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平成19年(行ケ)第10107号審決取消請求事件
平成19年11月29日判決言渡,平成19年10月2日口頭弁論終結
判決
原告株式会社サンケイ技研
訴訟代理人弁理士正林真之,高岡亮一,林一好,加藤清志,八木澤史彦,小野
寺隆
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人鍋田和宣,岩井芳紀,森山啓
主文
特許庁が不服2006−1808号事件について平成19年2月14日にした審
決を取り消す。
訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文と同旨の判決
第2事案の概要
本件は,原告がした後記意匠登録出願に対し拒絶査定がされたため,これを不服
として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取消
しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)意匠登録出願(甲4)
出願人:原告
意匠に係る物品:「弾性ダンパー」
意匠の形態:別紙1のとおり(以下「本願意匠」という。)
出願番号:意願2005−11535号
出願日:平成17年4月18日
拒絶査定日:平成17年12月26日(起案日)
(2)審判請求手続等
審判請求日:平成18年2月1日(不服2006−1808号)
審決日:平成19年2月14日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成19年2月27日
2審決の要点
審決は,本願意匠は,後記引用意匠と類似するから,意匠法3条1項3号に掲げ
る意匠に該当し,同条の規定により,意匠登録を受けることができないとした。
(1)引用意匠
「原審において,本願意匠が意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当するとして引用した意
匠(以下『引用意匠』という。)は,2001年8月24日に特許庁意匠課が受け入れた,倉
敷化工株式会社発行のカタログ『クラフレックス・パイプサイレンサー』(乙2の1。以下
『本件カタログ』という。)22頁にカラー写真版により掲載した産業用機械器具用防振具の
ダンパー部分のみの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HN13011841号)であって,
同頁の記載によれば,意匠に係る物品は,機械器具用防振具のダンパーであり,その形態を同
写真版に示すとおりとしたものである。(この審決に添付した『図面第2』(本判決別紙2)
参照。)」
(2)本願意匠と引用意匠の対比
「本願意匠と引用意匠は,いずれも機械器具の振動を軽減する目的で使用するものに係るか
ら,意匠に係る物品が共通し,両意匠の形態については,主として,以下のとおりの共通点お
よび差異点が認められる。
なお,引用意匠については,原審の拒絶理由通知および拒絶査定に記載のとおり,『産業用
機械器具用防振具のダンパー部分』であるから,その形態を上下両端面に取り付けたネジ部材
等を除いて上下対称状に形成した部分の態様とみなして対比する。
先ず,共通点として,全体は,直径よりも縦の長さがやや短い略短円柱状であって,上下両
端部分をその間の胴部よりもやや長径のフランジ状に形成し,上下両端面のそれぞれ中央に,
接合用金具を構成することができる部分を設けている点が認められ,具体的な態様において,
フランジ状部は,側面全周をいずれも垂直面状とし,側方視やや肉厚板状である点,胴部とフ
ランジ状部との出会い部分をそれぞれ匙面状に形成している点が認められる。
一方,具体的な態様の差異点として,(1)形態の全体の直径に対する縦の長さの比について,
本願意匠は,約5対3であるのに対し,引用意匠は,約5対4である点,(2)上下両端面の態
様について,本願意匠はその全面を平坦面としているのに対し,引用意匠は,上端面が略平坦
面であると視認できるもののその詳細な態様は不明である点,(3)接合用金具を構成すること
ができる部分の態様について,本願意匠は,上下両端面から内部に向かって短径のネジ孔を形
成しているのに対し,引用意匠は,その態様が不明である点が認められる。」
(3)本願意匠と引用意匠の類似性についての判断
「以上の共通点および差異点を総合し,本願意匠と引用意匠が意匠全体として類似するか否
か,すなわち両意匠の類似性について以下考察する。
先ず,形態の全体についての前記共通点は,すでに両意匠のほかにも見受けられる点ではあ
るが,全体の骨格的な構成を決定づけているから,両意匠の類似性についての判断に影響を与
えるものであり,フランジ状部の具体的な態様についての前記共通点すなわち,側面全周をい
ずれも垂直面状とし,側方視やや肉厚板状である点,および胴部とフランジ状部との出会い部
分をそれぞれ匙面状に形成している点が機器に取り付けた状態において着目の度合いが大きい
側方視態様についての共通点であることを考慮すると,共通点が相まって生じる意匠的な効果
は,両意匠の類似性についての判断を左右するほどの影響があると言うべきである。
一方,前記各差異点を検討すると,差異点(1)については,この種ダンパーの分野において,
形態の全体の直径に対する縦の長さの比を適宜変更して形成することは普通に行われるところ,
本願意匠と引用意匠の当該比率の差異も軽微に止まるから,その差異は両意匠の類似性につい
ての判断に与える影響が微弱であり評価できない。差異点(2)については,引用意匠は,差異
点にかかる形態の詳細な態様が不明であるが,ダンパー部分の上端面は,詳細な部分について
差異があるとしても概ね略平坦面であると視認できるものであり,また,重ねて使用する状態
では着目の度合いが比較的小さい部分の態様についての差異である点も考慮すると,形態の全
体を左右するほどの影響を与えるものとは言い難いから,その差異は両意匠の類似性について
の判断に与える影響が未だ微弱であり評価できない。差異点(3)については,本願意匠のネジ
孔は,内部に向かって形成した短径のものであり,また,この種物品分野において,接合用金
具を構成する部分に内部に向かってネジ孔を形成することは,例えば,日本国特許庁公開特許
公報に記載された特開平11−37217号(甲2)の図3の意匠等に見受けられ,本願意匠
のみに格別新規であるとは言い難いから,限られた部分の態様についての軽微な差異にとどま
り,その差異が両意匠の類似性についての判断に与える影響が微弱であり評価できない。
なお,請求人は,フランジ部を含むダンパー本体の上下の両端面について,本願意匠は,艶
消し模様で覆われ,高い摩擦抵抗を有する印象を与え,摩擦係数の高い材料により摩擦抵抗を
有効に活用するものであるのに対し,引用意匠は,鏡面模様に仕上げられ,滑りやすい印象を
与え,摩擦抵抗を必要としないものである点において相違する旨主張するが,本願意匠は,願
書の説明および添付図面の記載の限りでは,艶消し模様の具体的な態様を現したものとは認め
られず,機能的な作用効果において相違する点があるとしても,意匠の形態としては未だ軽微
な差異に止まるものであるから,その差異が両意匠の類似性についての判断(に)与える影響
は微弱であり評価できないから,同主張は採用できない。そうすると,差異点に係る態様が相
まって生じる意匠的な効果を考慮したとしても,両意匠の類似性についての判断を左右するほ
どの影響があるとは言い難い。
したがって,本願意匠と引用意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態については,差異点よ
りも共通点に係る態様が相まって生じる意匠的な効果のほうが両意匠の類似性についての判断
に与える影響が大きいと言えるから,両意匠は,全体として類似するものと言うほかない。」
(4)審決の「結び」
「以上のとおりであるから,本願意匠は,意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当し,同条
の規定により,意匠登録を受けることができない。」
第3審決取消事由の要点
審決は,以下のとおり,本願意匠と引用意匠(以下「本件両意匠」という。)の
共通点及び差異点の認定を誤り,また,本件両意匠の類否判断を誤った結果,本願
意匠が意匠法3条1項3号の規定により意匠登録を受けることができないと判断し
たものであるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(本件両意匠の共通点の認定の誤り)
(1)意匠に係る物品について
ア審決は,「本願意匠と引用意匠は,いずれも機械器具の振動を軽減する目的
で使用するものに係るから,意匠に係る物品が共通し,・・・。」と認定したが,
引用意匠に係る物品が,ポンプ等の機器それ自体の振動を抑えたり,当該機器の振
動を周囲に伝えないようにしたりするいわゆる「防振」を目的とするものであるの
に対し,本願意匠に係る物品は,振動により悪影響を受ける精密測定装置等の機器
に周囲の振動を伝えないようにするいわゆる「除振(制振)」を目的とするもので
あり,本件両意匠は,明らかに意匠に係る物品を異にするものであるから,審決の
上記認定は誤りであり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
なお,「防振」と「除振(制振)」とがその目的を異にすることは,明確に区別
しなければならないものとして看者に認知されていることから,本件両意匠に係る
物品について混同が生じるおそれはない。
イ被告は,本件両意匠に係る物品が機能及び目的において共通する旨主張する
が,意匠に係る物品は,機能が共通する場合であっても,用途が異なるものであれ
ば,これらを類似するということはできないから,被告の上記主張は失当である。
また,被告の上記主張は,引用意匠に係る物品とは異なる物品を前提にしたもので
あり,この点でも,被告の上記主張は失当である。
(2)本件両意匠の全体形状について
審決は,「・・・共通点として,全体は,直径よりも縦の長さがやや短い略短円
柱状であって,・・・。」と認定したが,引用意匠の上下両端面(円形)の直径と
縦の長さ(高さ)の比(以下「横縦の比」という。)を別紙2の写真から実測する
と,約2対1となり,これを「直径よりも縦の長さがやや短い」と認めることはで
きないから,審決の上記認定は誤りである。
しかも,本願意匠の横縦の比を別紙1の図面から実測すると,約7対5となるの
であるから,引用意匠のほうが本願意匠に比して側面視において横長の形状を有し
ていることは明らかであり,本件両意匠の全体形状が共通しているなどとはおよそ
いえない。
そして,この認定の誤りは,看者であれば当然注視する意匠の要部といわれる部
分についての致命的な誤認であるから,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかで
ある。
(3)「胴部とフランジ状部との出会い部分」(以下「胴部上下の出会い部分」
という。)の態様について
審決は,「・・・共通点として,・・・具体的な態様において,・・・胴部とフ
ランジ状部との出会い部分をそれぞれ匙面状に形成している点が認められる。」と
認定したが,「匙面状」といっても具体的には多種多様のものがあり,内側方向に
面取りが行われていればすべて「匙面状」ともいい得るのであるから,本願意匠の
胴部上下の出会い部分に施された面取りの形状が「匙面状」であることのみを根拠
に,本件両意匠の胴部上下の出会い部分の形状が類似すると断定することはできな
いし,また,引用意匠の胴部上下の出会い部分の形状は別紙2によっても不明なの
であるから,審決の上記認定は誤りである
そして,この認定の誤りは,本件両意匠の類否判断を左右する箇所であり,看者
が注視する意匠の要部ともなり得る部分についての誤認であるといえる。
2取消事由2(本件両意匠の差異点の認定の誤り)
(1)横縦の比について
審決は,「形態の全体の直径に対する縦の長さの比について,本願意匠は,約5
対3であるのに対し,引用意匠は,約5対4である点」を具体的な態様の差異点
(1)として認定したが,取消事由1の(2)において主張したとおり,引用意匠の横縦
の比が約2対1であるのに対し,本願意匠のそれは約7対5であるから,審決の上
記認定は誤りである(審決の認定によれば,本願意匠のほうが引用意匠に比して側
面視において横長の形状を有していることになる。)。
そして,この認定の誤りは,看者であれば当然注視する意匠の要部といわれる部
分についての致命的な誤認であるから,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかで
ある。
(2)上下両端面の態様について
ア審決は,「上下両端面の態様について,本願意匠はその全面を平坦面として
いるのに対し,引用意匠は,上端面が略平坦面であると視認できるもののその詳細
な態様は不明である点」を具体的な態様の差異点(2)として認定したが,本願意匠
については,これに係る物品を重ねて使用する場合もあるため,上下両端面を平坦
に形成したものであるのに対し,引用意匠については,上下両端面の形状が不明で
あり,これを本願意匠の当該形状と比較することは不可能であるから,審決の上記
認定(「引用意匠は,上端面が略平坦面であると視認できる」との認定)は誤りで
ある。
イまた,本件カタログ22頁の断面図によれば,引用意匠の上下両端面は,弾
性体による被覆がされておらず,金属面がむき出しの態様を有していることが明ら
かである。これに対し,本願意匠の上下両端面は,別紙1の図面に示すように,弾
性体により被覆されているのであるから,審決には,この点を差異点として認定す
るのを看過した誤りがある。
(3)接合用金具を構成することができる部分(以下「接合用金具構成部分」と
いう。)の態様について
審決は,「接合用金具を構成することができる部分の態様について,本願意匠は,
上下両端面から内部に向かって短径のネジ孔を形成しているのに対し,引用意匠は,
その態様が不明である点」を具体的な態様の差異点(3)として認定したが,本願意
匠における短径のネジ孔は,上下両端面からは形成されておらず,上下両端面と段
差を有して形成されているのであるから,審決の上記認定は誤りである。
そして,このように上下両端面と段差を有してネジ孔を形成することにより,ボ
ルトの緩みを防止し,振動による抜脱を防ぐ効果を奏するものであるから,接合用
金具構成部分は,看者において特に注視する箇所であり,意匠の要部となり得る部
分であるといえ,したがって,上記認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすもの
である。
3取消事由3(本件両意匠の類否判断の誤り)
取消事由1及び2において主張した本件両意匠の共通点及び差異点の各認定の誤
りに加え,以下の点を考慮すると,「両意匠は,全体として類似するものと言うほ
かない。」とした審決の判断は誤りである。
(1)横縦の比(差異点(1))について
ア審決は,「・・・差異点(1)については,この種ダンパーの分野において,
形態の全体の直径に対する縦の長さの比を適宜変更して形成することは普通に行わ
れるところ,・・・。」と判断したが,本願意匠に係る分野の物品は,製造時にお
いて,対象となる機器やその目的別にある程度形状が限定されるものであるから,
審決の上記判断は誤りである。
イ審決は,「・・・差異点(1)については,・・・本願意匠と引用意匠の当該
比率の差異も軽微に止まるから,その差異は両意匠の類似性についての判断に与え
る影響が微弱であり評価できない。」と判断したが,取消事由1の(2)において主
張したとおり,審決は,本件両意匠における横縦の比について誤った認定をしたも
のであるから,かかる誤った認定事実に基づく上記判断も誤りである。
ウそもそも,本願意匠に係る分野の物品において,横縦の比(長さ)は,振動
をどの程度軽減させるかを決定付ける重要な要素であり,看者は,適切な製品を選
択するため,横縦の比(長さ)について着目し,取引を行っているものである。
エ審決は,本件両意匠の共通点の評価においては,「・・・形態の全体につい
ての前記共通点は,・・・全体の骨格的な構成を決定づけているから,両意匠の類
似性についての判断に影響を与えるものであり,・・・。」と判断しているにもか
かわらず,差異点(1)の評価において,横縦の比に係る差異が類否判断の要素とな
らないとするのは,明らかに矛盾を含むものである。
(2)上下両端面の態様(差異点(2))について
審決は,「差異点(2)については,引用意匠は,差異点にかかる形態の詳細な態
様が不明であるが,ダンパー部分の上端面は,詳細な部分について差異があるとし
ても概ね略平坦面であると視認できるものであり,また,重ねて使用する状態では
着目の度合いが比較的小さい部分の態様についての差異である点も考慮すると,形
態の全体を左右するほどの影響を与えるものとは言い難いから,その差異は両意匠
の類似性についての判断に与える影響が未だ微弱であり評価できない。」と判断し
たが,以下のとおり,この判断は誤りである。
ア本願意匠に係る分野の物品は,いわゆる業者間でのみ取引がされ,設置場所
も一般需要者の目に触れない場所であるから,当該物品の看者は,当該物品を取り
扱う専門家であり,そのような看者において最も注視する意匠の要部は,設置後に
目に付く部分よりも,設置時や取引時に注視する箇所である。
特に,上下両端面の金属板については,看者は,これに,傷,割れ,腐食,ゆが
み等がないかの確認を行っており,当該金属面は,看者が特に注視する部分である
といえる。
また,一般に,本願意匠に係る分野の物品は,上下の金属板にゴムを接着させて
製造するものであるところ,金属板とゴムの接着面は,製品の品質がよく表れる箇
所であり,看者は,当該接着面の状況を確認することにより品質の確認を行うもの
である。
イそして,看者は,本願意匠に係る分野の物品が流通過程に置かれた場合,正
面方向(側面方向)だけではなく,接合面を有する平坦面を含む斜視方向又は上面
方向からも観察するのが通常であり,機器や架台等と直接接するダンパー本体の上
下両端面に施された視覚的に訴えるデザイン的形態に注意をひかれて当該物品を観
察することになる。したがって,本願意匠に係る分野の物品において,単純に設置
後に目に付く部分を要部として判断することは,取引の実情を無視するものであり,
失当である。
ウまた,取消事由2の(2)において主張したとおり,本件両意匠の各上下両端
面の態様には,金属面の被覆の有無という明確な差異があり,この差異は,意匠全
体の形状に多大の影響を与え,本件両意匠の類否判断においても支配的な影響を与
えるものである。
(3)接合用金具構成部分の態様(差異点(3))について
審決は,「差異点(3)については,本願意匠のネジ孔は,内部に向かって形成し
た短径のものであり,また,この種物品分野において,接合用金具を構成する部分
に内部に向かってネジ孔を形成することは,・・・本願意匠のみに格別新規である
とは言い難いから,限られた部分の態様についての軽微な差異にとどまり,その差
異が両意匠の類似性についての判断に与える影響が微弱であり評価できない。」と
判断したが,ネジ部分についても,これが曲がっていたり,接合用金具と適合しな
かったりすると,抜脱の可能性も生じるため,看者は,良品と不良品との選別を行
う際に,ネジ部分の状況の確認を行っており,同部分についても,看者が特に注視
する部分であるといえる。したがって,上記(2)において主張したのと同様,本願
意匠に係る分野の物品の看者は,上下両端面の略中央部に設けられた略円柱状のネ
ジ孔に施された視覚的に訴えるデザイン的形態に注意をひかれて物品を観察するの
であるから,審決の上記判断は,取引の実情を無視するものであり,失当である。
第4被告の反論の骨子
1取消事由1(本件両意匠の共通点の認定の誤り)に対して
(1)意匠に係る物品について
ア本件両意匠に係る物品の用途及び機能が原告主張のとおりであるとしても,
本件両意匠に係る物品は,いずれも振動を吸収する機能を有する点や,振動の伝達
を軽減することを目的とする点において共通する同種のものであるから,本件両意
匠が意匠に係る物品を共通にする旨の審決の認定に誤りはない。
イ原告は,本件両意匠に係る物品がその用途を異にする旨主張するが,この種
物品は,原告が主張する「防振」にも「除振」にも用いられるものであるから,原
告の上記主張は失当である。
(2)本件両意匠の全体形状について
ア審決が本願意匠と引用意匠の各横縦の比をそれぞれ約5対3及び約5対4と
認定した点は,それぞれ約5対4及び約5対3の誤記である。
イ本件カタログ22頁の記載によれば,引用意匠は「KA形」と表示された製
品の一態様であり,同頁に掲載された仕様表によれば,KA形の製品の横縦の比は,
約5対7ないし約5対2の範囲で異なるものが存在し,2対1のものも見受けられ
るところであるから,写真版に現されたものの横縦の比が約5対3ではなく約2対
1であって,多少の差異があるとしても,その差異は,当該製品において予定され
た範囲内の軽微なものであり,審決が,本件両意匠の全体形状の共通点として「直
径よりも縦の長さがやや短い略短円柱状」と認定したこととも矛盾するものではな
い。
(3)胴部上下の出会い部分の態様について
本件カタログ22頁の写真版に,引用意匠の胴部上下の出会い部分を内側方向に
面取りした態様を現すハイライト状部分が視認できること,前記KA形の製品に係
る図面に,同出会い部分を匙面状に形成した態様が記載されていることを総合する
と,引用意匠においても,同出会い部分が匙面状に形成されているものと認められ
る。
他方,本願意匠においては,原告も認めるとおり,同出会い部分において面取り
を施しているものであり,その態様は,ごくありふれた匙面状であるから,本件両
意匠の各胴部上下の出会い部分は,いずれも匙面状に形成されたものであるといえ
る。
したがって,本件両意匠の胴部上下の出会い部分の態様を共通点とした審決の認
定に誤りはない。
2取消事由2(本件両意匠の差異点の認定の誤り)に対して
(1)横縦の比について
取消事由1の(2)に対する反論において主張したとおり,審決が本願意匠と引用
意匠の各横縦の比をそれぞれ約5対3及び約5対4と認定した点は,それぞれ約5
対4及び約5対3の誤記である。そして,本件カタログ22頁の写真版に現された
製品の横縦の比が約2対1であるとしても,約5対3と約2対1の差異は,当該製
品において予定された範囲内の軽微なものである。
(2)上下両端面の態様について
ア引用意匠の上端面が略平坦面であることは別紙2の写真から視認することが
できるから,「引用意匠は,上端面が略平坦面である」とした審決の認定に誤りは
ない(なお,引用意匠に係る物品の使用目的,使用方法,機能等に照らせば,その
下端面の態様も,上端面と同様のものであると推認することができる。)。
イ原告は,引用意匠の上下両端面は弾性体による被覆がされていない旨主張す
るが,本件カタログ22頁の断面図は,上下両端面の形態を示すものではないから,
原告の上記主張には根拠がない。
(3)接合用金具構成部分の態様について
審決が認定した「ネジ孔」は,接合用金具を装着する孔の全体であって,「ネジ
の溝部分」に限って認定したものではないから,本願意匠の接合用金具構成部分の
態様に係る審決の認定に誤りはない。
3取消事由3(本件両意匠の類否判断の誤り)に対して
取消事由1及び2(本件両意匠の共通点及び差異点の各認定の誤り)はいずれも
理由がなく,原告が取消事由3において主張するその余の点も,以下のとおり理由
がないから,「両意匠は,全体として類似するものと言うほかない。」とした審決
の判断に誤りはない。
(1)横縦の比(差異点(1))について
ア本件カタログに記載されたとおり,本件両意匠に係る物品においては,構成
態様を同じくする製品間で,横縦の比(長さ)が異なる数種類のものが存在するの
であり,本件両意匠の各横縦の比の差異は,予定された選択肢の範囲内に収まるも
のであるから,「この種ダンパーの分野において,形態の全体の直径に対する縦の
長さの比を適宜変更して形成することは普通に行われる」とした審決の判断に誤り
はない。
イ本件両意匠に係る物品の大きさは,振動の程度,機器の重量,建物の構造等
に基づいて選択される必然的な要素であって,一定のバリエーションが用意される
ものであるところ,本件両意匠の各横縦の比の差異は,軽微なものにとどまり,形
態の全体の骨格的な構成を左右するほどの影響があるとまではいえない。そして,
取消事由1の(2)に対する反論において主張したとおり,本件両意匠は,形態全体
を直径よりも縦の長さがやや短い略短円柱状とした点で差異はないから,上記各横
縦の比の差異が本件両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものにとどまる旨の審
決の判断に誤りはない。
(2)上下両端面の態様(差異点(2))について
ア取消事由2の(2)に対する反論において主張したとおり,引用意匠の上下両
端面は,いずれも略平坦面であるといえるから,引用意匠の上下両端面の詳細な態
様について不明な点があるとしても,意匠全体として本件両意匠の類否判断を行う
上で,差し支えとなるものではない。また,仮に,本件両意匠の上下両端面の詳細
な態様に差異があるとしても,本願意匠の上下両端面の外表に特筆すべき構成態様
は存在せず,本件両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものにとどまる。
イ原告が主張する専門家である看者は,一般の取引者と比較して,後者であれ
ば見逃すような内部構造や細部の態様についても,より仔細に観察するという点に
違いがあるにすぎないから,専門家が取引者・需要者であるからといって,直ちに,
形態についての全体の骨格的な構成や,一つの意匠的なまとまりを形成し取引者・
需要者に視覚を通じて美感を与える構成態様を観察,注視せずに,細部の形状,模
様等の態様のみを注視するものではない。
したがって,上下両端面の態様といった詳細な部分についての差異よりも,骨格
的な構成に係る形態の全体についての共通点と,具体的な態様についての共通点が
相乗して生じる意匠的効果のほうが,本件両意匠の類否判断に与える影響が大きい
として当該類否判断をした審決に誤りはない。
ウ原告は,上下両端面は看者が特に注視する部分である旨主張するが,仮にそ
うであるとしても,それは,品質の確認,保守,点検等を目的としたものであり,
意匠の類否判断に際して重要な影響を与える審美性の観点に基づくものとはいえな
いから,上下両端面の態様は,本件両意匠の類否判断を左右する要部とはなり得な
いものである。
エなお,引用意匠の上下両端面に弾性体による被覆がされていないとの原告の
主張に根拠がないことは,取消事由2の(2)に対する反論において主張したとおり
である。
(3)接合用金具構成部分の態様(差異点(3))について
ア本願意匠の接合用金具構成部分が,原告が取消事由2の(3)において主張す
るような効果を奏するものであるとしても,本願意匠の短径のネジ孔の内側の段差
は,形態の内部構造の断面図を注視して初めて視認できるほどの細部の態様に係る
ものであり,その態様が意匠の形態全体に与える影響は極めて軽微なものにすぎず,
本願意匠のみに格別の意匠的効果をもたらすものではない。
同様に,引用意匠についても,その接合用金具構成部分は,上下両端面の中央に
形成した短径の部分であって,形態の内部構造に係るものであるから,ネジ孔周辺
部分を注視する場合があるとしても,直ちに,その態様が意匠全体としての類否判
断に支配的な影響を与える部分とはなり得ない。
イ本件両意匠の看者が専門家である旨の原告の主張に対する反論は,上記(2)
イにおける主張と同様である。
ウ原告は,接合用金具構成部分は看者が特に注視する部分である旨主張するが,
仮にそうであるとしても,上記(2)ウにおいて主張したのと同様,当該部分の態様
は,本件両意匠の類否判断を左右する要部とはなり得ないものである。
第5当裁判所の判断
1審決が引用意匠として認定した意匠について
審決は,「・・・本願意匠が意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当するとして
引用した意匠(引用意匠)は,本件カタログ22頁にカラー写真版により掲載した
産業用機械器具用防振具のダンパー部分のみの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第
HN13011841号)であって,・・・その形態を同写真版に示すとおりとし
たものである。(この審決に添付した『図面第2』(本判決別紙2)参照。)」と
説示して引用意匠を認定したものであるから,審決が引用意匠として認定した意匠
は,別紙2の写真に現され,「┗」及び「┓」の記号で囲まれた物品(ただし,ボ
ルト,ナット,スプリングワッシャー等であると視認し得るネジ部材類を除いたダ
ンパー部分のみである。)の形状である(以下,必要に応じ,「写真に現された引
用意匠」という。)。したがって,以下,引用意匠の形状,態様等について検討す
る際には,写真に現された引用意匠のみに基づいてこれを行う(ただし,審決図面
第2及び本判決別紙2の各写真は,いずれも白黒の複写に係るものであり,鮮明度
が落ちることから,適宜,本件カタログ22頁のカラー写真の該当部分を参照する
こととする。)。
2取消事由1(本件両意匠の共通点の認定の誤り)について
(1)意匠に係る物品について
ア本願意匠及び引用意匠に係る各物品がそれぞれ「弾性ダンパー」及び「機械
器具用防振具のダンパー」であることは,当事者間に争いがない。
イ本願意匠に関し,願書(甲4)には,意匠に係る物品の説明として,「本物
品は,地震等の大きな振動が生じた場合に,振動エネルギーを吸収する耐震用の弾
性ダンパーである。・・・機器等の地震により受ける水平力を最小限に抑えること
ができるものである。」との記載があり,引用意匠に関し,本件カタログ22頁に
は,主なる用途として,「ポンプ,送風機,エンジン,発電機,電動機,圧縮機な
ど広範囲」との記載がある。
ウ(ア)株式会社小野測器作成の「制振材料とその性能測定について」と題する
資料(甲6)の2頁には,以下の記載がある。
「“制振”とは固体表面の振動の振動エネルギーを熱エネルギーに変換し,固体表面の振動
を小さくする技術である。
これに対して“防振”は振動源と被振動源の間の振動伝達率を小さくすることで振動の遮断に
相当する技術である。制振と明確に区別する必要がある。」
(イ)ヤクモ株式会社のホームページ中の「豆知識」と題する部分を印刷した資
料(甲7)の6頁には,以下の記載がある。
「7.防振と制振
防振
・防振振動源を対策して,周囲に振動を伝えないようにすること
・除振周囲からの振動を機械に伝えないようにすること
振動を取り除くこと一般を『防振』と呼びます。防振には,周囲の振動レベルの低減を目的と
したもの・・・などがあります。
制振
振動を減衰させること。機械防振に用いる場合は,共振を抑制したり過渡振動を速やかに減衰
させる場合に用います。また,制振鋼板など板の振動を抑えて音の放射量を下げる目的でも使
用されます。
本来は発生した振動に対して受動的(パッシブ)に働くダンパーが一般的でしたが,近年は能
動的(アクティブ)に振動を制御するものが試みられています。」
(ウ)特許機器株式会社のホームページ中の「防振技術」及び「除振技術」と題
する各部分を印刷した資料(甲8)には,以下の記載がある。
「防振技術
空調機器などの機械振動をできるだけ基礎に伝えないようにする技術のこと。
・・・
防振材としては,空気ばね・スプリング・防振ゴムなどがあります。」(甲8の1丁)
「除振技術
除振技術とは,精密機械など振動を嫌う機器を対象に,周囲の環境振動から絶縁する目的で行
う振動遮断技術のこと。」(甲8の2丁)
(エ)本件カタログの発行者である倉敷化工株式会社発行の「防振ゴム」と題す
るカタログ(甲3。以下「甲3カタログ」という。)の37頁には,以下の記載が
ある。
「振動を発生する機械を防振支持する場合,あるいは外部からの振動を精密機器などに影響
を及ぼさないように防振支持する場合に防振ゴムが用いられます。」
なお,甲3カタログの3頁及び4頁には,引用意匠に係る物品と同種の製品であ
ると認められる「丸形防振ゴム」の「KA形」が掲載されている。
エ(ア)上記イ及びウの各記載によれば,本願意匠に係る物品は,周囲からの振
動を機器等に伝えないようにする「除振」を目的とするものであり,引用意匠に係
る物品は,主として,機器等が発する振動を周囲に伝えないようにする「防振」
(なお,上記ウの各記載によれば,この意味の「防振」と「除振」とを併せて「防
振」ということもあるので,以下,「除振」を含まない「防振」を「狭義の防振」
という。)を目的とするものであると認めることができる(なお,原告は,「除
振」と「制振」とを同義の語として使用しているが,上記ウの各記載に照らせば,
そのような用語法は適切でない。)。
(イ)他方,本件両意匠に係る各物品が,いずれも弾性体を使用し,これにより,
振動を吸収する機能を有するダンパーであることは,当事者間に争いがない。
(ウ)そこで検討するに,①本件両意匠に係る各物品が,いずれも弾性体を使用
して,機器等に伝わる振動又は機器等が発する振動を吸収する機能を有するダンパ
ーであること,②引用意匠に係る物品が機器等の発する振動を吸収する機能を有す
ることに加え,引用意匠に係る物品が上下及び左右とも対称の形状を有しているこ
とや,引用意匠に係る物品と同種の製品(「丸形防振ゴム」の「KA形」)が掲載
された甲3カタログに上記ウ(エ)の記載があることからすると,引用意匠に係る物
品を狭義の防振用のみならず除振用に用いることも可能であると推認することがで
きること,③上記イのとおり,引用意匠に係る物品の用途として例示列挙されたポ
ンプ等は,「主なる用途」であるとされていること,などにも照らせば,本件両意
匠に係る各物品は,その機能のみならず,用途においても共通するものと認めるの
が相当である。
そうすると,本件両意匠が,意匠に係る物品を共通にするとした審決の認定に誤
りはないというべきである。
(2)本件両意匠の全体形状について
ア審決は,本願意匠及び引用意匠の各横縦の比が,それぞれ約5対3(約1.
67対1)及び約5対4(約1.25対1)であることを前提にして,「共通点と
して,全体は,直径よりも縦の長さがやや短い略短円柱状であって」と認定したも
のである(なお,被告は,当該各横縦の比につき,「それぞれ約5対4及び約5対
3の誤記である」旨主張するが,これは,単に,本件両意匠の各横縦の比を入れ替
えただけのことであるから,当該各横縦の比に基づく本件両意匠の全体形状の比較
という点では,結論に影響を及ぼすものではない。当該各横縦の比の差異自体の比
較についての取消事由2の(1)に係る後記判断についても同様である。)。
イ本願意匠の形状は,願書の記載及び願書に添付された図面(以下「添付図
面」という。)の記載に基づいて定めるべきものであるから,添付図面に記載され
た正面図により本願意匠の横縦の長さを実測すると,その比は約1.35対1とな
り,他方,写真に現された引用意匠の横縦の長さを実測すると,その比は約2.0
0対1となる(なお,引用意匠に係る物品を写真化することにより,実際の寸法が
ゆがめられることがあり得るが,審決が引用意匠の形状を写真のみによって特定し
ている以上,致し方のないことである。取消事由2の(1)に係る後記判断について
も同様である。)。
ウ上記イの実測値に加え,添付図面に記載された本願意匠の形状と写真に現さ
れた引用意匠の形状とから受ける視覚的印象をも併せると,引用意匠の全体形状に
ついて,これを,「『直径よりも縦の長さがやや短い』略短円柱状」と認めること
はできないから,この点を本件両意匠の全体形状における共通点と認めた審決の上
記認定は誤りであるといわざるを得ない。
エ被告は,「本件カタログ22頁の仕様表によれば,引用意匠に係る製品の横
縦の比は,約5対7ないし約5対2の範囲で異なるものが存在する」旨主張するが,
前記1において説示したところによれば,これを採用することはできない。
オただし,本件両意匠の全体形状に係る審決の認定の上記誤りが審決の結論に
影響するものであるか否かは,結局は,取消事由3(本件両意匠の類否判断の誤
り)についての判断いかんによるものであるから,審決に当該認定の誤りがあるこ
とのみをもって直ちに,原告の請求に理由があるとすることはできない(取消事由
2の(1)及び(2)に係る後記各判断についても同様である。)。
(3)胴部上下の出会い部分の態様について
ア原告は,「引用意匠の胴部上下の出会い部分の形状は別紙2によっても不明
である」旨主張するが,写真に現された引用意匠からは,胴部上下の出会い部分の
うち下部については,これが匙面状に形成されたものと視認することができ,そう
だとすると,上部についても,匙面状に形成されたものと推認することができるか
ら,原告の上記主張を採用することはできない。
イまた,原告は,「『匙面状』といっても具体的には多種多様のものがあるの
であるから,本願意匠の胴部上下の出会い部分に施された面取りの形状が『匙面
状』であることのみを根拠に,本件両意匠の当該出会い部分の形状が類似すると断
定することはできない」旨主張するが,上記アにおいて認定したところも併せると,
本件両意匠の当該出会い部分の各形状がいずれも「匙面状」であることに誤りはな
いから,「・・・共通点として,・・・具体的な態様において,・・・胴部とフラ
ンジ状部との出会い部分をそれぞれ匙面状に形成している点が認められる。」とし
た審決の認定に誤りはない。
3取消事由2(本件両意匠の差異点の認定の誤り)について
(1)横縦の比について
審決が,本願意匠及び引用意匠の各横縦の比を,それぞれ約5対3(約1.67
対1)及び約5対4(約1.25対1)と認定したこと,当該各横縦の長さを実測
すると,その比がそれぞれ約1.35対1及び約2.00対1となることは,取消
事由1の(2)についての判断において説示したとおりである。
そうすると,審決の上記認定に誤りがあることは明らかである。
(2)上下両端面の態様について
ア原告は,「引用意匠については,上下両端面の形状が不明であり,これを本
願意匠の当該形状と比較することは不可能である」旨主張するが,写真に現された
引用意匠からは,上端面が略平坦面であるものと視認することができるから,原告
の上記主張を採用することはできない。
イ(ア)写真に現された引用意匠からは,引用意匠は,上端面が金属様の部材か
ら成ることが窺われ,少なくとも,上端面が弾性体で被覆されたものと認めること
はできない。そして,これは,下端面についても同様であるものと推認することが
できる。
これに対し,本願意匠については,願書に,「B−B断面図および各部構成を示
す一部切り欠き斜視断面図に示すように,本物品に係る弾性ダンパーは,内部にね
じ山が形成されたフランジを有する一対の金属部(斜線部)と,当該一対の金属部
を被覆する弾性体よりなる弾性部(ドット部)とからなる。」との記載があり,添
付図面に記載されたB−B断面図及び各部構成を示す一部切り欠き斜視断面図には,
上下両端面(接合用金具構成部分を除く。)が弾性部(ドット部)により被覆され
た状態が示されている。
(イ)そうすると,審決には,上下両端部に係る本件両意匠の態様につき,弾性
体で被覆されているか否かの差異点があるのにこれを看過した誤りがあるといわざ
るを得ない。
(3)接合用金具構成部分の態様について
原告は,「接合用金具を構成することができる部分の態様について,本願意匠は,
上下両端面から内部に向かって短径のネジ孔を形成しているのに対し,引用意匠は,
その態様が不明である点」を具体的な態様の差異点(3)として認定した審決につい
て,「本願意匠における短径のネジ孔は,上下両端面からは形成されておらず,上
下両端面と段差を有して形成されているのであるから,審決の上記認定は誤りであ
る。」と主張する。
しかしながら,審決は,本願意匠の接合用金具構成部分全体の態様について,上
記のとおり「上下両端面から内部に向かって」と認定したものであり,同部分のう
ちのネジ孔部分の態様についてそのように認定したものではないところ,添付図面
に記載された斜視図,B−B断面図,C−C部分拡大参考断面図及び各部構成を示
す一部切り欠き斜視断面図によれば,本願意匠の接合用金具構成部分については,
上下両端面から内部に向かって短径のネジ孔(ネジ溝ではない。)を形成している
ものと認められるから,審決の上記認定が誤りであるということはできない。
4取消事由3(本件両意匠の類否判断の誤り)について
(1)本件両意匠の対比
取消事由1(本件両意匠の共通点の認定の誤り)及び取消事由2(本件両意匠の
差異点の認定の誤り)についての上記各判断に加え,本件両意匠の各形態について
当事者間に争いのないところを併せて本件両意匠を対比した結果を整理すると,次
のとおりである。
ア意匠に係る物品
本件両意匠は,意匠に係る物品を共通にするものである。
イ形態
(ア)共通点
a全体形状
(a)略短円柱状である点
(b)上下両端面を胴部よりもやや長径のフランジ状に形成している点
(c)上下両端面の中央に接合用金具構成部分を設けている点
b具体的な態様
(a)フランジ状部につき,側面全周を垂直面状とし,側方視やや肉厚板状であ
る点
(b)胴部上下の出会い部分を匙面状に形成している点
(イ)差異点
a横縦の比
本願意匠については,約1.35対1であるのに対し,引用意匠については,約
2.00対1である点
b上下両端面の態様
本願意匠については,全面を平坦面とし,弾性体で被覆されているのに対し,引
用意匠については,上端面が略平坦面であると視認することができるが,上下両端
面が弾性体で被覆されておらず,その余の詳細な態様は不明である点
c接合用金具構成部分
本願意匠については,上下両端面から内部に向かって短径のネジ孔を形成してい
るのに対し,引用意匠については,その態様が不明である点
(2)差異点に係る原告の主張について
ア横縦の比(原告の主張(1))について
(ア)上記(1)イ(イ)aの実測値に基づく横縦の比の差異に加え,添付図面に記載
された本願意匠の形状と写真に現された引用意匠の形状とから受ける視覚的印象を
も併せると,審決が判断したように本件両意匠の各横縦の比の差異が軽微であると
はいい難い。
(イ)そして,本件両意匠において,横縦の比は,意匠全体の骨格的な構成を決
定付ける要素であることは明らかであるから,本件両意匠の類否判断においても,
大きな考慮要素となるものである。
(ウ)加えて,証拠(甲3カタログ,甲9(原告代表者作成の陳述書。以下「甲
9陳述書」という。),本件カタログ)及び弁論の全趣旨によれば,本件両意匠に
係る物品の需要者(以下「本件看者」という。)は,振動を発する機器等又は振動
を伝えたくない機器等に当該物品を設置しようとする者であり,機器等の性質や設
置環境などに応じて,当該物品の振動吸収能力に関係する横縦の比を見定めて当該
物品を選定しようとするものであることが認められるから,当該物品において,横
縦の比は,機器等への設置後のみならず,設置前(選定時)においても,本件看者
が注視する重要な要素の1つであるといえる。
(エ)以上からすると,「本願意匠と引用意匠の当該比率の差異も軽微に止まる
から,その差異は両意匠の類似性についての判断に与える影響が微弱であり評価で
きない」とした審決の判断は誤りであるというべきである。
イ上下両端面の態様(原告の主張(2))について
(ア)上記(1)イ(イ)bのとおり,本件両意匠の上下両端面の態様には,弾性体に
よる被覆の有無という差異点が存在するものである。
(イ)上下両端面に弾性体が存在することにより,滑り止めや,設置対象機器等
を傷つけないなどの効果を奏することは明らかであるから,当該物品における当該
被覆の有無は,本件看者が注視する要素であるといえる。
(ウ)当該物品において,このような弾性体による被覆の有無は,本件両意匠の
外観上の特徴の差異に直ちにつながるものであるから,これを,単なる機能上の差
異や材質の差異として軽視することはできない。
(エ)以上からすると,上記(ア)の差異点を看過し,「引用意匠は,差異点にかか
る形態の詳細な態様が不明であるが,ダンパー部分の上端面は,詳細な部分につい
て差異があるとしても概ね略平坦面であると視認できるものであり,また,重ねて
使用する状態では着目の度合いが比較的小さい部分の態様についての差異である点
も考慮すると,形態の全体を左右するほどの影響を与えるものとは言い難いから,
その差異は両意匠の類似性についての判断に与える影響が未だ微弱であり評価でき
ない」とした審決の判断は誤りであるというべきである。
ウ接合用金具構成部分の態様(原告の主張(3))について
(ア)証拠(甲3カタログ,甲9陳述書,本件カタログ)及び弁論の全趣旨によ
れば,本件両意匠に係る物品において,接合用金具構成部分に内部に向かってネジ
孔を形成することは通常に行われているものと認められる。そして,写真に現され
た引用意匠によれば,引用意匠の接合用金具構成部分も同様であると推認すること
ができる。
(イ)しかしながら,接合用金具構成部分に具体的にどのようなネジ孔が形成さ
れているか(例えば,ネジ孔の径や深さ等)が,設置時の結合の強さや,当該物品
の強度等に影響することは明らかであるから,本件看者も,当該物品の選定時には
上記のような機能と関連するネジ孔の態様を注視するものと認められ,これを,外
部からは観察しづらい内部の態様であるとして軽視することはできない。
(ウ)これに対し,審決は,接合用金具構成部分に内部に向かってネジ孔を形成
することが,本願意匠のみに格別新規であるとはいえないことを根拠に,引用意匠
の接合用金具構成部分の具体的な態様が不明であるにもかかわらず,「限られた部
分の態様についての軽微な差異にとどまり,その差異が両意匠の類似性についての
判断に与える影響が微弱であり評価できない」と判断したものであるが,上記(イ)
において説示したところに照らせば,かかる判断は早計であり,誤りであるといわ
ざるを得ない。
(3)本件両意匠の形態の類否について
そこで,上記(1)イにおいて整理した本件両意匠の形態における共通点及び差異
点並びに上記(2)において検討した各差異点の評価を総合し,本件両意匠の形態の
類否について,以下検討する。
ア本件両意匠は,上記(1)イ(ア)のとおり,全体として,略短円柱状である点,
上下両端面を胴部よりもやや長径のフランジ状に形成している点及び上下両端面の
中央に接合用金具構成部分を設けている点で共通し,具体的な態様においても,フ
ランジ状部につき,側面全周を垂直面状とし,側方視やや肉厚板状である点及び胴
部上下の出会い部分を匙面状に形成している点で共通するものである。
しかしながら,上記(2)アにおいて説示したとおり,本件両意匠の各横縦の比の
差異が軽微であるとはいい難く,また,当該横縦の比が,本件両意匠の全体の骨格
的な構成を決定付ける要素であることからすると,上記各共通点をもって,本件両
意匠の形態の類否判断に大きな影響を与えるものとはいえず,むしろ,当該横縦の
比の差異は,本件両意匠の形態の類否判断に当たり,無視することのできない要素
であるといえる。
イまた,上記(2)イにおいて説示したとおり,本件両意匠の各上下両端面にお
ける差異(弾性体による被覆の有無)は,本件両意匠の外観上の特徴の差異に直ち
につながるものであるから,この点も,本件両意匠の形態の類否判断に当たり,十
分に考慮されなければならない差異点であるというべきである。
ウ加えて,上記(2)ウにおいて説示したとおり,本件両意匠の各接合用金具構
成部分における差異(引用意匠における具体的な態様が不明である点)も,本件両
意匠の形態の類否判断に当たり,軽視することのできない要素である。
エ以上からすると,本件両意匠の形態については,共通点が相まって生じる意
匠的な効果が類否判断に与える影響は,それほど大きいとはいえないところ,類否
判断において考慮しなければならない各差異点の存在をも併せ考慮し,本件両意匠
の全体を観察すると,本件看者の立場からみた意匠的な美観は,類似しないものと
認めるのが相当である。
(4)本件両意匠の類否について
以上のとおり,本件両意匠は,意匠に係る物品を共通にするものの,その形態に
おいて類似しないものであるから,結局,本件両意匠は類似しないということにな
る。
5結論
よって,審決取消事由1の(2),2の(1)及び(2)並びに3の(1)ないし(3)はいず
れも理由があるから,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田中信義
裁判官
古閑裕二
裁判官
浅井憲

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