弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
    本件を東京地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人岡村親宜,同玉木一成の上告受理申立て理由第一点について
 1 本件は,労働者災害補償保険法(平成11年法律第160号による改正前の
もの。以下「法」という。)に基づく遺族補償年金の受給権者である上告人が,被
上告人に対し,外国の大学に進学した子の学資に係る労災就学援護費の支給申請を
したところ,被上告人から,同大学が労災就学援護費の支給対象となる学校教育法
1条所定の学校に当たらないとして,労災就学援護費を支給しない旨の決定(以下
「本件決定」という。)を受けたため,その取消しを求める事案である。
 原審は,本件決定が抗告訴訟の対象となる行政処分に該当せず,本件訴えは不適
法であるとして,これと同一の理由により本件訴えを却下した第1審判決に対する
上告人の控訴を棄却した。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 法23条1項2号は,政府は,労働福祉事業として,遺族の就学の援護等,被災
労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業を行うことができると規定し,
同条2項は,労働福祉事業の実施に関して必要な基準は労働省令で定めると規定し
ている。これを受けて,労働省令である労働者災害補償保険法施行規則(平成12
年労働省令第2号による改正前のもの)1条3項は,労災就学援護費の支給に関す
る事務は,事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長が行うと規定している。そ
して,「労災就学援護費の支給について」と題する労働省労働基準局長通達(昭和
45年10月27日基発第774号)は,労災就学援護費は法23条の労働福祉事
業として設けられたものであることを明らかにした上,その別添「労災就学等援護
費支給要綱」において,労災就学援護費の支給対象者,支給額,支給期間,欠格事
由,支給手続等を定めており,所定の要件を具備する者に対し,所定額の労災就学
援護費を支給すること,労災就学援護費の支給を受けようとする者は,労災就学等
援護費支給申請書を業務災害に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に
提出しなければならず,同署長は,同申請書を受け取ったときは,支給,不支給等
を決定し,その旨を申請者に通知しなければならないこととされている。
 このような労災就学援護費に関する制度の仕組みにかんがみれば,法は,労働者
が業務災害等を被った場合に,政府が,法第3章の規定に基づいて行う保険給付を
補完するために,労働福祉事業として,保険給付と同様の手続により,被災労働者
又はその遺族に対して労災就学援護費を支給することができる旨を規定しているも
のと解するのが相当である。そして,被災労働者又はその遺族は,上記のとおり,
所定の支給要件を具備するときは所定額の労災就学援護費の支給を受けることがで
きるという抽象的な地位を与えられているが,具体的に支給を受けるためには,労
働基準監督署長に申請し,所定の支給要件を具備していることの確認を受けなけれ
ばならず,労働基準監督署長の支給決定によって初めて具体的な労災就学援護費の
支給請求権を取得するものといわなければならない。
そうすると,【要旨】労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の
決定は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,
被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであ
るから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である。論
旨は理由がある。
 以上と異なる見解の下に,本件訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判
決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。そ
して,第1審判決を取り消し,本案について審理させるため,本件を第1審に差し
戻すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐
中辰夫 裁判官 島田仁郎)

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