弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人代理人の上告理由は、末尾添附別紙上告理由書記載の通りである。
 上告理由第一点について。
 原判決がその採用した疎明資料に基き、単に「神庭は高林の懇請を容れ本件目的
地に通行権を設定した」旨判示したことは、所論の通りである。しかし、被上告人
は第一審以来、本件仮処分の被保全権利として第一次に本件目的地に落する通行地
役権を主張していたのであるから、原判決が右推認した通行権とは被上告人の主張
する通行地役権を認容したものであることは、原判決を通読すれば明白である。ま
た、原審の採用した疎明資料を綜合すれば、被上告人の前主Aが昭和九年中本件目
的地の前所有者たるBより本件目的地につき通行地役権の設定を受けた事実を疎明
できないわけではない。従つて、原判決には所論の如き理由の不備又は理由齟齬の
違法はない。
 同第二点について。
 原判決の援用に係る疎明資料によつても、被上告会社の設立時期が昭和十六年八
月中であることは明らかであるから、原判決がその設立時期を昭和二十六年三月と
推認したことが誤りであることは、所論の通りである。しかし、原判決は右昭和二
十六年三月にAがその所有の倉庫及び敷地(本件地役権の要役地)を被上告会社に
現物出資したことを推認し、従つて被上告会社が本件地役権をその要役地と共に取
得した時期を昭和二十六年三月と推定したものであることは、原判決を通読すれば
明らかであるから、前示事実の誤認は、原判決の結論に対し何等影響を及ぼさない
ものであつて、原判決に理由不備の違法があるとは言えない。
 同第三点について。
 原審口頭弁論に現われた疎明資料全部を検討するとき、本件目的地につき前所有
者たるBがAに対し果して物権たる通行地役権を設定したものであるか、或は単に
本件目的地の通行を黙認していたのに止まるものであるか疑わしいけれど、仮処分
異議手続においては証明の必要はなく疎明を以て足るところ、前に判示した如く原
判決の採用した資料を綜合すれば、本件目的地につき物権たる通行地役権の設定せ
られた事実を疎明できないわけではなく、証拠の取捨判断は原審の専権に属すると
ころであるから、原判決が反対の疎明資料を全部排斥し前示事実を推認したからと
いつて、これを非難することは許されない。また、右事実の推認が社会通念及び経
験則に反するものと認めることはできない。
 同第四点について。
 原判決は、前に判示した通り、疎明資料に基いてAはBより本件目的地に通行地
役権の設定を受け、これを要役地と共に被上告人に譲渡した事実を推認したもので
あるから、証拠によらないで被上告人の本件地役権を認定したものとはいえない。
 同第五点について。
 原判決の判文はいささか明瞭を欠ぐうらみがあるが、要するに原判決の推定した
事実によれば、上告人は本件目的地に存する通行地役権を黙認していたのに止まら
ず、本件目的地を含む宅地上に存する上告人所有家屋の借家人に対し、表口よりの
出入を禁止し裏口より本件目的地を通つて被上告人裏側の通路を使用することを強
要して本件通行地役権を積極的に承認する如き態度に出ていたというのである。民
法第百七十七条にいわゆる第三者とは、当事者若しくはその包括承継人に非ずして
不動産に関する物権の得喪及び変更の登記欠缺を主<要旨>張する正当の利益を有す
る者を指称し、その善意悪意を問わないのを原則とする。しかしながら、現に登記
られていない物権の存在を承認するに止まらず、更に自らその権利の存在
を前提とする如き行動に積極的に出た者が、その後に至りほしいままにその態度を
一変し、登記の欠缺を口実としてその権利の存在を否定するが如き場合は、民法第
一条の信義誠実の原則に背反することは明らかであり、また現存の登記状態に信頼
して行動する者が不慮の損害を被ることのないよう保護することを主たる目的とす
る民法第百七十七条の法意に照し、同条の保護を受けるに値いしないものといわね
ばならぬ。従つて、右の如き者は、同条にいわゆる第三者に当らないものと解する
のを相当とする。(参照、大審院昭和九年三月六日判決及び同昭和十二年六月十八
日判決)。そして、上告人は、前示の通り本件通行地役権の存在を黙認していたの
みならず、これを前提として自己の所有家屋の借家人に本件目的地の通行を強要し
ていたのであるから、上告人は本件通行地役権につき登記の欠缺を主張することは
許されないものと解すべきである。原判決が上告人において登記欠缺主張の権利を
放棄したものと判示したのは、結局右と同様の法理を表現せんとしたことに帰する
から、被上告人が登記なくとも本件地役権を上告人に対抗できるとなした原判決の
結論は相当であるといわねばならぬ。しからば、登記欠缺主張の権利を放棄したと
の原判決理由を攻撃する論旨は、結局理由のないことは明らかである。
 よつて論旨はすべて理由がないので民事訴訟法第四百一条、第九十五条、第八十
九条に則り主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

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