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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
平成29年10月22日に行われた衆議院小選挙区選出議員選挙の滋賀県
第1区ないし第4区,京都府第1区ないし第6区,大阪府第1区ないし第1
9区,兵庫県第1区ないし第12区,奈良県第1区ないし第3区,和歌山県
第1区ないし第3区における選挙を無効とする。
第2事案の概要
1本件は,平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙(以下「本件選
挙」という。)について,滋賀県第1区ないし第4区,京都府第1区ないし
第6区,大阪府第1区ないし第19区,兵庫県第1区ないし第12区,奈良
県第1区ないし第3区,和歌山県第1区ないし第3区の選挙人である原告ら
が,衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選
挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから,これに
基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であるなどと
主張して提起した公職選挙法204条所定の選挙無効訴訟である。
2前提事実
当事者間に争いのない事実,証拠(甲1~5,乙1~6,11の1,11
の2,12の1~12の7,13の4,14の1,14の2,16,17の
1~17の4,18の1~18の3,18の5,18の6,21)及び弁論
の全趣旨により容易に認定できる事実は,以下のとおりである。
公職選挙法は,衆議院議員の選挙制度につき小選挙区比例代表並立制を
採用しており,本件選挙施行当時,衆議院議員の定数は465人とされ,
そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とさ
れ(同法4条1項),小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を
設け,各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1
項,別表第1。以下,改正の前後を通じてその選挙区割りに関する同法の
規定を併せて「区割規定」といい,本件選挙当時の区割規定を「本件区割
規定」という。),衆議院議員総選挙においては,小選挙区選挙と比例代
表選挙とを同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人
1票とされていた(同法31条,36条)。
衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,改正の前後を通じて「区画
審設置法」という。)は,その2条において,衆議院議員選挙区画定審議
会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改
定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成し
て内閣総理大臣に勧告するものとし,その3条において,勧告の基礎とな
る選挙区割りの在り方を定め(ここでの定めを「区割基準」という。),
その4条1項において,その勧告は,統計法5条2項本文の規定により1
0年ごとに行われる国勢調査(いわゆる大規模調査)の結果による人口が
最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとする。
区画審設置法及び公職選挙法の改正の経緯は,以下のとお
りである。
平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成21年選挙」
という。)の当時施行されていた区画審設置法3条(以下「旧区画審設置
法3条」という。)は,①上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙
区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も
少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,
行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければ
ならないものと定めるとともに(同法3条1項),②各都道府県の区域内
の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(以下,
このことを「1人別枠方式」という。),この1に,小選挙区選出議員の
定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道
府県に配当した数を加えた数とすると定めていた(同条2項。以下,この
区割基準を「旧区割基準」といい,これを定めた同条を「旧区割基準規定」
ともいう。)。
旧区割基準に基づいて平成21年8月30日に施行された平成21年選
挙の効力が争われた訴訟において,最高裁平成22年(行ツ)第207号
同23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成2
3年大法廷判決」という。)は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区
間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とす
べきものとする旧区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等に配慮
した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,平成21年選挙時
において,選挙区間の投票価値の較差が平成14年の法改正(平成14年
法律第95号)時より拡大していたのは,各都道府県にあらかじめ1の選
挙区数を割り当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となってい
たことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減
少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が
失われていたものというべきであるから,旧区割基準のうち1人別枠方式
に係る部分及び旧区割基準に従って改定された区割規定の定める選挙区割
りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。
そして,同判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内
における是正がされなかったとはいえず,旧区割基準規定及び区割規定が
憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとし
た上で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に上記の状
態を解消するために,できるだけ速やかに旧区割基準中の1人別枠方式を
廃止し,旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿って区割規定を改正するなど,
投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。
これを受けて,平成24年11月16日,平成24年法律第95条(以
下「平成24年改正法」という。)が成立し,これにより,旧区画審設置
法3条2項(1人別枠方式を定めた規定)が削除されるとともに,いわゆ
る0増5減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人
口の少ない5県の各選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。)の方式に
より区割りを見直すこととされた。平成24年改正法により,旧区画審設
置法3条1項が同改正後の区画審設置法3条(以下「新区画審設置法3条」
という。)となり,同条においては前記
定められた(以下,この区割基準を「新区割基準」という。)。
平成24年改正法の可決成立と同時に衆議院が解散され,上記改定の結
果,平成22年10月1日を調査時とする国勢調査の結果によれば選挙区
間の人口の最大較差は1対1.998となるものとされたが,平成25年
3月31日現在及び同26年1月1日現在の各住民基本台帳に基づいて総
務省が試算した選挙区間の人口の最大較差はそれぞれ1対2.097及び
1対2.109であり,上記試算において較差が2倍以上となっている選
挙区はそれぞれ9選挙区及び14選挙区であった。
平成24年12月16日に衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」
という。)が施行されたが,平成24年改正法に基づく公職選挙法の区割
規定の改正はされていなかったので,平成24年選挙自体は,旧区割基準
に基づく区割規定に従って行われた。最高裁平成25年(行ツ)第209
号,第210号,第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8
号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は,同選挙時に
おける選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったも
のではあるが,平成24年選挙までの間の国会における是正の実現に向け
た取組が立法裁量権の行使として相当なものでなかったとはいえないから,
憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,
区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはで
きないとした上で,国会においては今後も新区画審設置法3条の趣旨に沿
った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判
示した。
平成24年選挙後に行われた区画審の勧告を受けて平成25年6月24
日,平成25年法律第68号(以下「平成25年改正法」という。)が成
立し,0増5減の考え方に基づく公職選挙法の区割規定の改正が行われ,
同年7月28日から施行された(以下,同改正後の選挙区割りを「平成2
5年選挙区割り」という。)。
平成26年12月14日には,平成25年選挙区割りに従って衆議院議
員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)が施行された。同日におけ
る選挙区間の選挙人数の較差を見ると,選挙人数が最多の東京都第1区に
は,選挙人数が少ない12選挙区(宮城県第5区,福島県第4区,鳥取県
第1区,同第2区,長崎県第3区,同第4区,鹿児島県第5区,三重県第
4区,青森県第3区,長野県第4区,栃木県第3区及び香川県第3区)と
の比較で2倍以上の選挙人がいた。最少選挙区の宮城県第5区と最多の東
京都第1区を比較すると,選挙人数の比は1対2.129となっていた。
平成26年選挙について,最高裁平成27年(行ツ)第253号同27年1
1月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下「平成27年大
法廷判決」という。)は,このような投票価値の較差が生じた主な要因は,
いまだ多くの都道府県において,新区割基準に基づいて定数の再配分が行
われた場合とは異なる定数が配分されていることにあるというべきであり,
このことは,同選挙当日において東京都第1区の選挙人数が2倍以上とな
っていた12選挙区がいずれも0増5減の対象とされた県以外の都道府県
に属しており,この12選挙区の属する県の多くが相対的に有利な定数の
配分を受けているものと認められることからも明らかであって,このよう
な投票価値の較差が生じたことは,全体として新区画審設置法3条の趣旨
に沿った選挙制度の整備が実現されていたとはいえないことの表れという
べきであるとし,以上のような平成26年選挙時における投票価値の較差
の状況やその要因となっていた事情などを総合考慮すると,平成25年改
正後の平成24年改正法による選挙区割りの改定の後も,平成26年選挙
に至るまで,平成25年選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に
反する状態にあったものといわざるを得ないが,憲法上要求される合理的
期間内における是正がされなかったといえるか否かを判断するに当たって
は,単に期間の長短のみならず,是正のために執るべき措置の内容,その
ために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を
総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨
を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものであったといえるか否かと
いう観点に立って評価すべきものと解されるところ(平成25年大法廷判
決等参照),憲法上要求される合理的期間を徒過したものと断ずることは
できないとして,平成25年改正による区割規定が憲法14条1項等の憲
法の規定に違反するものということはできないと判示した。
平成28年5月27日に成立した平成28年法律第49号(平成28年
改正法)は,本則においへの議席配分を,平成32年以
降10年ごとに行われる大規模調査の結果に基づき,いわゆるアダムズ方
式(各都道府県の人口を一定の数値で除し,それぞれの商の整数に小数点
以下を切り上げて得られた数の合計額が小選挙区選挙の定数と一致するよ
うに都道府県への議席配分を行う方式)により行うこととした上で,各選
挙区間の最大較差が2倍以上にならないようにすること(区画審設置法3
大規模調査が行われた年
から5年目に当たる年に行われる国勢調査(いわゆる簡易調査)の結果に
基づく各選挙区間の最大較差が2倍以上になったときは,選挙区の安定性
を図るとともに較差2倍未満を達成するため,各都道府県の選挙区数を変
更することなく,区画審が較差是正のために選挙区割りの改定案の作成及
び勧告を行うものとすること(同法3条3項,4条2項
の定数を10人削減し,うち小選挙区選挙の定数は6人減とすること(公
職選挙法大規模調査までの
措置として,平成27年の簡易調査の結果に基づき,各選挙区の人口に関
し,将来の見込人口を踏まえ,平成32年までの5年間を通じて較差2倍
未満となるよう区割りを行うなどの措置を行うこと(平成28年改正法附
平成
27年の簡易調査の結果に基づき,アダムズ方式により都道府県別定数を
計算した場合に減員対象となる都道府県のうち,議員1人当たりの人口の
最も少ない
平成28年改正法の施行後においても,全国民を代表する国会議員を選出
するための望ましい選挙制度の在り方については,不断の見直しが行われ
るものとすること(同附則5条)とされた。
その後平成29年6月9日に成立した平成29年法律第58号(以下
「平成29年改正法」という。)は本件区割規定を定めるものであり,衆
議院小選挙区選出議員の選挙区のうち19都道府県97選挙区において区
割りを見直し,かつ,上記の基準に従い,青森県,岩手県,三重県,
奈良県,熊本県及び鹿児島県の6県への配分議席数を1ずつ削減するとと
もに,これら公職選挙法の改正規定の施行期日を同年7月16日と定めた。
本件選挙は本件区割規定に基づいて行われたところ,本件選挙当日におけ
る選挙区間の選挙人数を比較すると,最少の鳥取県第1区と最多の東京都
第13区との比率は1対1.979であり,鳥取県第1区との較差が2倍
以上の選挙区は存在しなかった(乙1)。
3争点
本件の争点は,本件区割規定の憲法適合性である。
4本件区割規定の憲法適合性に関する原告らの主張
人口以外の要素(本件では都道府県の要素)を考慮した区割基準を採用す
るには合理性が必要であるところ,ある地域(都道府県)の選挙人と他の地
域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理
性はないから,都道府県の要素からなる1人別枠方式に合理性はなく,平
成23年,平成25年及び平成27年大法廷判決によりその廃止が求めら
れていた。ところが,新区画基準として採用されたアダムズ方式によると
18都道府県について議席配分定数の見直しを必要とするにもかかわらず,
平成28年改正法は6県についてしか見直しをしておらず,12都道府県
に限っていえば,1人別枠方式が残存していることになり,上記各大法廷
判決に反している。その結果,本件選挙では,他の地域と比べ投票価値が
0.51票分しかない地域が生じており,憲法の投票価値の平等の要求に
反する状態に至っていたものといわなければならない。
したがって,本件区割規定は,憲法56条2項,1条及び前文第1文が
定める「人口比例選挙によって保障される1人1票の投票価値の平等」に
反し,同法98条1項により無効である。
平成25年大法廷判決は,選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に
反する状態にあったと認めながら,憲法上要求される合理的期間内に是正
がされればよいと判示したが,そのこと自体,憲法の最高法規性を否定す
るものであって,憲法に違反する。仮に是正に必要な合理的期間の経過を
必要とするとしても,その合理的期間の起算点は,平成23年大法廷判決
の言渡日である平成23年3月23日であり,本件選挙当時,既に合理的
期間は徒過していた。
違憲無効な本件区割規定に基づき施行された本件選挙は無効であり,憲
法76条3項により選挙無効判決が言い渡されなければならない。
5本件区割規定の憲法適合性に関する被告らの主張
選挙制度の決定は国会の広範な裁量に委ねられているところ,小選挙区
選挙における投票価値の較差是正には種々の限界があり,投票価値の平等
が絶対的な基準となるものではない。平成28年及び平成29年改正法に
より,投票価値の最大較差を2倍未満に縮小させるとともに,将来的にも
これが維持されるような立法的措置が執られており,平成23年,平成2
5年及び平成27年大法廷判決が指摘した1人別枠方式の構造的な問題は
解消されているから,旧区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙権の整備を
実施している。本件区割規定は,国会が正当に考慮することができる政策
的要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとと
もに投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ったもので,十分
な合理性を有する。したがって,憲法の投票価値の平等の要求にも反しな
いから,本件選挙は合憲である。
憲法違反を是正すべき合理的期間は,国会が憲法の投票価値の平等の要
求に反する状態となったことを認識し得た時期を基準とし,単に期間の長
短だけでなく,是正のために執るべき措置の内容,そのために検討を要す
る事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して判断
されるべきであるところ,本件では,合理的期間内に是正がされている。
第3当裁判所の判断
1憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求している
ものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶
対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ない
し理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の
両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法
その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(同法43条2項,
47条),選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められて
いる。
衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用
される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定す
るに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平
等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められている
というべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考
慮することが許容されているものと解されるのであって,具体的な選挙区を
定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを
基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的
状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現
するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが
求められているところである。したがって,このような選挙制度の合憲性は,
これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権の行
使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国
会がこのような選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記の
ような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界
を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に
違反することになるものと解すべきである。
そして,区割基準について,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人
口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とな
らないようにすること(すなわち,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満に
なるように区割りをすること)を基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情
を総合的に考慮して合理的に行わなければならないとした旧区画審設置法3
条1項の定めは,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものであ
ると評価できる(平成23年,平成25年及び平成27年大法廷判決)。
2上記の見地に立って,本件区割規定の合憲性について検討する。
平成28年及び平成29年改正法は,平成25年選挙区割りに従って施行
された平成26年選挙につき,平成27年大法廷判決が,なお憲法の投票価
値の平等の要求に反する状態にあったと判断したことを踏まえ,各都道府県
への議席配分につき,大規模調査の結果に基づきアダムズ方式により行うこ
とを本則としながらも,平成32年の大規模調査までの暫定措置として,平
成27年の簡易調査の結果に基づき,将来の見込人口を踏まえ5年間を通じ
て較差2倍未満となるよう区割りを行うこととし,アダムズ方式により都道
府県別定数を計算した場合に減員対象となる都道府県のうち,議員1人当た
りの人口の最も少ない都道府県から順に6県の議員定数を各1削減すること
など,19都道府県97選挙区において衆議院小選挙区選出議員の選挙区の
改定を行ったものであり,国会において,投票価値の較差是正の実現に向け
た取組をしたものである。
その結果,本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,最少
の鳥取県第1区と最多の東京都第13区との比率1対1.979であり,較
差が2倍以上になる選挙区は存在しなかったのであるから,投票価値の平等
に配慮した合理的な基準を定めたものと評価される旧区画審設置法3条1項
の趣旨に一応沿ったものといえる。
そうすると,平成29年改正法によって定められた本件区割規定は,投票
価値の平等に反する状態の是正を最も優先すべき課題としながら,都道府県
を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面
積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの国会において考慮す
ることができる諸要素を考慮しつつ,両者の調和を図ったものであり,その
内容も一般に合理性を有するものと考えられるから,国会に与えられた裁量
権の範囲内で定められたものと評価することができ,憲法に違反しないとい
うべきである。
3原告らは,アダムズ方式によると18都道府県について議席配分定数の見
直しを必要とするところ,平成28年改正法は6県についてしか見直しをし
ておらず,12都道府県で1人別枠方式が残存していることになると主張す
る。
しかしながら,1人別枠方式自体は平成24年改正法で廃止されている。
平成28年及び平成29年改正法は,議員定数削減による影響を受ける都道
府県を極力減らすという激変緩和の観点と,平成32年以降の定数配分方式
と整合性を持たせるという観点から,同年の議席配分見直しの際に減員され
る蓋然性の高い6県を選出し,先行的に配分議席数を削減したというもので
あり,その意味では暫時的な見直しではあるが,これをもって,12都道府
県で1人別枠方式を残存させたというものではない。原告らの上記主張は採
用できない。
4さらに,原告らは,本件区割規定は,憲法56条2項,同法1条及び同法
前文第1文が定める「人口比例選挙によって保障される1人1票の投票価値
の平等」に反し,同法98条1項により違憲である旨主張する。
しかしながら,憲法は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準として投
票価値の平等を要求しているのではなく,選挙制度の仕組みの決定について
は一定の立法裁量を許容していると解される。そうすると,国会が,立法作
用により,定数配分及び選挙区割りを決定する際,投票価値の平等を最も重
要かつ基本的な基準としつつも,行政区画,地域の面積,人口密度,住民構
成,交通事情,地理的状況などの非人口的要素を考慮することも許されるも
のといわなければならない。原告らが指摘する憲法56条2項,同法1条及
び同法前文1文からは,憲法が,定数配分及び選挙区割りを決定するに当た
り,人口比例のみを絶対的な基準とし,非人口的要素を考慮しない厳格な投
票価値の平等(人口比例選挙の保障)を要求しているとの解釈を導き出すこ
とは困難である。原告らの上記主張は採用できない。
5結論
以上のとおりであって,本件区割規定は,憲法に違反するとはいえないか
ら,無効ではなく,原告らを選挙人とする各選挙区の本件選挙は無効とはい
えない。よって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官中本敏嗣
裁判官橋詰均
裁判官藤野美子

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