弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件特別抗告を棄却する。
         理    由
 特別抗告の理由について。
 論旨第一点は、Aの証人尋問調書は任意性のない供述を録取したもので、これに
つき証拠調をすることは憲法三八条に違反すると主張する。しかし、原決定が右A
の供述に任意性のあることを認めた理由として判示するところは充分首肯すること
ができる。所論の強調するが如き右Aの公判廷における供述等があつたからといつ
て、これによつて直ちに前記裁判官の面前におけるAの供述には任意性がないと断
定することはできない。原決定は正当で論旨は理由がない。
 同第二点は、右Aの証人訊問調書は、刑訴二二八条二項により捜査に支障を生ず
る虞があるとの理由で、被疑者、弁護人等に反対尋問の機会を与えないで作成され
たものであるが、右刑訴の規定は、憲法三七条二項に違反する無効の規定であるか
ら、右調書を適法とする原決定は、右憲法の規定に違反すると主張する。
 しかし、憲法三七条二項は、刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会
を充分に与えられると規定しているのは、裁判所の職権により又は訴訟当事者の請
求により喚問した証人につき、反対尋問の機会を充分に与えなければならないとい
うのであつて、反対尋問の機会を与えない証人その他の者(被告人を除く)の供述
を録取した書類は絶対に証拠とすることは許されないという意味をふくむものでな
いことは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第八三三号同二四
年五月一八日大法廷判決)。しかし記録によれば、本件においては、所論の証人A
は、検察官の請求により、原審公判廷において尋問せられ、被告人側の反対尋問に
も充分にさらされたことが明白である。従つてこの点において、憲法三七条二項の
要請は充たされたものと認めることができる。原審は、唯、右証人がその公判廷に
おいて所論裁判官の面前における同証人の供述(刑訴二二七条、二二八条によるも
の)と異つた供述を為した為に、検察官の請求により、刑訴三二一条一項一号によ
つて右裁判官の面前における供述を録取した書面即ち所論証人尋問調書を証拠とす
ることができるものとして、これを証拠調する旨の決定をした迄のことであつて、
原審のかかる措置には何等違法の廉はない。原決定は正当で論旨は理由がない。
 その余の論旨は、憲法違反という語を用いてはいるが、その実質は原決定の訴訟
手続に関する法令違反を主張するに過ぎないものであるから、特別抗告適法の理由
となし難い。
 よつて刑訴四三四条、四二六条に従い主文のとおり決定する。
 右は裁判官全員一致の意見である。
  昭和二五年一〇月四日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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