弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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出席検察官  佐藤方生
同弁護人  私選弁護人細田浩〔被告人A〕
         私選弁護人小澤義彦(主任),堀内茂夫〔被告人B〕
         私選弁護人八巻力也(主任),小澤義彦,八巻紀臣〔被告人
C〕
主       文
       被告人A及び被告人Bをそれぞれ懲役1年6月に,被告人Cを懲役
1年に各処する。
       被告Bに対し,未決勾留日数中20日をその刑に算入する。
       被告人らに対し,この裁判が確定した日から3年間,それぞれその
刑の執行を猶予する。
被告人Aから金100万円を追徴する。
理       由
【認定事実】
(贈賄側被告人らの身分関係)
 被告人Cは,土木,建築工事の請負等を業とする有限会社D工務所(平成14年
4月1日,D株式会社に組織変更)の代表取締役として同社の業務全般を統轄掌理
していたもの,被告人Bは,同Cの実父である。
(犯罪事実)
Ⅰ a町関係
  被告人Aは,平成10年4月1日から平成15年3月31日までの間,山梨県
北巨摩郡a町総務課長として,町長の命を受け,同町発注にかかる土木,建築工事
等について,指名業者の選定,入札の執行及び工事請負契約の締結等の職務に従事
していたものであるが,
第1 被告人Aは,同町が発注する土木,建築工事等に関し,指名競争入札におけ
る入札参加業者を選定するための指名選考委員会において前記D工務所を推し,入
札に先立って被告人Bに設計価格を教示するなど有利かつ便宜な取り計らいを得た
ことに対する謝礼及び将来も同様の取り計らいを得たい趣旨のもとに供与されるも
のであることを知りながら,
 1 平成13年9月ころ,同町bc番地d前記B方において,被告人B及び同C
の両名から,仕立券付き紳士服地1着分(販売価格20万円)の供与を受け,
 2 平成13年7月下旬ころ,同町ef番地のga町役場第1会議室において,
被告人Bから,現金30万円の供与を受け,
 3 平成13年12月中旬ころ,同番地所在のa町役場議員控室において,被告
人Bから,現金20万円の供与を受け,
 4 平成14年7月下旬ころ,同番地所在のa町役場第1会議室において,被告
人Bから,現金10万円の供与を受け,
 5 平成14年12月中旬ころ,同番地所在のa町役場議員控室において,被告
人Bから,現金20万円の供与を受け,
 もって自己の職務に関して賄賂を収受し,
第2 被告人Aに対し,前記第1冒頭記載の趣旨のもとに,
 1 被告人B及び同Cは,共謀の上,前記第1の1記載の日時場所において,仕
立券付き紳士服地1着分(販売価格20万円)を供与し,
 2 被告人Bは,前記第1の2記載の日時場所において,現金30万円を供与
し,
 3 被告人Bは,前記第1の3記載の日時場所において,現金20万円を供与
し,
 4 被告人Bは,前記第1の4記載の日時場所において,現金10万円を供与
し,
 5 被告人Bは,前記第1の5記載の日時場所において,現金20万円を供与
し,
 もって被告人Aの職務に関して賄賂を供与した。
Ⅱ h村関係
  Eは,平成3年4月30日から平成16年6月16日までの間,山梨県北巨摩
郡h村村長として,所属職員を指揮監督し,同村発注にかかる下水道工事等につい
て,指名業者の選定,入札の執行及び工事請負契約の締結等の職務を統轄掌理して
いたものであるが,
第1 被告人B及び同Cは,共謀の上,平成13年8月上旬ころ,同村ij番地E
方において,同人に対し,同村が発注する下水道工事等に関し,指名競争入札にお
ける入札参加業者に前記D工務所を指名するなど有利かつ便宜な取り計らいを得た
い趣旨のもとに,仕立券付き紳士服地1着分(販売価格20万円)を供与し,
第2 被告人Bは,平成14年4月中旬ころ,前記E方において,同人に対し,前
記Ⅱの第1記載の趣旨のもとに,現金100万円を供与し,
 もって同人の職務に関して賄賂を供与した。
【法令の適用】
1 被告人Aの判示Ⅰの第1の1ないし5の各所為はいずれも平成15年法律第1
38号(仲裁法)附則14条により同法による改正前の刑法197条1項前段に該
当するところ,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10
条により犯情の最も重い判示Ⅰの第1の2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲
内で同被告人を懲役1年6月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁
判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し,同被告人が判示Ⅰの第1の1な
いし5の各犯行により収受した賄賂は,いずれも没収することができないので,同
法197条の5後段によりその価額合計金100万円を同被告人から追徴すること
とする。
2 被告人Bの判示Ⅰの第2の1ないし5,判示Ⅱの第1及び同第2の各所為はい
ずれも刑法198条(前記改正前の刑法197条1項前段。判示Ⅰの第2の1及び
判示Ⅱの第1につき,さらにそれぞれ刑法60条)に該当するところ,以上の各罪
につき所定刑中それぞれ懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるか
ら,同法47条本文,10条により犯情の最も重い判示Ⅱの第2の罪の刑に法定の
加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役1年6月に処し,同法21条を適用して
未決勾留日数中20日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこ
の裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとする。
3 被告人Cの判示Ⅰの第2の1及び判示Ⅱの第1の各所為はいずれも刑法60
条,198条(前記改正前の刑法197条1項前段)に該当するところ,以上の各
罪につき所定刑中それぞれ懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪である
から,同法47条本文,10条により犯情の重い判示Ⅱの第1の罪の刑に法定の加
重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役1年に処し,情状により同法25条1項を
適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとする。
【量刑の理由】
1 本件は,a町及びh村が発注する下水道工事等をめぐり,土木,建築工事の請
負を業とする有限会社D工務所の代表者であった被告人Cとその実父でa町議会議
長の地位にあった被告人Bとが,判示のとおりの趣旨で,a町総務課長であった被
告人Aやh村村長であったEに賄賂を贈ったという,贈収賄の事案である。
  被告人Aの行為については,公共工事の受注事務の実質的な責任者である総務
課長が入札に参加しようとする土建業者から賄賂を贈られていたという事実自体か
らして,a町の公共工事の受注が公正かつ自由な競争のもとに行われていることに
対する社会の信頼を著しく侵害したといわなければならないが,本件については,
同被告人において,入札に先だって関係者に設計価格を教示していたという事情も
存在していたのであって,職務執行の公正さが現実にも影響を受けていたと見ざる
を得ず,町政を担う役場職員の職務の廉潔性とその職務に対する町民の信頼を裏切
ったものというほかない。また,被告人B及び被告人Cの行為は,a町及びh村の
各公共工事の受注における,公正かつ自由な競争の確保という行政目的を著しく阻
害するものであり,
私利を図るため2つの地域にまたがり本件を敢行した点でも強い非難に値する。し
たがって,被告人らの刑事責任は重いものである。
2 被告人Aについては,a町総務課長という幹部職員でありながら,自らを厳し
く律しなければならない公務員の立場を忘れて,安易に本件各賄賂を収受したもの
であり,酌量の余地は乏しい。しかも,本件は,比較的長期間にわたり定期的に反
復累行されていたものであり,収受した賄賂の金額も決して少ないとはいえないな
ど,犯行態様も悪質である。さらに,受け取った服地については仕立てて家族のた
めに使用しており,犯情は芳しくない。
他方,被告人A自らが賄賂を積極的に要求したことはなく,収受はいずれも受
動的なものであったこと,収受した現金はほとんど費消されていないこと,本件を
契機に,逮捕当時勤務していたa町助役を辞職し,また本件を広く報道されたこと
等によりそれなりの社会的制裁を受けていること,本件で逮捕,勾留され,真摯に
反省しており,その妻も今後の監督を約束していること,余罪について贖罪寄付を
していること,これまでに禁錮以上の刑に処せられたことがないこと,その他被告
人Aの健康状態や家族の生活状況など,被告人Aにとって酌むべき事情も認められ
る。
3 被告人Cについては,a町の公共工事が減少傾向にある上,前例に照らし指名
業者から外されることを危惧していたなどの背景事情があるにせよ,村長や町役場
の幹部職員に賄賂を贈ってまで,自らが役員をしている会社の利益を実現しようと
した点で,自己中心的であり,酌量の余地は乏しい。a町議会議長も務めたことの
ある実父の影響力を利用し,a町とh村という2つの地域にまたがって,それぞれ
20万円相当の仕立券付き紳士服地という高価な品物を供与しており,犯行態様も
悪質である。
他方,本件を契機に,会社が指名停止処分を受け,また本件を広く報道された
こと等によりそれなりの社会的制裁を受けていること,会社役員を辞任しているこ
と,本件で逮捕,勾留され,真摯に反省しており,その妻も今後の監督を約束して
いること,これまでに前科がないこと,その他被告人Cの年齢など,被告人Cにと
って酌むべき事情も認められる。
4 被告人Bについては,選挙で自分を応援してくれた土建業者に見返りを与える
ことのできるような情報を役場から得たいとか,実子である被告人Cが代表者を務
める会社を応援したいという思いから,a町とh村という2つの地域にまたがっ
て,確たる犯意に基づく執拗なまでの贈賄を敢行しており,犯行態様は悪質であ
り,その動機も自己中心的というほかなく,厳しい非難を免れない。
他方,本件を契機に議員を辞職し,また本件を広く報道されたこと等によりそ
れなりの社会的制裁を受けていること,本件で逮捕,勾留され,真摯に反省し,そ
の妻も今後の監督を約束していること,約30年以上も前の古い前科しかないこ
と,その他被告人Bの年齢など,被告人Bにとって酌むべき事情も認められる。
5 そこで,当裁判所は,被告人らにとって有利,不利な一切の事情を考慮し,主
文のとおりの刑を量定した次第である。
(求刑 懲役1年6月,100万円追徴〔被告人A〕,懲役1年6月〔被告人
B〕,懲役1年〔被告人C〕)
  平成16年11月4日
     甲府地方裁判所刑事部
         裁判長裁判官   川  島  利  夫
            裁判官   柴  田     誠
            裁判官   肥  田     薫

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