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平成16年8月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成14年ワ第70号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日・平成16年5月25日
判      決
当事者の表示      省  略
主文
 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して金4383万3566円及びこれに対する平成11
年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告Aのその余の請求及び原告B,原告Cの各請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告らの負担とし,その3を被告らの負担とす
る。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由 
第1 請求
   被告らは,連帯して,原告Aに対し金6843万3688円及びこれに対する平成11
年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告B,原告Cに対し各
金165万円及びこれに対する平成11年3月3日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,平成11年3月2日,K村立D小学校(当時の名称。以下同じ。)の4年生で
あった原告Aが,教室における「帰りの会」の最中,同じクラスの児童の投げた鉛筆
を左目に受け,左眼球穿孔,角膜裂傷,外傷性白内障術後無水晶体眼,後発性白
内障の傷害を負った事故に関し,原告らが,同事故は担任教諭又はK村立D小学
校の安全配慮義務違反によるものであると主張して,原告Aが,被告南アルプス市
(K村承継人)に対し,国家賠償法1条又は民法715条に基づく損害賠償請求とし
て,また,加害児童の両親である被告E及び被告Fに対し,民法714条1項に基づ
く損害賠償請求として,金6843万3688円及びこれに対する平成11年3月3日
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求
め,原告Aの両親である原告B及び原告Cが,同様に,被告らに対し,それぞれ金
165万円及びこれに対する平成11年3月3日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
 1 争いのない事実
  (1) 当事者
   ア 原告A(昭和63年生まれ。)は,原告B及び原告Cの子であり,その親権に服し
ている。
   イ G(昭和63年生まれ。)は,被告E及び被告F(被告E及び同Fを「被告Eら」とい
う。)の子であり,平成11年3月2日当時,その親権に服していた。
   ウ 原告A及びGは,平成11年3月2日当時,K村が管理運営するK村立D小学校
4年生に在学しており,クラスはL組,担任教諭はH教諭で,なお,H教諭は,
期間採用の県費負担教職員であった。
  (2) 事故の発生
    原告Aは,平成11年3月2日,4年L組の「帰りの会」の時間中,教室内において
H教諭が児童に裁縫道具を配っている最中に,Gの投げた鉛筆によって左眼球
穿孔,角膜裂傷,外傷性白内障術後無水晶体眼,後発性白内障の傷害を負っ
た(以下「本件事故」という。)。
  (3) 保険契約の締結
    被告Eは,平成10年10月2日,補助参加人I株式会社(当時は相互会社)との間
で,本件平成11年3月2日発生の事故日を保険期間に含む共済保険契約を結
んでいた。
  (4) K村は,平成15年4月1日,町村合併により,南アルプス市となった。
 2 争点及び当事者の主張
  (1) H教諭の過失の有無について
   ア 原告らの主張
    (ア) Gは,日ごろから短気で乱暴なところがあり,だれに対しても手を出し,本件
事故以前にも原告Aに対しいたずらをしかけたり乱暴したりしたことがあっ
た。原告Aは,Gに乱暴されるたびに,H教諭に対し,そのことを訴えていた
が,H教諭は分かったというものの,Gに対する指導や監督をしていなかっ
た。
    (イ) H教諭と原告Cは,平成11年2月15日及び同月16日,Gの原告Aに対す
る言動について相談した。
    (ウ) H教諭は,本件事故直前に,原告Cに対し,原告AがGにいじめられてお
り,そのことをGの父兄に話す旨報告していたが,実際はGの父兄には話を
していなかった。
    (エ) Gの本件事故当日の授業態度には問題があり,H教諭もGを指導してい
た。
    (オ) 本件事故当時,原告AがGとふざけていたことはなく,Gが自分の席を離れ
て,持っていた鉛筆で着席していた原告Aに一方的にいたずらをしかけ,
「やめろ,やめろ」と周囲に聞こえるような声で制止した原告Aの顔めがけて
鉛筆を投げた。
    (カ) H教諭は,児童の生命身体の安全について万全を期すべき高度の注意義
務を負っていたのであり,日ごろの児童に対する一般的抽象的な注意や指
導のみならず,児童一人一人の性格や素行に注目し,特にほかの児童に
危害を加えるおそれのある児童について十分な指導と配慮をすべきであ
り,本件においても,上記の(ア)ないし(オ)の事実を正しく認識し,Gの動
静に細心の注意を払っていれば,本件事故を予見し,回避することができ
たにもかかわらず,これを怠り,Gが原告Aの隣の席(欠席者の席)に移るこ
とを許した上,Gが鉛筆を持って原告Aにいたずらをしかけていることに気
が付かなかったか,大したことはない,大事には至らないと軽信して見過ご
した。
    (キ) H教諭に過失が認められるためには,原告AがGに眼を鉛筆で刺されると
いう事故の具体的な態様まで予見可能であったことを要するものではなく,
このような具体的態様を予見できなかったからといって,安全配慮義務違
反がないことにはならない。
   イ 被告南アルプス市の主張
    
    (ア) Gは,活発な児童で,原告Aを含むほかの児童にいたずらをしかけることが
あり,このことはH教諭も認識していたが,活発でほかの児童にいたずらを
しかける児童はほかにもおり,小学4年生においては特別なことではない。
また,授業態度に問題がある児童に対し指導することは日常的なことであ
り,そのような児童について終日注視しなければならないとはいえない。さ
らに,Gが特別に他害のおそれのある児童であったとか,本件事故当日他
害行為に及ぶことが予見可能であったの事情もない。
    (イ) H教諭は,平成11年2月15日,原告Aの様子がふだんと異なり元気がな
かったため,同日,原告Cに電話を掛けたが,特に変わった様子は窺えな
かった。ところが,同月16日,原告Cから連絡帳(教諭と保護者との間で事
務連絡をするため児童に持たせるもの。)により面談の申入れがあったこと
から,H教諭は,同日午後4時30分ころ,D小学校において,原告Cと面談
した。この際,原告Cから,原告AとGとの関係がうまくいっていない旨の相
談があり,H教諭は原告Cと,学校における二人の様子,家庭での原告Aの
様子などを話し合い,今まで仲の良かった二人のことなので,親や教師が
今すぐ間に入るほどのことではないとの結論に至り,しばらく様子を見るこ
とになった。
    (ウ) そもそも,原告AがGにいじめられていたということはなく,H教諭が,原告C
に対し,原告AがGにいじめられており,そのことをGの父兄に話す旨報告
したこともない。
    (エ) H教諭は,状況に応じて児童を欠席者の席に移動させることがままあり,本
件事故当日も欠席者が多く空席が多くあったところ,Gの授業態度に問題
があり指導する中で,Gが席が変わればきちんとする旨約束したため欠席
者の席への移動を認めた。
    (オ) 本件事故当時,「帰りの会」において,H教諭は板書をした上,段ボール箱
から裁縫セットを取り出して児童に配っていたのであり,このような状況で
特定の児童の動静を注視することは物理的に不可能である。
    (カ) H教諭は,Gが原告Aに対し鉛筆を持っていたずらをしかけていることや原
告Aが「やめろ,やめろ」と周囲に聞こえるような声で制止したことを認識し
ていない。なお,本件事故当時,Gは着席していた。
    (キ) 授業中の事故であっても,授業そのものが危険を伴わない場合は,具体的
な事故の危険があり,教師がそれを予見し得たときに,児童に対する監督
義務が生ずると解するのが相当であるところ,本件事故は,正規の授業で
ない「帰りの会」における事故であり,より具体的な予見可能性が要求され
る。
  (2) 被告南アルプス市の責任について
   ア 原告らの主張
   (ア) H教諭は本件事故当時,K村の公務員であり,その職務を行うについて過失
があったのであるから,国家賠償法1条又は民法715条に基づく損害賠償
責任がある。
   (イ) K村は,D小学校を設置したものとしてこれを管理運営する立場にあり,就
学・通学している児童の安全に配慮する義務を負い,登校から下校までの
間,児童らに不測の事故が生ずることがないよう努める責任があるから,
天変地異のような不可抗力や文房具の不慮の破損等による事故などの予
見可能性・結果回避可能性がない事故以外については,原則として学校設
置者に安全配慮義務違反が認められるところ,本件事故は授業中に発生
したものであるから,H教諭の過失の有無にかかわらず安全配慮義務違反
がある。
   イ 被告南アルプス市の主張
     被告南アルプス市の責任については争う。
  (3) 被告Eらの責任について
   ア 原告らの主張
     Gは,本件事故当時,満10歳であり,本件事故における違法行為について自己
の責任を弁識するに足る知能を備えていなかったのであるから,Gの親権者
であり監督すべき義務を負っていた被告Eらは,原告らに対し,民法714条1
項に基づく責任を負う。
   イ 補助参加人の主張
   (ア)本件事故は,D小学校の「帰りの会」の最中に発生したものであり,Gは代理
監督義務者であるH教諭の監督下にあったので
      あるから,親権者であった被告Eらは監督義務を怠らなかったものとして民法
714条1項の責任は免れる。
   (イ)Gはクラスに複数存在する活発でほかの生徒にいたずらをしかける児童の一
人にすぎなかったのであり,特別他害のおそれある児童であったとか,本
件事故当日加害行為に出ることが予見可能であったというような事情はな
いから,親権者であった被告Eらに監督義務違反はない。
  (4)損害
   ア 原告らの主張
    
   (ア)原告Aは,本件事故により左目が失明同然となり,これは後遺障害8級に相当
する。
   (イ) 原告Aは,平成11年3月20日まで入院して治療を受け,その後も断続的に
リハビリテーションや精神的ショックの治療のため通院を続けている。
   (ウ)原告Aの損害(合計6843万3688円)
     a 入院付添看護料 11万4000円(6000円×19日)
     b 入院雑費 2万4700円(1300円×19日)
     c 後遺症による逸失利益 5390万4988円
      689万2300円(賃金センサス大卒全年齢平均賃金)×0.45(後遺障害8級
の労働能力喪失率)×(26.5952[67歳までのホフマン係数]-9.21
51[22歳までのホフマン係数])
     d 後遺症による慰謝料 819万円
     e 弁護士費用 620万円
   (エ)原告B及び原告Cの損害(合計各165万円)
     a 慰謝料 各150万円
     b 弁護士費用 各15万円
     なお,原告らは,日本体育・学校保険センターから,何ら給付を受けていない。
   イ 被告らの主張
     原告ら主張の損害は争う。
第3 当裁判所の判断
 1 上記争いのない事実等に証拠(甲6ないし8,乙3,証人Hの証言と各項目掲記の
もの)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
  
 (1)Gの性格,素行
    Gは,明るく活発な児童であったが,すぐにかっとしたり,友達に手を出したりする
といった性格及び素行上問題のあることが,1,2年生時の担任教諭や,週に3
回理科の授業を担当していたJ教諭,そして,本件当時の担任教諭であったH教
諭において把握されていた。H教諭は,Gの前担任から,Gについていろいろな
事情があって大変な子である旨の申し送りを受けていた上,3年生時にGの担
任となった以降,自身においてもGには情緒不安定で短気なところがあり,かっ
とすると友達に手を出すこともあるといった暴力的素行を有することを認識し,G
本人に対して,日頃から注意,指導をしていたほか,その保護者である被告Eら
にも授業態度や友達関係について話をすることがあった。本件事故に至るまで
の間にも,Gは,他の児童が隣を通ったときに体をつついたり,頭をたたいたりと
いった行動に出たり,消しゴムや丸めたプリントを投げたりするといった暴力的な
行動に出ることも何回かあったため,その都度H教諭は注意をし,校長や教頭に
報告をすることもあった(乙4,7)。
 
 (2)原告AとGとの友達関係
    原告AとGは,4年生の1学期には非常に仲が良く,夏休みには原告AがGの家に
泊まりに行くなどしたこともあったが,2学期に入ったころから,次第に一緒に行
動することが少なくなっていき,2学期の後半には,原告AはGとの友達関係がう
まくいかないといったことで悩んでいる様子もみられたが,原告AがH教諭に対し
て直接詳しく事情を話すことはなかった。2学期の後半以降は,Gが言葉や態度
でちょっかいを出しても,原告Aは,言い返しもやり返しもしないということがみら
れ,H教諭が間に入って止め,Gに注意をすることもしばしばあった。
    平成11年2月の雪合戦においては,Gが原告Aを集中的に狙うようにし,その投
げた雪が原告Aの顔面に当たり,ほおを怪我させるといったこともあり,H教諭は
その際にもGを注意した。
    同年2月15日,H教諭が原告Cと電話で話をした際及び翌16日,原告Cと面談を
した際には,原告Cは,原告AがGからいじめられているのではないかとの相談
をし,H教諭から,Gの両親に連絡をするということになった。しかし,H教諭は数
度電話連絡を試みたものの,Gの両親に連絡を取ることができず,結局話をしな
いままとなっていた。
  
 (3)本件事故当時の状況
    平成11年3月2日,インフルエンザが流行していたため,4年L組においても,39
人の児童のうち,9人が欠席していた。当時の原告Aの席は前から2列目の真ん
中寄りで,黒板に向かって一つ席を挟んで左側にGの席があった。当日,原告A
の右隣の席(約1メートルの通路を隔てる位置にある。)の児童は欠席をしてい
た(乙1)。「帰りの会」の最中,Gが落ち着かない行動をしていたことから,H教諭
は,Gが席を移れば落ち着くことを約束させて,原告Aの右隣の欠席者の席に移
動することを許可した。「帰りの会」において,H教諭は,児童に背を向ける態勢
で,黒板に連絡事項を板書した後,児童らの注文に応じて配布することとなって
いた裁縫道具を各児童に配るため,児童の名前を呼び上げながら,教壇の脇に
置いた段ボール箱内から裁縫道具を取り出しては手渡す作業をしていた。
    このころ,Gは,鉛筆を持って,原告Aに向かって投げるふりを数回していたが,こ
れに対して原告Aは,席に座ったまま,やめろ,といった返答をしていた。H教諭
は,裁縫道具の配布に気を取られて,Gと原告Aの状況を把握していなかった。
その後,本件事故が起こったが,H教諭は,すぐには気付かず,裁縫道具を配
布するため原告Aを呼んだ際に,取りに来た原告Aが泣いているのを見て事情を
聞き,はじめて本件事故の内容を確認し,帰りの支度を済ませた原告Aに保健
室に行くよう伝えた。
  
 (4)本件事故後の状況
    本件事故後,原告Aは左目の治療のため,K病院において手術を受け,同年3月
2日から3月20日までの間,入院し,その後も通院加療を受けた。原告Aは,事
案の概要記載のとおりの傷害を負い,左目の視力は0.01とほとんど見えてい
ない状態である(甲1,甲2の1ないし3)。
 2 そこで,上記認定事実に基づき,H教諭の過失の有無,被告南アルプス市及び被
告E,同Fの責任につき順次検討する。
 
 (1)H教諭の過失の有無について
    H教諭は,4年L組の担任教諭として,担当クラスの児童の生命身体の安全につ
いて配慮し,各児童に対する一般的抽象的な注意や指導をするのみならず,児
童一人一人の性格や素行に注目し,特にほかの児童に危害を加えるおそれの
ある児童について十分な指導と配慮をすべき注意義務が課せられていたと解さ
れる。本件当時,H教諭は,D小学校教育課程や職員会議等に沿い,児童に一
般的な安全指導を行っていたほか,消しゴムやプリントを投げるなどの問題行動
がみられる児童に対しては,個別にその危険性について話をするなどの指導を
していたことが認められるところ,Gについては,Gの前任の担任教諭から引継
ぎを受け,あるいは,自らが3,4年生の担任教諭として接する中で,その有して
いる問題点を把握し,暴力をふるわないことや物を人に向かって投げないなどの
事項について日頃から個別に指導をしていたことが認められる。
    本件事故の当日は,Gの行動が落ち着かず,席の移動をすることで落ち着くこと
を約束させてGの席の移動を許可したという経緯が認められ,そのこと自体から
も,本件当時のGの行動には十分な注意が必要であったことに加え,H教諭は,
9人の児童が欠席し,空席が他にもあったにもかかわらず,友達関係に何らか
の問題を有していた原告AとGを,通路を隔てていたとはいえ,あえて隣の席に
座らせてもいる。原告AとGは,4年生の前半において仲が良かった事実は認め
られるものの,2学期に入って以降,本件事故に至るまでのころには,活発なG
から,原告Aが一方的にちょっかいを出され,そのことにつき,原告Aが何らかの
悩みを有していたことが認められるのであるし,原告Cにおいては,本件事故の
約半月前の2月15日,16日に,原告AがGからいじめられているのではないか
との疑いをもってH教諭に相談をし,H教諭もこれに対してはGの両親に話をす
る旨述べていたのである。上記状況に照らしてみると,「帰りの会」において,G
が原告Aと一緒になってふざけ合っていたとは到底考えられず,Gが,一方的に
原告Aに対して,鉛筆を投げるといった行為に及んだものと認められる。そして,
「帰りの会」は,担任教諭が,児童らの面前で連絡事項を行うなどの形態で行わ
れているものであるが,通常授業と比べて,児童が解放的な気分になりやすい
状況であるともいえることから,担任教諭には,児童らの動静について,正規授
業と同程度かそれ以上に安全に配慮すべき注意義務が要求されていたものと
解するのが相当である。
    上記認定事実及び諸事情に照らせば,本件事故当時,H教諭は,日頃から問題
行動のみられたGが,「帰りの会」の最中,落ち着かない様子であったことを認識
していたのであるから,友達関係に問題の生じていた原告Aの近くに座らせれ
ば,何らかの危険を伴う行動に出るかも知れないことは,通常予見し得ることで
あったといわざるを得ない。しかして,H教諭が,児童らに裁縫道具を配ることに
注意を奪われ,Gと原告Aの動静に対する注意を怠り,Gが鉛筆を持って原告A
にいたずらをしかけていることや原告Aがやめろと声を出して抵抗していた様子
に気付かずに,本件事故に至った点については,児童の安全について配慮すべ
き注意義務及び問題行動のみられる児童に対して指導をし,配慮すべき注意義
務を怠った過失があったと認められる。
  
  (2)被告南アルプス市の責任
    K村は,D小学校を設置したものとしてこれを管理運営する立場にあり,H教諭
は,本件事故当時,公務員としてK村から服務の監督を受けて教育活動に従事
していたのであるから,これは,国家賠償法にいう公権力の行使に当たる。本件
事故は,H教諭がその職務を行うについて,前記の注意義務を怠った過失があ
ったことによるのであるから,K村の承継人である被告南アルプス市には国家賠
償法1条に基づく損害賠償責任がある。
  
  (3)被告Eらの責任
    自己の行為についてその責任を弁識する能力を備えていない児童が不法行為を
行った場合,親権者が,その全生活について監督義務を負うというべきである。
本件についてみるに,Gは,本件事故当時,満10歳であり,本件事故における
違法行為について自己の責任を弁識する能力を備えていなかったと認められる
のであるから,Gの親権者であった被告E,被告Fにおいて,民法714条1項に
基づき,損害を賠償すべき義務を負うものと解される。
    なお,被告Eら及び補助参加人は,本件事故は,D小学校の「帰りの会」において
生じたものであり,担任教諭であるH教諭という代理監督義務者の指導監督の
下に置かれていたから,親権者の責任は免除されるなどと主張している。
    しかし,児童が加害行為を行った際,小学校教育のために担任教諭等の指導監
督の下に置かれ,代理監督義務者がその責任を負うとしても,そのことによって
親権者の責任が当然に免除されることにはならない。また,本件では,Gは,短
気な性格で,友達をたたいたり,物を投げつけたりするといった問題行動が日頃
からみられたため,H教諭が個別指導を繰り返していたことや,保護者である被
告Eらとのやり取りにおいて,授業中の態度や友達関係について話をしていたこ
とも窺われるのであるから,本件事故が学校教育の場において生じたことをもっ
て,被告Eらが自らの監督義務を怠らなかったと認めることは到底できない。
    したがって,本件事故につき,被告Eらは,原告Aに対し,民法714条1項に基づ
く責任を負うものと解するのが相当である。
  
  (4)損害
   ア 上記認定のとおり,原告Aの左目は,視力が0.01であり,ほとんど見えない状
態であり,これは,労働者災害補償保険法施行規則別表第1の定める障害
(後遺障害)等級の第8級に相当すること,原告Aは,同年3月2日から3月20
日までの間,19日間にわたり入院したことが認められる。
   イ 原告Aの損害
     原告Aに生じた損害は,以下のとおりと認められる。
   
   (ア)入院付添看護料       11万4000円
     (1日当たり6000円×19日)
   
   (イ)入院雑費           2万4700円
     (1日当たり1300円×19日)
   
   (ウ)後遺症による逸失利益  3152万4866円 
      原告Aは,後遺障害8級の障害を負い,これにより労働能力の45パーセント
相当を喪失したと認められる。本件当時,原告Aが10歳の少年であり,18
歳から67歳までの就労が可能と見込まれることから,本件事故の前年で
ある平成10年の賃金センサス第1巻第1表・男性労働者学歴計全年齢平
均年収額(569万6800円)を基礎収入とし,ライプニッツ係数により年5分
の割合による中間利息を控除して以下のとおり算定した上記の金額が相
当である。
      なお,原告らは,逸失利益の算定につき,大卒全年齢平均賃金を基礎として
損害の算定を行うべきものと主張するが,本件事故当時原告Aが10歳の
小学生であり,大学卒業の蓋然性があることを認めるに足りる証拠はない
ことに鑑みれば,算定の基礎は,男性全労働者の平均年収によるべきであ
る。
     569万6800円×0.45×(18.7605[67歳まで57年のライプニッツ係数]
-6.4632[18歳まで8年のライプニッツ係数])
   
   (エ)後遺症による慰謝料    819万円
      原告Aの負った後遺障害によれば,上記が相当と認められる。
   
   (オ)弁護士費用        398万円
      上記(ア)ないし(エ)の損害額の合計は3985万3566円であり,その1割に
相当する額が,被告らの不法行為と相当因果関係に立つ損害と認められ
るので,弁護士費用については上記の額が相当である。
   
   (カ)上記(ア)ないし(オ)の総合計は,4383万3566円となる。
   ウ 原告B,原告Cの損害
     本件事故により,原告Aは前記のとおり後遺障害8級に相当する障害を負った
ことが認められ,これにつき,原告B及び原告Cは,近親者固有の慰謝料が
認められる旨主張する。しかし,上記のとおり,原告A本人の慰謝料請求が認
められるのは別として,本件事故において,生命侵害の場合にも比肩し得べ
き精神上の苦痛が生じたとまでは認めがたいから,近親者固有の慰謝料を認
めることが相当とはいえない。
 3 よって,原告らの請求は,被告らに対し,4383万3566円及びこれに対する平成
11年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度
で理由があるが,その余の請求はいずれも理由がない。
甲府地方裁判所民事部
裁判長裁判官   新    堀    亮    一
裁判官   倉    地    康    弘
裁判官   青    木    美    佳

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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経験不問です。

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写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
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