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判決言渡平成19年3月29日
平成18年(行ケ)第10422号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年3月22日
判決
原告ジオックスエス.ピイ.エイ.
訴訟代理人弁理士三宅正夫
同土橋皓
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人山崎豊
同山本信平
同高木彰
同内山進
主文
1特許庁が不服2002−17337号事件について平成18年4月2
6日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨。
第2事案の概要
本件は,ポルスカルプスポルティブエス.アール.エル.(以下「訴
外会社」という。)が後記発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受け
たので,これを不服として審判請求をしたが,特許権を受ける権利につき訴外
会社からの最終譲受人である原告に対し,特許庁が請求不成立の審決をしたこ
とから,原告がその取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
訴外会社は,発明の名称を「耐水性で発散作用のある履物用靴底」とする
発明につき,平成6年3月5日(パリ条約による優先権主張1993年(平
成5年)3月5日〔以下「優先日」という。〕,イタリア)に特許出願(特
願平6−59875号。以下「本願」という。甲5)をし,訴外会社からの
権利譲受人であるノッティングトンホールディングビー.ブイ.社は平
成14年2月19日付けで手続補正(甲6)をしたが,平成14年5月30
日付けで拒絶査定を受けたので,同社は平成14年9月9日これに対する不
服の審判請求をした。
特許庁は同請求を不服2002−17337号事件として審理し,その
間,前記ノッティングトンホールディングビー.ブイ.社からの権利譲
受人である原告は,平成18年2月8日付けで手続補正(甲7)をしたが,
特許庁は,平成18年4月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし,その謄本は平成18年5月22日原告に送達された。
(2)発明の内容
平成18年2月8日付け手続補正(甲7)により補正された特許請求の範
囲は,請求項1ないし9から成るが,その請求項1に記載された発明(以
下「本願発明」という。)は,下記のとおりである。

「履物用の耐水性で通気性のある靴底(10;110;210)であって,
革又はそれと類似の材料でできた同様に通気性の底(11;111;211),
上部領域で上記の底を少なくとも部分的に被覆する通気性でかつ耐水性の材
料からなる膜(12;113;212)
および
少なくとも周縁に沿って上記の底と共に組み合わされ,少なくとも該膜の影
響を受ける領域に1つ以上の貫通孔(14;115;214)を備えた,ゴム又はそ
れと同等に不透過性の材料でできた少なくとも1つの上部部材(13;114;
213)とからなり,
上記の上部部材が上記膜の少なくとも周辺領域を被覆することを特徴とする
靴底。」
(3)審決の内容
ア審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。
その要点は,本願発明は,下記引用発明及び周知技術に基づいて,当業
者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を
受けることができない,というものであった。

・実願平1−34801号(実開平2−125604号)のマイクロフィ
ルム(甲1。以下「引用例」といい,同記載の発明を「引用発明」とい
う。)
イなお,審決は,引用発明を下記のように認定した上,本願発明との一致
点と相違点を次のように認定した。
<引用発明>
「靴用の防水性があり通気性のある本底構造であって,通気性のある革製
本底1および革製本底1の上面の少なくとも踏付け部に点接着で積層配置
される通気性を有する防水部材2からなる本底構造。」
<一致点>
「履物用の耐水性で通気性のある靴底であって,革又はそれと類似の材料
でできた同様に通気性の底および上部領域で上記の底を少なくとも部分的
に被覆する通気性でかつ耐水性の材料からなる膜とからなる靴底。」であ
る点。
<相違点>
本願発明は,少なくとも周縁に沿って底と共に組み合わされ,少なくと
も膜の影響を受ける領域に1つ以上の貫通孔を備えた,ゴム又はそれと同
等に不透過性の材料でできた少なくとも1つの上部部材を備え,上部部材
が膜の少なくとも周辺領域を被覆しているのに対し,引用発明は,かかる
上部部材を備えない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決は,本願発明と引用発明との相違点についての判断を
誤った(取消事由)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア審決は,本願発明と引用発明との相違点について,「靴底において合成
ゴム等の合成樹脂層を革に組合わせること」が周知技術であるとして,実
願昭62−56442号(実開昭63−161506号)のマイクロフィ
ルム(甲2。以下「甲2刊行物」という。),実願昭62−107833
号(実開昭64−15505号)のマイクロフィルム(甲3。以下「甲3
公報」という。),実願昭54−87565号(実開昭56−6205
号)のマイクロフィルム(甲4。以下「甲4刊行物」という。)を引用し
た上,「引用発明の防水性をより向上させるために,革製本底1の上面が
露出する部分を防水性のある合成ゴム等の合成樹脂で覆うようにするとと
もに,防水部材2との境界部分からの漏れも生じないように,防水部材2
の周辺部をも防水性のある合成ゴム等の合成樹脂で覆うようにして,相違
点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た」(審
決4頁第2段落)と判断した。
確かに,甲2刊行物ないし甲4刊行物には「靴底において革製本底と合
成ゴム等の合成樹脂を積層すること」が記載されており,積層すること自
体は周知技術であるといえるが,審決の上記判断は誤りである。
イ本願発明と引用発明の相違点は,前記のとおり「本願発明は,少なくと
も周縁に沿って底と共に組み合わされ,少なくとも膜の影響を受ける領域
に1つ以上の貫通孔を備えた,ゴム又はそれと同等に不透過性の材料でで
きた少なくとも1つの上部部材を備え,上部部材が膜の少なくとも周辺領
域を被覆しているのに対し,引用発明は,かかる上部部材を備えない
点。」であるが,甲2刊行物ないし甲4刊行物には,皮製本底のほぼ全面
に各種の合成樹脂を積層して「素材としての積層体」を構成することが記
載されているだけであり,皮製本底の周縁部などのような限られた一部分
について合成樹脂を積層することについては記載がなく,さらに,本願発
明の上部部材のように,貫通孔を有した合成樹脂膜を積層することについ
ては,何らの記載も,示唆もない。すなわち,甲2刊行物ないし甲4刊行
物には,「少なくとも周縁に沿って底と共に組み合わされ,少なくとも膜
の影響を受ける領域に1つ以上の貫通孔を備えた,ゴム又はそれと同等に
不透過性の材料でできた少なくとも1つの上部部材を備え,上部部材が膜
の少なくとも周辺領域を被覆している」の構成を導くことについて寄与す
る技術的事項は記載されていない。
したがって,引用発明の革製本底1の上面が露出する部分の防水性が不
完全であることが容易に予測し得,靴底の素材として合成樹脂が防水性に
優れることが周知であること(原告もこれらの事実は認める。)を前提と
しても,積層についての上記周知技術から本願発明の上部部材の構成を導
くことはできない。
靴底の積層に関する周知技術は,要するに,素材としての皮革の耐水性
の向上のためにそのほぼ全面に合成樹脂などを積層したものであって,素
材の改善の範囲にとどまるものである。そのため,引用発明に周知の積層
技術を適用しても,本底の周縁に沿った領域のみを部分的に被覆するとい
う考えに容易に想到できるものではなく,また,素材の改善として積層を
した上で,その積層材に湿気を通す孔である貫通孔を設けるとの着想に至
ることは容易ではない。
以上のとおり,本願発明は引用発明及び審決の認定した上記周知技術か
ら容易に想到し得たとすることはできないというべきである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の相違点についての判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がな
い。
(1)引用発明は,革製本底1の上面が露出する部分からの水の侵入を許容する
ものであって防水性が不完全なものであることは,当業者が容易に予測し得
ることであること,合成ゴム等の合成樹脂が防水性に優れることは周知の事
項であること,及び,甲第2∼4号証に示されるように靴底において合成樹
脂層を革に組み合わせることが周知の事項であることから,引用発明の防水
性をより向上させるために,革製本底1の上面が露出する部分を防水性のあ
る合成ゴム等の合成樹脂で覆うようにするとともに,防水部材2との境界部
分からの漏れも生じないように,防水部材2の周辺部をも防水性のある合成
ゴム等の合成樹脂で覆うようにして,相違点に係る本願発明の構成とするこ
とは,当業者が容易に想到し得たことである。
(2)原告は,引用発明に周知の積層技術を適用しても,本底の周縁に沿った領
域のみを部分的に被覆するという考えに容易に想到できるものではなく,ま
た,素材の改善として積層をした上で,その積層材に湿気を通す孔である貫
通孔を設けるとの着想に至ることは容易ではないと主張するが,当業者の通
常の創作能力を勘案すれば,引用発明の防水性をより向上させるために,引
用発明の革製本底1の上面のほぼ全面に合成樹脂を積層するという設計変更
の方が,あり得ないことである。なぜならば,合成樹脂に通気性がないこと
は本願の優先日(1993年(平成5年)3月5日)当時,周知の事項であ
り,引用発明の革製本底1の上面のほぼ全面に合成樹脂を積層すれば,引用
発明において少なくとも踏付け部に通気性を有する防水部材2を配置した意
味が全くなくなることが明白だからである。
逆に,引用発明において防水部材2が積層配置された部分は,防水部材2
によって防水性が確保されているのであるから,防水性をより向上させるた
めには,防水部材2が積層配置されていない革製本底1の上面が露出する部
分に対して合成樹脂を積層すればよいことは明らかである。そして,防水部
材2が積層配置された踏付け部は,靴において足裏が靴底に当たる部分であ
るから,靴底の中央部分であることは明らかであり,したがって,それ以外
の部分は靴底周縁であることも明らかである。そして,革製本底1の上面が
露出する部分は,革製本底1の周縁となるから,周縁に沿って革製本底1の
上面が露出する部分を合成樹脂で被うことは,当業者が容易に想到し得たこ
とであり,周縁に沿って革製本底1の上面が露出する部分を合成樹脂で被え
ば,必然的に合成樹脂は貫通孔を備えたものになる。
したがって,引用発明の防水性をより向上させるために,革製本底1の上
面が露出する部分を防水性のある合成ゴム等の合成樹脂で覆うようにすると
ともに,防水部材2との境界部分からの漏れも生じないように,防水部材2
の周辺部をも防水性のある合成ゴム等の合成樹脂で覆うようにして,相違点
に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである
とした審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,原告主張の取消事由について判断する。
2審決は,本願発明と引用発明との相違点について,甲2刊行物ないし甲4刊
行物に記載された「靴底において合成ゴム等の合成樹脂層を革に組合わせるこ
と」が周知技術であると認定した上,「引用発明の防水性をより向上させるた
めに,革製本底1の上面が露出する部分を防水性のある合成ゴム等の合成樹脂
で覆うようにするとともに,防水部材2との境界部分からの漏れも生じないよ
うに,防水部材2の周辺部をも防水性のある合成ゴム等の合成樹脂で覆うよう
にして,相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得
た」(審決4頁第2段落)と判断したものであるところ,原告は,引用発明に
周知の積層技術を適用しても,本底の周縁に沿った領域のみを部分的に被覆す
るという考えに容易に想到できるものではなく,また,素材の改善として積層
をした上で,その積層材に湿気を通す孔である貫通孔を設けるとの着想に至る
ことは容易ではないと主張する。
3(1)ア本願発明の相違点に係る構成は,「少なくとも周縁に沿って底と共に組
み合わされ,少なくとも膜の影響を受ける領域に1つ以上の貫通孔を備え
た,ゴム又はそれと同等に不透過性の材料でできた少なくとも1つの上部
部材を備え,上部部材が膜の少なくとも周辺領域を被覆している」という
ものである。
イそして,本件明細書(甲5)には,次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は,耐水性で発散作用のある履物用靴底に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
公知のように,革やその同等材料等の天然材料でできた通常の靴底を有
する履物を使用する際に見られる主な問題は,湿気の多い天候である。
【0003】
雨や悪天候によって道路が濡らされて滑りやすくなった時,革底の履物
を使用することは実際上賢明でない。なぜなら,革は蒸気透過性であり足
の健康上は好ましいとしても,耐水性がなく逆に水を吸収するからであ
る。
【0004】
革は薄くなればなるほど水や湿気を速く含浸して使用者の足を湿らせ
る。

【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の主な目的は,公知の革底の履物における上述の欠点を解消する
靴底を提供することにある。」
ウ以上の記載によれば,本願発明は,上記相違点に係る構成,すなわち,
防水布の通気性を保つために貫通孔を備えた不透過性の材料でできた上部
部材により被覆することにより,革製本底1の上面が露出する部分からの
水の侵入を許容してしまうという引用発明の不完全な防水性を向上させる
とともに,通気性も維持するという効果を奏するものである。
(2)そこで,審決の認定した甲2刊行物ないし甲4刊行物記載の周知技術に基
づいて,上記相違点につき当業者(その発明の属する技術の分野における通
常の知識を有する者)が容易に想到することができたかについて,検討す
る。
ア甲2刊行物(実願昭62−56442号(実開昭63−161506
号)のマイクロフィルム)は,考案の名称を「靴底の本底」とするもので
あり,その実用新案登録請求の範囲には,「爪先部分以外の部分を,片面
側がゴム等の軟質材,他面側が硬質皮革等の硬質材からなる二層構造に構
成し,爪先部分を,上記爪先部分以外の部分の片面側軟質材と一体かつ同
部分全体の厚みと同等厚みをもった軟質材による単層構造に構成すること
により,爪先部分を他の部分より柔軟に形成したことを特徴とする靴底の
本底」(明細書1頁)と記載され,この構成により「爪先部分が単独で曲
がり易く,踏み込み,踏ん張りといった爪先の動きに対応し易い靴底の本
底を提供する」(同2頁の考案の目的)というものである。しかし,同刊
行物には,平板状のゴム材と皮革材とを積層するという一般的な構成が開
示されているが,「耐水性で発散作用のある履物用靴底」を提供するとい
う課題,及び,防水布の通気性を保つために貫通孔を備えた不透過性の材
料でできた上部部材により被覆するという構成については,全く記載がな
い。
イ甲3刊行物(実願昭62−107833号(実開昭64−15505
号)のマイクロフィルム)は,考案の名称を「皮革を主体とする靴底」と
するものであり,その実用新案登録請求の範囲には,「天然皮革にアクリ
ル酸エステル系モノマーあるいはビニール系モノマーを含浸して皮革組織
内で重合させた本底と,透明ウレタン樹脂とを一体化して所望肉厚の靴底
とし,透明ウレタン樹脂の所望部位の上面に繊維強化熱可塑性シートを密
着せしめたことを特徴とする皮革を主体とする靴底」(明細書1頁)と記
載され,この構成により「靴底の弾性,耐屈曲疲労性,耐水性,耐久性に
すぐれ,軽量にして足裏になじみやすく,足の運動に順応し,かつ靴の保
型性にも富むようにし」(同3頁第1段落),「天然皮革1にアクリル酸
エステル系あるいはビニール系モノマーを含浸して皮革組織内で重合させ
た肉薄の本底Aと,透明ウレタン樹脂2とを一体化して所望肉厚の靴底に
したから,本底Aは皮革固有の特性を維持しつつ耐水性が付与できる」(
同4頁第2段落)というものである。したがって,同刊行物には,本底と
透明ウレタン樹脂を積層して耐水性を向上させることは開示されていると
いうことはできるものの,耐水性を向上させるために皮革製の本底に不透
過性の部材(本願発明の「上部部材」,甲3刊行物の「透明ウレタン樹
脂」)を積層すると「発散作用」が損なわれることや,この問題を解決す
るために防水布の通気性を保つために貫通孔を備えた不透過性の材料でで
きた上部部材により被覆するという技術的思想については,全く記載がな
い。
ウ甲4刊行物(実願昭54−87565号(実開昭56−6205号)の
マイクロフィルム)は,考案の名称を「靴底」とするものであり,そこに
は,「皮革と合成樹脂との重合より成る靴底」が記載されている(明細書
1頁末行,第2図参照)。しかし,同刊行物には,「耐水性で発散作用の
ある履物用靴底」を提供するという課題,及び,防水布の通気性を保つた
めに貫通孔を備えた不透過性の材料でできた上部部材により被覆するとい
う構成については,全く記載がない。
(3)一方,引用例(甲1)には,「…本実施例においては,本底1の上面の踏
付け部に防水布2を積層配置したが,本底1の上面の全体に積層配置するよ
うにしても良い。ただし,水の浸透による不快感,靴内部の蒸れによる不快
感の感覚は,特に足裏のうち踏み付け側において顕著であるから,本実施例
のように踏付け部のみに防水布2を積層配置しただけで充分に効果的であ
る」(4頁最終段落∼5頁第2段落)と記載されているから,革製本底1の
上面全体に防水布2を積層配置すれば防水性が高まるが,その場合には,通
気性が損なわれ,靴内部の蒸れによる不快感の問題が生じることが記載され
ているということができる。しかし,この問題を解決するために防水布の通
気性を保つために貫通孔を備えた不透過性の材料でできた上部部材により被
覆するという技術的思想については,記載も示唆もない。
被告は,引用発明において防水部材2が積層配置された部分は,防水部材
2によって防水性が確保されているのであるから,防水性をより向上させる
ためには,防水部材2が積層配置されていない革製本底1の上面が露出する
部分に対して合成樹脂を積層すればよく,革製本底1の上面が露出する部分
は,革製本底1の周縁となるから,周縁に沿って革製本底1の上面が露出す
る部分を合成樹脂で被うことは,当業者が容易に想到し得たことであり,周
縁に沿って革製本底1の上面が露出する部分を合成樹脂で被えば,必然的に
合成樹脂は貫通孔を備えたものになると主張する。
確かに,引用発明において,防水性を向上させるため革製本底1の上面が
露出する部分に対して合成樹脂を積層すれば,革製本底1の上面が露出する
部分は周縁であるから,「貫通孔を備えた不透過性の材料でできた上部部
材」を採用すること,すなわち,本願発明の相違点の構成を採用することに
より,引用発明の防水性をより向上させることができるが,引用発明は,防
水性を「通気性を有する防水部材」を積層することにより達成しているもの
であり,かつ,「本実施例のように踏付け部のみに防水布2(判決注:本願
発明の「通気性でかつ耐水性の材料からなる膜」に相当)を積層配置しただ
けで充分に効果的である」(甲1の明細書5頁第2段落)とあるように,そ
れで足りるとしているものである。
引用例には,更に防水性を高めるために「不透過性の材料でできた上部部
材」で覆うというようなことについては記載も示唆もなく,また,審決が周
知技術として引用する甲2刊行物ないし甲4刊行物にも記載がないのである
から,防水布の通気性を保つために貫通孔を備えた不透過性の材料でできた
上部部材により被覆するという本願発明の相違点に係る構成を採用すること
が,当業者に容易想到とすることはできない。被告の上記主張は,裏付けの
ない主張であり,本願発明の相違点に係る構成を後から論理付けしたものと
いうほかなく,採用することができない。
4以上のとおり,本願発明は,引用発明及び審決が引用する周知技術によって
容易想到とすることはできないから,本願発明は引用発明及び審決の認定した
上記周知技術から容易に想到し得たとする審決の判断は誤りである。
よって,原告の本訴請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官上田卓哉

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