弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
一 控訴人A及び同Bにつき、原判決主文第二項を次のとおり変更する。
1 被控訴人国は、控訴人A及び同Bに対してそれぞれ三万円並びに右各金員に対
して、控訴人Aについては昭和六二年九月二日から、同Bについては同年一一月一
日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 右控訴人両名の被控訴人国に対するその余の請求を棄却する。
二 控訴人Aの被控訴人東京拘置所長に対する本件控訴並びに控訴人C、同D、同
E及び同Fの被控訴人国に対する本件控訴をいずれも棄却する。
三 訴訟費用中、控訴人A及び同Bと被控訴人国との間に生じたものは、第一、二
審を通じてこれを一〇分し、その九を同控訴人らの、その余を被控訴人国の負担と
し、主文第二項の各控訴に係る控訴費用は当該控訴人らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 控訴人Aの被控訴人東京拘置所長に対する訴えを原審に差し戻す。
3 被控訴人国は、控訴人Aに対して三五万円、同C、同E及び同Fに対してそれ
ぞれ一五万円、同Dに対して一〇万円、同Bに対して二〇万円並びに右各金員に対
して、同Bを除く控訴人らについては昭和六二年九月二日から、同Bについては同
年一一月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
5 3につき仮執行の宣言
二 被控訴人ら
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
3 担保の提供を条件とする仮執行免税宣言
第二 当事者の主張及び証拠関係
一 当事者の主張は、以下の1ないし4のとおり補正し、かつ、二及び三のとおり
追加するほか、原判決事実欄第二当事者の主張記載のとおりである。
1 原判決四枚目表二行目の「婚姻の届出をしたGの妻である」の次に「(ただ
し、平成五年二月二四日に協議離婚をした。)」を、同八行目の「二箇所」の後に
「(一三五頁及び一六一頁)」を、同裏一一行目の「本件不許可処分は、」の後に
「個人の尊重を保障した憲法一三条、」をそれぞれ加え、同五枚目表五行目の「右
両名」を「控訴人A及びBの両名」に、
同六行目の「夫である」を「夫であった」にそれぞれ改める。
2 同一一枚目裏三行目の「ことから、」の後に「同法施行規則八六条二項を根拠
として定められた」を加え、同五行目の「通謀」を「通牒」に改め(原判決中に
「通謀」とあるのをすべて「通牒」に改める。)、同一二枚目裏九行目の「右書
籍」の前に「その当時は東京拘置所内においてはドイツ語を解する職員が在職して
おらず、これを翻訳することができなかったことから、」を、同一一行目の「同所
では、」の語に「通牒に基づき、」をそれぞれ加える。
3 同一四枚目表二行目の「組合員らが」の後に「東京拘置所の門前で横断幕を掲
げ、ハンドマイクを用いて「死刑廃止、弾庄粉砕」の」を、同裏八行目の「検閲」
の前に「速やかに」をそれぞれ加える。
4 被控訴人国の本案前の主張2は撤回する。
二 控訴人らの当審における主張
1 本件不許可処分について
被控訴人らは、本件不許可処分は監獄法三一条二項、同法施行規則八六条二項、取
扱規程、運用通達及び通牒を根拠としていると主張しているが、これらの法令等は
憲法に反し、違法である。また、外国語の図書についてはその翻訳料を在監者に負
担させるべき法的根拠が存在せず、さらに、本件不許可処分は裁量権の逸脱あるい
は濫用により違法である。これらの主張についての具体的な理由は、以下のとおり
である。
(一) 監獄法三一条二項は、図書等の閲読に関する制限については命令をもって
定める旨規定するのみであって、その命令に対する委任について何らの制約も課し
ておらず、これは閲読の自由を広汎に規制することを許容するものであり、また、
同法施行規則八六条二項は、監獄の取扱に著しく困難をきたすおそれがあることを
理由として図書等の閲読につきその種類及び個数を制限しているが、これは行刑機
関の事務的な都合のみを理由として在監者の閲読の自由を制限するものであるか
ら、監獄法三一条二項及び同法施行規則八六条二項は、いずれも憲法一三条、一九
条、二一条、二三条、二五条及び二九条の各規定に反するものであり、これを根拠
とする本件不許可処分は違法である。
(二) 在監者の閲読の制限をするには、これを許すことにより監獄内の規律及び
秩序の維持上放置できない程度の障害が生じる蓋然性があると認められることが必
要であり、その防止のために必要かつ合理的な範囲にとどめるべきであるが、通牒
は、この蓋然性の有無を一切考慮することなく、一見してこの蓋然性がないと見ら
れる場合であっても、在監者に翻訳料の負担を負わせることによって閲読の自由を
制限しており、不合理な制限であるというべきである。また、公刊されている図書
については、何人もこれを閲読することができるものであるから、そもそもこれを
事前に検閲すること自体不合理であるというべきである。したがって、通牒は、
(一)と同様に、憲法の諸規定に反するものであり、これを根拠とする本件不許可
処分は違法である。
(三) 通牒は、翻訳料の負担を在監者に負わせるものであるから、これを負担す
ることができない在監者には外国語で記載された図書を閲読させないという結果と
なり、日本語で記載された図書の検閲費用が無料であることと対比して著しく均衡
を欠き、不合理であるので、憲法一四条に反するものであり、これを根拠とする本
件不許可処分は違法である。
在監者に外国語で記載された図書の翻訳料の負担を負わせるには法令上の根拠を要
するが、その根拠は何ら存しない。被控訴人らは、通牒を発出する根拠は監獄法施
行規則八六条二項であると主張するが、同項は膨大な新聞及び雑誌についての種類
又は個数を制限することを認めたものであり、これはあくまで数量的な制限をする
ことを許容したものであるところ、通牒は、これとは無関係に在監者に対する外国
語で記載された図書の翻訳料の負担を定めるものであって、法的な根拠を欠くもの
である。
のみならず、被控訴人らは、東京拘置所においては、昭和五九年四月以前には、通
牒が存在するにもかかわらず、在監者の負担を軽減するために極力在監者に自費翻
訳を求めず、同拘置所の職員に審査をさせて判断をする運用を続けてきた旨主張し
ているところであり、通牒は実際上既に死文化しており、これを根拠とする本件不
許可処分は違法である。
(四) 仮に、東京拘置所において、外国語で記載された図書等の翻訳料の負担に
つき、昭和五九年五月以降、被控訴人らが主張する後記の基準に基づいて行われて
いるものとしても、書籍「ニーチェ」において翻訳料の負担を求められたドイツ語
で記載された二箇所の部分は、被控訴人らが翻訳を要しないものとする後記四つの
要件のうちの(3)に該当するものである。また、外国語で記載された図書につい
てその翻訳を要するか否かについては、これを許すことにより監獄内の規律及び秩
序の維持上放置できない程度の障害が生じる蓋然性があると認められることが必要
であり、この蓋然性のないものについては翻訳を要せずに閲読を許可すべきである
ところ、「ニーチェ」は、広く市販されているいわゆる新書本であり、翻訳料の負
担を求められた二箇所の部分はニーチェの自筆の草稿の写真であるから、その書籍
全体の内容、当該箇所の体裁から見ても、右の障害が生じる具体的な蓋然性が全く
存しないものである。さらに、控訴人Aは、東京拘置所に在監中、ドイツ語、英
語、アラビヤ語、ハングル語等の外国語が記載された図書、新聞等多数を翻訳科の
負担なしに閲読することができたのであり、また、その他にも同様の例が多数あ
る。
このような諸点にかんがみ、被控訴人所長の本件不許可処分は、明らかに裁量権を
逸脱したかあるいは濫用したものであって、違法である。
2 本件抹消処分について
本件抹消処分(一)及び(二)は、以下の理由により違法である。
(一) 監獄法三一条二項及び同法施行規則八六条二項が憲法に反する理由並びに
取扱規程及び運用通達がその委任の趣旨を逸脱し根拠のないものであることは、本
件不許可処分について述べたとおりである。
(二) 文書等の閲読申請を不許可とするには、監獄内の規律及び秩序の維持上放
置できない程度の障害が生じる蓋然性がなければならないところであるが、「むぐ
んふあ」一二号の一〇頁の記事は、第三の世界と日本との関連を記述する目的であ
り、刑務所内での暴動等を記述する部分は全体の中のほんの一部分にすぎず、しか
も、刑務所内での暴動等を批判し、これを客観的に記述するものであって、行刑制
度が全く異なる日本において、この記事を閲読したからといって、在監者がこれに
より刺激を受けて規律違反行為を起こすおそれは全くないものであり、また、本件
抹消処分(一)が行われた当時においては、控訴人A及びBらの獄中闘争等の活動
は鎮静化しており、特に顕著な規律違反行動は身受けられなくなっていたのであっ
て、右記事は、監獄内の規律及び秩序の維持上放置できない程度の障害を生じさせ
る蓋然性はないというべきである。そして、これに加えて、被控訴人所長において
は、控訴人Aに対し、昭和六二年一一月以降平成二年一月ころまでの間、アメリ
カ、ミャンマー、フィリピン等の諸外国における刑務所での暴動の記事や韓国にお
ける刑務所内でのハンガーストライキの記事が掲載されている多数の新聞紙、雑誌
等の閲読を許可しており、「むぐんふあ」一二号の一〇頁の記事についてのみこれ
らと異なる取扱をすべき合理的な理由は見いだせない。
次に、「むぐんふあ」一八号の四頁の下半分の記事は、昭和六二年四月四日、控訴
人Aを除く控訴人らを含む支える会の会員が東京拘置所の門前等において行ったデ
モ活動について若干の所感を加えて客観的に記述したものであり、そのデモについ
ては正式な許可を受け、しかも少人数で整然かつ平穏に監獄内の待遇改善等を訴え
る意思表明を行ったものであって、これによって特に控訴人A及びBに対し積極的
な行動をとるように働きかける目的を持っていたものではなく、また、本件抹消処
分(一)が行われた当時においては、控訴人A及びBらの獄中闘争等の活動は鎮静
化しており、特に顕著な規律違反行動は身受けられなくなっていたのであり、この
記事を閲読したからといって、在監者がこれにより刺激を受けて監獄内の規律及び
秩序の維持上放置できない程度の障害を生じさせる蓋然性は全くないものであっ
た。
したがって、被控訴人所長の本件抹消処分(一)及び(二)は、その裁量権を逸脱
したかあるいは濫用したものであって、違法である。
3 信書発送遅延について
本件信書の発送の遅延は、特に、控訴人A及びBについては、外部交通の状況に注
意を要するものとして上位の職員の決裁を二重に仰いでいたことから生じたもので
あるが、これは、いったん書信係に検閲させた上で更に上位の職員に検閲をさせる
ものであって、いわば二重の検閲に当たり、違法である。
三 被控訴人らの当審における主張(本件不許可処分)について
1 東京拘置所においては、従来から、通牒に基づく取扱をしてきたが、その後、
書信係の職員をもって外国語が記載されている図書等の審査を行い、極力在監者に
翻訳料の負担を負わせないようにする運用をしてきた。しかし、昭和五九年五月以
降においては、外国人の在監者が著しく増加したことに伴って、外国語で記載され
た図書等の検閲業務が多忙となったことから、この運用を止め、再び、原則として
通牒に基づく取扱に戻すこととしたが、在監者の負担の軽減を考慮し、(1)おお
むね初級程度の外国文で、検査する職員によってその大意が把握できるもの、
(2)市販の辞典、教典類、(3)対訳、大意、概要説明がついているもの、
(4)既に内容が把握できている図書類という四つの基準のいずれかに合致するも
のについては、自費翻訳を求めない取扱をしてきた。
2 控訴人らは、控訴人Aは、東京拘置所に在監中、外国語が記載された他の文書
等を翻訳料の負担を求められることなく閲読することができた旨主張するが、これ
らはいずれも1記載の(1)又は(3)の基準に合致するか、控訴人Aがその一部
の抹消に応じたものであり、これらの取扱については「ニーチェ」とは異なるもの
である。また、被控訴人所長は、本件後に本件で問題とされた二箇所の手書き部分
の写真を表紙にしたパンフレット(甲ホ第三六号証)とカール・マルクスの直筆の
写真を掲載した文書(同第三七号証)を翻訳科の負担を求めることなくその閲読を
許可した事実があるが、前者については、本件の関係で、既にそのドイツ語の内容
の翻訳が行われていたこと、後者については、明らかに判読不能であったことによ
るものであり、いずれも監獄内において障害を生じる蓋然性がなく、前記基準に合
致すると認められたからである。
四 証拠(省略)
○ 理由
第一 被控訴人所長に対する本件不許可処分の取消しの訴えについて
右訴えについては、当裁判所も、これを訴えの利益を欠く不適法なものと判断す
る。その理由は、原判決理由欄第一の一の説示のとおりである。
第二 被控訴人国に対する損害賠償の訴えについて
一 本件不許可処分について
1 被控訴人所長が本件不許可処分を行ったことは、当事者間に争いがない。
2 未決勾留による在監者の図書等の閲読の自由の制限が憲法に反しないことにつ
いては、原判決理由欄第二の二の1及び2(一)(原判決一七枚目表七行目から同
二〇枚目表六行目まで)記載のとおりである。
控訴人らは、監獄法三一条二項、同法施行規則八六条二項、取扱規程、運用通達及
び通牒が憲法に反する旨主張するが、右引用にかかる原判決の説示する制限の目
的・趣旨とその必要性及びこれら法令等の規定により許容される制限の態様・程度
等に照らせば、右規定そのものが控訴人らの指摘する憲法の条項に違反するものと
は解されない。
また、外国語で記載された図書等については、閲読させることによって監獄内の規
律及び秩序の維持上放置できない程度の障害が生じる蓋然性が存するか否かを判断
するために、原則として翻訳が必要となり、この翻訳をすべて行刑機関が自ら行う
ことは実際上困難であるので、通牒は、その翻訳料を本人に負担させることとした
ものであって、これをもって不合理な取扱であるということはできず、憲法一四条
には反しない。
3 本件不許可処分が行われるに至った経緯は、次に記載するほか、原判決理由欄
第二の二の2(二)(原判決二〇枚目表八行目から同二一枚目裏一行目まで)記載
のとおりである。
原判決二〇枚目表九行目の「甲イ第一号証」の後に「甲ホ第三九号証、」を、同一
〇行目の「一九号証」の後に「、第二〇号証」を、同裏七行目の「更に、」の前に
「これに加えて、在監者に過度の費用負担を与えないため、(1)おおむね初級程
度の外国文で、検査する職員によってその大意が把握できるもの、(2)市販の辞
典、教典類、(3)対訳、大意、概要説明がついているもの、(4)既に内容が把
握できている図書類という基準のいずれかに合致する文書等については在監者に翻
訳料を負担させないという運用をしてきた。」を、同二一枚目表一行目の「翻訳」
の前に「ドイツ語を翻訳することのできる職員が在職せず、また、当然には右
(1)ないし(4)の除外事由には該当しないことから、」をそれぞれ加え、同九
行目の「先立ち」を「先立つ昭和六二年四月一六日に」に改める。4本件不許可処
分の適否
甲ホ第三九号証によれば、書籍「ニーチェ」は、基礎教養書として広く市販され社
会的評価を得ているいわゆる岩波新書である。著者は、ニーチェ研究者であるH大
阪大学教授であり、昭和六二年一月の刊行以来平成四年まで一三刷を重ねている。
内容は九章からなり、著者のあとがきによると、ニーチェの生活と思想をその歴史
的背景から理解し再構築しようとした学術的労作である。本件で問題とされている
部分は、第七章及び第八章の冒頭にその章題とともに掲げられているニーチェの著
名な著作「力への意志」及び「ツアラトストラはこう言った」のドイツ語による自
筆草稿の断片の写真であり、その体裁・形式ないしレイアウトからみて、写真の中
の草稿の文章又は言葉の内容に意味があるものとして掲載されたものではなく(乙
第二一号証によれば、第八章の冒頭の掲載部分の表題部以外の文章は判読不能のも
のである。)、ニーチェの自筆を読者に見せることを目的としたもので、いわば章
の冒頭を飾る口絵ないしは挿絵の役割をもつものであることが明らかである。
また、右書籍の第四章の冒頭(五九頁)には、本件掲載部分と同様の口絵ないしは
挿絵として、ドイツ語で印刷されたニーチェの著書「悲劇の誕生」の表紙の写真が
掲載されており、この写真の中段の小さな印刷部分のドイツ語はそれ自体ではほと
んど読み取れないが、この部分については翻訳料の負担が求められず、抹消の対象
にもされていない。これについて、検閲を担当した当審証人Iは、刊行されている
書籍の表紙であるから問題にはならなかったと供述している。右第四章冒頭の掲載
部分と本件掲載部分とを比較すると、後者がニーチェの自筆草稿で文字の判読の難
しい部分が多く、その意味内容を把握しにくいことは、否定できない。しかし、前
記のような本件書籍の性格・社会的評価、著者、書籍の主題及び全体の内容、本件
掲載部分の体裁・役割等から素直に考えるならば、本件掲載部分が監獄内の規律及
び秩序の維持に影響を及ぼすことを疑うべき特別の具体的手掛かりでもあるのであ
れば格別、そうでない限りは、監獄規律等を害するおそれのないものであることが
おのずから明らかなものとして、あえて翻訳を要するようなものではないとみるの
が、合理的であるといわなければならない。この点では、本件掲載部分と第四章冒
頭の掲載部分とを区別して取り扱うべき実質的理由は見いだせない。前記証人Iの
証言によると、本件不許可処分に関与した拘置所の係官は、Bが本件不許可処分以
前にも本件掲載部分を抹消した同一書籍を閲読していることから、B側がいやに本
件書籍にこだわっていろとの判断をもったことが認められるが、そうした経過があ
るというだけで直ちに本件掲載部分の監獄規律等への影響を疑うのは客観性を欠く
ものであり、他に右疑いを入れるのを首肯しうる具体的手掛かりがあったことを認
めるに足りる証拠はない。
そして、本件掲載部分がこのようなものであるとするならば、前記認定の東京拘置
所における運用上翻訳を要しないとされている四つの除外事由に形式的には合致す
るものではないが、この除外事由が設けられた趣旨にかんがみれば、右のうちの
(3)の「対訳、大意、概要説明がついているもの」に類似するものとして取り扱
うことも十分可能であったのであり、厳密には右除外事由に当たらないということ
から前記通牒の定めるところを形式的に適用するのは、先に述べた検閲制度の趣
旨・目的に照らし、杓子定規にすぎるといわざるを得ない。本件の検閲担当者自身
にもこうした認識が潜在していたことは、前記H証人の証言からも察せられるとこ
ろである。
したがって、本件掲載部分が必ず翻訳を要するものであるとして、その翻訳科の負
担あるいはその部分の抹消を控訴人A及びBに求め、同人らがこれに応じなかった
ことを理由とする被控訴人所長の本件不許可処分は、この種の判断が監獄内の事情
に通じた被控訴人所長の裁量に係るところの少なくないことを考慮してもなお、合
理性を欠き違法であるといわざるを得ない。被控訴人所長としては、職務上通常要
求される注意義務を果たせばこれを避けることができたものと認められ、同所長に
は過失があるといわざるを得ない。
そして、控訴人A本人尋問の結果、甲イ第一号証、甲ホ第二七号証、第四三号証、
第四五号証によれば、本件不許可処分によって控訴人Aは本件掲載部分を含む書籍
「ニーチェ」を閲読することができなかったこと、控訴人Bは当時の夫であったG
及び友人である控訴人Aにこれを閲読させることができなかったことにより、精神
的な苦痛を受けたものと認められ、その慰謝料の額については、本件掲載部分が
「ニーチェ」の内容に係るものではなかったこと、また、前記のとおり、控訴人A
は約一か月後に本件掲載部分の抹消に応じて「ニーチェ」の他の部分の閲読をして
おり、Gは本件不許可処分の前に本件掲載部分の抹消に応じて同様に他の部分の閲
読をしていること等を勘案すると、控訴人A及び同Bにつきそれぞれ三万円をもっ
て相当とする。
二 本件抹消処分(一)及び(二)について
当裁判所も、被控訴人所長の本件抹消処分(一)及び(二)は適法であり、この点
についての原判決は正当であると判断するが、その理由は、以下に記載するほか、
原判決理由欄第二の二の3及び4(原判決二二枚目裏一一行目から同二九枚目裏七
行目まで)記載の説示のとおりである。なお、本件抹消処分(一)及び(二)の根
拠となった監獄法三一条二項、同法施行規則八六条二項、取扱規程、運用通達が憲
法には反しないことについては、
前判示のとおりである。
1 原判決二三枚目表二行目の「原告A」の後に「及び控訴人F」を、同五行目の
「パンフレット」の後に「控訴人C、同E、同Fらが編集し発行した「支える会」
の通信誌である」をそれぞれ加える。
2 同二四枚目表二行目の後に行を改めて以下のように加える。
「控訴人A及び控訴人Fの各本人尋問の結果並びに甲ホ第八号証の一ないし九、第
一二号証、第一三号証、第二〇号証の一ないし六、第二三号証の一ないし四、第二
四号証の一ないし三、第二五号証の一ないし四、第四〇号証、第四三号証によれ
ば、被控訴人所長においては、昭和六一年一一月以降平成二年一月ころまでの間
に、アメリカ、ミャンマー、フィリピン等における監獄暴動、韓国における監獄内
のハンガーストライキ等の記事が掲載された一般の新聞、獄中闘争あるいはいわゆ
る拘禁二法に反対する記事が掲載された新聞、雑誌等多数につき控訴人Aに閲読を
許可していることが認められるが、これらはいずれも本件抹消処分(一)より後の
ことであり、これとの比較において本件抹消処分(一)の被控訴人所長の判断を不
合理とすることはできない。」
3 同二五枚目表一行目の「甲第六号証の二」を「甲ホ第六号証の二」に、同二七
枚目裏八行目の「甲第九号証」を「甲ホ第九号証」に、同二八枚目表九行目の「な
っていていた」を「なっていた」にそれぞれ改める。
三 本件各信書の発送について
当裁判所も、被控訴人所長の本件各信書の発送については適法であり、この点につ
いての原判決は正当であると判断するが、その理由は、原判決理由欄第二の二の5
(原判決二九枚目裏八行目から同三一枚目表一一行目まで)記載の説示のとおりで
ある。なお、控訴人らは、本件各信書に対する検閲方法は二重の検閲であって、憲
法に違反する旨主張するが、採用できない。
第三 以上のとおり、控訴人A及び同Bの被控訴人国に対する各請求については、
右に判示した限度で一部理由があるので、原判決を変更することとし(なお、仮執
行の宣言は相当でないので、これを付さないこととする。)、その余の控訴人らの
被控訴人国に対する控訴及び控訴人Aの被控訴人所長に対する控訴はいずれも理由
がないので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤 繁 山崎 潮 杉山正士)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛