弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
(1)札幌市北区保健福祉部長が原告に対して平成17年8月31日付けでした
生活保護法78条に基づいて285万円を徴収する旨の処分は,これを取り
消す。
(2)訴訟費用は,被告の負担とする。
2請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2事案の概要等
1事案の概要
,(。
本件は生活保護受給者であった原告平成13年1月15日から保護開始
平成17年12月1日に保護廃止)が,札幌市北区保健福祉部長(以下「北

」。
),,
区保健福祉部長というから不正に生活保護費を受給したことを理由に
平成17年8月31日付けで生活保護法78条に基づく285万円(357万
9000円から返納金収入認定済みの72万9000円を控除した額)を徴収
する旨の決定処分(以下「本件処分」という)を受けたことにつき,①借入

金を収入に当たるとすることはできないし,②借入金を収入とみなすことが可
能であっても,それを申告しなかったことをもって「不実の申請その他不正な
手段」とはいえず,また,③収入認定の対象となった借入金は全て支払等によ
り原告の手元には残っておらず,原告は身体障害者等級1級の認定を受け生活
費の捻出すらままならない状態であり,他に同様のケースでは保護費の徴収を
行っていないにもかかわらず,殊更原告のみ保護費を徴収することは裁量権の
逸脱があるとして,本件処分の取消しを求めた事案である。
2関係法令等
(1)生活保護法
ア生活保護法4条1項
,(「」。

生活保護法4条1項は生活保護法による保護以下保護という
について,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆ
るものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として
行われるとし,保護の補足性を規定する。
イ生活保護法8条
生活保護法8条1項は,保護の基準及び程度について,厚生労働大臣の
定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の
金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うもの
とすると規定する。
そして,同条2項は,保護の基準について,要保護者の年齢別,性別,
世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した
最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これをこえ
ないものでなければならないと規定する。
ウ生活保護法61条
生活保護法61条は,現に保護を受けている者(以下「被保護者」とい
う)は,収入,支出その他生計の状況について変動があったとき,又は

居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは,すみやかに,保護の実
施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならないと規定する。
エ生活保護法78条
生活保護法78条は,不実の申請その他不正な手段により保護を受け,
又は他人をして受けさせた者があるときは,保護費を支弁した都道府県又
は市町村の長は,その費用の全部又は一部を,その者から徴収することが
できると規定する。
オ生活保護法85条
生活保護法85条は,不実の申請その他不正な手段により保護を受け,
又は他人をして受けさせた者は,3年以下の懲役又は30万円以下の罰金
(,(),
に処するただし刑法明治40年法律第45号に正条があるときは
刑法による)と規定する。

(2)保健福祉部長への事務委任
札幌市長は,生活保護法19条4項の委任規定を受けた札幌市区保健福祉
部長事務委任規則により,生活保護法24条ないし28条,30条ないし3
7条,48条4項,62条,63条,76条1項,77条2項,78条,8
0条及び81条の規定により市が実施する各事務について,札幌市内の各区
の保健福祉部長に委任している。
3前提となる事実(争いのない事実並びに各項末尾の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
(1)当事者
原告(昭和▲年▲月生まれの女性)は,北海道から,身体障害者等級1級
の認定を受けている者である(甲5)

(2)事実経過
ア原告は,北区保健福祉部長に対し,平成13年1月15日,生活保護法
7条に基づき保護の開始の申請をした。
これに対し,北区保健福祉部長は,同月30日,生活保護法24条に基
づき,同月15日にさかのぼって保護を開始した。
イ札幌地方裁判所は,原告に対し,平成15年4月9日,破産法(平成1

),
6年法律75号による廃止前126条1項に基づき破産の宣告を行い
同年6月27日,免責の決定をした(甲3,4)

ウ北区保健福祉部長は,原告に対し,平成13年7月4日から平成14年
まで借金を繰り返し,その収入を申告しなかったことを理由に,平成17
年8月31日付けで生活保護法78条に基づき285万円の徴収金(借入
金と同額の357万9000円から返納金収入認定済みの72万9000
円を控除した額)を徴収する旨の決定処分をした(本件処分(甲1)


エ北区保健福祉部長は,平成17年12月1日をもって原告の上記保護を
廃止した(甲2)

(3)原告に対する生活保護支給額
北区保健福祉部長は,原告に対し,別紙2記載のとおりの保護(合計54
4万3151円)を支給した。
4争点
①原告の生活保護受給中の借入金等の内容及び金額
②原告の借入金等は収入認定の対象となるか。
③原告が借入金等を申告しなかったことが,生活保護法78条の「不実の申
請その他不正な手段」に当たるか。
④本件処分には,裁量権の逸脱,濫用があるか。
5争点に対する当事者の主張
(1)争点①(生活保護受給中の借入金等の内容及び金額)について
(被告の主張)
ア原告は,平成13年1月15日以降,別紙1「借入れ等一覧表」記載の
とおり,借入れ等の信用供与を繰り返し受け,その合計額は,少なくとも
357万9000円となる。
イなお,別紙1の番号1の平成13年1月の株式会社A(以下「A」とい
う)からの子供服の購入については,平成15年10月10日,当時の

原告の担当であったケースワーカーは,原告に対し,原告の提出した債権
者一覧表(乙1)記載の借入金等の1つ1つにつき生活保護受給中のもの
であるか否か確認したところ,原告自身,上記子供服購入に係る10万円
のクレジット利用について,生活保護受給中のものであることを申し立て
ており,同子供服購入に係るクレジット利用は生活保護受給中のものであ
ることが認められる。
(原告の主張)
別紙1「借入れ等一覧表」記載の借入れ等のうち,A及び株式会社B(以
下「B」という)以外の借入れについては,その借入日及び借入金額とも

認める。
(2)争点②(借入金等の収入認定)について
(被告の主張)
生活保護法4条1項及び2項は,生活保護制度が自己責任の原則に対する
補足的な役割を担うという補足性の原理を明らかにしたものであり,同法8
条は同原理を確認的に規定したものである。同原理の下では,保護を受ける
ためには各自が持っている能力に応じて最大限の努力をすることが先決であ
り,そのような努力をしてもなお最低限度の生活を営むことができない場合
にはじめて保護が行われることになる。
,「」「」
したがって同法4条1項の資産及び同法8条1項の金銭又は物品
,,,
はあらゆる財産的価値を有するものを意味し被保護者が入手した金品は
借入れ又はクレジット利用によるものであったとしても,上記「資産」ない
し「金銭又は物品」に該当し,保護費から控除されるべき収入認定の対象と
なる。
(原告の主張)
借入金は,将来その返還をしなければならないものであるから,生活保護
法4条1項にいう「資産」ないし同法8条1項にいう「金銭」に該当しない
ものと解すべきであり,社会通念上も借入金が「資産」であるとは理解でき
ない。借入金をもって同法8条1項の「金銭」に当たるとするならば,同法
4条1項の「その利用し得るあらゆるもの」に「他から金銭の借入れをする
能力」も含むことになり,金銭の借入れをする能力があるときには,金銭の
借入れをした後でなければ,生活保護を受けられなくなるという不合理な結
果となる。
「生活保護のしおり」には,借入金が「収入」に当たることを明記してお
らず,同法61条にいう「収入」に借入金が含まれるとの解釈は,一般人の
常識を超える恣意的な解釈であるといわざるを得ない。
また,別紙1「借入れ等一覧表」記載の借入れ等のうち,A及びBの分に
ついては,借入れではなくクレジット利用による立替金である。
(3)争点③(不実の申請その他不正な手段」の該当性)について

(被告の主張)
アCケースワーカーは,原告に対する保護の開始決定がなされ,原告が保
護開始決定月に係る保護費についての小切手を受領するために札幌市北区
役所へ来庁した際,原告に対して生活保護のしおり(乙5)を交付し,同
しおりの「こんなときは,かならず届け出てください」の項目の中の「そ
の他の臨時収入」の項目において,借入れをしてはならないこと,借入れ
は収入に当たること及び借入れをした場合には必ず届け出なければならな
いことを説明しており,原告もそのことを十分理解していた。
イそして,生活保護法78条の「不実の申請その他不正な手段」は,積極
的に虚構の事実を構成することはもちろん,消極的に真実を隠匿すること
も含まれるとされるところ,原告は,借入金等が収入認定されることを認
識しながら借入れ等の事実を申告せず,借入れ等の存在が発覚した後も,
ケースワーカーから何度も指導されたにもかかわらず,借入金等について
の挙証書類を提出しようとしなかった。
ウ原告の上記行為は,借入れ等の事実を隠匿しようとするものであり,原
告が「不実の申請その他不正な手段」により保護を受けたものであるこ

とは明らかである。
(原告の主張)
原告が,借入金が申告すべき収入に当たること,クレジットを利用して物
品を購入したときは申告しなければならないことを認識するに至ったのは,
免責決定を受けた平成15年6月27日より後である。平成14年2月以前
には,原告は,ケースワーカーからそのような指導は受けていないので,こ
れらの申告をしなければならないとの認識はなかった。
したがって,原告には,借入金等について申告義務があるとの認識はなか
ったのであるから,原告がこれらの申告をしなかったことは「不実の申請そ
の他不正な手段」には該当しない。
(4)争点④(裁量権の逸脱,濫用)について
(原告の主張)
原告が本件処分を受ける原因となった借入金等については,平成15年6
月27日,免責決定を受けているが,借入金は,支払等に使用して手元には
全く残っていなかった。
また,原告は,身体障害者等級1級の認定を受けており,稼働することが
全く不可能であるところ,唯一の収入である障害者年金だけでは,最低限度
の生活費すら捻出できない状況にある。
にもかかわらず,北区保健福祉部長は,原告が最低限度の生活ができない
状況であることを知りながら,他にも同様のケースで借入金等相当額の保護
費の徴収をしていないことが少なくないのに,殊更原告から借入金等相当額
の保護費を徴収しようとして本件処分をしたものである。
したがって,本件処分は,原告が最低限度の生活すらできなくなることを
もたらすものであり,著しい裁量権の逸脱,濫用がある。
(被告の主張)
被告は,生活保護の受給中に借入れ等が判明した場合,原則として,生活
保護法78条に基づく費用徴収処分を行うか収入認定をして保護の程度に反
映させる取扱いをしており,原告に対する本件処分もこのような取扱いにし
たがったものである。
また,同条の費用徴収処分は,都道府県又は市町村の長が,費用を支弁し
た立場において,主として財政支出の適正の見地から行われるものであり,
いわば損害追徴としての性格を有するから,同処分は,相手方の資力に関わ
りなくなされるべきものである。
したがって,本件処分に裁量の逸脱,濫用はない。
第3争点についての判断
1争点①(借入金等の内容及び金額)について
(1)別紙1「借入れ等一覧表」記載の借入れ等のうち,平成13年7月4日か
ら平成14年2月までの間の借入れについては,当事者間に争いがない。
(2)アまた,証拠(乙1,9の1,11の3,14,原告本人)によれば,
原告は,生活保護受給中(平成13年1月15日から平成17年12月
1日まで)に,Aよりクレジットを利用して10万円の子供服を,Bよ
りクレジットを利用して27万9000円のネックレスをそれぞれ購入
したことが認められる。
イなお,原告は,Aから子供服を購入したのは,生活保護を受給する以
前であると述べている。
確かに,乙1号証の「債権者一覧表」の記載によれば,上記子供服購
入の契約日は平成13年1月となっているところ,原告に対する生活保
護の開始日は同月15日(保護開始決定は同月30日)であることから
するならば,上記子供服の購入が,保護受給以前であった可能性も考え
得るところである。
しかしながら,原告の保護開始決定に先立ち,平成13年1月17日
に実施された実態調査において,原告は,その時点で存在する負債の状
況については,株式会社D及び株式会社Eに対する債務を申告している
が,Aからの子供服購入に係る債務については申告していないこと(乙
14,原告の担当であったFケースワーカーは,平成15年10月1

,,(),
0日原告自身が作成提出した債権者一覧表乙1を原告に示して
どれが保護受給中の借入れ等であるか1つ1つ確認し,保護受給中のも
のについてはピンクのマーカーを引いていったところ(乙11の3,

,,
上記Aからの購入品についてもピンクのマーカーが引かれていること
他方,上記物品の購入時期について原告の記憶は必ずしも明確ではない
ことなどに照らすならば,原告の上記供述はにわかに信用することはで
きず,Aからの子供服の購入時期は,平成13年1月17日以降の生活
保護受給中であったことが認められるというべきである。
(3)以上によれば,原告は,保護受給中に別紙1「借入れ等一覧表」記載の
とおり借入れ等をし,その金額は,少なくとも合計357万9000円と
なるものと認められる。
2争点②(借入金等の収入認定)について
(1)生活保護法による保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能
力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用すること
を要件とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程
度において行われるものであり,最低限度の生活需要を満たすのに十分であ
って,かつ,これを超えないものでなければならない。したがって,生活保
護法4条1項にいう「その利用し得る資産,能力その他あらゆるもの」及び
同法8条1項にいう「その者の金銭又は物品」とは,被保護者が,その最低
限度の生活を維持するために活用することができる一切の財産的価値を有す
るものを含むと解される。
(2)アそして,生活保護法は「その利用し得る資産,能力その他あらゆる

もの」及び「その者の金銭又は物品」について特に限定をしておらず,
将来返済が予定されている借入金についても,当該借入れによって,被
保護者の最低限度の生活を維持するために活用可能な資産は増加するの
であるから,保護受給中に被保護者が借入れをした場合,これを原則と
して収入認定の対象とすべきである。
原告は,借入金をもって同法8条1項の「金銭」に当たるとするなら
ば,同法4条1項の「その利用し得るあらゆるもの」に「他から金銭の
借入れをする能力」も含むことになり,金銭の借入れをする能力がある
ときには,金銭の借入れをした後でなければ,生活保護を受けられなく
なるという不合理な結果となると主張する。
しかしながら,被保護者が,保護受給中に借入れをした場合,それが
将来返済を予定しているものであっても,被保護者が活用可能な資産は
増加していることは明らかであり,これを収入認定の対象とすることは
不合理とはいえないし,また,このことが,原告の主張するように,金
銭の借入れをする能力があるときには,当然に金銭の借入れをした後で
なければ生活保護を受けられないという結果となるものでもない。むし
ろ,保護開始決定に際し,多額の借入金を取得し,その最低限度の生活
を維持するのに必要な資産以上のものを有している者に対し,取得した
当該借入金を一切考慮せずに保護開始の要否を判断したり,保護受給中
に多額の借入れをし,その最低限度の生活を維持するのに必要な資産以
上のものを有するに至った者に対し,当該借入金を収入として一切考慮
しないことになれば,保護の補足性の観点からすれば,かえって不合理
な結果となるというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イまた,クレジットを利用した購入物品についても,将来,立替金の弁
済が予定されているとはいえ,借入金同様,被保護者が活用可能な資産
が増加することに変わりはなく,他方,上記物品を一切収入と認めない
のであれば,前記アと同様の不合理な結果となることは明らかであるか
ら,これらを収入認定の対象とすべきではないとの原告の主張は採用で
きない。
ウもっとも,上記のように補足性の原則を貫徹し,生活保護世帯に対す
る金銭給付等のすべてを収入として認定することは,生活保護法の目的
である自立助長の観点から,あるいは社会通念上適当でない場合も生じ
得るところである。
証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば生活保護行政の実務におい
ては,上記のような点を考慮し,補足性の原則について一定の例外が設
けられ,判断の統一性,被保護者の公平の観点から,特定の金銭につい
て収入として認定しない場合についての統一的な基準として「生活保

護法による保護の実施要領について(昭和36年4月1日厚生省発社

第123号厚生事務次官通知(以下「次官通知」という)及び「生
)。
活保護法による保護の実施要領について(昭和38年4月1日社発第

246号厚生省社会局長通知(以下「局長通知」という)により,
)。
収入として認定する場合の具体的指針や収入として認定しない一定の公
的扶助や貸付金等を定めていること,収入として認定しない貸付金につ
いては,次官通知第7の3の(3)のウにおいて「他法,他施策等に

より貸し付けられる資金のうち当該被保護世帯の自立更生のために当て
」,(),
られる額と定めこれを受けた局長通知第7の2の3においては
貸付けを受けるについて保護の実施機関の事前の承認があること等を要
件として,収入認定をしない貸付資金として,事業の開始又は継続,就
労及び技能修得のための貸付資金,一定範囲の就学資金,医療費又は介
護費貸付金,結婚資金,国又は地方公共団体により,若しくはその委託
事業として行われる一定範囲の貸付資金を掲げていることが認められ
る。
そして,上記説示した補足性の原則の趣旨及び一定範囲でその例外を
設ける必要性を勘案すれば,上記のような取扱いには相応の合理性があ
るというべきである。
そこで,原告の行った上記借入れ等についてみると,原告は,その借
入れ等に当たって,保護の実施機関の事前の承認を得ていないことはも
とより,後記認定に係る借入れ等の内容やその使途に照らしても,これ
が収入認定から除外される対象となる借入れ等に当たらないことは明ら
かというべきである。
(3)以上によれば,原告が生活保護受給中にした借入れに係る金銭及びクレ
ジット利用による購入物品は,前記「資産」ないし「金銭又は物品」に該
,。
当し保護費から控除されるべき収入認定の対象となるというべきである
3争点③(不実の申請その他不正な手段」の該当性)について

(1)ア証拠(乙5,11の1,14,証人C)及び弁論の全趣旨によれば,
Cケースワーカーは,原告の保護の開始決定がなされ,原告が保護開始
決定月の保護費に係る小切手を受領するために札幌市北区役所へ来庁し
た際,原告に対して生活保護のしおりを交付するとともに,同しおりの
「こんなときは,かならず届け出てください」の項目の「その他の臨時
収入」について説明したときに,生活費が足りないからといってどこか
らか借りてきてはいけないとの説明をしたことが認められる。
イなお,証人Cは,上記アに沿った証言をしているが,これに対し,原
,,,
告は生活保護のしおりを受領したこともなく平成14年2月以前に
借入金が申告すべき収入に当たるとの説明を受けたこともないと主張
し,原告本人尋問においても同様の供述をしている。
この点,生活保護のしおりは,保護開始の決定通知等,保護開始の際
に必ず交付する定型書類の1つであり,保護開始決定がされたときに,
生活保護について説明するために最初に交付されるものであること,証
人Cは,生活保護のしおりを原告に交付した経緯,場所等について具体
的に述べるとともに,保護受給中は借入れをしてはいけないことを原告
に説明した理由として,原告にクレジットの残債があったことなど具体
的事情を挙げていることなどに照らせば,証人Cの上記証言は信用する
ことができる。
他方,原告は,保護開始決定月の保護費に係る小切手を受領するため
北区役所を訪れたこと自体は認めつつ,生活保護のしおりについては,
,,
Cケースワーカーが原告の自宅に来た際に説明を受け同しおり自体は
Cケースワーカーが持ち帰ったと供述するなど,その供述内容は不自然
であり,同しおりを受領していないとする原告の供述をにわかに信用す
ることはできない。また,原告自身,旅行やネックレス購入が最低限度
の生活を超えるものであり,その為に借金をすることについては,ケー
スワーカーが認めてくれることはないものと認識していた旨を述べてい
ることからするならば,平成14年2月以前に,保護受給中に借金をし
てはいけないとの説明を受けたことはないとする原告の供述もにわかに
信用できない。
(2)そして,証拠(乙7,9の2,11の1ないし3,13の1ないし5,
証人C,同G)によれば,原告は,平成14年6月5日,G(旧姓○○)
ケースワーカーが原告の入院している病院を面接のために訪れた際,初め
て,同ケースワーカーに対し,借金があること,弁護士に相談して自己破
産の手続を進めていることなどを申告したことが認められる。また,原告
の保護開始決定がされてから上記申告をするまでの間,少なくとも5回に
わたり,原告の担当のケースワーカーが,原告に対し,原告の収入の変動
等について確認を行っていたが,原告は,上記借金等について,担当のケ
ースワーカーに申告することはなかった。
なお,原告の上記借金の使途としては,生活費の補充のほか,子供との
旅行費用,子供の野球チームの年会費,スナックやメンズパブの飲食代等
であった。
(3)アところで,保護の実施機関は,保護の適正な運営を図るため,常に,
被保護者の生活状況を調査しなければならないが(生活保護法25条2
項,上記実施機関の調査のみでは,被保護者の生活状況を正確に把握

することは困難であるので,同法61条は,被保護者が,収入,支出そ
の他生計の状況について変動があったとき,又は居住地若しくは世帯の
構成に異動があったときは,速やかに,保護の実施機関等にその旨を届
け出なければならないとし,被保護者に上記事項の届出義務を課して保
護の円滑な実施を図るとともに,同法78条は,不実の申請その他不正
な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者があるときは保
,,
護費を支弁した都道府県又は市町村の長はその費用の全部又は一部を
その者から徴収することができるとしている。
上記各規定の趣旨に照らすならば,同法78条にいう「不実の申請そ
」,,
の他不正な手段とは積極的に虚偽の事実を申告することのみならず
消極的に本来申告すべき事実を隠匿することも含まれると解するのが相
当である。
イこれを本件についてみると,原告は,保護開始に当たり,生活保護の
しおりの交付を受け,同しおりの「こんなときは,かならず届け出てく
ださい」の項目の「その他の臨時収入」について説明された際,生活費
が足りないからといってどこからか借りてきてはいけないとの説明を受
けており,原告自身も,旅行やネックレス購入が最低限度の生活を超え
るものであって,その為に借金をすることは,ケースワーカーが認めて
くれることはないものと認識していたこと,それにもかかわらず,原告
は,保護受給中に,生活費のみならず旅行費用やスナック等での飲食代
等に使うため借金をしていたことからするならば,原告は,保護受給中
の上記借入れ等が許されないものであること,同借入れ等についてはケ
ースワーカー等に届け出なければならないことを少なからず理解してい
たものと認められる。
そして,原告は,前記(2)のとおり,少なくとも5回にわたり,原
告の担当のケースワーカーが,原告に対し,原告の収入の変動等につい
て確認を行ったにもかかわらず,何ら上記借入れ等の事実を申告するこ
とはなく,平成14年6月5日になって,ようやく,担当のケースワー
カーに対し,借金があること,弁護士に相談して自己破産の手続を進め
。,
ていることなどを申告するに至っているこれらの事情に照らすならば
原告が,上記借入れ等の事実をケースワーカーに対して申告しないまま
保護を受けていたことは,本来申告すべき事実を申告せず,不正な手段
により保護を受けていたものといわざるを得ない。
4争点④(裁量権の逸脱,濫用)について
(1)生活保護法63条の費用返還及び同法77条の費用徴収は,その規定等に
照らせば,保護の目的達成という見地からの配慮が強く求められるものとい
うべきであり,その返還額及び徴収額の決定に際しては,一定程度,相手方
の資力が考慮されるべきものといえる。
他方,生活保護法78条の費用徴収は,主として保護の費用を支弁した都
道府県又は市町村の財政支出の適正という見地から,保護の費用を支弁した
都道府県又は市町村の長が,損害追徴としての性格を有する徴収額を決定し
て実施するものであると解される。このような上記費用徴収の性格からする
,,
ならば保護の目的達成という見地からの配慮の要請は必ずしも強くはなく
徴収額の決定に当たっても,被保護者の資力を考慮することを要しないもの
といえる。
(2)上記費用徴収の性格を踏まえ,本件処分に裁量権の逸脱,濫用があるかを
検討する。
原告は,前記1のとおり,平成13年1月から平成14年2月までの1年
余りの間に,少なくとも357万9000円の借入れ及びクレジットを利用
した物品購入をしており,その金額が多額であること,前記3のとおり,同
借入れ等の使途は,生活費の補充のほか,旅行費用やスナックの飲食代等も
含むものであったこと,原告自身,旅行費用等のための借入れは,ケースワ
ーカーに相談しても許してもらえないことを認識していたこと,原告が,同
借入れ等を担当のケースワーカーに申告したのは,原告が弁護士に破産手続
を依頼した後の平成14年6月5日であったこと,その間,担当のケースワ
ーカーからの収入の変動について確認されていたにもかかわらず,上記借入
れ等について何ら申告しなかったことなどに照らすならば,本件処分を行う
ことは,やむを得ないものといわざるを得ない。そして,前記(1)のとお
り,本件処分に当たっては,原告の資力を考慮する必要はなく,原告の資力
の有無自体は,本件処分の裁量権の逸脱,濫用に関して直接問題とはならな
いというべきである。
また,北区保健福祉部長が,本件と同様の事案において,通常は本件とは
異なり,借入金等相当額の保護費の徴収を行わない取扱いをしていることを
認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,本件処分について,裁量権の逸脱,濫用は認められない。
(3)なお,本件処分の通知書には,徴収理由について「平成13年7月4日か
ら平成14年まで借金を繰り返し」と記載されているが,原告が申告しなか
「」,
った借入金の額が357万9000円となっていることからするならば
上記記載は「平成13年1月」の誤記であると解されるところ,当該誤記

をもって本件処分が違法となるということはできない。
第4結論
よって,本件処分に原告の主張するような違法はなく,本件処分は適法とい
うべきであり,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文の
とおり判決する。
札幌地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官竹田光広
裁判官今井学
裁判官岡本利彦

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