弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     付帯控訴にもとづき、原判決中控訴人Aに関する部分(主文第二項)を
つぎのとおり変更する。
     控訴人Aは、被控訴人に対し、原判決別紙目録記載の建物のうち同末尾
添付図面朱斜線表示の部分を収去してその敷地一〇坪八合六勺(三五・九〇〇七平
方メートル)を明け渡し、かつ、昭和三五年一〇月四日から昭和三七年三月三一日
までは一か月金一〇、六一〇円、同年四月一日から昭和四〇年三月三一日までは一
か月金一九、八一九円、同年四月一日から右土地明渡済みに至るまでは一か月金二
四、三九一円の各割合による金員を支払え。
     控訴人Bの反訴請求を棄却する。
     控訴費用(反訴に関する費用を含む。)は、控訴人らの負担とする。
     原判決第一項および第三項ならびに本判決第三項は、被控訴人において
金三〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
         事    実
 一 申立て
 控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求は、付帯控訴にもとづ
き拡張した部分をも含めて、いずれも棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控
訴人の負担とする。」との判決、および、控訴人Bの反訴請求として、「被控訴人
は、控訴人Bに対し、大阪市a区b町c番丁d番地のe宅地一〇坪八合六勺(三
五・九〇〇七平方メートル)について、所有権移転登記手続をせよ。反訴費用は、
被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 被控訴代理人は、「本件各控訴を棄却する。付帯控訴にもとづき請求を拡張し、
原判決中控訴人Aに関する部分をつぎのとおり変更する。同控訴人は、被控訴人に
対し、原判決別紙目録記載の建物のうち同末尾添付図面朱斜線表示の部分を収去し
てその敷地一〇坪八合六勺(三五・九〇〇七平方メートル)を明け渡し、かつ、昭
和三五年一〇月四日から昭和三七年三月三一日までは一か月金一〇、六一〇円、同
年四月一日から昭和四〇年三月三一日までは一か月金一九、八一九円、同年四月一
日から右土地明渡済みに至るまでは一か月金二四、三九一円の各割合による金員を
支払え。控訴費用(付帯控訴費用を含む。)は、控訴人らの負担とする。」との判
決および右原判決の変更を求める部分につき仮執行の宣言を求め、控訴人Bの反訴
に対し、「控訴人Bの反訴を却下する。本案につき、同控訴人の反訴請求を棄却す
る。反訴費用は、同控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 二 主張
 (一) 本訴について
 1 被控訴代理人は、本件請求の原因として、
 「本件土地は、もとCの所有に属していたところ、同人は、昭和二四年五月、被
控訴人の父Dとの間で、右土地の売買契約を締結した。そして、被控訴人は、昭和
三〇年八月右Dから本件土地の贈与を受け、同年一〇月一七日Cから直接所有権移
転登記を受けた。しかるに、控訴人Aは、昭和三五年一〇月四日以降本件土地上に
本件建物(原判決添付図面赤斜線部分に限る。以下同じ。)を所有し、控訴人E
は、同建物のうち原判決添付図面(A)の部分を占有して、いずれも、被控訴人の
土地所有権の行使を妨害している。よつて、控訴人Aに対しては本件建物の収去と
土地明渡しを、同Eに対しては右(A)の部分からの退去と土地明渡しをそれぞれ
求めるとともに、土地不法占拠による損害賠償として、控訴人Bおよび同Aに対
し、つぎの金員の支払を求める。
 (1) 控訴人Bに対しては、金二四七、一二四円およびこれに対する昭和三五
年一〇月一六日から完済まで年五分の割合による遅延損害金
 (2) 控訴人Aに対しては、昭和三五年一〇月四日から昭和三七年三月三一日
までは一か月金一〇、六一〇円、昭和三七年四月一日から昭和四〇年三月三一日ま
では一か月金一九、八一九円、昭和四〇年四月一日から右土地明渡済みに至るまで
は一か月金二四、三九一円の各割合による賃料相当の損害金」
 と陳述した。右請求原因中、控訴人Bに対する金員請求の根拠は、原判決事実摘
示の請求原因第(二)項ないし第(四)項に記載されているとおりであるから、こ
れを引用する。
 2 控訴人ら代理人は、「被控訴人主張の請求原因事実中、本件土地がもとCの
所有に属し、同人が昭和二四年五月被控訴人の父Dとの間で売買契約を締結したこ
と、被控訴人が昭和三〇年一〇月一七日Cから直接所有権移転登記を受けたこと、
ならびに、本件建物が本件土地上に存することおよびその昭和三〇年一〇月一八日
以降の所有関係と現在の占有関係は、いずれも認めるが、その余は否認する。」と
述べ、抗弁として、
 「(1)C・D間の本件土地売買契約は、控訴人Bの夫亡Fが右契約締結の代理
権をDに与え、DにおいてFの代理人として締結したものである。仮にDが本人で
あるFのためにすることを示さなかつたとしても、Fは当時黒門市場に店舗を構え
ていた商人であつたから、本件土地売買契約は、本人たるFに対して効力を生ずる
(商法五〇四条本文)。したがつて、右売買契約によつて本件土地を取得したの
は、Fである。
 (2) 仮に右主張が採用されないとしても、Fは、本件土地をD名義で買い取
ることを同人に委託したのであるから、DがCから買い受けた本件土地は、D・F
間では、直ちにF所有となつたものである。のみならず、Fおよびその相続人たる
控訴人Bが、昭和四二年四月までに代金の支払を済ませているのであるから(一部
は弁済供託による。)、少なくともこの時点において本件土地の所有権は控訴人B
に帰属したものである。もつとも、Fへの移転登記はいまだされていないけれど
も、被控訴人は、「他人ノ為メ登記ヲ申請スル義務」(不動産登記法五条)あるD
からの転得者にすぎないから、控訴人Bの登記のけん欠を主張する正当の理由がな
い。むしろかえつて、被控訴人は、Dの相続人として、右委託の趣旨に従い、控訴
人Bに対し所有権移転登記義務を履行すべき義務あるものといわなければならな
い。
 (3) Dと被控訴人間の本件宅地の贈与は、虚偽表示によるものであるから、
無効である。」
と陳述した。右抗弁中、FがDに対し本件宅地購入の代理権を授与しまたはDの名
において買い取ることを委託するに至つた事情の詳細は、原判決事実摘示の答弁
(2)(3)項記載のとおりであるから、これを引用する。
 3 被控訴代理人は、「原判決事実摘示の答弁(2)項の事実および(3)項中
その冒頭から『各その敷地部分を組合員個人として地主から買入れることによつて
対処する方針』をとろうとしたことは認めるがその余の事実は否認する。その他控
訴人ら主張の抗弁事実はすべて否認する。」と述べた。そのうち、F・D間の代理
権授与または買取委託に対する否認についての積極的な主張は、原判決事実摘示判
決書三枚目裏末行から四枚目表末行までに記載されているとおりであるから、これ
を引用する(ただし、四枚目表八行目「賃借」を「賃貸」に訂正する。)。
 (二) 反訴について
 1 控訴人B代理人は、反訴請求原因として、「本訴における控訴人らの主張と
して述べたとおりの経緯で、控訴人Bの夫亡Fは、被控訴人の父Dに対し本件土地
購入の代理権を授与しまたはその名においてこれを買い取るよう委託し、Dはこれ
にもとづいて本件土地所有者Cとの間で売買契約を結び、右買取りに要した代金も
すでにFおよびその相続人たる控訴人Bにおいて完済した。したがつて、本件土地
は控訴人Bの所有に属し、一方、被控訴人のため所有権移転登記がなされているか
ら、所有権にもとづきまたは委託の趣旨に従い、登記抹消に代えて、所有権移転登
記手続を求める。そして、右は、控訴審における反訴ではあるが、その訴訟物にお
いて本訴と関連し、反訴被告の審級の利益を害するおそれがないから、その同意を
要しないものである。」と陳述した。
 2 被控訴代理人は、本案前の抗弁として、控訴人Bの反訴には同意しないから
不適法として却下を求めると述べ、本案の答弁として、本訴における被控訴人の主
張と同一の陳述をした。
 三 立証(省略)
 理由
 一 本件土地の所有権の帰属について
 本件土地がもとCの所有に属していたこと、および、同人が昭和二四年五月被控
訴人の父亡Dとの間で右土地の売買契約を締結したことは、当事者間に争いがな
い。控訴人らは、右売買契約締結については、控訴人Bの夫亡Fが本件土地を入手
するためDに対し契約締結の代理権を与えまたは少なくともDの名において買い取
るよう委託したものである旨主張するので、まずこの点につき判断する。
 本件土地を含む付近一帯は、黒門市場と称する市場で多数の店舗が立ち並び、右
Cその他の土地所有者から借地して営業していたところ、昭和二三年地主側から借
地期間の満了を理由に土地明渡しを求めてきたので、市場側では各店舗の所有者が
それぞれの店舗敷地を買い取ることによつてこれに対処しようとしたことは、当事
者間に争いがない。ところで、原審証人G、HおよびDならびに原審および当審証
人I(原審は第一、二回)およびJの各証言によれば、市場側では右の土地買取り
の件につき協議を重ねたところ意見の一致をみず、けつきよくその集りである黒門
市場組合の組合長をしていたDが個人で一括して買い取ることとなつたこと、そし
てそのうえで、各自の店舗敷地の分譲を希望する者があれば、Dにおいて、個別に
申込みを受け改めて売買の交渉に応じようという話になつたこと、を認めることが
できる。
 しかし、さらに進んで、Dにおいて各組合員から土地購入の代理権またはDの名
で買い取る委託まで受けていた点は、原審証人K・L・Mおよび当審証人Nの各証
言ならびに原審における控訴人Bおよび当審における控訴人A各本人の供述以外に
は、これを認めるに足りる証拠がない。そして、これら各証言および各本人の供述
は、前記認定に供した各証言に照らし信用することができない。
 また、控訴人らは、前記主張の裏付として、FがDに土地買取りのための代金を
支払つた旨主張し、右証人Mの証言およびこれによつて真正に成立したものと認め
る乙第五号証、右証人Nの証言ならびに右各控訴本人の供述によれば、C・D間の
本件土地売買契約の約半年後、Fは黒門市場組合の世話をしていたMに一万円を預
けたことが認められる。しかし、これら各証拠(乙第五号証以外は前記信用しない
部分を除く。)によつても、この一万円を預けた趣旨が明らかでないし、この一万
円がMからDに渡つた旨の右証人Mの証言は当審証人Iの証言(第一、二回)に照
らし信用できず、ほかにはDに渡つている点の証拠がない。したがつて、この一万
円をMに預けたという事実だけでは控訴人らの前記主張事実を認めるには十分でな
い。なお、右各証人の証言および各本人の供述中には、Fがもう一万円支払つた趣
旨の部分があるけれども、これはすぐには信用できない。
 以上のように、Dが本件土地を買い受けるについては、Fからは代理権の授与そ
の他なんらかの委任のあつたことを認めることができず、一方、成立に争いのない
甲第一号証および当審証人Iの証言(第一、二回)によれば、Dは遺産として残す
趣旨で昭和三〇年一〇月はじめ本件土地を被控訴人に贈与したことを認めることが
できる。この認定をくつがえし、あるいは右贈与が虚偽表示によることを認めるべ
き証拠はない。したがつて、被控訴人は、右贈与により本件土地の所有権を取得し
たものというべく、そして、同月一七日、被控訴人のための所有権移転登記がされ
たことは、当事者間に争いがない。
 二 被控訴人の本訴請求について
 ところで、本件建物が本件土地上に存すること、ならびに、被控訴人が主張する
昭和三〇年一〇月一八日以降の本件建物の所有関係およびその現在の占有関係は、
いずれも当事者間に争いがない。したがつて、被控訴人は、所有権にもとづき、控
訴人Bに対しては不法占拠による賃料相当の損害金およびこれに対する昭和三五年
一〇月一六日以降完済まで年五分の遅延利息を、控訴人Aに対しては本件建物の収
去と土地明渡しおよび昭和三五年一〇月四日以降右土地明渡済みまでの賃料相当の
損害金を、控訴人Eに対しては本件建物のうち原判決末尾添付図面(A)の部分か
らの退去と土地明渡しを、それぞれ求めることができる。
 そして、控訴人Bに請求しうる賃料相当の損害金の額が二四七、一二四円をこえ
ることは、原判決理由中に説示されているとおりであるから(判決書一〇枚表二行
目以下)、これを引用する。また、控訴人Aに対し請求しうる昭和三五年一〇月四
日以降の賃料相当額が被控訴人主張どおりであることは、当審における鑑定人Oの
鑑定の結果によつてこれを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。
 そうすると、被控訴人の本訴各請求は、全部正当としてこれを認容すべきであ
る。
 <要旨>三 控訴人Bの反訴請求について
 控訴人Bの反訴の適否について判断するに、右反訴が控訴審である当審ではじめ
て提起されたものであり、右反訴提起については、相手方である被控訴人の同意し
ないところである。しかし、被控訴人の本訴請求においては、本件土地の所有権が
被控訴人にあるか控訴人Bにあるかが最大の争点であり、原審以来この点につき十
分に攻撃防禦がつくされてきている。ところで、右反訴は、被控訴人に対し所有権
移転登記手続を求めるものであるが、それは、控訴人Bの本件土地所有権を根拠に
しているものであるから、このような反訴提起は、被控訴人から審級の利益を奪ら
ものとは解されない。したがつて、被控訴人の同意がないからといつて、本件反訴
を不適法とすることはできない。
 しかしながら、被控訴人の本訴請求について判断したように、本件土地の所有権
は被控訴人にあり、控訴人Bには属しないし、被控訴人に対し所有権移転登記手続
を求めうる契約関係も認められないから、けつきよく、同控訴人の反訴請求は理由
がない。
 四 むすび
 以上のとおりであるから、被控訴人の本訴各請求(ただし、被控訴人Aに対する
請求はその拡張前の部分)を認容した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却
し、なお、拡張後の請求に符合するよう控訴人Aに関する原判決(主文第二項)を
本判決主文第三項のとおり改め、控訴人字野の反訴請求を棄却し、訴訟費用の負担
につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適
用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 井関照夫 判事 藪田康雄 判事 賀集唱)

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