弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人長尾章の上告理由について。
 原判決は被上告人の予備的になした判示建物収去、敷地明渡の請求を是認したも
のであつて、判文によれば、その理由とするところは次のごとくである。即ち、本
件土地は訴外Dの所有に属すること、被上告人は右土地につき昭和二三年以来建物
所有を目的とする賃借権を有すること、上告人は右Dとの間に訴外Eを介して、本
件土地の占有部分について借地法九条にいわゆる一時使用のための賃貸借契約を締
結したこと、右Eは、本件土地の賃貸を承諾する代理権は有しなかつたが、上告人
にはEに代理権ありと信ずべき正当の理由があつたものと解すべく、DはEのした
本件契約について、その責に任ずべきものであつたこと、右契約には特約として、
右Dにおいて必要とするときは、何時でも解約の上右土地の明渡を請求しうべき暗
黙の合意がなされていたこと、右Dは右特約に基いて上告人に対し明渡の請求をし
ないので、右Dの債権者である被上告人は、同人に代位し本訴において右特約に基
き前記賃貸借契約の解約申入れをなし上告人に本件土地の占有部分の明渡を求める
ものであること、従つて上告人は右Dに対し本件土地占有の正権原を有しないもの
であり、被上告人において右Dの所有権を代位してその占有部分の明渡を求めた以
上、上告人は、右占有部分に存置しある原判示の建物を収去すべきであり、右土地
の明渡の請求を拒むべき何らの理由がないことを判示しているのである。
 そして、本件賃貸借が借地法九条にいわゆる一時使用のための賃貸借に当るとし
た原審の判断は、原判示事実関係にてらしこれを是認することができ、右賃貸借に
前記特約が附されていた旨の事実認定並に被上告人が本訴において右特約に基く賃
貸借解約の申入れをしたものと認めた原判示も首肯することができるから、本件賃
貸借は右特約の趣旨にしたがい解約申入れによつてただちに終了したものといわな
ければならない。しからば、原判決が被上告人の予備的請求を認容したことは当然
であつて、原判決には所論の違法は認められない(原判決の、右解約申入後一ケ年
を経過したものと認められる云々の説示は、無用蛇足の措辞と解するを相当とする)。
 上告代理人沢誠二、同杉武の上告理由第一点、第二点について。
 原審においては、所論の昭和三〇年一〇月二八日附上告人の準備書面第三項の記
載を除いて、上告人が、Dの代理人Eから新に賃借した旨の主張をした形跡は全く
存在しない。即ち、前記準備書面の記載は、上告人が右準備書面を提出する以前に
おいて、右事実を主張、立証したことがある旨を述べたものと解するを相当とし、
所論のように、原審において上告人が新たに右事実を主張したものとは認められな
いのである。されば、原判決に事実摘示および判断をいだつした違法ありとの所論
は、前提を欠くものであつて採るを得ない。
 同第三点について。
 上告人が地主Dに対して有する賃借権が、原審認定のような特約のある一時使用
のためのものである旨の原判示は、その認定にかかる事実関係及び挙示の証拠によ
りこれを是認することができるから、原判決に所論の違法はない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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