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裁判例


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主文
1原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
事案の概要は,次のとおり付加・訂正するほかは,原判決「第2事案の概
要」及び「第3争点及び当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを
引用する。
1本判決においては,平成元年改正に至るまでの国民年金法においてその時点
で強制適用から除外される大学生その他の学生等を単に「学生」と呼称するも
のとする。これに伴い,引用中の原判決の該当部分をその旨読み替えるものと
する。
2いわゆる特別障害給付金支給法案が原審口頭弁論終結時において成立見込み
,,であるとする原判決10頁8行目から同11行目までをその後の経過に従い
次のとおり改める。
(6)特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律甲122ない「(
し126,137,弁論の全趣旨)
平成16年12月,下記の内容の標記法律が成立した」。
3本件の争点(1)原判決11頁16行目から同21行目までを次のとおり改()
める。
(1)被控訴人らに適用される平成元年法改正前法7条1項1号イが20歳「,
以上の学生を国民年金の強制適用の対象から除外している(以下「強制適
用除外規定」という)こと,並びに同法30条の4が,20歳前の傷病に
より障害者となった者に無拠出制の障害福祉年金又は障害基礎年金を支給
することを定めておきながら,20歳以上の学生についてはその対象とし
(「」),,ていない以下若年障害者支給規定ということが憲法14条1項
25条に違反するか否か」。
4本件の争点(4)(原判決12頁5行目から同9行目まで)を次のとおり改める。
(4)控訴人国は昭和34年に20歳以上の学生につき強制適用から除外「,,
した上,障害(福祉)年金の受給対象から除く規定を立法したこと,その
後昭和50年代半ば,昭和60年法改正時,いずれの機会においてもこれ
らの規定を改正しなかったこと,任意加入制度についての告知・聴聞の機
会を保障せず,またその周知を怠ったことについて,国会及び国会議員に
立法作為・不作為の違法が,内閣に法案提出行為等の違法があり,国家賠
償責任を負うか否か」。
5本件の争点(4)における被控訴人らの主張中昭和60年改正時の問題点を述,
べる部分(32頁12行目から同25行目まで)を次のとおり改める。
「c昭和60年改正時
昭和60年改正時には,さらに昭和34年当時とは立法事実に変化が生
じており,国民年金法の違憲性はより一層明白になった。すなわち,①無
年金障害者の問題が明確に認識され,その救済を求める運動が昭和50年
代から継続して行われていたこと,②学生の進学率が大幅に向上し,必ず
しも経済的に恵まれていない層も大学に進学できるようになったこと,そ
れに伴って学生無年金障害者の問題はより一層顕著になったこと,③基礎
年金制度の確立によって,専業主婦や在外邦人について制度的な無年金者
の発生を最大限抑える改正がなされたこと,④無拠出制の障害福祉年金が
拠出制の者と同金額の障害基礎年金に一本化され,従来からの福祉年金受
,『』給者は障害基礎年金に裁定替えされたこと⑤障害者の完全参加と平等
をうたった国連総会における国際障害者年昭和56年と題する決議『』()
の採択を受け,厚生省では障害者生活保障問題専門家会議を設け,検討を
行い,障害者対策の基本目標が障害者において自立した社会人として健常
者と平等に社会参加することを容易ならしめることにあり,ややもすれば
保障の手が及びえない者もみられるので,所得保障全体にわたる見直しを
行うべきであるなどの報告を昭和58年に得ていたこと,⑥経済的,社会
的及び文化的権利に関する国際規約9条はこの規約の締結国は社会保,『,
険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める』としていると
ころ,同規約は昭和54年にわが国で発効していることなどの変化が認め
られ,これらの事実は国民年金法の上記違憲性をより一層明白にしたもの
であって,また,既に法改正のための合理的期間は経過していたものとい
うべきである」。
「」「」6引用した原判決中にある受給除外規定をいずれも若年障害者支給規定
に改める。
第3当裁判所の判断
1本件に至る経緯
被控訴人らの受傷・発病や国民年金法制定の経緯等本件に至る経緯は,次の
とおり付加・訂正するほかは,原判決「第4当裁判所の判断」の1(原判決
37頁25行目から57頁1行目まで)に記載のとおりであるから,これを引
用する。
(1)平成元年法に係る原判決53頁3行目から54頁11行目までを次のとお
り改める。
「(9)平成元年法改正の経緯(甲51,乙26,64ないし67)
ア昭和60年法の附則4条1項の趣旨等を踏まえ,その後検討が重ね
られた結果,平成元年成立の新法により学生を国民年金の強制適用の
対象とする方向での改正方針が固まった。なお,年金審議会の答申に
おいては『学生に対する国民年金の適用に当たっては,親の保険料負
担が過大とならないよう適切な配慮がなされるべきである』とする意
見が付された。
イ政府は,平成元年,国民年金法の改正案を国会に提出した。国会審
議において,学生無年金障害者問題については次のような議論がなさ
れた。
衆議院社会労働委員会公聴会では,平成元年11月27日,A大学
助教授のB公述人が学生の強制適用に踏み切る主たる理由が障害年金
対策であること及び学生について老齢年金と障害年金を切り離し,障
害年金のみ強制適用とすることが現実的な解決策である旨を述べ,年
金評論家のC公述人が社会保険の原則は強制加入,保険料の強制徴収
であり,学生の強制適用にはどこにも無理がなく,任意加入の方が有
利であることはないことを述べた。
参議院社会労働委員会の審議の中で,D委員が,無年金障害者の救
済のために法適用を遡って行うことが考えられること及び学生無年金
障害者が生じたのは制度の不備によるものだと思うことを述べた。ま
た,E委員が,社会保障研究所による試算として,老齢年金部分と障
害年金部分を分けて保険料を設定した場合,国庫負担があることを前
提にすると障害年金部分の月額保険料は189円になる旨を述べた。
各委員会の審議の中で,学生を国民年金の強制適用とすることに関
し,学生の多くは保険料の負担能力がなく親に頼るのが現状であるこ
,,,と所得の把握が困難であり免除の適正な取扱いが困難であること
同じ年代でありながら大学に入った人は免除を受けたりし,他方で一
生懸命働いている人は免除が受けられないとすると不公平が出てくる
ので,これらの点について対策を講ずる必要があるとの意見が出され
た。
ウ平成元年12月,平成元年法が成立し,20歳以上の学生も国民年
金法の強制適用の対象とする旨が定められ,施行日は平成3年4月1
日とされた。
そして,学生の保険料の免除に関して論議され,一方で,定型的に
稼得活動に従事していない学生に保険料を負担させると,結局,親に
負担させる結果になり,多くの未納者が生ずると危惧され,他方で,
経済的に余裕のある学生もいることから,学生に対して保険料納付を
一律に免除することも問題であるという議論がなされた。
以上のような経過を踏まえ,学生の保険料の免除に関しては,一般
に親元の世帯が学費・生活費の全部または一部を負担しているのが通
常であることから,学生の保険料負担能力の判定を学生と親元の世帯
を含めた経済単位により行いつつ,免除基準を一般よりも緩和するこ
とにし,申請に基づき免除を行うこととなった。
学生についての上記扱いに対しては,親は子を養育する義務はある
が子の老後に備えた保険料まで支払ういわれはないとの指摘もされた
が,学生以外の被保険者に関しては世帯全体で保険料を負担する建前
となっていることとの均衡上,学生についても世帯単位で免除を判断
するのが適当であるとの意見が示された」。
,「」(2)任意加入制度の広報活動について掲記の証拠中に乙49①ないし③
(原判決54頁13行目)とあるを「乙49①ないし④」と改める。
(3)いわゆる特別障害給付金支給法案が成立見込みであるとする原判決57頁
1行目を「同法案は,参議院でも可決され,平成16年12月10日,特定
障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律として公布され,平成1
7年4月1日に施行された」に改める。。
2被控訴人Fの初診日について(争点(3))
争点(3)についての判断は原判決第4当裁判所の判断の2原判決5,「」(
7頁2行目から58頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用す
る。
3強制適用除外規定及び若年障害者支給規定の合憲性について(争点(1))
(1)憲法14条1項違反の判断基準
憲法14条1項は法の下の平等を定めているところ,同規定は合理的理由
のない差別を禁止する趣旨のものであって,各人に存する経済的,社会的そ
の他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けるこ
,,。とはその区別が合理性を有する限り何ら同規定に違反するものではない
そして,法的取扱いに区別を設けた法律であっても,立法理由に合理的な
根拠があり,かつ,その区別が立法理由との関連で著しく不合理でなくいま
だ立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる
限り,合理的理由のない差別とはいえず,これを憲法14条1項に反するも
のとはいえない。
(2)昭和34年法の強制適用除外規定(憲法14条1項違反の有無)
ア立法理由
強制適用除外規定は,20歳以上の国民のうち学生とそれ以外とを区別
するものであるところ(なお,昭和34年法では,その外にも強制適用除
外者がいたことは前認定のとおりである前認定によればその立法理由は),
以下のとおりということができる。
国民年金制度は,基本的に稼得活動従事者に対する保障を本質とする拠
出制の社会保険制度として成立し,無拠出制年金は経過的又は補完的制度
として取り入れられた。すなわち,稼得活動に従事して一定の所得をあげ
得る者を被保険者として予定していたため,定型的にみて稼得活動に従事
していない学生は保険料拠出能力がなく,これに当たらない。学生は卒業
後被用者年金制度に加入するのが通常であるから,国民年金制度よりも被
用者年金制度の対象者と見て差し支えない。むしろ,被用者年金と国民年
金との通算が不十分であることを前提とすれば,学生を国民年金に強制加
入させて保険料を徴収しても,保険料が掛け捨てになる不公平の方がより
問題である。
イ合理性の検討
(ア)拠出制を基本とし,無拠出制年金は経過的又は補完的制度として取
り入れたこと
拠出制を基本とした理由は,前認定のとおり3点であるところ,資本
主義経済体制下において,老齢,身体障害等の事態には自己の責任にお
いて備えることを原則とするのは十分に合理性がある。また,将来の老
齢人口の急増が予想される中,財政支出の急激な膨張を抑え,将来の国
民の過重な負担を避けつつ,年金制度の安定的かつ確実な運用を図るた
めにも,拠出制を基本とすべき必要性が認められる。以上のことから,
拠出制を基本としたことについては合理性が認められる。
そして,拠出制年金の制度のみであれば制度未加入者に対して何らの
年金的保護を図ることができないことになる点については,無拠出制年
金も経過的又は補完的に取り入れられており,これによって制度未加入
者に対する一定の年金的保護が図られている。
(イ)学生を定型的にみて稼得活動に従事していない者とすることをもっ
て,適用除外の根拠とすること
国民年金制度が拠出制を基本とするものである以上,一般的に稼得活
動に従事して一定の所得をあげ得る者を被保険者として予定したことに
は合理性が認められる。
問題は,上記理由に基づいて学生を強制適用対象から除外したことの
合理性である。
学生は現時点では稼得活動に従事していない者であるものの,本来的
には稼得能力を有しているし,将来現実に稼得活動従事者となる可能性
が極めて高い者であるということができる。また,大学等での修学活動
自体が稼得活動と無関係とはいえないのであって,むしろ将来の稼得活
動能力の向上に積極的に寄与するものとして,一般に認知されている。
このような点に照らすと,学生の上記のような潜在的ないし将来的側面
に着目し,強制適用対象とすることが国民年金制度の立法趣旨に反する
とは考えられない。しかし,国民年金制度が基本とする拠出制からすれ
ば,学生自身はその時点では稼得活動に従事していない以上,それにも
かかわらず学生を強制適用の対象とすると,親が負担するという結果を
事実上強制する結果になることは当然に予想されるところ,保険料の大
部分は学生自身の老齢に備えるものであって,その負担を親に強いるこ
とには問題とすべき点がある。また,強制適用を受けない学生にあって
も,老齢・障害等につき,年金による保障を手厚くしたいと考える者に
対しては,任意加入制度が用意されていたものである(学生自身には一
,,。般に保険料の拠出能力はないが世帯単位でみるとそうとはいえない
それゆえ,学生につき,本人やその親に拠出を強いる結果となる強制適
用対象とすることは控え,強制でなく任意の加入を認めるという制度設
計にも合理的な面がある。したがって,学生が定型的にみて稼得活動。)
に従事していないことを理由に強制適用対象から除外するということに
は一定の合理性がある。
この点に関して,被控訴人らは,学生については,強制適用の対象と
した上で,一般と異なる学生用の免除基準を設けたり,あるいは学生納
付特例制度等を設ければ何ら不都合はないと主張する。確かに,このよ
うな制度も一つの選択肢としては十分に考えられる。しかし,このよう
な考え方に対しては,①拠出制年金の本質に対立する面があるし,②大
学等に進学した者を強制適用の対象としつつ,実際上意味のある免除制
度を設けるべく一般とは異なる特別の免除制度や納付猶予の制度等の優
遇措置を講ずることは,20歳以上で一般的・本来的にみて稼得能力自
体がある点では同じであるにもかかわらず,学生とそれ以外とを区別す
るものであり,学生ではないけれどもしばらくの間稼得活動に従事して
いない者や大学等に進学せずに稼得活動に従事している者はこれら優遇
措置を受け得ないこととの間で不公平を招く,③学生に関してのみ学生
個人の所得(個人単位)で保険料免除等の措置を講ずると,学生以外に
関しては世帯単位で免除の可否が決まること(なお,国民年金において
は,対象者に自営業者等を予定しているため世帯を構成する個々人の所
得の把握・推定は一般に困難であるから,世帯単位で免除の可否を考え
る合理性もあるとの均衡を失するなどの反対論が十分考えられるし。)。
たがって,立法者が被控訴人らの上記主張のような考え方を採らなかっ
たとしても,裁量の範囲を超えるとはいえない。
以上のとおりであって,学生につき,定型的にみて稼得活動に従事し
ていない者であることを理由に強制適用対象から除外することが合理的
根拠を欠くとまでいうことはできない。
なお,保険料のうち障害年金の保険料が占める割合は極めて小さいと
,,,,予想されるからこれを前提に学生につき障害と老齢とを分離して
障害のためのみの限定的な強制適用制度を創設し,その対象とすること
も考えられる。しかし,稼得能力の減少・喪失一般に備える年金制度に
おいては,生存していれば誰にでも生じ,しかも発生時期も概ね予測可
能である老齢を中心に据えた一体的制度として制度設計をすることにも
合理的な面がある。したがって,立法者が障害と老齢とを分離するとい
う考え方を採らなかったとしても,裁量の範囲を超えるとはいえない。
(ウ)学生は卒業後被用者年金制度に加入するのが通常であるから,国民
年金制度よりも被用者年金制度の対象者とみて差し支えないこと,その
場合,被用者年金と国民年金との通算が不十分な状況下では,保険料の
掛け捨ての問題が生じること
この点,学生は,学業を修めた後,これを生かして企業等に勤務する
者が多いことは当然に予想されるところ,学生としての数年間国民年金
に加入しなくとも,被用者年金制度体系の下で老齢時に標準的な年金保
障を受けることは可能である。また,老齢年金においては,年金間の通
算制度が十全でなければ,学生の期間中に納付する国民年金保険料につ
いて掛け捨ての問題も生じる。そうすると,国民年金制度につき,老齢
を中心に据えた一体的制度として制度設計をした場合,上記の点をもっ
て,学生を強制適用の対象外とする根拠の一つとして付加することにも
合理的な面がある。
(エ)以上のとおり,昭和34年法における強制適用除外規定には一定の
合理性があり,同規定が憲法14条1項に違反しているということはで
きない。
(3)昭和34年法の若年障害者支給規定(憲法14条1項違反の有無)
ア立法理由
国民年金法は,昭和34年の制定当初から,20歳未満の者が障害を負
った場合について,障害福祉年金を支給する規定(若年障害者支給規定)
を設けていた。20歳未満の者は,国民年金の被保険者とされていないか
ら,この支給は,無拠出制の給付に該当する。
20歳未満の者に対して,上記のような無拠出の障害福祉年金を支給す
ることにしたのは,一方において,20歳未満の者は被保険者の範囲に含
まれないため,20歳前に起こりうる障害につき,保険料を拠出してこれ
に備えるということが不可能であるところ,他方において,若年でこのよ
うな障害状態にあるということは,通常その障害が回復することが極めて
困難であり,稼働能力はほとんど永久的に奪われており,かつ年齢的にみ
て親の扶養を受ける程度をできる限り少なくしなければならないという意
味で最も所得保障をする必要性が高いことを考慮し,拠出制の年金を補完
する福祉政策的措置を講ずることが相当と考えられたためである。
イ合理性の検討
20歳未満の者に対して上記のような無拠出の障害福祉年金を支給する
こと自体に合理性があることは何ら疑いない。
被控訴人らは,20歳未満の者が障害を負った場合は障害福祉年金を受
給できるのに20歳以上の学生が障害を負った場合にはこれを受給できな
いことには合理的な理由はなく,憲法14条1項に反すると主張する。
確かに,重い障害状態にある若年の者に対して所得保障をする必要性が
高いという面においては,それが20歳未満であろうと20歳以上の学生
であろうと,差異はない。
しかしながら,20歳未満の者は国民年金に加入すること自体が無理で
あるところ,学生においては20歳に達すれば国民年金に任意加入するこ
とが可能であるから,両者に対して補完措置を講ずべき必要性は異なるも
のである。また,一般的にみて稼得能力を有する20歳以上の者のうち学
生に対してのみ無拠出の障害福祉年金を支給すると,同年齢の学生以外の
未就業者(例えば,稼得活動への従事も大学等への進学もしないまま親の
世帯内にとどまって就業準備・進学準備・婚姻準備等をしている者)との
間に不均衡を生じ,かといって学生やこれらの者をも無拠出の受給対象に
含めると,同年齢の就業者(例えば,客観的には同じような状況でありな
がら家計等への圧迫を慮って大学等への進学をあきらめ就労していた者
等)が保険料を未納付の場合に受給できないこととの間に不公平感を醸成
し,ひいては国民年金制度の根幹を危うくする危険があることは,特段の
指摘を待つまでもなく,当然に想定される。
これに対し,被控訴人らは,任意加入制度は,保険料免除制度を伴って
いなかったことや広報が不十分であったため,機能不全に陥っていたので
あるから,同制度が存在することをもって合憲性の支えとすることはでき
ないと主張する。
しかしながら,①対象者に著しい所得格差の存在が予想される中で強制
的に加入させた場合における免除の必要性と対象者にそこまでの格差は予
想されない中で任意に加入しようという場合の免除の必要性は異なるか
ら,任意加入制度が保険料免除制度を伴っていなかったからといって,直
ちに不当であるとはいえない。②また,保険料免除制度には,拠出制年金
の本質に対立する面があることや,学生にとって実質的に意味のある免除
制度を設けようとすると,学生以外の者との間の不公平を招く等の問題が
あることは,既に述べたとおりである。③さらに,任意加入が低調なまま
であったことの理由は,必ずしも明らかとはいえないが,特定の数年間の
,,間に障害を被る確率は低いこと保険料の大部分は老齢年金分であること
被用者年金加入者の配偶者が適用除外とされていた時期においても専業主
婦の任意加入率は高かったこと,社会一般の経験則上,比較的若い時期に
はそれ以後と比較して高度障害に備えた措置(民間の保険に加入する等)
を取っていないことに照らすと,広報のあり方というよりは学生時代に加
入するメリットを余り感じないということに根本的な原因があったものと
推認される(なお,広報による周知の有無・可能性は,それぞれの居住地
域やこれに対する関心の強弱等といった個別事情如何によって一様ではな
く,またその時期によっても変動を生じうるものであるから,法律の制定
に際し,公布の外に広報等による制度の周知徹底を要求し,その程度如何
によって当該制度に関連する条項が憲法に違反するかどうか左右されると
いう見解は,法的な安定性を害するものといわざるを得ず,この点からも
採用できない。。)
以上によれば,若年障害者支給規定がその受給対象者を20歳未満の者
と定めたことにも一定の合理的な面があるのであって,同規定が憲法14
条1項に反するということはできない。
(4)昭和60年法の強制適用除外規定(憲法14条1項違反の有無)
昭和60年法においても,学生は,国民年金法の強制適用の対象とはされ
なかったが,その合理性如何については,昭和34年法に関して既に述べた
とおりであるから(ただし,通算年金通則法制定,さらに基礎年金制度の導
入により,保険料の掛け捨ての問題は強制適用除外規定を支える合理的な根
拠とはいえなくなった,強制適用除外規定が憲法14条1項に違反すると。)
はいえない。
この点,被控訴人らは,高等教育への進学率も昭和34年法制定当時より
も著しく増加したのであるから,20歳の前後で別異の取扱いをして学生を
。,強制適用から除外することは著しく不合理であると主張するしかしながら
大学,短大(昼間)及び専修学校(専門課程・昼間)への進学率が,昭和3
5年当時は約10%であったが,昭和60年当時は約50%になったとはい
え乙19これは一般に就労していると考えられる年齢を20歳よりも(),,
引き上げなければ不合理であるというほどの事情の変動とはいえない。
また,被控訴人らは,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約9
条に基づき,政府は,同規約が発効した昭和54年から合理的な短期間にあ
たる昭和60年には学生無年金を発生させないようにする行動(法改正)を
取るべきであったと主張する。しかしながら,同規約から上記のような具体
的な行動を取る義務を導くことはできない。
その他,無年金障害者についての問題意識から種々の議論が交わされてき
たという経過を考慮しても,上記判断を左右するものではない。
したがって,被控訴人らの上記主張を採用することはできない。
()(5)昭和60年法における若年障害者支給規定憲法14条1項違反の有無
昭和60年法は,若年障害者に対し,障害福祉年金に代わり拠出制の障害
基礎年金と同額の無拠出の障害基礎年金を支給するとした。その意味で,2
0歳以上の学生との間との給付格差は拡がった。
また,前記のとおり,高等教育への進学率も昭和34年法制定当時よりも
著しく増加し,昭和34年法以降,無年金障害者についての問題意識から種
々の議論が交わされてきた。
しかしながら,①若年障害者は,学生と異なり,国民年金に任意加入する
こと自体が不可能であること,②進学率が高まったとはいえ,同年齢の学生
以外の者が存在する以上,学生に無拠出の障害基礎年金を支給すると,これ
らの者との間に不均衡を生ずることは,昭和34年法と同様である。
したがって,昭和60年法においても,若年障害者支給規定が憲法14条
1項に反するとまではいえない。
この点被控訴人らは障害者の完全参加と平等をうたった国連総会に,,「」
おける国際障害者年昭和56年と題する決議の採択を受け厚生省が「」(),
設けた障害者生活保障問題専門家会議の報告を経て,昭和60年の改正が行
われたものであり,障害年金は無拠出年金制度に実質上変わったのであるか
ら,これに伴い,20歳以上の学生に対しても無拠出の障害基礎年金を支給
できるようにすべきであったという趣旨の主張をする。確かに,昭和60年
の改正では,20歳未満障害者に対して拠出制と同額の障害基礎年金が支給
されるなど障害年金に関して保険料負担を前提とする反対給付という原理を
はみ出す制度改革がなされており,この点は被控訴人らの上記主張に沿うも
のではある。しかしながら,依然多くの国民については拠出制の障害基礎年
金が適用されている上,拠出制の障害基礎年金と無拠出制のそれとでは所得
制限その他で差異が設けられているのであるから,20歳未満障害者に対す
る障害基礎年金制度の基本的な性格は福祉的施策の一環と位置づけられるの
であって,昭和60年の改正をもって障害年金が無拠出年金制度に実質上変
わったと評価するのは早計である。
(6)強制適用除外規定及び若年障害者支給規定の憲法25条違反の有無
同条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは抽象的・相対的
な概念であって,その具体的内容は,その時々における文化の発達の程度,
経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断
決定されるべきものであるとともに,同条の規定の趣旨を現実の立法として
具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することができず,また,多
方面にわたる複雑多様な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするか
ら,同条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの
選択決定は立法府の広い裁量にゆだねられており,それが著しく合理性を欠
き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合に限って初めて憲
法違反の問題が生ずる余地があるというべきである。
強制適用除外規定及び若年障害者支給規定が著しく合理性を欠くものと認
められないことは,既に述べたとおりである。したがって,これらの規定が
憲法25条に違反するとはいえない。
(7)まとめ
以上のとおりであるから,平成元年法改正前法が,20歳以上の学生に対
し,強制適用除外規定によって強制適用の対象から除外し,また若年障害者
支給規定の対象に含めなかったことについて,憲法14条1項,25条違反
があるとはいえない。他に憲法違反を認めるに足りる証拠はない。
4憲法13条,31条違反の有無について(争点(2))
争点(2)についての判断は原判決第4当裁判所の判断の4原判決7,「」(
),。5頁4行目から同24行目までに記載のとおりであるからこれを引用する
5立法作為・不作為の違法に基づく国家賠償責任の有無について(争点(4))
被控訴人らは,昭和34年の国民年金法制定時から昭和60年の法改正に至
る各機会において学生無年金を生ずることのないよう規定を整備しなかったこ
と等を指摘し,立法作為・不作為の違法等があると主張する。
しかしながら,いずれの時点においても,学生を強制適用の対象にしたり,
あるいは障害(福祉)年金の支給対象にするなど被控訴人ら主張の措置を講じ
なかったからといって明らかに不合理であるとはいえないこと,任意加入制度
に関して憲法13条,31条違反があるとはいえないことは,既に述べたとお
りである。
したがって,被控訴人らの主張に係る国家賠償法上の違法は認められず,他
にこれを認めるに足りる証拠はない。
6結論
以上の次第で,被控訴人らの請求は,いずれも理由がないので棄却すべきと
ころ,原判決は一部これと異なるので,主文のとおり判決する。
広島高等裁判所第4部
裁判長裁判官草野芳郎
裁判官山本和人
裁判官山口浩司

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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