弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一、 原判決主文第二項を取り消す。
     二、 控訴人の第一次的請求を棄却する。
     三、 控訴人の当審における第二次的請求に基づいて、
     (1) 別紙目録記載の金六〇万円の債権が訴外Aの被控訴人福武株式
会社に対する債権であることの確認を求める請求を却下する。
     (2) 被控訴人福武株式会社は控訴人に対し金六〇万円およびこれに
対する昭和三六年一二月二三日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員
を支払え。
     (3) その余の第二次的請求を棄却する。
     四、 訴訟費用は、第一審、差戻し前の第二審、上告審および差戻し後
の第二審を通じ、被控訴人福武株式会社の負担とする。
     五、 この判決の三、(2)項は、控訴人において金二〇万円の担保を
供するときは、仮に執行することができる。
         事    実
 (当事者の求める裁判)
 控訴代理人は、「被控訴人らは、別紙目録記載の金六〇万円の債権が訴外インド
ネシヤ・マラヤ・エキスポータース(代表者A)の被控訴人福武株式会社(原審被
告、以下被告会社と云う。)に対する債権であることを確認する。被告会社は控訴
人に対し金六〇万円およびこれに対する昭和三一年九月一六日から支払い済みに至
るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの
負担とする。」との判決および金員支払いの裁判部分について仮執行の宣言を求
め、
 被告会社代理人は、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の
負担とする。」との判決を求めた。
 (当事者双方の主張および証拠関係)
 当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否
は、つぎのとおり追加、変更および削除をするほか、原判決の事実欄の記載と同一
であるので、みぎ記載を引用する。
 一、 被告会社の主張について
 原判決五枚目表三行目末尾の次に、行を変えて、つぎのとおり追加する。
 「四 仮にAが組合インドネシヤ・マラヤ・エキスポータース(以下訴外組合と
云う)を代理して同組合のために被告会社との間に賃貸借契約を締結し、みぎ賃貸
借の敷金として被告会社に対して前記金員を寄託したものであり、みぎ賃貸借契約
の締結および敷金の寄託が訴外組合にとつて商行為に当るとしても、みぎ賃貸借契
約の締結および敷金寄託の際に、Aは被告会社に対してAが訴外組合を代理して訴
外組合のためにするものであることを表示しなかつたので、被告会社は、訴外組合
のためにするものであることを知らないでAとの間に賃貸借契約を締結し敷金の寄
託を受けたのであつて、その後、被告会社は、終始一貫して、みぎ敷金を差し入れ
たのは訴外組合ではなくA個人であると主張しているのであるから、商法五〇四条
但書により、訴外組合は賃借および敷金寄託者が訴外組合自身であると主張するこ
とは許されないし、したがつて、控訴人もまた訴外組合に代位して被告会社に対し
てみぎ敷金の返還請求をすることも許されない筋合である。けだし、商行為の代理
にあつては、代理人が本人のためにすることを示さなくてもその行為は本人に対し
効力を生ずるけれども、相手方において代理人が本人のためにするものであること
を知らなかつたときには、商法五〇四条但書によつて、代理人と相手方との間にも
本人と相手方との間における同一の法律関係が生じ、相手方が、その選択によつ
て、本人との法律関係を否定し代理人との法律関係を主張したときは、本人はもは
や相手方に対し本人と相手方との間の法律関係を主張することはできない(最高裁
判所昭和四三年四月二四日大法廷判決、民集二二巻四号一〇四三頁)からである。
 五、 控訴人の第二次請求もまた、つぎの理由により、却下または棄却すべきも
のである。
 (1) 控訴人が当審において新に提訴した第二次的請求は、控訴人が原審でし
ていた従来の請求とは別個独立のものであつて、かつ、これとなんらの関係もな
く、請求の基礎を異にするものであるから、みぎ新訴の提起は不適法な請求原因の
変更に当り許されない。
 (2) 被告会社のAに対する本件敷金返還義務は消滅時効の完成により既に消
滅した。被告会社は貸室を業とする営利会社であつて、被告会社所有のBビルデイ
ングの一室をAに賃貸することは被告会社にとつて商行為に当り、Aは日本におい
て貿易業を営む事務所として被告会社からBビルデイングの一室を賃借し、みぎ賃
貸借の敷金として被告会社に金員を寄託したのであるから、みぎ金員の寄託はAに
とつても商行為に当り、したがつて、本件敷金返還請求権は商行為による債権とし
て五年の短期消滅時効により消滅する性質のものである。しかるに、被告会社とA
との間の賃貸借契約は昭和三〇年三月末日限り解約され、同日敷金返還請求権の行
使ができるから、その後Aがみぎ請求権を行使しなかつたことにより、みぎ請求権
は同日から五年を経過した昭和三五年三月末日をもつて時効が完成して消滅した。
 (3) Aが被告会社に対して本件敷金返還請求権の消滅時効を中断する諸行為
をしたことは否認する。
 控訴人の原審における本件訴訟参加の申立は、控訴人の訴外組合に対する債権に
基づいて、訴外組合に代位して訴外組合の債権を行使するため請求をしたものであ
るから、A個人の債権の時効を中断するものではない。けだし、控訴人の第一次的
請求は、訴外組合に代位してされたのであつて被代位者が訴外組合であり、かつ、
行使された債権が訴外組合の債権である点において、第三債務者が同一であつて
も、A個人に代位してA個人の債権を行使する行為とは全く別個の行為であるの
で、みぎ第一次的請求がA個人の債権の消滅時効完成前に提訴されてもA個人の債
権の時効中断の事由となる道理はないからである。
 控訴人がA個人に代位して被告会社に対しA個人の債権の弁済を求めた本件第二
次的請求は、みぎA個人の債権が時効完成によつて消滅した後に、当審において新
に提訴された請求であるから、みぎ債権の消滅時効の成否に影響を及ぼすものでは
ない。
 (4) 訴外組合は法人格を有するものである。仮に然らずとするも、控訴人は
原審において訴外組合が組合員Aおよび同Cとは別個の法人格を有する有限会社ま
たは法人で、本件敷金返還請求権はみぎ訴外組合に属するものである旨、および控
訴人の第一次的請求は訴外組合に代位して訴外組合の債権を行使するものである旨
を主張したから、当審に至つて訴外組合は法人格のないパートナンツプであるか
ら、組合の法律上の性質如何では第一次的請求がA個人の債権を代位行使するもの
にあたることもあり得る旨の主張をすることは許されない。
 控訴人は原審において訴外組合が昭和三〇年八月二六日組合契約の解消によつて
消滅したことを自認しているから、控訴人が昭和三一年九月一五日当事者参加の申
出をすることによつて訴外組合に代位して被告会社に対し本件敷金返還請求権を行
使しても、みぎ第一次請求は既に消滅して存在しない法人格を代位する請求として
なんらの法律上の効力もなく、みぎ敷金返還請求権の時効を中断する効力を有しな
い。
 (5) 被告会社が、本件敷金返還請求権が訴外組合のものである旨を自白した
ことは否認する。仮に自白したとすれば錯誤によるものである。」
 二、 控訴人の主張について
 (一) 原判決六枚目表三行目末尾の次に、行を変えて、つぎのとおり追加す
る。
 「仮にみぎ賃貸借契約の締結および敷金寄託の際に、Aが被告会社に対して、自
己が訴外組合を代理して訴外組合のためにみぎ契約の締結および敷金の寄託をする
ものであることを表示しなかつたとしても、訴外組合は貿易を業とする組合で、日
本における貿易事務所として被告会社からBビルデイングの一室を借り受け本件の
敷金を被告会社に差し入れたのであるから、みぎ賃貸借契約の締結および敷金の寄
託は本人である訴外組合にとつて商行為に当るので、商法五〇四条本文により、A
が被告会社に対して訴外組合のためにみぎ賃貸借契約の締結および敷金の寄託をす
る旨を表明しなくても、本人である訴外組合のために効力を生じ、本件敷金返還請
求権は訴外組合に帰属している。」
 (二) 同六枚目裏九行目末尾の次に、行を変えて、つぎのとおり追加する。
 「五 以上の第一次的請求が理由がない場合の予備的請求として、控訴人は被告
会社に対し、つぎの理由により、金六〇万円およびこれに対する参加申出書送達の
翌日から支払い済みに至るまで年五分の割合による損害金の支払いを求める。
 仮に訴外組合が被告会社に対して本件敷金返還請求権を有しないとしても、A個
人が被告会社に対してみぎ敷金返還請求権を有することは被告会社の主張自体から
明らかなところ、Aは訴外Cと連帯して控訴人に対し金八五八万三、六七九円およ
びこれに対する昭和三一年七月一日から支払い済みまで年八分の割合による金員の
支払い義務があり、大阪地方裁判所昭和三〇年(ワ)第四三九三号当座借越金等請
求事件(大阪高等裁判所昭和三四年(ネ)第一〇〇五号事件)の判決によりみぎ債
務は確定されている。そこで、控訴人はAに対するみぎ債権に基づいて、Aに代位
して被告会社に対し、Aが被告会社に対して有する敷金返還請求権の履行として、
金六〇万円およびこれに対する本件参加申出書送達の日の翌日から支払い済みに至
るまで年五分の割合による金員の支払いを求める。
 六、 控訴人の第一次的請求についての被告会社の抗弁は理由がない。
 Aが訴外組合を代理して訴外組合のために被告会社との間に賃貸借契約を締結し
敷金を被告会社に差し入れた際に、被告会社がみぎ代理関係の存在を知らないでみ
ぎ賃貸借契約を締結し敷金を受領した旨の被告会社の主張は否認する。被告会社は
Aが訴外組合の組合員であつて、本件敷金返還請求権が訴外組合に帰属しているこ
とを本件訴訟上自白しているから、みぎ自白に反する主張をすることはできない。
すなわち、被告会社は原審における昭和三一年一二月一〇日附の控訴人に対する答
弁書および同月一二日附の準備書面中において、被告会社が訴外組合の組合員Aと
の間に賃貸借契約を締結し敷金の寄託を受けたことを自白し、昭和三三年一二月一
八日付の準備書面中において「原告の主張する債権が訴外組合の組合員の共有であ
る点について、控訴人の主張を援用する。」と述べ、本件敷金返還請求権が訴外組
合に帰属していることを自白している。そうでないとしても、成立に争いがない丙
第八号証、被告会社自身の発行した丙第一号証および同第二号証の一ないし三(い
ずれも被告会社発行の敷金領収書)によつても本件賃貸借の借主兼敷金寄託者が訴
外組合であることが明白である。
 仮に被告会社がAが訴外組合の組合員として訴外組合のために賃貸借契約を締結
し敷金を預けたことを知らないでみぎ契約の締結および敷金の受領をしたとして
も、みぎ代理関係について商法五〇四条但書の適用があることは否認する。商法五
〇四条但書は本人の委任その他本人の意思に基づく代理関係についてのみ適用があ
る法条であつて、組合員が組合を代表して組合の法律行為をする場合のように、本
人の意思に基づかないで法律上当然に代理または代表関係が成立する場合にはみぎ
法条の適用はない。
 すなわち、本件の場合には、Aが訴外組合を代理して訴外組合のために賃貸借契
約を締結し敷金を差し入れるものであることを、被告会社が賃貸借契約の締結、敷
金の受領当時知つていなくても、みぎ賃貸借および敷金寄託の各関係は木人に当る
訴外組合と被告会社との間に成立する。
 七、 控訴人の第二次的請求についての被告会社の抗弁も理由がない。
 (1) 控訴人の第二次的請求は予備的請求であつて、請求原因の変更には当ら
ないから、第二次的請求は適法である。
 (2) 控訴人は昭和三〇年九月二九日Aの支配人Dと共に被告会社に対して本
件敷金の返還を代位請求したから、みぎ敷金返還請求権の時効は中断され、消滅時
効は完成するに至らなかつた。
 (3) 控訴人は本件敷金返還請求権の時効期間満了前に本訴訟に参加申出をな
し、被告会社に対しみぎ敷金の返還を請求したから、みぎ請求権の消滅時効は中断
され、時効は完成していない。
 もつとも、控訴人は原審における第一次的請求原因として、控訴人は、控訴人の
訴外組合に対する債権に基づいて訴外組合に代位した訴外組合の被告会社に対する
敷金返還請求権の行使として金員の支払いを請求したのであるが、つぎに述べるよ
うに、AとCとが訴外組合を結成した組合契約の性質上、控訴人が訴外組合に代位
してしたみぎ返還請求はA個人に代位して同人が被告会社に対して有する本件敷金
返還請求権を行使したものとしての効力を生ずるので、みぎ請求権の時効は中断さ
れ、消滅時効は完成するに至つていない。
 すなわち、訴外組合は当時共にインドネシヤ共和国に居住していた英国籍のAと
インド国籍のCとの間に準拠法の指定なくインドネシヤ共和国内における貿易業を
営む目的をもつて結成された組合であるから、インドネシヤ共和国法に準拠する契
約により結成された組合であると解すべきものであるところ、インドネシア共和国
においては非インドネシヤ人相互間の契約はインドネシヤ成文法の法域に属してい
る(インドネシヤ人相互間の取引は慣習法((アダツト))の法域に属する。)か
ら、訴外組合はインドネシヤ民法の組合に関する法条に基づいて契約された組合に
当るものである。そして、AとCとの契約およびインドネシヤ民法によると、訴外
組合の組合員は、その者が組合員である間に行われた組合の一切の行為につき他の
組合員と連帯して責任を負い、組合解散後においてもみぎ責任を免れることができ
ないから、訴外組合の債権者は訴外組合の解散後においても訴外組合の名において
訴外組合の組合員であるAの権利を代位行使することができる。したがつて、控訴
人の第一次的請求はA個人の被告会社に対する敷金返還請求権を代位行使する行為
に当り、控訴人が原審において本件訴訟に参加申出をした昭和三一年九月一五日を
もつて本件敷金返還請求権の時効期間の進行は中断されたことになるわけである。
 (4) 控訴人は訴外組合が有限会社その他法人格を有するものである旨を主張
したことはない。」
 三、 証拠関係(省略)
         理    由
 一、 控訴人の第一次的請求について、
 (一) Aが被告会社との間に本件賃貸借契約を締結し、敷金を差し入れた経過
について、
 成立に争いのない丙第一号証、同第二号証の一ないし三、同第八号証、同第八号
証に徴し真正に成立したものと認める(丙第八号証中に乙第一号証と記載されてい
るのは本件の丙第二〇号証に当るものと認める)同第二〇号証(組合契約書)、控
訴人と原告銀行との間には成立に争いがなく、控訴人と被告会社との間では原審証
人Eの証言により成立を認める丙第五ないし第七号証、原、当審証人F(原審第
一、二回)および同Eの各証言、原審における被告会社代表者の本人尋問の結果な
らびに弁論の全趣旨を総合すると、Aは、同人とCとの両名を組合員とする訴外組
合(同組合の詳細については後で認定する。)の日本における業務担当者として来
日したものであるが、昭和二八年二月一三日訴外組合の営業の事務所とするために
被告会社に対して訴外組合のためにするものであることを示さないで、被告会社か
ら被告会社所有のBビルデイング第G号室を賃借し、敷金七七万四、〇〇〇円を被
告会社に差し入れたが、約一年間ほど同室を使用した後、同室では手狭になつたの
で、昭和二九年四月一七日頃みぎ賃貸借契約を合意解除し、改めて被告会社から前
記ビルデイング第H号室を賃借し、さきに差し入れた敷金のうち六〇万二、〇〇〇
円(敷金七七万四、〇〇〇円のうち一七万二、〇〇〇円は昭和二八年二月一七日A
が被告会社から返還を受けた。)を新賃貸借契約の敷金に流用し、金二一万円を新
たに現金で追加し、合計金八一万二、〇〇〇円を新賃貸借契約の敷金として被告会
社に寄託したこと、Aはみぎ新賃貸借契約の契約書(丙第一号証)には「インドネ
シヤ・マラヤ・エキスポータース、パートナー、A」と署名したが、ハテエイラマ
ニはみぎ新契約締結に際しても、被告会社に対し、訴外組合の存在、Aが訴外組合
の組合員であること、Aが日本で行なつている営業が訴外組合の営業であること、
本件貸室の賃貸借契約が訴外組合の事務所とするためのものであること等を告知し
なかつたこと、被告会社においてもみぎ二回に亘る各契約の締結の際に、訴外組合
や海外の組合員Cの存在を知らないで、前記契約書のAの署名に附してある「イン
ドネシヤ・マラヤ・エキスポータース・パートナー」の肩書には別段の注意を払わ
ず、単にAがその営業のために使用している商号に過ぎないものと考え、A個人が
賃借人であると信じて、そのつもりで前記賃貸借契約を締結し敷金を受領したこと
が認められる。もつとも、丙第一号証の賃貸借契約書には、Aの肩書として「イン
ドネシヤ・マラヤ・エキスポータース・パートナー」との記載があるが、前述した
ように被告会社はこれをAの商号と解していたのであるから、みぎ肩書の記載があ
るからと云つて、Aが被告会社に対して訴外組合のためにすることを表示してみぎ
契約を締結し敷金を差入れたもの、ないし、被告会社において、当時Aが訴外組合
のためにすることを知りながら、みぎ契約を締結し敷金の差入れを受けたものと云
うことはできない。そのほかには前記認定を覆すに足りる証拠はない。
 (二) 本件敷金返還請求権者がなに人であるかについて、
 控訴人は、被告会社が原審において本件敷金返還請求権が訴外組合のものである
ことを自白したと主張する。なるほど、被告会社は原審の口頭弁論の始め頃には控
訴人の指摘するような主張をして、控訴人指摘のような被告会社に不利益な事実を
自白した疑いが多分にあるけれども、弁論の全趣旨に徴しみぎ自白は錯誤に基づい
てなされたものであることが認められるから、みぎ自白の撤回は許される。然らず
とするも、被告会社は、既に原審においてみぎ自白と全く相容れない他の主張をす
ることによつて明白に自白を取消しているけれども、控訴人は、当時みぎ自白の撤
回に異議を述べることなく、みぎ自白と相容れない新たな主張に対して答弁を重ね
ているので、控訴人は既に原審においてみぎ自白の撤回に同意を与えたものと認め
ることができる。したがつて当審になつて、みぎ自白の撤回に異議を述べることは
できない。
 控訴人は、Aは訴外組合を代表して訴外組合のために前記H号室を賃借し前記敷
金を被告会社に寄託したから、みぎ敷金の返還請求権者は訴外組合であると主張
し、被告会社はA個人がみぎ貸室を賃借し敷金の寄託をしたから、敷金返還請求権
者はA個人であると主張し、原告銀行はA個人がみぎ貸室を賃借し敷金を寄託した
が、Aは昭和三〇年九月五日Cに営業譲渡をした際に、本件敷金返還請求権をCに
譲渡したから、みぎ敷金の返還請求権者はC個人であると主張するので、先ずこの
点について判断する。
 (1) 準拠法について
 成立に争いがない甲第四号証、前出の丙第五ないし第八号証および同第二〇号
証、成立に争いがない丙第一二号証ならびに原、当審証人Eの各証言を総合する
と、Aは英国籍を有する者、Cはインド国籍を有する者であるが、みぎ両名は、西
歴一九五二年(昭和二七年)九月一一日、当時両名が共に居住していたインドネシ
ヤ共和国ジヤカルタ市において、Aが労務を、Cが資金を、それぞれ提供して、ジ
ヤカルタ、シンガポールその他資金出資組合員であるCが指定する場所において、
輸出入業、輸出入代理業その他の関連営業を行うことを目的として、同年八月八日
から五年間を組合存続期間と定めて、準拠法を指定することなく訴外組合を結成す
る契約を締結したが、みぎ組合がどこの国の法律に基づくものであるかの点につい
ては両名ともに特に意識していなかつたこと、Aは訴外組合を代表して取引きをす
る権限が与えられて昭和二七年来日し、インドネシア・マラヤ・エキスポータース
なる名義を用いて訴外組合のために輸出業を営んでいたが、昭和二八年九月二九日
みぎ訴外組合の名称を商号として大阪で登記し、他面控訴人との間の当座取引に際
しては、AとCの両名がみぎ商号を用いた取引きによる債務の責任を負う旨を控訴
人に対して明らかにしていたこと、Cは昭和三〇年五月頃来日し、以後日本国内に
おける訴外組合の商取引きは主としてCが担当することになり、さらに同年八月二
六日をもつて訴外組合を解消してCが個人として前記商号を使用して取引きを行な
うこととなり、同年九月八日前記商号使用者をCに変更する旨の商号使用者名義の
変更登記手続をしたことを認めることができ、みぎ認定に反する証拠はない。
 法律行為の成立および効力については当事者の意思にしたがつていずれの国の法
律によるべきかを定め、当事者の意思が明らかでないときは行為地の法律による
(法例七条)べきであるところ、本件の場合には、訴外組合を結成した組合契約が
いずれの国の法律によるものであるかについては、前認定のように、当事者の意思
が明らかでないので、組合契約の締結地であるインドネシア共和国の法律によつて
契約されたものと解すべきであるが、控訴人と被告会社間で成立に争いがなく控訴
人と原告銀行間でも真正に成立したものと認められる丙第一五号証によると、イン
ドネシア共和国においては、非インドネシヤ人(インドネシヤ人と認められないヨ
ーロッパ人および東洋人)相互間の私法上の関係についてはインドネシヤ共和国の
成文の民・商法が適用されるインドネシヤ人相互間の私法上の関係にはアダツト法
と称する慣習法が適用され、成文法の適用はなく、インドネシヤ人と非インドネシ
ヤ人との私法上の関係には国際私法類似の法則が適用される。)ことが認められる
ので、前出の丙第二〇号証、および、書面末尾の印影に徴し財団法人日本インドネ
シヤ協会の作成に係るものであるので、当裁判所はその成立が真正なものと認める
丙第一八号証によると、訴外組合はインドネシヤ民法第八章組合の各法条に準拠し
て結成された組合であることが認められる。そうすると訴外組合内部における権利
義務の帰属は、みぎ各法条の定めるところに従らべきものであるから、本件賃貸借
契約上の賃借人および敷金返還請求権者たる地位がなに人に帰属するかの点につい
ても、対外関係は別として、訴外組合内部における実質的な権利義務の帰属に関す
る限り、組合契約およびみぎインドネシヤ国民法の各法条の定めるところに従うも
のと解するのが相当である。(この点に関しても法例七条参照)。
 被告会社は、訴外組合は有限会社に類する法人であつて、控訴人はその旨を自白
したのて訴外組合が法人格のない組合であることを主張することはできないと主張
するが、特定の社団または財団の法人格の存否は設立準拠法によつて定めるのが定
説であるから、前出丙第二〇号証と同第一八号証を比較すると、訴外組合が法人で
あることは認められない。また、控訴人が本件訴訟上で訴外組合の名称にV・P
(有限会社)と附加して表示したり、訴外組合を代理する者を代表者と表示したこ
とがあつたからと云つて、訴外組合が法人格を有することを自白したものと云うこ
とはできないし、そのほかには、記録上、控訴人が本件第一、二審口頭弁論におい
て、訴外組合が法人格を有するものである旨を主張したことはないから、被告会社
のみぎ主張を採用することはできない。
 以上判断したところによると、本件は、インドネシア共和国の法律に準拠して結
成された組合の組合員が、組合のために、日本国内において、日本商法に基づいて
設立された株式会社である被告会社との間に、その所有の日本国内所在の不動産に
ついて、賃貸借契約を締結しその敷金を寄託した事案であるから、事案の性質上、
みぎ契約当事者らは当時日本民、商法に従つてみぎ賃貸借および寄託の各契約を締
結する意思であつたことは明白であつて、みぎ契約の効力(すなわちみぎ契約によ
る賃借人の地位ないし敷金返還請求権がなに人に帰属したか)は、日本民、商法に
よつて定まるものと解しなければならない(法例七条)。
 (2) 訴外組合の内部関係における敷金返還請求権の帰属
 前出丙第一八号証のインドネシア共和国民法第八章組合の規定によると、訴外組
合は、前認定のように、輸出入業、輸出入代理業その他の関連営業を目的としてイ
ンドネシア共和国の法律に準拠して結成された組合であつて、労務出資組合員と資
金出資組合員とを構成員としているから、みぎインドネシア民法一、六二三条にい
わゆる特殊組合に該当し(インドネシア民法による組合には普通組合と特殊組合が
あり、普通組合は有限責任の労務出資組合員のみをもつて構成され、組合員の一切
の労務収益を対象とし、それのみに限定された組合である。同法一、六二〇条ない
し一、六二二条。特殊組合は特定の物件、その使用もしくはそれより生ずる果実、
または、特定の事業もしくは職業を行うことのみに関する組合であつて、事業の経
営に全責任を持つ無限責任の労務出資組合員と労務出資組合員の行為につき第三者
に対して権利義務を有しない資金出資組合員から構成される。この点日本商法の匿
名組合に類似するが、組合員が組合の名において締結した契約については組合自身
が第三者に対する関係でも権利を主張できる点では日本商法の匿名組合と異なつて
いる。)、労務出資組合員が組合の目的とする業種の事業活動を行なつた場合に
は、それが組合の利益となるものである限り、たとえ組合のために行つた事業活動
ではない場合でも、組合のためにしたものとみなされ、みぎ事業活動の法律上の効
果は直ちに組合に帰属するものと解することができる(その旨の直接の規定はない
が、同法一、六二七条には、労務出資組合員は、組合の目的とする業務の事業から
得た総ての判益金に関し、共有の金庫から当該組合員自身の利益のために支出した
金額があるときは、支出日以後の利息を支払うほか、みぎ支出によつて生じた費用
を償還し、損害を賠償する義務を負う旨を規定していて、みぎ規定の前提として、
労務出資組合員の組合の目的とする事業と同種の事業活動による利益金が、総て、
直ちに組合に帰属することを当然のこととして是認していることが窺知できる。)
から、労務出資組合員であるAが訴外組合の目的事業に属する輸出入業の事務所と
するために被告会社との間に締結した本件賃貸借契約の締結および敷金寄託の法律
上の効果は、Aがみぎ契約を自己のために締結したと組合のために締結したとにか
かわりなく(まして、訴外組合のためにする旨が表明されたと否とにかかわりな
く)、組合の内部関係に関する限り、直ちに訴外組合に帰属し、本件貸室の賃借人
ないし敷金返還請求権者は訴外組合であつて、A個人ではないことになる筋合であ
る。そして、前認定の訴外組合の結成から解散に至るまでの経過および前出丙第二
〇号証によつて認められる組合内部におけるAとCの役割りに徴すると、昭和三〇
年八月二六日訴外組合を解散して、Cが個人としてインドネシャ・マラヤ・エキス
ポータースの商号を使用し、従来訴外組合が行つていた営業を引き継いだ際には、
AとCとの間の契約によつて、みぎ賃借人の地位および敷金返還請求権はC個人に
譲渡されたと認めるのが相当であつて、これにより、組合内部関係においては、本
件賃貸借の賃借人の地位および敷金返還請求権はC個人に帰属することになつたわ
けである。
 (3) 対外関係における敷金返還請求権の帰属
 (イ) 本件賃貸借契約の締結が、Aおよび被告会社にとつて商行為に当ること
は弁論の全趣旨に徴し当事者間に争いがないものと認め、訴外組合にとつて商行為
に当ることは前認定の訴外組合の目的および本件貸室の使用目的によつて認める。
また、被告会社とAとの間の本件賃貸借契約および敷金の寄託の法律上の効果が、
訴外組合の内部関係においては直ちに訴外組合に帰属するが、対外的効果を、日本
民商法の規定に照らすと、Aが被告会社との間に組合のためにすることを示さない
で本件賃貸借契約を締結し、被告会社に本件敷金を差し入れた行為は、本人にとつ
て商行為に当る事項につき、代理人が本人のためにするものであることを示さない
で代理行為をした場合に限り、商法五〇四条本文により、被告会社に対する関係に
おいても訴外組合のために効力を生ずる。
 (ロ) しかしながら、みぎ代理行為の相手方に当る被告会社が、みぎ賃貸借契
約締結および敷金受入れ当時、Aが訴外組合のために賃貸借契約を締結し敷金を差
し入れるものであることを知らなかつたことは前認定のとおりであつて、被告会社
としては商法五〇四条但書により訴外組合との法律関係を否定し、代理人であるA
個人との間の法律関係を主張できるわけであるが、被告会社が昭和三一年一二月一
五日の原審第四回口頭弁論期日において同月一〇日付の当事者参加人に対する答弁
書と題する書面に基づいて陳述し、本人に当る訴外組合との間に前記代理行為によ
る法律関係が成立したことを否定し、代理人に当るA個人との間に法律関係が成立
したと主張したことは記録上明らかであるから、訴外組合はもはや被告会社に対し
て、訴外組合が本件賃貸借関係の賃借人で本件敷金の返還請求権者であることを主
張することができないことになつたわけである(最高裁判所昭和四三年四月二四日
大法廷判決、民集二二巻四号一〇四三頁参照)。
 (ハ) 原告銀行はAがCに対して本件敷金返還請求権を譲渡したから、Cがみ
ぎ債権の権利者になつたと主張するが、Aが被告会社に対してみぎ債権譲渡の通知
をしたこと、ないし、被告会社がみぎ債権譲渡を承諾したことについては、なんら
の主張も立証もしないので、Cは、みぎ債権の譲受けをもつて被告会社または控訴
人に対して対抗することはできない。したがつて、原告銀行の被告会社に対する請
求は失当として棄却を免れない。
 (三) 控訴人の第一次的請求の当否について
 控訴人の第一次的請求は、いずれも、訴外組合が被告会社に対して本件敷金返還
請求権を有していることを前提とするものであるから、前述したように、被告会社
がA個人との間の法律関係の成立を主張した結果、みぎ返還請求権がA個人に帰属
することに決着し、訴外組合の返還請求権が消滅した本件の場合には、控訴人の第
一次的請求は、その余の争点について判断するまでもなく失当であること明らかで
あつて、棄却を免れない。
 二、 控訴人の第二次的請求について
 (一) 請求原因の変更を違法とする主張について
 被告会社は、控訴人の第二次的請求は、控訴人の従来の第一次請求と別個独立の
ものであつて、これと関連がなく、請求の基礎を変更する違法な請求原因の変更に
当るから、許されない、と主張するが、控訴人の第二次的請求は請求原因を変更す
るものではなく、予備的に新たな請求を附加するものであるところ、その請求の基
礎は第一次的請求の請求の基礎と同一であると認めるのが相当であるから、控訴人
が当審においてした第二次的請求の予備的併合は適法であつて、被告会社のみぎ主
張は理由がない。
 (二) 控訴人のAに対する債権について
 成立に争いのない丙第一二、第一九号証(判決であるから控訴人と原告銀行との
間でもその成立を認める。)によると、AとCは、昭和二八年三月一二日訴外組合
の名義で、インド国の法律によつて設立された法人である控訴人と当座取引契約を
締結したが、その際、みぎ両名は、それぞれ個人として、控訴人に対し、訴外組合
名義の当座取引きによつて生ずる一切の訴外組合の債務について、連帯して債務を
負担する旨を約し、控訴人はその後訴外組合と継続して当座取引きを行つて来たと
ころ、前記両名は昭和三〇年八月二六日訴外組合を解散し、控訴人に対してその旨
を通知すると共に、当座取引契約の解約を申し入れたので、控訴人もこれに応じ、
同日みぎ当座取引契約は解約されたこと、みぎ解約当時におけるAとCの控訴人に
対する債務は合計金一、二三五万〇、一五六円であつたが、その後控訴人において
昭和三一年六月三〇日までに担保商品を処分し、その売却代金を前記債権の元利金
の支払いに充当した結果、結局みぎ債権は金八五八万三、六七九円およびこれに対
する昭和三一年七月一日以降年八分の割合による損害金となつたことを認めること
ができる。そうするとA個人がCと連帯してみぎ金八五八万三、六七九円およびそ
の損害金の支払義務を負つていることは明らかである。
 (三) Aの被告会社に対する債権について
 訴外組合の被告会社に対する本件敷金返還請求権の存在が否定された本件訴訟の
段階においては、Aが個人として被告会社に対して金六〇万円の敷金返還請求権を
有するとするほかはない。そして、さきに判示したように、みぎ返還請求権は日本
の法律の適用されるA個人の債権であるので、みぎ債権の訴外組合内部における帰
属および訴外組合解散による帰属は、みぎ債権の被告会社に対する効力には影響が
ない。
 (四) 消滅時効完成の抗弁と時効中断の再抗弁
 被告会社は、本件敷金返還請求権は五年の短期消滅時効の完成により昭和三五年
三月末日限り消滅したと主張し、控訴人は、みぎ時効期間の進行は中断され、時効
は完成していないと主張するので、この点について判断する。
 (1) 本件敷金返還請求権が商事債権であることは当事者間に争いがないか
ら、みぎ返還請求権は五年の期間を経過することによつて消滅するものである。
 (2) 成立に争いのない丙第一号証に原、当審における証人Fの証言(原審第
一、二回)を総合すると、本件賃貸借には、賃借人が解約を申し入れたときは、三
ケ月をもつて賃貸借は終了するものとする特約が存在するところ、ハティラマニは
賃借した前記貸室を昭和三〇年九月頃から使用しないようになつて、同年一二月に
みぎ貸室の鍵を被告会社に返還したので、被告会社は昭和三一年三月末日限り賃貸
借が終了したものとして処理し、同日までの未払賃料を控除して、Aに返還すべき
敷金残額が金六〇万円となつたものであることを認めることができる。そうする
と、本件敷金返還請求権の消滅時効はみぎ賃貸借の終了の日の翌日に当る昭和三一
年四月一日から進行し、五年を経過した昭和三六年三月末日限り消滅時効の完成に
より消滅するはずのものである。
 (3) 控訴人は、昭和三〇年九月二九日控訴人とAの支配人Dとが被告会社に
対し本件敷金の返還を代位請求したから、本件敷金返還請求権の時効は完成してい
ないと主張するが、みぎ主張に係る請求の日は本件敷金返還請求権の時効期間進行
開始の日より以前であることが明らかであるので、みぎ控訴人の主張は理由がな
い。
 (4) 控訴人は、控訴人の原審における独立当事者参加の申出でにより本件敷
金返還請求権の時効期間の進行が中断されたと抗弁するので、この点について判断
する。
 (イ) 債権者が債務者に代位して債務者の債権の履行を求める訴訟を提起した
ときは、債務者の債権についてのみぎ訴訟上の請求は、債務者の債権の消滅時効の
中断事由となる。けだし、このような訴訟は債務者が当該訴訟に参加したと否とに
かかわりなく、民訴法二〇一条二項の規定により、債務者に対してもまた効力を有
するからである(大審院昭和一五年三月一五日判決、民集一九巻八号五八六頁参
照)。
 (ロ) 本件の場合、控訴人が、本件敷金返還請求権の効力の発生した昭和三一
年四月一日から五年以内の同年九月一五日に、原裁判所に対し原告銀行と被告会社
との間の本件訴訟について独立当事者として参加する旨の参加申出書を提出し、み
ぎ参加請求が適法に原審に係属したこと、ならびに、みぎ参加請求において控訴人
は原告銀行および被告会社を参加被告として本件第一次的請求、すなわち、控訴人
が訴外組合に対して前記当座取引契約の解約にもとづく債権を有しているので、訴
外組合の被告会社に対して有する本件敷金返還請求権を訴外組合に代位して行使す
ることを請求原因とし、被告会社に対する本件敷金返還請求権が訴外組合の債権で
あることの確認および被告会社は控訴人に対して本件敷金に相当する額に損害金を
附加して支払うべき旨の給付請求をしたことは記録上明らかである。
 (ハ) ところで、控訴人は、被告会社が本件敷金返還請求権の債権者を選択特
定した時よりも以前に、訴外組合に代位して被告会社に対しみぎ敷金返還債務履行
の裁判上の請求をしたのであつて、みぎ請求は適法且つ理由のあるものであつた。
 すなわち、被告会社が控訴人に対して本件敷金返還請求権の債権者はA個人であ
るとして代理人との間に法律関係が成立したことを主張したのは、控訴人が本件訴
訟に当事者参加の申出をした昭和三一年九月一五日より以後の原審第四回口頭弁論
期日である同年一二月一五日のことであつたことは前記のとおりである。また、本
件敷金返還請求権が訴外組合の内部関係において訴外組合に帰属し、対外的関係に
おいても、被告会社が債権者としてA個人を選択特定するまでは、訴外組合の被告
会社に対する債権として成立していたことも前記のとおりであつて、したがつて、
被告会社のみぎ選択より以前にされた控訴人の第一次的請求の給付請求の部分は、
みぎ裁判上の請求である当事者参加の申出でがされた時点においては、本件敷金返
還請求権に基づく適法且つ理由のあるものであつたわけである。
 <要旨>(ニ) 本件のように、商法五〇四条但書によつて、相手方が、その選択
により本人または代理人のいずれかに対して債務を負担することを主張でき
る場合で、相手方がみぎ選択をする以前に、本人が相手方に対してみぎ債務履行の
裁判上の請求をしたときには、みぎ請求が請求当時適法且つ理由があるものである
限り、みぎ裁判上の請求の時をもつて、本人の相手方に対する債権についてのみな
らず代理人の相手方に対する債権についても時効中断の効力を生じ、その後、相手
方が本人との間の法律関係を否定し代理人との間の法律関係を主張した結果、本人
の相手方に対する債権が代理行為の当初に遡つて失効し本人の相手方に対する前記
裁判上の請求が棄却を免れないことになつても、棄却の判決が確定しない限り、み
ぎ裁判上の請求による代理人の相手方に対する債権についての時効中断の効力は消
滅せず、みぎ裁判上の請求の訴訟係属中は代理人の相手方に対する債権の時効は進
行しないと解するのが相当である。
 けだし、このような場合には、相手方が債権者を選択特定する以前においても、
債権者が本人であるか代理人であるか未定の債権、すなわち債権者の点のみについ
ては択一的であるが債権の実体は単一の債権があるだけであつて、本人の相手方に
対する債権と代理人の相手方に対する債権とが互に別個独立の実体を持つた二個の
債権として択一的に併存しているのではないし、また、相手方が債権者として代理
人を選択しても、選択前の債権と選択後の債権は同一で、みぎ選択によつて従来か
らの債権者未定の債権について債権者特定の効果が生ずるだけのことで、これによ
つて従来の債権とは別個の新たな債権が発生するわけでも、従来の債権者未定の債
権が消滅するわけでもないから、相手方のみぎ選択より以前にしたみぎ債権を原因
とする本人の裁判上の請求が請求当時適法且つ理由あるものである限り、みぎ請求
の時をもつて前記債権者未定の債権について時効中断の効力が発生し、且つみぎ請
求についての訴訟が係属している限り、前記債権者未定の債権ないしこれと同一債
権である代理人の相手方に対する債権の時効は進行しない筋合であり、したがつ
て、みぎ本人の裁判上の請求のあつた後に相手方が債権者として代理人を選択した
ために、本人が当初に遡つて債権者でないことになり、そのために本人の裁判上の
請求が棄却を免れないものになつても、みぎ本人の裁判上の請求による当該債権
(すなわち前記債権者未定の債権およびこれと同一債権である代理人の相手方に対
する債権)についての時効中断ないし時効期間の進行阻止の効果は、相手方によつ
て債権者としてなにびとが選択されたかに影響されることなく持続し、本人(本件
の場合のように第三者が本人に代位して基本たる訴訟をしている場合には当該第三
者)の代理人に代位してする新たな請求の追加により、代理人の相手方に対する債
権に基づく裁判上の請求が、従来の請求と交替的または重畳的に、新たに提起され
ることになるから、みぎ従来の請求による時効中断ないし時効期間の進行阻止の効
果はみぎ新請求によつて引継がれることになると解する。
 そうすると、本件の場合には、控訴人が訴外組合に代位して被告会社に対してし
た裁判上の請求によりみぎ請求のあつた昭和三一年九月一五日をもつて本件敷金返
還請求権の時効中断の効力を生じ、同請求権の時効の進行はその時以降停止されて
いるから、その後昭和三一年一二月一五日被告会社がみぎ請求権の債権者としてA
個人を選択したために、控訴人が訴外組合に代位してした前記当事者参加の申出で
による裁判上の請求は棄却を免れないことになつたけれども、請求棄却の裁判がま
だ確定するに至つていない昭和三六年一二月二三日控訴人がA個人に代位して被告
会社に対して本件敷金返還義務の履行を求める第二次的請求をしたから、控訴人の
第一次的請求中の給付請求による本件敷金返還請求権についての時効中断および時
効期間の進行阻止の効力は未だ消滅していないわけである。したがつて、A個人の
被告会社に対する本件敷金返還請求権の消滅時効が控訴人の第一次的請求により中
断されみぎ請求権は未だ時効によつて消滅していない旨の控訴人の主張は理由があ
る。
 (ホ) 被告会社は、訴外組合は、控訴人が当事者参加の申出でをもつて第一次
的請求をした昭和三一年九日一五日より前の昭和三〇年八月二六日に解散したか
ら、このように既に消滅した債権者を代位してする裁判上の請求は適法に訴訟が係
属せず、みぎ請求は時効中断の効力を生じないと主張する。
 訴外組合が清算事務を終了するまでは、組合解散後も存続するものとみなされる
かどうかは、訴外組合の準拠法であるインドネシヤ共和国の法律に従うべきである
が、前出丙第一八号証のインドネシヤ共和国民法第八章組合にはこの点に関する規
定を欠いているので、慣習、条理等に従つて判断すべきところ、清算未了の組合を
組合解散後も清算事務の終了するまで清算の必要の範囲内で存続するものとするの
は、多数国の採用する法制であつて、条理にも合致しているので、インドネシア国
民法の解釈としても相当であると考える。そして、控訴人が当事者参加の申出をす
ることによつて本件第一次請求をした当時に、控訴人の訴外組合に対する債権も訴
外組合の被告会社に対する債権も未払いの状態で残存していたことは既に判断した
とおりであるから、訴外組合はこれら債権債務の清算未了の間は、組合解散後も、
みぎ清算の必要の範囲内で存続するものとみなされるわけである。
 そして、日本民法および民訴法の解釈上も、訴外組合の債権債務が決済されない
で残存している本件の場合には、訴外組合が解散した後も、組合の清算に必要な限
りでは組合はなお存続するものとみなされ(大審院大正一二年七月一五日判決民録
四九一頁参照)、訴外組合の債権者である控訴人が訴外組合に代位して訴外組合の
債権の履行を請求する訴訟は適法に係属するから、控訴人の本件第一次的請求中の
給付請求は、訴外組合の解散後に提起されても、なお訴外組合のみぎ債権の適法有
効な時効中断事由となるわけである。被告会社の主張は理由がない。
 (へ) 以上の理由により、控訴人の原審における当事者参加の申出でをもつて
する第一次的請求により、本件敷金返還請求権の時効は完成前に中断された状態に
あり、みぎ時効は完成するに至らなかつたと云わねばならない。
 本件敷金返還請求権が時効によつて消滅した旨の被告会社の抗弁は理由がない。
 (五) 損害金について
 控訴人は差戻前の当審第一準備書面(昭和三六年四月一九日付)をもつて、控訴
人は原審における訴の提起の当初から被告会社に対して、A個人に代位してA個人
の債権の履行を求めていたものであると主張し、みぎ書面は同年六月二七日の差戻
し前の当審の第三回口頭弁論期日において陳述されたが、その後差戻前の当審第二
準備書面(同年六月二八日付)をもつて、あらためて、A個人に代位して被告会社
に対しA個人の債権の履行を請求する旨の本件第二次的請求をなし、みぎ書面は同
年一二月二三日の差戻前の当審第六回口頭弁論期日において陳述されたことが記録
上明白である。そして原審記録を調査しても、控訴人が原審において被告会社に対
してA個人に代位してA個人の被告会社に対する債権の履行を請求したことは認め
られず、また、みぎ第二準備書面がみぎ第六回口頭弁論期日前に被告会社に交付さ
れた証拠は記録上見当らない。それ故に、控訴人は本件第二次的請求をみぎ第六回
口頭弁論期日の開かれた昭和三六年一二月二三日に至つて始めて被告会社に対し開
陳したのであつてみぎ請求の陳述以前には被告会社の責に帰すべき本件敷金返還義
務の履行遅滞はなかつたと認められるから、控訴人の第二次請求としての給付請求
のうち、昭和三六年一二月二二日以前の敷金返還請求権の遅延損害金の支払いを求
める部分は失当として棄却すべく、みぎ請求権の元金およびこれに対する同年同月
二三日以降の遅延損害金の支払いを求める部分は相当として認容すべきものであ
る。
 (六) 確認の訴について
 控訴人の第二次的請求のうち、本件敷金返還請求権がA個人の被告会社に対する
債権であることの確認を求める部分は、同時にみぎ債権の履行を請求している本件
の場合、特段の事由のないかぎり確認の利益を欠き、却下すべきものである。
 三、 結論
 当審において控訴人から第二的請求が提起され、同請求の給付請求部分が前記損
害金の一部の請求を除き正当として認容される結果、原判決主文第二項は結局にお
いて失当てあるので取り消し、民訴法三八六条、九六条、九二条、八九条、一九六
条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 三上修 裁判官 長瀬清隆 裁判官 古嵜慶長)
       目  録
 一、昭和二九年四月一七日被控訴人福武株式会社(賃貸人)とインドネシヤ・マ
ラヤ・エキスポータース(賃借人)間に締結されたBビルの一部賃貸契約に基づ
き、みぎ訴外人から被控訴人福武株式会社に給付した左記貸付金
        記
 (イ)昭和二八年二月九日被控訴人福武株式会社領収証第三〇号による金六一万
六、〇〇〇円
 (ロ)同月一六日付被控訴人福武株式会社領収証第三四号による金一五万八、〇
〇〇円
 (ハ)昭和二九年四月一七日付被控訴人福武株式会社領収証第二三号による金二
一万円
 以上合計金九八万四、〇〇〇円
 二、右の内から被控訴人福武株式会社が賃貸契約により優先弁済を受けた金額三
八万四、〇〇〇円
 三、差引きみぎ訴外人が被控訴人福武株式会社に対して返還請求権を有する本件
の債権額金六十万円

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