弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
一、控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金五〇〇円を支払
え。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
二、控訴人は、当審であらたに次のとおり主張した。
(一) 府中カントリークラブは、株式会社東京スポーツマンクラブが所有するゴ
ルフコースならびにその附属施設を利用し、ゴルフの普及および発達につとめ、会
員相互の親睦と体位の向上を図ることを目的として組織された法人格を有しない社
団で代表者の定めのあるものであるが、このゴルフ場を利用する会員に対し娯楽施
設利用税を課することは、憲法二一条の保障した結社の自由を制限することとな
り、同条に違反する。また、同ゴルフ場に同好の士数名が集つて競技会を催すこと
が屡々あるが、これに参加する各人から利用税を徴することは、憲法二一条の保障
する集会の自由を妨げるものであり、憲法違反である。また高額所得者の社団法人
である日本工業倶楽部、交詢社、日本倶楽部の会員が、その娯楽施設を利用するの
に課税しないのに、ゴルフ場利用者に課税するのは法の下の平等を規定する憲法一
四条に違反する。
(二) メンバー制のゴルフ場の利用者に娯楽施設利用税を課することは、二重課
税である。すでに当該のゴルフ場の土地建物につき固定資産税が徴収されており、
同税は、その物件の所有者から使用収益の対価を目安として、これに相応した分と
しての税を徴するのである。その物件の利用者は、いわば所有者の使用権をうけつ
いで個々に使用するのであるから、すでに課税済みのものである。それに対し更に
利用税を課することは、まさに二重課税であつて、許されない。
三、被控訴人は、右控訴人の主張に対して次のとおり答えた。
(一) 現在の国民の生活水準や社会通念からみても、ゴルフ場の利用は、相当高
度の消費行為と認められるものであり、娯楽施設利用税は、そこに担税力を認めて
課税する一種の消費税である。そして、このように、ゴルフ場の利用には、もとも
と相当高度の負担が必要とされているのであるから、ゴルフ場の利用に対して利用
税を賦課したとしても、そのためにゴルフ場を利用するにさいしての負担が幾分増
加することにはなるであろうが、右利用税を賦課することそれ自体が、ゴルフ愛好
者が、ゴルフクラブを結成し、競技会を催してそれに参加することを、直接間接に
制限し、または妨げるというようなことは、とうてい考えられないことである。憲
法二一条違反との主張は理由がない。
(二) 固定資産税は、土地家屋等の資産価値に着目して課税される一種の財産税
であつて、土地家屋等の固定資産の所有という事実に担税力を認めて課されるもの
であり、課税客体は土地家屋および償却資産である。これに対して、娯楽施設利用
税は、一定の施設が、楽しみ、なぐさみを得るために料金を支払つて利用されると
きに、その利用行為が消費支出能力をともなつていることに着目し、そこに担税力
の存在を推定して課する租税であつて、その課税客体は、あくまでも特定の施設を
利用するという行為である。このように、課税の対象となる客体が、それぞれ異つ
ているのであるから、二重課税というような問題は生じえないのである。
四、(証拠省略)
五、以上のほか、当事者双方の主張、………は、原判決事実摘示記載のとおりであ
る。
       理   由
一、控訴人が、株式会社東京スポーツマンクラブの株主で、同会社が東京都南多摩
郡<以下略>において経営しているゴルフ場・府中カントリークラブ(いわゆるメ
ンバー制のゴルフ場)の正会員であること、控訴人が、昭和四〇年九月二一日同ゴ
ルフ場でゴルフをしたところ、被控訴人たる東京都が、地方税法(昭和四一年法律
第四〇号による改正前のもの。以下同じ)第七五条第一項第二号、第七八条の二お
よび東京都都税条例(昭和四一年東京都条例第五四号による改正前のもの。以下同
じ)第四八条の一五第一項第二号、第四八条の一七第二項により、娯楽施設利用税
として、控訴人から金五〇〇円を徴収したことは、本件当事者間に争いがない。
二、控訴人は、ゴルフ場の利用者から娯楽施設利用税を徴収することを規定した右
地方税法の規定は、憲法一三条、一四条に違反して無効であると主張するので、以
下判断する。
 ゴルフが健全なスポーツであり、まあじやん、ぱちんこが専ら娯楽であるのとは
本質が異なるものということができる。(この意味において、ゴルフ場利用者に課
する税を娯楽施設利用税と呼ぶのは、いささか妥当性を欠く。)しかし、日本の現
状において、他のスポーツ例えばテニス・スケート・水泳等に比較すると、ゴルフ
はぜいたくなスポーツであり、高額所得者のみが楽しみうるスポーツであることは
否定しえない。それは、まず広大な芝生のある土地を必要とするから、おのずから
ゴルフクラブの会員になるためには莫大な入会金を要し、ビジターがプレイする場
合またはパブリツクコースでプレイする場合にも日に数千円の費用を要する。証人
Aの供述によれば、本件で問題になつている府中カントリークラブの例でいえば、
正会員となるためには一四〇万円位支払う必要があり、ビジターとしてプレイする
には一日五・六千円を要するというのである。したがつて、大衆的な他のスポーツ
と差別して、特定の階層で占められているゴルフ場利用者から利用税を徴収しても
法の下の平等に違反しないし、もともと高額所得者でなければゴルフ場を利用でき
ないのであるから、これに一日五〇〇円程度の利用税を課したからといつて、高額
所得者の幸福を追求する権利を制限したり妨げたりするものとはいえないというべ
きである。それ故これらの点に関し憲法一三条、一四条違反との所論は理由がな
い。また、ゴルフ場利用者に課税し、社団法人組織の日本工業倶楽部、交詢社、日
本倶楽部の会員が、その娯楽施設を利用するのに課税しないのは、法の下の平等に
反すると主張するが、このような施設利用行為に課税すべきである(地方税法七六
条二項参照)という結論はでるにしても、そのためにゴルフ場利用者に課税するこ
とが憲法一四条違反であるということにはならない。
三、つぎに、控訴人は、ビジターが課税されるのはやむをえないが、地方税法所定
の「ゴルフ場」には、メンバー制のゴルフ場を正会員が利用する場合は含まれない
と解すべきであり、このような場合に利用税を課することは憲法二一条に違反する
と主張するが、正会員がゴルフ場を利用する場合とビジターが利用する場合とで本
質的に相違があると解すべきではなく、正会員は入会金や年会費の形でグリーンフ
イを前払いしてあるから使用のたびごとの利用料が低廉であるにすぎない。また、
ゴルフ場利用税は、ないにこしたことはないが、この程度のものがあつたからとい
つて、もともと高価な入会金を支払う能力のある者の入会を阻み、集会を困難にす
るものとはいえない。この主張もまた理由がない。
四、二重課税であるとの控訴人の主張の理由がないことは、被控訴人の答弁のとお
りである。
五、よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由
がないから、民訴法三八四条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷口茂栄 瀬戸正二 奈良次郎)

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