弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成22年(わ)第25号
判決
主文
被告人3名をそれぞれ禁錮1年に処する。
被告人3名に対し,この裁判が確定した日から3年間それぞれその刑の執
行を猶予する。
差戻前の第1審における訴訟費用はその4分の1ずつを,当審における訴
訟費用はその3分の1ずつを,各被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人A1は,国土交通省近畿地方整備局D1工事事務所E1出張所(以下「E
1出張所」という。)所長として,同整備局長が海岸管理者の権限を行使する,
各々国所有でF1市に対し使用目的を公園としてその占用を許可した同市G1a丁
目b番先の,国土交通大臣の直轄工事区域内の土地である砂浜及び同区域内の海岸
保全施設である突堤の管理を行い,公衆の海岸の適正な利用を図り,同砂浜利用者
等の安全を確保すべき業務に従事していた。また,被告人B1は,F1市土木部海
岸・治水担当参事として,被告人C1は,同部海岸・治水課(以下「市海岸・治水
課」という。)課長として,それぞれ,同市が上記整備局長から占用の許可を受け
て公園として整備した地域内にある上記砂浜及び同突堤の維持及び管理を行い,公
園利用者等の安全を確保すべき業務に従事していた。
ところで,上記砂浜は,北側で階段護岸に接し,東側及び南側はかぎ形の突堤
(以下「かぎ形突堤」といい,その東側部分を「東側突堤」,南側部分を「南側突
堤」という。また,かぎ形突堤に接した付近一帯の砂浜を「本件砂浜」という。)
に接して厚さ約2.5mの砂層を形成し,かぎ形突堤は,ケーソンを並べるなどし
て築造され,ケーソン間の目地部にはゴム製防砂板が取り付けられ,同防砂板によ
って同目地部のすき間から砂層の砂が海中に吸い出されるのを防止する構造になっ
ていたが,本来耐用年数が少なくとも約30年とされていた同防砂板が数年で破損
し,遅くとも平成11年ころから,その破損部分から砂層の砂が海中に吸い出され
ることによって砂層内に空洞が発生して成長し,同空洞がその上部の重みに耐えら
れなくなると崩壊し,その部分に上部の砂が落ち込むことにより,本件砂浜表面に
陥没が生じていたため,F1市は,平成13年1月から同年4月までの間に,南側
突堤沿いの砂浜に繰り返し発生していた陥没の対策として,3回にわたって補修工
事を行ったものの,その後も南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜
において陥没の発生が続き,また,同南端付近の砂浜より北寄りの場所においても
複数の陥没様の異常な状態が生じており,抜本的な砂の吸出防止工事を実施しなけ
れば,本件砂浜において,砂層内で成長した空洞がその上部に乗った公園利用者等
の重みによって崩壊して陥没し,公園利用者等の生命,身体に危害が加わるおそれ
がある状態に至っていた。
そのような状況の下,被告人A1は,同年5月から同年6月にかけ,被告人C1
ら市海岸・治水課職員から,上記防砂板が破損し砂層の砂が海中に吸い出されて南
側突堤沿いの砂浜の陥没を食い止めることができないことや東側突堤沿い南端付近
の砂浜においても陥没が発生していることなどの説明を受け,かつ,国土交通省に
よる抜本的な砂の吸出防止工事の実施方の要望を受けた。そして,被告人B1及び
同C1は,同年1月から同年6月にかけ,いずれも同防砂板が破損し砂層の砂が海
中に吸い出されて南側突堤沿いの砂浜の陥没を食い止めることができないことや東
側突堤沿い南端付近の砂浜においても陥没が発生しているのを自ら確認したり,市
海岸・治水課職員から,その旨報告を受けたりし,被告人C1においては,同年5
月から同年6月にかけ,国土交通省近畿地方整備局D1工事事務所(以下「D1工
事事務所」という。)側に対して国土交通省による同工事の実施方を要望し,被告
人B1においては,被告人C1ら市海岸・治水課職員から,その旨報告を受けるな
どしていた。しかし,D1工事事務所側は,予算上の都合等から直ちに同工事に着
工するのは難しいとの見方であった。なお,上記のようなかぎ形突堤の構造は,被
告人3名とも,現に認識していたか,あるいはF1市による上記補修工事等を通じ
て認識することが可能なものであった。
したがって,被告人3名は,いずれも,陥没が繰り返し発生していた南側突堤沿
いの砂浜においてはもとより,ケーソン目地部に上記防砂板を設置して砂の吸い出
しを防ぐという基本的な構造が同一である東側突堤沿いの砂浜においても,同防砂
板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があることを予見するこ
とができたのであるから,被告人A1においては,遅くとも同年6月以降,国土交
通省による上記工事が終了するまでの間,E1出張所自ら,本件砂浜に人が立ち入
ることがないよう,別紙図1記載のとおり,かぎ形突堤が上記階段護岸に接合する
地点からその西方の水面を結ぶ線上にバリケード等を設置し,本件砂浜陥没の事実
及びその危険性を表示するなどの安全措置を講じ,あるいはF1市に要請して同安
全措置を講じさせ,被告人B1においては,遅くとも同年6月以降,国土交通省に
よる同工事が着工されるまでの間,被告人C1ら市海岸・治水課職員を指導して同
安全措置を講じ,被告人C1においては,同じ期間,市海岸・治水課自ら,あるい
は本件砂浜等の日常管理を同市が委託していた財団法人F1市X2協会に指示して
同安全措置を講じさせ,もって陥没等の発生により公園利用者等が死傷に至る事故
の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がそれぞれあった。
しかるに,被告人3名は,これらの各注意義務を怠り,同年11月以降も本件砂
浜において陥没発生が継続していたことを知っていたにもかかわらず,別紙図2記
載のとおり,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜の表面に現出し
た陥没の周囲のみにA型バリケード(長さ数mの鉄管2本とこれを支える枠を連続
して架設する柵で,鉄管を支える枠が側方から見て「A」の字形をしたもの。Aの
字の頂点部分及びAの字の横棒の中ほど部分に鉄管を取り付ける器具が設置されて
いる。)等を設置する措置を講ずることで事足りると軽信し,いずれも漫然と上記
安全措置を講じることなく放置した各過失の競合により,同年12月30日午後0
時50分ころ,別紙図1,2記載のとおりの東側突堤沿いの北寄り中央付近のケー
ソンの内側の砂浜において,H1(当時4歳)が,同ケーソン間の目地部に取り付
けられていた防砂板の破損により砂が海中に吸い出され,砂層内に発生し成長して
いた深さ約2m,直径約1mの空洞の上を小走りに移動中,同児を,その重みによ
る同空洞の崩壊のため生じた陥没孔に転落させて崩れ落ちた砂によって埋没させ,
よって,そのころ,同所において,同児に窒息による低酸素性・虚血性脳障害の傷
害を負わせ,平成14年5月26日午後7時3分,兵庫県明石市I1町c番d号の
Y2病院において,同児を同傷害によって死亡するに至らしめたものである。
(証拠の標目)
省略
(補足説明)
第1各弁護人の主張
被告人A1の弁護人は,同被告人には,判示の事故(以下「本件事故」とい
う。)現場付近で事故原因となった程度の大規模な陥没が発生する予見可能性
が存しなかったこと,被告人A1の職責上,F1市が占用している本件砂浜を
自らあるいは同市を指導して立入禁止にする権限は認められておらず,その作
為義務を根拠付ける法的根拠はなく,本件事故発生の回避可能性がなかったこ
とから,本件について,被告人A1は無罪である旨主張する。
また,被告人B1及び同C1の弁護人は,同被告人両名が,本件事故発生当
時,本件砂浜の砂層内に空洞が発生しており,砂浜表面に人が乗れば,その加
重で突如陥没孔が空き,生き埋めになることを予見することは不可能であった
こと,その当時,被告人B1には,F1市土木部海岸・治水課所管事項につい
ての職務権限も同課職員に対する指揮命令権限もなく,本件事故発生の回避義
務はなかったし,被告人C1についても,検察官が主張する立入禁止措置はそ
の職務権限(日常管理)を越えた管理行為であるから,本件について,被告人
B1及び同C1はいずれも無罪である旨主張する。
そこで,以下,被告人3名(以下「被告人ら」という。)に対して業務上過
失致死罪が成立すると認定した理由を補足して説明する。
なお,以下の論述においては,公判手続の更新の前後を問わず,本件訴訟で
行われた被告人ら及び分離前の相被告人J1(以下「J1」という。)の公判
供述を単に「公判供述」と呼び,証人らの証言を単に「証言」と呼ぶ(ただし,
公判供述,証言とも,差戻前と差戻後のものを分け,前者を「Aの差戻前の公
判供述(ないし証言)」と,後者を「Aの差戻後の公判供述(ないし証言)」と
呼ぶようにする。)。また,各事実の認定根拠となる主要な証拠を,適宜それ
ぞれの箇所に【】を付して証拠等関係カードの番号等により示すこととする
(ただし,「証拠の標目」記載のとおりの不同意部分は除く。また,同記載の
とおりの関係被告人の別や原本・謄本・抄本・写しの別も示さない。)。
第2本件の審理経過
本件は,平成13年12月30日,兵庫県明石市G1a丁目b番先のK1
(以下「K1」という。)東地区にある本件砂浜において,当時4歳の女児
(以下「被害者」という。)が,突堤付近の砂層内に形成されていた大規模な
空洞の上部が突如崩壊して発生した陥没孔に落ち込んで生き埋めとなり,約5
か月後に死亡した本件事故について,平成16年4月になって,事故当時の国
土交通省職員2名(被告人A1及びJ1)及びF1市職員2名(被告人B1及
び同C1)が,事故現場である砂浜の安全管理に過失があったとして,業務上
過失致死罪により起訴された事案である。
差戻前第1審の神戸地方裁判所は,平成18年7月7日,被告人ら及びJ1
が,砂浜及び突堤の維持管理を行い,その安全を確保すべき業務に従事してい
たことは認めたものの,本件事故についての予見可能性は認められないとして,
被告人ら及びJ1に無罪を言い渡した。
これに対し,検察官が控訴したところ,控訴審の大阪高等裁判所は,平成2
0年7月10日,予見可能性を認めて,差戻前第1審判決を破棄し,被告人ら
及びJ1が取りうる結果回避措置や量刑に関する審理を行わせるために,本件
を神戸地方裁判所に差し戻す旨の判決を言い渡した。
そのため,被告人ら及びJ1が上告したが,最高裁判所は,平成21年12
月7日,原判決を是認する職権判示をして各上告を棄却する旨の決定をした
(なお,同決定には,差戻前第1審判決を支持する今井功裁判官の反対意見が
付されている。)。
第3本件の事実関係
1本件事故現場付近の状況【甲22,29,31ないし33,35,37,5
0,51,238,L1の差戻前の証言等】
本件事故現場は,明石市内のM1河口に位置するK1のM1東側にある人工
の砂浜(平成9年8月完成)で,別紙図1,2のとおりであり,本件事故現場
付近の砂浜は,北側で階段護岸に接し,東側と南側はかぎ形突堤)に接し,西
側は,南側突堤の西側から北方に延びている捨石突堤や南側突堤の延長線上に
ある離岸堤,潜堤やその西側にある砂浜に囲まれた海面と接していた。
かぎ形突堤は,コンクリート製のケーソンを並べるなどして築造されており,
南側突堤の全長は約100m,東側突堤の全長は約157mであった。かぎ形
突堤は,海底に基礎捨石を積み上げて造られたマウンドの上に,南側突堤にお
いては海に面する幅約10m,奥行き約7.7m,高さ約9.3m,重量約7
00tのケーソンを並べ,東側突堤においては海に面する幅約10m,奥行き
約8m,高さ約4m,重量約300tのケーソンを並べた上,その中に中詰め
石が詰められ,ケーソンとケーソンが接する目地部分に防砂板を設置し,ケー
ソン上にコンクリートを打設するなどして築造されたものであった(以下,別
紙図2のとおり,かぎ形突堤を構成するケーソンについて南側突堤の西端から
東側突堤の北端まで順に1から25の番号で表示し,ケーソンの目地部分につ
いては「3−4番ケーソン目地部」のように表示する。)。南側突堤のケーソ
ンは,直立消波ケーソンと呼ばれ,海に面した側の一部が空洞になっており,
波が入るとその勢いが弱まる構造であったのに対し,東側突堤のケーソンは,
消波構造にはなっておらず,その海面側には11番ケーソンのやや南側から2
5番ケーソンの北側まで六脚ブロックと呼ばれる消波ブロックが設置されてい
た(別紙図2中の××印は消波ブロックである。)。防砂板は,設置されたケ
ーソン間の目地部に若干のすき間が生じるため,そのすき間から海水が侵入し
て突堤に接する砂浜の砂等が海中に吸い出されるのを防止するもので,厚さ5
ないし6㎜程度,幅0.7ないし0.75m程度,長さは取付け場所により異
なるが数mのゴム製の板で,このうち,中央部分がU字型の突起になってケー
ソン目地部のすき間に差し入れられ,その両側をフラットバーと呼ばれる金属
製の細長い板で押さえてケーソンに固定されていた。防砂板の耐用年数は,少
なくとも約30年と考えられていた。
このように,南側突堤と東側突堤とは,両者のケーソンについて,大きさ・
重量に差異がある上,消波構造であるか否かという違いもあったが,ケーソン
目地部に防砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという基本的な構造は同一であ
った。
かぎ形突堤の内側は,上記防砂板が取り付けられた後,平均潮位の高さまで
雑石が積み上げられ,その上に約2.5m程度の厚さになるまで砂が投入され
ていた。
2本件事故の発生状況【甲1ないし3,5,6,8,9,13,15等】
被害者は,平成13年12月30日午後0時30分ころ,父親とともにK1
を訪れ,同日午後0時50分ころ,小走りで東側突堤沿いの17−18番ケー
ソン目地部付近に近寄ったところ,その足下付近の砂が瞬時に落下して陥没し,
被害者はこれに巻き込まれ,いったん下半身が砂に埋まる状態で止まった後,
さらに崩壊していく陥没孔に落ち込み,間もなく全身が砂中に埋まった。父親
は,被害者を助けるため被害者の上を覆う砂を手でかき出すとともに,付近に
いた男女に子供が生き埋めになっていることを告げて救助を求めるなどした。
さらに,父親は,砂をかき出し,被害者の片手を探り当て,引っ張り上げよう
としたが,引き上げることはできなかった。通報によりF1消防署救急隊員が,
同日午後0時53分ころ,本件事故現場に到着し,救助作業に当たり,同日午
後1時16分ころ,砂中から被害者を救出した。このとき,被害者は,心肺停
止状態であった。
被害者は,直ちに救急車でY2病院に搬送され,救命措置が施され,心拍が
再開し,翌31日には自発呼吸が回復したものの,平成14年1月1日には自
発呼吸がなくなり,意識が回復しないまま,同年5月26日午後7時3分,同
病院において,窒息による低酸素性・虚血性脳障害により死亡した。
3本件事故発生直後の現場の状況【甲22,25ないし27,29ないし33,
35ないし40,51,68等】
(1)被害者が転落した陥没孔は,救助作業で掘り返されるなどして本件事故
発生時の原状をとどめていないが,平成14年2月1日から同月4日まで
の間実施された実況見分の結果【甲22。本件事故発生後ブルーシートを
かけるなどして保存されていた。】によれば,東側突堤沿いの17−18
番ケーソン目地部付近に南北約5m,東西約3.4m,深さ約1.6mの
半円形をしたすり鉢状の穴があり,その底部は,同目地部に接し,南北約
0.5m,東西約0.5mの範囲が周囲よりさらに少し深く陥没し,かつ,
周囲から崩れ落ちたと考えられる砂がたい積していた。同目地部の防砂板
は,幅約0.7m,長さ約4.5mで,防砂板取付け位置上部から約1m
下方から長さ約38㎝の亀裂があった。亀裂部分の周囲には,小さい穴が
無数に開き,その厚みは約1㎜以下と極端に薄くなっていた。
(2)捜査報告書【甲68】によれば,本件事故発生当時,東側突堤沿いの1
1−12番ケーソン目地部付近,南側突堤沿いの7−8番,8−9番及び
9−10番ケーソン各目地部付近においても,複数の陥没が発生していた
ことが認められる。また,平成14年1月25日から同年2月2日までの
間実施された実況見分【甲27,33】によれば,新たに南側突堤沿いの
5−6番ケーソン目地部付近,東側突堤沿いの14−15番ケーソン目地
部付近で陥没が見付かり,これら及び9−10番ケーソン目地部付近の陥
没に発砲ウレタンを詰めてその大きさを確かめたところ,5−6番ケーソ
ン目地部付近の陥没は,底部で東西約0.45m,南北約0.15m,深
さ約0.74m,9−10番ケーソン目地部付近の陥没は,東西最大幅約
0.45m,南北約0.4m,深さ約1.47m,14−15番ケーソン
目地部付近の陥没は,南北最大幅約0.9m,東西約0.48m,深さ約
1.45mであった。
さらに,ケーソンに接する砂層及び雑石層を掘り返して行われたケーソ
ン目地部の防砂板の状況等の調査によれば,本件事故のあった17−18
番ケーソン目地部付近を含め,7−8番ケーソン目地部付近から19−2
0番ケーソン目地部付近までの各ケーソン目地部の防砂板について,大体
平均海面付近の高さから下側に防砂板の突起部分の亀裂や穴,すり切れが
確認され,また,亀裂の長さもまちまちであるが,数㎝から数mのものが
あることが判明した。そして,南側突堤の防砂板については,損傷が激し
く,亀裂が広範囲に砂層まで及び,また,欠損している部分も多いのに対
し,東側突堤の本件事故現場周辺の防砂板については,損傷の程度は小さ
く,亀裂は平均海面付近の雑石層部分に集中しているものが多かった。
4陥没発生のメカニズム等
本件事故現場における陥没を調査,考察した土木工学関係者らの鑑定書等
【甲51,52,271ないし274,前弁14,16,20,21,N1及
びO1の差戻前の各証言等】を総合すると,陥没発生のメカニズムについては,
次のように認めることができる。
防砂板が損傷すると,損傷した箇所からかぎ形突堤内側に海水が侵入し,侵
入した海水が海に戻る際にそれに伴って破損箇所に接する部分の砂が海に吸い
出されていく。しかし,砂が吸い出されても,その周囲の砂層内の砂は水分を
含んでおり,水分を含んだ砂の粒子同士が引き合う力によって,その上部が崩
れにくくなり,そこにいわゆるアーチ作用(緩く湾曲した構造に垂直方向から
の力が作用する場合,その力を湾曲軸方向へ分散させることで,垂直方向から
の力に対して抵抗する作用)が働いて砂が吸い出された部分の上部がアーチ状
に保たれる一方で,砂層内のケーソン目地部付近には空洞が形成される。さら
に砂の吸い出しが続くと空洞は大きくなり,アーチ状の部分が上部の重みに耐
えられなくなると崩壊し,その部分に上部の砂が落ち込むため,砂浜表面に陥
没が生じる。このような空洞は,空洞の上部のアーチ作用によって崩壊を免れ
る間にその下部のケーソン目地部から砂の吸い出しが続くため,大きな空洞は,
縦長の形状になりやすい。
このような陥没発生に至るメカニズムから,本件事故は,17−18番ケー
ソン目地部の防砂板が破損して砂が海中に吸い出されることによって砂層内に
発生し成長していた深さ約2m,直径約1mの空洞の上を,被害者が小走りで
移動中,その重みによる同空洞の崩壊のため生じた陥没孔に転落し,埋没した
ことにより発生したものと推認される。
5被告人らの職責
(1)問題の所在
本件において,被告人らは,それぞれ,国土交通省近畿地方整備局D1
工事事務所E1出張所長(被告人A1),F1市土木部海岸・治水担当参
事(被告人B1)及び同部海岸・治水課長(被告人C1)の職にあり,本
件砂浜及び突堤の管理を行い,その安全を確保すべき業務に従事していた
者として,かぎ形突堤に接した砂浜一帯に人が立ち入ることがないよう,
かぎ形突堤が階段護岸に接合する地点からその西方の水面を結ぶ線上にバ
リケード等を設置し,砂浜陥没の事実及びその危険性を表示するなどの安
全措置を講じる(主位的訴因),あるいは,かぎ形突堤内側の少なくとも
約2.6mの範囲内の砂浜に人が立ち入ることができないよう,同範囲内
の砂浜をバリケード等で囲むなどの安全措置を講じる(予備的訴因)こと
により,陥没等の発生により本件砂浜の利用者等が死傷に至る事故の発生
を未然に防止すべき業務上の注意義務があったのに,これを怠り,上記安
全措置を講じることなく放置した各過失の刑事責任を追及されているもの
である。
こうした安全措置を講じるべき作為義務が被告人らに存在したかどうか
(保障人的地位の存否)は,刑法上の評価として判断されるべきものであ
るが,その検討に当たっては,まず,被告人A1が所属していたE1出張
所,あるいは,被告人B1及び同C1が所属していたF1市土木部や市海
岸・治水課のそれぞれの職責ないし権限に関する法令上の規定が重要な手
掛かりになる。
そして,刑法上の作為義務は,法令のみならず,契約,事務管理,慣習,
条理等種々の根拠から発生するものであるから,本件においては,被告人
らが,問題とされている本件砂浜の管理に,現実にどのようにかかわって
いたのかという職務遂行の実態もまた,考慮されるべきものである。
したがって,本件において被告人らにいかなる刑法上の作為義務があっ
たか判断するには,公訴事実が問題としている本件事故発生に至る経過,
すなわち,本件砂浜の陥没発生状況及び被告人らの対応等の認定・評価が
密接にかかわってくるものと考えられるが,これらの事実関係の詳細に立
ち入るに先立ち,まず,K1の整備経過や管理主体,被告人らの地位や所
属組織の所掌事務等について見ることとする。
(2)K1の整備経過及び管理主体等【甲51,163,191,238,3
89,390,396,397,乙51,71,86,前弁8,9,当審
弁22,23,31,33,P1,Q1,R1及びS1の差戻前の各証言
等】
アK1が直轄工事区域となった経緯等
K1を含むE1は,瀬戸内海(F1海峡)に面し,神戸市西端から明石
市を経て加古郡V1町に至る延長約26㎞の海岸である。昭和31年,津
波,高潮,波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護し,
もって国土を保全することを目的とする海岸法(平成11年法律第54号
による改正前の海岸法1条参照。なお,以下では,同改正後の海岸法を
「新海岸法」と表記する。)が施行され,昭和32年10月10日,U1
県知事(知事職務代理者である副知事)により,K1を含むE1の大半が
海岸保全区域として指定された(海岸法3条1項。なお,K1については,
昭和54年と平成5年に同区域の変更がなされている。)。これに伴い,
U1県知事が海岸管理者として,K1の管理を行うこととなり(同法5条
1項),当該海岸保全区域において,海岸保全施設の新設,改良,維持修
繕等の行為のみならず,同区域の占用の許可,行為制限等の行政処分を含
む海岸の保全に関する一切の権限と責任を有することとなった【当審弁3
1・41頁参照】。
この当該海岸保全区域の存する地域を統括する都道府県知事が行う同区
域の管理は,いわゆる国の機関委任事務である。すなわち,海岸は,自然
公物であり,国の公物として一般的に観念されていることから,本来的に
国が公物管理を行うべきものであり,海岸法の上記目的に資するような事
務は,地方公共団体が行うべき事務(団体事務)とは性格を異にし,国民
の生命,財産の安全等本来的に国の事務として扱われるものである。この
ように,海岸の管理は,本来的に国の事務という性格を有するものではあ
るが,法の運用に当たっては国が一般的指揮監督権限を留保し,具体的な
事務の執行に当たっては地域の実情に精通した地方公共団体の長の知見を
活かし,相当な量にのぼる事務を効率的に実施し,海岸行政のきめ細かな
運用を図るために地方公共団体の長に委任することが適切と考えられた。
このため,海岸法は,海岸の管理に関する事務を地方公共団体の長が,国
の機関として処理する事務(機関委任事務)として取り扱うこととしたも
のと解されている。なお,機関委任事務においては,地方公共団体の長が
国の機関としての立場に立ち,国は,指揮監督,処分の取消し及び停止,
職務執行命令,代執行,罷免等の権限を有するものである【当審弁31・
214ないし216頁参照】。
ところで,海岸法上,海岸保全施設に関する工事は,原則として海岸管
理者が施行すべきものとされているが,その新設,改良又は災害復旧に関
する工事の規模が著しく大であるとき,あるいは,そのような工事が高度
の技術を必要とするときなど,同法6条1項所定の事由に該当する場合,
海岸管理者が工事を施行するのは困難又は不適当な場合もあることから,
当該海岸保全施設が国土の保全上特に重要なものであると認められるとき
は,主務大臣が海岸管理者に代わって自らその工事を施行することができ
るとされており(同条同項),これは主務大臣の直轄工事と呼ばれている。
そして,E1においても,国(建設省)が主体となって浸食対策事業を
進めることとなり,昭和36年7月24日,K1を含む海岸保全区域内に
ある海岸保全施設について,直轄工事を施行することが公示された。
主務大臣が直轄工事を施行できるのは,海岸保全施設の新設,改良又は
災害復旧に関する工事のみであって,通常の維持,補修等当該海岸保全区
域の管理に関する事務は海岸管理者が行うものであるが【当審弁31・7
5頁参照】,主務大臣が直轄工事を施行する場合,政令で定めるところに
より,海岸管理者に代わってその権限を行うものとするとされている(海
岸法6条2項)。その趣旨は,主務大臣に当該工事の施行と密接に関連す
る行政処分等の代行権限を付与し,工事を施行する者と行政処分を行う者
とを分離しないことにより,海岸行政を円滑に推進しようとするものであ
ると解されている【当審弁31・76頁参照】。主務大臣の権限代行の範
囲は,具体的には海岸法施行令に規定されており,ちなみに,本件事故発
生当時は,主務大臣が行う直轄工事の区域内において行われる諸行為に対
し,海岸法7条1項の規定による占用の許可を与え,又は同法8条1項の
規定による行為の制限を行うこと(海岸法施行令1条の5第1項1号の
3)や,主務大臣の行う直轄工事の区域内において,一定の行為を行う者
に対し,海岸法12条1項又は2項の規定に基づく監督処分を行うこと
(同施行令1条の5第1項3号)などが掲げられていた。なお,主務大臣
は,海岸法40条の2の規定により,その権限の一部を地方支分部局の長
に委任することができるとされているところ,本件事故発生当時,地方支
分部局の長に委任されることとなる主務大臣の権限には,海岸法施行令1
条の5第1項に規定された海岸管理者の代行権限も含まれていた(同施行
令14条)。
イK1CCZ整備事業の計画及び経過等
CCZ事業とは,コースタル・コミュニティ・ゾーン整備計画の略称で
あり,当時高まりを見せていた海洋性レクリエーションの要望等に応える
ため,昭和61年に建設省が策定したコースタル・コミュニティ・ゾーン
整備推進要綱に基づき,「ふれあいの海辺」をテーマとし,安全でうるお
いのある海岸環境を整備し,各種レクリエーションなどを通じ,人々が気
軽に海と親しめる場を創出しようとする事業である。
そのころ,E1一帯においても,海浜をうるおいとふれあいの空間とし
て利用したいという要請が強くなっていたこと,F1海峡大橋の建設開始
を契機として沿岸域の地域整備の機運が高まっていたことなどから,T1
市がW1に,F1市がK1に,それぞれ海浜公園の建設を計画した。平成
元年9月,その実現に向け,U1県とF1市は,F1東部海岸整備基本計
画策定委員会を設置し,平成2年6月にかけ,同委員会により整備事業の
基本計画が審議,策定された。
また,大半が直轄工事区域となっていたE1は,建設省の管理下にあっ
たことから,平成元年9月,建設省,U1県,T1市及びF1市の間で,
関係機関の連絡及び調整を図る組織として,E1CCZ整備推進連絡協議
会が設置され,同協議会において,関係機関の意見交換が行われるととも
に,W1とK1の各CCZ計画が審議された。
平成2年7月,K1CCZ整備計画につき,建設大臣から認定を受けた
F1市は,K1の基本設計と詳細設計を進め,平成5年3月,U1県知事
から公有水面埋立免許を受け,F1市が主体となって,埋立造成工事等を
施行した。
U1県知事は,平成9年3月及び同年7月,それぞれ公有水面埋立工事
の竣工を認可し,同年8月には,D1工事事務所長が免許条件に基づく海
岸管理者に帰属する施設等の完成検査を完了した。
公有水面埋立法では,原則として埋立免許を受けた者が竣工認可告示の
日に埋立地の所有権を取得するとされているが(同法24条1項本文),
公用又は公共の用に供するため必要な埋立地で埋立の免許条件をもって特
別の定めをしたものはこの限りではなく(同項ただし書),K1の埋立免
許に際しては,「海岸保全施設用地(中略)を,それを構成する工作物と
ともに建設省に帰属させ(る。)」旨の条件が付されていたことから,階
段護岸等の海岸保全施設用地が建設省に帰属するとともに,かぎ形突堤や
本件砂浜等も施工者であるF1市から建設省に引き継がれ,同省が所有す
るに至った。
その後,F1市は,建設省の地方支分部局である近畿地方建設局の長
(海岸法40条の2,同法施行令14条1項に基づく海岸管理者の権限代
行者)との間で海岸法所定の協議を行い,平成10年2月13日,同局長
から,本件砂浜,かぎ形突堤,階段護岸等を含む地域につき,占用目的を
公園,占用期間を平成15年2月12日までとして,占用の許可(海岸法
7条)を得,平成10年3月,K1は一般開放されるに至った。なお,海
岸法7条の占用の許可は,公物管理権の作用として,海岸(海岸保全施設,
国有海浜地)を排他,独占的に継続して使用する権利を設定する行為と解
されている【当審弁31・145頁参照】。
ウ財団法人F1市X2協会(以下「X2協会」という。)によるK1の管
理等
X2協会は,F1市が100%出資している財団法人で,同市内の公園
等の設置及び管理に関する事業等を行うため,公園管理課等3課が置かれ
ており,公園管理課第1係がK1を含む市内東部地区の公園等の維持管理
に関する事務等を,同課第2係が市内西部地区の公園等の維持管理に関す
る事務等を分掌していた。これら各係では,係長らのほか,市役所を退職
した嘱託員やF1市Z2センターから派遣された者らによって業務が処理
されていた。
F1市は,かねてより,X2協会に対し,市内にある公園の維持管理業
務等を委託していたところ,K1についても,X2協会との間でK1海浜
等維持管理業務委託契約を締結し,その日常管理業務を委託していた。
同契約上,管理業務の具体的内容は,仕様書で定めるとされ,仕様書に
明示されていないもの又は疑義があるものについては,協議して定めるも
のとされていた。K1海浜等維持管理業務仕様書には,「K1の砂浜(中
略)の清掃,除草,潅水,剪定,防除,施肥,補修,施設点検,破損箇所
補修等維持管理に関する業務」と明記されていた。
また,同契約書には,F1市は,「委託業務の処理状況について随時に
調査し,必要な報告を求め検査することができるとともに業務の実施につ
いて必要な指示をすることができる。」(6条),X2協会は「委託業務
の成果を(F1市に)報告し,(F1市の)検査を受けなければならな
い。」(11条)などと規定されており,F1市は,委託業務の処理につ
いて,X2協会に指示する権限を有していた。
X2協会は,これらの定めに従い,警備員等を配置するなどして,K1
の砂浜や施設等の巡視,点検等を行っており,警備員等から異常があると
の報告を受けた場合には,適宜,その内容をF1市(市海岸・治水課)に
連絡していた。
エ本件砂浜及びかぎ形突堤等の所有,管理関係等
上記認定のとおり,かぎ形突堤や本件砂浜を含むK1の砂浜,階段護岸
等は,公有水面を埋め立てるなどして造成,築造されたものであるところ,
完成後,国(建設省(なお,平成13年1月の中央省庁組織再編後は国土
交通省)。以下,単に「国」という。)に帰属ないし引き継がれ,いずれ
も国が所有するに至った。このうち,本件砂浜を囲むかぎ形突堤や護岸等
は,海岸保全施設に該当するのに対し,本件砂浜を含むK1の砂浜全域は,
海岸管理者が設けたものではなく,かつ指定したものでもないため,新海
岸法2条1項所定の要件を充足しないことから,海岸保全施設には該当し
ない。
主務大臣は,直轄工事が完了した場合には,海岸管理者による海岸の一
体的管理の観点から,当該海岸保全施設を海岸管理者に速やかに引き渡す
こととされているが【当審弁31・75,76頁参照】,E1については,
本件事故発生当時も,直轄工事が完了した区域を含め,全体が直轄工事の
施行中であるとして扱われており,本来の海岸管理者であるU1県知事に
引き渡されておらず,当該海岸保全施設の維持管理については,直轄工事
が完了した区域も含め,近畿地方建設局の後身である近畿地方整備局内に
置かれたD1工事事務所が行っていた。D1工事事務所は,X1及びY1
の改良工事,維持修繕その他の管理等,E1を含むU1県Z1沿岸,V1
沿岸及びA2沿岸における海岸保全施設に関する工事,一般国道e号等の
改築及び修繕工事,維持その他の管理を主な業務としているもので(地方
整備局組織規則別表4),本件事故発生当時,D1工事事務所には12の
課が置かれ,各課の所掌事務は,近畿地方建設局組織細則40条以下に定
められており(なお,近畿地方整備局内の各事務所では,中央省庁組織再
編後も同細則に従って職務が遂行されていた。),同細則44条1項に掲
げる事務のうち,河川及び海岸に関する事務は工務第一課の所掌事務とさ
れていたところ(44条6項),46条1項,50条1項等により,44
条1項所定の一部事務が他課の所掌事務とされ,51条1項,8項により,
河川等に関する事務が河川管理第一課及び同第二課の所掌事務とされてい
たことから,結局,工務第一課は,工事の実施計画(44条1項3号),
同実施設計(同4号),同調査(同5号),同実施の調整(同6号),同
施工,監督及び検査(同7号),工事の実施上必要な保安及び危害予防
(同9号),工事開始から工事完成までの工事用地の管理(同20号の
2)等に関する各事務のうち海岸に関する事務や,海岸の管理に関する事
務(同21号の2)をつかさどるものとされていた。
そして,K1については,平成11年3月,D1工事事務所と占用の許
可を受けているF1市との間で,その維持管理に関する必要な事項につい
て,「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」が締結されていた。
同覚書には,「公園の維持管理行為のうち,(1)清掃,除草及び草刈,
(2)樹木,草花及び芝生の維持管理,(3)樹木,草花及び芝生の植替え(位
置及び種類の変更を伴うもの,新規及び増減を伴うものを除く。)につい
ては海岸法に基づく協議を要しないものとする。」(2条1項),「(1)
園路,広場及び砂浜の地盤整正,(2)公園施設が損壊したときの原形復旧
及び修繕,(3)軽微な施設の一時的な設置及びその撤去(の)海岸保全施
設に支障のない行為については,E1出張所長への届出によるものとす
る。」(同条2項),「海岸保全施設に関する工事を施工するため公園を
使用するときは,甲(D1工事事務所)は乙(F1市)に対して,その区
域,工事概要及び期間について,あらかじめ通知するものとする。」(3
条1項),「海岸保全施設に関する工事を施工するとき,甲は公園の利用
者に危険を生じさせないよう必要な措置を講ずるものとし,工事が完了し
たときは速やかに乙に報告し原状回復を行うものとする。」(同条2項),
「この覚書に定めのない事項又は疑義を生じた事項については,その都度,
甲乙が協議して定めるものとする。」(6条)などと規定されていた。
オ新海岸法の目的
近年,国民の海岸環境に対する関心の高まりとともに,心の豊かさに対
する意識が高まってきており,海岸管理者として,国民共有の財産である
海岸の機能を適切に保持していく要請に的確に答えることが必要になって
きていたため,平成11年,海岸法が改正され,法律の目的として,従来
の「海岸の防護」とともに,「海岸環境の整備と保全」及び「公衆の海岸
の適正な利用」が新たに加えられた(新海岸法1条)。
ここに「海岸環境」とは,海と陸とが相接する空間という海岸の特性に
由来する自然環境と人との関わりにおける生活環境の両者を包含するもの
であり,「海岸環境の整備と保全」とは,海岸の有する生態系上の機能及
び親水・景観機能に関する整備と保全を意味するものである。また,「公
衆の海岸の適正な利用」とは,国民共有の財産である海岸空間を人々が快
適に利用する状態を意味するものであり,海岸管理者には,人々が海岸を
利用することにより享受する恩恵の公平化,増大を図ることが求められて
いるものである。
したがって,本件事故発生当時,海岸の管理に当たっては,個別の海岸
の状況等を踏まえ,防護のみならず,それと環境及び利用の調和のとれた
総合的な管理が適切に行なわれる必要があるとされていたもので,海岸管
理業務に従事する者には,改正前に比して,海岸利用者の安全確保に留意
しながらその職務を遂行することが要求されるようになっていたと解する
のが相当である。
(3)被告人らの地位及び所属組織の所掌事務等【甲165,371,乙31,
50,70,86,B2,C2,L1,R1及びD2の差戻前の各証言
等】
ア被告人A1【乙33,37等】
被告人A1は,昭和43年,建設省職員となり,平成12年4月,D1
工事事務所E1出張所長に就任し,本件事故発生当時もその職にあった。
本件事故発生当時,D1工事事務所においては,前記第3の5(2)エの
とおりの12の課のほかに,E1出張所をはじめ,7つの出張所が置かれ
ていた。近畿地方建設局組織細則によると,出張所の所掌事務については,
事務所長が必要な事項を定めることができるとされていた(72条1項)
が,E1出張所については,本件事故発生当時においても,そのような定
めはなく,従前から引き継がれていた事務,例えば,D1工事事務所の発
注した工事の監督,海岸保全施設の管理(巡視,100万円以下の補修工
事等),地元からの苦情・行政相談の受付と処理,地方公共団体との連絡
調整,占用許可申請などの受付,不法占用者に対する行政指導,E1に関
連するイベントへの参加,災害時の門扉の操作の指示等を行っていた。
イ被告人B1【乙57,被告人B1の差戻後の公判供述等】
被告人B1は,昭和38年,F1市職員となり,平成12年4月,F1
市土木部参事(海岸・治水担当で,事務取扱いの辞令はない。)に就任し
たが,F1市土地開発公社参事(事務取扱いの辞令はある。)兼同社技術
課長事務取扱の職にも就いており,本件事故発生当時も同じ職にあった。
土木部は,海岸,港湾その他海岸線の整備に関することや河川その他土
木に関することなど(F1市事務分掌条例2条)を所掌事務とし,同部に
は,海岸・治水課が置かれ,同課の中には,管理係,海岸係及び治水係が
設けられていた。土木部内の事務分掌については,F1市事務分掌規則に
定めがあり,管理係は,海岸整備に係る施設の維持管理に関すること,海
岸整備に係る海浜地の調査等に関することなどを,海岸係は,海岸整備計
画の策定及び企画調整に関すること,海岸及び港湾の工事の測量,設計及
び施行に関すること,海岸及び港湾の工事等に係る国及び県との連絡調整
に関すること,その他海岸及び港湾の整備に関することなどを所掌するも
のとされていた(12条)。
F1市決裁規程等によると,参事には2種類あり,辞令上,「事務取扱
い」となっている場合には決裁権限があり,それがない場合には決裁権限
がないが,いずれの参事も,職階上,部長,次長に次ぐ職であって,次長
級とされており,部長の命を受け,部内事務に係る重要事項又は高度な専
門的事項の調査,研究,企画及び調整を行うことを職務とするとされてい
た。
参事である被告人B1の担当事務としては,海岸整備関係事業に係る総
合調整に関すること,治水関係事業に係る総合調整に関すること,F1市
土地開発公社事業の技術指導及び総合調整に関することが定められていた
ところ,土木部長であるR1は,技術系の職員であった被告人B1が豊富
な技術的知識を有していることを見込んで,事務系の職員であった海岸・
治水課長被告人C1の技術面に関する知識を補うことを期待し,被告人C
1に対し,日ごろから,海岸・治水課の業務遂行について,被告人B1に
相談するよう指示していた。
ウ被告人C1【乙77,78,80等】
被告人C1は,昭和49年,F1市職員となり,平成12年4月,市海
岸・治水課長に就任し,本件事故発生当時もその職にあった。
F1市決裁規程によれば,市海岸・治水課において500万円未満の工
事の施行又は修繕(物品に係るものを除く。)を行う場合は課長の決裁の
みで足りるとされていた(ただし,工事の施行に関しては,年度初めに単
価契約を締結した業者に工事を発注する場合を除き,財政課長との合議又
は連絡が必要であった。)。
6本件事故発生に至る経過(本件砂浜の陥没発生状況及び被告人らの対応等)
(1)本件事故発生以前の南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近(1
1−12番ケーソン目地部付近)の砂浜の陥没の存在等【甲63,64,
68,81,158,170,171,173,175,190,202
ないし204,238,240,291,295,313,332,33
3,336,339,348,359,368,380,乙2,4,7,
8,11,13,19ないし21,24,26,27,29,30,40,
42ないし45,60ないし64,69,70,74,B2,C2,P1,
Q1,L1,E2及びF2の差戻前の各証言,被告人ら及びJ1の差戻前
の各公判供述等】
アかぎ形突堤の内側南側突堤沿いの8−9番及び9−10番ケーソン各目
地部付近の砂浜では,遅くとも平成11年ころには陥没等が発生していた。
イ平成12年11月5日ころ,東側突堤沿いの11−12番ケーソン目地
部付近に陥没があった。同月ころ,X2協会の公園管理課管理第2係長で
あったP1は,南側突堤沿いの2か所で発生した陥没(直径約30ないし
40㎝,深さ約20㎝)をスコップで埋めたことがあった。また,同月こ
ろ,同課管理第1係長であったQ1は,部下職員から陥没があったので土
のう袋等で埋め戻した旨の話を聞き,同月ないし同年12月ころ,自らも
かぎ形突堤の角部分の10番ケーソン内側付近で陥没を目撃し,市海岸・
治水課に陥没が発生していることを電話連絡した。
ウ平成13年1月2日,G2は,友人と釣りをするため,K1を訪れ,上
記10番ケーソン内側付近及びその西側約10ないし15mの地点付近に,
ケーソン目地部を中心として陥没があるのを目撃した。G2は,帰宅後,
F1警察署に電話をかけて陥没の場所等を知らせ,F1警察署はF1市に
その旨連絡した。F1市では,同月4日,南側突堤沿いの6−7番ケーソ
ン目地部付近で陥没が発生しているのを確認した。
同月17日,P1は,X2協会の嘱託職員かZ2センターの者から,本
件砂浜に陥没がある旨の連絡を受け,現地へ赴くと,6−7番ケーソン目
地部付近に大きな陥没があった。また,かぎ形突堤の折れ曲がった角部分
から北に10m以内の東側突堤沿いに1か所,上記6−7番ケーソン目地
部付近の陥没とかぎ形突堤の角部分の間の角に近い南側突堤沿いにも1か
所陥没があった。P1らX2協会職員は,6−7番ケーソン目地部付近の
大きな陥没の周りをカラーコーンやトラロープで囲むとともに,その付近
から東側突堤沿いの11番ケーソン付近までをカラーコーンとトラロープ
で囲い,陥没に人が近寄らないように注意喚起をする警告文を木製の杭や
カラーコーンに貼り付けた。同月19日当時,南側突堤沿いの6−7番ケ
ーソン目地部付近の陥没は,東西約3m,南北約2m,深さ約1.7mで
あった。被告人B1及び同C1は,P1からの上記陥没の状況の連絡を受
け,同月17日,K1を訪れ,上記6−7番ケーソン目地部付近の陥没を
現認するとともに,上記のような立入禁止及び注意喚起の保安措置が講じ
られていることを認識した。市海岸・治水課では,上記6−7番ケーソン
目地部付近の大きな陥没に対処するため,当面の措置として同月19日陥
没箇所に粒径40㎜程度の砕石を投入するなどして埋め戻す工事を行い,
経過を観察することとした。被告人B1及び同C1は,市海岸・治水課で
回覧された苦情等処理票により,上記6−7番ケーソン目地部付近の陥没
の状況,これに対処するため上記工事が行われたことに加え,陥没の原因
がケーソン目地部に取り付けられた防砂板が破損し,砂が海に吸い出され
ていることによるものであると思われる旨の報告を受けた。
上記のように,市海岸・治水課では,同月19日,6−7番ケーソン目
地部付近において,発生した陥没に砕石を投入し,その上に砂を被せて埋
め戻す工事をX2協会の費用負担により行ったが,その数日後には,再び,
南側突堤沿いの6−7番,8−9番及び9−10番ケーソン各目地部付近
で相次いで陥没が発生した。そのため,そのころ,被告人B1,被告人C
1,市海岸・治水課主幹兼海岸係長のL1及び同課専門員のE2ら市海
岸・治水課職員は,対策を協議し,K1のかぎ形突堤や砂浜を所有する国
の方で工事をしてもらう方がよいなどの意見も出たが,被告人B1が,
「国とか市とか言っている場合ではない。海岸利用者が陥没にはまったら
危ない。早く対処しないといけない。」旨の発言をし,同人の発案で,F
1市において,砂を掘り返して水砕スラグ(水に反応すると徐々に固まる
物質)入りトン袋を使ってケーソン目地部を塞ぐ工事を行うことになり,
X2協会が工事費用を負担し,同月29日及び翌30日,同工事が施行さ
れた。被告人B1は,同月29日,E2とともに,同工事の施行状況を現
場で確認し,被告人C1は,後日,写真で同工事の施行状況を確認した。
エしかし,上記工事施行後も,同年2月5日,南側突堤沿いの8−9番ケ
ーソン目地部付近で陥没が再発し,同月26日にも,南側突堤沿いの7−
8番ケーソン目地部付近で陥没が発生した。X2協会では,カラーコーン
やトラロープを使って人が近付かないようにする措置をとり,それらにつ
いて記載されたパトロール記録が市海岸・治水課内で回覧され,その状況
を被告人B1及び同C1は認識した。市海岸・治水課内では,国の方で補
修工事を施行してもらうように要望しようとの気運が高まり,同月28日,
被告人B1及び同C1の指示を受けて,L1が,別の用件でF1市役所を
訪れたD1工事事務所工務第1課海岸係長のH2に対し,平成13年にな
ってからかぎ形突堤の南側突堤沿いの砂浜で陥没が発生していること,F
1市側で2回(同年1月19日と同月29日及び翌30日)工事を行った
が,南側突堤沿いの砂浜で陥没が再発していることなどを説明し,D1工
事事務所の方で対応してほしいと依頼したが,H2は,その場では明確な
返答をしなかった。
オ同年3月になると,南側突堤沿いの砂浜で発生していた陥没(7−8番
及び8−9番ケーソン各目地部付近)は徐々に大きくなっており,被告人
B1及び同C1はその状況を回覧されたパトロール記録等で認識していた。
カ同年4月18日,南側突堤沿いの3か所(7−8番,8−9番及び9−
10番ケーソン各目地部付近)で,陥没発生原因の調査を兼ねて砂を深く
掘り返し,破損している防砂板の上に新しい防砂板を取り付け,土のう袋
で押さえるという補修工事がF1市により施行された。被告人C1は,E
2とともに工事現場へ赴き,その施行状況を確認し,その後,E2が撮影
した写真等から,防砂板が砂層と雑石層との境目辺りで破損し,ケーソン
目地部から入った海水が掘り下げてできた孔の底部に溜まっていることな
どを認識した。被告人B1も,それらの状況をE2から説明を受けたり,
工事写真帳を見るなどして認識した。
キ同年4月の上記補修工事後も,砂の吸い出しを止めることができず,市
海岸・治水課の定期パトロールで,同年5月2日(「砂浜南端部での陥没
が進んでいる。」),同月14日(「砂の吸込み計3ヶ所」,そのうちの
1か所は7−8番ケーソン目地部付近【甲68写真31】),南側突堤沿
いの砂浜で陥没が発生していることが判明した。被告人B1及び同C1は,
回覧されたパトロール記録でその状況を認識した。
市海岸・治水課では,砂の吸い出しを防止するためにはその原因に関す
る詳細な調査をし,抜本的な工事を行う必要があるという結論に達したが,
同年4月の上記補修工事の際に判明した防砂板の破損状況等から見て,防
砂板の破損が砂の吸い出しの原因である可能性が高く,上記補修工事を行
った3か所以外の防砂板についても同様に損傷しているおそれがあり,そ
うすると,相当大規模な補修工事を行う必要があることから,かぎ形突堤
を所有する国に対し,その施行を要請することとした。そして,F1市が
D1工事事務所に対してかねてより要望していたK1の砂浜にミニ突堤を
設置する件に関し,被告人A1がK1を訪れる予定があったことから,被
告人C1の指示で,L1が現地で陥没の発生状況等を被告人A1に説明す
ることになった。L1は,かぎ形突堤の平面図及び標準断面図,同年4月
に施行した補修工事の模様を撮影した写真等を添付した説明用資料を作成
し,被告人B1及び同C1に目を通してもらった上,これらを被告人A1
に届けた。
被告人A1は,同年5月17日,E1出張所事務係長のI2とともにK
1を訪れ,L1,E2らからミニ突堤の設置の件とともに,陥没の発生状
況やF1市側が施行した補修工事の概要等の説明を受けた。その時点で,
南側突堤沿いの7−8番,8−9番及び9−10番ケーソン各目地部付近
の3か所に陥没が発生し,カラーコーンやトラロープで陥没の周囲を囲む
などの保安措置がとられており,E1出張所側も,その状況を写真撮影し
た。その際,L1は,同年4月の上記補修工事の際に行った調査により,
ケーソン目地部に取り付けられた防砂板が破損しており,そこから砂が海
に吸い出されている可能性が高いことなどを被告人A1らに伝えた。被告
人A1は,ミニ突堤の設置は,国が取り組むべき海岸保全とは関係がなく,
砂浜利用者の利用上の問題であるとして,国が実施することに難色を示す
一方,陥没対策については,砂の吸い出しが続けば砂浜の保全機能に影響
するおそれがあると考え,緊急性や必要性があるなどと言って積極的に取
り組む姿勢を見せ,すぐにD1工事事務所に報告すると述べた。被告人A
1は,K1の視察やL1から受けた説明等を基に,陥没の発生状況や原因,
これまでのF1市側の対応等を文書にまとめ,L1から受け取った資料を
添付し,E1出張所内で回覧したほか,同年5月18日,D1工事事務所
へ赴き,J1及び,H2の後任としてD1工事事務所工務第1課海岸係長
となったB2に対し,上記文書に基づいて説明するとともに,F1市がD
1工事事務所側に抜本的な対策を講じてほしい旨要望していることなどを
伝えた。
ク同年6月4日には,南側突堤沿いの上記3か所のほか,新たに東側突堤
沿いの11−12番ケーソン目地部付近でも陥没が発生し,その大きさは,
同月11日には南北約2.4m,東西約1m,深さ約0.8mであった。
同月14日,F1市は,E1出張所に対し,同年7月1日から同年8月
31日までK1を海水浴場として使用するための届出書を提出した【甲3
91】。
同年6月15日,D1工事事務所において,D1工事事務所とF1市と
の間で,平成14年度の予算要望に関する事前打合せ(以下「事前打合
せ」という。)が開催され,D1工事事務所工務第一課からはJ1及びB
2らが,E1出張所からは被告人A1が,市海岸・治水課からは被告人C
1及びL1らが出席した。その際,F1市側は,D1工事事務所側に対し,
上記のような陥没の状況(東側突堤沿い南端付近の砂浜における陥没の発
生を含む。)や防砂板の破損状況を説明した上,抜本的な対策工事を要請
した。J1は,当初,かぎ形突堤や砂浜はF1市が工事をして作ったもの
であるから,F1市側で行うべきであるなどとして,国が対策を講じるこ
とについて消極的な姿勢を示したが,F1市側が,本件砂浜やかぎ形突堤
の所有権は国に帰属しているとして,国側で対策を講じるよう強く求めた
ため,結局,国側が対策を考えるということで落ち着いた(なお,このと
き,J1が最終的にどのような発言をしたかについては,D1工事事務所
側(J1,被告人A1及びB2)とF1市側(被告人C1及びL1)との
間で食い違いがあり,前者が,海水浴期間中はK1を訪れる人が増えるた
め,F1市の方で安全管理にはより一層注意を払ってほしいと述べた旨供
述するのに対し,後者は,公判で,J1が,海水浴期間終了後,D1工事
事務所側で対策工事を行うとともに,安全管理も行うと発言した旨供述し
ている。しかし,事前打合せ終了後,被告人A1がその協議内容をまとめ
た「F1海岸における事業打合せ」と題する書面中には,この点について,
「予算措置もあり直ちに修繕が出来ないが対策を考えている。海水浴期間
中の安全管理に関しては市でお願いする。」との記載があること【被告人
A1の公判供述,甲292】,他方,被告人C1の手元に残されていた資
料【甲401】中には,手書きで「海水浴シーズン後に工事検討してほし
い。」「(シーズン中の安全管理はくれぐれも注意を!)」と記載されて
いることなどからすると,J1の発言内容は,海水浴期間経過後はD1工
事事務所側で対策工事を行うなどと約束したものであったとは認められな
い。)。
被告人B1は,事前打合せに出席しなかったが,被告人C1からその協
議内容について報告を受けた。
ケK1は,同年7月1日から同年8月31日まで海水浴場として利用され,
同年7月3日には,J1及び被告人A1らD1工事事務所関係者が事前打
合せの経緯を受けてK1を視察した。X2協会は,海水浴期間中,警備会
社にK1の警備を委託していたところ,同社警備員は,同月17日,陥没
が発生したことを警備日誌に記載した(警備日誌の記載からは場所は特定
できない。)。また,同月31日,散歩中の人が陥没の存在を警備員に告
げ,警備員が南側突堤沿いで三,四か所の陥没を見付けてカラーコーンと
バーで人が立ち入らないようにする措置をとった。
コ同年10月15日,市海岸・治水課の定期パトロールにより,東側突堤
の11−12番ケーソン目地部の上部工(ケーソンの上に打設されたコン
クリート部分)に四,五㎝のすき間が発生しているのが見付けられ,E1
出張所職員も,市海岸・治水課からの報告を受けて現地確認をした。
サ同年11月12日,市海岸・治水課の定期パトロールにより,東側突堤
沿いの11−12番ケーソン目地部付近や南側突堤沿い(なお,正確な場
所は特定できない。)で陥没が発生しているのが見付かった。X2協会の
P1及びQ1は,東側突堤沿いの12番ケーソン付近から南側突堤中央付
近を結ぶようにカラーコーンを設置して,陥没が発生していた周辺に人が
立ち入らないようにする措置をとるとともに,東側突堤と南側突堤上にも
カラーコーンを設置し,その直下に陥没があるという注意喚起の措置をと
った。被告人B1及び同C1は,陥没の発生状況等について,パトロール
記録等により報告を受けていた。
その後,Q1は,カラーコーンは風で倒れたりするので,立入防止策と
しては十分でないと考え,市海岸・治水課に対し,X2協会の方でフェン
スのようなものを設置することを提案したが,市海岸・治水課の方で対策
を講じるとの回答を受けた。
シ市海岸・治水課では,海水浴期間終了後の同年9月中旬ころから,D1
工事事務所側に対し,陥没対策を講じるよう重ねて要望していた。B2も,
被告人A1から陥没が依然として発生していることなどを聞き,J1に対
し,コンサルタント会社に依頼するなどして再調査する必要があるなどと
進言していた。J1も,F1市が同年4月の上記補修工事の際に実施した
調査では,雑石層上面から下の状況が明らかでなかったため,さらに調査
した方がよいと考え,別件の設計業務を委託するコンサルタント会社に対
し,本件の陥没対策に関する調査もさせることにした。被告人A1も,同
年10月ころ,J1から上記意向を聞き,それを市海岸・治水課のL1に
伝えた。
ス市海岸・治水課の定期パトロールにより,同年12月3日(「特に変化
なし,少し深くなったかも」との記載あり),同月10日(南側突堤の中
央部付近に砂の吸出し1か所の表示あり),同月17日(「K1砂の吸
い出し場所先週埋め戻した部所の砂が吸い出され,穴になっていた。」
と記載され,南側突堤沿いの2か所と東側突堤沿いの1か所に穴の位置の
図面添付。1か所は7−8番ケーソン目地部付近)にも,南側突堤沿いで
これまでと同様の陥没のあることが確認され,特に,同月17日には,東
側突堤沿いの1か所でも陥没が発生していることが確認された。X2協会
は,同月7日,南側突堤沿いの3か所及び東側突堤沿いの1か所で発生し
ていた陥没に対し,人の立入り等を防止するため,南側突堤沿いの6−7
番ケーソン目地部付近から東側突堤沿いの11−12番ケーソン目地部付
近までを囲うようにしてカラーコーンとトラロープを設置するとともに,
東側突堤と南側突堤上にもカラーコーンを設置し,その状況を市海岸・治
水課のL1に報告した。L1は,E1出張所技官のC2にその状況を報告
したところ,C2は,現地を確認して写真を撮影し,被告人A1に報告す
るとともに,D1工事事務所のB2あてにファクシミリで陥没の発生状況
やF1市側の立入防止策の実施状況を報告した。J1は,同月10日ころ
になって,それらのファクシミリ送信された資料を見ながら,B2からそ
の状況について説明を受けた。
同月11日,J1は,B2とともに,陥没対策の調査を依頼したコンサ
ルタント会社のF2に対し,南側突堤沿いの陥没の写真やかぎ形突堤の構
造等に関する図面を示すなどして,平成14年1月10日までに陥没対策
等の見積書や計画書を提出することを求めた。F2は,平成13年12月
16日,K1へ足を運び,南側突堤沿いの7−8番,8−9番及び9−1
0番ケーソン各目地部付近で陥没が発生しているのを目撃した。
被告人C1は,X2協会からフェンス設置の提案を受け,バリケード等
の設置について,市海岸・治水課内で協議を重ねていたが,同月20日こ
ろ,A型バリケードを設置することとした。
同月25日,市海岸・治水課は,陥没発生箇所を整地して穴を埋めた上,
その陥没のあった場所には,A型バリケード(鉄管の長さ約4m)を2個
ずつ平行に並べて設置し,突堤側から陥没があった場所付近に降り立つこ
とができないようにする措置をとるとともに,南側突堤の6番ケーソン付
近から東側突堤の12−13番ケーソン目地部付近までを直線で結ぶよう
な形で,A型バリケード(鉄管の長さ約4m)10連を1列に設置し,か
ぎ形突堤とA型バリケードで囲まれた砂浜に人が立ち入らないようにする
保安措置をとった。被告人C1は,同日,部下のE2からA型バリケード
の設置状況について報告を受け,被告人B1も,同月28日,回覧された
書類等によりその報告を受けていた。また,同日,市海岸・治水課のL1
ほか1名がE1出張所へ赴き,A型バリケードの設置状況をI2に報告し
た。I2は,L1らから受け取った報告資料をD1工事事務所にファクシ
ミリ送信し,J1は,同日,ファクシミリ送信された文書でA型バリケー
ドの設置状況を確認した。被告人A1は,同日出勤していなかったため,
本件事故発生後の平成14年1月4日になってその設置状況を知った。
(2)本件事故発生以前の東側突堤沿い南端付近の砂浜より北寄りの場所にお
ける陥没の有無
アこの点に関しては,J2ら5名の証人(以下「J2ら」という。)が,
差戻前第1審において,以下のとおり,本件事故発生以前に東側突堤沿い
南端付近の砂浜より北寄りの場所で陥没があったのを目撃した旨証言して
いる。
(ア)J2の証言
「平成13年10月初旬ないし中旬の午後2時か3時ころ,夫と一緒
にK1へ散歩に行った。北から南側突堤の4−5番ケーソン目地部付近
まで歩いてきて,突堤の上に上がろうとしたが,足下の砂が減っていた
ので,上がれなかった。そこで,東側突堤沿いの16−17番ケーソン
目地部付近まで歩いていき,突堤の上に上がろうとしたが,やはり足下
の砂が低くなっていたので,上がれなかった。その付近が突堤の方に向
かって半円すり鉢状にくぼんでいた。感覚的に,南北1m強,東西七,
八十㎝,深さ約30㎝のくぼみだった。また,石と石の間のつなぎ目の
一番低くなっているところに黒い,ゴムみたいなものが見えていた。こ
れは,幅が約10ないし15㎝,表面に20㎝くらい出ていたもので,
ぴらぴらと,昆布みたいに破れていた。突堤の上から見ていた夫が『そ
ばに寄ったら,あり地獄やから行ったらいかん,上から回ってくるよう
に。』と言うので,北上して堤防の方に向かった。」
「平成13年10月末くらいの午後2時か3時ころ,夫,娘(K2),
孫と一緒にK1へ上記くぼみを見に行った。前回と同じようにくぼみが
あったが,はっきり分かるほどの違いはなかった。黒いゴムのようなも
のもあった。娘と『わあ,すごいな,昆布みたいなんがある。』という
感じで話をした。突堤の上から見ていた夫は,『波で砂洗われてだんだ
ん減っていってるから,こういうふうになってる。』『だんだんとゴム
が切れてこういうふうになっていったら,波が来たら,砂はだんだん減
っていく。』と言っていた。」
(イ)K2の証言
「平成13年10月終わりくらいの午後2時半か3時ころ,両親,子
供と一緒にK1へ散歩に行った。母親(J2)が『ほらほら,あり地獄
みたいな陥没,へこんでるから,見てみ。』という感じで手招きして呼
ぶので,子供を抱いて東側突堤沿いに近付くと,16−17番ケーソン
目地部付近に半円のへこんでいる部分があった。南北約1.5m,東西
約1m,深さ三,四十㎝のへこみで,ケーソンに向かって下り坂になっ
ていた。また,下の方から,壁のところに沿って,何か黒いゴムみたい
な,ぼろぼろのものがべろっとのぞいていた。それは,幅約20㎝,の
ぞいている部分が約30㎝のもので,下が何か裂けている感じだった。
両親から『余り近づくな,足が取られるから。』と注意された。」
(ウ)L2の証言
「平成13年の年明けをまたいでかぎ形突堤で行われたジャパンカウ
ントダウン2001というイベントの花火の打ち上げを担当していた。
その下見のため,平成12年11月12日に東側,南側の砂浜と突堤を
歩いた際には陥没に気付かなかったが,同年12月24日から同月31
日まで毎日のようにK1にいたところ,①南側突堤沿いの6−7番ケ
ーソン目地部か,その両隣の目地部かいずれかの目地部付近で,半円す
り鉢状の突堤に向かって深くなる,東西約2m,深さ1m弱の穴と,②
東側突堤沿いの15−16番ケーソン目地部付近か,少なくとも13−
14番ケーソン目地部付近より北側のいずれかの目地部付近で,半すり
鉢状,南北約1m,深さ50㎝弱の穴を目撃した。②の穴に気付いたの
は同月28日ころで,突堤の内側にコンピューターの配線をはわしてい
く作業中に気付いた。散水栓の辺りという部分で記憶に特に残っており,
散水栓から最大で10m前後の位置だった。」
(エ)M2の証言
「平成13年2月第1週ころの午前9時過ぎから10時ころ,サイク
リング中,K1に立ち寄り,東側突堤の上を自転車を押したりしながら
往復し,釣り人を見たりしていた際,東側突堤内側の,①12−13
番ケーソン目地部付近か,13−14番ケーソン目地部付近,②14
−15番ケーソン目地部付近か,15−16番ケーソン目地部付近,③
18−19番ケーソン目地部付近か,その両隣の目地部付近に3か所の
穴を見付けた。③の穴は,幅約1m10㎝,深さ四,五十㎝,弓なり形
のもので,①,②の穴は,③の穴より3分の2から3分の1くらい浅く,
小さいものだった。釣り人に『これは何か,陥没じゃないかな。』とい
うと,『それはもう大分前から,浜の掃除をしてるおじさんに,もう言
うとんや。』と言われた。その後,X2協会へ報告に行こうとし,F1
市の地震のモニュメント辺りにいた市の職員3名に『突堤のとこに,陥
没があるんじゃないか。あれは,確かに陥没じゃないかと思うので,一
回確認してください。』と言って,帰宅した。職員は,『ああ,そうで
すか,ありがとう。』と言っていた。」
(オ)N2の証言
「平成12年7月ころと平成13年7月ころ,南側突堤沿いの,①
5−6番ケーソン目地部付近,②9−10番ケーソン目地部付近と,
東側突堤沿いの,③13−14番ケーソン目地部付近,④14−1
5番ケーソン目地部付近,⑤15−16番ケーソン目地部付近で陥没
を見た。①の陥没は,東西約1m,南北約1m,深さ約1mで,ケーソ
ンに向かって角度がきつい半すり鉢状のもの,②の陥没は,平らなすり
鉢状ではなく,垂直に砂がすぼっと落ちたような形のもの,③ないし⑤
の各陥没は,南北約1m,東西1m弱,深さ約0.3ないし0.5mで
半すり鉢状のものだった。④の陥没からだいたい西方向へ約10m離れ
た地点にも,直径約1.5m,深さ約0.3ないし0.5mのすり鉢状
の陥没があった。なお,以上の陥没を,これは平成12年に見たもの,
これは平成13年に見たものというふうに特定することまではできない。
①ないし⑤の各陥没は,いずれもケーソン目地部にできていたので,目
地部にすき間があって波が砂をさらっていって陥没したんだと思った。
私は,セメント販売会社に長年勤務していた関係で,セメントと混ぜる
砂について,砂山から砂が出ていったら,空洞ができるなどの知識があ
ったので,そう思った。」
イJ2らの差戻前の各証言の信用性について
(ア)J2は,「夫と一緒にK1へ散歩に行き,北から南側突堤の4−5番
ケーソン目地部付近まで歩いてきて,突堤の上に上がろうとしたが,足
下の砂が減っていたので,上がれなかった。そこで,東側突堤沿いの1
6−17番ケーソン目地部付近まで歩いていき,突堤の上に上がろうと
したが,やはり足下の砂が低くなっていたので,上がれなかった。その
付近が突堤の方に向かって半円すり鉢状にくぼんでいた。」「後日,夫,
娘,孫と一緒にそのくぼみを見に行った。」旨,K2は,「両親,子供
と一緒にK1へ散歩に行った際,母親が『ほらほら,あり地獄みたいな
陥没,へこんでるから,見てみ。』という感じで手招きして呼ぶので,
子供を抱いて東側突堤沿いに近付くと,16−17番ケーソン目地部付
近に半円のへこんでいる部分があった。」旨,L2は,「かぎ形突堤で
行われたイベントの花火の打ち上げを担当した際,東側突堤の内側にコ
ンピューターの配線をはわしていく作業中,15−16番ケーソン目地
部付近か,少なくとも13−14番ケーソン目地部付近より北側のいず
れかの目地部付近で,半すり鉢状の穴を目撃した。散水栓の辺りという
部分で記憶に特に残っている。」旨,M2は,「サイクリング中,K1
に立ち寄り,東側突堤の上を自転車を押したりしながら往復し,釣り人
を見たりしていた際,東側突堤の内側に3か所の穴を見付けた。釣り人
に『これは何か,陥没じゃないかな。』というと,『それはもう大分前
から,浜の掃除をしてるおじさんに,もう言うとんや。』と言われた。
その後,X2協会へ報告に行こうとし,F1市の地震のモニュメント辺
りにいた市の職員3名に『突堤のとこに,陥没があるんじゃないか。あ
れは,確かに陥没じゃないかと思うので,一回確認してください。』と
言って,帰宅した。」旨,それぞれ,東側突堤沿い南端付近の砂浜より
北寄りの場所で陥没を目撃したときの状況について,具体的な事実経過
を交えながら,比較的詳細に証言している。なお,N2の証言について
は,上記4名の証言に比してそのような具体性にやや欠ける面があるこ
とは否めないものの,すり鉢状の陥没と垂直に切れ落ちたような陥没と
を区別して証言するなど,一定の具体性は備わっている。
そして,J2及びK2は,平成13年10月末ころに見た陥没の位置
や大きさ等について,おおむね符合した内容の証言をしている。
もとより,J2らは,いずれも被告人ら及び被害者等の本件関係者と
は特段の利害関係を有しておらず,殊更虚偽の証言をしなければならな
い事情は見受けられない。
(イ)ところで,各弁護人は,上記のようなJ2らの証言について,次のよ
うに主張し,その信用性を争っている。
すなわち,①市海岸・治水課の定期パトロール記録及びX2協会が
K1の夜間警備を委託していた株式会社O2の警備日誌には,本件事故
発生以前に東側突堤沿いの北寄りの砂浜で陥没があったことは記録され
ていないのであるから,その不存在が強く推認されるし,X2協会から
の委託でK1の清掃等に従事していたF1市Z2センター会員のP2や
上記夜間警備に従事していたQ2のほか,当審で取り調べられた証人
(同センター事業係長であったR2,同センター会員のS2及びT2,
市海岸・治水課の定期パトロールに従事していたU2)らは,本件砂浜
の状況を継続的かつ意識的に観察していた者であるが,東側突堤沿いに
は陥没が存在しなかった旨供述している,②J2らが陥没の存在した
とする東側突堤沿いの北寄りにある本件事故現場付近の砂浜のケーソン
目地部では,事故後の調査によっても防砂板の損傷がほとんど認められ
ていないことから,同現場付近の砂浜には陥没が生ずるはずがないので
あって,同人らの証言は科学的客観的状況と明白に矛盾している,③
J2らが目撃したという東側突堤沿いの陥没のあった時期や位置の説明
はあいまいであり,証言時(平成16年10月)までの長期にわたり,
その記憶を正確に保持していたとは考えられず,とりわけ,J2とK2
は,陥没から黒い防砂板のような物が見えていたかのように証言してい
るが,防砂板は砂浜表面から少なくとも1.75m以上の深さにあり,
砂層表面の30㎝下に防砂板が見えることは構造上あり得ず,両名のこ
の証言は客観的事実と全く矛盾している,というのである。
そこで,検討するに,まず,①の点については,被告人C1の差戻前
の公判供述やパトロール記録【甲332,333】等によれば,確かに,
K1については,市海岸・治水課の職員が定期的にパトロールして異状
があれば課内に報告がされていたほか,市はX2協会に日常管理業務を
委託しており,X2協会は,警備員を配置するなどし,異状があるとの
報告があったときには,その内容を市海岸・治水課に報告していたので
あるが,市海岸・治水課の定期パトロールやX2協会からは,東側突堤
沿いの砂浜について,その南端付近を除いては,そのような異状は報告
されていなかったことが認められる。
しかし,市海岸・治水課の定期パトロールは,毎日行われていたわけ
ではなく,週1回(原則として月曜日)にとどまる上,パトロール箇所
も明石市内の海岸線一帯と比較的広範にわたっていたこと,被告人C1
が,差戻前の公判において,「平成13年1月に陥没を見るまでは,K
1の砂浜部分は,パトロールのコースに入っていなかったが,その後は,
海岸・治水課のパトロールに回っていた職員に対し,南側突堤部の陥没
について,特に注意して回るように口頭で指示した。」旨を供述し,被
告人B1も差戻前の公判でこれと同旨の供述をしている上,実際にパト
ロールを担当していたU2が,当審において,「自分も含めて三,四人
で本件砂浜を二,三十分かけてパトロールしていたが,被告人C1から
の指示もあって,その時間内に,主に南側突堤沿いの陥没の有無や大き
さに注視しており,突堤上のフェンス等も点検していた。」との証言を
していることなどから,本件砂浜のパトロールが,陥没が集中して発生
していた南側突堤沿いを中心になされていたことや点検の時間もそれほ
どかけていないため東側突堤沿いの北寄りの場所における陥没等の異状
が見落とされていた可能性も十分に考えられる上,パトロールが行われ
ていないときに同異状が存し,X2協会関係者や公園利用者等が埋め戻
したりしていた可能性も否定できないのである。
また,株式会社O2によるK1の夜間警備は,その警備日誌【甲33
6】の記載から見て,花火等の禁止行為に対するパトロールに重点が置
かれていたことが明らかである上,警備員Q2の警察官調書【甲15
8】や「K1の日常業務表(海岸・治水課受託分)」と題する書面【当
審弁22】によれば,業務は,毎週金曜日,土曜日,日曜日及び7月1
日から9月24日までの間の祝日の午後7時から午前5時までの時間帯
に限られていたことが認められるから,やはり東側突堤沿いの北寄りの
場所における陥没等の異状が見落とされていた可能性や,夜間警備が行
われていないときに同異状が存し,X2協会関係者や公園利用者等が埋
め戻したりしていた可能性を否定することができない(なお,Q2の
「陥没を南側突堤沿いでしか見たことはなく,東側突堤沿いやその他の
場所にはなかったように思う。」旨の供述も,こうした夜間警備の実態
に照らすと,上記可能性を払しょくするものではない。)。のみならず,
Q2は,上記警察官調書中で,「警備日誌に記載のある平成13年8月
31日以後も陥没を見ているが,陥没の穴はしばらく空いていても,気
がつけば元どおり埋め戻されていた。」旨供述しているところ,同日以
後の警備日誌には陥没を目撃したことなどの記載が残されていないこと
からすると,警備日誌については,本件砂浜の状況や取られた保安措置
等が余すところなく記載されたものとするには疑問を入れる余地もある。
そして,「K1の日常業務表(海岸・治水課受託分)」と題する書面
【当審弁22】や「請負契約書」と題する書面【当審弁33】,X2協
会のP1及びQ1の差戻前の各証言,F1市Z2センター事業係長であ
ったR2の差戻後の証言等によれば,X2協会は,雨天の日及び年末年
始を除く毎週月曜日から土曜日の午前8時から午後0時までの4時間,
K1海浜の護岸や砂浜,磯浜,海峡広場,同附帯施設等の灌水,除草,
清掃業務をF1市Z2センターに委託し,そこから随時報告を受けてい
たことが認められるところ,R2の上記証言によれば,市海岸・治水課
の定期パトロール及び株式会社O2の夜間警備とは異なり,同センター
の当時の業務日誌等客観的な証拠は現存していないというのであり,ま
た,X2協会は,同センターに対し,上記業務の遂行に当たって本件砂
浜の陥没の有無等を注視するようにとの指示はしていなかったことがう
かがえるから,同センター会員が特に問題意識を持つことなく本件砂浜
の清掃業務の一環として東側突堤沿いの北寄りの場所における陥没等を
埋め戻したりしていた可能性も否定できない。なお,同センター会員P
2の検察官調書【甲70】には,「砂浜の掃除をしていたときに,一番
東側の通路沿いの砂浜を何回も歩いたことがあったが,穴があった南側
の通路沿いのような陥没はなかったと記憶している。」旨の供述がある
けれども,P2が,どの時期に,東側突堤沿いのどの範囲を,どのよう
にして清掃していたのかなどの事情は明らかでない。
そうすると,以上のような証拠関係から,直ちに東側突堤沿いの北寄
りの砂浜に陥没等の異状が存しなかったと判断することは相当でないと
いうべきである。
次に,②の点は,本件事故後,本件事故のあった17−18番ケーソ
ン目地部付近を含め,7−8番ケーソン目地部付近から19−20番ケ
ーソン目地部付近までの各ケーソン目地部の防砂板について,大体平均
海面付近の高さから下側に防砂板の突起部分の亀裂や穴,すり切れが確
認され,また,亀裂の長さもまちまちであるが,数㎝から数mのものが
あることが判明したことは,前記第3の3(2)のとおりであり,そのう
ち東側突堤沿いの11−12番ケーソン目地部付近から19−20番ケ
ーソン目地部付近までの各ケーソン目地部の防砂板の損傷状況につき付
言すると,実況見分調書【甲22,33,35,37,40】及び質問
事項書【甲51】等によれば,数㎝から数mの亀裂ないしすり切れや数
㎜から数㎝の穴が見られ,損傷の程度が最も小さい16−17番ケーソ
ン目地部付近でも5㎜程度の穴が数か所,数個の不整形の穴もしくは亀
裂状のものが1か所(全体の幅が3㎝,長さは6㎝程度)に集まったも
のが認められるのであるから,それらの亀裂ないしすり切れ,あるいは
穴から海水が本件砂浜内に流入し,同砂浜の砂が海水とともに上記亀裂
や穴等から海に流れ出ることも十分考え得るのであって,弁護人が主張
するように本件事故現場付近の砂浜に陥没あるいはくぼみが生じるはず
がないとは断定できず,したがって,J2らの証言が科学的客観的状況
と矛盾しているとは必ずしもいえないというべきである。
そして,③の点については,J2らの証言には,東側突堤沿いの北寄
りの砂浜で陥没を目撃した時期,その位置や大きさ等について,時間の
経過に伴う記憶のあいまいさが存することは否定できないものの,上記
のとおり,それぞれ相応の具体性を備えており,本件事故発生により,
その前に見た陥没の状況を想起し,証言時までの間,捜査機関による事
情聴取を受けたりしたこともあって,記憶が保たれていたことも十分に
考えられ,J2及びK2が証言する,黒いゴム様の物体についても防砂
板であったと断定したわけではないから,防砂板と見間違えた物が何で
あったのかは証拠上明らかではないが,そのことが必ずしも両名の証言
の信用性を大きく減殺するとはいえない。
(ウ)以上のとおり,J2らの差戻前の各証言は,いずれも時間の経過に伴
う記憶のあいまいさがあることは否定できず,また,J2及びK2以外
の3名は,同一の陥没について証言しているものではないから,それぞ
れが目撃した陥没の位置,形状,大きさ等について,不確実,不統一な
ところがあることは否定し難い。
しかし,上記諸事情にかんがみると,少なくとも,平成12年7月こ
ろから平成13年10月ころまでに,東側突堤沿い南端付近の砂浜より
北寄りの場所においても,複数の陥没様の異常な状態が生じていたとい
う限りでは,一概にその信用性を否定することはできず,したがって,
J2らの差戻前の各証言によれば,かかる事実が推認されるというべき
であり,その他各弁護人がるる主張する点を検討しても,この結論は動
かない。
7本件事故発生の回避可能性に関する事実
(1)前記第3の6(1)スのとおり,市海岸・治水課は,本件事故発生直前の平
成13年12月25日,本件砂浜において,A型バリケードを設置する保
安措置をとっているが,K1砂浜安全柵設置工事関係書1冊【甲368】
によれば,設置したA型バリケードの総延長は約64m,その工事費用は
28万7700円であった(なお,同工事は,被告人C1の専決により行
われたものであった【乙77】。)。
(2)ところで,本件事故現場付近の状況(前記第3の1)及び本件事故の発
生状況(前記第3の2)にかんがみると,その当時,本件砂浜一帯に人が
立ち入ることがないよう,かぎ形突堤が階段護岸に接する地点からその西
方の水面を結ぶ線上にバリケード等を設置し,砂浜陥没の事実及びその危
険性を表示するなどの安全措置が講じられていれば,本件事故は回避する
ことができたと認められるところ,株式会社V2取締役のW2の差戻前の
証言によれば,K1の東側砂浜北東角にあるスロープからその西方の水際
を結ぶ約73mの区間に工事用フェンスやA型バリケードを設置する場合,
その工事費用は二,三十万円程度であったと認められるから,上記(1)の事
実のほか,E1出張所においては,100万円以下であれば海岸関係の工
事を施行することができたこと(前記第3の5(3)ア),F1市側が施行し
た本件砂浜の陥没補修工事にX2協会の費用が使われていたこと(前記第
3の6(1)ウ)などの事情に照らすと,E1出張所,市海岸・治水課又はX
2協会のいずれにおいても,上記安全措置を講じることについて,費用上
の支障はなかったものと認められる。
第4被告人らに対する業務上過失致死罪の成否について
以上の事実関係に基づき,被告人らに対する業務上過失致死罪の成否につい
て判断する。
1被告人らの業務性等
(1)被告人A1について
前記第3の5(2)ア,イ,エ,オ,同(3)ア,第3の6(1)のとおり,
①本件事故発生当時,K1にある本件砂浜及びかぎ形突堤は,いずれも,
国の所有であり,かつ,国土交通省近畿地方整備局長が海岸管理者の権
限を代行する直轄工事区域内に存在していたもので,同局長がF1市に
対しこれらを含む地域につき使用目的を公園としてその占用を許可して
いたこと,
②K1を含むE1の海岸保全施設に関する工事等を主な業務としていた
のは,D1工事事務所であり(地方整備局組織規則別表4),F1市と
の間で,「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」を締結していたよう
に,D1工事事務所が海岸管理者の代行権限を実際上行使していたと認
められること,
③D1工事事務所においては,工務第一課が海岸の工事,管理に関する
事務をつかさどるとされ(近畿地方建設局組織細則44条1項3号ない
し7号,9号,20号の2,21号の2),E1出張所が海岸保全施設
の管理(巡視,100万円以下の補修工事等)等を行っていたこと,
④新海岸法の目的には,従来の「海岸の防護」とともに,近年,海岸が
様々なレクリエーションの場として盛んに利用されるようになったとい
う実情にかんがみ,「海岸環境の整備と保全」及び「公衆の海岸の適正
な利用」が新たに加えられたことなどに照らすと,本件事故発生当時,
海岸の管理に当たっては,個別の海岸の状況等を踏まえ,防護のみなら
ず,海岸利用者のために環境及び利用の調和のとれた総合的な管理がな
されるよう,適切に行うことが必要とされていたのであるから,海岸の
管理業務に当たる者には,海岸利用者の安全確保にも留意しながらその
職務を遂行することが責務として要求されていたと解されること,
⑤F1市側は,平成13年1月から同年4月までの間,3回にわたり,
本件砂浜における陥没の補修工事を行ったものの,陥没の発生を食い止
めることができなかったため,同年5月から同年6月にかけ,国側に対
し,陥没の発生状況及び上記の補修工事の内容や防砂板の破損が陥没の
原因であることなどを説明するなどし,国も陥没対策に取り組むよう要
請していたが,国側は,これに応じる姿勢を示したものの,予算上の都
合等から直ちに着工するのは難しいとの見方であったため,国側が陥没
対策工事に着工するまでの間の本件砂浜の安全管理が問題となるが,こ
れについては,同年6月15日の事前打合せの場において,J1が「海
水浴期間中の安全管理に関しては市でお願いする。」旨の発言をしたこ
とを除くと,国側とF1市側との間で明確な取決め等はなされていなか
ったこと(なお,D1工事事務所とF1市との間で締結されていた「K
1海浜公園の維持管理に関する覚書」3条2項の「海岸保全施設に関す
る工事を施工するとき,甲(D1工事事務所)は公園の利用者に危険を
生じさせないよう必要な措置を講ずるものとし,工事が完了したときは
速やかに乙(F1市)に報告し原状回復を行うものとする。」との規定
等にかんがみると,国側が陥没対策工事に着工した後の本件砂浜の安全
管理は,国側の責任において行うことになると認められる。),
⑥被告人A1の職務遂行の実態,すなわち,E1出張所長である被告人
A1は,平成13年5月から同年6月にかけ,とりわけ,同被告人も出
席した事前打合せの席上で,F1市側から,市での対応には限界がある
として,D1工事事務所側に抜本的な陥没対策工事をとるよう求められ
るなどしていたもので,同年5月には,砂の吸い出しが続けば砂浜の保
全機能に影響するおそれがあると考え,市海岸・治水課のL1らに対し,
緊急性や必要性があるなどと言って陥没対策に積極的に取り組む姿勢を
見せ,K1の視察等を基に,陥没の発生状況や原因,これまでのF1市
側の対応等を文書にまとめ,E1出張所内で回覧したほか,J1らD1
工事事務所工務第一課職員に対し,上記文書に基づいて説明するととも
に,F1市がD1工事事務所側に抜本的な対策を講じてほしい旨要望し
ていることなどを伝え,同年7月には,K1を視察し,その後も,F1
市側や部下職員から,本件砂浜の陥没発生状況やF1市側による立入防
止策の実施状況等の報告を受け,同年10月ころには,J1から,コン
サルタント会社に対して陥没対策の調査を依頼する意向である旨を聞く
と,それをL1に伝えていたこと,
以上の諸事情を総合考慮すると,F1市が本件砂浜等につき国から許可
を受けて占用を開始し出してからは,第一次的にはF1市が本件砂浜等の
安全管理の責任を負うに至ったといえるが,他方で,被告人A1もまた,
海岸保全施設の管理等を行うD1工事事務所E1出張所の長として,国が
所有し,直轄工事区域内に存在する本件砂浜及びかぎ形突堤の管理を行い,
本件砂浜利用者等の安全を確保すべき業務に従事していたもので,とりわ
け,遅くとも,平成13年6月15日の事前打合せにおいて,F1市から
市での対応には限界があるとして,D1工事事務所側に抜本的な陥没対策
工事の実施を求められた時点では,D1工事事務所側は,予算上の都合等
から直ちに同工事に着工するのは難しいとの見方であり,かつ,国側が陥
没対策工事に着工するまでの間の本件砂浜の安全管理についても,国側と
F1市側との間で明確な取決め等はなされていなかったのであるから,そ
の時点以降,国による陥没対策工事が終了するまでの間は,被告人A1に
おいても,主体的に,必要があればF1市と協議を遂げるなどして本件砂
浜の安全管理に当たることが求められていたというべきであって,ここに,
被告人A1には,陥没等の発生により本件砂浜利用者等が死傷に至る事故
の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務が具体化,顕在化したものと
認めるのが相当である。
これに対し,被告人A1の弁護人は,本件砂浜等F1市が占用する区域
については,国の安全管理責任は消失している旨主張する。
しかし,上記のとおり,本件砂浜及びかぎ形突堤は,いずれも,国の所
有であり,かつ,国土交通省近畿地方整備局長が海岸管理者の権限を代行
する直轄工事区域内に存在していたものであった上,そもそも,海岸は,
本来的に国が公物管理を行うべきものであることなどから,国は,F1市
に対し,同市が本件砂浜を含む地域につき使用目的を公園ということで占
用を許可していても,同市の本件砂浜やかぎ形突堤の管理等につき不十分,
あるいは不適切な点等があれば,海岸法12条1項又は2項の規定に基づ
き,許可の取消等の監督処分を行い得る立場にあった以上,その権限を適
切に行使するため,同市から報告を求めたり,自ら本件砂浜等の状況を確
認したりする責務があると解される(なお,【当審弁31・189頁】に
よれば,海岸管理者は,海岸保全区域を管理する責任を有していることか
ら,海岸管理者以外の者が管理している海岸保全施設が如何なる状態にあ
るかを常に把握していなければならず,したがって,海岸法20条の規定
により,海岸管理者は,その職務の執行に関し必要があると認めるときは,
海岸管理者以外の者に対し,海岸保全施設の管理状況等に関する報告若し
くは資料の提出を求め,又は海岸管理者の命じた職員に海岸保全施設に立
ち入って検査を行わせるなど,海岸保全区域の管理上必要があると認めら
れる場合に海岸管理者以外の者に対して指導し,監督することができると
もされているのである。)。したがって,国から占用を許可されたF1市
に第一次的に本件砂浜を管理する責任があるとしても,本件砂浜の所有者
たる国にも管理責任があり,それらは併存的に存在していると見るのが妥
当である。このことは,上記の「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」中
に,この覚書は「海岸管理担当者であるD1工事事務所長」と「公園の管理者
であるF1市長」との間で締結するとの記載があることや,同覚書6条に,
「この覚書に定めのない事項又は疑義を生じた事項については,その都度,
甲(D1工事事務所長)乙(F1市長)が協議して定めるものとする。」と
記載されているように,同覚書が,本件砂浜の占用者として管理責任を負
うに至ったF1市と所有者としての管理責任のある国との管理権限の調整
を図っていると見られることからも裏付けられているといえる。
以上の諸点に照らすと,本件砂浜等につきF1市が占用し管理すること
になったとしても,そのことにより国の安全管理責任が消失することには
ならないというべきで,弁護人上記主張は採用できない。
(2)被告人B1及び同C1について
前記第3の5(2)イないしエ,同(3)イ,ウ,第3の6(1)のとおり,
①本件事故発生当時,F1市は,国土交通省近畿地方整備局長から許可
を得て本件砂浜及びかぎ形突堤を含む地域を公園として占用し,一般開
放していたもので,海岸管理者の権限を実際上代行していたD1工事事
務所との間で,「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」を締結すると
ともに,X2協会に対して同所の日常管理業務を委託し,異状があれば,
適宜,その報告を受けていたこと,
②F1市においては,土木部海岸・治水課が,海岸整備に係る施設の維
持管理に関する事務や海岸及び港湾の整備に関する事務等を所掌するも
のとされていたこと(F1市事務分掌規則12条),
③F1市決裁規程等によると,参事は,決裁権限を有する者と有さない
者がいるものの,職階上は,次長級とされており,部長の命を受け,部
内事務に係る重要事項又は高度な専門的事項の調査,研究,企画及び調
整を行うことを職務とするとされていたところ,土木部海岸・治水担当
参事である被告人B1は,土木部での決裁権限や人事権はなかったもの
の,海岸整備関係事業に係る総合調整に関することなどが定められてお
り,土木部長は,技術系の職員であった被告人B1が豊富な技術的知識
を有していることを見込んで,事務系の職員であった海岸・治水課長被
告人C1の技術面に関する知識を補うことを期待し,被告人C1に対し,
日ごろから,海岸・治水課の業務遂行について,被告人B1に相談する
よう指示していたこと,
④被告人B1及び同C1の職務遂行の実態,すなわち,被告人B1及び
同C1は,平成13年1月から同年6月にかけ,南側突堤沿いの砂浜に
おいて繰り返し発生していた陥没を自ら確認し,あるいは,部下職員ら
からパトロール記録等を通じて報告を受け,対策を協議し(例えば,平
成13年1月ころの対策協議においては,被告人B1が,「国とか市と
か言っている場合ではない。海岸利用者が陥没にはまったら危ない。早
く対処しないといけない。」旨の発言をし,陥没の補修工法を発案して
いた。),その間,F1市側で3回にわたって陥没の補修工事を行った
ものの,陥没の発生を食い止めることができなかったため,被告人C1
らにおいて,D1工事事務所側に対し,本件砂浜の陥没発生状況や防砂
板の破損状況等を説明するとともに,国による抜本的な対策工事を要請
し,その後も,被告人B1及び同C1は,部下職員による定期パトロー
ルやX2協会から,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂
浜において発生していた陥没の状況や立入防止策の実施状況等について
の報告を受け,同年12月25日には,市海岸・治水課において,陥没
のあった場所にA型バリケードを設置する保安措置をとっていたこと,
以上の諸事情を総合考慮すると,被告人B1は,海岸整備関係事業に係
る総合調整に関する事務等を担当するF1市土木部海岸・治水担当参事と
して,被告人C1は,海岸整備に係る施設の維持管理に関する事務や海岸
及び港湾の整備に関する事務等を所掌する市海岸・治水課の長として,そ
れぞれ,F1市が国から許可を得て公園として占用し,一般開放していた
地域内の本件砂浜及びかぎ形突堤の維持管理を行い,公園利用者等の安全
を確保すべき業務に従事し,陥没等の発生により公園利用者等が死傷に至
る事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を負っていたものと認
められる。
2本件事故発生の予見可能性
(1)前記認定のとおり,被告人らは,本件砂浜の管理等の業務に従事してい
たものであるが,本件砂浜は,東側及び南側がかぎ形の突堤に接して厚さ
約2.5mの砂層を形成しており,全長約157mの東側突堤及び全長約
100mの南側突堤は,いずれもコンクリート製のケーソンを並べて築造
され,ケーソン間のすき間の目地に取り付けられたゴム製防砂板により,
砂層の砂が海中に吸い出されるのを防止する構造になっていた(前記第3
の1)。そして,本件事故は,東側突堤17−18番ケーソン目地部の防
砂板が破損して砂が海中に吸い出されることによって砂層内に発生し成長
していた深さ約2m,直径約1mの空洞の上を,被害者が小走りに移動中,
その重みによる同空洞の崩壊のため生じた陥没孔に転落し,埋没したこと
によって,被害者に窒息による低酸素性・虚血性脳障害の傷害を負わせ,
同傷害によって死亡するに至らしめたという因果経過をたどったものであ
る(前記第3の2,4)。
(2)本件事故発生の予見可能性について,被告人A1の弁護人は,本件砂浜
のくぼみや陥没は,K1の砂浜全体からすればごく一部にすぎない南側突
堤及び東側突堤の南側の一定区域に集中しており,砂浜表面に何の異常も
ない本件事故現場付近において結果発生についての予見可能性が認められ
るためには,当該区域において砂層内に大規模な空洞が保持されているこ
とが予見可能でなければならないところ,被告人A1にはそのような現象
の知見はなく,本件事故発生当時には,土木工学研究者らの間でも,砂浜
表面に何らの異常がない状況で,本件のような人の生命に対する危険を招
来する程度の大規模な陥没を形成するような空洞が発生する例に関する知
見はなかったというのであるから,被告人A1には,業務上過失致死罪の
予見可能性は認められない旨主張する。
また,被告人B1及び同C1の弁護人も,本件事故発生の予見可能性の
判断に関しては,同被告人両名の砂層内の空洞発生についての知見が極め
て重要であるとし,同被告人両名は,12番ケーソン以北の東側突堤に対
する波力が波浪の方向性及び消波ブロックの敷設により南側突堤のそれよ
りはるかに弱いこと,砂層内の砂がなくなれば,外見上表面に現れると常
識的に思っていたところ,12番ケーソン以北の東側突堤沿いの砂浜は他
の砂浜と表面上何ら変わりなく,陥没発生の兆候すら認められなかったこ
となどから,12番ケーソン以北の東側突堤については,防砂板損傷のお
それは全くないと考えており,本件事故現場の砂層内に人の生命,身体に
危害が加わるおそれのある状態の空洞が存在していたことの予見は不可能
であった旨主張する。
(3)そこで検討すると,結果発生についての予見可能性の存在は,過失犯成
立の大前提であり,行為者に結果発生の予見が可能であるからこそ,結果
発生を回避すべき義務を課することができるのであるが,結果発生につい
ての予見可能性があるというためには,結果発生に至る「因果の経過の基
本的部分」について予見が可能であれば足りると解すべきである。
これを本件についてみると,本件砂浜の管理等の業務に従事していた被
告人らと同じ立場にある通常人を基準とした場合,本件事故現場を含む東
側突堤沿いの砂浜において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没
が発生する可能性があるという流れが予見可能であれば,本件砂浜におい
て発生していた陥没の中には,東西約3m,南北約2m,深さ約1.7m
のもの(6−7番ケーソン目地部付近,平成13年1月19日ころ)や,
南北約2.4m,東西約1m,深さ約0.8mのもの(11−12番ケー
ソン目地部付近,同年6月11日ころ)といった相当大規模な陥没もあっ
たことから,例えば,幼児等の場合では発生した陥没孔内に生き埋めにな
ったり,成人でも落ち込んで負傷するなど,人の生命・身体に対する危険
が発生することを十分予想でき,この結果を回避するための措置を講ずべ
きことを動機付けることができる。
したがって,上記の流れが,本件事故発生に至る「因果の経過の基本的
部分」に当たると解するのが相当である。
(4)以上を前提に,被告人らが,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜に
おいて,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性が
あることを予見することができたかを検討する。
アまず,前記第3の6(1)の事実関係によれば,
①南側突堤沿い6番から10番までのケーソン目地部付近の砂浜及び東
側突堤沿い11−12番ケーソン目地部付近の砂浜においては,平成1
3年1月以降,繰り返し陥没が発生し,同月から同年4月までの間,F
1市が3回にわたって補修工事を行ったものの,その後も陥没が発生し
ていたところ,その中には,上記のとおりの相当大規模な陥没もあった
こと,
②市海岸・治水課においては,3回にわたって実施した補修工事を通じ
て,陥没の発生原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであると考え,
かぎ形突堤の所有者である国に対して抜本的な対策工事を要請すること
とし,同年5月から同年6月にかけ,被告人A1らがK1を訪れた際や,
D1工事事務所工務第一課,E1出張所及び市海岸・治水課の関係者ら
が集まった事前打合せの場において,市海岸・治水課のL1を中心とし
て,D1工事事務所側に対し,上記①の陥没の状況や防砂板の破損状況
等を説明するとともに,国による抜本的な対策工事を要請したこと,
③市海岸・治水課においては,事前打合せ後も,同課の職員による本件
砂浜等の定期パトロールを続け,同年9月中旬ころからは,D1工事事
務所側に対して陥没対策を講じるよう重ねて要望し,同年12月25日
には,6番ケーソン目地部付近から12−13番ケーソン目地部付近ま
でをA型バリケードで囲うなどの保安措置をとり,そのことがE1出張
所に報告されていること,
④被告人B1及び同C1は,平成13年1月から本件事故発生に至るま
での間,市海岸・治水課の定期パトロールや日常管理業務を委託してい
たX2協会からの報告等により,上記①のような陥没の状況のほか,立
入防止策の実施状況等を認識し,かつ,課内の対策協議等を通じ,かぎ
形突堤の防砂板の破損状態や,陥没の発生原因が防砂板の破損による砂
の吸い出しであることなどを認識していたこと,
⑤被告人A1は,市海岸・治水課のL1らからの説明や事前打合せを通
じ,上記①のような陥没の状況のほか,かぎ形突堤の防砂板の破損状態
や,陥没の発生原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであることなど
を認識するとともに,F1市からの抜本的な対策工事の要請を受け,同
年7月,K1を視察し,その後も,F1市側や部下職員から,本件砂浜
の陥没発生状況やF1市側の立入防止策の実施状況等の報告を受け,同
年10月ころ,J1から,コンサルタント会社に対して陥没対策の調査
を依頼する意向である旨を聞くと,それをL1に伝えていたこと,
以上の事実が認められる。
イそして,前記第3の1,3,6(1)のとおり,南側突堤と東側突堤とは,
両者のケーソンの大きさ・重量に差異がある上,南側突堤のケーソンは,
直立消波ケーソンと呼ばれ,海に面した側の一部が空洞になっており,波
が入るとその勢いが弱まる構造であるのに対し,東側突堤のケーソンは,
消波構造にはなっておらず,その海面側には11番ケーソンのやや南側か
ら25番ケーソンの北側まで六脚ブロックと呼ばれる消波ブロックが設置
されていたという違いもあったが,いずれも,海底に基礎捨石を積み上げ
て造られたマウンドの上に,ケーソンを並べた上,その中に中詰め石が詰
められ,ケーソン上にコンクリートを打設するなどして築造されたもので,
ケーソン目地部に防砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという基本的な構
造は同一であったところ,本件事故発生以前から,F1市による陥没の補
修工事により,本来耐用年数が少なくとも約30年とされていた防砂板が
わずか数年で破損していることが判明していた。なお,上記のような基本
的構造は,被告人B1及び同C1においては,現に認識していたか,ある
いは陥没の補修工事等を通じて認識することが可能であったものであり
【被告人B1及び同C1の差戻前の各公判供述等】,被告人A1において
は現に認識していたものである【乙32等】。
ウさらに,前記第3の6(2)で検討したとおり,J2らの差戻前の各証言
によれば,平成12年7月ころから平成13年10月ころまでに,東側突
堤沿いの砂浜の南端付近より北寄りの場所においても,陥没様の異常な状
態が生じていたことが推認される。
(5)以上のとおり,被告人らは,本件事故発生以前から,南側突堤沿いの砂
浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜において繰り返し発生していた陥没に
ついてはこれを認識し,その原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであ
ると考え,対策を講じていたところ,南側突堤と東側突堤とは,ケーソン
目地部に防砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという基本的な構造は同一
であり,本来耐用年数が少なくとも約30年とされていた防砂板がわずか
数年で破損していることが判明していたばかりでなく,実際には,本件事
故発生以前から,東側突堤沿いの砂浜の南端付近だけでなく,これより北
寄りの場所でも,複数の陥没様の異常な状態が生じていたのであるから,
こうした事実関係の下では,被告人らは,本件事故現場を含む東側突堤沿
いの砂浜において,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生す
る可能性があることを予見することができたものというべきである。
3本件事故発生の回避可能性及び被告人らの具体的注意義務の内容
(1)前記第3の7(2)のとおり,本件事故現場付近の状況及び本件事故の発生
状況にかんがみると,その当時,本件砂浜一帯に人が立ち入ることがない
よう,かぎ形突堤が階段護岸に接する地点からその西方の水面を結ぶ線上
にバリケード等を設置し,砂浜陥没の事実及びその危険性を表示するなど
の安全措置が講じられていれば,本件事故は回避することができたと認め
られる。
そこで,被告人らが現実に上記安全措置(以下「本件安全措置」とい
う。)を講じることが可能であったか,また,被告人らがそのような結果
を回避すべき具体的注意義務を負っていたか否かにつき検討する。
(2)被告人A1について
被告人A1は,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜において,防砂
板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があることを予
見することができたのであるから,前記第4の1(1)で見たような被告人A
1の職責及び職務遂行の実態に照らすと,①前記第3の7のとおり,E
1出張所又はF1市のいずれにおいても,本件安全措置を講じることにつ
いて,費用上の支障はなかったものと認められること,②直轄工事区域
内の本件砂浜及びかぎ形突堤について,海岸管理者の権限を実際上代行し
ていたD1工事事務所は,海岸管理者の代行権限として,本件砂浜及びか
ぎ形突堤を占用していたF1市に対し,海岸法12条1項又は2項の規定
に基づく監督処分を行い得る立場にあったところ,D1工事事務所の出先
機関であるE1出張所の長被告人A1において,F1市側に対し,陥没等
の発生により本件砂浜利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止する
ことを理由に,F1市側をして本件安全措置を講じてもらうことを要請し
た場合,F1市側がこれに応じないことはなかったものと認められること
などの事情の下では,被告人A1において,E1出張所自ら本件安全措置
を講じ,あるいはF1市に要請して本件安全措置を講じさせることは,十
分可能であり,かつ,容易なことであったと認められる。
したがって,以上の諸事情によれば,被告人A1においては,上記のよ
うな方法で本件安全措置を講ずることにより,陥没等の発生により本件砂
浜利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務
があったというべきである。
(3)被告人B1及び同C1について
被告人B1及び同C1は,本件事故現場を含む東側突堤沿いの砂浜にお
いて,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性があ
ることを予見することができたのであるから,前記第4の1(2)で見たよう
な同被告人両名の職責及び職務遂行の実態に照らすと,①市海岸・治水
課は,本件事故発生直前,本件砂浜において,現にA型バリケードを設置
する保安措置をとっており,本件安全措置を講じることについても,費用
上の支障はなかったものと認められること(前記第3の7),②弁護人
が指摘する「K1海浜公園の維持管理に関する覚書」には,「この覚書に
定めのない事項又は疑義を生じた事項については,その都度,甲(D1工
事事務所)乙(F1市)が協議して定めるものとする。」(6条)と規定
されているところ(前記第3の5(2)エ),F1市側において,D1工事事
務所側に対し,陥没等の発生により公園利用者等が死傷に至る事故の発生
を未然に防止することを理由に,自ら本件安全措置を講じることを申し出
た場合,D1工事事務所側がこれを拒否することはなかったものと認めら
れること,③F1市が対指示権限を有していたX2協会の委託業務内容
は,その契約上,仕様書に「K1の砂浜(中略)の清掃,除草,潅水,剪
定,防除,施肥,補修,施設点検,破損箇所補修等維持管理に関する業
務」と明記されており,仕様書に明示されていないもの又は疑義があるも
のについては,協議して定めるものとされていたところ(前記第3の5(2)
ウ),X2協会は,本件事故発生以前から,本件砂浜の陥没に対する立入
防止策を何回となく講じていた上,平成13年11月には,市海岸・治水
課に対し,X2協会の方でフェンスのようなものを設置することを提案し
ていたことなどから(前記第3の6(1)),市海岸・治水課長である被告人
C1において,X2協会に対し,陥没等の発生により公園利用者等が死傷
に至る事故の発生を未然に防止することを理由として本件安全措置を講じ
ることを指示した場合,X2協会がこれに応じないことはなかったものと
認められることなどの事情の下では,被告人B1においては,被告人C1
ら市海岸・治水課職員を指導し,被告人C1においては,市海岸・治水課
自ら,あるいはX2協会に指示して,本件安全措置を講じることは,十分
可能であり,かつ,容易なことであったと認められる。
したがって,以上の諸事情によれば,被告人B1及び同C1においては,
上記のような方法で本件安全措置を講ずることにより,陥没等の発生によ
り公園利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意
義務があったというべきである。
4結論
被告人らには,いずれも,上記認定のとおりの業務上の注意義務があったと
ころ,被告人らが各注意義務を履行していれば,本件事故を回避することは可
能であったということができる。
そうすると,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜の表面に
現出した陥没の周囲のみにA型バリケード等を設置する措置を講ずることで事
足りると軽信し,上記各注意義務を怠って結果を回避する措置を講ずることな
く漫然放置し,本件事故を発生させて被害者に死亡の結果を生じさせた被告人
らには,いずれも業務上過失致死罪が成立する。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,かねてより陥没が発生していたF1市所在の人工の砂浜であるK1東地
区砂浜等の管理を行い,同砂浜利用者等の安全を確保すべき業務に従事していた国
土交通省職員の被告人A1並びにF1市職員の被告人B1及び同C1が,いずれも,
陥没等の発生により同砂浜利用者等が死傷に至る事故の発生を未然に防止すべき注
意義務を怠り,適切な安全措置を講じなかった各過失の競合により,当時4歳の女
児が,同砂浜突堤付近の砂層内に形成されていた大規模な空洞の上部が突如崩壊し
て発生した陥没孔に落ち込んで生き埋めとなり,同児に窒息による低酸素性・虚血
性脳障害の致命傷を負わせて,約5か月後に死亡するに至らしめたという業務上過
失致死の事案である。
本件の量刑に当たってまずもって重視されるべきは,被害結果が余りにも重大か
つ悲惨であるという点である。
すなわち,被害者は,年末,父親に連れられてその郷里へ帰っていた折,父親と
ともに本件砂浜を散策していたところ,突然本件事故(その発生状況は,「補足説
明」第3の2記載のとおりである。)に遭遇し,ただ一人砂の中で,逃げる術もな
く上記致命傷を負い,以後,意識が回復しないまま,命を落としていったもので,
被害者が味わったであろう死の恐怖あるいは絶望感には想像を絶するものがあり,
このような悲惨な形で希望に満ちた人生をわずか5歳という短さで閉じなければな
らなかった被害者の無念の程は計り知れない。また,惜しみなく愛情を注ぎながら
被害者の成長を見守ってきた両親を始めとする遺族の悲しみ,喪失感も,筆舌に尽
くし難く,現に遺族が負った心の傷は今なお癒されることはない。とりわけ,被害
者が砂の中に生き埋めとなる光景を目の当たりにしながら,救出することができな
かった父親は,現在に至るも,被害者を本件砂浜に連れていったことを悔い,自分
を責め続け,苦しんでいる。当然のことながら,遺族らは本件砂浜の管理業務に従
事していた被告人らに対して厳しい処罰感情を抱いている。
次に,被告人らの各過失の程度について検討する。
被告人A1が所長を務めていたE1出張所は,F1市側から,国土交通省による
抜本的な陥没対策工事の要請を受け,その実施に向けて中心的に動いていたD1工
事事務所(工務第一課)の出先機関として,例えば,平成13年5月,K1におい
て,F1市職員から陥没の発生状況やF1市側が施行した補修工事の概要等の説明
を受けたり,同年12月,F1市職員からA型バリケードの設置状況の報告を受け
るなど,D1工事事務所(工務第一課)に先んじてF1市側からの陥没関連情報に
接することが少なくなかったもので,本件事故の回避措置についても,被告人A1
自らの権限で講じることが可能なものであった。そして,F1市側において陥没対
策の中心を担っていたのは,土木部海岸・治水課であったところ,参事である被告
人B1は,決裁権限を有しないものの,部長の命を受け,同課の職務遂行につき,
被告人C1らの上司として同課職員を技術的な面から指導すべき立場にあった。ま
た,被告人C1は,同課の長として,自らの決裁権限の範囲内で本件事故の回避措
置を講ずることができたものである。
もとより,被告人らとしても,本件砂浜の陥没問題について,無策であったわけ
ではない。被告人らは,本件事故発生以前から,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤
沿い南端付近の砂浜において繰り返し発生していた陥没についてはこれを認識し,
その原因が防砂板の破損による砂の吸い出しであると考え,F1市側による3回の
補修工事や定期パトロール,立入禁止措置,国側による抜本的な対策工事に向けた
コンサルタント会社への調査依頼等,種々の対策を講じていたことは事実である。
しかし,国による抜本的な陥没対策工事が未着工の状況下において,被告人らは,
陥没が繰り返し発生していた南側突堤沿いの砂浜のみならず,ケーソン目地部に防
砂板を設置して砂の吸い出しを防ぐという基本的な構造が同一である東側突堤沿い
の砂浜においても,防砂板の破損による砂の吸い出しにより陥没が発生する可能性
があることを予見することができた以上,陥没等の発生により本件砂浜利用者等が
死傷に至る事故の発生を未然に防止すべきことが強く求められていた。それなのに,
被告人らは,南側突堤沿いの砂浜及び東側突堤沿い南端付近の砂浜の表面に現出し
た陥没の周囲のみにA型バリケード等を設置する措置を講ずることで事足りると軽
信し,それぞれが「罪となるべき事実」のとおりの安全措置を講じることなく放置
した結果,本件事故という最悪の事態が引き起こされたのであって,被告人らの各
過失は,いずれも重大なものであると言わざるを得ず,上記のような被告人らの職
責等に照らしても,その間に量刑に影響を及ぼすような大きな違いはない。
このように,本件は,被告人らが,それぞれの職責において,判示のような安全
措置を講じていれば,被害者の死亡という重大な結果の発生を防止することができ
た事案であり,それだけに適切な安全措置を怠った被告人らの刑事責任は,いずれ
も軽視し難いものがある。この意味で,被告人らに対して自由刑である禁錮を求刑
している検察官の立場は,十分に理解することができる。
しかし,他方,被害者の両親と国及びF1市との間で示談が成立していること,
被告人らにはいずれも前科がなく,それぞれが長年にわたり公務員として務め続け
てきたこと,本件事故が大きく報道され,厳しい非難を受けるとともに,被告人B
1及び同C1については,いずれも停職1か月の懲戒処分を受けるなど,被告人ら
が一定の社会的制裁を受けていることなど,被告人らのために酌むべき事情も存在
する。
以上のような諸事情を総合考慮すると,被告人らに対しては,それぞれその刑の
執行を猶予するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑・被告人3名をいずれも禁錮1年)
平成23年3月28日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官東尾龍一
裁判官辛島靖崇
裁判官村井美喜子

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