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平成26年9月4日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成25年(ワ)第6185号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成26年6月10日
判決
原告P1
被告株式会社ミクシィ
訴訟代理人弁護士岩坪哲
同速見禎祥
訴訟代理人弁理士中山俊彦
補佐人弁理士陳野裕
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,995万円及びこれに対する平成25年6月28日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1訴訟物
本件は,原告が,被告が運営するソーシャル・ネットワーキング・サービス(S
NS)である「ミクシィ」(以下単に「ミクシィ」という。)において提供される「一
緒にいる人とつながる」との機能(以下「本件機能」という。)が,原告が有する
特許権の技術的範囲に含まれるとし,特許権成立前の被告の行為について特許法1
84条の10に基づく補償金の一部請求(495万円),及び特許権成立後の行為
について,特許権侵害に基づく損害賠償の一部請求(500万円)として,合計9
95万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
2前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
(1)当事者(弁論の全趣旨)
原告は,後記本件特許権の特許権者である。
被告は,情報収集,情報処理,情報提供に関するサービス等を目的とする株式
会社である。
(2)本件特許権(争いなし)
原告は,次の特許権(以下請求項1の特許を「本件特許1」,同10を「本件
特許2」といい,「本件特許」と総称する。本件特許にかかる発明を「本件特許
発明」と総称し,個別には「本件特許発明1」等という。本件特許についての明
細書及び図面を「本件明細書」といい,登録に係る権利を「本件特許権」と総称
する。)の特許権者である。
特許番号第5211401号
発明の名称アクセス制御システム,アクセス制御方法およびサーバ
出願日平成22年9月15日(特願2011-553710)
国際公開日平成23年8月18日(W02011/099192)
登録日平成25年3月8日
優先権主張番号特願2010-29795
優先日平成22年2月15日
特許請求の範囲
【請求項1】
ユーザにより操作されるユーザ端末の操作によりネットワークを介して特定
の者同士がコンタクトを取る際に用いるアクセス制御システムであって,
所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同意
がとれたことを確認するための確認手段と,
コンタクトを取るためのコンタクト用共有ページへのアクセス要求を受付け
るアクセス要求受付手段と,
前記アクセス要求受付手段によりアクセス要求が受付けられたときに,前記確
認手段による同意がとれたことの確認が行なわれたことを条件に,同意した者同
士がコンタクトを取るためのコンタクト用共有ページへのアクセスを許容する
ためのアクセス制御手段と,を備えた,アクセス制御システム。
【請求項10】
ユーザにより操作されるユーザ端末の操作によりネットワークを介して特定
の者同士がコンタクトを取る際に用いるアクセス制御方法であって,
所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同意
がとれたことを確認するステップと,
コンタクトを取るためのコンタクト用共有ページへのアクセス要求を受付け
るステップと,
前記アクセス要求を受付けるステップによりアクセス要求が受付けられたと
きに,前記確認するステップによる同意がとれたことの確認が行なわれたことを
条件に,同意した者同士がコンタクトを取るためのコンタクト用共有ページへの
アクセスを許容するステップと,を備えた,アクセス制御方法。
(3)本件特許の構成要件の分説(争いなし)
ア本件特許1は,次のとおりの構成要件に分説することができる(以下,各構
成要件を「構成要件A」などという。)。
Aユーザにより操作されるユーザ端末の操作によりネットワークを介して特
定の者同士がコンタクトを取る際に用いるアクセス制御システムであって,
B所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同
意がとれたことを確認するための確認手段と,
Cコンタクトを取るためのコンタクト用共有ページへのアクセス要求を受付
けるアクセス要求受付手段と,
D前記アクセス要求受付手段によりアクセス要求が受付けられたときに,前
記確認手段による同意がとれたことの確認が行なわれたことを条件に,同意
した者同士がコンタクトを取るためのコンタクト用共有ページへのアクセス
を許容するためのアクセス制御手段と,
Eを備えた,アクセス制御システム。
イ本件特許2は,次のとおりの構成要件に分説することができる(以下,各構
成要件を「構成要件F」などという。)。
Fユーザにより操作されるユーザ端末の操作によりネットワークを介して特
定の者同士がコンタクトを取る際に用いるアクセス制御方法であって,
G所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同
意がとれたことを確認するステップと,
Hコンタクトを取るためのコンタクト用共有ページへのアクセス要求を受付
けるステップと,
I前記アクセス要求を受付けるステップによりアクセス要求が受付けられた
ときに,前記確認するステップによる同意がとれたことの確認が行なわれた
ことを条件に,同意した者同士がコンタクトを取るためのコンタクト用共有
ページへのアクセスを許容するステップと,
Jを備えた,アクセス制御方法。
(4)ミクシィの概要等(甲14,22,乙2ないし5,13,弁論の全趣旨)
アミクシィについて
被告は,平成16年2月に,ミクシィのサービス提供を開始した。ミクシィ
は,その利用者が,インターネット上で交流することができるサービスであり,
利用者は互いを「友人」(以下,辞書的意味の友人と区別するため,「マイミク」
という。)とすることにより,ミクシィ上の様々な機能を利用して,交流をす
ることができる。
利用者は,各自専用のウェブページを割り当てられ,当該ウェブページで「プ
ロフィール」,「友人リスト」,「つぶやき」(短文の投稿。以下同じ),「チェッ
ク」,「日記」,「フォト」,「コンテンツ」,「メッセージ」といった機能を利用す
ることができる。また利用者は,各自のウェブページにおいて,自らコンテン
ツ(記事,写真等)を作成してマイミク等に公開するとともに,各自のウェブ
ページやマイミク等のウェブページにおいて,マイミク等が作成したコンテン
ツを参照したりすることができる。
イ利用者同士がマイミクとなる手続
ミクシィの利用者は,他の利用者に対し,マイミクとなるための申請(以下
「友人申請」という。)を送る。友人申請を受領した利用者が,これを承認(以
下,「友人申請承認」という。)することにより,双方の利用者がマイミクとな
る。
ミクシィの利用者が,同じくミクシィを利用する自分の友人や知人に友人申
請を送るには,①友人や知人のメールアドレスで検索する,②友人や知人が登
録しているミクシィキーワードで検索する,③プロフィールの記載内容で検索
する,④卒業した学校ごとに登録された利用者の中から同級生を探す,などの
方法がある。
ウ本件機能の提供開始
被告は,平成24年8月7日,ミクシィに本件機能を実装して,「一緒にい
る人とつながる」サービスの提供を開始した。
(5)本件機能の構成(争いがない)
前記提供以後,ミクシィに実装された本件機能の構成は,コンピューターシス
テムとしては下記被告物件記載の,方法としては下記被告方法記載のとおりであ
る(以下,分説された構成要素を,冒頭の符号により「被告構成a」などという。)。
なお,被告構成d,同iにおいて,本件機能を用いてマイミクとなった者で構成
されるグループを構成し,そのグループの範囲内でのみ,「つぶやき」を公開す
るよう限定することができる。
ア被告物件
以下の独立した各機能を備えたソーシャル・ネットワークサービス「ミクシ
ィ」を提供するコンピュータシステム。
(ア)「一緒にいる人とつながる」機能
a利用者がスマートフォンを操作することによりインターネットを介して,
一定時間中に一定距離内にいる利用者を検索する際に用いる機能であって,
b①利用者(以下,「利用者1」という。)がスマートフォンの「一緒にボ
タンを押す」を押すと,スマートフォンのGPS機能を利用し,一定時間
中に一定距離内で「一緒にボタンを押す」ボタンを押した他の利用者を「一
緒にいる人一覧」に表示する機能。
(イ)友人申請及び承認機能
b②利用者1が「一緒にいる人一覧」に表示された他の利用者(以下,「利
用者2」という。)を選択すると,利用者2に対して,友人申請が送信され,
b③友人申請を受信した利用者2が,友人申請承認をすると,利用者1と
利用者2がマイミクとなり,
b④利用者1の専用ホームページの「友人リスト」に利用者2がマイミク
として表示され,利用者2の専用ホームページの「友人リスト」に利用者
1がマイミクとして表示される機能。
(ウ)友人リスト・メッセージ・つぶやき機能
c各利用者の専用ホームページに表示される「友人リストボタン」,「メッ
セージボタン」,「新着メッセージが1件あります」,「つぶやきボタン」等
のフィールドに張られたリンクを介して画面遷移する操作が受付けられて
画面遷移すると,各利用者の専用ホームページ内の「友人リスト一覧表示」,
「メッセージ一覧」,「当該利用者のつぶやき」等のリンク先のページが表
示され,
d当該各利用者の専用ホームページ内の「友人リスト一覧表示」から選択
したマイミクとの送受信メッセージの一覧ページ,「メッセージ一覧」から
選択したマイミクや新着メッセージを送信したマイミクとの送受信メッセ
ージの一覧ページ,「当該利用者のつぶやき」ページでは,他の利用者との
間でメッセージを送受信することができる機能。
イ被告方法
ミクシィが備える以下の独立した複数の機能をそれぞれ提供する独立した
複数の方法であって,以下に掲げる構成をそれぞれ有する方法。
(ア)「一緒にいる人とつながる」機能を提供する方法
f利用者がスマートフォンを操作することによりインターネットを介して,
一定時間中に一定距離内にいる利用者を検索する際に用いる機能を提供す
る方法であって,
g①利用者(以下,「利用者1」という。)がスマートフォンの「一緒にボ
タンを押す」を押すと,スマートフォンのGPS機能を利用し,一定時間
中に一定距離内で「一緒にボタンを押す」ボタンを押した他の利用者を「一
緒にいる人一覧」に表示するステップを備える。
(イ)友人申請及び承認機能を提供する方法
g②利用者1が「一緒にいる人一覧」に表示された他の利用者(以下,「利
用者2」という。)を選択すると,利用者2に対して,友人申請を送信する
ステップと,
g③友人申請を受信した利用者2がマイミクとなることを承認(友人申請
承認)する旨の応答を受領するステップと,
g④利用者1の専用ホームページの「友人リスト」に利用者2をマイミク
として表示するとともに,利用者2の専用ホームページの「友人リスト」
に利用者1をマイミクとして表示するステップを備える。
(ウ)友人リスト・メッセージ・つぶやき機能をそれぞれ提供する方法
h各利用者の専用ホームページに表示される「友人リストボタン」,「メッ
セージボタン」,「新着メッセージが1件あります」,「つぶやきボタン」等
のフィールドに張られたリンクを介して画面遷移する操作が受付けられて
画面遷移すると,各利用者の専用ホームページ内の「友人リスト一覧表示」,
「メッセージ一覧」,「当該利用者のつぶやき」等のリンク先のページが表
示され,
i当該各利用者の専用ホームページ内の「友人リスト一覧表示」から選択
したマイミクとの送受信メッセージの一覧ページ,「メッセージ一覧」から
選択したマイミクや新着メッセージを送信したマイミクとの送受信メッセ
ージの一覧ページ,「当該利用者のつぶやき」等のページでは,他の利用者
との間でメッセージを送受信することができる機能,などからなるステッ
プを備える。
3争点
ア充足論
被告は,被告物件が本件発明1を侵害し,被告方法が本件発明2を侵害すると
主張するが,本件発明2の方法を実装したシステムが本件発明1に該当するから,
侵害論としては共通する。したがって,被告物件が本件発明1の技術的範囲に含
まれるかどうかを,まず争点として検討する。
(ア)被告物件が,構成要件Bを充足するか(争点(1))
(イ)被告物件が,構成要件Cを充足するか(争点(2))
(ウ)被告物件が,構成要件Dを充足するか(争点(3))
イ無効論
(ア)本件特許発明に,公然実施発明(ミクシィ)を主引例とする進歩性欠如の無
効理由があるか(争点(4))
(イ)本件特許発明に,乙11発明を主引例とする新規性欠如の無効理由があるか
(争点(5))
ウ損害論
原告が請求できる補償金の額及び原告の被った損害の額(争点(6))
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(被告物件が,構成要件Bを充足するか)について
(原告の主張)
(1)友人申請の承認が,構成要件Bの「同意」にあたることを前提とする主張(構
成要件Bにおける「同意」の意義①)
ア被告構成aの「スマートフォン」「インターネット」は,それぞれ本件特許
の「ユーザ端末」「ネットワーク」に該当する。
イ被告構成a,同b①ないし④の機能は,以下のとおり,構成要件Bの「所定
の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同意がと
れたことを確認するための確認手段」に該当する。
すなわち,被告物件では,利用者がスマートフォンを操作することにより,
インターネットを介して一定時間中に一定距離内にいる利用者を検索する際
に(被告構成a),利用者1がスマートフォンの「一緒にボタンを押す」を押
すと,スマートフォンのGPS機能を利用して,一定時間中に一定距離内で「一
緒にボタンを押す」ボタンを押した他の利用者が「一緒にいる人一覧」内に表
示され(同b①),利用者1が,同表示内の利用者2を選択すると,利用者2
に対して友人申請が送信され(同b②),利用者2がこの友人申請を承認する
と,利用者1と利用者2がマイミクとなり(同b③),利用者1の専用ホーム
ページの「友人リスト」に利用者2がマイミクとして表示され,利用者2の専
用ホームページの「友人リスト」に利用者1がマイミクとして表示されるが(同
b④),これは,所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態に
するための同意がとれたことの確認をするものである。
ウ構成要件Bにおいて,GPSによる地理的情報の利用時期が,「同意」の確
認時であるとの限定はなく,構成要件Bにおいて,「同意がとれたことを確認
する」際に,「所定の地理的エリア内にいる」ことは必要条件ではない。構成
要件Bにおける「同意」は,友人申請に対する利用者2の承認であり,被告物
件において,友人申請の承認の際にGPSによる地理的情報の利用をしていな
くとも,構成要件Bは充足する。
(2)「一緒にボタンを押す」のボタンを押すことが,構成要件Bの「同意」にあた
ることを前提とする主張(構成要件Bにおける「同意」の意義②)
ア被告構成aの「スマートフォン」,「インターネット」は,それぞれ本件特
許の「ユーザ端末」,「ネットワーク」に該当する。
イ被告構成a及びb①の機能は,以下のとおり,構成要件Bの「所定の地理的
エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同意がとれたこと
を確認するための確認手段」に該当する。
すなわち,被告物件では,利用者がスマートフォンを操作することにより,
インターネットを介して一定時間中に一定距離内にいる利用者を検索する際
に(被告構成a),利用者1がスマートフォンの「一緒にボタンを押す」を押
すと,スマートフォンのGPS機能を利用し,一定時間中に一定距離内で「一
緒にボタンを押す」ボタンを押した他の利用者を「一緒にいる人一覧」に表示
するが(同b①),これは,所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト
可能状態にするための同意がとれたことの確認をするものである。
ウ本件機能は,被告物件の利用者1と利用者2が一緒にいるときに互いにミク
シィ上でつながるための簡便な手段を提供するものであり,利用者1と利用者
2にフォーカスしたものである。したがって,一緒にいる利用者1と利用者2
がミクシィ上でつながることに同意して同時に「一緒にボタンを押す」ボタン
を押せば,必ず一緒にいる人一覧に表示される。これは,利用者1と利用者2
がミクシィ上でつながることに同意したことの証左にほかならない。
一方,一緒にいる利用者1と利用者2が同時に「一緒にボタンを押す」ボタ
ンを押した時に,たまたまその近くで利用者3と利用者4が互いにミクシィ上
でつながるべく「一緒にボタンを押す」ボタンを押すという偶然が発生したと
きには,利用者1の端末には,一緒にいる人一覧に利用者2から利用者4まで
が表示されることとなる。このとき,利用者1と利用者2にとって,利用者3,
利用者4はノイズでしかない。友人申請する際には,このようなノイズを無視
して利用者1と利用者2のみでマイミクになればよいのである。このような他
の利用者というノイズの混入は,まれに偶然起こるケースであり,このような
レアケースをクローズアップして,本件機能を認識すべきではなく,上記した,
本件機能本来の目的に着目すべきである。
(被告の主張)
(1)本件機能について
本件機能は,従来からある友人の検索手段(前提事実(4)イ)に加え,スマー
トフォンに搭載されるGPS機能を用いて,一定の距離内で,一定時間の間に,
「一緒にボタンを押す」ボタンを押した利用者が検索される機能を追加するもの
である。そして,前記ボタンを押した際には,ある利用者と一定時間中に一定距
離内で,前記ボタンを押した利用者全てを,「一緒にいる人一覧」に機械的に表
示するものであり,利用者間の同意の有無は確認していない。
検索された後の友人申請及び承認機能(被告構成b②で他の利用者を選択して
から同b④まで)は,本件機能を用いずに友人申請を行った場合と同じである。
すなわち,ミクシィのサービスにおいて,利用者間の交流は,友人申請を受け
取った利用者が「承認」を行わないと始まらず,「承認」の有無が交流の可否の
条件となっている。そして当該承認の際には,GPSによる地理的情報は利用さ
れていない。
(2)構成要件Bについて
構成要件Bの用語の内容は一義的に明確ではないため,「地理的エリア」や「コ
ンタクト可能状態にするための同意」等が何を意味するのかを正確に理解するの
は困難であるが,これを最大限拡大して解釈したとしても,前述のとおり,本件
機能には,「所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするた
めの同意がとれたことを確認するための確認手段」は存在しない。
したがって,被告物件は,構成要件Bを充足しない。
(3)原告の主張について
ア原告の主張によると,構成要件Bの「同意」が,地理的情報が利用される「一
緒にボタンを押す」ボタンを押す際の同意(原告がいう第一段階の同意,前記
同意の意義②に相当)であるのか,友人申請を承認する際の同意(原告がいう
最終的な同意,前記同意の意義①に相当)であるのかが不明確であり,採用で
きない。両義的であるとすると,特許発明の解釈が帰一しないことを自認する
ものであり,特許法36条6項2号の無効理由を有することになる。
イ仮に,構成要件Bの「同意」が,原告がいう第一段階の同意であるとすると,
同一の特許請求の範囲中に「同意」という用語について二つの意味が含まれる
こととなる。すなわち,本件特許発明の構成要件Dの「前記確認手段による同
意がとれたことの確認が行われたことを条件に・・(中略)・・アクセスを許容
する」における同意は,アクセス許容の条件となるのであるから,原告がいう
「最終的な同意」であることは明らかである。そうすると,構成要件Bと構成
要件Dとで「同意」の意味が異なることになるから,このような矛盾した解釈
は取り得ない。
ウ構成要件Bの「同意」が原告のいう「最終的な同意」であるとすると,構成
要件Bの文言上,確認される対象は,「所定の地理的エリア内にいる者による
コンタクト可能状態にするための同意がとれたこと」であり,当該同意を行っ
た両当事者が「所定の地理的エリア内にいる者」であることも確認されなけれ
ばならないことは明らかであり,原告のいうような,この際に地理的情報を利
用しないといった解釈は取り得ない。
2争点(2)(被告物件が,構成要件Cを充足するか)について
(原告の主張)
(1)被告構成dの,「友人リスト一覧表示」から選択したマイミクとの送受信メッセ
ージの一覧ページ,「メッセージ一覧」から選択したマイミクや新着メッセージ
を送信したマイミクとの送受信メッセージの一覧ページ,当該利用者のつぶやき
ページ(とりわけ,グループを指定してつぶやくことによって生成されたグルー
プ内限定のつぶやきページ)は,構成要件Cの「コンタクトを取るためのコンタ
クト用共有ページ」に該当する。
被告構成cの,「友人リストボタン」,「メッセージボタン」,「新着メッセージ
が1件あります」,「つぶやきボタン」等のフィールドに張られたリンクを介して
画面遷移する操作は,構成要件Cの「アクセス要求」に相当する。
よって,被告物件は,構成要件Cを充足する。
(2)構成要件Cの「コンタクト用共有ページ」において共有される対象は,情報で
あり,実施例【0021】【0076】においては,Webページが示されてい
る。
本件特許発明の技術思想は,「電子メール等の従来から一般的な連絡可能状態
の代わりとなるコンタクト用共有ページを設け,所定の地理的エリア内にいる者
によるコンタクト可能状態にするための同意がとれたことの確認が行われたこ
とを条件に,同意した者同士がコンタクトを取るためのコンタクト用共有ページ
へのアクセスを許容するようにし,メールアドレス等の個人情報を相手方に通知
することなく連絡可能状態とし,伝えたメールアドレス等の個人情報が他人に横
流しされ,その他人が本人になりすましてコンタクトする等の不都合をなくした
点」である。
したがって,連絡可能状態を作り出すコンタクト用共有ページ自体は,電子メ
ール等と同じ連絡可能状態で事足りるのであり,このコンタクト用共有ページへ
のアクセス制御によってメールアドレス等の個人情報の相手方への通知を不要
にしたものであるから,コンピューターネットワークを通じてメッセージ等を交
換して情報を相手に伝えて共有できるものは全て対象となる。
被告物件におけるメッセージ機能は,電子メールと同様の機能を果たしている
ことは被告も認めるところであり,「コンタクト用共有ページ」に該当する。
(3)被告の主張に対する反論
本件特許発明において,共有されるのは情報であるから,いったん共有された
情報がその後削除されたりしても,構成要件の充足に関係がない。
(被告の主張)
(1)「共有」の意義について
アインターネットサービスにおいて,「共有」とは,「共有ページ」,「共有フ
ァイル」などと表現されるとおり,複数の利用者から同一のページやファイル
に対してアクセスや編集が可能なことを指すのが一般的な用語法である。「共
有ページ」として典型的なものは掲示板であり,「共有ファイル」として典型
的なものは共有サーバ上に保管されているファイルである。
したがって,ある利用者が共有ページや共有ファイルに改変を加えた場合,
全ての利用者について,それが適用される。例えばある利用者が掲示板に「A」,
「B」の書き込みの後に「C」と書き込みを行えば,全ての利用者は,同じ書
き込み,すなわち「A」,「B」,「C」を閲覧することとなる。ある利用者が,
当該掲示板において「B」の書き込みを削除すれば,全ての利用者は同じ削除
後の書き込み(「A」,「C」)を閲覧することとなる。共有ファイルの場合も同
じである。
すなわち,「共有」されている以上,各利用者からアクセスされる対象の内
容(データ)が同一であり,かつ各利用者に対して同一の内容が閲覧,表示さ
れることは最低限の条件である。
(2)被告物件の構成
ア被告物件においては,利用者ごとにパーソナライズされたページが用意され,
これを個別に操作する構成となっているため,掲示板のような「共有ページ」
は存在しない。
イまた,マイミク同士のメッセージのやりとりは,一方当事者があるメッセー
ジを消去しても,そのメッセージの送受信先で削除がされるものではないため,
やはり「共有ページ」に当たらない。
ウミクシィにおける「つぶやき機能」は,利用者のマイミク全員の「つぶやき」
が全て表示されるものである。利用者ごとにマイミクの構成が異なることから,
各人の「つぶやき」ページに表示される内容もそれぞれ異なる。したがって,
「つぶやき」ページが利用者間で「共有」されることはない。
なお,「つぶやき」ページにおいて,利用者の選択により「つぶやき」を表
示させる対象となるマイミクを限定することはできるが,データ自体は,非表
示となっているマイミクのものも保存されており,その内容は同一ではなく,
「共有」されていないことに変わりはない。
3争点(3)(被告物件が,構成要件Dを充足するか)について
(原告の主張)
(1)被告構成cの,「友人リストボタン」,「メッセージボタン」,「新着メッセージが
1件あります」,「つぶやきボタン」等のフィールドに張られたリンクを介して画
面遷移する操作が受け付けられたとき」は,構成要件Dの「前記アクセス要求受
付手段によりアクセス要求が受け付けられたとき」に相当する。
(2)被告構成dの,「友人リスト一覧表示」から選択したマイミクとの送受信メッセ
ージの一覧ページ,「メッセージ一覧」から選択した友人や新着メッセージを送
信したマイミクとの送受信メッセージの一覧ページ,つぶやきページ(とりわけ
当該利用者のつぶやきページから,複数のマイミクで構成したグループを指定し
てつぶやくことによって生成されたグループ内限定のつぶやきページ)では,他
の利用者との間でメッセージを送受信することができる機能は,構成要件Dの
「アクセス制御手段」に相当する。
(3)被告構成bにおける「利用者1」と「利用者2」は,構成要件Dの「同意した
者同士」に相当する。
(4)よって,被告物件は,構成要件Dを充足する。
(被告の主張)
(1)構成要件B,Cを充足しないことによる構成要件D非充足
被告物件は,構成要件Bの「所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト
可能状態にするための同意がとれたことを確認するための確認手段」及び,構成
要件Cの「コンタクトを取るためのコンタクト用共有ページ」を備えないことか
ら,「確認手段による同意がとれたことの確認」や,「コンタクト用共有ページへ
のアクセス」を含む構成要件Dについても,充足しない。
(2)被告物件が「同意がとれたことの確認が行われたことを条件に」の構成を備え
ないこと
ア構成要件Dは,「アクセスを許容する」ための「条件」として「前記確認手
段による同意がとれたことの確認が行われたこと」を規定しており,何らかの
条件判定処理がアクセス制御手段によって行われる必要がある。
イ被告物件は,「友人リスト」も,「メッセージ」も,「つぶやき」も,マイミ
クとして承認されればアクセス可能となっており,「前記確認手段による同意
がとれたこと」は一切確認されることはない。このことは,メールアドレスや
ミクシィキーワードなどによって検索されマイミクとして承認された人と,本
件機能で検索されマイミクとして承認された人とで区別されることなく,マイ
ミクでありさえすれば,「友人リスト」に表示され,「メッセージ」や「つぶや
き」をやり取りできることから明らかである。
4争点(4)(本件特許発明に,公然実施発明(ミクシィ)を主引例とする進歩性欠如
の無効理由があるか)について
(被告の主張)
(1)概要
スマートフォンのGPS機能を利用して,近くにいる人の連絡先(SNSのユ
ーザIDを含む)を検索したり,交換したりする「Bump」というサービス(乙
6発明)が,本件特許出願の優先日前から広く使用されていた。
原告主張のとおり,本件機能を含めたミクシィのサービスが本件特許発明の技
術的範囲に属するとすれば,本件特許発明の構成は,ミクシィのサービスの各機
能を提供するコンピュータシステム(公然実施発明1)に上記の乙6発明の機能
を組み合わせることで容易に想到できたものであり,本件特許には進歩性欠如
(特許法29条2項)の無効理由がある。
(2)公然実施発明1について
被告は,平成16年2月から,ミクシィのサービス提供を始め,本件特許出願
の優先日前には,被告物件の本件機能以外のサービスを提供し,以下のようなコ
ンピュータシステムを公然使用していた。
ア全般的特徴
a利用者により操作される利用者端末の操作によりネットワークを介して特
定の者同士がコンタクトを取る際に用いる。
イ友人申請及び承認機能
b②利用者(以下,「利用者1」という。)が,検索結果に表示された他の利
用者(以下「利用者2」という。)を選択すると,利用者2に対して,マイミ
クリクエストが送信され,
b③マイミクリクエストを受領した利用者3が,マイミクとなることを承認
すると,利用者1と同2がマイミクとなり,
b④利用者1の専用ホームページの「友人リスト」に利用者2がマイミクと
して表示され,利用者2の専用ホームページの「友人リスト」に利用者1が
マイミクとして表示される機能
ウ友人リスト・メッセージ・つぶやき機能
c各利用者の専用ホームページに表示される,「メッセージ」等のフィールド
に張られたリンクを介して画面遷移すると,各利用者の専用ホームページ内
の「友人リスト」,「メッセージ」,「つぶやき」等のリンク先のページが表示
され,
d当該各利用者の専用ホームページ内の「メッセージ」,「つぶやき」等のペ
ージでは,他の利用者との間でメッセージを送受信することができる。
(3)本件特許と公然実施発明1の相違点
原告の主張を前提とすると,本件特許発明と公然実施発明1の相違点は,本件
機能の有無のみである。したがって,両者の相違点は,本件特許発明には「所定
の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同意が取れ
たことを確認するための確認手段」(構成要件B)があるが,公然実施発明には
このような構成がない点で相違する(相違点1)。
また,本件特許発明のアクセス制御手段は,「前記確認手段による同意がとれ
たことの確認が行われたことを条件に,同意した者同士がコンタクトを取るため
のコンタクト用共有ページへのアクセスを許容する」が,公然実施発明にはこの
ような構成がない点で相違する(相違点2)。
(4)乙6発明
ア主たる機能
本件特許出願の優先日より前に,Bumpというサービスが公然実施されて
いた。
同サービスは,スマートフォンに搭載されているGPS機能と加速度センサ
ーを用いて利用者が近くにいる人と連絡先を簡単に交換できるようにするも
のであり,利用者がスマートフォンで専用のアプリケーションを起動させて使
用する。
イ具体的処理
具体的には,利用者同士が,専用のアプリケーションを起動させた状態で,
相互のスマートフォンを軽くぶつけると,GPSによる位置情報と暗号化され
た連絡先情報がサーバに送信され,GPSによる位置情報の比較により,近く
にいることが確認されると,サーバ経由で連絡先情報の交換が可能となるとい
う機能を有している。
交換する連絡先は,電話番号,メールアドレス,住所,利用しているネット
サービスのプロフィール(ミクシィのプロフィールへのURLもこれに含まれ
る。)などを自由に選択することができる。
ウ上記より,乙6発明は,「利用者同士が専用のアプリケーションを起動させ
た状態で相互のスマートフォンに搭載されているGPSによって得られた位
置情報と連絡先情報がサーバに送信され,サーバがGPSの位置情報の比較に
より利用者同士が近くにいることを確認すると,サーバを経由して,当該利用
者同士の連絡先(SNSの連絡先を含む。)が,相手方利用者のスマートフォ
ンにダウンロードされる方法で交換可能となる機能」を有している。
(5)公然実施発明と乙6発明とを組み合わせると,相違点が構成されること
乙6発明においては,利用者同士が専用のアプリケーションを起動させた状態
で相互のスマートフォンを軽くぶつける操作をすることによって送信されたG
PSの位置情報を利用して近くにいることが確認されるが,これは,原告の主張
(構成要件Bは,「第一段階の同意」で足りること)を前提とすると,構成要件
Bの「所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするための同
意がとれたことを確認」することに相当するから,相違点1にかかる構成が実現
する。
また,原告の主張によれば,乙6発明経由で友人申請し,承認を得た利用者が,
承認者と公然実施発明1を通じてメッセージ等でやり取りできればこれを充足
することになるから,このような主張を前提とすると,公然実施発明1に乙6の
構成を組み合わせれば,必然的に相違点2にかかる構成が実現する。
(6)組み合わせが容易であること
乙6発明は,SNSの連絡先交換に用いることが可能な機能であるから,これ
を日本における代表的SNSである公然実施発明1に組み合わせることは,当業
者にとって本件特許出願の優先日より前の時点で容易であった。現に,本件特許
発明の優先日前に公表された,乙6発明を解説した乙9文献にはそのことが開示
されている。
したがって,公然実施発明1に本件特許出願の優先日前に公然実施されていた
構成を組み合わせることによって,本件特許発明の構成に容易に想到し得たから,
本件特許発明には,進歩性欠如(特許法29条2項参照)の無効事由がある。
(原告の主張)
(1)公然実施発明1・乙6発明の立証が不十分であること
被告提出の乙12,13によっては,公然実施発明1のウの機能が本件特許発
明の優先日前に公然実施されていたといえない。また,被告提出の乙6から10
までは,先行技術を示す文献として引用するに足る信頼性を備えていない。
(2)公然実施発明1と乙6発明を組み合わせても,本件特許発明に至らないこと
ア本件特許発明は,一般的な連絡可能状態(個人情報である電話番号やメール
アドレスの交換によるもの)によって生ずるなりすましや情報流出のおそれを
課題として,その課題を解決するために,「確認手段による同意が取れたこと
の確認が行われたことを条件に,同意した者同士がコンタクトを取るためのコ
ンタクト用共有ページへのアクセスを許容するためのアクセス制御手段」を採
用することによって,個人情報の相手方への通知を不要にしたものである。こ
れにより,相手方以外の他人がその相手方になりすましてコンタクトしてくる
不都合も防止できる。
イしかし,公然実施発明1と乙6発明を組み合わせたものでは,相手方に伝え
たミクシィのプロフィールのURLが他人に横流しされ,その他人が本人にな
りすましてマイミク申請するという,本件特許発明の課題と同じ不都合が生ず
る。この点は,本件特許発明との相違点を構成する。
ウよって,本件特許発明の進歩性は否定されない。
5争点(5)(本件特許発明に,乙11発明を主引例とする新規性欠如の無効理由があ
るか)について
(被告の主張)
(1)概要
本件特許発明は,特開2009-146139(乙11号証。以下,同明細書
中,(3)のとおり特定される発明を「乙11発明」という。)に開示されているも
のと異ならず,特許法29条1項3号により特許を受けることができない。
(2)乙11号証の開示内容
乙11号証には,以下のような記載がある。
ア「【背景技術】端末装置間で通信を行う通信装置として,端末装置が電話回
線等の広域通信回線を介して接続可能なサーバ上に複数の仮想空間を設け,こ
のサーバ上の仮想空間を複数の端末装置で共有することによって複数の端末
装置間で種々の通信(コミュニケーション)を行う通信装置が提案されてい
る・・・。このような通信装置では,例えば,ユーザは,端末装置を用いて適
宜のタイミングで仮想空間に入場し,仮想空間内の掲示板等に文字や文章を書
き込み,あるいは,他のユーザが掲示板等に書き込んだ文字や文章を読むこと
ができる。」(段落【0002】)
イ「【発明が解決しようとする課題】携帯電話機の普及にともない,携帯電話
機を用いて前記仮想空間への入場を可能とする通信装置が提案されている。携
帯電話機を用いて仮想空間に入場可能とすることにより,ユーザは,場所やタ
イミングに束縛されずに仮想空間に入場することができるため,ユーザ同士の
会話をより楽しむことができる。ところで,互いに見知らぬユーザであっても
仮想空間に入場することができるため,仮想空間が,見知らぬユーザ同士の出
会いの目的のためのサイト(「出会い系サイト」と呼ばれている)等に悪用さ
れる虞がある。」(段落【0003】)
ウ【課題を解決するための手段】前記課題を解決するための,本発明の第1発
明は,管理装置により管理され,一つの携帯端末装置の入場が許可されている
仮想空間に,一つの携帯端末装置以外の他の携帯端末装置を入場させて通信を
行う通信装置に関する。・・・一つの携帯端末装置および他の携帯端末装置は,
携帯無線通信回線を介して管理装置に接続する携帯無線通信装置と,携帯無線
通信回線とは異なる近距離通信回線を介して携帯端末装置間を接続する近距
離通信装置を有している。・・・「近距離通信装置」は,近距離通信を行う携帯
端末装置それぞれを携帯している所有者が,通信相手を互いに目で確認するこ
とができる距離(例えば,数メートル)内で,携帯無線通信装置が使用する携
帯無線通信回線と異なる近距離通信回線を介して直接に携帯端末装置間で近
距離通信を行う通信装置を意味する。例えば,赤外線等の光を用いて通信を行
う通信装置(例えば,IrDA),通信範囲が数メートル以内である微弱な電
波を用いる通信装置(例えば,ブルートゥース,RFID),数メートル以内
の長さの信号線を用いた通信装置等を用いることができる。本発明では,一つ
の携帯端末装置以外の他の携帯端末装置は,一つの携帯端末装置との間で近距
離通信装置を用いた近距離通信が行われないと仮想空間への入場が許可され
ないように構成されている。他の携帯端末装置が一つの携帯端末装置との間で
近距離通信を行ったことは,例えば,他の携帯端末装置が,一つの携帯端末装
置によって発行された認証情報を近距離通信によって受信していることによ
って判別することができる。・・・本発明では,他の携帯端末装置との間で近
距離通信を行うことなく仮想空間への入場が許可されている一つの携帯端末
装置以外の他の携帯端末装置は,一つの携帯端末装置との間で近距離通信装置
を用いた近距離通信が行われないと仮想空間への入場が許可されないように
構成されているため,他の携帯端末装置を用いるユーザ(例えば,仮想空間内
での会話に参加する仮想空間参加者)は,一つの端末装置を用いるユーザ(例
えば,仮想空間を開設した仮想空間開設者)と実際に出会っていなければ仮想
空間に入場することができない。これにより,仮想空間が出会い系サイト等と
して悪用されるのを防止することができる。」(段落【0004】)
エ「[第2の実施の形態]・・・本実施の形態では,仮想空間nの開設者Kは,
管理装置80で作成された仮想空間nの入場許可情報Nを用いて仮想空間n
に入場する。また,仮想空間nへの参加者Sは,近距離通信によって,開設者
Kが発行した(作成した)認証情報Pmを開設者Kから受信し,受信した認証
情報Pmを用いて管理装置80に仮想空間nの入場許可情報Nの送信を要求
し,管理装置80から仮想空間nの入場許可情報を受信する。そして,受信し
た入場許可情報Nを用いて仮想空間nに入場する。」(段落【0021】)
オ「次に,仮想空間参加者Sは,仮想空間参加者Sが用いる携帯端末装置10
bと仮想空間開設者Kが用いる携帯端末装置10aの間で近距離通信装置を
用いた近距離通信が可能となるように,携帯端末装置10bを携帯端末装置1
0aの近傍に配置する。携帯端末装置10aと携帯端末装置10bの間での近
距離通信が可能となっている状態で,仮想空間開設者Kは,認証情報Pmを携
帯端末装置10aの近距離通信装置(近距離通信手段17a,送受信機8a)
から送信する送信操作を行う(ステップ6)。・・・同時に,仮想空間参加者S
は,携帯端末装置10aの近距離通信装置から送信される認証情報Paを携帯
端末装置10bの近距離通信装置(近距離通信手段17b,送受信器18b)
で受信する受信操作を行う(ステップ7)。これにより,・・・携帯端末装置1
0bは,近距離通信装置で,携帯端末装置10aの近距離通信装置から送信さ
れた認証情報Paを受信し,記憶手段14bに記憶する(ステップ9)。」(段
落【0023】)
カ「そして,携帯端末装置10bは,仮想空間参加者Sによって仮想空間nの
入場許可情報の送信要求操作が行われると(ステップ10),ステップ11に
進む。・・・携帯端末装置10bは,ステップ11で,ステップ9で受信した
認証情報Paを含む仮想空間nの入場許可情報送信要求情報を,端末用携帯無
線通信装置を用いて管理装置80に送信する。・・・管理装置80は,携帯端
末装置10bから送信された認証情報Paを含む仮想空間nの入場許可情報
送信要求情報を受信すると(ステップ12),ステップ13に進む。管理装置
80は,ステップ13で,ステップ12で受信した仮想空間nの入場許可情報
送信要求情報に含まれている認証情報Paが,入場許可情報の送信を要求され
た仮想空間nの開設者K(仮想空間開設者Kが用いている携帯端末装置10a)
によって発行された(作成された)ものであるか否かを認証する。・・・管理
装置80は,受信した仮想空間nの入場許可情報送信要求情報に含まれている
認証情報Paが仮想空間開設者K(仮想空間開設者Kが用いている携帯端末装
置10a)によって発行されたものであることを認証すると,入場許可情報デ
ータベース91に仮想空間nに対応させて記憶されている入場許可情報Nを,
仮想空間nの入場許可情報送信要求情報を送信した携帯端末装置10bに送
信する。」(段落【0024】)
キ「・・・携帯端末装置10bは,仮想空間参加者Sによって仮想空間nへの
入場を要求する入場操作が行われると(ステップ19),ステップ20に進む。
携帯端末装置10bは,ステップ20で,記憶手段14bに記憶されている入
場許可情報Nを含む仮想空間nへの入場要求情報を,端末用携帯無線通信装置
を用いて管理装置80に送信する。管理装置80は,ステップ21で,携帯端
末装置10bから送信された入場許可情報Nを含む仮想空間nへの入場要求
情報を受信すると,ステップ22に進み,ステップ18と同様に,携帯端末装
置10b(仮想空間参加者S)の仮想空間nへの入場を許可するか否かを判断
する入場許可判別処理を実行する。(段落【0025】)
ク第2の実施の形態では,仮想空間nの開設者Kが用いる携帯端末装置10a
は,仮想空間nの入場許可情報Nを管理装置80から受信する。また,仮想空
間nへの参加者Sが用いる携帯端末装置10bは,携帯端末装置10aと携帯
端末装置10bとの間の近距離通信によって,開設者K(開設者Kが用いてい
る携帯端末装置10a)から発行された(作成された)認証情報Paを受信し,
受信した認証情報Paを含む仮想空間nの入場許可情報送信要求情報を管理
装置80に送信し,管理装置80から送信された仮想空間nの入場許可情報N
を受信する。そして,携帯端末装置10bは,管理装置80から受信した入場
許可情報Nを用いて仮想空間nに入場することができる。すなわち,携帯端末
装置10bを用いる仮想空間参加者Sは,携帯端末装置10aを用いる仮想空
間開設者Kと,互いに目で確認することができる距離まで接近し,携帯端末装
置10aと携帯端末装置10bとの間で情報(仮想空間開設者Kから発行され
た認証情報Pa)を近距離通信によって通信したことを条件に,管理装置80
から仮想空間nの入場許可情報を受信することができ,仮想空間nへの入場が
許可される。これにより,仮想空間nの開設者Kと実際に出会った者のみが仮
想空間nへの参加者Sとして仮想空間nに入場することができるため,仮想空
間nが出会い系サイト等として悪用されるのを防止することができる。また,
近距離通信によって仮想空間開設者Kによって発行された認証情報を送信す
るため(入場許可情報が送信されないため),仮想空間開設者と実際に出会っ
ていない者に入場許可情報が漏洩する虞がない。」(段落【0026】)
ケ管理装置80は,複数の仮想空間を管理しており,管理用処理手段81,入
場許可判別手段82,認証手段83を有している。管理用処理手段81は,仮
想空間内における種々の処理を実行する。例えば,仮想空間内に入場している
複数の携帯端末装置間の会話情報の中継処理や,仮想空間に設けられている掲
示板等への携帯端末装置による情報の書き込み処理や掲示板に書き込まれて
いる情報の携帯端末装置による読み取り処理を支援する。」(段落【0014】)
(3)乙11発明
上記(2)の記載から,乙11号証には,以下の発明(乙11発明)が記載されて
いる。
a携帯端末装置の操作によりネットワークを介して特定の者同士が仮想空間
nに参加する際に用いる管理装置であって,
b入場許可情報(仮想空間nの入場許可情報N)を仮想空間参加者Sに提供す
る際の条件として,仮想空間参加者Sが,仮想空間開設者Kと,互いに目で確
認することができる距離まで接近し,携帯端末装置間で情報(仮想空間開設者
Kから発行され,仮想空間nへの参加を認める認証情報Pa)を近距離通信に
よって通信したことを確認する手段と,
c仮想空間内に入場している複数の携帯端末装置間の会話情報の中継処理や,
仮想空間に設けられている掲示板等への携帯端末装置による情報の書き込み
処理や掲示板に書き込まれている情報の携帯端末装置による読み取り処理を
支援する管理用処理手段と,
d仮想空間参加者Sから仮想空間への入場要求が受付けられたとき,確認する
手段により近距離通信が行われたことの確認が行われた場合に限り提供され
る当該仮想空間の入場許可情報の存在を条件として,当該仮想空間への入場を
許可する入場許可判別手段と
eを備えた管理装置。
(4)本件特許発明と乙11発明の対比
ア乙11発明の構成aは,本件特許発明の構成要件Aに相当する。
イ乙11発明の構成bは,仮想空間nへの参加(コンタクト可能状態)につい
ての同意が仮想空間参加者Sと仮想空間開設者Kとの間でされていることを,
携帯端末装置間で認証情報Paが近距離通信によって通信された(所定の地理
的エリア内にいる者による)ことを条件として確認するものであり,本件特許
発明の構成要件Bに相当する。
ウ乙11発明の構成cのうち「仮想空間に設けられている掲示板等」は本件特
許発明の構成要件Cの「コンタクト用共有ページ」に相当する。そして,引用
発明1には,掲示板等への書き込み(アクセス)要求を受け付ける受付手段が
あることは自明である。したがって,乙11発明の構成cは,本件特許発明の
構成要件Cに相当する。
エ乙11発明は,入場許可情報を取得する過程を経て仮想空間へ参加すること
(=コンタクト可能状態にすること)に同意した者しか入場することができな
い仮想空間内の掲示板へのアクセス要求が送信されてきた場合に限り当該掲
示板へのアクセスが許可されるよう制御されており,これは,原告主張の本件
特許発明構成要件Dの解釈と一致する。したがって,乙11発明の構成dは,
本件特許発明の構成要件Dに相当する。
(4)まとめ
以上のとおり,本件特許発明の構成要件は全て乙11発明に開示されているか
ら,同発明は特許法29条1項3号により特許を受けることができない。
(原告の主張)
(1)乙11発明が構成要件Dを備えないこと
乙11号証の明細書の【0018】には,「仮想空間開設者Kが用いる携帯端
末装置10aから仮想空間参加者Sが用いる携帯端末装置10bに,近距離通信
装置を用いて仮想空間nの入場許可情報Nを送信するステップ6~9は,仮想空
間参加者毎に実行される」との記載が,【0020】には,「仮想空間nの開設者
Kと実際に出会った者のみが仮想空間nへの参加者Sとして仮想空間nに入場
することができる」との記載がある。とりわけ,【0020】の同記載は,他の
実施形態全てについて記載されている。
以上の記載から,乙11発明は,仮想空間nの開設者Kと実際に出会った者S
1,S2,S3のみが仮想空間nに入場することができることになるが,各参加
者S1,S2,S3同士は,上程の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可
能状態にすることの同意が確認された同意者同士でないにもかかわらず,仮想空
間nに入場し,仮想空間内の掲示板へのアクセスが許容されることになる。した
がって,乙11発明は構成要件Dを充足しない。
(2)乙11発明が本件特許発明の作用効果であるなりすましを排除できないこと
乙11発明では,開設者Kと参加者Sが出会って近距離通信を行ってコンタク
ト可能状態になる同意がされた同意者同士であることの証として,同意者間で,
携帯端末情報や,仮想空間への入場許可情報や認証情報の受け渡しを行い,参加
者Sはその受け渡された情報(同意者同士であることの証)を管理装置80に送
信して仮想空間へのアクセスを許容してもらう。
これらの受渡し情報を参加者Sが第三者に横流しし,その第三者が参加者Dに
なりすまして受け渡し情報を管理装置80に送信して仮想空間nに進入する恐
れがあり,本件特許発明とは相違する。
(3)まとめ
したがって,本件特許発明と,乙11発明は,相違点が存するから,本件特許
発明は新規性を備えるものである。
6争点(6)(原告が請求できる補償金の額及び原告の被った損害の額)について
(原告の主張)
(1)補償金請求(特許法184条の10)
原告は,国際公開日の後である平成24年8月9日,本件特許の国際公開され
た公報を同封して,被告に対し事業化の意思を確認する書簡を発した。
被告は,前提事実(4)ウのとおり,平成24年8月7日から本件特許の登録の日
の前日(平成25年3月7日)までの間に,被告物件・方法を使用し,少なくと
も合計77億円の売上を得た。本件特許発明の実施に対し受けるべき実施料は,
5パーセントが相当であるから,原告は,被告に対し,3億8500万円の補償
金請求権及び本訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金請求権を有
する。
(2)特許法102条2項に基づく損害賠償請求
原告は,被告による本件特許の侵害行為により,営業上の損害を被った。
被告は平成25年3月8日から,本訴提起日である同年6月16日までの間に,
被告物件・方法を使用し,少なくとも34億円の売上を得た。被告の利益率は5
0%であるから,これによる利益は17億円を下らず,同金額は,原告の損害と
推定される。
(3)特許法102条3項に基づく請求
仮に上記(2)の損害が認められないとしても,本件特許の実施に対して受けるべ
き実施料は,売上の5パーセントが相当である。
したがって,上記(2)の被告の売上34億円の5パーセントである1億7000
万円は,原告の損害と推定される。
(4)まとめ
原告は,被告に対し,(1)の補償金請求権のうち495万円,及び,(2)(予備的
に(3))の不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求のうち500万円及び
これらに対する平成25年6月28日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
原告の主張を争う。
第4当裁判所の判断
1争点(1)(被告物件が,構成要件Bを充足するか)について
(1)構成要件Bは,「所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にす
るための同意が取れたことを確認するための確認手段」である。以下,本件特許
発明の具体的内容を考慮しつつ,被告物件が構成要件Bを充足するかを検討する。
(2)「コンタクト可能状態」について
本件特許発明は,本件明細書(甲2)によると,「初対面の人物同士が出会っ
た後互いにコンタクトを取ることができるようにする」方法を提供する場合にお
いて,従来の方法では,自分の携帯電話のメールアドレスや電話番号を知らせて
「連絡可能状態」にするのが一般的であったところ(【0002】),メールアド
レス等の個人情報を伝えることに対するためらいや,現に伝えた場合の個人情報
の拡散,目的外利用などの弊害が生ずることなどから(【0004】から【00
07】),互いの個人情報(電話番号やメールアドレス)を通知しないで,連絡可
能状態とする方法を提供するものである。
そうすると,構成要件Bにおける「コンタクト可能状態」とは,メールアドレ
ス等の個人情報を交換せず,これを交換したのと同様に,利用者と相手方が連絡
可能となる状態をいうものと解せられる。
前記前提事実(5)によれば,被告物件においては,利用者が他の利用者に友人申
請を送信し,受信した利用者がこれを承認(友人申請承認)してはじめて,両者
はコミュニケーションを取ることができるようになるのであり,友人申請が承認
される以前は,被告物件を利用して連絡を取ることはできないのであるから,友
人申請の承認が完了した状態が「コンタクト可能状態」に該当すると解される。
(3)コンタクト可能状態にするための「同意」について
ア上記(2)によれば,構成要件Bにおいて「同意」の対象となるのは,上記意味
における「コンタクト可能状態にすること」であり,構成要件Dにも,「前記
確認手段による同意が取れたことの確認」が含まれていることを考慮すると,
被告物件における友人申請に対する承認が,構成要件Bの「同意」に該当する
というべきである。
イ原告は,選択的主張として,利用者1と利用者2が「一緒にボタンを押す」
ボタンを押すことが,構成要件Bの「同意」に当たると主張する(第一段階の
同意,同意の意義②)。
この点,原告自ら請求項の文言を多義的に主張することの是非はさておき,
証拠(甲12,13,乙3)及び弁論の全趣旨(前記前提となる事実を含む。)
によると,被告物件においては,利用者が,「一緒にいるボタンを押す」ボタ
ンを押した場合,同時期にその付近で同ボタンを押した他の利用者の全てが,
「一緒にいる人一覧」に検索・表示されるのであって,この場合,当初の利用
者とコンタクト可能状態になることを希望して同ボタンを押した他の利用者
のみならず,何ら意思疎通なく偶然同ボタンを押した他の利用者も検索・表示
されることが認められるから,この段階では,「一緒にいる人一覧」に表示さ
れた他の利用者が,当初の利用者とコンタクト可能状態になることに同意する
ことの確認は存しない。
また,例えば,パーティ等の会合において,参加者が,「一緒にボタンを押
す」ボタンを押すことには同意しつつ,その後,同ボタンを押した者の一部の
みとマイミクになることを希望する事態は,容易に想定することができる。
原告は,単に居合わせた者が偶然・同時に同ボタンを押すことは,想定外の
ノイズであるとして,本件明細書中の【0129】【0130】に,ノイズを
排除する構成が開示されている等と主張するが,当該段落には,何をもって「コ
ンタクト可能状態にするための同意」とするのかは明らかにされていないし,
被告物件ないし本件機能の使用態様からみて,上記のような事態を想定外のノ
イズと評価することはできないから,原告の主張は採用できない。
ウ以上によれば,「一緒にボタンを押す」ボタンを押すことが,構成要件Bの
コンタクト可能状態にするための「同意」に該当するとの原告の主張は採用で
きず,上述のとおり,利用者からの友人申請を他の利用者が承認することをも
って,「コンタクト可能状態にするための同意」と解するのが相当である。
(4)地理的情報の利用と,同意が取れたことの確認の時間的関係について
ア構成要件Bの「同意」が,前記(3)のとおり,利用者が「一緒にボタンを押す」
ボタンを押すことではなく,友人申請に対する承認をすることでされるものと
理解する場合,被告物件が地理的情報を利用する時期との時間的関係が問題と
なる。
イ原告は,地理的情報の利用時期が,最終的な同意確認前である場合も含まれ
ると主張し,その根拠として,本件明細書中の【0129】,【0130】に,
そのような構成が開示されていると主張する。しかし,明細書の記載が,直ち
に特許請求の範囲の文言の意味内容に影響を与えるものではないし,当該段落
の記載は,むしろ,あらかじめ利用者の過去の地理的位置に関する情報を登録
し,コンタクトの申出の際に,登録した地理的位置と時間に合致する相手を検
索するというのであるから,コンタクト可能状態とするための同意の際に,地
理的情報を利用するものであることが示唆されており,この点からしても,原
告の主張する解釈が導かれるとはいえない。
ウ構成要件Bは,所定の地理的エリア内に「いる」者による同意をその構成要
件とし,「所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト可能状態にするた
めの同意」を一体の要件として定めているのであるから,その確認も一体のも
のとしてなされることが予定されているというべきであり,地理的エリア内に
いることと,コンタクト可能状態にするための同意とを分断し,所定の地理的
エリア内に「いた」者について,その後に,コンタクト可能状態にするための
同意のみを確認する構成は含んでいないと解するのが相当である。
エ前記証拠及び弁論の全趣旨によると,被告物件においては,本件機能を利用
して,「一緒にボタンを押す」ボタンを押した他の利用者が検索・表示された
後に,友人申請及び承認を行う場合,他の方法によって検索・表示された利用
者に対する友人申請及び承認を行う場合と同様の処理が行われること,本件機
能を利用してマイミクとなったかどうかは,被告物件のシステム上区別されて
いないことが認められる。
これによると,被告物件において,友人申請に対する承認があったことを確
認する際に,その者が所定の地理的エリア内にいることの確認は行われていな
いことになる。
(5)まとめ
以上を総合すると,被告物件の利用者らが「一緒にボタンを押す」ボタンを押
し,付近にいる者が「一緒にいる人一覧」に検索・表示される段階では,地理的
情報の利用はあるものの,「コンタクト可能状態にするための同意」の確認はさ
れず,他方,利用者の友人申請を他の利用者が承認する際には,「コンタクト可
能状態にするための同意」はあるものの,「所定の地理的エリア内にいる」こと
の確認はされない。
したがって,被告物件は,「所定の地理的エリア内にいる者によるコンタクト
可能状態にするための同意がとれたことを確認するための確認手段」であるとの,
構成要件Bを充足しない。
2争点(3)(被告物件が,構成要件Dを充足するか)について
(1)構成要件Dは,「前記アクセス要求受付手段によりアクセス要求が受付けられた
ときに,前記確認手段による同意がとれたことの確認が行なわれたことを条件に,
同意した者同士がコンタクトを取るためのコンタクト用共有ページへのアクセ
スを許容するためのアクセス制御手段」というものである。以下,本件特許発明
の具体的内容を考慮しつつ,被告物件が構成要件Dを充足するか検討する。
(2)上記構成要件Dの文言からして,構成要件D中の「前記アクセス要求受付手段」
とは,構成要件Cにいう「アクセス要求受付手段」であり,「前記確認手段」と
は,構成要件Bの確認手段をいうことは明らかである。
したがって,構成要件Dは,構成要件Bにいう同意の確認とは別に,コンタク
トを希望する相手方に対する「アクセス要求」を受け付ける手段があることを前
提として,構成要件Cのアクセス要求が発生した際に,構成要件Bの同意の有無
について判定を行い,同意が確認された場合に,コンタクトを許容することをそ
の要件とするものと認められる。
(3)原告は,被告物件において,被告構成cの「各利用者の専用ホームページに表
示される「友人リストボタン」,「メッセージボタン」,「新着メッセージが1件あ
ります」,「つぶやきボタン」等のフィールドに張られたリンクを介して画面遷移
する操作が受け付けられることが,「アクセス要求受付手段」に該当すると主張
する。
この点,前掲証拠及び弁論の全趣旨によると,被告物件において,上記アクセ
ス要求が発生するのは,すでに利用者同士がマイミクの関係にあることを前提と
しているのであり,マイミクとなっていない利用者同士では,「メッセージ」や
「つぶやき」を利用しようとすること(アクセス要求に相当する)すらできない
仕様になっていることが認められる。
(4)すなわち,被告物件は,構成要件Bにいう「同意の確認」に相当する友人申請
の承認があってはじめて,「アクセス要求受付手段」を利用できる構成となって
おり,上記(2)にみたとおりの,同意があるかどうかにかかわらず,コンタクトを
取りたい相手方にアクセス要求を受け付ける手段や,そのアクセス要求があった
ときに,同意の有無を判定した上でアクセスを許容するような構成を備えていな
いものと認められる。
また,逆に,被告物件において,原告の主張する「アクセス要求」が発生した
際には,コンタクト可能状態にすることの同意が取れたことの確認は行われず,
まして,その同意が,構成要件Bの要件である,「所定の地理的エリア内にいる
者による」ことの確認は行われないものと認められ,この点からも,被告物件は
構成要件Dを備えないものというべきである。
(5)その他原告が主張する事情及び本件明細書を含む全証拠を考慮しても,上記判
断を覆すほどのものはない。
したがって,被告物件は,構成要件Dを充足しないというべきである。
第5結論
被告物件が,本件特許1の構成要件A及びEを充足するかについては争いがなく,
同Cの充足性については,「コンタクト共有ページ」の意味内容によるところ,共
有される対象は情報であるとする原告の主張が,本件明細書の記載から導かれるか
は必ずしも明らかではない。
しかしながら,既に検討したところによれば,被告物件が,本件特許1の構成要
件B及び同Dを充足しないことは明らかというべきであり,これと同旨の理由によ
り,被告方法は,本件特許2の構成要件G及び同Iを充足しないことも明らかとい
うべきであるから,結局,被告物件及び被告方法は,本件特許の技術的範囲に属し
ない。
したがって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも
理由がないというべきである。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
谷有恒
裁判官
田原美奈子
裁判官
松阿彌隆

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