弁護士法人ITJ法律事務所

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平成22年7月15日判決言渡
平成21年(行ケ)第10238号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月27日
判決
原告ザプロクターアンド
ギャンブルカンパニー
訴訟代理人弁理士曾我道治
同古川秀利
同鈴木憲七
同梶並順
同大宅一宏
同飯野智史
被告特許庁長官
指定代理人伊藤幸司
同星野紹英
同中田とし子
同小林和男
主文
1特許庁が不服2007−5283号事件について平成21年3月3
1日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「日焼け止め剤組成物」とする発明について,平成1
1年7月29日,国際特許出願(優先権主張:平成10年7月30日,米国)
をしたが,平成18年11月15日に拒絶査定を受け,平成19年2月19
日,不服の審判(不服2007−5283号事件)を請求した。
特許庁は,平成21年3月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決(付加期間90日。以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年
4月14日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
本願に係る平成17年5月9日付け手続補正書(甲4)により補正された後
の明細書(以下,図面と併せて,「本願明細書」という。)の特許請求の範囲
(請求項の数9)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に
係る発明を「本願発明」という。なお,下線部分が補正部分である。)。
「【請求項1】日焼け止め剤としての使用に好適な組成物であって:
a)安全で且つ有効な量の,UVAを吸収するジベンゾイルメタン日焼け止
め剤活性種;
b)安全で且つ有効な量の安定剤であって,次式,
【化1】
を有し,式中,R及びR’は独立にパラ位又はメタ位にあり,独立に11
水素原子,又は直鎖もしくは分枝鎖のC∼Cのアルキル基,Rは直鎖182
又は分枝鎖のC∼Cのアルキル基;及びRは水素原子又はCN基で2123
ある前記安定剤;
c)0.1∼4重量%の,2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホ
ン酸であるUVB日焼け止め剤活性種;及び
d)皮膚への適用に好適なキャリア;
を含み,前記UVAを吸収するジベンゾイルメタン日焼け止め剤活性種に対
する前記安定剤のモル比が0.8未満で,前記組成物がベンジリデンカンフ
ァー誘導体を実質的に含まない前記組成物。」
3審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下
のとおりである。
(1)審決は,本願発明と,特開平9−175974号公報(甲1。以下「引
用例A」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)との一
致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア一致点
「『日焼け止め剤としての使用に好適な組成物であって:
a)安全で且つ有効な量の,UVAを吸収するジベンゾイルメタン日焼け
止め剤活性種;
b)安全で且つ有効な量のα−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート
安定剤;及び
d)皮膚への適用に好適なキャリア;
を含み,前記UVAを吸収するジベンゾイルメタン日焼け止め剤の量が1
%以上の場合には,前記UVAを吸収するジベンゾイルメタン日焼け止め
剤活性種に対する前記安定剤のモル比が0.8未満で,前記組成物がベン
ジリデンカンファー誘導体を実質的に含まない前記組成物』である点」
(審決書4頁8行∼17行)
イ相違点
「本願発明は『0.1∼4重量%の2−フェニル−ベンズイミダゾール
−5−スルホン酸であるUVB日焼け止め剤活性種を含む』のに対し,引
用発明は『任意に通常のUV−Bフィルターを含む』とされている点」
(審決書4頁17行∼20行)
(2)審決は,特許法29条2項の発明の容易性について次のとおり判断し
た。
ア本願の優先権主張の日の前において,「2−フェニル−ベンズイミダゾ
ール−5−スルホン酸」が代表的な「UV−Bフィルター」(UV−B吸
収剤)の1つであって,既にそれを含む商品が販売され,他の公知のUV
吸収剤と併用されることは,周知である。そうすると,引用例Aの「任意
に少なくとも1種の通常のUV−Bフィルターを・・・含み」なる記載及
び「UV−B線の濾波に使われる材料に関してはその選択に全く制限がな
い」なる記載に従って,「代表的なUV−Bフィルター」成分の中から
「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」を選定すること
は容易である。
イそして,その際の配合量として,引用例Aには「UV−Bフィルターが
約1∼約12%の量で存在する」と記載されているので,かかる範囲と重
複する「約0.1∼4重量%」と特定することも当業者が適宜なし得る。
ウ本願明細書には実施例として化粧品の製造例が記載されているにすぎ
ず,本願発明の効果については一般的な記載にとどまり,客観性のある具
体的な数値データをもって記載されているものではない。また,特に「U
V−Bフィルター」を「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホ
ン酸」に特定することによる効果については,何ら具体的に記載されてい
ない。よって,本願明細書の記載からは,格別予想外の効果が奏されたも
のとすることはできない。
なお,平成19年3月19日付けの審判請求理由補充書において【参考
資料1】として記載された本願発明(請求項1の組成物)のSPF又はP
PDに関する効果については,本願明細書には「UV−Bフィルター」を
「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」に特定すること
による効果が何ら具体的に記載されていないので,参酌することができな
い。仮にこれを参酌したとしても,SPF又はPPD値自体がUV線に対
する効果の指標であるから,UV−Bフィルターとして代表的な成分の中
から「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」を選定する
際に当然その値を確認しつつ選定をするものと理解されるので,そのよう
なSPF又はPPDに関する効果をもって,当業者が予期し得ない格別予
想外のものであるとすることはできない(審決書4頁23行∼6頁10
行)。
第3当事者の主張
1審決の取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)審判請求理由補充書の実験結果を参酌するこ
とができないとした判断の誤り,(2)本件【参考資料1】実験の結果を参酌し
ても,顕著な作用効果がないとした判断の誤りがあり,審決は,特許法29条
2項の発明の容易性の判断を誤ったものであるから,取り消されるべきであ
る。
(1)審判請求理由補充書の実験結果を参酌することができないとした判断の
誤り
「UV−Bフィルター」を「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−ス
ルホン酸」に特定することによる,本願発明の効果に関して,本願に係る願
書に最初に添付した明細書(以下「本願当初明細書」という。)には,数値等を
示して明記されているわけではないものの,本願当初明細書の記載から,当
業者であれば,本願発明の効果は記載されていると読むことができるから,
原告が提出した,審判請求理由補充書における【参考資料1】記載の実験
(以下「本件【参考資料1】実験」という場合がある。)結果を参酌すべき
である。これを参酌することができないとした審決の判断は,誤りである。
すなわち,
ア本願当初明細書には,本願発明の作用効果について,「本発明の組成物
は,UVAを吸収するジベンゾイルメタン日焼け止め剤活性種,すでに定
義された安定剤,UVB日焼け止め剤活性種,及びキャリアを含み,実質
的にはベンジリデンカンファー誘導体を含まない組成物であるが,現在,
驚くべきことに,本組成物が優れた安定性(特に光安定性),有効性,及び
紫外線防止効果(UVA及びUVBのいずれの防止作用を含めて)を,安
全で,経済的で,美容的にも魅力のある(特に皮膚における透明性が高
く,過度の皮膚刺激性がない)方法で提供することが見出されている。」
(甲3,段落【0011】)と記載されており,本願発明の組成物の作用
効果に関する定性的な記載がある。また,本願当初明細書には,UVB日
焼け止め剤活性種(UV−Bフィルター)について,「好ましいUVB日
焼け止め剤活性種は,2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン
酸,TEAサリチレート,オクチルジメチルPABA,酸化亜鉛,二酸化
チタン,及びそれらの混合物から成る群から選択される。好ましい有機性
日焼け止め剤活性種は2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン
酸である」(甲3,段落【0025】)と記載されている。
また,審決中で示された周知例(甲2の1∼9)に示されたように,
「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」が,並列的に記
載された様々な「UV−Bフィルター」の中の1つであることに照らすな
らば,様々な公知の「UV−Bフィルター」の中から「2−フェニル−ベ
ンズイミダゾール−5−スルホン酸」を選択して使用することが好ましい
理由は,本願当初明細書に記載の作用効果がより一層向上するためである
と理解するのが自然である。
そして,本願の優先権主張日の平成10年(1998年)7月30日以
前に,SPF値,PPD値(日本ではPA)は,当該技術分野において紫
外線防止効果の指標として認識されており,その測定方法も知られていた
ことを踏まえると,紫外線防止効果に優れる組成物が示すであろうSPF
値やPPD値は当然に推測可能である。そして,被告主張のとおり,その
SPF値やPPD値に関する技術的意義を考察すると,SPF値は「50
+」,PPD値は「8+」が紫外線防止効果に優れると結論付けられるこ
とにかんがみれば,紫外線防止効果に優れる組成物は,当業者であれば,
「50+」程度のSPF値,「8+」程度のPPD値を示すであろうと容
易に推測することができる。
したがって,「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」
を使用する本願発明の日焼け止め剤組成物のSPF値やPPD値が本願明
細書に具体的に記載されていないとしても,本願明細書の記載及びその出
願当時の技術水準を考慮することにより,当該組成物のSPF値やPPD
値を容易に推論することができるといえる。
イこれに対して,被告は,本願明細書の段落【0022】に,「・・・好
ましい組成物は,広い帯域の紫外線の所望のSPF単位当たりのおよそ2
J/cm,例えば,SPF15の組成物は30J/cmの照射後に,そ22
れらの当初の紫外線吸収度の少なくとも約85%,更に好ましくは少なく
とも約90%を維持する。」との記載がされていることからすると,本願
明細書ではSPF値として15を含む範囲を想定していたことが伺われ,
仮に好ましい場合には,これを超えるものとしても,それほど大きくかけ
離れた値とはならないものと理解するのが相当である,よって,SPF値
の上限値50を超えるような原告主張の効果が記載されていると当業者が
推論することはできない,と主張する。
しかし,上記段落部分は,「例えば・・・」と記載されているように一
例を示したにすぎない上,あくまでも本願発明の組成物の光安定性試験の
評価基準を説明したにすぎず,本願発明の組成物が示すSPF値そのもの
を表記したものではない。よって,被告の主張は理由がない。
ウ以上のとおり,審判請求理由補充書の本件【参考資料1】実験の結果を
参酌すべきであり,これを参酌することができないとした審決の判断は誤
りである。
(2)本件【参考資料1】実験の結果を参酌しても,顕著な作用効果がないと
した判断の誤り
ア一般的に,SPF値はUVBに対する防止効果,PPD値はUVAに対
する防止効果を示し,これらの値が大きいほど広域スペクトル(UVA及
びUVBの両方の領域)の紫外線防止効果が優れていると判断されるとこ
ろ,審判請求理由補充書の本件【参考資料1】実験の結果によれば,本願
発明(実施例1)は,従来品(比較例1∼4)に対して,SPF値につい
ては約3ないし10倍と格段に高く,PPD値についても約1.1ないし
2倍と高い。さらに,日焼け止め剤組成物には,紫外線照射によって紫外
線防止効果が低下しないこと(光安定性)も必要とされるところ,本願発
明は従来品に対して,紫外線照射後においても格段に高いSPF値及びP
PD値を維持している。
イ本件訴訟において,原告が実施した別紙「本件追加比較実験組成物デー
タ」の比較例5及び6に係る実験(以下「本件追加比較実験」という場合
がある。)の結果によれば,本願発明が顕著な作用効果を有するといえ
る。本件追加比較実験のデータは,1%の2−フェニル−ベンズイミダゾ
ール−5−スルホン酸を水に溶解したもの(比較例5)と,日焼け止め剤
活性種として1%の2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸
のみを他の成分と共に含む組成物(比較例6)の比較実験データである。
これらの詳細な組成は,別紙「本件追加比較実験組成物データ」(本件
【参考資料1】実験の結果も含む。)のとおりである。また,その日焼け
止め剤組成物の調製方法,評価方法,実験実施者等は,別紙「本件各実験
における日焼け止め剤組成物の調製方法,評価方法,実験実施者等」のと
おりである。
上記各組成物を用いてインビトロPPDスコア及びインビトロSPFス
コアを測定した結果は,別紙「本件追加比較実験の測定結果表」のとおり
であり,日焼け止め剤活性種として2−フェニル−ベンズイミダゾール−
5−スルホン酸のみを含む比較例5及び6では,インビトロPPDスコア
だけでなくインビトロSPFスコアも低く,広域スペクトルの紫外線(U
VA及びUVB)防止効果が十分に得られない。したがって,本願発明
は,2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸を他の特定成分
と組み合わせることにより,各成分が互いに有機的に作用し合う結果とし
て,顕著な作用効果(広域スペクトルの紫外線防止効果及び光安定性が顕
著に優れるという作用効果)がある。
ウ上記のような顕著な作用効果があるにもかかわらず,審決は,紫外線防
止効果を一般的指標であるSPF値等で確認し得たことのみを理由とし
て,前記効果が当業者において予想し得た範囲内のものであると判断した
から,誤りである。すなわち,日焼け止め剤組成物の分野においては,一
般的にUV線に対する効果(紫外線防止効果)が重要な性能の1つとされ
ており,紫外線防止効果を向上させることを目的とした研究開発が盛んに
行われていることにかんがみれば,紫外線防止効果の指標としてSPF値
及びPPD値が一般的に使用され,これらの値を当然に確認することがで
きるからという理由のみによって,SPF値及びPPD値を用いて表した
本願発明の紫外線防止効果が当業者の予想範囲内のものであるとした審決
の判断は誤りである。
2被告の反論
(1)審判請求理由補充書の実験結果を参酌することができないとした判断の
誤りに対し
審判請求理由補充書の中の【参考資料1】として記載された本願発明のS
PF又はPPDに関する効果は,本願当初明細書の記載から当業者が推論で
きない。したがって,本件【参考資料1】実験の結果を参酌することができ
ないとした審決の判断に誤りはない。
アSPF値及びPPD値について
一般に,「SPF」とは,「SunProtectionFactor:サンプロテクシ
ョンファクター」の略であって,UVBの防御レベルを示し,日焼け止め
剤(サンスクリーン)で保護された皮膚の最小紅斑量(MED;紫外線照
射ののち16∼24時間でわずかに認知できるサンバーンを生じさせるの
に要する紫外線の最小量)と保護されていない素肌のMEDとの比で表さ
れる(乙1,72頁∼75頁)。本願当初明細書(甲3)の段落【002
0】にも,「SPFは通常,紅斑に対する日焼け止め剤の光防護性の尺度
として使用される。SPFは,保護していない皮膚に最小の紅斑を生じる
のに必要な紫外線エネルギーに対する,同一人物の保護している皮膚に同
一の最小の紅斑を生じるのに必要な紫外線エネルギーの比率として定義さ
れる。」と記載されている。
そして,通常,SPFの表示数値には上限があり,「50+」が最高で
ある(乙1,72頁∼75頁)。他方,「PPD」は,「PersistantPig
mentDarkening:持続的即時黒化」の略であって,UVAの防御レベルを
示し,UVAを照射して皮膚に現れた持続的即時黒化量について,日焼け
止め剤で保護された皮膚と保護されていない皮膚との間で比較を行うもの
であり,その比率はPPD値(PPDrating)とも,UVAプロテクション
ファクターとも呼ばれ(乙2),PFA値と同義である(乙1,75頁∼
77頁)。日本では,PPDは「PA(ProtectiongradeofUVA)」と表現
され,通常「PA+」(UVA防止効果がある),「PA++」(UVA
防止効果がかなりある),「PA+++」(UVA防止効果が非常にあ
る)と表示されており,それぞれPPDに換算すると,「2∼4」,「4
∼8」,「8+」に相当する(乙1,75頁,乙2)。
このように,SPF及びPPD(日本ではPA)は共に紫外線の害から
肌を防御するために役立つ指標として当技術分野において広く知られてお
り,SPFとPPD(PA分類)を目安にして,TPOに合わせて,日焼
け止め剤が使い分けられている(乙1,102頁∼105頁)。
イ審判請求理由補充書の実験結果が,当業者において本願当初明細書から
推論できないことについて
審判請求理由補充書の実験結果によれば,その実施例1においては,S
PFについては,UV照射前(59.4),UV照射後(57.6)とも
60近い値であって,SPFの上限である「50+」に相当するものであ
り,また,PPDについても,UV照射前(16.0),UV照射後(1
3.7)とも10を超える値であって,やはりPPDの上限である「8
+」に相当するものであるから,本件【参考資料1】実験における実施例
1のSPF値及びPPD値は,当技術分野において高い値であるといえ
る。
しかし,以下のとおり,審判請求理由補充書の本件【参考資料1】実験
の結果として記載された本願発明のSPF値又はPPD値は,本願当初明
細書の記載から当業者が推論できるとは認められない。すなわち,
(ア)本願当初明細書には,「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−
スルホン酸」を使用した日焼け止め剤組成物に関する具体的な記載とし
ては,段落【0054】ないし【0057】に「【実施例】」と称する
処方例及び調製方法に関する記載があるにすぎず,SPF値やPPD値
といった指標により当該組成物の作用効果を客観的に理解できるような
記載や定性的な記載はない。
(イ)本願当初明細書(甲3)の段落【0011】には,「本発明の組成
物」につき,「本組成物が優れた安定性(特に光安定性),有効性,及
び紫外線防止効果(UVA及びUVBのいずれの防止作用を含めて)

を,安全で,経済的で,美容的にも魅力のある(特に皮膚における透明
性が高く,過度の皮膚刺激性がない)方法で提供することが見出されて
いる。」と記載され,組成物全体として奏する効果については定性的に
述べた記載はある。
しかし,上記「本組成物」とは,出願当初より補正されていないの
で,本願当初明細書の請求項1に記載された「組成物」,すなわち「有
機性日焼け止め剤活性種,無機性物理的日焼け止め剤,及びそれらの混
合物から成る群から選択される安全で且つ有効な量のUVB日焼け止め
剤」を使用した組成物を意味するものと解されるのであって,UVB日
焼け止め剤として特定の「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−ス
ルホン酸」を使用する組成物に限定された記載であるとすることはでき
ない。
また,前記段落【0011】の記載は,どの程度のレベルのSPF値
やPPD値を有するものであるのかについて推測し得るものではなく,
一般的なものにすぎない。
必要とされる紫外線防止効果は,生活シーンに応じて,異なるはずで
ある。例えば,夏山登山や海水浴等ハードなレジャーの場合であれば,
SPF値50(又は50+)程度,PA+++程度という最高レベルの
指標を有する日焼け止め剤組成物でなければ,「優れた」紫外線防止効
果を奏するとはいえないが,日中の散歩や買い物等通常の生活において
は,SPF値10程度,PA+程度の指標を有する日焼け止め剤であっ
ても「優れた」紫外線防止効果を奏するものと認められ,日焼け止め剤
は最高レベルの指標を有する必要はない(乙1,104頁の図4−1
2)。したがって,「優れた」紫外線防止効果を奏する日焼け止め剤で
あれば,必ず最高レベルのSPF値(50+)やPPD値(8+)
(「PA+++」と技術的に同義(乙2))を有することを意味すると
は,限らない。
(ウ)本願当初明細書の段落【0025】には,本願発明に配合する好ま
しいUVB日焼け止め剤活性種は,汎用の有機性の物質(2−フェニル
−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸,TEAサリチレート,オクチ
ルジメチルPABA)又は無機性の物質(酸化亜鉛,二酸化チタン)の
5種類であって,中でも「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−ス
ルホン酸」,酸化亜鉛及び二酸化チタンの3種がより好ましいことが記
載されている。
しかし,本願当初明細書の段落【0022】には,「好ましい組成物
は,広い帯域の紫外線の所望のSPF単位当たりのおよそ2J/cm
,例えば,SPF15の組成物は30J/cmの照射後に,それらの22
当初の紫外線吸収度の少なくとも約85%,更に好ましくは少なくとも
約90%を維持する。」と記載されていることに照らすならば,本願当
初明細書ではSPF値として15を含む範囲が想定されていたことがう
かがわれ,仮に好ましい場合にはこれを超えるものであるとしても,そ
れほど大きくはかけ離れた値とはならないものと解される。したがっ
て,本願当初明細書の記載から当業者が推測し得ることは,「UV−B
フィルター」成分としては,「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5
−スルホン酸」,「酸化亜鉛」及び「二酸化チタン」がおおむね同程度
の効果を奏するものとして選択可能であり,また,その作用効果につい
ても,あくまで段落【0011】に記載された一般的な表現によって示
される範囲内でのものであって,SPF値としても15をそれほど大き
くは超えない程度のものであると理解される。よって,本件【参考資料
1】実験の結果のSPF値及びPPD値については,当業者が推論でき
る範囲を超えている。
ウ以上のとおり,本件【参考資料1】実験の結果に記載された本願発明の
SPF値又はPPD値に係る効果は,本願明細書の記載から当業者におい
て推論することができるとは認められないから,本件【参考資料1】実験
の結果を参酌することができないとした審決の判断に誤りはない。
(2)本件【参考資料1】実験の結果を参酌しても,顕著な作用効果がないと
した判断の誤りに対し
ア「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」は,「UV−
Bフィルター」として,本願の優先権主張日の前に広く知られており,か
つ,様々な商品名で既に上市されていたものであるから,当業者であれ
ば,引用発明に好適な「UV−Bフィルター」として,「2−フェニル−
ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」を配合することは自然になし得
る。
乙1によれば,本願の優先権主張日である平成10年7月30日以前
に,SPF値,PPD値(日本ではPA値)は当技術分野において紫外線
防止効果の指標として認識されており,その測定方法も知られ,日本にお
いては,SPF表示については平成4年(1992年)に,PA表示につ
いては平成8年(1996年)に既に行われていた(乙1,72頁参照)
のであるから,代表的なUV−Bフィルターを用いて調製した限られた数
の日焼け止め剤組成物について,当業者であれば,このような測定方法を
用いて紫外線防止効果の指標を測定しその効果を確認することは容易であ
る。
したがって,本願発明の作用効果は当業者がごく自然になし得る構成に
対して,通常行われる測定方法に基づいて確認される程度のものであるか
ら,本件【参考資料1】実験の結果に基づく作用効果の確認をもって,本
願発明の作用効果が当業者にとって予測困難な格別顕著なものであるとす
ることはできない。
イ以下の各記載事項によれば,複数の紫外線防御剤の組合せによる相乗効
果が生じることは周知であった。
(ア)審決が周知例として引用した甲2の1及び甲2の3には,次の記載
がある。
「本発明に従って用いられる化合物は対応する調剤中で唯一のUV吸収
剤として用いることができるが,これらは他のUV吸収剤,特にUV−
B吸収剤と組み合わせて用い,UV−A+B広範囲吸収を達成すること
もでき,又は光安定性の低いジベンゾイルメタン誘導体(例えばブチル
メトキシジベンゾイル−メタン又は4−イソプロピル−ジベンゾイルメ
タン)と共にそれらの安定化のために用いることもできる。…」(甲2
の1,段落【0050】)
「【発明の効果】本発明の方法によって調製されたエマルジョンの測定
されたSPF値は,予想されているものよりかなり高い。例えば,二酸
化チタン4%を含有し,有機サンスクリーンを含有しないエマルジョン
は,生体外のSPF値6を持つことが示された。以前の経験は,組成物
へ,フェニルベンズイミダゾールスルホン酸(商品名ユーソレックス(E
usolex)232)を3%添加することによって,SPF値を12に増大
させることを示している。事実,本発明の方法によって調製された二酸
化チタンを4%及びユーソレックス232を3%の組合せを含むエマル
ジョンは,15よりも大きいSPF値を有することが判った。」(甲2
の3,段落【0028】)
(イ)また,原告が本件出願前の公知技術を示す証拠として提示した甲8
の2にも,次の記載がある。
「種々の製品の組成物を検討した結果,得られた平均保護ファクター
を,以下の表1に示す。
【表1】(略)
上記結果から明らかに,本発明による製品1および2を用いて得られ
た相乗効果を示しており,該製品に備わったサン・プロテクション・フ
ァクターは,いずれか1つの遮断剤のみを含有する対応する比較製品の
サン・プロテクション・ファクターの単なる合計よりも,全ての場合に
おいて,顕著に向上している。」(甲8の2,段落【0024】∼【0
025】)
(ウ)以上の甲2の1,甲2の3,及び甲8の2の記載によれば,当該技
術分野においては,安定性の補強や最終的なSPFの向上などある程度
の相乗効果を示すことを期待し,複数の紫外線防御剤を組み合わせて配
合した日焼け止め剤組成物とすることは広く行われていることであると
認められる。したがって,審決の判断は,上記の技術的背景からも妥当
である。
ウ本件【参考資料1】実験の結果及び本件追加比較実験の結果と本願明細
書の実施例との不一致
本件【参考資料1】実験及び本件追加比較実験(以下「本件各実験」と
いう場合がある。)は,組成及び調製方法において,本願明細書の実施例
I又はIIと一致しない。すなわち,本件【参考資料1】実験の結果の実
施例1と本願明細書の段落【0055】の【表1】における実施例I又は
IIとは,その日焼け止め剤組成物のUVAフィルター成分,UVBフィ
ルター成分,及び安定剤という3種の成分の配合量が一致しない。また,
前記3成分以外の成分についても,両者で共通する「グリセリン」,「ト
リエタノールアミン」,「メチルパラベン」等の成分の配合量を異にして
おり,さらに,本件各実験結果の実施例1においては,本願明細書には何
ら記載のない「C12∼C15アルコールベンゾエート」を多量に使用し
ている。
次に,日焼け止め剤組成物の調製方法についても,水相については,本
件各実験では「室温条件下において」混合調製されているのに対し,本願
明細書の実施例では「80℃に加熱」して調製されており,油相について
も,本件各実験結果では「70℃に加熱しながら混合する」ことで調製さ
れているのに対し,本願明細書の実施例では「80℃に加熱」し調製され
ている。また,「エンスリゾール(フェニルベンズイミダゾールスルホン
酸)」を含有するプレミックスを添加する際の温度についても,本件各実
験では「室温」とされているのに対し,本願明細書では「約45℃」とさ
れている。さらに,本件各実験では水相(プレミックス1)を調製する時
点で「70質量部の水」という多量の水を使用しているのに対し,本願明
細書の実施例では「4%の水」が使用されているにすぎず,水相と油相を
混合しすべての成分を配合し終わる最後の段階で多量の水を加えている。
このように,本件各実験の結果は,本願明細書に具体的に記載のある実
施例I又はIIについての作用効果を直接示すものではない。
本件各実験の結果は,異なる組成を用い,かつ異なる方法により調製さ
れた日焼け止め剤組成物についての作用効果を示すものであるから,発明
の効果が顕著であったことを示すものではない。
また,特定の成分を特定の配合割合で含む1例(本件各実験結果の実施
例1)にすぎない実験結果によって,特許請求の範囲全体にわたり本願発
明の作用効果が示されたとすることもできない。
エ日焼け止め剤の技術分野において,高いSPF値とPPD値を追求する
ことだけが必ずしも優れた作用効果であるとすることは妥当ではない。そ
の理由は以下のとおりである。
(ア)乙1,乙3,及び乙4には,次の記載がある(下線は,判決におい
て付した。)。
「(d)表示の上限
試料のSPFが50以上で,95%信頼限界の下限値が51.0以上
の場合はSPF50+とし,下限値が51.0に満たない場合はSPF
50と表示することになりました。SPF50+とした理由は,新JC
IA法の注解で『①ある一定以上の測定値では,測定誤差がなお大きい
こと,②日焼け止め化粧品の機能である日焼けを防止するためには,S
PF50あればよいと考えられること。しかし非常に紫外線に対して敏
感な人や,非常に紫外線の強い地域を考慮し,SPF50よりも明らか
に効果の高い日焼け止め化粧品にはSPF50+の表示ができるように
した』と説明されています。その他,米国やオーストラリアにおいて上
限(30+)が設定されていることも考慮されています。」(乙1,8
6頁下から3行∼87頁8行)
「新JCIA法
一方,日本市場では,表示されるSPFの数値は毎年確実に高くな
り,JCIA法では,SPFが高くなればなるほど,測定されるSPF
に大きな差の出る可能性が顕在化してきました。
そこで日本化粧品工業連合会は,紫外線専門委員会において,JCI
A法の改定について1997年10月より検討を開始しました。検討を
重ねた結果,前述のように高いSPFの測定に対する信頼性を高めるた
めに測定条件に変更を加えました。しかしながら,それでもある一定以
上の測定値に関しては誤差が大きくなること,国際的に見た場合には,
アメリカ,オーストラリア/ニュージーランドでは,表示SPFに上限
が設けられていること等からSPF表示に上限を設定することとし,そ
の上限値をSPF50+としました。」(乙1,95頁11行∼末行)
「SPFは通常肌では30もあれば十分であり,まれによほど敏感な肌
でも,せいぜい60程度まででしょう。それ以上高くしても,効果に大
差はありません。むしろSPFを極端に高くするために無理をすると,
肌に負担をかけたり使用感などを犠牲にすることになってしまいます。
TPOに応じて適正なSPFを選択することが大切であり,むしろでき
るだけ早い時期から,紫外線対策をしておくことが必要でしょう。」
(乙3,107頁下から4行∼108頁3行)
「SPFとは,UVケア化粧品を塗布したときに皮膚がわずかに赤くな
るのか,塗布しないときの何倍の紫外線を浴びたかを示したもので,数
値で示します。測定はヒトを被験者とし,UVB領域が太陽光と類似し
た光源を用います。皮膚に試料塗布部と試料無塗布部を作り,紫外線を
照射し,照射後16∼24時間に皮膚反応を観察しわずかに赤くなった
部位の紫外線量を最小紅斑量(MED)とし,両者のMEDの比からS
PFを算出します。実使用上極端に高い値のものが必要ないこと,およ
び無意味な数値競争を避けるため,51以上をSPF50+と表示しま
す。」(乙4,上段140頁3行∼13行)
(なお,乙1は2000年に発行されたものであるが,1997年には
高いSPF表示に関する問題について既に認識されていたことが記載さ
れている。また,乙3は本願の優先権主張日の11日後である1998
年8月10日に発行されたものである。さらに,乙4は2009年に発
行されたものである。よって,本願の優先権主張日においても現在にお
いても「50+」というSPF値に対する評価は変わりがない。)
(イ)以上の乙1,乙3,及び乙4に記載によれば,日焼け止め剤の通常
の使用においてSPF値を必要以上に高くする必要はなく,むしろ,S
PF値が高くなるにつれて,測定誤差が大きくなるため紫外線吸収効果
の指標としての信頼性が低くなるおそれがあり,また,無理にSPF値
を高くするとかえって肌に負担がかかり使用感が犠牲となってしまうと
いえる。実際に,日焼け止め剤のSPFが50+という高いレベルを必
要とするのは,炎天下のスポーツや海水浴等紫外線の強い条件の下ハー
ドなレジャーを行ったり,紫外線に対し非常に敏感な肌を有している等
限られた場面であって,通常の肌の持ち主が散歩や外出等通常の生活に
おいて使用する際の日焼け止め剤に求められるSPF値は10∼30程
度であって,それ以上高くしても効果に大差は認められない。そして,
SPFに関するこのような理解は,SPF値が高くなるにつれて測定誤
差が大きくなり,また,無意味な数値競争を避けるためにSPF値の上
限を「50+」とした経緯とも整合する。
オ原告が主張するSPF値が「50+」であるという本願発明の作用効果
とは,ヒトを被験者としたインビボのデータではなく,人工皮膚試験基質
を用いたインビトロのデータであるから,本願発明の組成物(実施例1)
をヒトに用いた場合に50+のSPF値が得られるが定かではないが,仮
に得られたところで,データの信頼性での問題や使用感の劣化が予想され
ることから,紫外線防止効果の指標で50+という必要以上に高い値であ
ったということのみをもって日焼け止め剤組成物の作用効果が顕著である
と直ちに判断することは妥当ではない。
カまとめ
以上によれば,仮に本件【参考資料1】実験の結果を参酌することがで
きるとしても,本願発明の日焼け止め剤組成物の作用効果が顕著であると
はいえないから,審決がその顕著な作用効果を看過し,特許法29条2項
に係る判断を誤ったものであるとはいえない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,(1)本願発明の容易想到性の判断に当たり,本願当初明細書に
は,「UV−Bフィルター」として「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−
スルホン酸」と特定したことによる本願発明の効果に関する記載がされていると
理解できるから,本件においては,本願発明の効果の内容について,審判手続に
おいて原告から提出された,審判請求理由補充書における本件【参考資料1】実
験の結果を参酌することが許される場合であると判断すべきであり,したがっ
て,これに反して,審決が,同実験結果を参酌すべきでないとした判断には誤り
があり,また,(2)本願発明は,同実験結果を参酌すれば,引用発明に比較して
当業者が予期し得ない格別予想外の顕著な効果を奏するものであって,引用発明
から容易に発明をすることができなかったというべきであるから,審決が,本願
発明は予想外の顕著な効果を奏するとはいえず,引用発明から容易に発明をする
ことができたとした点に誤りがあると解する。その理由は,以下のとおりであ
る。
1審判請求理由補充書の実験結果を参酌することができないとした判断の誤り
について
(1)審決は,本願発明が,特許法29条2項の要件を充足しないことを理由
とするものである。
ところで,特許法29条2項の要件充足性を判断するに当たり,当初明細
書に,「発明の効果」について,何らの記載がないにもかかわらず,出願人
において,出願後に実験結果等を提出して,主張又は立証することは,先願
主義を採用し,発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという
特許制度の趣旨に反することになるので,特段の事情のない限りは,許され
ないというべきである。
また,出願に係る発明の効果は,現行特許法上,明細書の記載要件とはさ
れていないものの,出願に係る発明が従来技術と比較して,進歩性を有する
か否かを判断する上で,重要な考慮要素とされるのが通例である。出願に係
る発明が進歩性を有するか否かは,解決課題及び解決手段が提示されている
かという観点から,出願に係る発明が,公知技術を基礎として,容易に到達
することができない技術内容を含んだ発明であるか否かによって判断される
ところ,上記の解決課題及び解決手段が提示されているか否かは,「発明の
効果」がどのようなものであるかと不即不離の関係があるといえる。そのよ
うな点を考慮すると,本願当初明細書において明らかにしていなかった「発
明の効果」について,進歩性の判断において,出願の後に補充した実験結果
等を参酌することは,出願人と第三者との公平を害する結果を招来するの
で,特段の事情のない限り許されないというべきである。
他方,進歩性の判断において,「発明の効果」を出願の後に補充した実験
結果等を考慮することが許されないのは,上記の特許制度の趣旨,出願人と
第三者との公平等の要請に基づくものであるから,当初明細書に,「発明の
効果」に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の
効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場
合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌
することは許されるというべきであり,許されるか否かは,前記公平の観点
に立って判断すべきである。
(2)上記観点から,本件について検討する。
本願当初明細書(甲3,段落【0011】)には,本願発明の作用効果に
ついて,「本発明の組成物は,UVAを吸収するジベンゾイルメタン日焼け
止め剤活性種,すでに定義された安定剤,UVB日焼け止め剤活性種,及び
キャリアを含み,実質的にはベンジリデンカンファー誘導体を含まない組成
物であるが,現在,驚くべきことに,本組成物が優れた安定性(特に光安定
性),有効性,及び紫外線防止効果(UVA及びUVBのいずれの防止作用
を含めて)を,安全で,経済的で,美容的にも魅力のある(特に皮膚におけ
る透明性が高く,過度の皮膚刺激性がない)方法で提供することが見出され
ている。」との記載がある。
また,本願当初明細書(甲3,段落【0025】)には,UVB日焼け止
め剤活性種(UV−Bフィルター)について,「好ましいUVB日焼け止め
剤活性種は,2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸,TEA
サリチレート,オクチルジメチルPABA,酸化亜鉛,二酸化チタン,及び
それらの混合物から成る群から選択される。好ましい有機性日焼け止め剤活
性種は2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸である」との記
載がある。
さらに,「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」は,並
列的に記載された様々な「UV−Bフィルター」の中の1つとして公知のも
のである(甲2の1∼9)。
以上の記載に照らせば,本願当初明細書に接した当業者は,「UV−Bフ
ィルター」として「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」
を選択した本願発明の効果について,広域スペクトルの紫外線防止効果と光
安定性を,より一層向上させる効果を有する発明であると認識するのが自然
であるといえる。
他方,本件【参考資料1】実験の結果によれば,本願発明の作用効果は,
①本願発明(実施例1)のSPF値は「50+」に,PPD値は「8+」に
各相当し,従来品(比較例1∼4)と比較すると,SPF値については約3
ないし10倍と格段に高く,PPD値についても約1.1ないし2倍と高い
こと(広域スペクトルの紫外線防止効果に優れていること),②本願発明は
従来品に対して,紫外線照射後においても格段に高いSPF値及びPPD値
を維持していること(光安定性に優れていること)を示しており,上記各点
において,顕著な効果を有している。
確かに,本願当初明細書には,本件【参考資料1】実験の結果で示された
SPF値及びPPD値において,従来品と比較して,SPF値については約
3ないし10倍と格段に高く,PPD値についても約1.1ないし2倍と高
いこと等の格別の効果が明記されているわけではない。しかし,本件におい
ては,本願当初明細書に接した当業者において,本願発明について,広域ス
ペクトルの紫外線防止効果と光安定性をより一層向上させる効果を有する発
明であると認識することができる場合であるといえるから,進歩性の判断の
前提として,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許され,ま
た,参酌したとしても,出願人と第三者との公平を害する場合であるという
ことはできない。
(3)被告の主張に対する判断
ア被告は,前記段落【0011】でいう「本組成物」とは,同段落が出願
当初より補正されていないことからみて,本願当初明細書の請求項1に記
載された「組成物」,すなわち「有機性日焼け止め剤活性種,無機性物理
的日焼け止め剤,及びそれらの混合物から成る群から選択される安全で且
つ有効な量のUVB日焼け止め剤」を使用した組成物を意味するものと理
解されるのであって,補正後にUVB日焼け止め剤として特定された「2
−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」を使用する組成物に
限定された記載ではない,と主張する。
しかし,被告の主張は採用の限りでない。すなわち,平成17年5月9
日付け手続補正書(甲4)により補正された段落【0012】には,「本
発明は日焼け止め剤としての使用に好適な組成物に関するものであり,そ
の際その組成物は,a)・・・b)・・・c)0.1∼4重量%の,2−
フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸であるUVB日焼け止め
剤活性種;及びd)・・・を含み,」と記載されているから,段落【00
11】でいう「本組成物」も特許請求の範囲の請求項1に記載されたもの
に定義されるものと理解され,その補正の効果は出願当初に遡るのである
から,被告の前記主張は採用の限りでない。
イまた,被告は,段落【0011】の記載は,本願発明の効果についての
一般的な記載に止まるものであって,本願当初明細書によっては,どの程
度のSPF値やPPD値を有するかについて推測し得ないと主張する。
しかし,被告の主張は採用の限りでない。すなわち,被告の主張を前提
とすると,本願当初明細書に,効果が定性的に記載されている場合や,数
値が明示的に記載されていない場合,発明の効果が記載されていると推測
できないこととなり,後に提出した実験結果を参酌することができないこ
ととなる。このような結果は,出願人が出願当時には将来にどのような引
用発明と比較検討されるのかを知り得ないこと,審判体等がどのような理
由を述べるか知り得ないこと等に照らすならば,出願人に過度な負担を強
いることになり,実験結果に基づく客観的な検証の機会を失わせ,前記公
平の理念にもとることとなり,採用の限りでない。
ウさらに,被告は,以下のとおり主張する。すなわち,本願明細書の段落
【0022】には,「・・・好ましい組成物は,広い帯域の紫外線の所望
のSPF単位当たりのおよそ2J/cm,例えば,SPF15の組成物2
は30J/cmの照射後に,それらの当初の紫外線吸収度の少なくとも2
約85%,更に好ましくは少なくとも約90%を維持する。・・・」との
記載によれば,本願明細書ではSPF値として15を含む範囲を想定して
いたことが推認される,したがって,当業者は,SPF値としても15か
らそれほど大きくは超えない程度のものと理解するのが相当であるから,
本願明細書の記載から,本件【参考資料1】実験の結果で示されるよう
な,SPF値又はPPD値に係る発明の効果までは推論できない,と主張
する。
しかし,被告の主張は採用の限りでない。すなわち,本願明細書の段落
【0022】の記載は,本願発明の組成物の光分解に対する紫外線吸収度
の安定性に関するものであって,SPF値15の場合の本願発明の組成物
を例に取って,好ましい紫外線吸収度の維持のされ方を説明したものにす
ぎず,本願発明の組成物のSPF値が15近辺にとどまることを示したも
のであるとはいえない。
(4)以上のとおり,本件においては,本願当初明細書に接した当業者におい
て,本願発明について,広域スペクトルの紫外線防止効果と光安定性をより
一層向上させる効果を有する発明であると認識することができる場合である
といえるから,進歩性の判断の前提として,出願の後に補充した実験結果等
を参酌したとしても,出願人と第三者との公平を害する場合であるというこ
とはできない。
本件【参考資料1】実験の結果を参酌すべきでないとした審決の判断は,
誤りである。
2本件【参考資料1】実験の結果を参酌しても,顕著な作用効果はないとした
審決の判断の誤りについて
当裁判所は,本件各実験の結果によれば,本願発明に係る日焼け止め剤組成
物の作用効果(広域スペクトルの紫外線防止効果及び光安定性が優れていると
いう作用効果)は,当業者にとって予想外に顕著なものであったと解すべきで
あり,これに反して,紫外線防止効果を一般的指標であるSPF値等で確認し
得たことなどを理由として当業者が予想し得た範囲内であるとした審決の判断
には誤りがあると判断する。その理由は,以下のとおりである。
(1)平成19年3月19日付け手続補正書(甲6)により補正された審判請
求書にある本件【参考資料1】実験の結果(別紙「本件【参考資料1】実験
の結果」)によれば,[表1]の実施例1が,本願発明の組成物に相当する
ものであり,比較例1は,実施例1において,エンスリゾール(「2−フェ
ニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」)に代えて水を同量配合した
ものであり,比較例2ないし4は,実施例1において,エンスリゾール
(「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」)に代えて,
「オクチノキセート」,「オキシベンゾン」又は「メチルベンジリデンカン
ファ」を,同量配合したものである。そして,[表2]のSPF及びPPD
の値をみると,前記のとおり,①本願発明(実施例1)のSPF値は「50
+」に,PPD値は「8+」に各相当し,従来品(比較例1∼4)と比較す
ると,SPF値については約3ないし10倍と格段に高く,PPD値につい
ても約1.1ないし2倍と高いこと(広域スペクトルの紫外線防止効果に優
れていること),②本願発明は従来品に対して,紫外線照射後においても格
段に高いSPF値及びPPD値を維持していること(光安定性に優れている
こと)を認めることができる。
(2)他方,本件訴訟係属中に原告が実施した本件追加比較実験の結果によれ
ば,1%の2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸を水に溶解
したもの(比較例5)と,日焼け止め剤活性種としては1%の2−フェニル
−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸のみを含み,日焼け止め剤活性種以
外の他の成分を共に含む組成物(比較例6。その詳細な組成は,別紙「本件
追加比較実験組成物データ」のとおり)について,インビトロSPFスコア
及びインビトロPPDスコアを測定した結果は,別紙「本件追加比較実験の
測定結果表」のとおりであり,日焼け止め剤活性種として2−フェニル−ベ
ンズイミダゾール−5−スルホン酸のみを含む比較例5及び6では,インビ
トロPPDスコアだけでなくインビトロSPFスコアも低く,広域スペクト
ルの紫外線(UVA及びUVB)防止効果を十分に得ることができないもの
であるといえる(弁論の全趣旨)。
なお,本件各実験における日焼け止め剤組成物の調製方法,評価方法,実
験実施者等については,原告において別紙「本件各実験における日焼け止め
剤組成物の調製方法,評価方法,実験実施者等」のとおりであることを明確
にしており,実験能力等を有する利害関係者による詳細な反対立証もされ得
ない現段階においては本件各実験の信用性を左右するに足りる証拠はないと
いえる。
(3)そうすると,本願発明は,2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−ス
ルホン酸を他の特定成分と組み合わせることにより,各成分が互いに作用し
合う結果として,当業者において予想外の顕著な作用効果(広域スペクトル
の紫外線防止効果及び光安定性が顕著に優れるという作用効果)を有するも
のであると認めることができる。
したがって,紫外線防止効果を一般的指標であるSPF値等で確認し得た
ことなどを理由として当業者が予想し得た範囲内であるとした審決の判断は
誤りである。
(4)被告の個別主張に対する判断
アこれに対し,被告は,本願発明の「2−フェニル−ベンズイミダゾール
−5−スルホン酸」は,本願の優先権主張日の前に広く知られた「UV−
Bフィルター」であり,SPF値,PPD値(日本ではPA値)も当技術
分野において紫外線防止効果の指標として認識され,その測定方法も知ら
れていたから,そのように代表的なUV−Bフィルターを用いて調製した
限られた数の日焼け止め剤組成物について,上記の測定方法を用いて紫外
線防止効果の指標を測定しその効果を確認することは当業者であればまず
行うことであるから,そのような作用効果の確認をもって,本願発明の作
用効果が当業者にとって予想外の格別顕著なものであるとはいえないと主
張する。
しかし,被告の主張は,採用の限りでない。すなわち,本願発明の「2
−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」が既に知られた「U
V−Bフィルター」であったとしても,本願発明においては,特定の他の
成分と組み合わせることにより,前記のとおり「2−フェニル−ベンズイ
ミダゾール−5−スルホン酸」固有の紫外線防止効果(本件追加比較実験
の比較例5,6の効果)及び当該他の成分による紫外線防止効果(本件
【参考資料1】実験の比較例1の効果)のそれぞれを著しく超えて,予想
外に優れた相乗効果(本件【参考資料1】実験の実施例1の効果)を奏す
ることが確認できるのであるから,本願発明において既に知られた「UV
−Bフィルター」が用いられたこと自体は,顕著な効果を否定する理由に
はならない。また,その顕著な効果を評価するための方法が周知の方法で
あったとしても,それは,本願発明の顕著な効果を否定する理由にはなり
得ない。
イまた,被告は,本願発明の技術分野においては,安定性の補強や最終的
なSPFの向上などある程度の相乗効果を示すことを期待し,複数の紫外
線防御剤を組み合わせて配合し,日焼け止め剤組成物とすることが広く行
われているから(甲2の1,甲2の3,甲8の2),原告主張の相乗効果
をもって顕著な効果に当たるとはいえないと主張する。
しかし,被告の主張は採用の限りでない。すなわち,同じ技術分野にお
いて他に相乗効果を有する技術開発が広く行われているとしても,前記の
顕著な発明の効果に照らして,本願発明における容易想到性を肯定する理
由にはならない。
ウさらに,被告は,本件各実験は,組成及び調製方法において,本願明細
書の実施例I又はIIと一致しないから妥当でないと主張する。
しかし,被告の主張は採用の限りでない。すなわち,
(ア)本件【参考資料1】実験の結果の実施例1と本願明細書の段落【0
055】の【表1】における実施例I又はIIとは,その日焼け止め剤
組成物のUVAフィルター成分,UVBフィルター成分,及び安定剤と
いう3種の成分の配合量が一致しない。また,「グリセリン」,「トリ
エタノールアミン」,「メチルパラベン」等の成分の配合量においても
相違がある。
しかし,本願発明の範囲は,その実施例1に限定されるものではな
く,本件各実験の上記配合量が本願発明の構成に含まれる以上,本件
【参考資料1】実験の結果の実施例1の効果をもって,本願発明の効果
であるということができるから,被告の主張は,主張自体失当である。
(イ)本件各実験結果の実施例1においては,本願明細書には何ら記載の
ない「C12∼C15アルコールベンゾエート」が多量に使用されてい
るが,それは,本願明細書には,「任意の成分」として,「本発明の組
成物は,それらが本発明の効果を容認できないように変更しないという
条件で,所定の製品の種類に慣例的に使用されるようなその他のさまざ
まな構成成分を含有し得る。」(甲3,段落【0031】)とされてい
る以上,当業者において任意に設計し得る範囲内の事項であるといえる
から,上記の相違は,本件各実験の信用性を否定するに足りるものでは
ない。
(ウ)日焼け止め剤組成物の調製方法についても,水相については,本件
各実験では「室温条件下において」混合調製されているのに対し,本願
明細書の実施例では「80℃に加熱」して調製されており,油相につい
ても,本件各実験結果では「70℃に加熱しながら混合する」ことによ
り調製されているのに対し,本願明細書の実施例では「80℃に加熱」
することにより調製されている。また,「エンスリゾール(フェニルベ
ンズイミダゾールスルホン酸)」を含有するプレミックスを添加する際
の温度についても,本件各実験では「室温」とされているのに対し,本
願明細書では「約45℃」とされている。さらに,本件各実験では水相
(プレミックス1)を調製する時点で「70質量部の水」という多量の
水を使用しているのに対し,本願明細書の実施例では「4%の水」が使
用されているにすぎず,水相と油相を混合し全ての成分を配合し終わる
最後の段階で多量の水を加えている。しかし,本件全証拠によるも,被
告指摘に係る,調製方法における相違があることによって,本件各実験
の信頼性を否定する根拠が認められない以上,被告の主張を採用するこ
とはできない。
エなお,被告は,本願当初明細書には開示も示唆もなかった併用による相
乗効果を主張することは,先願主義を採り発明の開示の代償として特許権
を付与するという特許制度の趣旨からみても許されることではないとも主
張する。
しかし,被告の主張は採用の限りでない。すなわち,前記のとおり,本
願当初明細書には,「現在,驚くべきことに,本組成物が優れた安定性
(特に光安定性),有効性,及び紫外線防止効果(UVA及びUVBのいず
れの防止作用を含めて)を,・・・提供することが見出されている。」
(甲3,段落【0011】),「好ましい有機性日焼け止め剤活性種は2
−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸である」(甲3,段落
【0025】)と記載されているから,当業者は,UVBフィルターとし
て「2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−スルホン酸」を含み,他の
特定成分と組み合わせた本願発明の組成物が優れた紫外線防止効果を有す
ることを理解し,各組成成分の和を超えた相乗効果をも奏し得るであろう
ことを理解することができるといえるから,被告の上記主張は採用の限り
でない。
オまた,被告は,特定の成分を特定の配合割合で含む1例(本件各実験結
果の実施例1)にすぎない実験結果によって,特許請求の範囲全体にわた
って本願発明の作用効果が示されたとすることはできないとも主張する。
しかし,発明の効果について,特許請求の範囲の全体にわたって,あま
ねく実験による確認を求めることは,効果の裏付けのために過度な実験を
要求するものであり,発明の保護の観点に照らして相当ではなく,被告の
主張は,採用の限りでない。
カ被告は,日焼け止め剤の通常の使用においてSPF値を高くする必要は
なく,むしろ,SPF値が高くなるにつれて,測定誤差が大きくなるため
紫外線吸収効果の指標としての信頼性が低くなるおそれがあり,また,無
理にSPF値を高くするとかえって肌に負担がかかり使用感を犠牲にして
しまうから,SPF値(「50+」)とPPD値(「8+」)が高いこと
のみをもって優れた作用効果を奏すると認めることは妥当ではないとも主
張する。
しかし,被告の主張は採用の限りでない。すなわち,仮に,SPF値を
高くするとかえって肌に負担がかかること,使用感が犠牲とされること等
の欠点があったとしても,そのような欠点への対応は,別途考慮すれば足
りるものであり,そのような要素が,容易想到性の判断に影響を与えるこ
とはない。被告の主張は,主張自体失当である。
キなお,被告は,原告が主張するSPF値が「50+」であるという本願
発明の作用効果は,ヒトを被験者としたインビボのデータではなく,人工
皮膚試験基質を用いたインビトロのデータであるから,本願発明の組成物
(実施例1)をヒトに用いた場合に50+のSPF値が得られるか定かで
はないと主張する。
しかし,人工皮膚試験基質を用いたインビトロのデータにおいて優れて
いれば,ヒトの皮膚を対象にした場合にも相対的に優れているであろうと
推論することができるから,被告の主張は,本件各実験の結果の信用性を
否定するのに足りるものではない。
(5)まとめ
以上のとおり,本件においては,本件【参考資料1】実験の結果を参酌す
ることが許される場合であり,同実験結果(本件追加比較実験の結果を含
む。)によれば,本願発明が引用発明に比較して当業者が予期し得ない格別
予想外の顕著な効果を奏するものであると認めることができ,これを予想外
の顕著な効果であるとはいえないとした審決の判断は誤りであり,その誤り
は審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決を取り消すべきである。
3結論
以上によれば,原告主張の取消事由は理由があるから,審決を取り消すこと
とし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
齊木教朗
裁判官
武宮英子
(別紙)「本件【参考資料1】実験の結果」
(別紙)「本件追加比較実験組成物データ」
(別紙)「本件追加比較実験の測定結果表」
(別紙)「本件各実験における日焼け止め剤組成物の調製方法,評価方法,実験実
施者等」
(1)日焼け止め剤組成物の調製方法
ア実施例1の日焼け止め剤組成物
<工程1>室温条件下において,70質量部の水,5質量部のグリセリン,
0.35質量部のベンジルアルコール及び0.15質量部のメチルパラベンを
混合した後,0.425質量部のPemulen(登録商標)TR−1をゆっ
くり加えてさらに混合することによってプレミックス1を得た。
<工程2>2質量部のアボベンゾン,1.5質量部のオクトクリレン及び1
2質量部のC12∼C15アルコールベンゾエートを70℃に加熱しながら混
合することによってプレミックス2を得た。
<工程3>室温条件下において,工程1で得られたプレミックス1に,工程
2で得られたプレミックス2を加えて1分間攪拌した。
<工程4>室温条件下において,6.725質量部の水,1質量部のエンス
リゾール及び0.85質量部のトリエタノールアミンを混合してプレミックス
3を得た。
<工程5>室温条件下において,工程4で得られたプレミックス3を工程3
で得られた混合物に加えて1分間攪拌し,日焼け止め剤組成物を得た。
イ比較例1の日焼け止め剤組成物
<工程1>室温条件下において,70質量部の水,5質量部のグリセリン,
0.35質量部のベンジルアルコール及び0.15質量部のメチルパラベンを
混合した後,0.425質量部のPemulen(登録商標)TR−1をゆっ
くり加えてさらに混合することによってプレミックス1を得た。
<工程2>2質量部のアボベンゾン,1.5質量部のオクトクリレン,及び
12質量部のC12∼C15アルコールベンゾエートを70℃に加熱しながら
混合することによってプレミックス2を得た。
<工程3>室温条件下において,工程1で得られたプレミックス1に,工程
2で得られたプレミックス2を加えて1分間攪拌した。
<工程4>室温条件下において,工程3で得られた混合物に,0.85質量
部のトリエタノールアミン及び7.725質量部の水を加えて1分間攪拌し,
日焼け止め剤組成物を得た。
ウ比較例2の日焼け止め剤組成物
<工程1>室温条件下において,70質量部の水,5質量部のグリセリン,
0.35質量部のベンジルアルコール及び0.15質量部のメチルパラベンを
混合した後,0.425質量部のPemulen(登録商標)TR−1をゆっ
くり加えてさらに混合することによってプレミックス1を得た。
<工程2>2質量部のアボベンゾン,1.5質量部のオクトクリレン,12
質量部のC12∼C15アルコールベンゾエート及び1質量部のオクチノキセ
ートを70℃に加熱しながら混合することによってプレミックス2を得た。
<工程3>室温条件下において,工程1で得られたプレミックス1に,工程
2で得られたプレミックス2を加えて1分間攪拌した。
<工程4>室温条件下において,工程3で得られた混合物に,0.85質量
部のトリエタノールアミン及び6.725質量部の水を加えて1分間攪拌し,
日焼け止め剤組成物を得た。
エ比較例3の日焼け止め剤組成物
上記ウの工程2においてオクチノキセートの代わりにオキシベンゾンを用い
たこと以外は,上記ウと同様の方法によって日焼け止め剤組成物を得た。
オ比較例4の日焼け止め剤組成物
上記ウの工程2においてオクチノキセートの代わりにメチルベンジリデンカ
ンファを用いたこと以外は,前記ウと同様の方法によって日焼け止め剤組成物
を得た。
カ比較例5の日焼け止め剤組成物
<工程1>室温条件下において,5質量部の水,1質量部のエンスリゾール
及び0.6質量部のトリエタノールアミンを混合し,プレミックス1を得た。
<工程2>室温条件下において,工程1で得られたプレミックス1に,所9
3.4質量部の水を加えて1分間攪拌し,日焼け止め剤組成物を得た。
キ比較例6の日焼け止め剤組成物
<工程1>室温条件下において,70質量部の水,5質量部のグリセリン,
0.35質量部のベンジルアルコール及び0.15質量部のメチルパラベンを
混合した後,0.425質量部のPemulen(登録商標)TR−1をゆっ
くり加えてさらに混合することによってプレミックス1を得た。
<工程2>室温条件下において,12質量部のC12∼C15アルコールベ
ンゾエートを工程1で得られたプレミックス1に加えて1分間攪拌した。
<工程3>室温条件下において,5質量部の水,1質量部のエンスリゾール
及び0.85質量部のトリエタノールアミンを混合してプレミックス2を得
た。
<工程4>室温条件下において,工程3で得られたプレミックス2及び5.
225質量部の水を,工程2で得られた混合物に加えて1分間攪拌し,日焼け
止め剤組成物を得た。
(2)日焼け止め剤組成物の評価方法
<工程1>ウエットタイプの指サックを用いて各日焼け止め剤組成物を1m
g/cmの量でビトロスキン(IMSテスティンググループ,米国)に塗布2
した後,大気雰囲気下で15分乾燥させることによって評価用サンプルを得
た。この評価用サンプルは,各日焼け止め剤組成物に対して4つずつ用意し
た。
<工程2>上記の評価用サンプルについて,Labsphere社製UV−1
000S又はUV−2000S(UV−1000Sの後継機)を用いて吸光度を
測定し,得られた吸光度曲線からインビトロSPFスコア及びインビトロPPD
スコア(UV照射前)を算出した。算出したスコアは,4つの評価用サンプルの
平均をとって最終的なスコアとした。
<工程3>ソーラーライト社製LS1000ソーラーシミュレーター又はOr
iel社製キセノンアークソーラーシミュレーターからの擬似太陽UVを用い
て,上記の評価用サンプルを45分間UV照射した。ここで,インビトロSPF
スコアの評価用サンプルについては,フィルター補正によるUVB/UVA光源
を用い,インビトロPPDスコアの評価用サンプルについては,フィルター補正
によるUVA光源を用いた。また,UV照射は,OL756分光放射計で測定し
たときに,無負荷時のパワー密度が6.07×10W/cm,エネルギー密−32
度が1J/cmとなるように設定した。2
<工程4>工程3のUV照射後のサンプルについて,工程2と同様にしてイン
ビトロSPFスコア及びインビトロPPDスコア(UV照射後)を算出した。
(3)実験実施者,実施場所,実施年月
ア実施例1及び比較例1ないし4(本件参考資料1実験)【】
(ア)実施者

本件出願の発明者の1人。レンセラー工科大学化学工学科(米国ニューヨ
ーク州,トロイ)を卒業後,ザプロクターアンドギャンブルカンパ
ニーに入社し,24年間,パーソナルケア製品の研究開発(特に,16年間
は日焼け止め剤の研究開発)に従事している。現在も,リサーチフェローと
して,パーソナルケア製品の研究開発に従事している。
(イ)実施場所
ザプロクターアンドギャンブルカンパニー,シャーロンウッズ
イノベーションセンター
(ウ)実施年月
2005年8月
イ比較例5及び6(追加比較実験)
(ア)実施者

マイアミ大学化学科(米国オハイオ州,オックスフォード)を卒業後,ザ
プロクターアンドギャンブルカンパニーに入社し,10年間,パー
ソナルケア製品の研究開発に従事している。現在も,主任リサーチャーとし
て,パーソナルケア製品の研究開発に従事している。
(イ)実施場所
ザプロクターアンドギャンブルカンパニー,シャーロンウッズ
イノベーションセンター
(ウ)実施年月
2010年2月

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