弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人花本福次郎の上告趣意第一点について。
 (一) しかし原判決挙示の、被告人に対する司法警察官の聴取書及びAに対す
る同聴取書中の各供述を綜合すると、原判示の如く、被告人がBから受取つた船の
買受代金を費消したため売主Aの催促に応じ得ず、窮余Bの了解なく自らBの代理
人としてAとの売買契約を合意解除した事実を認めることができる。原判決も右の
如き趣旨において判示の如き事実摘示をなしたものと解せられる。そして被告人は
その際、ともかくもAから手附金の内金返還名義で金五万円をBに交付すべく依頼
されてこれを受取つたというのであるから、それがBの正当な代理人としてである
と又単なる仲介人としてであるとを問わず、本来右金員はこれをBに交付すべき性
質のものである。然るにこれを保管中自己の用途に費消したというのであるから、
業務上横領罪に問擬せられるのは当然である。故に原判決には所論前段の如き違法
はない。
 (二) 次に、原判決挙示の証拠によれば、所論後段摘記の如き供述記載はある
が、それは金銭授受の事情に関するものであつて、結局被告人は原判示の如く、一
方においてBより受取りAに支払うべき金三一万円を横領したため、Aの催促を受
け、窮余前記の如く、Bに無断で売買契約を解除しその際Bに交付すべくAから依
頼された金五万円をこれ又擅に費消横領した事実を肯認することができるのである。
故に原判決には所論後段の如き違法もない。
 同第二点について。
 しかし原判決挙示の証拠を綜合すると、結局原判示の如く、被告人がBから船の
買受代金として受領した金三一万円を擅に費消した事実を肯認することができる。
しかも被告人は前記の如く売買契約を解除した後にBから受領した金員をも費消し
たというのであるがその金員が法律上売買代金といい得るか否かは別として、とも
かくも代金名義で預つた金員を擅に費消したのであるから横領罪の成立あるは当然
である。所論原判示も右の如き趣旨に解される。故に原判決には所論の如き違法は
ない。
 同第三点について。
 所論は要するに量刑不当の主張であるから上告適法の理由となり得ない。
 弁護人鍛治利一、同花本福次郎の上告趣意第一点について。
 しかしいかなる程度に証拠調をするかということは事実審たる原審の裁量に委せ
られたことである。刑の執行を猶予した第一審判決を検事控訴により控訴審におい
て変更し実刑を科する場合には必ず情状に関する被告人側の証人申請を許容せねば
ならないという理はない。そして証人の申請を却下したからといつて憲法三七条一
項にも二項にも違反しないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二二年
(れ)第二五三号同二三年七月一四日大法廷判決及び昭和二三年(れ)第九〇四号
同二三年七月二九日大法廷判決参照)。論旨はそれ故に理由がない。
 同第二点について。
 しかし原判決挙示の被告人に対する司法警察官の聴取書中には原判示の如き横領
の事実を首肯するに足る供述記載があり、前記の如き売買契約の解除後も被告人が
Bに打電して同人を欺き買受代金名義で金員を詐欺したと認むべき供述記載はない。
そして原判決の挙示するとおり、B及びAに対する司法警察官の各聴取書中にも判
示横領の事実に照応する供述記載があるのである。従つて原判決がこれらの諸証拠
を綜合して判示の如く横領の事実を認定判示したのは正当である。所論は要するに
右の如き原判決の認定に添わない証拠を取り上げて原審の事実認定を非難するに外
ならない。論旨は理由がない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 小幡勇三郎関与
  昭和二六年二月二〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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