弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人高橋武夫の上告趣意は末尾に添えた書面記載の通りである。上告趣意第一
点について。
 昭和二四年五月二五日の原審公判廷において裁判長が裁判官全員の一致の意見を
以て前に為した公開禁止の決定を解く旨を言い渡していること及び同日の公判廷に
おいて審判の公開を禁止する旨を宣告した事跡の認められないことは洵に所論の通
りである。
 然し記録に徴すると昭和二三年一一月八日の原審公判廷において裁判長は本件審
理が風俗を害する虞のある理由によつて裁判官全員一致の意見を以て公開を禁止す
る旨を宣告したことが認められるから右公開禁止の決定の効力はその後の公判期日
に及ぶものと解するのが相当であつて大審院もこれと同様の判例を示して居り今こ
れを改める必要は認められない(昭和六年(れ)第三〇六号、同年五月一四日大審
院判決参照)。
 然らば右公開禁止の決定を宣告してから後昭和二四年五月二五日の公判廷におい
て公開禁止を解くまでの間右公開禁止の決定を解いた事跡の認められない本件にお
いては昭和二三年一一月八日に為した公開禁止の決定の効力が昭和二四年五月二五
日の公判期日にも及んで居るものと認めざるを得ないから同日の公判廷において公
開禁止の決定を宣告した事跡の認められない一事を以て原審の訴訟手続に旧刑訴第
四一〇条第七号に違反する違法があるとはいえない。従つて論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決が挙示の証拠により判示第二の事実として確定したところは被告人が判示
第一の犯行の発覚を防止する為本件強姦の被害者A(当一八年)を一時監禁しよう
と企て同女を乗せた判示漁船を判示海上に回航碇泊せしめ昭和二三年五月八日午後
一〇時頃から翌九日午前五時三〇分頃までの間同女を右船内に閉込めて上陸を不可
能ならしめ以て同女を不法に監禁したというのである。
 論旨は畢竟当時被告人は右船内において寝て居り前記Aにおいて海中に飛込み泳
いで岸に着こうと思えば着くことが出来たにかかわらず敢てその挙に出ず同船内に
止まつていたのであるから本件を不法監禁罪として処断した原判決には理由齟齬の
違法があるというのである。
 然し原判決が確定した事実に徴しても明らかなように被告人は海上沖合に碇泊中
の漁船内に同女を閉込めたのであるから陸上の一区画に閉込めた場合と異り上陸し
ようとすれば岸まで泳ぐより外に方法はないのみならず時刻は深夜の事でもあり、
しかも当時強姦による恐怖の念が尚継続していたものと認められないことはない本
件の場合において同女が該漁船から脱出することは著しく困難であるといわなけれ
ばならない。しかしてかかる場合は猶刑法にいわゆる「不法に人を監禁した」もの
と解するのが相当である。
 従つて原判決が被告人の判示所為を不法監禁罪として処断したのは相当であつて、
原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 田中已代治関与
  昭和二四年一二月二〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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