弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、
 「1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は、その費用をもつて、控訴人のために、別紙記載の内容の謝罪広
告を、見出しと記名宛名は一四ポイント活字をもつて、本文その他の部分は八ポイ
ント活字をもつて、株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の朝日新聞、株式会社毎
日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞、株式会社日本経済新聞社(東京本社)発行
の日本経済新聞の各朝刊全国版社会面に、三日間継続して掲載せよ。
 3 被控訴人は、控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五〇年九月
一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
 4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」
 旨の判決並びに右三項につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の
判決求めた。
 当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正するほか原判決事実摘示と同
一であるから、これを引用する。
 原判決五枚目表一行目の「昭和」を「大正」に改め、同八枚目表一〇行目の「数
年」を削除し、同九枚目裏五行目の「相当因果」の次に「関係」を加え、同一〇行
目の「関係」を「身分関係のあるもの」に改める。
 (控訴代理人の陳述)
 故意又は過失により死者の名誉を毀損した場合においても、行為者において当該
行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出たもので、その
事実が真実てあることを証明しないかぎり、不法行為が成立するものと解すべきで
ある。死者の名誉毀損であるからといつて、虚偽虚妄をもつて名誉が毀損された場
合にかぎり違法行為となると解するのは相当でない。
 (証拠関係)(省略)
         理    由
 当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべきであると考え
る。その理由は、次に付加、訂正するほか原判決の理由説示と同一であるからこれ
を引用する。
 原判決一二枚目表三行目、同一九枚目表七行目の各「原告」をいずれも「原審及
び当審における控訴人」に改める。
 同一二枚目表五行目の「三男」を「五男」に改め、同一三枚目裏三行目から同一
四枚目表一〇行目までを削除する。
 同一四枚目裏一行目の「乙第四号証」の前に「甲第一七号証」を、同行目の「証
人A」の次に「当審証人B」を、同七行目の「一二月」の前に、「大正元年」を各
挿入する。
 同一六枚目表冒頭に「また、」を加え、同三行目の「弁論の全趣旨」を「当審証
人Bの証言」に、同八行目の「及び被告」を「弁論の全趣旨により成立を認める乙
第一二ないし第一五号証、当審証人Cの証言、原審及び当審における被控訴人」に
各改める。
 同一七枚目表二行目の「広田の」の次に「オランダ公使時代の」を、同一八枚目
裏四行目の「人妻」の次に「(外交官夫人と報じたものもあつた)」をそれぞれ挿
入し、同八行目の「噂を聞いたことはあるが、」を「噂があつたかもしれない
が、」に改め、同末行の「原告自身」から同一九枚目表一行目の「同証人は」まで
を削除する。
 同一九枚目表八行目の「信用できず、」から同裏六行目までを次のとおり改め
る。
 「信用できない。なお、Dは、原審の認定を引用したように外務省の要職を歴任
しただけでなく、大正七年五月には東宮御学問所御用掛に任命されているし、また
成立に争いのない甲第一六号証によれば、Dの妻Eも大正七年六月と大正一四年一
月にそれぞれ皇后宮職御用掛に任命されていることが認められるところ、控訴人
は、これらの事実、特にD夫妻が右の宮内省の要職に任命された事実に徴しても本
件文章中Dに関する部分が虚偽であることは明らかであると主張するもののようで
あるが、右の事実からただちに控訴人の右主張のように断言できるものでもなく、
他に本件文章中Dに関する部分が虚偽であることを認めるに足りる的確な証拠はな
い。
 以上に認定したところに基づき本訴請求の当否につき検討する。
 まず死者の名誉ないし人格権についてであるが、刑法二三〇条二項及び著作権法
六〇条はこれを肯定し、法律上保護すべきものとしていることは明らかである。右
のほか、一般私法に関しては直接の規定はないが、特に右と異なる考え方をすべき
理由は見出せないから、この分野においても、法律上保護されるべき権利ないし利
益として、その侵害行為につき不法行為成立の可能性を肯定すべきである。しか
し、この場合何人が民事上の請求権を行使しうるかについてはなんらの規定がな
く、この点につき著作権法一一六条あるいは刑事訴訟法二三三条一項を類推してそ
の行使者を定めるとすることもたやすく肯認し難い。結局その権利の行使につき実
定法上の根拠を欠くというほかない。
 ただ本訴は、死者に対する名誉毀損行為により控訴人自らが著しい精神的苦痛を
蒙つたとして、控訴人に対<要旨第一>する不法行為を主張するものと解されるので
あるから、前記のような請求権者の問題はない。そして故人に対する遺
族の敬愛追慕の情も一種の人格的法益としてこれを保護すべきものであるから、こ
れを違法に侵害する<要旨第二>行為は不法行為を構成するものといえよう。もつと
も、死者に対する遺族の敬愛追慕の情は死の直後に最も強く、その後時
の経過とともに軽減して行くものであることも一般に認めうるところであり、他面
死者に関する事実も時の経過とともにいわば歴史的事実へと移行して行くものとい
うことができるので、年月を経るに従い、歴史的事実探求の自由あるいは表現の自
由への配慮が優位に立つに至ると考えるべきである。
 本件のような場合、行為の違法性の判断にあたり考慮されるべき事項は必ずしも
単純でなく、被侵害法益と侵害行為の両面からその態様を較量してこれを決せざる
を得ないが、その判断にあたつては、当然に時の経過に伴う前判示の事情を斟酌す
べきてある。
 ところでDは昭和四年一一月二九日に死亡しているところ、本件文章はその死後
四四年余を経た昭和四九年一月に発表されたものである。かような年月の経過のあ
る場合、右行為の違法性を肯定するためには、前説示に照らし、少なくとも摘示さ
れた事実が虚偽であることを要するものと解すべく、かつその事実が重大で、その
時間的経過にかかわらず、控訴人の故人に対する敬愛追慕の情を受認し難い程度に
害したといいうる場合に不法行為の成立を肯定すべきものとするのが相当である。
 しかして、前認定によれば、本件文章に記載された問題の個所が虚偽の事実と認
めることはできないから被控訴人の行為について違法性はなく、控訴人主張の不法
行為の成立を認めることはできない。」
 以上の次第で、控訴人の本訴請求は、これを認容できないので、失当として棄却
すべきである。
 よつて、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負
担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 内藤正久 裁判官 堂薗守正)
(別 紙)
<記載内容は末尾1添付>

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