。次の連
結化学反応段階を行うときNVOC−チロシンを加え,そしてそれを照明
を受けた所においてのみ連結させた。次に,スライド全体を照明してすべ
てのNVOC基を除去し,照明された領域にYGGFLのチェッカーボー
ドを残し,そして他の領域にGGFLを残した。Herz抗体(これはY
GGFLを認識するがしかしGGFLを認識しない)を加え,次にヤギ抗
−マウス・フルオレッセイン結合体を加えた。
得られる蛍光スキャンは,Herz抗体により認識されない(そしてそ
れ故ヤギ抗−マウス抗体・フルオレッセイン結合体との結合が存在しな
い)テトラペプチドGGFLを含む領域,及びYGGFLが存在する赤い
領域を示した。YGGFLペンタペプチドはHerz抗体により認識され,
そしてそれ故に,照明された領域にはフルオレッセイン−結合ヤギ抗−マ
ウスが認識する抗体が存在する。基体との直接接触(「近接プリント」)
において使用された50μmマスクについての類似のパターンはより明瞭
なパターンを与え,そしてチェッカーボードパターンの角は,マスクが基
体に直接接触して置かれた結果として感動的であった(これは,この技法
を用いての解像度の増加を反映している)。」(段落【0127】∼【0
130】)
d「J.YGGFL及びPGGFLのモノマー並列合成
図16及び17に示したものに類似する50μmチェッカーボードマス
クを用いての合成を行った。しかしながら,追加の連結段階を通して基体
上のGGFL部位にPを加えた。保護されたGGFLをマスクを通して光
に暴露し,そして次に,前記のようにしてPに暴露することによりPを付
加した。従って,基体上の領域の半分はYGGFLを含有し,そして残り
の半分はPGGFLを含有した。この実験についての蛍光プロットが示す
ところによれば,領域はやはり,結合が起った領域と結合が起らなかった
領域との間が容易に識別できる。この実験は,抗体が特定の配列を認識し
得ること,及びこの認識が長さ依存的でないことを示した。」(段落【0
131】)
e「K.YGGFL及びYPGGFLのモノマー並列合成
本発明の機能可能性をさらに示すため,前記のような技法を用いて基体
上に交互のYGGFL及びYPGGFLの50μmチェッカーボードパタ
ーンを合成した。得られる蛍光プロットが示すところによれば,抗体はY
GGFL配列を明瞭に認識することができそしてYPGGFL領域には有
意に結合しなかった。(段落【0132】)
f「L.一連の16種類の異るアミノ酸配列の合成及びHerz抗体への相
対結合親和性の評価
前記の技法に類似する技法を用いて,一連の16種類の異るアミノ酸配
列(4連反復)を2枚のガラス基体のそれぞれの上で合成した。スライド
の全表面にわたって配列NVOC−GFLを付加することにより配列を合
成した。次に,一連のマスクを用いて2層のアミノ酸を基体に選択的に適
用した。各領域は0.25cm×0.0625cmの寸法を有していた。」
(段落【0133】)
イ上記aのGの実験によれば,10μm×10μm(1領域の面積が100
μmとなり,1cm当たり10個の領域が作られる。)程度の精度で,他226
の領域と識別が可能な程度に,光脱保護が可能であることが認められる。し
かし,Gの実験では,ポリマー合成(基板へのポリマー付加も含めて)は行
われていない。したがって,この実験の結果をもって,請求項1で規定され
ているような密度・種類でペプチドが基板上に存在するものが容易に製造で
きることの根拠とすることはできない。
また,表面にペプチドを有する基板を製造しているHないしLの実験(上
記bないしf)では,最も密度が高いもので,50μmマスクを用いた場合
の400個/cmのものであり,ペプチドの種類も,Lの実験の16種類が2
最多であり,領域の密度・ペプチドの種類ともに,請求項1で規定された下
限値の10にも達していない。3
原告は,本件発明が高密度アレイの提供により画期的なブレイクスルーを
成し遂げた世界的なパイオニア発明であると主張しているから,本件発明に
おいては,高密度であること,すなわち単位面積当たりの領域数の多さと配
列の多様性(基板表面成分の種類の多さ)が重要な意味を有するものと認め
られる。しかし,本件明細書には,上記のように,低密度で,少ない多様性
の基板の製造例・実験例しか記載されていない。
ウ収率について
(ア)1工程における収率
原告は,1工程の収率がたとえ小さくても,解析という目的にとっては
十分な量のポリマーが存在すると主張する。
しかし,目的とするポリマー成分の収率が小さいことは,それ以外の成
分,すなわち不純物が大量に存在することを意味している。その中には,
ノイズとなり得る成分も含まれており,製造された解析装置が,解析装置
として実用可能であるかどうかの判断は,目的ポリマー成分が存在するこ
とだけでは十分ではなく,後記のノイズの影響を十分考慮する必要がある。
(イ)1サイクル当たりの収率
原告は,引用文献7に各反応の収率が85∼95%であることが記載さ
れており,本件発明のフォトリソグラフィー法と引用文献7記載の合成法
は同一の合成法であることから,本件発明の1サイクルの収率も85∼9
5%であると主張する。
引用文献7には,以下の記載がある。
a「もう1つの重要な考慮事項は,合成の忠実度である。欠失は,不完全
な光脱保護または不完全なカップリングにより生じる。これらの実験に
おける1サイクルあたりの正味カップリング収率は,代表的には,85
∼95%である(9)。マスキングによるスイッチマトリクスの実行は,
光の拡散,内部反射,および散乱が原因で不完全である。結論として
「隠れた化学ユニット(すなわち,組み込まれるはずではなかった化学
単位)」は,遮光されているはずの領域の意図されない照射によって生
じる。」(771頁左欄14行∼右欄1行(訳文1枚目13∼19
行))
b「9.光脱保護および化学的カップリングから生じる正味のカップリン
グに対する寄与は,以下の方法で評価した。我々は,NVOC−アミノ
酸についての光分解速度を実験により決定し,そのアミノ酸の99%よ
り多くが光脱保護されることを確実にする照射条件を選択した。我々は
また,我々の基材上の選択されたアミノ酸の化学的カップリング効率を
決定した。例えば,LeuとLeuとのカップリング効率を決定するた
めに,NVOC−Leu誘導体化基材の1つの領域から,NVOCを最
初に選択的に光分解した。次いで,この第1の領域中の光化学的に脱保
護されたアミノ基を,FMOC−Leu−OBrにカップリングした。
この段階で,不完全なLeuとLeuとのカップリングにより,アミノ
基が未反応のままであった。次いで,第2の光分解工程を用いて,その
基材上の異なる領域を光分解した。FITCでのこの基材の処理は,第
1の領域中の不完全な化学的カップリングから残っている遊離アミノ基
および第2の領域中の不完全な化学的カップリングから残っている遊離
アミノ基および第2の領域における光分解に曝された遊離アミノ基を標
識した。両方の領域からの定量的蛍光シグナルの直接比較は,化学的カ
ップリングの程度を示す。このカップリング収率が高い場合,第1の光
分解領域対第2の光分解領域のシグナル比は,低い。我々は,化学
的カップリングを最大にする実験条件を開発するために,この技術を最
適化ツールとして使用した。」(773頁左欄5∼23行(訳文2枚目
19∼3枚目7行))
引用文献7の記載によると,同文献に記載された方法で算出される「カ
ップリング収率」は,光脱保護が行われた後であって,化学的カップリン
グが行われる前の状態の遊離アミノ基(第2の領域における遊離アミノ
基)に対する,化学的カップリング工程後に存在している未反応の遊離ア
ミノ基(第1の領域における遊離アミノ基)の割合をシグナルの比によっ
て算出しているものであり,同文献に記載された「85∼95%」という
数値は,化学的カップリングの工程の効率を示しているだけであり,化学
的カップリングに先だって行われる光脱保護工程の効率は含まれていない。
そして,「欠失は,不完全な光脱保護または不完全なカップリングにより
生じる。」との上記aの記載からも明らかなように,光脱保護工程におけ
る収率の低下も無視することはできないものであるから,引用文献7に記
載された「85∼95%」は,1サイクルの収率を示したものではない。
逆に,引用文献7には「マスキングによるスイッチマトリクスの実行は,
光の拡散,内部反射,および散乱が原因で不完全である。結論として『隠
れた化学ユニット(すなわち,組み込まれるはずではなかった化学単
位)』は,遮光されているはずの領域の意図されない照射によって生じ
る。」(上記a)と記載され,光脱保護工程の不完全さにより,組み込ま
れるはずではなかった化学単位が,他の領域に組み込まれることが示され
ている。このような組み込まれるはずでなかった化学単位が組み込まれた
ポリマーは,もはやその領域において目的とするポリマーではないのであ
るから,その領域における収率は,そのポリマーの分だけ低下することに
なるが,引用文献7には,その収率低下がどの程度のものであるかについ
ての記載はない。さらに,「光の拡散,内部反射,および散乱」による影
響は,領域の面積が小さくなればなるほど大きくなるものと考えられるが,
本件発明のように領域を高密度に設けた場合において,どの程度の影響が
あるかを示す記載はない。
したがって,引用文献7に各反応の収率が85∼95%であることが記
載されているからといって,本件発明における1サイクルの収率が85∼
95%であるとする根拠とはならないから,原告の主張を採用することは
できない。
(ウ)必要なサイクル数
被告は,本件明細書には,1cm当たり10種類のオリゴペプチドを,26
各々10μm×10μmの領域ごとに合成するために,どのようなマスク
を,どのような順序で用いて合成するのかの具体的手順が記載されておら
ず,1cm当たり10種類のオリゴペプチドを合成するのに必要なサイク26
ル数は明記されていないと主張するが,審決においては,必要なサイクル
数についての記載がないことを実施可能要件を欠く理由としていない。し
たがって,必要なサイクル数についての記述の有無は,審決を取り消すべ
きか否かの結論を左右しない。
(エ)サイクル数が少ない態様
原告は,本件明細書にいう「モノマー」とは,必ずしも,アミノ酸1個
のみを意味するものではなく,オリゴペプチド又はポリペプチドをも包含
するものであり,サイクル数の増加による収率の低下をいう被告の主張は
根拠を欠くものであり,20merを基板外で合成して,本件発明により基
板上に結合する場合であれば,基板上での結合反応は1回で済むと主張す
る。
しかし,1種類のポリマーを結合するために必要なサイクルは1回であ
るとしても,最大で10種類の基板表面成分を結合させるためには,残6
る(10−1)個の領域の全てに同じ操作を繰り返すことが必要であり,6
その操作に膨大な時間を要することを考慮すると,現実性がないと推認さ
れる。
なお,原告は,アミノ酸のペンタマーをモノマーとして用いると,結合
反応はわずか4回であるとも主張するが,これも1領域にのみ着目したも
のであって,上記と同様の問題がある上,本件明細書の「モノマーの基本
セット」との記載から,「アミノ酸のペンタマーのセット」まで含めて理
解することは困難であり,原告の主張を採用することはできない。
エノイズ(「密航者」及び「短縮ポリマー成分」)について
(ア)「密航者」
a原告は,フォトリソグラフィー技法の高い精度のために,全く意図しな
い成分が付加された,意図しないポリマー成分であるいわゆる「密航者」
はほとんど生成されないと主張する。
しかし,引用文献7には,前記ウ(イ)aのとおり,「マスキングによる
スイッチマトリクスの実行は,光の拡散,内部反射,および散乱が原因で
不完全である。結論として『隠れた化学ユニット(すなわち,組み込まれ
るはずではなかった化学単位)』は,遮光されているはずの領域の意図さ
れない照射によって生じる。」との記載があり,明確に「密航者」の問題
を指摘している。また,原告自身も,引用文献8において,「光による合
成において,合成全体の収率は,光脱保護反応の収率,光脱保護反応のコ
ントラスト,そして化学結合の効率に依存する。光反応速度条件は,光脱
保護反応の収率が確実に99%を超えるように選択される。基板の通常の
暗領域における望まない光分解は,合成の忠実度に反して作用する場合が
あり,高い光学密度(50Dユニット)を持つリソグラフィックマスクを
用い,慎重に指標を光学表面に適合させることによって最小化し得る。」
と記載している。
したがって,これらの記載に照らして,密航者が「ほとんど生成されな
い」という原告の上記主張は採用することができない。
b原告は,「密航者」に対する結合は,事実上排除し得ることから,成分
解析の妨げとはならないとも主張する。
しかし,甲16文献によれば,「密航者」との結合を回避するために,
反応温度を目的ポリマー成分の融点に保つ手法(Tm値というハイブリダイ
ズ条件設定を行う手法)は,DNAの場合に用いられる手法であり,オリ
ゴペプチドには通用しないものである。
ペプチドについて,本件明細書には,「L-アミノ酸のみを含有する第一
スライドの蛍光ブロットは赤い領域(強い結合,すなわち149,000
カウント以上),及び黒い領域(Herz抗体がほとんどまたは全く結合しな
い,すなわち20,000カウント以下)を示した。配列YGGFLは明らか
に最も強く認識された。配列YAGFL及びYSGFLもまた抗体の強い認識を示し
た。・・・D-アミノ酸スライドの蛍光ブロットが示すところによれば,YG
GFL配列により最も強い結合が示された。YaGFL,YsGFL及びYpGFLに対して
も有意な結合が検出された。」(【0135】∼【0136】)との記載
がある。
この記載によれば,アミノ酸の配列が1個異なる場合でも,本来の配列
と比較すれば弱いにしても,強い結合又は有意な結合を示す場合があるこ
とが認められる。したがって,アミノ酸の配列が1個異なるものが「密航
者」となる可能性は十分にあるので,「密航者」に対する結合は事実上排
除し得るとはいえないし,このような結合を示す配列が不純物として生成
されれば,意図しない信号を発することは明らかであり,解析に影響を与
える可能性が十分にある。
(イ)短縮ポリマー成分
原告は,別紙1に示すとおり,収率が100%でないことに起因して,
目的ポリマー成分よりも短いポリマー成分(短縮ポリマー成分)が特定領
域内に合成され得るが,そもそもそのような短いポリマー成分が合成され
てしまう可能性が低い上に,かかるポリマーへの結合の割合も低いために,
蛍光反応における誤謬は事実上排除されると主張する。
別紙1の図は,1サイクル毎にキャッピング工程を行うことを前提とし
たものであり,かつ,結合性に関するグラフもTm値というハイブリダイズ
条件設定を行う手法を用いた場合のものである。キャッピング工程を1サ
イクル毎に行うことは,後記(ウ)に述べるように,本件明細書に開示され
た範囲内の事項とは認められず,また,結合性のグラフについても,オリ
ゴペプチドを基板表面成分とする場合には適用することができないもので
あることは前項bに述べたとおりである。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(ウ)キャッピング工程
原告は,キャッピング工程を各サイクルに設けることで,解析の際のノ
イズを減少するという技術思想は,本件明細書に明確に記載されているば
かりではなく,そのような技術思想は,基板上におけるポリマー合成の分
野においては,本件優先日当時の技術常識であったと主張する。
a本件明細書には,以下の記載がある。
(a)「【発明の概要】種々のポリマーの合成のための改良された方法及び装
置が開示される。1つの好ましい態様においては,リンカー分子が基体
上に与えられる。このリンカー分子の一端には,光除去可能な(pho
toremovable)保護基により保護された反応性官能基が設け
られる。リソグラフ(lithography)法を用いて,第一の選
択された領域において,光除去可能な保護基が光に暴露されそしてリン
カー分子から除去される。次に基体を洗浄し,又は単一モノマーと接触
せしめる。この第一モノマーはリンカー分子上の露出された官能基と反
応する。好ましい態様においては,モノマーはそのアミノ末端又はカル
ボキシ末端に光除去可能な保護基を含むアミノ酸であり,そしてリンカ
ー分子は光除去可能な保護基を担持するアミノ基又はカルボキシ酸基を
末端として有する。
次に,第二セットの選択された領域を光に暴露し,そしてリンカー分
子/保護されたアミノ酸上の光除去可能な保護基を該第二セットの領域
において除去する。次に,基体を,暴露された官能基との反応のために
光除去可能な保護基を含有する第二モノマーと接触せしめる。所望の長
さ及び所望の化学配列を有するポリマーが得られるまで選択的にモノマ
ーを適用するためにその工程を反復する。次に,光感受性基を場合によ
っては除去し,そして次に配列を場合によってはキャップする。側鎖保
護基が存在する場合はそれらも除去される。・・・(段落【0009】
∼【0010】)
(b)「次に,基体の幾らか又は全部から保護基を除去し,そして場合によっ
ては配列をキャップユニットCによりキャップする。この工程が,次の
一般式:S−〔L〕−(Mi)−(Mj)−(Mk)…(Mx)−
〔C〕
(式中,中カッコ〔〕は場合によっては存在する基を示し,そしてMi
…Mxはモノマーの任意の配列を示す)により示される複数のポリマー
を持つ表面を有する基体をもたらす。モノマーの数は広範囲の値にわた
ることができるが,しかし好ましい態様においてはそれは2∼100の
範囲であろう。」(段落【0038】)
(c)「表面上のすべての未反応アミノプロピルシラン…すなわちNVOC−
GABAが結合しなかったアミノ基…を,無水酢酸とピリジンとの1:
3混合物に1時間暴露することによりアセチル基によりキャップする
(更なる反応を防止するため)。この残留キャッピング機能を行うこと
ができる他の物質には無水トリフルオロ酢酸,蟻酸酢酸無水物,又は他
の反応性アシル化剤が含まれる。最後に,スライドをDMF,塩化メチ
レン及びエタノールにより再度洗浄する。」(段落【0105】)
(d)「さらに詳しくは,図11のAに示すように,ガラス20は領域22,
24,26,28,30,32,34及び36を備える。図11のBに
示すように領域30,32,34及び36をマスクし,そしてガラスを
照射し,そして「A」(例えばgly)を含有する試薬に暴露し,図1
1のCに示す構造を得る。次に領域22,24,26及び28をマスク
し,ガラスを照射し(図11のDに示すように),そして「B」(例え
ばphe)を含有する試薬に暴露して図11のEに示す構造を得る。図
11のMに示される構造が得られるまで,示されるようにセクションを
次々にマスク及び暴露して工程を進行させる。ガラスを照射し,そして
場合によってはアセチル化により末端基をキャップする。示されるよう
に,gly/pheのすべての可能なトリマーが得られる。」(段落
【0109】)
b上記(a)には,本件発明の解析装置製造のための,種々のポリマー合成
方法の一般的な方法が記載されており,キャッピング工程に関する記載が
ある。しかし,このキャッピング工程は,あくまでも,所望の長さ及び所
望の化学配列を有するポリマーが得られるまで反応が繰り返された後に,
後処理として行われる工程の1つとして記載されたものであり,1サイク
ル毎に行われるものとして記載されたものではない。上記(b)は,上記(a)
の工程を詳しく記載したものであるが,後処理工程としてのキャッピング
工程を記載するのみである。
c上記(c)の記載について,被告が「ポリマー合成用基板として用いるス
ライドの表面を調整する最終工程にすぎない」と主張したのに対し,原告
は,ここにいうところの「スライド」は,基板上のアミノ基にNVOC-GABA
が既に結合しており,「ポリマー合成がされた基板」及び「ポリマー合成
がされつつある基板」すなわち「アレイ」と同義であるとして使用されて
いると主張する。
しかし,上記(c)に記載された「スライド」が,基板上のアミノ基にNVO
C-GABAが既に結合しているといっても,「GABA」はポリマーの一部を構成
するものではなく,基板上のアミノ基にNVOC-GABAが既に結合しているこ
とが,「ポリマー合成がされた基板」及び「ポリマー合成がされつつある
基板」と等しいものであるとはいえない。NVOC-GABAを基板上に結合する
工程は,その後に行われるポリマー合成の足場となる「NVOC」基を,ポリ
マー合成領域全体に配置する工程であり,「ポリマー合成用基板として用
いるスライドの表面を調整する工程」とみるのが妥当である。したがって,
上記(c)のキャッピング工程に関する記載も,ポリマー合成の1サイクル
毎にキャッピング工程を行うことを意味するものと理解することは困難で
ある。
d原告は,上記(d)の「ガラスを照射し,そして場合によってはアセチル
化により末端基をキャップする。」という記載には,上記(b)の冒頭にあ
る「次に」という文言がないことから,その前に行われる操作,すなわち
アレイ上でのポリマー合成の後に行われるものではないと解釈されるから,
上記(d)におけるキャッピング工程とは,ポリマー合成の各サイクルにお
いて,ガラスを照射した後に,必要であれば,キャッピング工程を行うこ
とを意味することが明白であると主張する。
しかし,原告の解釈では,「ガラスを照射し,そして場合によってはア
セチル化により末端基をキャップする。」の記載の前には,「マスクし」,
「ガラスを照射し」,「試薬に暴露」する一連の操作を繰り返す記載があ
るのに対し,「ガラスを照射し」という操作の一部のみが改めて記載され
ていることとなり不自然である。むしろ,上記(d)の記載に続く段落【0
110】に「この例においては側鎖保護基の除去は必要でない。所望によ
り,エタンジオール及びトリフルオロ酢酸による処理によって側鎖の脱保
護を行うことができる。」という記載があるから,上記(d)は,上記(a)の
「次に,光感受性基を場合によっては除去し,そして次に配列を場合によ
ってはキャップする。側鎖保護基が存在する場合はそれらも除去され
る。」という一連の後処理工程に対応した記載であると解釈するのが自然
である。
e以上のとおり,キャッピング工程を各サイクルに設けることが本件明細
書に記載されているとは認められない。
また,本件優先日当時において,基板上におけるポリマー合成の分野に
おいて,キャッピング工程を各サイクルに設けて解析の際のノイズを減少
させるという技術思想がたとえ周知のものであったとしても,キャッピン
グ工程を各サイクルに設けることが本件明細書の記載から自明な事項であ
るとはいえない。
オ基板表面成分の密度について
原告は,所定の成分密度の達成は「基板上に1cmあたり10∼10箇236
所の領域を作り得るか否かということに他なら(ない)」と主張する。
確かに,単に上記のような領域を光照射の段階で他の領域と区別して作る
点に関しては,半導体技術の技術レベルを参酌するまでもなく,前記(2)ア
aのGの実験にあるとおり,本件明細書の記載からも達成することができる
ことは認められる。しかし,請求項1に記載されているものは,区画として
所定の密度の領域を形成するだけでなく,他の領域の成分とは異なる種類の
成分を有する領域を所定の種類分(10∼10種類)形成することであり,36
何十サイクルもの光照射,化学的カップリング反応を経た場合に,どの程度
の成分密度が達成されるかは,フォトリソグラフィー技法の解像度に関する
技術をそのまま適用して達成することができるものとは認められない。
(3)ヌクレオチド鎖を基板表面成分とする解析装置について
原告は,本件明細書の実施例においてアミノ酸モノマーからオリゴペプチ
ドを合成する際に具体的に用いられている「NVOC」及び「NBOC」のいずれも
が,光開裂可能なヌクレオチドのヒドロキシル基保護のために用いることが
本件優先日前に周知であるから,当業者はこれら保護基をそのまま用いてヌ
クレオチドモノマーがオリゴヌクレオチドを容易に合成できるということが,
本件の原出願の審決において認められていると主張する。
しかし,ヌクレオチド鎖を基板表面成分とする解析装置については,低密
度のものの実施例もなく,光脱保護の一具体例すらなく,本件明細書に一般
的な手法が記載されているのみである。上記のように,ペプチド鎖を基板表
面成分とする解析装置であって,請求項1で規定されるような高密度の解析
装置について,本件明細書の記載が実施可能要件を満たしていないことを考
慮すれば,ヌクレオチド鎖が基板表面に10種類/cmの高密度で存在する62
解析装置について,本件明細書に実施可能な程度で記載がされているものと
は認められない。
(4)請求項10及び11に記載された成分の純度
ア請求項10について
「純度」の意義について,本件明細書の段落【0031】には,「11.
実質的に純粋基体の1つの所定の領域がそれを他の所定の領域から区別
する特性を示す場合,ポリマーは所定の領域内で「実質的に純粋である」と
考えられる。典型的には純度は,均一な配列の結果としての生物学的活性又
は機能として測定されるであろう。この様な特性は典型的には選択されたリ
ガンド又は受容体との結合により測定されるであろう。」との記載がある。
被告は,まず「純粋」とは,社会通念上の「純粋」の定義の一つである
「まじりけのないこと」を意味し,「純度」とは「純粋さの程度」であるか
ら,請求項9及び請求項10における「純度」は,「目的ポリマー成分以外
の成分が混入していない状態の程度」と解釈され,領域内の成分全体に占め
る目的ポリマーの割合を意味すると主張する。
そこで検討するに,「純度」を算出するためには,「目的ポリマー成分」
及び「目的ポリマー成分以外の成分」の量を測定する必要があるが,本件出
願では,各成分が基板に固定されているため,通常の混合物のように,各成
分を分離してその量を測定することはできない。そうすると,基板に結合し
たまま,「目的ポリマー成分」の量を測定する方法として,上記記載のよう
に選択されたリガンド又は受容体との結合により,生物学的活性又は機能と
して測定するという手法を採用することは,特段不合理とはいえない。
しかし,本件明細書には,「純度」の算出方法について,「リガンド又は
受容体との結合により測定(する)」という以上に具体的な記載はなく,原
告が主張する純度の定義(目的ポリマー成分/(目的ポリマー成分+他領域
目的ポリマー成分))が妥当であるか否かはともかく,本件明細書には,原
告の主張する定義によった場合の純度の測定例が記載されていない。本件明
細書では,領域数が少ない基板の製造例においてさえ,純度は記載されてお
らず,どの程度の純度が達成されたかは不明であり,請求項10に記載され
た条件を満たす領域数を有する基板において,請求項10で規定する「少な
くとも90%の純度を有する」ものについては,開示がされていない。
イ請求項11について
請求項11には,「実質的に純粋」という記載があり,「実質的に純粋」
については,本件明細書の段落【0031】(上記ア)に,「基体の1つの
所定の領域がそれを他の所定の領域から区別する特性を示す場合,ポリマー
は所定の領域内で『実質的に純粋である』と考えられる。」と記載されてい
る。
しかし,どのような状態であれば「区別する特性を示す」といえるかが不
明であり,結局のところ,「実質的に純粋」の意義は,これらの記載からは
明確ではない。また,請求項11は,「請求項10に記載の装置」のうち,
各成分が,既知の位置決定された領域内において「実質的に純粋である」も
のに限定した請求項であるので,請求項10において規定された「少なくと
も90%の純度を有する」という条件を満たすものであることは明らかであ
るから,上記のとおり請求項10において「少なくとも90%の純度を有す
る」ものについて開示がない以上,請求項11についても,本件明細書中に
実質的な開示がない。したがって,審決のこの点についての判断に誤りはな
い。
(5)実施可能要件についての結論
以上のとおり,本件請求項1∼14に記載される基板に関する成分の密度
についての数値範囲及び請求項10及び11に記載される成分の純度につい
ての規定がいずれも本件明細書中で技術的に裏付けられていないから,本件
明細書は,各請求項に記載された発明を当業者が容易に実施することができ
る程度に記載されていない。したがって,本件明細書の記載が特許法36条
3項の要件を満たさないとした審決の判断に誤りはない。
3結論
以上に検討したところによれば,審決取消事由のうち取消事由2には理由が
なく,本件明細書の記載が特許法36条3項の要件を満たさないから,その余
の点について検討するまでもなく,拒絶査定に対する不服審判請求を成り立た
ないとした審決の結論に誤りはなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認め
られない。よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田中信義
裁判官
古閑裕二
裁判官
浅井憲

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