弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人田中実の上告趣意(後記)第一点について。
 論旨は、被告人は本件三〇万円を自己のために領得する意思なく、A水産業会の
Bによる被害をBをして補填せしめんとするにあつたのであるから横領罪は成立せ
ず、これを横領罪と判断した原判決は(一)(二)引用の大審院判例に違反すると
主張する。しかし、(一)引用の判例は、村長が村のためにする意思をもつて村の
公金を指定外の経費に流用した場合に関するものであるが、本件につき第一審判決
の認定した事実は、被告人はA水産業会C支所の経理課長として同会の収入金三〇
万円を業務上保管中Bと共謀の上同人の用途に充てるため擅に右金員を着服して横
領したというのであつて、原判決もまた右着服横領の事実を具体的に「被告人はこ
れをBに交付する権限なくして同人に交付し、同人はこれを同人の用途に充てゝ費
消し、ためにA水産業会は三〇万円相当の損害を蒙るの已むなきに至つた」と認定
判示している。すなわち事実審の認定した事実は、被告人及びBがA水産業会C支
所のために三〇万円を処分したものではないのであるから、所論引用の判例の場合
とは事案を異にし右判例は本件に適切でなく、原判決は少しも判例と相反する判断
をしたものではない。(二)引用の判例は「大正十年大審院宣告」と上告趣意書に
記載されてあるだけで、刑訴規則二五三条の「上告趣意書にその判例を具体的に示
さない」場合に当り、上告理由として不適法である((二)引用の判例は大正一〇
年の刑事判決録に登載なく、恐らくは大正一五年(れ)五号同年四月二〇日大審院
判決、刑集五巻一三七頁以下の判決を指すものとも思われるが、同判決も本件に適
切でない)。
 同第二点について。
 論旨は、原審に横領罪に関する法令適用の誤りがあることを前提として違憲を主
張するのであるが、その実質は単なる法令適用の誤りを主張するに外ならないのみ
ならず、原審には所論のような法令適用の誤りはないのであるから、違憲の主張と
しても前提を欠き問題とならない。刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。
 また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
  昭和二九年六月二二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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