弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人武田弦介の上告趣意第一点及び第二点の一について。
 所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
そして、本件公訴事実が「被告人等は共謀して昭和二九年一月六日頃から同八日頃
までの間七回位漁船A丸及びB丸の両船に対する農林大臣の中型機船底曳網漁業許
可の区域の制限に違反して福岡県沖ノ島正北方を除く周辺十浬乃至十二浬の海域で
中型機船底曳網漁業を営んだ」というにあること記録上明白であるから、これによ
つて本件訴追にかかる罪となるべき事実を特定しているこというまでもない。され
ば、本件公訴の提起は、刑訴二五六条三項に違反しないとした原判決は正当であつ
て、刑訴四一一条一号を適用すべきものとは認められない。
 同第二点の二乃至五について。
 所論は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
しかし、職権をもつて調査すると、第一審判決の引用した本件漁業許可証二通によ
れば、本件両漁船に対し農林大臣の許可した操業区域として、許可証に、東径一三
〇度の線と最大高潮時海岸線上兵庫県京都府界から正北の線との両線間における山
口県、島根県、鳥取県及兵庫県沖合海面と記載されていることを認めることができ
る。原判決は、右の山口県、島根県、鳥取県及兵庫県沖合海面とあるのは、右各県
の行政権の及ぶ海域を指し右各県の沖合海面に限定する趣旨であると解する。しか
し、昭和二九年七月一二目附及び同年八月二七日附農林省水産庁の通牒、回答等に
徴すれば、右は広く前記両線間における一切の日本海海面中その海面に接する各県
の沖合海面を指し、前記各県名は、その沖合を示す都合上一応の 例示に過ぎない
もので、これに限定する趣旨でないと解するを相当とする。従つて、原判決は、こ
の点において解釈を誤つた違法があるものといわなければならない。そして、本件
操業地点が右の沖合海面であるとすれば(果してその海面であるか否かは、原審ま
での審理の状態では当裁判所に判明しない)、被告人等の所為は罪とならない筋合
であるから、原判決の右違法は、判決に影響を及ぼすこと明らかであつて、刑訴四
一一条一号により原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、爾余の論旨につき判断を省略し同四一三条本文により、裁判官全員一致
の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 宮崎三郎公判出席。
  昭和三二年一月三一日
     最高裁判所第一小法廷
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
 裁判長裁判官岩松三郎は退官につき署名押印することができない。
            裁判官    真   野       毅

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