弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
     被告人を懲役10月に処する。
     未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
理由
【認定事実(罪となるべき事実)】
 被告人は,
第1 公安委員会の運転免許を受けないで,平成16年3月8日午後11時39分
ころ,山梨県中巨摩郡a町bc番地d付近道路において,普通乗用自動車(○○
号)を運転した
第2 前記日時ころ,前記車両を運転し,前記地番先の信号機により交通整理の行
われている交差点を甲府市方面から韮崎市方面に向かい時速約100キロメートル
で直進するに当たり,対面信号機が赤色の灯火信号を表示しているのを同交差点の
停止線手前約153.9メートルの地点で認め,直ちに制動措置を講じれば同停止
線の手前で容易に停止することができたにもかかわらず,無免許運転の発覚を恐れ
て,追尾していたパトロールカーから逃走しようと企て,速度を時速約50キロメ
ートルに落としたのみで,赤色の灯火信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危
険を生じさせる速度である時速約50キロメートルで自車を運転して同交差点に進
入したことにより,折から左方道路から青色信号に従って同交差点に進入してきた
A(当時64歳)運
転の普通乗用自動車右側部に自車左前部を衝突させ,よって,同人に加療約1週間
を要する頸椎捻挫の傷害を,同人運転車両の同乗者B(当時56歳)に加療約1か
月間を要する左手第2中手骨骨折等の傷害を,同C(当時75歳)に加療約1週間
を要する右足関節捻挫等の傷害を,それぞれ負わせた
ものである。
【法令の適用】
 被告人の判示第1の所為は道路交通法117条の4第1号,64条に,判示第2
の所為は被害者毎に刑法208条の2第2項後段(人を負傷させた場合)にそれぞ
れ該当するところ,判示第2の所為は1個の行為が3個の罪名に触れる場合である
から,同法54条1項前段,10条により1罪として犯情の最も重いBに対する危
険運転致傷罪の刑で処断することとし,判示第1の罪について所定刑中懲役刑を選
択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により
重い判示第2の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範
囲内で被告人を懲役10月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中30日を
その刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人
に負担させないこと
とする。
【量刑の理由】
 本件は,一度として運転免許を取得したことのない被告人が,無免許で普通乗用
自動車を運転していた最中,職務質問をしようとして近づいてきたパトカーを発見
し,無免許運転の発覚を恐れて逃走を開始し,追尾してきたパトカーを振り切ろう
として,赤信号を無視するという無謀極まりない運転をしたあげく,人身事故を発
生させたという事案である。
 被告人は,サイレンを鳴らしたパトカーに追尾されながら,時速100キロメー
トルを超える高速度で市内の幹線道路を逃げ回り,本件交差点に差しかかった。そ
して,本件交差点の手前で,対面信号が赤色の灯火信号を表示しており,直進用の
2車線に数台の車が信号待ちのために停止している状況を認めたものの,その右側
の右折専用レーンには車が停まっていなかったので,右折専用レーンを通って本件
交差点を突破し,追尾してきたパトカーを振り切ろうと考え,危険を承知しつつも
一か八かの気持ちで,速度を時速約50キロメートルに落としたのみで,そのまま
本件交差点に突っ込んで,判示の人身事故を発生させた。このような被告人の行為
は,他者の安全を全く顧みることなく交通上の危険をあえて生じさせたものであ
り,死亡事故すら発生
させかねない重大な危険を孕んだ,あまりに身勝手かつ無謀な行為であったという
ほかなく,現にノーブレーキの状態で被害車両と衝突しているのであるから,危険
極まりなく,言語道断である。しかも,このような無謀運転の結果,何の落ち度も
ない3名もの被害者に,判示のとおりの怪我を負わせており,うち1名には骨折を
伴う怪我まで負わせているのであって,結果も到底軽視できるものではない。のみ
ならず,被告人は,このような人身事故を発生させておきながら,なおも車を動か
して逃走を続けようとしており,事故後の行状も芳しいものではない。このよう
に,今回の人身事故の犯情は,まことに悪質である。
 ところで,被告人は,一度として運転免許を取得したことがないにもかかわら
ず,平成8年ころから何台もの車を保有してきており,その供述するところによっ
ても,週に1ないし2回程度は,暇をもてあまして,夜中に一人でドライブに出か
けることがあったというのであり,無免許運転の顕著な常習性が認められる上,実
の弟から再三にわたって,「無免許で運転していれば,いつか必ず警察に捕まる
し,逃げようとして事故を起こすことになるから,絶対に運転は止めてくれ」など
と諭されたのに,無免許運転を止めようとしなかったのであって,被告人には,道
路交通法規を守らなければならないという意識に欠けるところがあったといわざる
を得ない。しかも,被告人は,窃盗や毒物及び劇物取締法違反の前科が複数あり,
実際に3回も刑務所で服
役したことがあり,社会のルールを守ることの大切さを厳しく教育されたにもかか
わらず,その後も,上記のような常習的な無免許運転を繰り返していたのであるか
ら,その規範意識には度し難いものがあるというほかない。実際,今回の人身事故
に至る経緯を見ても,被告人には自己中心的な考えが強く,自分の行為が他人に及
ぼす迷惑に思いを致すことができず,社会のルールを守らなければならないという
意識にも欠けるところがあったことが如実にうかがわれるのである。今回の人身事
故も,このような被告人の法軽視の態度がもたらしたものと見るべきで,単なる偶
発的な事故と見るのは相当でない。
 以上の事情に照らすと,被告人の刑責は相当に重いといわなければならない。
 そうすると,①被害者らに生じた傷害結果も,幸いにして,重篤な後遺障害を残
すような深刻なものではなかったこと,②被害者らに生じた傷害結果については,
相手方車両にかけられていた保険から,治療費等が全額填補されているところ,こ
の保険で填補されないその他の物損等の損害については,被告人が今後年金を担保
にした借り入れによって被害回復に努める旨述べていること,③被告人が本件各犯
行を反省する態度を示すとともに,被害者らに謝罪文を送付して慰謝に努めている
こと,④被害者らが,「事故当時,到底被告人を許せないという気持ちで一杯でし
たが,時を経てみると,やはり,被告人を社会復帰させ,法的な被害弁償を行わせ
ることが,被告人に罪を償わせる最善の方策であると考えるに至りました。このま
ま被告人が矯正施設
に収容されてしまうと,被害弁償が進まない可能性が高いと思います。私どもは,
現在,被告人を矯正施設に収容し,それによって罪の償いをさせることは望んでお
りません。社会復帰させ,被害弁償をしっかり行わせることを望みます。」と述べ
て,複雑な思いのあることがうかがわれるものの,あえて実刑までは希望しない旨
の意向を表明していること,その他,⑤被告人の健康状態などの被告人のために酌
むべき事情を十分に考慮しても,法を軽視する姿勢の顕著な被告人に対しては,刑
の執行を猶予するのは相当でなく,その刑責を厳しく問い,社会のルールを守るこ
との大切さを理解させる必要があると考える。
 以上の次第で,主文のとおりの刑を量定することとした。
(出席した検察官山下明義,国選弁護人吉澤宏治)
(検察官の求刑 懲役1年6月)
平成16年7月30日
甲府地方裁判所刑事部
裁判官  柴 田   誠 

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