弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成23年6月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10094号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年6月2日
判決
原告株式会社幸煎餅
同訴訟代理人弁理士村田幸雄
佐久間光夫
被告株式会社精華堂霰総本舗
主文
1特許庁が無効2010−890020号事件につい
て平成23年2月7日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,被告の下記1のとおりの本件商標に係る商標登録を無効にする
ことを求める原告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求は成り立たな
いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,
下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1本件商標(甲1の1の1・2)
本件商標(登録第4847925号商標)は,「江戸深川七福神」の漢字(標準
文字)を横書きしてなり,平成16年8月18日に登録出願され,第30類「菓
子」を指定商品として,平成17年3月18日に設定登録され,平成22年12月
13日に商標法51条1項により登録を取り消す旨の審決(取消2010−300
232号事件)確定により,平成23年1月7日,抹消登録がされたものである。
2特許庁における手続の経緯
原告は,平成22年3月16日,本件商標が,商標法4条1項7号,10号,1
1号,15号,16号及び19号に該当することをもって,無効審判を請求し,当
該請求は,同年4月6日に登録された。
特許庁は,これを無効2010−890020号事件として審理し,平成23年
2月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,同月17日
にその謄本が原告に送達された。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件商標は,①その構成自体において公序良俗を
害するおそれがあるものではなく,出願経緯が社会通念に照らして著しく妥当性を
欠き,公益を害すると評価し得るものでもないから,商標法4条1項7号に該当せ
ず,②原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識された商
標に類似する商標ということはできないから,同項10号に該当せず,③別紙引用
商標目録記載1ないし6の商標(甲1の2の1∼6。以下,順に「引用商標1」な
いし「引用商標6」といい,総称して「引用商標」という。)と類似するものでは
ないから,同項11号に該当せず,④原告の業務に係る商品と混同を生じるおそれ
があるものということはできないから,同項15号に該当せず,⑤特定の商品の品
質を表したものと認めることはできないから,同項16号に該当せず,⑥原告の業
務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識された商標に類似する商
標ということはできないから,同項19号に該当しない,というものである。
4取消事由
(1)商標法4条1項7号に係る判断の誤り(取消事由1)
(2)商標法4条1項10号に係る判断の誤り(取消事由2)
(3)商標法4条1項11号に係る判断の誤り(取消事由3)
(4)商標法4条1項15号に係る判断の誤り(取消事由4)
(5)商標法4条1項16号に係る判断の誤り(取消事由5)
(6)商標法4条1項19号に係る判断の誤り(取消事由6)
第3当事者の主張
1原告
原告は,取消事由として,以下のとおり主張する。
(1)取消事由1(商標法4条1項7号に係る判断の誤り)について
ア本件商標は,商標法51条1項に該当するものとして,既に取り消されてい
ることからすると,被告が本件商標について他人の業務に係る商品と混同を生ずる
行為を長年にわたり継続していたことは明らかである。本件商標の登録出願は,そ
のような不正な使用の継続を正当化しようとする目的に基づくものである。
イ被告は,商業道徳に反する商標の不正使用に引き続いて,原告の有する引用
商標と類似する本件商標の登録を得たものであるから,その商標の登録に至る出願
の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定
する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に当たるものである。
ウしたがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当するものである。
(2)取消事由2(商標法4条1項10号に係る判断の誤り)について
ア原告は,その商品(あられ)に,「七福神あられ」「七福神」「寿七福神あ
られ」等の多数の商標を使用しており,「七福神あられ」のみならず,「七福神」
についても,原告の業務に係る商品についての商標として需要者に周知であった。
イ本件商標の構成のうち,「江戸深川」「江戸」「深川」は,いずれも地理的
名称であり,識別力が弱く,独立して商品の出所識別標識としての機能を果たすも
のではない。したがって,本件商標からは,「江戸深川」の「七福神」の観念,
「江戸」の「深川七福神」の観念のほか,「七福神」の観念及び「シチフクジン」
の称呼が生じ得るものである。
原告の周知商標「七福神」も,「七福神」の観念及び「シチフクジン」の称呼を
有するから,両商標は観念及び称呼が同一であり,類似する商標というべきである。
ウしたがって,本件商標は,商標法4条1項10号に該当するものである。
(3)取消事由3(商標法4条1項11号に係る判断の誤り)について
ア本件商標は,「七福神」の観念及び「シチフクジン」の称呼をも生じ得るも
のであり,引用商標も,同様に,「七福神」の観念及び「シチフクジン」の称呼を
有するから,両商標は観念及び称呼が同一であり,類似する商標というべきである。
また,本件商標及び引用商標の指定商品は,いずれも類似するものである。
イしたがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当するものである。
(4)取消事由4(商標法4条1項15号に係る判断の誤り)について
ア「七福神」「七福神あられ」は,商品(あられ)についての原告の周知商標
であるところ,上記周知商標と本件商標とは,いずれも「七福神」の観念及び「シ
チフクジン」の称呼を有するものであって,類似する商標というべきである。
したがって,被告が本件商標をその指定商品について使用すると,需要者は,原
告が商品(あられ)等について使用する「七福神あられ」「七福神」との関係で,
商品やその出所について混同を生ずるおそれがあるものである。
イ以上からすると,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものである。
(5)取消事由5(商標法4条1項16号に係る判断の誤り)について
ア原告は,原料の米・生地・焼き方・包装方法などについて,厳格で高度な一
定の品質を確保しており,賞味期限も,他企業より短めに設定している。
原告が確保してきた高い品質に対して,これと異なる品質のあられについて,被
告が原告の周知商標である「七福神」「七福神あられ」と類似する本件商標を使用
することは,原告の商品の品質の誤認又はそのおそれを生じさせているものである。
イしたがって,本件商標は,商標法4条1項16号に該当するものである。
(6)取消事由6(商標法4条1項19号に係る判断の誤り)について
ア被告は,日本国内において需要者の間に広く認識されている原告の商標「七
福神あられ」「七福神」と類似する商標である本件商標を取得したものである。
イ取消事由1について先に指摘したとおり,原告の本件商標の登録に至る出願
の経緯には著しく社会的妥当性を欠くものがあるから,被告による本件商標の取得
が「不正の目的をもって使用するもの」であることは,明らかである。
ウしたがって,本件商標は,商標法4条1項19号に該当するものである。
2被告
被告は,適式の呼出しを受けながら,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その
他の準備書面も提出しない。
第4当裁判所の判断
1取消事由3(商標法4条1項11号に係る判断の誤り)について
原告は,本件審決の取消事由として,前記第3の1(1)ないし(6)のとおり,るる
主張するが,事案に鑑み,まず取消事由3から検討することとする。
(1)商標の類否判断
本件商標は,漢字で記載された「江戸」「深川」「七福神」(あるいは「江戸深
川」と「七福神」)とから構成されている,いわゆる結合商標であるところ,本件
審決が,本件商標を「江戸深川七福神」と一連一体のものとして看取した上で引用
商標と比較して,各商標の類否を判断したものであることは,別紙審決書(写し)
の理由から明らかである。
もとより,商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された
場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべき
であるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等
によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しか
も,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づい
て判断しなければならない(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月2
7日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構
成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分
的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,
この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則
として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は
役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,そ
れ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合な
どには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を
判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38
年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行
ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最
高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事
228号561頁参照)。
そこで,以上説示した見地から,本件商標と引用商標とがいずれも非類似である
と判断した本件審決の当否について検討することとする。
(2)本件商標と引用商標との類否
ア本件商標から生じる称呼及び観念について
本件商標は,「江戸深川七福神」の文字を横書きして成るものであり,各文字の
大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されて
いるものではあるが,「江戸」「深川」「七福神」の各文字部分をその構成部分と
するものであることは,視覚上,容易に認識することができるものである。
そして,本件商標の「江戸」の文字部分は,「東京の旧名。吉原・深川あたりで
内神田・日本橋辺を指していった称。」を意味する語,「深川」の文字部分は,
「北海道中央部の市。東京都江東区の一地区。」を意味する語,「七福神」の文字
部分は,「福徳をもたらす神として信仰される7体の神。大黒天,恵比寿,毘沙門
天,弁財天,福禄寿,寿老人,布袋。」を意味する語であるから(甲106の1の
1,甲107の1の1),本件商標の「江戸」「深川」の文字部分は,「七福神」
が所在する地域を意味する語にすぎないものである。
したがって,本件商標からは,「エドフカガワシチフクジン」という一連の称呼
が生じ,また,「江戸の深川地区」に所在する「七福神」といった観念が生じるこ
とは否定し得ないが,「江戸深川」の部分から「七福神」の部分と一連となった称
呼ないし観念が生じ得るとしても,それ自体で独立した,出所識別標識としての称
呼及び観念までは生じないというべきであって,本件商標の称呼ないし観念が「江
戸深川七福神」以外に生じる余地がないということはできない。
そうすると,本件商標からは,「江戸深川七福神」という当該商標の全体に対応
した称呼及び観念とは別に,「七福神」の部分に対応した「シチフクジン」の称呼
及び「福徳をもたらす神として信仰される7体の神。大黒天,恵比寿,毘沙門天,
弁財天,福禄寿,寿老人,布袋。」という観念も生じるといわざるを得ないのであ
って,本件商標と引用商標との類否判断に際して,本件商標から「七福神」の部分
を抽出することは当然に許されるべきものである。
イ引用商標3から生じる称呼及び観念について
他方,引用商標のうち,引用商標3についてみると,同商標は,「七福神」の文
字を横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全
体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものである。
そして,引用商標3は,「シチフクジン」の称呼及び「福徳をもたらす神として
信仰される7体の神。大黒天,恵比寿,毘沙門天,弁財天,福禄寿,寿老人,布
袋。」という観念を有するものということができる。
ウ本件商標と引用商標3との類否
上記ア及びイによると,本件商標と引用商標3とは,称呼及び観念において共通
するものであり,両商標の外観の相違は,出所識別標識としての称呼及び観念が生
じない「江戸深川」部分の有無が異なる程度にとどまるものであるから,そのよう
な外観の相違を考慮してもなお,本件商標と引用商標3とが同一又は類似の役務に
使用された場合には,当該役務の出所について混同が生じるおそれがあるというべ
きであって,本件商標は,引用商標3と類似するものと認めるのが相当である。
エ指定商品の同一性
本件商標の指定商品は「菓子」であり,引用商標3の指定商品は「菓子及びパ
ン」であるから,両商標の指定商品は同一又は類似であることは明らかである。
オ本件商標と引用商標1,2,6との類否
前記アないしエにおいて説示したところは,「七福神」に,地域を示す「お江
戸」「大江戸」「深川」が結合された引用商標1,2,6についても当てはまるか
ら,本件商標は,引用商標1,2,6とも類似するものと認めるのが相当である。
(3)小括
以上の検討結果によれば,本件商標と引用商標とがいずれも非類似であり,本件
商標が商標法4条1項11号に掲げる商標に該当しないとした本件審決の判断は,
少なくとも引用商標1ないし3及び6との類否判断を前提にしても,これを是認し
得ないことは明らかである。
2結論
以上の次第であるから,その余の取消事由について検討するまでもなく,本件審
決は取り消されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光
(別紙)
引用商標目録
1商標登録番号:第2342717号
商標権者:原告
商標の構成:
指定商品:第30類「菓子及びパン」
商標登録出願日:昭和63年10月4日
設定登録日:平成3年10月30日
書換登録日:平成13年12月26日
2商標登録番号:第2463631号
商標権者:原告
商標の構成:
指定商品:第30類「菓子及びパン」
商標登録出願日:昭和63年10月4日
設定登録日:平成4年10月30日
書換登録日:平成14年12月18日
3商標登録番号:第4004283号
商標権者:原告
商標の構成:
指定商品:第30類「菓子及びパン」
商標登録出願日:平成6年12月16日
設定登録日:平成9年5月30日
4商標登録番号:第4271574号
商標権者:原告
商標の構成:
指定商品:第30類「あられ」
商標登録出願日:平成9年5月8日
設定登録日:平成11年5月14日
5商標登録番号:第4576030号
商標権者:原告
商標の構成:
指定商品:第30類「あられ」
商標登録出願日:平成13年7月12日
設定登録日:平成14年6月14日
6商標登録番号:第4654632号
商標権者:原告
商標の構成:深川七福神(標準文字)
指定商品:第30類「菓子及びパン,アイスクリーム凝固剤,家庭用食肉軟化
剤,ホイップクリーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コー
ヒー及びココア,氷,調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベット
のもと,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンド
イッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,
べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,
酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,
脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン」
商標登録出願日:平成14年6月25日
設定登録日:平成15年3月20日

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛