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平成17年10月28日判決言渡
平成16年(行ウ)第32号 地位確認請求事件
主      文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
原告が,被告に対し,平成17年4月1日以降も労働契約上の権利を有する地
位にあることを確認する。
第2 事案の概要
本件は,主位的には,旧国立学校設置法による大学である国立A大学(以下
「A大学」という。)の外国人教員として国に任用されたとし,予備的には,第1に,
A大学との間で期間の定めのある雇用契約を締結したが,更新によって期間の
定めのない契約となったとし,第2に,その雇用契約が期間の定めのあるもので
あっても,更新に対する期待権が生じていたとする原告が,その地位が労働契約
上の地位として,被告に対する関係で承継されたから,被告が原告を解雇し又は
雇い止めをするには合理的理由が必要であるが,かかる理由を欠くとし,第3
に,仮に,原告と被告との間で期間の定めのある雇用契約が新たに締結された
としても,原告には更新に対する期待権が生じていたから,被告が原告を雇い止
めをするには合理的理由が必要であるがかかる理由を欠くとして,被告に対し,
労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるものである。
なお,本件訴訟は,当初,行政事件訴訟法の実質的当事者訴訟として立件さ
れたが,民事訴訟である。
1 争いのない事実等
(1)原告は,平成6年4月1日から,A大学の教員として勤務していた(その教員
としての身分については争いがある。)。
(2) A大学は,平成15年12月24日付け文書(甲2)をもって,原告の代理人弁
護士に対し,平成16年度(平成17年3月31日)をもって原告との間の雇用契
約を終了させる旨回答した(以下「本件回答」という。)。
(3) A大学B研究科長C(以下「C教授」という。)から,原告に対し,平成15年12
月4日付け書面(甲19の1)が送付され,同書面に添付の同年11月12日開
催のC研究科教授会での説明メモ(甲19の2)によると,原告の雇用を平成17
年3月31日までとする理由は,次のとおりとされていた。
ア 平成8年に,英文学と英語学とで構成されていた英文学研究室が,英米文
学と英語学とに分離独立したが,その際に英米文学の外国人教師枠をしか
るべき時期に英語学に譲るとの方針が立てられた。
イ 平成8年の英米文学と英語学との分離独立後も外国人教師枠を英米文学
にて使用してきたが,平成16年4月の独立行政法人化に際して,任期付き
外国人教授ポストを最初に英語学が使用することに双方で同意した。
(4) 原告は,前記(3)の説明メモに対し,次のとおり反論した(甲4)。
ア 原告がA大学との雇用契約を締結したのは,平成6年4月1日であるが,
前記(3)アにある「平成8年に,英文学と英語学とで構成されていた英文学研
究室が,英米文学と英語学とに分離独立したが,その際に英米文学の外国
人教師枠をしかるべき時期に英語学に譲るとの方針」は,雇用契約後にA
大学が一方的に決めたことであり,しかも,原告には平成8年の時点でこの
ことを知らされていない。
イ 前記(3)イについては,原告は任期付き教授ではなく,期限の定めのない雇
用契約となっており,「任期付き外国人教授ポストを最初に英語学が使用す
ることに双方で同意した」ことと,原告の雇用契約を打ち切ることは全く次元
の異なった事柄である。
ウ 前記(3)アに関連して,仮に平成8年の時点で原告(現在51歳)が「英米文
学の外国人教師枠をしかるべき時期に英語学に譲るとの方針」を知らされ
ておれば,原告は当時は45歳であり,他の大学へ定年まで勤務でき,年金
が受け取れる条件での転職が可能であった。
現在の51歳という年齢では,そのような条件の職場を見つけることはほ
とんど不可能である。
エ 前記(3)イについては,英米文学科の教授はC教授を含む日本人教員2名
と原告であるが,博士号を保有しているのは原告のみである。
前記の説明メモでは,「外国人教師枠が定員化される機会に,それを任
期付きの教授として,日本人スタッフと対等にプロジェクトを組める
DistinguishedScholarを招聘し教育研究を活性化させる」とあるが,原告こ
そがDistinguishedScholarである。
オ C教授は博士号を持っておらず,しかもこの10年以上にわたって同教授の
研究科からは一人も博士号を取得した者がいないという実情にあり,C教授
こそがDistinguishedScholarを招へいする資格のないものであり,学科生に
対する指導にも多くの問題がある。
(5) A大学は,平成16年4月1日,国立大学法人法に基づき,被告となった。
国立大学法人法附則4条では,国立大学の職員(これがいかなる範囲の者
を指すかについては争いがある。)の身分はそのまま国立大学法人に引き継
がれると規定されており,職員については,原則として別に辞令を発せられな
い限り身分の承継がされている。
したがって,A大学の職員であった者は,平成16年4月1日の被告の成立
により,別に辞令を発せられない限り,被告の職員となった。
(6) 被告は,平成16年12月17日,原告の代理人弁護士に対し,平成17年3月
31日をもって原告と被告の間の雇用契約は終了する旨通知した(乙27)。
2 争点
本件の主たる争点は,(1)原告は外国人教員として国に任用されたか,(2)原告
がA大学と締結した雇用契約は,期間の定めのないものとなったか,(3)原告がA
大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関係が被告に承継され
たか,(4)原告が被告との間で締結した期間の定めのある雇用契約を被告が打ち
切ることは許されないかという点にある。
(1) 争点(1)(原告は外国人教員として国に任用されたか)について
ア 原告の主張
(ア) 原告は,平成6年4月1日,国立又は公立の大学における外国人教員
の任用等に関する特別措置法に基づいて,A大学の外国人教員として国
に任用された。
原告は,平成6年4月1日の採用以来,毎年契約書を締結してきたが,
これは「日本国政府の会計行政によるもので」(甲1のC教授の原告あて
の手紙の記載)あり,その契約書は形式的なものにすぎない。この毎年
の契約書に原告の署名を求める際に,A大学から原告に対して,1年間
の雇用継続であることの説明は一切なく,会計処理のために原告の署名
を求めたにすぎない。毎年の契約書の署名の際に,原告はA大学から
「次の契約期限の後は働く意思があるか。」と質問されたことは一切なく,
契約書に原告が署名することは当然のこととして契約書が作成されてい
た。そのことが10回も繰り返されてきたものであり,この実態は契約書が
会計行政のための形式的なものにすぎないことを示している。
(イ) A大学の外国人教員として任用された原告の上記身分は,平成16年
4月1日に被告との間の労働契約上の地位として承継された。
(ウ) 被告は,A大学の地位を承継したものであるので,被告が原告を解雇
するためには合理的な理由が必要であるが,かかる合理的理由はない。
イ 被告の主張
(ア) 原告が国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する
特別措置法に基づいて任用された外国人教員であるとの主張は否認す
る。
原告の採用は,国家公務員法2条7項に基づく契約によるものである。
すなわち,国家公務員法2条6項は,「政府は,一般職又は特別職以外
の勤務者を置いてその勤務に対し俸給,給料その他の給与を支払っては
ならない。」と原則的な規定をしているところ,同条7項は,「前項の規定
は,政府又はその機関と外国人との間に,個人的な基礎においてなされ
る勤務の契約には適用されない。」として,この原則に対する唯一の例外
として,外国人の雇用を定めている。
この例外的規定に基づく契約により雇用される外国人の身分は,一般
職,特別職のいずれにも属さない国家公務員であって,給与,勤務条件
等についても,国家公務員法,一般職の職員の給与に関する法律等の
適用はなく,政府又はその機関との契約により決定される。
旧国立学校設置法施行規則30条の3第1項では,「国立大学又は国
立短期大学の学長は,国家公務員法第2条第7項に規定する勤務の契
約により,外国人を教授又は研究に従事させることができる。」と定めて
いる。これが「外国人教師」の制度であり,原告はこの外国人教師として
雇用されたものである。
これを受けて,その取扱いについては,昭和44年4月16日文大庶第
251号各国立大学長あて文部事務次官通知「外国人教師の取り扱いに
ついて」等の通知が出されており,これらにより取扱いは詳細に定められ
ている。
すなわち,国立大学及び国立高等専門学校において外国語科目又は
専門教育科目を担当させるにたる高等の専門的学識又は技能を有する
外国人で,国立大学等が常勤の教師として雇用する者を外国人教師とし
(通知第1項),外国人教師には俸給,調整手当,期末手当及び勤勉手
当,通勤手当並びに寒冷地手当を支給し(通知第2項),外国人教師との
雇用契約の期間は1年を超えないものとし,会計年度の中途で契約する
場合はその終期を当該年度の末日とし,この雇用契約は必要に応じて更
新することができるが,国外から招へいする場合の招へい期間は,帰国
旅費の支給の関係から原則として2年とし(通知第3項)等と定められ,こ
れらの定めの中で外国人教師との契約が締結されるものであり,原告と
の契約もこれらの定めに基づいてなされた。
このように原告との雇用契約の締結は,前記「外国人教師の取り扱い
について」の通知に従い,当初は国外からの招へいとして平成6年4月1
日から2年(最初の1年の契約の後,その後の1年について更新を保証し
たもの)の契約とされた。
その後は毎年4月1日から1年間ずつの契約が更新されてきたもので
あり,毎年契約書を作成して,期間1年と明示し,その契約に当たって
は,毎年A大学内部の手続である文学研究科教授会の決議を経て,総長
の名で締結されてきた。
(イ) 原告は,毎年の契約書の締結の事実を認めた上で,「これは日本国政
府の会計行政によるもの」との甲1の表現を引用して,形式的なものにす
ぎないと主張する。
しかし,甲1の記載では,最初の招へい期間は2年であること,しかし,
最初の契約は到着から会計年度の期間で締結し,その次の会計年度の
1年を更新して,招へいの2年間の期間とすること,その後は「相互の合
意により1年ごとに契約更新することが可能であること」を正確に明示し,
前記「外国人教師の取り扱いについて」の通知を遵守している。
(ウ) 国立大学法人法附則4条では,国立大学の職員の身分はそのまま国
立大学法人に引き継がれると規定されており,国家公務員法2条6項に
定められた一般職の国家公務員については,原則として別に辞令を発せ
られない限り身分の承継がされている。
したがって,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関
する特別措置法に基づき採用された外国人教員は,一般職の国家公務
員であり,身分の承継がされる。
しかし,前記のとおり,原告は,国家公務員法2条6項に定める一般職
の国家公務員ではなく,同条7項により,特別に例外として雇用された外
国人教師であり,国立大学法人法附則4条の適用はなく,身分の承継は
ない。
(2) 争点(2)(原告がA大学と締結した雇用契約は,期間の定めのないものとなっ
たか)について
ア 原告の主張
(ア) 仮に原告の地位が外国人教員として任用されたものでないとしても,
原告とA大学とは,平成6年4月1日,原告がA大学のB部客員教授とし
て平成8年3月31日まで働く旨の雇用契約を締結し,その期間を更新し
たことによって,原告とA大学との雇用契約は期間の定めのない契約とな
った。
(イ) 被告は,A大学の地位を承継したものであるので,被告が原告を解雇
するためには合理的な理由が必要であるが,かかる合理的理由はない。
イ 被告の主張
(ア) 前記のとおり,A大学は,国家公務員法2条7項に基づいて,旧国立学
校設置法施行規則30条の3第1項による外国人教師として原告を雇用し
たものであり,前記「外国人教師の取り扱いについて」の通知に従い,毎
年契約書を作成して,期間1年と明示して雇用してきたものであるから,こ
の雇用契約が継続して繰り返されても,性質が変更となるものではない。
外国人教師の雇用においてはもともと法律の定めにより1年の契約し
かできないのであり(ただし,招へいの当初を除く。),A大学は,法律に従
い原告との間で1年の契約をしてきたものであって,更新時においても,
明確に1年の有期契約であることを明示し,また,原告の契約書への署
名についてはその場で求めるのではなく,時間を与えて,原告自身で契
約書を確認の上署名している。
(イ) したがって,更新によって原告とA大学との雇用契約が期間の定めの
ない契約となったとの事実はない。
なお,原告との契約は,B部客員教授としての雇用契約ではなく,外国
人教師としての雇用契約である。
(ウ)前記のとおり,国家公務員法2条7項によ外国人教師としての雇用契
約である以上,国立大学法人法附則4条の適用はなく,身分の承継もな
い。
(3) 争点(3)(原告がA大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関
係が被告に承継されたか)について
ア 原告の主張
(ア) 原告とA大学との間の有期雇用契約は,平成16年3月31日まで更新
が繰り返されてきたのであるから,その更新は形式的で,平成16年3月
31日の時点では実質的には期間の定めのない労働契約と同じような状
態で存続しており,原告には契約更新に対する期待権が生じていた。
(イ) A大学と原告とのこの雇用契約上の関係は,被告の成立後も被告が
原告との有期雇用契約を実質的に更新したことによって被告がこれを承
継したものである。
(ウ) よって,被告は,平成17年3月31日をもって有期雇用契約を打ち止
めとするためには合理的な理由が必要である。
(エ) しかし,以下に述べるとおり,かかる合理的理由はない。
a 被告は,原告と間の雇用契約の打ち止めの理由として,原告との契約
を終了させて,その外国人教師枠を「21世紀CenterOfExcellenceプ
ログラム」(以下「21世紀COEプログラム」という。)の中で任期付き教
官定員として利用する方針を決定したものであり,原告の外国人教師
枠を利用することにしたのは,英米文学研究室の外国人教師は所期
の目的を達成したと判断されたからであると主張する。
しかし,C教授が原告に告知した内容は「平成8年の大講座化したこ
とに伴って英米文学と英語学が独立し,その際に英米文学の外国人教
師枠をしかるべきときに英語学に譲ることが方針として決められ今般の
独立法人化による外国人教師枠の定員化を機に,原告の役目も所期
の目的を達しているので,原告の雇用契約を打ち止めとして,英語学
が任期付き教授ポストを使用することを合意した」というものであり,被
告が主張するような説明はなされておらず,21世紀COEプログラムの
ことは何も触れられていない。したがって,被告の上記主張は,紛争に
なってから考えられた架空のものであり,雇用契約を打ち止めとする正
当な理由とはなり得ない。
また,原告の役目も所期の目的を達しているとの点は,明らかに事
実に反している。A大学大学院B研究科案内において,原告の講義中
の写真が掲載されており,英米文学にとって原告が枢要な存在である
ことが裏付けられている。原告は,英米文学のスタッフ3名のうちの1
名として,大学院レベルの研究指導に携わっており,着任以来,大学
院の講義を担当して教授しているほか,卒業論文・修士論文の口述試
験にも審査教官としてかかわっている。
b 被告は,21世紀COEプログラム予算が十分でないことを理由として,
原告の雇用を打ち切ってその空いた外国人教師の枠を21世紀COE
プログラムのために利用すると主張するが,この主張は虚偽である。
すなわち,被告のB研究科は,21世紀COEプログラムのためにDビ
ルの15階オフィスフロアに部屋を2つ借りているが,その部屋はほとん
ど利用されておらず,国から得た21世紀COEプログラム推進経費を
不要な支出に用い乱費している。
E教授(以下「E教授」という。)は,原告に対して,21世紀COEプロ
グラム推進経費を消化するために頻繁に海外に出掛けなければなら
ないと愚痴をこぼしており,ここでも不要な支出がなされている。
被告は,21世紀COEプログラム研究支援者には高給の外国人研
究者を雇用することができないかの如くに主張するが,要綱や要領に
は21世紀COEプログラム研究支援者の給与に関しては何の制限もな
い。たまたま被告のB研究科が雇用した21世紀COEプログラム研究
支援者の給与が低額であったにすぎない。
c 被告は,原告を「英語を母国語とする外国人教師」であり,英語教職科
目担当と考えられたと主張するが,採用条件では,35歳以上の英文
学の修士号あるいは博士号を保有するものであればよく,F人でもG人
でも英語で授業ができればよいのである。採用の目的は,英文学の教
師であり,英語を母国語とすることは条件でなかったのであり,この点
でも被告の主張は事実をわい曲している。
イ 被告の主張
(ア)原告とA大学との間のこれまでの雇用契約は,年度(4月1日を始まり
とし,翌年3月31日をもって終了する。)ごとに1年の期間を区切っての雇
用契約であり,平成15年度の雇用契約は平成16年3月31日をもって終
了した。
平成16年4月1日からは,国立大学法人法の下において,被告と原告
との間で,新たに1年限りの雇用契約を開始したものである。
(イ) 平成6年4月1日の契約の当初に,原告に対し,「定年まで勤務でき
る。」と確約した事実もないし,その後においても「定年まで勤務できる。」
と保証した事実もない。逆に,C教授が最初に送付した文書(甲1)の2枚
目第4項には,就業期間は有期であることが明らかに記載されている。
一般の教員と異なり,法の定め,国の制度に従って1年という有期契約
をしている外国人教師に対して,そのような約束はできるはずもないし,
そもそも教員個人にそのような権限もない。
原告との契約が有期契約であるがゆえに,原告自身,次の契約更新
がされるかどうか不安に思い,E教授に対し,「来年の契約はどうなるだろ
う。」と不安な心情を訴え,機会あるごとに相談をなした事実が存在する。
(ウ) 以上のとおり,被告成立前の原告とA大学との間の1年ごとの雇用契
約は,法令に基づき明確に期間を区切って契約されてきたものであり,全
くの1年ごとの契約の併存であって,形式的に更新されたものではなく,
期間の定めのない労働契約と同じような状態になったものでも,原告に契
約更新の期待権が発生したものでもなく,雇い止め法理等の適用はな
い。
(エ) したがって,期間の満了する平成17年3月31日をもって契約を更新し
ないとの本件回答に問題はなく,特別の理由が必要とは解せられない。
(オ) また,本件では更新しないことに合理的な理由も実際に存在するので
あり,仮に原告の主張を前提としても何ら問題はなく,解雇権濫用法理の
類推適用の余地はない。
(カ) 本件回答をした経緯,理由は,以下のとおりである。
a平成8年に英文学研究室が英米文学研究室と英語学研究室に分割さ
れた際に,それまで英文学研究室で保有してきた外国人教師ポストに
ついては,英米文学研究室が使用し,もともと英語学研究室にも利用
の権利はあったので,しかるべき時期に英語学研究室へと移行すると
の約束・了解がなされた。
しかし,英語学研究室として,現実に移行を求めれば,いかに了解
事項であるとしても英米文学研究室として困るのは目に見えている。そ
のため,教授会の了解の下に,独立した研究室になり,学問的にも確
立し,学生数においても増加してきた英語学研究室に新たに外国人教
師ポストを求めて概算要求するという方策で外国人教師を得ようと努
力してきた。しかし,この概算要求が取り上げられることはなく,結局,
大学法人化構想が進み,平成14年度半ばころには,法人化後は概算
要求自体も不可能となる事実が明らかになり,概算要求による枠の増
加の方法はあきらめざるを得なくなり,当初の約束に従ってポスト移行
を要求せざるを得ない事態となってきた。
これが,平成15年7月に,原告に対し,平成17年3月をもって契約
を打ち切ることを通告した基本的な理由である。
英語学研究室は,概算要求という形で外国人教師を確保したいと努
力はしてきたが,それが通らないことになれば,英米文学研究室の外
国人教師枠を移行することは了解事項として存在したのである。
b 大学の構造改革として,大講座化,大学院重点化,研究の先端化が
挙げられるところ,大学院重点化とは,従来の学部教育研究を主体と
した講座組織を,大学院教育研究を主体とする講座組織にシフトする
ことによって,最先端教育研究組織を構築し,高度専門職業人の育成
や研究者養成を行うなど,変革する社会情勢に積極的に応えたもので
ある。
A大学B部でも,平成12年に大学院重点化したことによって,教員
組織も大学院での教育研究を専任することとなり,それとともに学部教
育研究も兼担することとなった。このため,B研究科所属の教員は,高
度化した大学院教育研究の指導責任を果たすために一層業務負担が
加重してきた。しかし,原告は,飽くまで「学部教育・研究を主体とした
外国人教師」であって,この構造改革の外に位置するままであった。
上記のように,大学は大きく変わることを求められ,その流れの上に
21世紀COEプログラムが存在した。
21世紀COEプログラムとは,世界最高水準の研究教育拠点作りを
目指し,資金の重点配分をなすもので,平成14年度に始まった国家的
プロジェクトである。
この資金の重点配分は,世界的に見て創造的,画期的な観点での
一定の研究テーマを探求する研究グループに与えられるものではある
が,その研究が人材育成機能を有し,事業終了後も継続的な研究教
育活動が期待できることを要件としており,研究拠点であると同時に教
育拠点(人材育成拠点)であることが求められている。
平成14年度において採択された21世紀COEプログラムにA大学B
研究科の「H」が入った。これは,大きな名誉であるが,同時に,今後の
成功(成果)への責任を負うことになったものであり,その責任は,資金
が重点配分される5年間だけの責任ではなく,プログラム終了後も,引
き続き研究拠点として継続的に研究活動を続けていかねばならないの
であり,そのために次代を担う若い人材を育てておかねばならない。
この21世紀COEプログラムで成果を挙げ,正に文字通り「卓越した
研究拠点」,「優れた研究拠点」として評価を得ることが,A大学B研究
科の今後の生き残り策である。それゆえに,研究科全体として,このプ
ログラムに取り組み,推進する体制がとられることになった。
前記「H」プログラムとは,意思伝達行為の所産をすべて「テクスト」と
してとらえることに特徴があり,一定の情報内容を,効果的に他に伝
え,他者を動かし,社会を形成し,揺り動かし,世界を構築していくプロ
セスの中で,言語,図像,文学,身振りというコミュニケーションの手段
はすべて「テクスト」としてとらえられ,これがなぜ選択され,どう機能す
るか,その一般原理を解明しようとするものである。その一般原理の中
では,言語テクストのみならず,非言語テクストが重要なものと認識さ
れ,それらを統合した体系網,機能文法へと広がり,方向付けられる。
上記のような体系網・機能文法を非言語テクストに応用する分野
は,社会記号論とも呼ばれるものであり,平成14年度に21世紀COE
プログラムに採択されると同時に,B研究科として,社会記号論の支援
体制を早急に整える必要性に迫られることとなり,記号論と密接な関係
にある表象認識学講座を設置すること,社会記号論を専門分野とする
外国人の人文学専攻教員1名を採用することという支援策が決定され
た。
その支援策の決定の道程の中で,外国人教師ポストに関して,21
世紀COEプログラムの推進という側面からの要請が一気に高まってき
た。これは,単に英米文学研究室の外国人教師ポストを英語学研究室
へ移行するということにとどまらず,「H」プログラムをB研究科の下で
推進していくことにおいて,このポストに重要な意味付けがされるという
ことであった。
すなわち,当初,B研究科は,21世紀COEプログラム推進経費の
中から外国人の人材を確保することを希望していたところ,限られた推
進経費(研究拠点形成費補助金)の中から多数の,しかも若手の人材
育成を主眼とした雇用をするとなると,1人当たりの給与を低額にせざ
るを得ないのであり,高度な研究能力を有する外国人研究者の雇用に
は高い手当を要することから,実現しなかった。
この21世紀COEプログラム推進経費の使途に関して,原告は,21
世紀COEプログラムのために借りているDビルの2つの部屋がほとん
ど利用されていないとか,E教授が21世紀COEプログラム推進経費を
消化するために頻繁に海外へ出掛けたなどと主張するが,そのような
事実はない。
21世紀COEプログラム推進経費の中から外国人の人材を確保す
ることは実現しなかったが,21世紀COEプログラム採択直後から,平
成15年6月に実行することが予定されていたシンポジウムを準備する
中で,日本人の研究者と共に協力し,共同して研究ができる外国人の
必要性が,より強く認識されてきた。
また,21世紀COEプログラムの予算は5年間と限られているが,B
研究科としては,プログラム終了後も引き続き研究拠点として継続的に
研究し,成果を挙げる責任があり,そのためには,B研究科の中で引き
続き支援し,当該研究を遂行する高度な研究能力を有する外国人研
究者を確保していくべきとの要請も厳然として存在した。
しかし,行政機関の職員の定員に関する法律(いわゆる総定員法)
の根底にある考え方からすれば,非言語テクストを含めた統合テクスト
科学を日本人研究者と同じ目線で共同研究し,その成果を伝える外国
人の研究者の採用についての純増は認められないということであり,
そのような外国人研究者の確保は,現行の外国人教師のポストを定員
枠に振り替え,その定員枠のポストで採用することしか方策はないとの
結論に至った。
この外国人研究者の受け入れをなす研究室は,B研究科の中では
言語学的手法をとっている英語学研究室が,適任であり,また任務を
負うことになる。
一方,原告の専門は英米文学であり,21世紀COEプログラムがと
っている言語学的手法とは直接的な関連がなく,21世紀COEプログラ
ム中の共同研究には不適であった。また,外国人教師ポストを廃止し,
研究者としての採用(定員化)とする動きの中では,原告では,日本語
が理解できず,教授会メンバーとして発言できることや,マネジメント業
務をこなすことは期待できなかった。
c 外国人教師ポストを英語学研究室へ移行するとともに,原告との契約
を打ち切りとせざるを得なかったことは,以上のことからも明らかであ
り,B研究科の21世紀COEプログラム「H」は言語学の手法をとり,そ
の一翼を英語学が担っていること,また,英米文学研究室の外国人教
師は初期の目的を達成したと判断されたことから,今回の契約更新を
しないことになったのである。
原告との間の契約打ち切りは,単にポストの移行を理由とするのみ
ならず,学部教育等を中心に担当している原告に対し,大学院レベル
の研究・指導を期待するものでなく,他の教員をもって代替も可能であ
ること,そして,B研究科として,21世紀COEプログラムの成果を挙げ
て社会的責任を果たし,将来へと進むべき途,また,将来へ生き残る
途として,やむを得ざる選択であった。
これに対し,原告は,英米文学研究室にとって原告が枢要な存在で
あり,大学院レベルの研究指導に携わっており,着任以来,大学院の
講義を担当して教授しているほか,卒業論文・修士論文の口述試験に
も審査教官としてかかわっていると主張する。しかし,卒業論文と修士
論文の作成過程における助言を与える者とは別に,卒業論文・修士論
文の審査員は教授会で別途決定される。そして,当該研究室の卒業論
文は,研究室所属教員のみで審査し,修士論文は,当該研究室所属
教員と他研究室の教員1名で審査される。したがって,原告も審査員で
はある。しかし,卒業論文・修士論文の審査は,作成過程の最後に位
置するものであり,通常,指導教員は,論文作成過程において指導・助
言に当たった上で審査員となるが,平成8年以降は原告には助言の依
頼をせず,現実には助言はしないまま審査に当たっており,他の教員
とは同列ではない。
被告としては,原告の立場も考慮し,契約打ち切りを平成16年度の
1年間は猶予したものの,これ以上の譲歩をすることはできなかったも
のである。
d 原告は,原告の雇用契約の打ち切りが,あたかも研究科長であるC教
授の気持ち一つで決定されたかのような誤解をしているが,そのような
事実は全くない。
従前からの英語学研究室への移行の約束と,B研究科全体の将来
を見据えた上で,21世紀COEプログラムの推進と支援をいかになす
べきかとの模索の中で,現状としては文学研究科の中の英米文学研
究室にある原告のポストを打ち切らざるを得ないとの考え方で,B研究
科教授会で決定されたものであり,B研究科教授会としては,原告との
契約を終了させ,その外国人教師枠を21世紀COEプログラムの中
で,任期付き教官定員として利用する方針を最終的に決定したが,そ
のために原告が他の仕事・就職先を探す便宜を考え,1年だけは更新
して,猶予期間を与えて,雇用期間を平成17年3月末日までとし,それ
以降は更新しない方針を決定したものである。
契約更新をしないこととした背景は,21世紀COEプログラムとの関
係を抜きにしては理解できないことはもちろんである。しかし,それだけ
ではなく,このプログラムの背景にある大学に対して求められてきた大
きな流れ(大講座化,大学院重点化による教育研究の高度化,研究の
先端化等)が理解されなければならない。この大きな流れの中,国の
予算を億単位で獲得し,5年間という長期にわたって遂行されるのが2
1世紀COEプログラムであり,それだけに,この投資に見合っただけの
成果を出すことが期待されており,その期待に応えられ,このプログラ
ム遂行の補完ができる任期付き外国人教授の採用が目指されたので
ある。しかし,原告は,この流れ,背景等を全く理解しておらず,それは
原告が他の教員のように大学運営のスタッフとは位置づけられておら
ず,1年単位での有期雇用契約者にすぎないことによるものである。
e 前記教授会の決定を受け,C教授は,原告に対し,契約の終了につい
て,最初平成15年7月11日に口頭告知し,その後数回やり取りした。
そして,平成15年9月19日,原告は,C教授に対し,契約が平成17年
3月末日で終了することを了解し,次の仕事探しのため,契約終了の
理由と原告の授業は良かったことを書いてほしいと依頼した。
C教授が原告に通知したのは,本来は平成16年3月末日に終了さ
せたいところであるが,1年猶予し,平成17年3月末日に契約を更新
せず終了させるとの点であり,雇用終了と21世紀COEプログラムとの
関係等についての詳細な説明はしていない。
もともと,私法上の雇用契約においても契約を更新しないとの意思
表示の際に事細かに理由の説明をする必要はない。まして,国家公務
員法に基づき,1年ごとに契約を更新するものとして雇用された原告に
対し,理由を説明する必要はない。その上,原告は,その職責上大学
の運営・マネジメントに携わることがないので,大学組織の変更等と複
合している21世紀COEプログラムについて詳細に説明したり話したり
しなかったものである。
被告は,これまでの説明の中で,更新しない理由を明らかにしてき
たのであるし,21世紀COEプログラムがA大学にとって重要な位置づ
けを持つプロジェクトであることは原告といえども理解しているはずであ
る。
その後も,21世紀COEプログラムの位置付けの重要性から,原告
のポストを定員枠に振り替えて21世紀COEプログラムで共同研究を
行う外国人研究者の確保の要請は,強まりはせよ,弱まることはない
状況である。
(4) 争点(4)(原告が被告との間で締結した期間の定めのある雇用契約を被告が
打ち切ることは許されないか)について
ア 原告の主張
(ア) 仮に,原告と被告との有期雇用契約が平成16年4月1日に新たに締
結されたものであるとしても,平成16年4月1日からの有期雇用契約の
開始時には,平成16年3月31日までA大学と原告との有期雇用契約が
長年更新されて原告には有期雇用契約が更新されて定年まで勤務でき
るとの期待権が生じていた。
(イ) このような事情の下に,被告が原告と実質的に従前と同じ有期雇用契
約を締結したのであるから,被告が平成17年3月31日をもって有期雇用
契約を打ち止めとするためには合理的な理由が必要であると信義誠実の
原則から解釈されるべきである。
(ウ) しかし,前記(3)ア(エ)のとおり,合理的理由はない。
イ 被告の主張
(ア) 平成16年4月1日に始まる被告と原告との雇用契約は,期間1年の契
約とする旨を原告に告げ,また,その旨の文書も発送しており,契約更新
の期待権が生じる余地はない。
(イ) 被告は,原告に対し,平成17年3月31日をもって被告との雇用契約
は終了することを,念のため,改めて通知している。
(ウ) したがって,原告と被告との間の雇用契約は,平成17年3月31日をも
って終了した。
(エ) ちなみに,被告が原告と新たな契約を結ばない理由は,前記(3)イ(カ)
の理由と同様の理由である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告は外国人教員として国に任用されたか)について
(1) 後掲証拠によれば,C教授は,平成5年10月,外国人教師の選考のための
覚書(甲5)を文部省作成のひな形に基づいて作成し,原告あてに送付したが
(乙11の1,証人C),それには,地位は外国人教師であり,教授会で認められ
れば,客員教授としての称号が与えられること,勤務期間は2年(互いの合意
で毎年更新できること)とすることなどが記載されていたこと,原告の採用に当
たり,原告は,A大学B部の「英文学講座外国人教師詮衡委員会」において,
その職歴,業績等に照らし,英文学講座外国人教師として採用するに最もふさ
わしい者として推薦されたこと(乙12の1,2),このように原告の採用に当たっ
ては,公募ではなく,招へい人事(個別人事)の形式が採られたこと(乙11の
1,証人C),平成6年4月7日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学
及び英語学担当の外国人教師(客員教授)として,同月1日から平成7年3月3
1日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の1の1,2),平成6年11月
9日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成
したこと(乙1の2),平成7年4月3日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部
英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成8年3月31日
まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の3の1,2),平成7年10月30
日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成し
たこと(乙1の4),平成8年4月3日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部
英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成9年3月31日
まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の5の1,2),平成8年12月16
日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成し
たこと(乙1の6),平成9年4月1日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部
英文学及び英語学担当の外国人教師として,同日から平成10年3月31日ま
で雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の7の1,2),平成9年12月12
日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成し
たこと(乙1の8),平成10年4月1日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部
英文学及び英語学担当の外国人教師として,同日から平成11年3月31日ま
で雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の9の1,2),平成10年10月19
日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成し
たこと(乙1の10),平成11年4月7日,A大学総長と原告は,原告をA大学B
部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成12年3月3
1日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の11の1,2),平成11年1
1月25日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を
作成したこと(乙1の12),平成12年4月3日,A大学総長と原告は,原告をA
大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成13
年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の13の1,2),平成
13年4月6日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担
当の外国人教師として,同月1日から平成14年3月31日まで雇用するとの契
約書を作成したこと,同契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の
額より増額されたこと(乙1の14の1,2),平成14年4月11日,A大学総長と
原告は,原告をA大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担
当の外国人教師として,同月1日から平成15年3月31日まで雇用するとの契
約書を作成したこと(乙1の15の1,2),平成15年4月10日,A大学総長と原
告は,原告をA大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当
の外国人教師として,同月1日から平成16年3月31日まで雇用するとの契約
書を作成したこと,同契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額よ
り減額されたこと(乙1の16の1,2)が認められる。
甲3,乙2,3の1の2,3及び弁論の全趣旨によれば,前記契約書の「雇用」
との文言のほか,給与等の勤務条件について,契約によって定められているこ
とに照らせば,A大学総長と原告との間で作成された前記契約書に基づく契約
とは,国家公務員法2条7項所定の「政府又はその機関と外国人との間に,個
人的な基礎においてなされる勤務の契約」としての外国人教師としての雇用契
約(公法上の契約)であると認められる。
(2) これに対し,原告は,平成6年4月1日の採用以来,毎年契約書を締結してき
たが,これは「日本国政府の会計行政によるもので」(甲1のC教授の原告あて
の手紙の記載)あり,その契約書は形式的なものにすぎず,国立又は公立の
大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいて,A大学の
外国人教員として国に任用されたものであると主張する。
しかし,甲1によれば,C教授は,平成6年1月,原告に対し,招へい期間は
1994年(平成6年)4月1日から1996年(平成8年)3月31日までの2年間で
あること,最初の契約は,A大学に到着の翌日から会計年度の終期までの期
間で調印し,次期新会計年度に契約を更新することになること,これは日本国
政府の会計行政によるものであること,最初の2か年の任期満了後において
は,相互の合意により1年ごとに契約を更新することができることを手紙で伝え
ていることが認められる。
そして,甲3によれば,昭和44年4月16日文大庶第251号各国立大学長
あて文部事務次官通知「外国人教師の取り扱いについて」は,国家公務員法2
条7項に基づく外国人教師の雇用契約に関して,雇用期間等について,「外国
人教師との雇用契約の期間は1年をこえないものとし,会計年度の中途で契
約する場合はその終期を当該年度の末日とする。ただし,この期間は,必要に
応じて更新することができる。なお,外国人教師を国外から招へいする場合の
招へい期間は,帰国旅費の支給の関係から,原則として2年とする。」と定めて
いることが認められる。
そうすると,甲1の手紙の内容は,前記「外国人教師の取り扱いについて」に
沿うものであると認められる。
したがって,甲1の手紙の「これは日本国政府の会計行政によるもので」と
の文言から,原告が,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に
関する特別措置法に基づいて,A大学の外国人教員として国に任用されたも
のであると認めることはできない。
また,甲19の2によれば,平成15年11月12日開催のA大学B研究科教授
会でのC教授の説明メモには,平成16年度は,平成16年4月にA大学が独立
行政法人化することに伴い外国人教師の任用は経過措置となり,平成16年
度も継続して雇用することにしたが,原告に関しては雇用を平成17年3月31
日までとし,更新は行わない旨の記載があり,外国人教師の「任用」という表現
がされていることが認められるが,雇用の更新が予定されているものであっ
て,甲19の2の「任用」という表現から,原告が外国人教員として国に任用され
たものと認めるには足りない。
他に原告が外国人教員として国に任用されたものと認めるに足りる証拠は
ない。
(3) 原告が外国人教員として国に任用されたものではなく,国家公務員法2条7
項に基づき外国人教師として雇用されたものであると認められる以上,原告に
は国立大学法人法附則4条の適用はなく,A大学総長と原告との間の雇用契
約を被告が当然に承継することはないと解される。
2 争点(2)(原告がA大学と締結した雇用契約は,期間の定めのないものとなった
か)について
(1) 前記1(1)で認定した事実によれば,原告がA大学総長と締結した雇用契約
書には,雇用期間を1年とすることが明示されていたこと,雇用期間の満了時
に契約を更新する際には,その都度新たに雇用期間を1年とする契約書が作
成されたこと,平成14年4月11日に作成された契約書において,それまでの
職務内容がA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師であったものが,
A大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外国人教
師と改められたこと,平成13年4月6日に作成された契約書において,俸給月
額及び調整手当は,従前の額より増額され,平成15年4月10日に作成され
た契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額より減額されたこと
が認められる上,雇用契約の更新においては,毎年10月末か11月ころに次
年度のカリキュラムを考える際に,C教授と原告が協議した上,教授会におい
て更新が決定されたものであり(証人C),原告は,契約書にサインをする際,
いったん自宅に持ち帰って注意深く読んでからサインをしたことがあったこと
(原告本人)が認められる。
(2) 以上の事実によれば,雇用期間の満了による契約更新の都度,具体的勤務
条件について協議の上,契約書が作成され,契約更新の際に職務内容,給与
額が変更となったことがあるのであるから,原告とA大学総長との間の契約
が,更新により平成6年4月から平成16年3月31日まで継続したからといっ
て,期間の定めのない雇用契約に転化したものと認めることはできない。
(3) なお,前記のとおり,原告が外国人教員として国に任用されたものではなく,
国家公務員法2条7項に基づき外国人教師として雇用されたものであると認め
られる以上,原告には国立大学法人法附則4条の適用はなく,A大学総長と原
告との間の雇用契約を被告が当然に承継することはないと解されるから,原
告とA大学が締結した雇用契約が期間の定めのないものに転化したか否かに
かかわらず,その雇用契約を被告が承継したと認めることはできない。
3 争点(3)(原告がA大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関係
が被告に承継されたか)について
(1) 原告は,原告にはA大学との間の有期雇用契約につき契約更新に対する期
待権が生じていたところ,A大学と原告とのこの雇用契約上の関係は,被告の
成立後も被告が原告との有期雇用契約を実質的に更新したことによって被告
がこれを承継した旨主張する。
(2) 確かに,後掲証拠によれば,C教授は,平成15年10月29日,原告との間
の外国人教師雇用契約を平成16年度においては更新するが,雇用契約は平
成17年3月31日を限りとして,それ以後の雇用契約の更新はない旨を手紙
(甲6)で伝えていること,C教授から原告に送付された平成15年12月4日付
け書面(甲19の1)に添付された同年11月12日開催のB研究科教授会での
説明メモ(甲19の2)には,平成16年度は,平成16年4月にA大学が独立行
政法人化することに伴い外国人教師の任用は経過措置となり,平成16年度も
継続して雇用することにしたが,原告に関しては雇用を平成17年3月31日ま
でとし,更新は行わない旨の記載があること,平成15年11月12日開催のB
研究科教授会の議事概要(乙22の2)に同旨の記載があること,A大学副総
長は,平成15年12月24日,原告の代理人弁護士に対し,A大学は,毎年外
国人教師と契約更新の手続を行っており,原告に対し,平成16年度について
は雇用契約を更新し,当該契約期間の満了をもって雇用関係を終了させる旨
を知らせている旨の本件回答(甲2)を送付していることに照らせば,C教授,A
大学B研究科教授会及びA大学副総長はいずれも,被告が設立される平成1
6年4月1日以降も,A大学総長と原告との間で締結された雇用契約が被告と
原告との間で更新されるものと認識していたと認められる。
(3) しかし,前記のとおり,原告が外国人教員として国に任用されたものではな
く,国家公務員法2条7項に基づき外国人教師として雇用されたものであると
認められる以上,原告には国立大学法人法附則4条の適用はなく,A大学総
長と原告との間の雇用契約を被告が当然に承継することはないと解される。
そうすると,被告と原告との間の平成16年4月1日以降の雇用契約は,A大
学総長と原告との間の雇用契約(公法上の契約)が更新されたものということ
はできず,被告と原告との間で平成17年3月31日までの期間の定めのある
雇用契約(私法上の契約)が改めて締結されたものといわざるを得ない。
(4) したがって,被告がA大学と原告との間の雇用契約上の関係を承継したとす
る原告の主張は,採用することができない。
4 争点(4)(原告が被告との間で締結した期間の定めのある雇用契約を被告が打
ち切ることは許されないか)について
(1)乙27によれば,被告は,平成16年12月17日,原告の代理人弁護士に対
し,平成17年3月31日をもって原告と被告の間の雇用契約は終了する旨通
知しており,雇用契約の更新を拒絶したものと認められる。
(2) 前記のとおり,被告と原告との間の平成16年4月1日以降の雇用契約は,A
大学総長と原告との間の雇用契約が更新されたものではなく,被告と原告との
間で平成17年3月31日までの期間の定めのある雇用契約が改めて締結され
たものというべきであるが,原告とA大学総長との間で締結された雇用契約
は,平成6年4月以降,9回の更新により,平成16年3月31日までの10年間
継続してきたものであること,その間に原告が従事していた職務は,A大学B
部ないしA大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外
国人教師であり,臨時的な職務ではなく,恒常的に存在する職務であると認め
られること,外国人教師の中には,雇用契約が5年間を超えて更新されないも
のと明示されていた者がいたが(甲10の1ないし3),原告の場合には,相互
の合意により1年ごとに契約を更新できるとされ,更新継続期間の限定はされ
ていなかったこと,外国人教師の中には,20年以上にわたって雇用契約の更
新継続がされた者がいたこと(甲10の4,5,甲35),C教授,A大学B研究科
教授会及びA大学副総長のいずれもが,被告が設立される平成16年4月1日
以降も,A大学総長と原告との間で締結された雇用契約が被告と原告との間
で更新されるものと認識していたこと,原告が被告との間で締結した雇用契約
による職務は,それまでのA大学総長との間の雇用契約による職務と同内容
のものであると認められること(甲15,36,弁論の全趣旨)に照らせば,平成1
5年10月29日のC教授の手紙,同年12月4日付けのC教授の作成書面に添
付されていた同年11月12日開催のB研究科教授会での説明メモ及び同年1
2月24日のA大学副総長の本件回答によって,平成16年4月1日以降の原
告との間の雇用契約は,平成17年3月31日までであり,それ以後の雇用契
約の更新はないことが原告にあらかじめ伝えられていたことを考慮してもな
お,原告としては,原告と被告との間で締結される雇用契約についてある程度
の継続を期待する合理的理由があったものといわざるを得ない。
したがって,被告が原告との間の雇用契約の更新を拒絶する場合,解雇に
関する法理が類推され,その更新拒絶には合理的な理由が必要であると解さ
れる。ただし,原告と被告の間の雇用契約が有期契約である以上,その更新
拒絶の基準は,期間の定めのない従業員を解雇する基準よりは緩やかなもの
であると解するのが相当である。
(3) 前記争いのない事実等に,甲33,乙11の1,乙23,証人E,同C,原告本
人及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることがで
きる。
ア A大学B部では,平成8年に大講座制が導入され,英米文学研究室と英語
学研究室が英文学研究室から独立したが,その分離独立の経緯から,原告
の外国人教師ポストは英語学研究室にもある程度の利用権があることが両
研究室間での合意事項とされていた。
しかし,英語学研究室としては,上記外国人教師ポストを英語学研究室
に移行するよう要求しても,英文学研究室が困るだけであるので,平成8年
度から平成16年4月まで,別途外国人ポストを概算要求する道を選んでい
た。
ところが,総定員法の枠組みの中でこの概算要求が認められることはな
く,平成15年7月に国立大学法人化法案が議会で可決され,同年10月1
日から施行された後は,かかる概算要求を出すことすらできなくなった。
イ 平成13年6月の「大学の構造改革の方針」に基づき,21世紀COEプログ
ラムとして,平成14年度から文部科学省に新規事業として「研究拠点形成
費補助金」が措置された。同プログラムは,我が国の大学に世界最高水準
の研究教育拠点を学問分野ごとに形成し,研究水準の向上と世界をリード
する創造的な人材育成を図るため,重点的な支援(研究拠点形成費補助
金)を行い,もって,国際競争力のある個性輝く大学づくりを推進することを
目的とし,①人材育成機能を持ち,②世界的な拠点形成が期待でき,③特
色ある学問分野を開拓し,創造的,画期的な成果を出し,④事業終了後も
世界的な研究教育拠点であることが求められている国家的事業である(乙2
8)。
平成14年4月1日の文部科学大臣決定により,「研究拠点形成費補助金
交付要綱」(乙24の3)が定められ,「この補助金は,学問分野別に評価を
行い,主として研究面においてポテンシャルの高い専攻等が世界的な研究
教育拠点を形成するために必要とする経費を専攻等の研究者からなる研究
グループに対して補助することを目的とし,もって世界最高水準の大学づく
りを推進し,我が国の科学技術の水準の向上及び高度な人材育成に資す
るものとする。」などとされた。
平成14年9月30日,21世紀COEプログラム委員会において,「平成14
年度「21世紀COEプログラム」審査結果について」と題する書面(乙28)が
作成され,研究拠点形成費補助金は,当該分野における研究上,優れた成
果を挙げ,将来の発展性もあり,高度な研究能力を有する人材育成機能を
持つ研究教育拠点の形成が期待できるものなどに対し,重点的支援を行う
ものであるなどと定められた。
ウ 平成14年10月,A大学が申請していたB研究科の「H」と題する事業が2
1世紀COEプログラムの補助金の交付対象と決定され(乙8の1),平成15
年度においても,同事業は,研究拠点形成費補助金の交付対象と決定され
た(乙24の2)。
平成14年10月7日,I振興会により,「《21世紀COEプログラム》研究拠
点形成費補助金(研究拠点形成費)取扱要領」(乙24の4)が定められ,事
業の遂行に必要となる外国人を含む研究員等の雇用等をする場合の方法
が示された。
平成15年11月21日に21世紀COEプログラム委員会が作成した「「21
世紀COEプログラム」評価要項」(乙29)によれば,評価項目として,「若手
研究者が有為な人材として活躍できるような仕組みを措置し,機能している
か」というものがあり,平成16年4月1日,被告の総務企画部人事労務課
は,「A大学における21世紀COEプログラム(研究拠点形成費補助金)によ
る研究支援者実施要領」(乙24の5)を定め,研究員は,研究拠点形成費補
助金による研究遂行に必要な能力を有する研究者とする旨定めた。
エ A大学B研究科の「H」と題する21世紀COEプログラムの目的は,意思伝
達行為の所産をすべて「テクスト」ととらえ,伝達欲求と,それが特定の形式
の「テクスト」として実現されることの間の関係を,原理的に解明することにあ
るとされた(乙9)。
「H」プログラムが言語学の手法をとっていることから,英語文化圏を機軸
として展開されている先端部門の人的資源を必要とすると考えられ,また,
人間が意味を伝えるために使用する道具には,言語以外の非言語テクスト
があり,体系的・機能文法を非言語テクストに応用する分野は社会記号論と
呼ばれており,その研究はオーストラリアが世界の指導的立場にあった。
そこで,「H」プログラムを進める上で,Jの大学と連携し,非言語テクスト
を含めた統合テクスト科学を日本人研究者と共同研究し,成果を海外に伝
える外国人研究者が必要と認識された。
そのため,文学研究科としては,①記号論と密接な関係にある2名のスタ
ッフからなる表象認識学講座を設置する,②社会記号論を専門分野とする
外国人の人文学専攻教員1名を採用するという2つの支援策を打ち出した。
しかし,その後,上記①については,国立大学法人化に伴う5%定員削減
の中で困難となり,上記講座の設置は断念したものの,西洋文学西洋語学
講座の持つ定員枠から助教授ポストを出すというやり繰りにより,被告にお
いて,平成16年4月,電子テクスト学を専門とする日本人の助教授1名を採
用した。
また,上記②については,「H」プログラムが言語学の手法をとる以上,英
語学研究室が上記外国人研究者の受入窓口となることになった。そして,原
告の専門分野はBで,上記研究者とは分野が異なる上,上記研究者の採用
は,B研究科の定員に含まれるものとなるので,日本人教員と同様に教授
会出席をはじめとする行政上の各種業務を果たす必要があったが,原告の
日本語能力ではそれを果たすことができなかった。そこで,原告の外国人教
師枠を上記の人的資源となる外国人の人文学専攻教員に振り替え,上記プ
ログラムに協力できる外国人研究者(外国人の人文学専攻教員)を原告の
ポストに採用すべきということが考えられた。
オ 上記のような推移の中で,平成15年7月9日には,A大学B研究科教授会
において,議長から,国立大学法人法案が成立すると,外国人教師も通常
の常勤職員として雇用することができるようになるので,外国人教師枠を定
員化することについて審議したいと提案があり,審議の結果,定員化の方向
で進めることとされ,法人化後は外国人教師枠を定員化する方向が決定さ
れた(乙22の1)。
カ平成15年7月11日,C教授は,原告に対し,独立行政法人化によるB研
究科の構造改革に関し,外国人教師のポストを正規の教員に振り返ること
などについて話し,原告とA大学との間の雇用契約を終了することになった
が,将来のこともあり,時間が必要であろうから,あと1年滞在できるように
する旨告げた。
その際,原告は,C教授に対し,退職金等について尋ねた。
キ 平成15年7月14日,原告は,C教授に対し,平成17年3月末日という差
し迫った契約終了を申し渡されたが,平成16年から平成17年にかけての
学期についての契約書あるいは署名のある契約条件を記載した文書を平
成15年9月30日までに要求すること,原告の契約が前年の契約に基づい
て自動的に更新されるというC教授の言葉だけを信じ,原告の雇用が定年
まで続くというC教授の口頭での再三の保証を信用してきたが,この信頼は
明らかに見当違いで,有害であったことなどと記載した手紙(甲13)を送付
した。
ク 平成15年7月15日,原告は,C教授に対し,前日付けの前記手紙に記載
のある平成16年度の契約書を示してほしいと要求したが,C教授は,3月こ
ろに作成されるので,現在はこれを示すことができないこと,独立行政法人
化にあっては何が起きるのか予測しかねることなどの応答をした。
その際,原告は,C教授に対し,再び退職金や帰国旅費のことを尋ねた
ので,C教授は,庶務係に問い合わせ,同年8月1日付けの説明用書面(乙
15)を入手した。
ケ 平成15年7月17日ないし18日,原告は,C教授に対し,原告の雇用終了
の日付とC教授が原告の契約を終了しようとするはっきりとした理由を記載
した日付及び署名のある書面を要求するなどと記載した手紙(甲14)を送付
した(乙14)。
コ 平成15年7月30日,C教授は,A大学訟務室に対し,原告から来た前記2
通の手紙に関し相談する趣旨の手紙(乙14)を出した。
サ 平成15年9月19日,C教授は,前日の原告の要求に応じ,原告に対し,
平成16年から平成17年にかけての学期について,同じ契約が1年間継続
されることが保証される旨記載した書面(甲15)を渡した。
シ 平成15年10月29日,C教授は,原告に対し,同月16日付けの原告から
の手紙に対する回答として,原告との間の外国人教師雇用契約を平成16
年度においては更新するが,雇用契約は平成17年3月31日を限りとして,
それ以後の雇用契約の更新はない旨記載した手紙(甲6)を送付した。
その手紙には,外国人教師雇用契約を更新しない理由として,平成15年
7月11日,同月15日,同年9月19日に簡潔に説明したものを繰り返すが,
英文学研究室は,英文学と英語学の両研究室からなっており,外国人教師
のポストは両者の共通財産であったこと,しかし,平成8年には教育研究上
において大きな変革があり,英文学研究室は発展的に解消し,英米文学研
究室と英語学研究室の2研究室体制となったが,外国人教師のポストは依
然として英米文学研究室が占めていること,そこで,B部教授会は,英語学
研究室の事情を勘案し,外国人教師のポストを得るため概算要求をしたこ
と,平成12年にも,大学院文学研究科となる変革があり,英語学研究室
は,前にも増して外国人教師を雇用することによって教育環境整備をするこ
とになり,引き続き概算要求をしてきたこと,しかし,国立大学法人化法案が
成立し,現状では外国人教師の雇用を増やすための概算要求が不可能と
なったこと,そのため,英米文学研究室は,外国人教師ポストの使用権利を
英語学研究室に譲らなければならなくなったこと,それは相互の同意によっ
て互いにこのポストを使用するという約束があったからであることなどの記
載があった。
ス 平成15年11月12日,A大学B研究科教授会において,議長から,平成1
6年度外国人教師の雇用計画について,平成15年度の契約内容を基に平
成15年度雇用の教師を引き続き雇用することとしたいと提案と説明があり,
審議の結果,これが承認されたが,引き続き,議長から,原告との雇用契約
に関しては,これまでの経緯及び今後の教育,研究方針等からして,平成1
7年3月31日限り退職とし,その後は雇用契約の更新をしないこととしたい
と説明があり,これが承認された(乙22の2)。
この決定を受け,原告の雇用終了後となる平成17年4月から,原告の外
国人教師枠を外国人の人文学専攻教員とするため,英語文化圏における
人文学先端分野を担当し得る人材を国際的に求めることとされ,定員化さ
れた場合の教授は英語学の枠内にとどまらないので,選考は「人文学専攻
教員選考委員会」として,教授選考に入ることになった。
セ C教授から,原告に対し,平成15年12月4日付け書面(甲19の1)が送付
され,同書面には同年11月12日開催のB研究科教授会でC教授が説明し
た際のメモ(甲19の2)が添付されており,その説明メモには,原告の雇用
を平成17年3月31日までとし,雇用契約の更新は行わないこととした理由
として,①平成8年に大講座化したことに伴い,それまで英文学と英語学で
構成していた英文学研究室が,英米文学と英語学とに分離独立したが,外
国人教師枠は引き続き英米文学で使用していたので,この機会に英語学の
外国人教師雇用のための概算要求をしたが実現しなかった,②その間,平
成12年には大学院重点化が完成し,教育研究の高度化が求められたが,
依然として英語学の外国人教師の概算要求は実らず,しかも,平成15年に
は,独立行政法人化法案が施行されるにおよび,外国人教師の概算要求
すら不可能となった,③英米文学の外国人教師枠は英米文学と英語学双方
の財産であり,しかるべき時期に英語学に使用権を譲ることは双方の研究
室が分離した時点での方針であった,④外国人教師枠が定員化される機会
に,それを任期付きの教授とし,日本人スタッフと対等にプロジェクトを組め
るDistinguishedScholarを招へいし教育研究を活性化させることが英米文
学と英語学との間で確認された,⑤英米文学は長年外国人教師枠の恩恵
を被り,かつ現外国人教師の役目は所期の目的を達成しており,この機会
にまず任期付き教授ポストを最初に英語学が使用することに双方が同意し
た旨の記載があった。
ソ 平成15年12月24日,A大学副総長は,原告の代理人弁護士に対し,A
大学は,毎年外国人教師と契約更新の手続を行っており,原告に対し,平
成16年度については雇用契約を更新し,当該契約期間の満了をもって雇
用関係を終了させる旨を知らせている旨の本件回答(甲2)を送付した。
タ 平成16年3月10日,A大学B研究科教授会において,議長から,平成17
年度概算要求事項として,外国人教師の教授振替について審議したいと説
明及び提案があり,今後,主計課とも相談しながら総務委員会で検討し,教
授会に改めて附議することとされた(乙22の3)。
チ 平成16年4月1日,A大学は,国立大学法人法に基づき,被告となり,被
告は,原告との間で,期間を平成17年3月31日までとする雇用契約を締結
した。
ツ 平成16年12月17日,被告は,原告の代理人弁護士に対し,平成17年3
月31日をもって原告と被告の間の雇用契約は終了する旨通知した(乙2
7)。
(4)ア 以上認定の事実によれば,平成8年に英文学研究室が英米文学研究室と
英語学研究室に独立した際,それまで英文学研究室で使用していた外国人
教師ポストについては,英米文学研究室が使用することになったが,同ポス
トについては英語学研究室にもある程度の利用権があることが両研究室間
での合意事項とされたこと,しかし,英語学研究室としては,平成8年度か
ら,別途外国人ポストを概算要求する道を選んでいたこと,ところが,この概
算要求は認められず,国立大学法人化法施行後は,かかる概算要求を出
すことすらできなくなったこと,一方,平成14年度の21世紀COEプログラム
にA大学B研究科の「H」が採用となったが,同プログラムは,言語学の手法
をとっていることから,英語文化圏の先端部門の人的資源を必要とすると考
えられ,また,非言語テクストに応用する社会記号論の研究で世界の指導
的立場にあったJの大学と連携して,日本人研究者と共同研究し,成果を海
外に伝える外国人研究者が必要と考えられたこと,そのため,B研究科とし
ては,社会記号論を専門分野とする外国人の人文学専攻教員1名を採用す
るという支援策を打ち出したが,そのような外国人の人文学専攻教員として
は,原告は,専門分野が異なる上,そのような教員に要求される行政上の
各種業務を果たすことができるような日本語能力を有していなかったこと,な
お,21世紀COEプログラム委員会が作成した評価要領の評価項目には,
「若手研究者が有為な人材として活躍できるような仕組みを措置し,機能し
ているか」というものがあり,被告の総務企画部人事労務課が作成した21
世紀COEプログラムの研究支援者実施要領では,研究員は,研究拠点形
成費補助金による研究遂行に必要な能力を有する研究者とする旨定められ
ていること,そこで,原告の外国人教師枠を上記の外国人人文学専攻教員
に振り替えることが考えられたこと,これを受け,C教授は,平成15年7月1
1日,原告に対し,原告とA大学との間の雇用契約は終了するが,終了時期
については,1年以上の余裕があるようにするため,平成17年3月31日と
する旨告げたこと,これはA大学B研究科教授会としての見解であったこと
が認められる。
イ そして,国立大学法人法に基づきA大学から独立行政法人となった被告
は,原告との間で平成16年4月1日に期間を1年とする雇用契約を締結し,
平成17年3月31日をもって,その更新を拒絶したものであるが,その更新
拒絶の理由は,A大学B研究科教授会があらかじめ原告に伝えていた理由
と同じであったと認められる
ウ そうすると,被告のした更新拒絶には,有期雇用契約の更新を拒絶できる
客観的に合理的な理由が存したというべきである。
エ これに対し,原告は,21世紀COEプログラムのことは紛争になってから考
えられた架空のものであり,雇用契約を打ち止めとする正当な理由とはなり
得ない旨主張する。
しかし,前記認定の事実によれば,21世紀COEプログラムのことが紛争
になってから考えられた架空のものということはできない。
また,原告は,英米文学にとって原告が枢要な存在である旨主張する。し
かし,前記認定の事実によれば,B研究科としては,英米文学が専門分野
でない外国人の人文学専攻教員の採用を必要としたのであるから,英米文
学研究室における原告の存在価値のみで,原告との雇用契約の更新拒絶
の合理性が否定されるものではない。
さらに,原告は,被告の主張には虚偽や事実のわい曲がある旨るる主張
するが,原告の主張を採用するに足りる的確な証拠はない。
(5) 以上によれば,原告と被告との間の雇用契約は,定められた雇用期間の満
了により終了していると認められる。
第4 結論
よって,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとお
り判決する。
 名古屋地方裁判所民事第1部
    裁判官橋本昌純

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