弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人が,平成12年3月14日付けでした控訴人の平成6年分の所得税
についての更正処分,平成8年分の所得税についての更正処分(ただし,平成12年
4月26日付けでした再更正処分により減額された後のもの)及び平成10年分の所。
得税についての更正処分のうち,それぞれ原判決別紙「確定申告」欄記載の確定申告
額を超える部分,平成12年4月26日付けでした,平成7年分の所得税についての
再更正処分,平成9年分の所得税についての再更正処分及び平成11年分の所得税に
ついての更正処分のうち,それぞれ同別紙「確定申告」欄記載の確定申告額を超える
部分,並びに上記各処分と同日付けでした控訴人の平成6年分ないし平成11年分の
所得税についての各過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
2被控訴人
控訴棄却
第2事案の概要
,()1控訴人は平成6年10月から平成11年5月まで在日アメリカ合衆国米国
大使館に政治部の政治顧問として勤務していたが,平成6年分から平成11年分まで
(本件各係争年分)の所得税の申告に際して,平成6年分については,米国大使館か
らの給与分につき申告をせず,平成7年分ないし平成11年分については,実際額の
375%ないし566%の金額を給与等の収入金額から除外して原判決別紙確..,「
定申告」欄記載のとおり,確定申告をした。被控訴人は,平成12年3月14日付け
で,同別紙「更正処分等」欄記載のとおり,平成6年分ないし平成10年分の所得税
につき,それぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をし,同年4月26日付
けで,同別紙「再更正処分等」欄記載のとおり,平成7年分ないし平成9年分の所得
税につき,それぞれ再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,平成8年
分及び9年分)をするとともに,同別紙「更正処分等」欄記載のとおり,平成11年
分の所得税につき,更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした(以下,本件各
係争年分の更正処分ないし再更正処分を「本件各更正処分等」といい,各過少申告加
算税賦課決定処分を「本件各賦課決定」といい,これを併せて「本件各処分」という
ことがある。。)
本件は,控訴人が,①米国大使館には源泉徴収義務があり,控訴人には申告義務が
ないから,本件各処分は違法である,②米国大使館からの給与には通勤手当及び住宅
手当が含まれており,この部分は非課税というべきであるから,本件各処分は違法で
ある,③平成6年分及び平成7年分についての本件各処分は,法定申告期限から3年
を経過した後にされたものであり,本件においては,国税通則法(通則法)70条5
「」,,項の定める偽りその他不正の行為があったとはいえないから同項の適用はなく
平成6年分及び平成7年分についての本件各処分は違法であると主張して,本件各更
正処分等のうち確定申告額を超える部分並びに本件各賦課決定の取消しを求めた事案
である。
原判決は,①米国は,米国大使館における現地職員への給与の支払に際し,源泉徴
収義務が免除されていると解するのが相当であるから,控訴人には申告義務がある,
,,②通勤手当相当額については本件各処分において既に非課税として扱われているし
,,住宅手当については金銭による支給の場合には所得税法9条1項6号の適用はなく
非課税とはされない,③控訴人は,平成6年分及び平成7年分の各申告につき,米国
大使館から支給された給与の全額につき申告義務があることを十分認識した上で,そ
の全額について申告した場合との差額の支払を免れる意図で,あえて実際の給与額よ
りも少ない金額を記載した確定申告書を提出したものであるから,通則法70条5項
の定める「偽りその他不正の行為」に該当するとして,控訴人の請求をいずれも棄却
した。これに対して,控訴人が不服を申し立てたものである。
2以上のほかの事案の概要は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由
欄第2(2頁以下)記載のとおりであるから,これを引用する。
(控訴人の当審における主張)
(1)米国の源泉徴収義務について
所得税法183条1項は,居住者に対し国内において給与等の支払をする者に源泉
徴収義務を課しており,所得税基本通達121−5は「国際慣例により源泉徴収をす
る義務がないものとされる在日大公使館又は在日外交官から給与等又は退職手当等の
支払を受ける居住者」として,国際慣例がある場合に限り例外的に源泉徴収義務を否
定しているのである。そして,源泉徴収を行っている在日大使館もあること,外交関
係に関するウィーン条約上も源泉徴収義務を否定するような規定をおいていないこと
からすれば,米国大使館の源泉徴収義務を否定する国際慣習法は存在しない。原判決
は,大使館の現地職員に対する給与支払が何故主権的行為であるか判断を示していな
いし,乙2の鑑定意見書も米国大使館が免責特権を行使せずに任意に源泉徴収を行う
ことを否定するものではない。
(2)住宅手当の非課税について
原判決は,住宅手当については金銭支給の場合には非課税とならない旨をいう。し
かし,控訴人は,その職務の性質上,何時でも米国大使館に出勤できる態勢を整えて
置かなければならず,大使館所在地に近接する住居に居住することを命じられていた
ものである。そして,本件における金銭支給は,米国政府の方針で住宅を借り上げる
ことができないため,その賃料に充てるための住宅手当を支給することとしたもので
あり,実質的には,所得税法施行令21条4号にいう「職務の遂行上やむを得ない必
要に基づき使用者から指定された場所に居住すべきものがその指定する場所に居住す
るために家屋の貸与を受けることによる利益」に該当するというべきである。
(3)通則法70条5項の適用について
米国大使館における職員の税務申告に関する慣行は,日米税務当局同士での了解に
基づくものと考えるのが自然である。控訴人は,所得税の確定申告に関しては,米国
大使館の慣例に従っただけであり,税金を不当に安くするために不当な申告をすると
いう認識はなかった。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次に記
載するほか,原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。
(控訴人の当審における主張について)
(1)米国の源泉徴収義務について
控訴人は,所得税基本通達121−5の規定をもって,例外的な国際慣例がなけれ
ば米国が源泉徴収義務を負うというべきであり,また,米国大使館が任意に源泉徴収
を行うことは可能であった旨を主張する。
しかしながら,主権国家相互間で国家が他の国家の課税権に服するのは条約その他
の合意がある場合に限られ,国家が他の主権国家に対して,一方的に課税権を行使す
ることは原則としてできないとするのが,国際法上の法原理というべきである。国内
法の規定によって当然に他の国家の納税義務が生ずるものではないし,上記基本通達
の規定をもって,例外的な国際慣例がない場合に他国が源泉徴収義務を負うことを法
が予定しているなどと解することもできない。そして,本件についてみても,大使館
の活動は外交活動という主権的行為であり,現地職員に対する給与の支給もそうした
外交活動を行うためにされるものであり,例外的にその旨の国家間の合意や国際慣例
がない限り,米国が源泉徴収義務を負うことはないというべきである。そして,米国
との間でそのような合意や国際慣例があると認めるに足りる証拠はない。また,現に
米国大使館において源泉徴収を行っていない以上,任意に行うことが可能であるか否
かによって,控訴人の申告義務についての結論が左右されるものではない。この点に
関する控訴人の主張は,採用することができない。
(2)住宅手当の非課税について
給与所得とは,勤労者が勤労者たる地位に基づいて使用者から受ける給付をいうも
。,,のである住宅手当も原則として給与所得に該当し課税の対象となるものであって
例外的に,職務の遂行上やむを得ない必要に基づき貸与を受ける家屋等の現物給付に
限って非課税とされるものである。職務の遂行上やむを得ない必要に基づき貸与を受
ける家屋とは,例えば,住み込みの使用人に提供した家屋又は部屋,看護婦,守衛等
に提供した家屋又は部屋等をいうものである。通常の社宅の提供などとは異なり,こ
うした家屋の提供は,主として使用者の便宜を目的として行われるものであり,使用
人等に対する経済的利益の提供という面を捨象することができるとして,非課税とさ
れている。
,,,控訴人は現物給付ではなく金銭としての住宅手当の支給であっても実質的には
現物給付と同視し得る旨を主張する。しかしながら,金銭による給付は,その実質が
仮に控訴人主張のようなものであったとしても,やはり勤労者に対する経済的利益の
提供という面を否定することはできない。それ故,これを例外的な現物給付の場合と
同視することはできないというべきである。この点に関する控訴人の主張もまた,採
用することができない。
(3)通則法70条5項の適用について
当事者間に争いのない事実に加え,原判決挙示の証拠及び弁論の全趣旨によれば,
原判決第2の1(3頁以下)記載の事実及び第3の3(2)イ(ア(22頁)記載の)
事実が認められる。そして,甲8の陳述書,原審における控訴人本人尋問の結果によ
,,(),()れば控訴人は上記アのような申告をした理由に関して原判決第3の32
イ(イ(22頁以下)記載のように説明していることが認められる。)
上記認定事実によれば,控訴人の平成6年分及び平成7年分の申告は,真実の所得
を隠ペいし,正当な税額の納付を回避する意図のもとに,米国大使館からの所得をこ
とさらに秘匿し,また,所得金額をことさら過少に記載して,内容虚偽の申告書を提
。,「」出したものというべきであるそれ故通則法70条5項の偽りその他不正の行為
に当たるというべきである。
上記認定事実のとおり,控訴人は,平成6年分については,米国大使館からの給与
所得分を全く申告していない。これについては,中途採用であるから申告不要である
との人事課職員の言葉を信じて申告しなかった旨を述べる部分がある。しかし,中途
採用の場合に申告不要であるなどというのは,一般的にみて根拠のある考えとはいい
難いにもかかわらず,控訴人は,その根拠を尋ねたり,調べたりしていない。控訴人
のこれまでの経歴等に照らしても,これを信じたとする控訴人の供述自体信用するこ
とができず,採用することができない。
また,控訴人は,平成7年分については,実際の給与額の約47%しか申告しなか
ったものであり,これについては,米国大使館からの支給額のうち,控訴人の前職に
おける収入と比較しながら住居費及び交際費を大雑把に見積もって控除した上で申告
した旨を述べている。甲8の陳述書には,大使館における給与の申告方法につき,基
本給部分を申告することになっている旨の説明を受けた旨が記載されているが,これ
は控訴人のした上記の申告方法とは合致していない。そして,原審における控訴人本
人尋問において,控訴人は,米国大使館の現地職員の給与所得の申告方法について指
導,説明を受けたことはない旨を供述しているのであり,このことに照らしても,上
記陳述書の記載は信用し難い。そうすると,控訴人は,平成7年分についても,日米
税務当局同士の了解に基づく何らかの基準や慣行に従って過少申告をしたものではな
く,自己の独自の判断で,根拠があるとはいい難い上記の所得除外をしたものといわ
ざるを得ない。
したがって,平成6年分及び平成7年分の過少申告は,本来納めるべき税額の納付
を回避する意図の下でされた「偽りその他不正の行為」に当たるというべきである。
控訴人は,米国大使館における慣例に従って申告をしたものにすぎない旨を主張す
るが,上記のとおり,控訴人が何らかの慣例ないし基準を信頼し,これに従って過少
申告をしたものと認めることはできない。この点に関する控訴人の主張は,採用する
ことができない。
2以上によれば,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由
がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第19民事部
裁判長裁判官淺生重機
裁判官及川憲夫
裁判官竹田光広

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