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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、
二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を
求めた。
 第一、 被控訴人の主張
 (一) 請求原因
 (1) 訴外Aは、控訴人が訴外株式会社大阪銀行尾道支店に対し負担していた
債務につき、その保証人として控訴人のため昭和二十四年二月二十四日金四十万二
千三百二十五円を右訴外会社に支払い、その結果右同額の求償債権を控訴人に対し
有するに至つたところ、その後昭和二十五年三月十四日金三万円、同年十一月十六
日金二万円を控訴人より弁済を受けたので、その残額金三十五万二千三百二十五円
の求償債権を有するものである。またAは昭和二十四年五月四日控訴人に対し金一
万円を貸与した。そして右求償債権及び貸金債権については、いずれも利息及び弁
済期の定めはなかつたものである。
 (2) 右Aは、昭和二十五年度所得税(課税年度昭和二十二年度)金八百六十
八万五千六十二円利子税延滞加算税督促手数料、昭和二十五年度所得税(課税年度
昭和二十三年度)金千百三十八万三千二十三円利子税延滞加算税督促手数料、昭和
二十五年度贈与税金二万五千二百六十九円利子税延滞加算税、昭和二十五年度再評
価税金二万七千百二十円利子税延滞加算税を滞納したので、広島国税局長収税官吏
大蔵事務官BはAに対する滞納処分として国税徴収法第二十三条の一第一項に基き
昭和二十八年十月二十九日Aの控訴人に対する前示求償債権及び貸金債権の差押を
なし、同日債務者たる控訴人に対し右差押を通知し、且つ同日前示法条第二項の規
定により滞納者Aに代位して、控訴人に対し同年十一月六日までに右債務を支払う
よう催告した。
 (3) しかるに、控訴人はこれに応ぜず、またAも前示滞納税金を納付しな
い。よつて被控訴人は控訴人に対し前示債権合計金三十六万二千三百二十五円の支
払を求めるため本訴に及んだのである。
 (二) 控訴人の答弁に対し
 本件債権について、控訴人主張の如き弁済に関する特約の存する事実は否認す
る。控訴会社は訴外Aのいわゆる同族会社であり、また乙第一号証の契約書には確
定日附が存しないのであるから、被控訴人が前になした昭和二十五年十二月十二日
の差押以後Aと控訴人との間で勝手に日附を遡らせて乙第一号証の如き書面を作成
することは通常容易に行いうることであつて、右乙号証の記載の信憑力は極めて薄
弱であるといわざるを得ない。更に、前示の通り、控訴人は右乙第一号証の日附の
後である昭和二十五年三月十四日及び同年十一月十六日の二回に金五万円をAに対
し支払つているが、当時被告会社に利益がなかつたのであるから、右乙第一号証の
記載の信用し難いことは明らかであつて、控訴人の主張は失当である。
 (三) 訴の変更の抗弁に対し
 被控訴人は原審以来、第一次的にAの控訴人に対する貸金債権の支払を求め、第
二次的に、若し右債権が控訴人主張の如き求償債権であるとするならば、その求償
債権を目的として右当事者間に準消費貸借が成立したものであることを主張して来
たのであるが、当審において請求原因を変更して控訴人主張の如き求償債権金三十
五万二千三百二十五円及び貸金債権金一万円合計金三十六万二千三百二十五円の支
払を求めるものであるから、訴訟物たる債権の発生日時、金額等に何等の変更もな
く、右訴の変更は請求の基礎の変更を伴わないものである。また、被控訴人は、控
訴人の主張する事実に基いて、右訴の変更をなしたのであるから、控訴人はその事
実を否認できない筈であつて、右訴の変更により訴訟手続を遅延せしめるものでは
ない。
 従つて、右訴の変更は適法として許さるべきものである。
 第二、 控訴人の主張
 (一) 訴の変更に対し
 (1) 被控訴人は原審以来、訴外Aが控訴人に対して金三十六万二千三百二十
五円の貸金債権を有するものとなし、同訴外人に対する滞納処分として昭和二十五
年十二月十二日右債権を差押え、同訴外人に代位して控訴人に右債権の支払を求め
ると主張して来たところ当審においてその請求原因を変更して、同訴外人が控訴人
に対し金三十五万二千三百二十五円の求償債権及び金一万円の貸金債権合計金三十
六万二千三百二十五円の債権を有するものとなし、昭和二十八年十月二十九日右債
権を差押え、Aに代位して右債権の支払を求めるに至つたものである。しかしなが
ら、貸金債権と求償債権とはその本質を異にし、且つ被控訴人の代位権の発生原因
も異にするものであるから、右訴の変更は請求の基礎に変更を来たすものであつ
て、許すべからざるものである。
 (2) 被控訴人は、原審以来請求して来た貸金債権の不存在を認めて、その差
押を昭和二十八年十月解除したから、右債権に対する被控訴人の代位権はこれがた
めに消滅し、従つて右債権の支払を求める旧訴もまた不適法の訴として却下せらる
べきものである。
 (二) 答弁
 (1) 被控訴人主張事実中、被控訴人が訴外Aの租税滞納を理由として、被控
訴人主張の日時その主張の如き債権の差押をなし、控訴人に対しその通知並びに右
債権の支払方の催告をした事実は認めるがAの滞納税額は争う。
 (2) 控訴人は昭和二十四年二月二十四日現在で訴外株式会社大阪銀行尾道支
店に対し控訴人の振出にかかる手形債務合計金四十万五千円を負担し、Aにおいて
右債務の保証をなし同人の同銀行に対する預金を担保としていたところ、同銀行は
同日Aの預金から右手形債務と差引勘定して決済したので、Aは控訴人に対し右同
額の求債権を有することになつたものである。
 (3) 控訴会社はAの同族会社ともいうべき関係にあるので、前示の通りAは
控訴会社の営業を援助するために、自己の預金を担保として手形保証をなしたもの
であつて、同人はかねて控訴会社に対し投資し又は出資したものは無利息とし、控
訴会社の利益のあるとき支払つて呉れればよい、若し支払のできぬときは控訴会社
の為なら債権を抛棄してもよいと言つていたのである。
 そこで前記の通り、昭和二十四年二月二十四日前記銀行に手形債務を弁済した
際、Aはこの平素の誓約を書面化して、控訴会社に対する債権は控訴会社に利益の
あるまで支払わなくてもよい。また無利息とする旨特約した。しかるに、その後控
訴会社には利益がないから、本件債権は未だ弁済期が到来せず、控訴会社において
これを支払う義務はない。
 証拠として
 被控訴代理人は甲第一、第二号証の各一、二、三第三号証の一、二第四号証の一
から五まで、第五、第六号証の各一、二第七号証の一、二、三第八、第九号証、第
十号証の一、二、三、四第十一号証の一、二第十二号証第十三号証の一から五まで
を提出し、原審証人C、原審及び当審証人Dの各証言を援用し、乙第一号証の成立
は不知、その他の乙各号証の成立を認めると述べた。
 控訴代理人は、乙第一号証から第五号証までを提出し、原審証人E、A、当審証
人Fの各証言及び原審における控訴会社代表者G本人訊問の結果を援用し、甲各号
証の成立を認めた。
         理    由
 先ず被控訴人のなした訴の変更が許さるべきものであるかどうかについて判断す
る。
 原審において、被控訴人は本訴の請求原因として、訴外Aは控訴人に対し昭和二
十五年十二月十二日現在金三十六万二千三百二十五円の貸金債権を有していたとこ
ろ、被控訴人はAに対する租税滞納処分として同日右債権を差押えたから、同人に
代位して控訴人に対し右金額の支払を求める旨主張したのであるが、これに対し控
訴人はAの控訴人に対する債権は求償債権である旨争つたので、被控訴人は、予備
的に、被控訴人の差押にかかる債権は控訴人主張の如き求償債権を目的としてAと
控訴人との間に成立した準消費貸借に基く債権であると主張し、更に被控訴人は、
当審の昭和二十八年十一月九日の口頭弁論期日において、Aは控訴人に対し貸金債
権金一万円及び控訴人主張の如き求償債権金三十五万二千三百二十五円の債権を有
していたところ、被控訴人は同人に対する租税滞納処分として昭和二十八年十月二
十九日右各債権を差押えたから、同人に代位して控訴人に対し右金額の支払を求め
る旨主張して訴を変更するに至つたものである。すなわち、被控訴人は、控訴会社
の帳簿上Aよりの借入金三十六万二千三百二十五円と記載せられている債権を目し
て先ず貸金債権と主張し、次に控訴人主張の如き求償債権を目的とする準消費貸借
に基く債権であるとなし最後に当審においてこれを求償債権金三十五万二千三百二
十五円及び貸金債権金一万円であると主張するに至つたものであるから、右訴の変
更の前後を通じて本訴の目的とせられたものは実質的に同一の権利関係であること
は明らかである。従つて、右訴の変更は請求の基礎に変更を及ぼさないものといわ
ねばな<要旨>らぬ。なお、被控訴人は、Aの控訴人に対する債権を代位行使する根
拠として、最初は前示貸金債権を昭和二十五年十二月十二日差押えた旨主張
し、次に前示求償債権及び貸金債権を昭和二十八年十月二十九日差押えた旨主張す
るのであるが、その代位権の如きは、被控訴人において宮地に代つて債権の支払を
求め或は訴訟を追行し得る権能の基礎であるのに止まり、本訴の請求原因をなすも
のではないから、前記訴訟物の変更が請求の基礎の変更を伴わないものである以
上、被控訴人がその代位権の発生原因につきその主張を変更してもそれのみでは訴
の変更とならず、従つて本訴の請求の基礎に何等の影響も及ぼすものではない。
 次に、被控訴人は、控訴人の主張を援用して請求原因を変更したものであるか
ら、右変更により控訴人の防禦を困難ならしめるものでなく、また、当事者双方は
従来の証拠資料をそのまま利用し得るのであるから、本件訴訟手続を著しく遅滞せ
しめるものでないことは明白である。
 よつて、被控訴人のなした前記訴の変更は適法としてこれを許すべきものであつ
て、控訴人の抗弁は理由がない。
 そこで、進んで本案について判断する。
 成立に争のない甲第一号証の二、三甲第二号証の三甲第三号証の二甲第四号証の
三、五甲第五号証の二甲第六号証の二甲第七号証の二、三甲第八、第九号証甲第十
三号証の一から五まで、乙第二号証、原審証人C、原審及び当審証人Dの各証言並
びに弁論の全趣旨を綜合すれば、訴外Aは、控訴人が訴外株式会社大阪銀行尾道支
店に対し負担していた手形債務につき、その保証人として控訴人のため昭和二十四
年二月二十四日金四十万二千三百二十五円を同銀行に支払い、その結果右同額の求
償債権を控訴人に対し有するに至つたところ、その後昭和二十五年三月十四日金三
万円、同年十一月十六日金二万円を控訴人より弁済を受けたので、その残額は金三
十五万二千三百二十五円となつたこと、Aは昭和二十四年五月四日控訴人に対し金
一万円を貸与したこと、右求償債権及び貸金債権については、いずれも利息及び弁
済期の定めのなかつたこと、並びにAは被控訴人主張の通りの税金を滞納し、現在
までその支払をしないことを認めることができる。
 そして、広島国税局長収税官吏大蔵事務官BはAに対する滞納処分として昭和二
十八年十月二十九日同人の控訴人に対する前示求償債権及び貸金債権の差押をな
し、同日債務者たる控訴人に対し右差押を通知すると共に同人に代位して控訴人に
対し同年十一月六日までに右債務を支払うよう催告したことは当事者間に争がな
い。
 ところで、控訴人は、昭和二十四年二月二十四日控訴人とAとの間に、同人の控
訴会社に対する債権は控訴会社に利益のあるまで支払わなくてよい旨の特約が成立
しているから、前示差押にかかる各債権は未だ弁済期が到来しない旨抗争するの
で、この点について判断する。
 なるほど、昭和二十四年二月二十四日附の乙第一号証の契約書には右主張事実に
符合する記載がある。しかし、成立に争のない甲第十一号証の一、二甲第十二号
証、乙第三号証、原審証人C、E、原審及び当審証人Dの各証言を綜合すれば、被
控訴人は昭和二十五年十二月十二日Aの前示滞納租税に対する滞納処分として同人
の控訴人に対する貸金債権金三十六万二千三百二十五円の差押をなし、同日控訴人
に対し右差押の通知をすると共に右債務の支払方を催告したこと、控訴会社はAが
取締役としてその実権を持つている同人の同族会社の如きものであるから、右差押
による支払を回避する目的で右差押後に確定日附のない乙第一号証の如き契約書を
勝手に日附を遡らせて作成することは極めて容易であること、昭和二十五年十二月
中旬頃大蔵事務官Dが広島国税局長の命により控訴会社に赴きAの控訴会社に対す
る債権につき調査し特にその弁済期について質問した際、右乙第一号証の書面を示
されたことはなく、また控訴会社の会計の帳簿関係の事務に当つていたEも右Dの
調査のあつた後に初めて右書面を見たものであることを認めることができる。この
事実と前に認定した通り、乙第一号証の日附の後である昭和二十五年三月十四日及
び同年十一月十六日の二回に控訴人がAに対し金五万円を支払つているが、その当
時控訴会社には利益がなかつたとの控訴人の自認する事実とを合わせて考えると、
前記乙第一号証の契約書は前示差押の後、右差押による支払を回避するのみの目的
で作成せられた疑が多分に存するから、同号証の記載は遽に措信できない、また原
審証人E、A、当審証人Fの各証言並びに原審における控訴会社代表者本人訊問の
結果中控訴人の右主張に副う部分は容易に信用し難く、他に右主張事実を認めるに
足る証拠は存在しない。しからば、国税徴収法第二十三条の一第二項に基き、Aに
代位して控訴人に対し前示求償債権及び貸金債権合計金三十六万二千三百二十五円
の支払を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきものである。
 よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴
訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
 (裁判長判事 植山日二 判事 佐伯欽治 判事 松本冬樹)

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