弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主  文
1 被告らは,原告に対し,連帯して金2698万4786円及びこれに対
する平成9年3月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告ら
の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事  実
第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
(1) 被告らは,原告に対し,連帯して金5142万4672円及びこれに対す
る平成9年3月12日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。
  (3) 仮執行宣言
 2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
  (請求原因)
 1 次の内容の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(1) 日時 平成○年○月○日午前7時55分頃
(2) 場所 福島県伊達郡a町大字b字c,県道線上(以下「本件道路」とい
う。)
(3) 加害車 普通貨物自動車
    運転手 被告B
(4) 被害者 原告
(5) 事故態様 道路舗装工事に伴う片側一車線の本件道路を,県道d線方面か
らe町方面に向け進行していた加害車が,その前方で本件道路のアスファルト舗装
工事に従事していた原告に衝突し,転倒させた。
(6) 原告の受傷  急性硬膜下血腫,脳挫傷,頭蓋骨骨折,肋骨骨折,血胸の
傷害を負った(以下「本件傷害」という。)。
 2 責任原因
(1) 被告Bは,道路舗装工事に伴う片側一車線の本件道路を進行するのである
から作業員の動静に注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失によ
り,原告に加害車を衝突させ,本件傷害を負わせたのであるから民法709条によ
り原告の本件事故に基づく損害を賠償すべき責任がある。
(2) 被告株式会社A(以下「被告会社」という。)は加害車の所有者であり,
かつ被告Bは被告会社の被用者であり本件事故を職務に関し発生させたものである
から,自賠法3条,民法715条により原告の損害を賠償すべき責任がある。
 3 本件傷害による治療内容及び治療経過並びに後遺障害
(1) 治療経過
    甲病院
     平成○年○月○日から同年○月○日まで199日間入院
     同年○月○日,〇日の2日間通院
    乙病院
     平成○年○月○日から同○年○月○日まで33日間通院
(2) 後遺障害の程度・等級
原告は,本件傷害によって外傷性パーキンソニズムによる運動障害(体幹
機能障害及び両手関節,手指の著しい障害),失語症による言語機能の著しい障
害,意思疎通が困難という後遺症が残り,平成○年○月○日症状固定の診断を受
け,後遺障害別等級表1級3号の認定を受けた(以下「本件後遺障害」とい
う。)。
 4 損害
  (1) 治療費         683万0824円
  (2) 入・通院付添看護費   297万4000円
原告は,本件傷害による199日間の入院中,本件傷害により精神的に異
常をきたし,妻以外の食事の介護を受け付けなかったことやベットの上で暴れたり
徘徊するなど異常行動があったことから,医師の指示で原告の妻C(以下「C」とい
う。)が泊まり込みで24時間付き添い,その間娘も日中付き添って支えた。このよ
うな特殊な状況からすれば,家族付添であってもその間の付添費用としては1日当
たり1万円が相当である。
また,原告が退院した後もCが24時間介護したことから症状固定日まで
の164日間の付添費として1日当たり金6000円が相当である。
  (3) 入院雑費        25万8700円
  (4) 通院交通費       7万2000円
  (5) 休業損害        411万1823円
   原告は,年収413万4478円の給与収入を得ていたが,本件事故によ
る入   院日から症状固定日までの363日分休業を余儀なくされ,その間給与
収入を得   られなかった。
  (6) 逸失利益        3219万1459円
原告は,もともとは手先を使う仕事をしている大工職人であり,自営する
ことも可能であるから,本件事故当時64歳ではあるが,今後平均余命の2分の1
に相当する73歳まで9年間は就労し事故前年の給与所得である413万4478
円を維持することが可能であった。
ところで,現在の低金利を考慮すれば,中間利息控除の基礎となる金利を
3%としてライプニッツ方式により(9年のライプニッツ係数7.7861)その現
価額を算定するのが相当である。後遺障害等級は1級3号であるから労働能力喪失
率は100パーセントである。
以上から,原告の逸失利益の事故当時の現価は3219万1459円であ
る。
     4,134,478×7.7861=32,191,459
  (7) 将来の介護費      2883万3759円
原告にはパーキンソニズムによる運動障害があり,排泄,入浴,その他身
の回りの世話についても妻の介護が必要である。また,原告には重度の痴呆及び失
語症もあり,意思疎通も困難で尿失禁もあることから,終生にわたり妻の介護が必
要である。原告は現在要介護5の認定を受けデイサービス,ショートステイ,ホー
ムヘルプサービスの介護サービスを受けているが,これらの介護サービスで全てを
まかなうことは到底できるものではなく,妻Cの介護が常に必要である。 そうし
て介護保険給付については,現在給付を受けていない将来分は損害額から控除すべ
きではない。
そこで,平成10年の簡易生命表によれば原告の余命は17年であり,そ
の間の介護費用は1日当たり6000円として,前述のとおり年3%のライプニッ
ツ係数を使用して中間利息を控除すると将来の介護費用は2883万3759円と
なる。
6000×365×13.1661=28,833,759
仮に,原告が介護保険要介護5の介護給付を将来受給するものとして将来
の介護費が算定される場合は,介護保険の自己負担分毎月3万5830円のほか,
原告妻の介護費として1日当たり3000円の支払を求める。
  (8) 障害者用住宅の新築費用 500万円
原告は,現在,貸家で生活をしているが障害者用に住宅を新築することに
なった。新築住宅の身体障害者用の特別施設としては金735万円の費用を要する
ところ,その内,金500万円を請求する。
  (9) 車椅子の購入費用    16万0913円
  (10) 慰謝料         3000万円
傷害分 400万円
後遺障害分 2600万円
 5 損害の補填 4345万9501円
   原告は,本件事故に関し以下のとおり支払を受けた。
  (1)治療費     680万2414円
(2) 労災保険
ア 休業補償給付  209万6640円
   イ 障害者補償年金 336万0447円
     平成12年6月から同13年10月まで2か月毎に45万8466円の
支払    を受けた(合計9回分)。ただし,福祉施設給付金(1回当たり8万5
083円)    については控除させるべきではない。
     よって,損害から控除されるべき額は,336万0447円となる。
     373,383×9=3,360,447
  (3) 自賠責保険   3120万円
 6 弁護士費用    460万円
損害合計金から原告2割の過失相殺をし,損害補填金を控除した残金の1割
に相当する金460万円が相当である。
7 よって,原告は,上記4の損害につき原告2割の過失相殺をしたうえ上記6
の弁護士費用を加え,それから上記5の損害補填額を控除し,被告Bに対し民法7
09条に基づき,被告会社に対し自賠法3条,民法715条に基づき,連帯して,
5142万4672円及びこれに対する本件事故日である平成○年○月○日から完
済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(ただし,最終準
備書面に基づく減額をしていないこともあり,請求金額が損害の合計額と異な
る。)。
(請求原因に対する認否)
 1 請求原因1ないし3の各事実は認める。
 2 同4について
(1) 同4(1)の事実は認める。
(2) 同4(2)の事実のうち,全入院期間中及び退院後症状固定まで妻1人分の
付添と付添費1日当たり6000円の範囲(217万8000円)で認め,その余
は不知ないし争う。
  (3) 同4(3)ないし(5)の事実は認める。
(4) 同4(6)のうち,原告の本件事故当時の年収が413万4478円である
ことは認め,その余は否認ないし争う。67歳から73歳までの逸失利益は年収を
平成10年賃金センサス男子中卒65歳以上の310万7000円とすべきであ
る。中間利息控除は年5パーセントが相当である。
  (5) 同4(7)の事実は争う。
ア 平成12年3月31日までの介護費 
同年4月1日から介護保険制度が開始される前の,原告の症状固定日か
ら同年3月31日までの25か月間の介護費は,その内容が洗顔,ひげ剃り,食
事,入浴,排尿排便等であり,1日24時間完全介護の必要はないから,終日介護
の場合の3分の1として1日当たり2000円が相当である。
イ 同年4月1日以降の介護費
介護保険制度は介護の社会化といわれ,特に在宅介護を個人的なものか
ら社会全体で支えることに目的があるから,本来介護保険を利用することによって
免れることのできる労力負担や費用負担を加害者等の第三者に転嫁することを認め
ない趣旨の制度である。したがって,要介護5と認定された交通事故の被害者は,
介護保険により日常生活全般にわたり在宅で介護を受けられることになっており,
家族の愛情とは別に制度上は家族の介護を要しないから,家族による付添介護費は
損害として認められない。
原告は,本件後遺障害に基づき,平成13年1月11日福島市から要介
護状態区分5の認定を受けた。したがって,家族による付添介護費は損害として認
められない。
また,介護保険は被介護者が介護保険適用を回避しない限り,被介護者
の死亡までの間,確実に介護保険が適用されるから,介護保険により現に支給され
た介護内容に限り控除されると解するべきではない。
ところで,要介護5の在宅介護の利用者負担の最高限度額は月額3万5
830円(利用限度額月額35万8300円の1割)である。
したがって,同年4月1日以降の介護保険による原告の負担,すなわち
原告負担の介護費はその限度で認められるべきである。
  (6) 同4(8)の事実は否認する。
原告は平成13年1月11日福島市から要介護状態区分5の認定を受けた
から,要介護5の介護サービスを受けられるものについては住宅改造も不要にな
る。したがって,ア 玄関,廊下廻り等(バリアフリー)木工事は必要であると認
めるが,介護保険から20万円の限度で補填があるので控除されるべきである,イ
 ユニットバスはデイサービスによる入浴及び現在の原告宅の浴槽による訪問入浴
介護により,これらの設備は不要である,ウ 入浴リフトは訪問入浴介護がある以
上不要である,エ トイレ(簡易昇降便座取付)は車椅子のまま利用するとすれば
不要である,オ 洗面台は洗面が訪問介護に含まれる以上車椅子のまま利用するの
であれば普通仕様でも十分であり,特別仕様による追加分は不要である,カ 介護
用ベットは,介護保険の在宅サービスの福祉用具貸与を利用し,自宅に特殊寝台を
借り受けているので,新たな介護用ベットは不要である,キ 手摺りは,原告が車
椅子を自分で移動できないのでその必要性は考えられない,ク 玄関スロープは,
バリアフリー木工事で十分である,ケ 24時間計画換気システムは必要ない,と
考えられる。
  (7) 同4(9)の事実認める。
(8) 同4(10)のうち,後遺障害分は争わないが,傷害分は争う。傷害分の慰謝
料は250万円が相当である。
3 同5の事実は否認する。原告は,平成12年6月から2か月に一度労災保険
年金として37万3383円,福祉施設給付金として8万5083円の合計45万
8466円の支給を受けている。原告は症状が固定し,固定してから3年以上も経
過しているのに症状に変化がないので,死亡するまでの間,現在の労災保険年金等
の支給が継続されることは確実と言える。
  したがって,原告が平均余命まで支給を受けられる年金等につき,被告の原
告に対する逸失利益の損害賠償から全額控除されるべきである。
 4 同6の事実は争う。
 (抗弁・過失相殺)
本件事故に基づく損害賠償額の算定に当たっては,道路工事中の作業員が走行
車線上に出てきたため本件事故が発生したものであるから,一般道路における横断
者の事故と異なり運転者には信頼性の原則が強調されるべき以下の諸事情を斟酌す
べきであり,原告の過失は50パーセントを下らない。
1 本件事故現場は,工事のため片側通行となるため工事業者によりガードマン
が配置され交通の整理に当たっていたので,被告Bはガードマンの指示に従って本
件現場へ進行した。作業現場では,作業者の安全を守るために管理者が配置される
ことになっており,現場責任者が作業員の安全に配慮し事故防止に努めていること
は周知の事実である。
  それゆえ,被告Bは本件道路を進行中,よもや作業現場である反対車線から
作業員である原告が加害車の走行車線内に飛び出してくるとは,一般道路でいえば
赤信号にもかかわらず横断してくるのと匹敵するような事態であるから,予想でき
なかったのである。
 2 加害車の速度は時速20km以下であった。
3 原告は作業用車両の陰から飛び出すように加害車の前を斜め前方に横断し
た。そのため被告Bは咄嗟にハンドルを右に切ったが避けきれず,加害車の左前部
を原告に衝突させてしまった。
4 原告はヘルメットを着用していなかったか,着用していても不完全な着用で
あった可能性が高い。原告がヘルメットをきちんと着用していれば,脳挫傷のよう
な重傷は負わなかったはずである。
 (抗弁に対する認否)
  抗弁事実は否認ないし争う。被告Bは工事現場の側を通過するのであるから最
徐 行で進行すべき義務があったのにこれを怠っており,原告の過失は20パーセ
ントを 超えない。
理  由
1 請求原因1(本件事故の発生)の各事実は当事者間に争いがない。
2 同2(被告らの責任)の事実は当事者間に争いがない。
3 同3(本件受傷内容及び治療経過並びに後遺障害)の各事実は当事者間に争い
がな い。
4 同4(損害)について
 (損害の計算に当たっては,小数点以下を四捨五入して計算する。)
 (1) 同4(1)(治療費683万0824円)の事実については当事者間に争いが
ない。
(2) 同4(2)(入・通院付添看護費)について
ア 本件受傷内容,治療経過,症状固定及び本件後遺障害については,当事者
間に争いのない同3の各事実のとおりである。
イ 原告が甲病院に入院していた199日間及び原告が同病院退院後症状固定
日までの164日間にわたり,原告の妻Cが原告の付添看護ないし介護をしていた
事実は当事者間に争いはない。
ウ 争いのない原告の本件受傷内容,治療経過,症状固定及び本件後遺障害並
びに証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,原告が甲病院に入院していた199日
間,原告が本件傷害により外傷性パーキンソニズムによる運動障害や失語症による
言語機能の著しい障害,意思疎通の困難という後遺症が残り,妻C以外には食事の
介護や排便の援助を受け入れないし,暴れたり徘徊するため,病院から家族の介護
を要請され,他方,職業付添人では介護が困難であるためもあって,妻Cが娘や息
子の協力を得て毎日泊まり込みで24時間付添介護をし続けたこと,原告が同病院
を退院した後は症状固定日までの164日間,同様に妻Cが娘や息子の協力を得て
自宅で終日付添介護をし続けたことが認められる。
エ 以上によれば,本件事故と相当因果関係ある損害と認められる症状固定日
までの付添費は,入院期間中の寝泊まりでの付添看護及び介護費が1日当たり80
00円の割合で,自宅介護費が1日当たり6000円の割合で認めるのが相当であ
るから,合計257万6000円となる。
8,000×199+6,000×164=159200+984000=2,576,000
(3) 入院雑費(25万8700円),通院交通費(7万2000円)及び休業損
害(411万1823円)は当事者間に争いがない。
(4) 逸失利益について  
ア 原告の本件受傷の症状固定日,本件後遺障害の内容(請求原因3)及び原
告の本件事故前年の給与所得額(413万4478円)は,上記のとおり,当事者
間に争いがなく,証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,原告の本件事故前年の給
与所得は金413万4478円であり,原告は本件事故当時,道路舗装工事の現場
作業員として毎月20日か21日間勤務し,本給27万8500円及び付加給を得
ていたこと,原告は本件事故当時健康であり,健康であるうちは働きたいと考えて
いたし,その必要もあったこと,原告は本件後遺障害の存在のため将来にわたり就
労することができず,労働能力喪失率は100%であることが認められる。
また,原告(昭和○年○月○日生)が73歳まで9年間にわたり就労可能
であることについては当事者間に争いがない。
イ ところで,原告が本件事故当時の勤務条件で勤務し続け,本件事故当時の
年収を73歳まで得続けることができるかは,道路舗装工事の現場作業員としての
勤務としても疑問であり,原告が大工職人として自営し同等額の収入を得られると
の蓋然性も高いとはいえない。
ウ そこで,原告は症状固定時(平成○年○月○日。64歳)から69歳まで
の5年間は本件事故当時の勤務条件で勤務し続け本件事故当時の年収を得られたも
のと認め,その後の4年間は,賃金センサス平成11年第1巻第1表産業計男性労
働者中卒65歳以上の年収317万5800円を得られたものと認め,本件事故当
時の公定歩合が年0.5パーセントであり,口頭弁論終結時の公定歩合が年0.1
パーセントであり,現在の金利動向は,5年のスーパー定期,定額貯金とも年0.
2パーセントに満たない利回りであり,10年の長期国債が年1.5パーセントに
満たない状況であって,都市銀行の住宅ローンの5年返済の固定金利で年3パーセ
ントに満たず,10年返済でも4パーセントに満たない金融状況であって,本件事
故当時からほぼ横ばいか低下していることは裁判所に顕著な事実である。この傾向
は当分続き数年後に急激に上昇する可能性は極めて低いという観測が常識と言え
る。そこで,本件事故当時における逸失利益の現価額の計算においては,本件事故
から現在までの金利動向を踏まえ,今後の5年余の間も,中間利息を3パーセント
としてライプニッツ係数を用いて控除し,69歳までの5年間の3パー
セントのライプニッツ係数として4.4463(5.4171-0.9708)
を,70歳から73歳までの4年間の3パーセントのライプニッツ係数として3.
1131(8.5302-5.4171)を用いて計算すると,逸失利益は合計2
833万4214円と認められる。
4,134,478×4.4463+3,175,800×3.1131=28,269,713
(5) 将来の介護費について
ア 当事者間に争いのない事実及び証拠(略)並びに弁論の全趣旨を総合する
と,原告は,本件後遺障害により,食事,排泄,入浴,その他生活全般について2
4時間にわたり,終生介護を受けなければならない状態となり,今後緩解する見通
しはないこと,Cは昭和○年○月○日生まれで現在67歳であり,原告が本件傷害
によって入院してから以後現在まで,意思疎通もほとんどままならないままで,原
則として終日ずっと介護してきたしこれからも健康上できる限り介護し続ける決意
であること,現在も介護保険に基づく保険給付を受けながらCが主に1人で介護し
ているが,今後5,6年すれば,Cが介護の柱になるのは困難となり,公的介護に
大きく依存し,あるいは職業介護を依頼する必要が当然に生じるものと認められ
る。また,平成11年の簡易生命表によれば,原告(昭和○年○月○日生)の余命
は,症状固定時(平成○年○月○日)以後高い蓋然性をもって17年と認めること
ができる。その間の在宅介護費用としては,原告は,食事,排泄,入浴,その他生
活全般について24時間にわたり,終生介護を受けなければならないのであり,そ
の介護負担に対する費用としては,後述のように,介護保険給付に対し
て第三者により保険事由が発生した場合は,損害賠償を受けた限度で保険給付を受
けられないことも考慮し,1日当たり8000円とするのが相当である。
  そして,17年間のライプニッツ係数としては前記の諸事情のほか期間が
15年以上に及ぶことから,過去の経済変動や金融動向をも考慮して,現在広く用
いられている中間利息控除5パーセントを採用して計算することにする。
  症状固定時(平成○年○月○日)の現価を求めると,以下のとおり,32
92万0080円となる。
  8,000×365×11.2740=32,920,080
イ ところで,証拠(略)によれば,原告は,平成12年4月1日以降,要介
護区分5の認定を受け介護保険法に基づき,デイサービス,ショートステイ及びホ
ームヘルプサービスの公的な介護サービスを現に受けていること,しかしながらこ
れらの介護サービスで原告の介護の全てをまかなうことはできるものではなく,妻
Cの介護が常に必要であることが認められる。
ウ そこで,交通事故の被害者が,年齢条件を満たし,平成12年4月1日か
ら施行された介護保険法に基づく介護サービスを受けることができ,又は現に受け
ている場合に,損害としての将来の付添介護費用から介護保険法に基づく介護サー
ビス相当価額分を控除すべきか,あるいはそもそも付添介護費用が発生しないと考
えるべきであるかについて検討する。
① 介護保険法は,「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等によ
り要介護状態となり,入浴,排せつ,食事等の介護,機能訓練並びに看護及び療養
上の管理その他の医療を要する者等について,これらの者がその有する能力に応じ
自立した日常生活ができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスにかか
る給付を行うため介護保険制度を設け,国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図
る」ことを目的とし(同法1条),市町村及び特別区が特別会計を設けて介護保険
を行い(同法3条),被保険者の要介護状態又はそのおそれがある状態に関し,保
険給付が行われ,被保険者の選択に基づき,適切な保険医療サービス及び福祉サー
ビスが,多様な事業者又は施設から,総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して
行われなければならないと定め(同法2条1,3項),介護給付は,労働者災害補
償保険法の規定による療養補償給付若しくは療養給付その他の法令に基づく給付で
あって政令で定めるもののうち介護給付等に相当するものを受けることができると
きは,その限度で介護保険法に基づく介護給付は行わず(同法20条),市町村
は,保険給付事由が第三者の行為によって生じた場合,保険給付を行っ
たときは,その給付の価額の限度において,被保険者が第三者に対して有する損害
賠償の請求権を取得し(同法21条1項),他方,保険給付を受けるべき者が第三
者から同一の事由について損害賠償を受けたときは,市町村は,その賠償価額の限
度において保険給付を行う義務を免れる(同法21条2項)と定める。要介護者と
は,要介護状態にある65歳以上の者か要介護状態にある40歳以上65歳未満の
者で加齢に伴う変化に起因する特定疾病のある者であって(同法7条),被保険者
は居住する市町村毎に資格の得喪が生じ,介護保険の給付を求める者は要介護認定
の申請をしなければならない(同法27条)。
② 以上の介護保険法の規定によれば,交通事故により介護を要する状態と
なった場合には,65歳以上であれば要介護者の要件を満たし保険給付を受けら
れ,市町村は,保険給付をした場合,保険給付の価額の限度において,被保険者で
ある被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権を取得し,他方,被害者が加害
者から損害賠償を受けたときは,市町村は,その賠償価額の限度において保険給付
を行う義務を免れることになり(同様の規定として,労働者災害補償保険法14条
の4がある。),被保険者は,介護保険を受ける場合要介護の認定申請をしなけれ
ばならず,介護保険を受給するか否か(同様の介護給付を多様な事業者や施設との
契約により受給するか)は被保険者の選択に委ねられていると理解できる。
③ また,市町村は,被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権を取得
して行使できるにすぎないから,被害者が加害者に対して請求できる介護費用以上
は求償できない。また,被害者は,損害賠償を受けた範囲で介護保険給付を受けら
れないことになる(ただし,介護保険は職業介護の範囲での介護を前提としている
から,近親者に対する介護費用の賠償額は含まれないものと解される。)。
④ 以上によれば,介護保険法の施行された以後も,被害者は加害者に対し
必要な介護内容に応じた介護費用の損害賠償を請求できるものと解される。
エ 本件において,原告は平成12年4月3日(証拠略)から口頭弁論終結の
日(同13年11月7日)まで584日間,介護保険給付を受けてきたので,この
間の給付を控除する必要がある(この間の保険給付については,福島市が被告らに
求償できる。)。この控除額を考えるについては,原告の将来介護料の請求が近親
者介護を含んでいるから,福島市のこの間の実際の給付相当額とすることはできな
い。そこで,この間の近親者介護の介護費用を平均して1日当たり3000円と
し,前記認定の将来介護料1日当たり8000円との差額を計算すると,292万
円となるから,同額を控除するのが相当とする。
5,000×584=2,920,000
 (6) 障害者用住宅の新築費用について
ア 原告の本件受傷内容,治療の経過及び原告の必要とする介護内容は,以上
に認定のとおりである。
  証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故により終生自立
歩行ができず,介助を得ることにより車椅子で移動する生活を余儀なくされるこ
と,そのような生活のためには,生活全般において,家屋全体にいわゆるバリアフ
リー工事を必要とすること,原告は入浴に全面的な介護を必要とし,そのためには
入浴用の補助具が必要であることが認められる。
イ 以上によれば,原告が新築住宅を建築する際,重度障害者用の設備を追加
して建築することは,原告の本件事故による後遺症の程度,内容からして,本件交
通事故と相当因果関係のある損害と認められる。
  その内容として,証拠(略)によれば,車椅子での移動範囲の安全確保の
ためのバリアフリー工事,ユニットバス,原告の入浴補助のための入浴用リフト,
簡易昇降便座付トイレ,車椅子のままで利用できる洗面台,移動の際に支えになる
手すり,介護用ベット(一式),玄関スロープ工事については,因果関係がある損
害として認められる。
ウ 被告らは,介護保険給付として利用でき,費用補助もあるから認められな
いと主張するが,前記のとおり,介護保険制度があることをもって損害賠償請求を
拒むことはできないものと解される。
エ 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以上の工事及び設備,補助道具の
価額として,少なくとも500万円を要することが認められる。
 (7) 車椅子の購入費用(16万0913円)は,当事者間に争いがない。
 (8) 慰謝料について
前記の原告の本件受傷内容,治療経過(期間及び治療状況),本件後遺傷害
の内容・程度,原告の年齢等諸般の事情を総合して考えると,原告に対する入通院
慰謝料は400万円,後遺障害による慰謝料は2600万円が相当である。
 (9) 以上によれば,原告の本件事故に基づく損害の合計額は1億1020万00
53  円となる。 
5 過失相殺
(1) 本件事故の態様(請求原因1)については当事者間に争いがない。
(2) 証拠(略)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められ,その認
定を覆すに足りる証拠はない。
ア 本件道路(車道)は,南北に通じている幅員7.9メートルの道路であ
り,事故当時舗装工事中であったことから,車道端から3.8メートルの位置にセ
ーフティーコーンが並べて置かれ,幅員3.8メートルの片側一車線通行となって
いた。
イ 本件道路の舗装工事現場手前にはガードマンが配置され交通整理にあたっ
ていた。また,本件道路に北側から進行する車両の運転者にとっては,本件事故現
場の直前にアスファルトフィニッシャーが設置されていたことから,自車の右前方
はアスファルトフィニッシャーで塞がれた状態にあった。
ウ 被告Bは,加害車を運転しガードマンの指示に従って時速約20キロメー
トルで本件道路に進入し,上記アスファルトフィニッシャーを右前方に認識し,そ
の陰で作業員が作業していることを認識しながら進行した。
  被告Bが加害車を走行させ,アスファルトフィニッシャーに近づき通過し
そうになったとき,その陰にいて被告Bから見えなかった原告が加害車の右斜め前
方から加害車の進行方向に加害車の走行車線を横断してくるのを発見した。そこ
で,衝突の危機を感じた被告Bは,咄嗟に加害車のハンドルを右に切ったが間に合
わず約5メートル進行した地点付近で,加害車の左前部を原告に衝突させた。
(3) 当事者間に争いのない本件事故態様及び上記2の認定事実からすると,被告
Bは,アスファルトフィニッシャーによって見通しがきかない作業中の工事現場に
進入するのであるから,作業員の動静を注視し,不測の事態に対応することが可能
な程度の速度で徐行すべき注意義務があったのにもかかわらず,これを怠った過失
により,本件事故を惹起したというべきである。ガードマンは一方通行の交通整理
をしていたにすぎず,本件事故について被告Bの注意義務を軽減する理由とはなら
ない。
  他方,原告は,本件事故直前,本件道路の舗装工事に従事していたものであ
るが,片側一車線通行となっていた本件道路に進入してくる車両の有無を確かめる
こともなく,アスファルトフィニッシャーの陰から急に飛び出し本件道路を横断
し,そのため,本件道路を南進してきた加害車と衝突したのであり,本件事故の発
生について相当程度の落ち度があると言われても仕方がない。ただし,ヘルメット
を着用していなかったとしても,交通事故の被害者の過失として重視はできないと
考える。
(4) 以上によれば,本件事故の発生については,原告の上記過失を本件損害の額
を算定するに当たり斟酌するのが相当であり,斟酌すべき原告の過失割合として
は,前記本件損害の全体について35パーセントと認めるのが相当である。
(5) そこで,原告の前記認定にかかる本件損害合計額1億1020万0053円
を,上記過失割合によって減額すると,原告が被告らに対して請求しうる本件損害
額は,7163万0034円となる。
6 損害の填補
原告が,治療費として金680万2414円,自賠責保険から金3120万
円,労災保険から休業補償給付として金209万6640円,障害者補償年金とし
て合計金412万6194円(福祉施設給付金76万5747円を含む。)の支払
を受けた事実は,当事者間に争いがない。原告は,福祉施設給付金を控除すべきで
はないと主張するが,労働者災害補償保険法29条1項2号,労働者災害補償保険
特別支給金支給規則に該当する福祉事業にかかる給付金とは認められないので控除
することとする。
また,前記のとおり,既に介護保険より給付を受けたと算定した額292万円
を控除するのが相当である。
そこで,上記受領金員を前記認定の過失相殺後の本件損害金7163万003
4円から控除するのが相当であり,控除した結果,原告が被告に対し請求し得る損
害額は2448万4786円となる。
なお,損害の填補は、逸失利益,将来の介護費用,新築費用及び治療費に対し,
休業補償給付金,障害者補償年金(福祉施設給付金),介護保険給付相当額,自賠
責保険金及び治療費の順に行うこととする。
7 弁護士費用  
本件事案の難易度,本件訴訟の審理経過,前記認容額などを総合すると,本件
損害としての弁護士費用は,金250万円が相当である。
8 結論
以上の次第で,原告の本件請求は,2698万4786円及びこれに対する本
件事故日である平成○年○月○日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める限度で本件請求は理由があるから,その範囲内で認容
し,その余は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61
条,64条本文,65条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適
用して主文のとおり判決する。
           福島地方裁判所第一民事部
裁判官高  橋  光  雄

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