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裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の申立
一、控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が、昭和四〇年七月一二日付で、控
訴人の昭和三六年五月から昭和三七年一〇月まで、昭和三七年一二月から昭和三九
年五月まで、昭和三九年八月から昭和四〇年一月までの各月分の物品税につき、原
判決添附の別表一の原処分、同裁決欄記載の如くなした各決定(但し、昭和三六年
五月から昭和三七年三月までの各月分の物品税については賦課決定、以下同じ。)
及び無申告加算税賦課決定並びに昭和四〇年一一月二二日付で控訴人の昭和三七年
一一月分、昭和三九年六月分、同年七月分の物品税につき、右表の更正決定欄記載
の如くなした各更正決定及び無申告加算税賦課決定は、いずれも取消す。訴訟費用
は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
二、被控訴代理人は、主文第一項同旨並びに「訴訟費用は、第一、二審とも控訴人
の負担とする。」との判決を求めた。
第二 当事者の主張
 当事者双方の主張は、左記に附加するほかは、いずれも原判決事実摘示のとおり
である(但し、原判決一四枚目表九行目の「同年」を「昭和四〇年」と訂正し、同
一六枚目裏一二行目の「間接消費」の次に「税」を加入する。)からこれを引用す
る。
一、控訴人の主張
(一) 実体法上物品税の本質は、製造行為によつて新しく作り出された価値―商
品が流通過程におかれる一時点をとらえ、これを課税原因としては握するところに
あり、したがつて、一度課税され、消費者によつて消費された物品については、そ
れが「使用による価値減少の小さいもの」であれ、「価値減少の大きいもの」であ
れ、再び製造行為が加わり、新しい価値―商品とならない限り、何回移出、小売等
が繰り返されたとしても、右行為自体は何ら課税原因となるものではない。
(二) 物品税は、昭和二一年の改正によつて書画、骨董を除く第一種の物品につ
いて製造課税方式をとり、その後昭和二八年の改正によつて再び右第一種物品につ
いて小売課税方式をとるようになつたが、その際「貴金属ノ時計及ビ同部品並ニ金
又ハ白金ヲ用ヒタル時計及同部分品」については、従前同様の製造課税方式を踏襲
し、この取扱いはその後も拡張され、昭和三七年の改正では、貴金属製品のみなら
ず「貴石若しくは半貴石又は金若しくは白金を用いた時計並びに時計部分品」につ
いても製造課税方式をとることになり、この立場は昭和四一年三月三一日改正の現
行物品税法においても依然として踏襲されている。以上の如き改正の変遷、経過を
みれば、ひとしく古物の売買でありながら、製造課税方式をとる貴金属、貴石等を
用いた時計製品(以下単に貴金属製時計という。)については、課税原因たる移出
行為がないから課税対象とならず、小売課税方式をとるその余の貴金属、貴石等の
製品(以下単に貴金属製品という。)については、課税原因たる小売行為があるか
ら課税対象となる、というが如き物品税法上両者の間にその本質を異にするような
法解釈は到底許されない。
(三) 物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条等は、原判決のいう
ように、課税物品から特に古物を除外する場合を規定したものではなく、むしろ、
その反対に、右各法条に該当する場合は、古物といえども、それが課税物品となる
ことを明示しているものというべきである。
 すなわち、
1、第一六条第一項に古物を除外しているのは、第二種物品の第二次製造業者が、
その原、材料として、既に課税済の第二種物品の第一次製品を使用または消費して
いる場合であつても、右原、材料が古物である場合には、右法条の税額算定の特例
を認めない旨、換言すれば、第二次製品中に含まれた古物については、物品税が課
税されることを明らかにしたものであり、
2、第二一条第一項の場合は、同法条所定の課税済物品を輸出した場合の物品税還
付の特例から古物を除外する旨、換言すれば、右輸出物品が古物である場合には、
これを非課税物品として取扱わないことを明確にし、3、第二四条は、課税済物品
を同法条所定の特殊用途に供した場合の物品税還付の特例から古物を除外する旨、
換言すれば、この場合も第二一条第一項と同様、右特殊用途に供した物品が古物で
ある場合には、これを非課税物品として取扱わない趣旨を明示したものである。
(四) 昭和二八年五月三〇日法律第四一号(物品税法の一部を改正する法律)施
行規則(昭和二八年五月三〇日政令第一〇一号物品税法施行規則の一部を改正する
政令)附則第七項(以下単に附則第七項という。)は、同附則第四項以下との関連
において理解されるべきものであるところ、右一連の規定は、製造課税済物品が小
売される場合はもとより業者間売買で転々される場合をも含めてその手続が規定さ
れているもので、第七項は、そのような場合において、最初に小売された場合にの
み免税措置がとられることを注意的に規定したものというべきで、同項の規定から
原判決のいうような、「旧物品税法も課税原因である小売が一物品について数回あ
りうべきことを予定して、その都度課税すべきことを要求していた」との解釈を引
出すことは到底許されない。
(五) 小売課税方式の場合、なるほど形式的には、二重課税による負担は、新た
な消費者が被つているが如くみえるが、実質的には同一消費者自体が、不法な二重
課税を受ける結果になる。
 すなわち、消費者は貴石を購入する場合、貴石そのものの価値に物品税を加えた
金額を出捐しなければならないが、さらにこれを業者に売る場合は、業者は、当然
これを転売する際の物品税を考慮して、適正な買受価格から右物品税相当額を控除
した価格で買取ることになるから、結局右消費者は、二重課税の被害をもろに受け
る結果となるわけである。
(六) 物品税法施行令第五二条第四項において、古物についても、その小売につ
いてまで詳細な記帳義務を要求しているのは、それによつて、新しい課税物品を古
物と称して販売することによつて課税を免れようとする者に対し、その販売先を確
認することによつて、これを防止しようとするものであつて、原判決のいうような
古物営業法第一七条の記帳義務を右施行令によつて排除することのないようにする
ためのものではない。
二、被控訴人の主張
(一) 物品税の原則は、消費課税であり、消費者の担税力が表現される小売行為
自体に課税することにある。ただ課税対象として選定された多種多様な物品の生産
取引の実態を考慮した場合、一律に小売行為の時点をとらえることは、課税技術上
多くの困難を伴うことから、徴税の合理化と課税の適正を期するため、個々の物品
の性状、市場流通形態等に基づいて、移出課税方式をとる物品と小売課税方式をと
る物品とに分類し、それぞれの方式によつて課税しているにすぎない。
 したがつて、物品税法第三条第一項の解釈に当つて、それがすでに課税済である
場合には、第一種物品についても、第二、第三種物品と同様、製造加工による新価
値の創造がない限り、何回移出、小売等が繰り返されても、課税対象にならない旨
の控訴人の主張は理由がない。
(二) 控訴人主張の貴金属製時計といえども、効用上は時計であり、しかも課税
物品の所属決定を定める物品税法の別表「課税物品表」に第二種物品として法定さ
れており、これに対して解釈を容れる余地はないから、控訴人の、同じく古物であ
りながら、貴金属製時計は課税対象とならず、貴金属製品には課税されるというよ
うな、物品税法上右両者の間にその本質を異にするような法解釈は許されない旨の
主張もまた失当である。
(三) 附則第七項は「申告物品」を最初に小売した場合で同第六項の申告をした
場合に限つて物品税を免除する旨を明言したものであり、控訴人主張のような単な
る注意規定でないことは明らかであり、「申告物品」以外の物品については、新、
旧をとわず第一種物品に該当する場合には、特に免除する旨の規定がない限り、物
品税は免除されないという解釈が成立するのである。
(四) 控訴人は、その主張の如き事由で、古物の消費者は、二重課税の被害をも
ろに受けることになる旨主張するが、所謂「古物」と称するものの取引価格は全く
買手の意思によつて一方的に決められ、譲渡人の希望価格は無視されがちで、「古
物」としての市場価格の限度内で、小売業者の小売マージンを控除した残余価格で
取引されるのが業界取引の常識である。したがつて、消費者の小売業者に対する第
一種物品の売却価格は、多くの場合、新品の市価よりかなり低額になるのが通常
で、その差額の大部分は買受業者の転売マージンによつて占められるのである。故
に控訴人が主張するような所要物品税の額は、その全体からみて微微たるものであ
り、まして小売課税方式のもとにおいては、再販売過程の中に多かれ少かれ物品税
がその一部分を占めることはやむを得ない。
 しかし、右の事象は、事実上の問題であつて、法律上は、第一種物品の物品税を
負担する者は、それを業者から新たに買受ける消費者であるから、物品税法上二重
課税を生ずることはない。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一、当裁判所も、控訴人主張の貴石及び貴金属製品等の古物も旧物品税法ないし物
品税法所定の課税物品に該当し、したがつて、右古物が右課税物品に該当しないこ
とを理由とする控訴人の本訴請求は、これを認容し得ないものと判断するものであ
り、その理由は、左記のとおり附加し、一部削除するほかは、原判決の説示理由と
同一である(但し、原判決三〇枚目表二行目の「二四号証」の次に「当審証人Aの
証言」を加筆する。)から、ここにこれを引用する。
(一) 控訴人は、物品税の本質は、創造された価値―商名が流通過程におかれる
一時点をとらえ、これを課税原因としては握するところにあり、したがつて一度課
税された物品については、再び価値の創造が添加されない限り、何回移出、小売が
繰り返されても、物品税の課税対象にはならない旨主張するが、物品税の本質は、
創造された価値―商品それ自体を課税原因としては握するものではなく、それは、
原判決もいう如く、消費税の本質に基づき個々の物品の使用、消費という事実か
ら、そこに示される消費者の所得の存在を推認し、これを担税力とみて課税すると
ころにその本質があるものというべきであり、したがつて、控訴人のいうように、
新たな価値の創造添加の事実がなくても、いやしくも右の如き所得の存在、担税力
を顕示する使用、消費、これにつながる小売、移出または取引行為が存在する以
上、それが何回繰り返されようとも、その都度課税されるのは当然というべきであ
つて、控訴人の右主張は、上記の如き物品税の本質を誤り解した結果によるものと
いうほかはなく、失当たるを免れない。
(二) 次に、控訴人は、控訴人主張の如き旧物品税法ないし物品税法改正の変
遷、経過をみれば、ひとしく古物の売買でありながら、移出課税方式をとる貴金属
製時計については移出行為がないから課税対象とならず、小売課税方式をとるその
余の貴金属製品については小売行為があるから課税対象となるというが如き、右両
者の間にその本質を異にするような法解釈は許されない旨主張する。
 しかしながら、本来叙上の如き物品税の本質からすれば、消費者の消費行為に直
近した段階で課税する小売課税方式をもつて最も理想的な課税方式とするものでは
あるが、多種多様な課税物品のすべてについて一律に小売行為の時点をとらえるこ
とは、課税技術上多くの困難を件うので、徴税の合理化と課税の適正を期するた
め、個々の物品の種類、性状、市場流通形態等を考慮し、本件の各販売日当時の旧
物品税法及び物品税法では、本件の貴石及び貴金属製品等を含む第一種の物品につ
いては小売課税方式を採用し、第二、第三種の物品については移出課税方式をと
り、保税地域からの引取の場合は、右全種の物品について引取課税方式によること
にしたものであり、また控訴人主張の法改正の変遷、経過も、原判決説示の如き我
国戦後の経済状況の変化、市場流通形態の変転に応じて、その課税方式等を、当時
の実状に則するように改めただけのものであつて、何ら如上説示の物品税の本質に
変更を生ぜしめたものではなく、前記の各課税方式の差異は、上記のように、あく
までも課税技術上の手段方式の相違にすぎないものというべきであるから、ひとし
く古物でありながら、控訴人主張の如く、一は課税対象とならず、他は課税対象と
なる場合があつても、これをもつて、控訴人のいうように、物品税法上その本質を
異にするような法解釈というには当らず、控訴人の右主張もまた理由がない。
(三) そこで次に、控訴人の(三)の主張について考えてみるに、物品税法第一
六条第一項、第二一条第一項、第二四条等の規定は、控訴人のいうとおり、課税物
品から特に古物を除外する場合を明示したものではなく、むしろその反対に、右各
法条に該当する場合であつても、古物については同各法条所定の特例を認めない
旨、すなわち、第一六条第一項の場合は、同法条所定の税額算定の特例を認めず、
第二一条第一項、第二四条等の場合は、同各法条所定の物品税の還付をしない旨を
規定したもの、換言すれば、古物については、右各法条所定の非課税物品扱いをし
ない趣旨を括弧書で明らかにしたものというべく、この限りにおいて、右各法条を
課税物品から特に古物を除外する場合を規定したものとする原判決は、その説示の
表現を誤つたものというべきである。
 しかしながら、いずれにしても、右各法条が「課税物品」なる用語を用いるに当
り、特に古物を除外する旨を断つていることは、その文言、規定の方式自体から明
らかであるから、右各法条は、古物が物品税法上課税物品として取り扱われている
ことの根拠にはなつても、右各規定から古物は物品税法にいう課税物品ではないと
の結論を引き出すことは困難といわなければならない。けだし、もし古物が、控訴
人主張の如く、もともと物品税法上の課税物品に該当しないものとすれば、前記各
法条の括弧書の如き規定は、そもそもその必要がないものというべきだからであ
る。
(四) 控訴人は、昭和二八年五月三〇日法律第四一号(物品税法の一部を改正す
る法律)施行規則(昭和二八年五月三〇日政令第一〇一号物品税法施行規則の一部
を改正する政令)附則第七項の規定からは、控訴人主張の如き理由で、旧物品税法
も課税原因である小売が一物品について数回ありうべきことを予定して、その都度
課税すべきことを要求していたとの解釈を引出すことは許されない旨主張するが、
右附則第七項は、同第四項の申告物品を右政令施行後最初に小売した場合に限つ
て、第六項の申告をしたときは、特に物品税が免除されることを明示したもので、
控訴人のいうような単なる注意的規定ではないのみならず、附則第七項にいう「最
初に小売した場合において……物品税を免除する。」との規定からは、当然その反
対解釈として、その次の小売からは物品税を免除しない旨の解釈が成り立ち、この
ようにみてくれば、旧物品税法も、原判決のいうように、課税原因である小売が一
物品について二回以上ありうべきことを当然予定していたものと解せざるを得ず、
控訴人の右主張もまた採用の限りではない。
(五) また控訴人は、もし古物に対してもその小売毎に課税されるとすると、古
物の消費者は、控訴人主張の如き事由で二重課税の被害をもろに受けることになる
旨主張し、なるほど取引の実態においては、控訴人のいうように、業者は当該物品
を転売する際の物品税のことを考えて、その適正な買受価格から右物品税相当額を
控除した価格で買受けるようなこともあり得ないことではないかも知れないが、仮
に、そのようなことがあつたとしても、それは、あくまでも物品の売渡人が、業者
によつて、適正な買受価格より安価に買取られたという一取引事象にすぎず、法律
上の物品税の負担者は、あくまでも当該物品を業者から新たに買受ける第二次の消
費者であつて、右物品を業者に安価に売つた第一次の消費者ではないから、右取引
事象を目して二重課税というには当らない。
(六) さらに控訴人は、物品税法施行令第五二条第四項が、古物の小売について
も詳細な記帳業務を要求しているのは、新しい課税物品を古物と称して販売するこ
とによつて、課税を免れようとする業者に対して、その販売先を確認することによ
つてこれを防止しようとするものであつて、右規定は、単に右施行令によつて、古
物営業法第一七条の記帳義務を排除することのないようにするためのものではない
と主張するが、控訴人の右主張は、もし古物が物品税法上の課税物品であれば成り
立ち得ない性質のものである(なんとなれば、古物が物品税法上の課税物品であれ
ば、控訴人主張の如き意味においての脱税防止の必要は存在しない。)から、控訴
人の右推論は、控訴人が求めようとする、古物は物品税法上の課税物品ではないと
の結論を、同結論を引き出すための根拠とするものであつて、論理上たやすくこれ
を首肯し難いばかりでなく、右施行令第五二条第四項の古物に関する規定は、これ
を、同条第一、第二、第五項の各規定の方式との関連並びにその規定の文言及び方
式自体からみても、やはり、原判決もいうように、古物営業法第一七条の記帳義務
に関する規定を考慮しての定めと解するのを相当とするから、右規定の存在から、
控訴人主張の、古物は物品税法上の課税物品ではないとの結論を引き出すことは困
難といわなければならない。
(七) 原判決三五枚目表九行目の「却つて」以下裏五行目の終りまでを削除す
る。
二、よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由
がないから、民事訴訟法第三八四条によつてこれを棄却することとし、訴訟費用の
負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡垣久晃 島崎三郎 新居康志)

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