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平成22年2月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10151号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年2月3日
判決
原告大王製紙株式会社
同訴訟代理人弁理士荒船博司
荒船良男
赤澤高
被告特許庁長官
同指定代理人村上聡
千馬隆之
鈴木由紀夫
安達輝幸
黒瀬雅一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−23894号事件について平成21年4月27日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判請求について,特許庁が,本願発明の要旨を下記2のとおり認定した
上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨
は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求め
る事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)出願手続(甲6)及び拒絶査定
発明の名称:「ティッシューペーパー収納箱」(補正前の名称:「家庭用薄葉紙
収納箱」)
出願番号:特願2006−33747号
出願日:平成18年2月10日
分割の表示:特願2005−9465号(特願2003−54490号の分割出
願)の分割出願(甲19,20)
原出願日:平成15年2月28日
拒絶査定:平成19年7月23日付け
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成19年8月30日(不服2007−23894号)
手続補正日:平成21年3月9日付け(甲7。以下,同日付けの手続補正を「本
件補正」といい,本件出願に係る本件補正後の明細書(甲6,7,15∼17)を
「本願明細書」という。)
審決日:平成21年4月27日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成21年5月12日
2本願発明の要旨
本件審決が判断の対象とした本願発明(本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
に記載の発明)の要旨は,次のとおりである。なお,文中の「/」は原文の改行部
分を示す。
交互に折り畳まれて積層されたティッシューペーパーが内部に収容され,上面の
蓋部が破断用切目線に沿って切り取り可能に構成され,該蓋部を切り取って形成さ
れる切取口を通して内部のティッシューペーパーを取り出すことができるように構
成され,長手方向の長さが160∼250㎜,短手方向の長さが100∼120㎜
の略直方体状で上面直方形のティッシューペーパー収納箱において,/前記破断用
切目線は,前記ティッシューペーパー収納箱の短手方向で互いに対向し前記蓋部の
前記短手方向両端を区画する一対の第一の切目線部分と,前記ティッシューペーパ
ー収納箱の長手方向で互いに対向し前記蓋部の前記長手方向両端を区画する一対の
第二の切目線部分とから構成され,前記第一の切目線部分の各々は長手方向中央が
対向相手の前記第一の切目線部分に向けて円弧状に張り出すように形成され,前記
第一の切目線部分同士の前記短手方向の最小隙間の幅は5㎜以上であり,前記蓋部
の前記長手方向両側に該長手方向外側に向けて張り出す円弧状部分が形成されるよ
うに,かつ,前記長手方向における前記切取口の最大長さが前記ティッシューペー
パー収納箱の長さの60%以上となるように前記第二の切目線部分が形成され,使
用状態で,前記蓋部を切り取って形成される前記切取口の縁が全周に亘って連続し
てループ状をなすことを特徴とするティッシューペーパー収納箱。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由の要旨は,要するに,本願発明は,下記アの引用例に記載
された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イ∼オの周知例1∼4に記載さ
れた周知技術(以下,それぞれ「周知技術1」∼「周知技術4」という。)に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の
規定により特許を受けることができない,というものである。
ア引用例:特開2000−254035号公報(甲1)
イ周知例1:特開昭62−52074号号公報(甲2)
ウ周知例2:実願昭57−19642号(実開昭58−121871号)のマ
イクロフィルム(甲3)
エ周知例3:実願平3−59522号(実開平5−3170号)のCD−RO
M(甲4)
オ周知例4:実願平3−59521号(実開平5−3169号)のCD−RO
M(甲5)
(2)なお,本件審決が認定した引用発明並びに本願発明と引用発明との一致点
及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明:交互に折り畳まれて積層されたティシュペーパが内部に収容され,
上面のスリットカバーがミシン目に沿って切り取り可能に構成され,該スリットカ
バーを切り取って形成されるオープニング部を通して内部のティシュペーパを取り
出すことができるように構成され,長手方向の長さが240㎜,短手方向の長さが
114㎜の略直方体状で上面直方形のティシュペーパ収納紙製箱において,前記ミ
シン目は,前記ティシュペーパ収納紙製箱の短手方向で互いに対向し前記スリット
カバーの前記短手方向両端を区画する一対の第一の切目線部分と,前記ティシュペ
ーパ収納紙製箱の長手方向で互いに対向し前記スリットカバーの前記長手方向両端
を区画する一対の第二の切目線部分とから構成され,前記第一の切目線部分の各々
は対向相手の前記第一の切目線部分に向けて全体が張り出すように形成され,前記
第一の切目線部分同士の前記短手方向の最小隙間の幅は3∼15㎜であり,前記長
手方向における前記オープニング部の最大長さが前記ティシュペーパ収納紙製箱の
長さの21∼63%となるように前記第二の切目線部分が形成されたティシュペー
パ収納紙製箱。
イ一致点:交互に折り畳まれて積層されたティッシュペーパーが内部に収容さ
れ,上面の蓋部が破断用切目線に沿って切り取り可能に構成され,該蓋部を切り取
って形成される切取口を通して内部のティッシュペーパーを取り出すことができる
ように構成され,長手方向の長さが240㎜,短手方向の長さが114㎜の略直方
体状で上面直方形のティッシュペーパー収納箱において,前記破断用切目線は,前
記ティッシュペーパー収納箱の短手方向で互いに対向し前記蓋部の前記短手方向両
端を区画する一対の第一の切目線部分と,前記ティッシュペーパー収納箱の長手方
向で互いに対向し前記蓋部の前記長手方向両端を区画する一対の第二の切目線部分
とから構成され,前記第一の切目線部分の各々は対向相手の前記第一の切目線部分
に向けて張り出すように形成されたティッシュペーパー収納箱。
ウ相違点
(ア)相違点1:本願発明では,「前記第一の切目線部分の各々は長手方向中央
が対向相手の前記第一の切目線部分に向けて円弧状に張り出すように形成」されて
いるのに対し,引用発明では,「前記第一の切目線部分の各々は対向相手の前記第
一の切目線部分に向けて張り出すように形成」されており,張り出した部分の形状
が,本願発明のように円弧状であることが特定されていない点。なお,以下におい
ては,本願発明の当該円弧状部分を「第1円弧状部分」という。
(イ)相違点2:本願発明では,張り出した部分の形状が円弧状である構成を前
提として,「前記第一の切目線部分同士の前記短手方向の最小隙間の幅は5㎜以
上」,及び,「前記長手方向における前記切取口の最大長さが前記ティッシュペー
パー収納箱の長さの60%以上」としているのに対し,引用発明では,前提となる
張り出した部分の形状が,本願発明のように特定されていないとともに,「前記第
一の切目線部分同士の前記短手方向の最小隙間の幅は3∼15㎜」,及び,「前記
長手方向における前記オープニング部の最大長さが前記ティッシュペーパー収納紙
製箱1の長さの21∼63%」としている点。
(ウ)相違点3:本願発明では,「前記蓋部の前記長手方向両側に該長手方向外
側に向けて張り出す円弧状部分が形成され」,「使用状態で,前記蓋部を切り取っ
て形成される前記切取口の縁が全周に亘って連続してループ状をなす」のに対し,
引用発明では,そのような構成であることが特定されていない点。なお,以下にお
いては,本願発明の当該円弧状部分を「第2円弧状部分」という。
4取消事由
(1)相違点1についての判断の誤り(取消事由1)
(2)相違点2についての判断の誤り(取消事由2)
(3)相違点3についての判断の誤り(取消事由3)
(4)作用・効果を看過した判断の誤り(取消事由4)
第3当事者の主張
1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本願発明における第1円弧状部分の構成の採用理由についての判断の誤り
本件審決は,本願発明の第1円弧状部分は,ティッシュペーパーの引っ掛かりを
防止するために採用されている構成であるとした。
しかしながら,本願明細書【0005】には,本願発明の課題は,家庭用薄葉紙
収納箱の取出口における家庭用薄葉紙の保持性と取出性との両立であることが記載
されている。
そして,上記課題を解決するために,本願発明の構成が採用され,本願明細書の
【0016】【0034】【0035】によると,「第一の切目線部分」に形成さ
れた羽部がティッシュペーパーの保持性及び取出性に寄与しているものであること
が明白である。
また,原告従業員による実験(甲14,22。以下「原告実験」という。)によ
ると,本願発明は,第1円弧状部分が形成された構成と,第2円弧状部分が形成さ
れた構成との相互作用によって,ティッシュペーパーの取出性と保持性との両立が
図れることが明らかであって,本願発明の第1円弧状部分の形成は,ティッシュペ
ーパーの引っ掛かりを防止するためのみに採用された構成ではない。
以上のとおり,第1円弧状部分の構成は,ティッシュペーパーを取り出しやすく
する取出性と,ティッシュペーパーを保持する保持性との両立のために採用された
構成であって,本件審決の判断は誤っている。
(2)第1円弧状部分の構成について引用発明に基づいて容易に想到することが
できるとした判断の誤り
本件審決は,ティッシュペーパー収納箱の切取口の突出部の形状を円弧状とする
ことは当業者であれば容易に想到し得るものであるとした。
しかしながら,引用発明では,ティッシュペーパーの取出性の改善のため,滑剤
を用いる手法が採用されているものであるのに対し,本願発明では,ティッシュペ
ーパーの取出性の改善のため,取出口の形状を円弧状にする手法が採用されている
ものであって,両者は課題に対する解決方法を異にするものであるから,引用発明
は,本願発明に係る技術を示唆するものではない。
また,引用発明は,ティシューペーパの取出性の一部を解決するにすぎず,ティ
ッシュペーパーの保持性と突出部の形状との関係について示唆する記載はない。
以上によると,本件審決の「当該突出部にティッシュペーパーが引っかからない
ようにその形状や構造を工夫することは当業者であれば当然に考慮すべきことであ
り」とする判断は,失当であり,同判断に基づく「その突出部の形状を円弧状とす
ることは,引っかかりの少ない形状として当然に想到し得る形状であるから,突出
部の形状を円弧状とすることは当業者であれば容易に想到し得るものである」との
判断は誤っている。
(3)周知技術1及び2を勘案して相違点1に係る本願発明の構成とすることが
容易想到であるとした判断の誤り
本件審決は,技術常識や周知技術1及び2のような周知技術を勘案し,引用発明
の第一の切目線部分の形状を円弧状に張り出したものとし,相違点1の本願発明の
構成とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとした。しかしながら,本
件審決には,以下のア及びイのとおりの誤りがある。
ア周知技術1について
周知技術1は,箱状の容器の下面から薄紙を取り出すものであって,保持性を考
慮する必要がないものであり,また,周知技術1において使用されるタオル紙(タ
オル用紙)はティッシュペーパーとも異なるもの(甲10)であり,本願発明及び
引用発明の取出口とでは,その形状,構造の目的と作用・効果が異なるものであっ
て,これを引用発明に適用するについては阻害要因があるというべきである。
イ周知技術2について
周知技術2は,取出口が狭く,舌片で挟むことにより,紙と紙,紙と取出口の摩
擦抵抗によって保持性を上げているのに対して,本願発明は,取出口の縁部の形状
を円弧状にすることにより,ティッシュペーパーを挟まなくても好適に保持できる
構造であって,本願発明と周知技術2とでは,ティッシュペーパーを挟むか挟まな
いかの点において,ティッシュペーパーの保持性に対する解決手段を異にする。
また,周知技術2の第1図の舌片b及び第6図の取出口孔制限突部7は,引っ掛
かりをなくすという目的のために円弧状にしているのではなく,ペーパーを挟んで
ペーパーを落ち込まないようにするために円弧状に突出させているものと思料され,
第1円弧状部分とは機能が異なる。
さらに,周知技術2の第1図の舌片b及び第6図の取出口孔制限突部7の円弧状
部分は,長手方向に2つ設けられており,しかも,取出口の長手方向中央部はへこ
んでいるのに対して,本願発明は,円弧状部分は長手方向に1つで,長手方向中央
が凸となっており,両者の円弧状の突出部は,その構造並びに機能が異なる。
ウ取出性と保持性との両立と周知技術
本件審決は,ティッシュペーパーの引っ掛かりを防ぐために,ティッシュペーパ
ー収納箱の切取口の突出部を円弧状とするということは周知技術であるとするが,
仮にそうであるとしても,その取出性とティッシュペーパーの保持性とを両立させ
るために,ティッシュペーパー収納箱の切取口の突出部を円弧状とするということ
は周知技術ではない。
〔被告の主張〕
(1)本願発明における第1円弧状部分の構成の採用理由についての判断の誤り
について
本願明細書の【0005】には,本願発明の課題が,家庭用薄葉紙収納箱の取出
口における家庭用薄葉紙の保持性と取出性の両立であることが記載されているが,
単に本願発明の課題として記載されているにすぎず,第1円弧状部分の構成が取出
性と保持性との両立にどのようにかかわるのかについては何ら記載されていない。
また,本願明細書の【0016】【0034】及び【0035】にも,第1円弧
状部分の構成と,取出性及び保持性との両立との因果関係については記載されてい
ない。
しかも,保持性を向上させるために,どのような技術的手段を採用しているかに
ついては,本願明細書の【0017】及び【0018】に記載されているが,ティ
ッシュペーパーの保持性は,羽部13の付け根部13bに直線状の折目用線13c
を設け,羽部13を起立させて羽部13の起立状態を保ちやすくすること及び羽部
13の突出長を設定することにより,調整しているというにすぎない。
以上によると,本願発明の第1円弧状部分の構成が,取出性と保持性との両立を
させるために採用された構成であるとの原告の主張は誤りである。
そもそも,原告が主張するような効果は,本願明細書を事後的に分析し,本願出
願時には想定していなかった効果を新たに主張するものであり,本願発明とは技術
的意義の異なる別発明を新たに創作しようとするものであって,そのような原告の
主張は許されるべきではない。
(2)第1円弧状部分の構成について引用発明に基づいて容易に想到することが
できるとした判断の誤りについて
本件審決は,原告の主張するように,引用例に滑材を用いてティッシュペーパー
の取出性の改善をすることが記載されていることを根拠として,引用発明の第一の
切目線部分の形状を変更して本願発明の突出部の形状とすることが当業者であれば
容易に想到し得た,と判断しているものではなく,ティッシュペーパーの収納箱の
技術分野において,ティッシュペーパーの切取口での引っ掛かりを考慮して,その
形状や構造を工夫することは当業者であれば当然に考慮すべきことであるとして,
ティッシュペーパーの収納箱の技術分野における技術常識を明らかにし,また,テ
ィッシュペーパーの取出性を好適にする形状として円弧状の形状は通常に知られた
構成であるから,引用発明において,ティッシュペーパーの引っ掛かり(取出性)
を考慮して第一の切目線部分の形状を円弧状のものに変更することは,当業者であ
れば容易に選択し得るとしたものである。
したがって,原告の主張は,本件審決を正解しない主張であって,理由がない。
(3)周知技術1及び2を勘案して相違点1に係る本願発明の構成とすることが
容易想到であるとした判断の誤りについて
本件審決は,ティッシュペーパーの引っ掛かりを防ぐためにティッシュペーパー
の切取口の突出部を円弧状とするということが周知技術であると認定し,当該周知
技術を,引用発明に適用しているものであって,周知技術1は,当該周知技術の存
在を明らかにするために例示されたものにすぎない。
したがって,このような周知技術以外の部分について周知技術1を検討し,引用
発明に適用することの阻害要因について論じる原告の主張は理由がない。
さらに,周知技術1及び2の切取口の突出部を円弧状としている構成を採用すれ
ば,ティッシュペーパーの取り出しが円滑に行えるようになることや,当該構成が,
構造を異にする収納容器に採用しても同様の作用を奏し得るものであることは当業
者にとって明白であるから,周知技術1及び2を上記周知技術の存在を示す証拠と
して採用したことに誤りはない。
以上のとおり,ティッシュペーパーの引っ掛かりを防ぐためにティッシュペーパ
ーの切取口の突出部を円弧状とすることは周知技術であるところ,引用発明の「第
一の切目線部分」においても,ティッシュペーパーの引っ掛かりが発生するという
課題が存在することは当業者にとって明白であるから,当該第一の切目線部分に当
該周知技術を適用し得ることは明らかというべきである。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,引用発明の第一の切目線部分の各々を長手方向中央が対向相手の第
一の切目線部分に向けて円弧状に張り出すように形成することは,当業者であれば
容易に想到し得たことであるとの相違点1についての検討結果を前提とした上で,
引用発明の第一の切目線部分の各々を長手方向中央が対向相手の第一の切目線部分
に向けて円弧状に張り出すように形成するに際し,第一の切目線部分同士の短手方
向の最小隙間の幅や,長手方向における前記オープニング部の最大長さを好適に選
択し,本願発明の相違点2の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たこ
とであるとした。
しかしながら,前記1の〔原告の主張〕のとおり,相違点1についての本件審決
の判断には誤りがあるから,本件審決の相違点2についての判断も,前提を欠くも
のとして誤りがある。
〔被告の主張〕
前記1の〔被告の主張〕のとおり,相違点1についての本件審決の判断には誤り
がないから,相違点1についての判断の誤りを前提とする相違点2についての判断
の誤りをいう原告の主張も理由がない。
3取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本願発明における第2円弧状部分の構成の採用理由についての判断の誤り
本件審決は,本願発明の第2円弧状部分と,同部分と第1円弧状部分とが切取口
の全周にわたって連続してループ状となっている構成に関する技術的意義について,
ティッシュペーパーが取出口に引っ掛からないようにするなどの通常知られた目的
でその形状を選択したものと解するべきであるとした。
しかしながら,本願明細書【0005】に記載のとおり,本願発明は,蓋部を切
り取った際に形成される切取口のうち,第1円弧状部分と第2円弧状部分とを備え
ることにより,「取出口にフィルムを設けなくとも,ティッシュペーパーの保持性
と取出性のよいティッシュペーパー収納箱を提供すること」という課題を解決する
ものであって,上記技術的意義は,ティッシュペーパーの保持性と取出性とを両立
させることであって,テッィシューペーパーが取出口に引っ掛からないようにする
などの通常に知られた目的でその形状を選択したものでないことは明らかである。
そして,その効果は,本願明細書の実施例1∼4及び原告実験に示されている。
(2)ティッシュペーパーの取出口全体の形状についての判断の誤り
本件審決は,引用発明のオープニング部の形状を周知技術2∼4を参考に適宜変
更し,本願発明の相違点3の構成とすることは当業者であれば容易になし得たこと
であるとした。
しかしながら,第2円弧状部分は,ティッシュペーパーの取出性と保持性とを両
立する作用・効果を有するが,周知技術3及び4の各長手方向端部の円弧状部分は
本願発明の第2円弧状部分の構成と異なるものであり,第2円弧状部分の作用・効
果を有するものではなく,「前記蓋部の前記長手方向両側に該長手方向外側に向け
て張り出す円弧状部分が形成」されるようにすることは周知技術には該当しない。
以上によると,引用発明のオープニング部の形状を上記周知技術を参考に適宜変
更し,本願発明の相違点3の構成とすることは当業者であれば容易になし得たこと
であるとの本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
(1)本願発明における第2円弧部分の構成の採用理由についての判断の誤りに
ついて
原告は,本願発明は,第1円弧状部分及び第2円弧状部分の双方を備えることに
より,ティッシュペーパーの取出性と保持性とが両立されているものであることを
主張し,その根拠として,本願明細書の実施例1∼4を指摘するとともに,原告実
験の結果を示す。
しかしながら,本願明細書の実施例1∼4をみると,取出口の長手方向の長さ
(L)と,収納箱1の長手方向の長さに対する取出口の長手方向の長さの割合
(α),羽部13,13間の最小間隔(a)のそれぞれの値をどのように特定すれ
ば,ティッシュペーパーの取り出し抵抗を低くすることができるか,つまり,取出
性を確保できるかについて実験を行ったものであり,第1円弧状部分及び第2円弧
状部分の構成との関係で,取出性及び保持性を向上させることができるかについて
実験したものではない。さらに,第2円弧状部分の構成が保持性にどのような影響
を与えるものであるのかについても何ら示していない。
したがって,本願明細書の実施例1∼4を,第2円弧状部分が,ティッシュペー
パーの保持性と取出性とを両立させるための構成であることや,第1円弧状部分及
び第2円弧状部分の双方を備えることにより,ティッシュペーパーの取出性と保持
性とが両立されているものであることの根拠とする主張は理由がない。
また,第2円弧状部分がどのような技術的意義を有するものであるのかが本願明
細書には記載されておらず,第2円弧状部分の構成が円弧状であることと,ティッ
シュペーパーの保持性の向上との間に因果関係があることは自明なことでもない。
次に,原告実験の結果により,第2円弧状部分の構成によって,ティッシュペー
パーの保持性と取出性とを両立させられることや,第1円弧状部分の構成と第2円
弧状部分の構成とを採用することにより,ティッシュペーパーの取出性及び保持性
を両立させることが示されているとしても,取出口の形状を特定の寸法に設定した
場合に限られるというべきであり,原告実験は,第2円弧状部分が,ティッシュペ
ーパーの保持性と取出性とを両立させるための構成であることや,第1円弧状部分
と第2円弧状部分の双方を備えることにより,ティッシュペーパーの取出性と保持
性とを両立させているものであることの根拠とはなり得ない。
したがって,原告の主張する作用・効果は,本願明細書の記載に基づくものでは
なく,かつ,本願発明の構成から明らかな事項でもなく,本件出願時においては想
定されていなかった因果関係や効果を事後的に創作したものであって,本願発明が
奏する作用・効果といえるものではない。
(2)ティッシュペーパーの取出口全体の形状についての判断の誤りについて
上記(1)のとおり,第2円弧状部分が,ティッシュペーパーの取出性と保持性と
を両立する作用・効果を有するものであるということはできない。そして,第2円
弧状部分の技術的意義は,本願明細書に何ら記載されておらず,ティッシュペーパ
ーが取出口に引っ掛からないようにするなどの通常に知られた目的でその形状を選
択したものと解するのが相当である。
他方,周知例3及び4には,第2円弧状部分と同様の構成が記載されているから,
第2円弧状部分と同一の構成を設けることは周知技術であるということができる。
そして,この周知技術は,本願発明と同様に,ティッシュペーパーが取出口に引っ
掛からないようにするなどの通常に知られた目的で採用されているというべきであ
る。
また,仮に,第2円弧状部分が,ティッシュペーパーの取出性と保持性を両立す
る作用・効果を奏するものであるとしても,そのような作用・効果は,周知技術3
及び4の構成からも自明な効果というべきものであって,周知技術3及び4を示し
たことに誤りはない。
したがって,引用発明に上記周知技術を適用し,本願発明の相違点3に係る構成
とすることは当業者であれば容易に想到し得たものであるとともに,本願発明の作
用・効果も,当業者であれば容易に予想し得たものである。
4取消事由4(作用・効果を看過した判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,本願発明は,引用発明及び周知技術1∼4に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものであるとした。
しかしながら,本願発明は,取出口の形状を最適化することによって,ティッシ
ュペーパーの両端部をフラップ状の抑止板部で挟まなくても好適に保持しつつ,容
易に取り出すことができるものであって,第1円弧状部分と第2円弧状部分との組
合せによる作用・効果として,本質的に相反する特性である,ティッシュペーパー
を取り出しやすくする取出性と,ティッシュペーパーを保持する保持性との両立が
図れるものである。すなわち,本願発明は,第1円弧状部分(相違点1関係)と第
2円弧状部分(相違点3関係)とを備え,この第1円弧状部分と第2円弧状部分に
よるティッシュペーパーの保持性と取出性の両立が図れるサイズを規定したもの
(相違点2関係)であって,周知技術の単なる組合せではない。
これに対して,被告は,第1円弧状部分の構成と第2円弧状部分の構成とを個別
に評価し,各々の構成が周知技術1∼4をもって,当業者であれば容易になし得た
と判断しているが,フィルムや滑剤を用いず,しかもティッシュペーパーを挟まな
いで,取出口の縁部の形状のみで,ティッシュペーパーの取出性と保持性を両立さ
せる着想に対する示唆は,引用発明及び周知技術1∼4のいずれにも存在しない。
本願発明において,ティッシュペーパーは,第1円弧状部分に相当する取出口の
中央部の縁部により,第1円弧状部分の構成に沿って取出口の短手方向内側に向け
て湾曲する。そして,ティッシュペーパーの端部は,取出口の長手方向端部にて,
第2円弧状部分に相当する取出口の縁部により長手方向外側に向けて湾曲する。テ
ィッシュペーパーは,中央部と両端部とで各々逆向きにカールされ,引用発明に第
1円弧状部分のみを適用した場合のもの,引用発明に第2円弧状部分のみを適用し
た場合のものに比べて,ティッシュペーパーと取出口との接触長さが長くなる。こ
のように,本願発明では,ティッシュペーパーは,中央部と両端部とで各々逆向き
にカールされ,ティッシュペーパーと取出口との接触長さが長くなっているため,
ティッシュペーパーの保持性が向上されるものと思料される。また,周知技術2及
び3のように,ティッシュペーパーを挟んで保持する構造ではないため,引っ掛か
りがなく取出性も良好となる。
以上のとおり,本件審決は,本願発明の第1円弧状部分と第2円弧状部分との組
合せの作用・効果を看過して,本願発明の進歩性の判断を誤ったものである。
〔被告の主張〕
原告主張に係る因果関係や作用・効果は,本願明細書に記載されたものでも,本
願明細書の記載に基づいて把握できるものでもない。まして,本願発明について,
ティッシュペーパーは,第1円弧状部分に相当する取出口の中央部の縁部により,
第1円弧状部分の構成に沿って取出口の短手方向の内側に向けて湾曲し,ティッシ
ュペーパーの端部は,取出口の長手方向端部にて,第2円弧状部分に相当する取出
口の縁部により長手方向外側に向けて湾曲することにより,ティッシュペーパーが
中央部と両端部とで各々逆向きにカールされるといった作用を奏することは,本願
明細書の記載からは想像できないことである。
原告の主張する作用・効果は,本願明細書の記載に基づくものではなく,かつ,
本願発明の構成から明らかな事項でもなく,本願出願時においては想定されていな
かった因果関係や効果を事後的に創作したものであって,本願発明において,原告
主張に係る作用・効果を認めることはできない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1)本願発明における第1円弧状部分の構成の採用理由についての判断の誤り
について
本件審決は,第1円弧状部分がティッシュペーパーの引っ掛かりを防止するため
に採用された構成であって,ティッシュペーパーの保持を適正にするものであると
理解できないとしたのに対して,原告は,第1円弧状部分がティッシュペーパーの
取出性だけでなく,その保持性の確保に寄与しているものであると主張する。
ア本願明細書の記載
そこで,本願明細書(甲6,7,15∼17)の発明の詳細な説明についてみる
と,本願発明は,取出口にフィルムを設けなくとも,ティッシュペーパーの保持性
及び取出性のよいティッシュペーパー収納箱を提供することを目的として(【00
02】【0005】),取出口に突出させた羽部の形状と間隙を調整することによ
り,ティッシュペーパーを好適に保持しつつ,容易に取り出すことができるように
したティッシュペーパー収納箱についての発明ということができる(【0001】
【0006】)。そして,取出口に突出させた対向する一対の第1円弧状部分の最
小間隙が5㎜以上,取出口の長手方向の長さが収納箱の長手方向の長さの60%以
上とすることによって,取出性の向上を図ることができるというものであり,かつ,
第1円弧状部分を円弧状としたことによって,長手方向の羽部にティッシュペーパ
ーが引っ掛かることなくよりスムーズに取り出すことができるようになったという
もの(【0007】【0012】【0013】【0023】【0033】∼【00
35】)である。
イしかしながら,さらに進んで,本願明細書の保持性について記載する【00
02】【0004】∼【0006】【0012】【0017】【0018】【00
22】【0034】【0035】【0040】をみると,ティッシュペーパーは,
2枚が1組とされ,1組1組が交互に折り畳まれており,一方の長手方向の羽部に
保持されているティッシュペーパー1組を外へ引き出したときに,次のティッシュ
ペーパー1組が収納箱の内側から対向する他方の羽部に保持される位置まで引き出
されることになり,ティッシュペーパーは,1組ごとにこの羽部に交互に保持され
るというものであって,また,この羽部が起立状態を保つことによって同羽部によ
るティッシュペーパーの保持性が向上するというのであることが認められるが,同
羽部である第1円弧状部分が円弧状であることによって保持性が向上するものと解
される記載はなく,また,そのような示唆があるとも認められないところである。
ウ以上によると,本願発明の取出口の長手縁部に羽部を設けたことによって保
持性が増すことは記載されているが,これを円弧状に張り出すように形成された構
成,すなわち,第1円弧状部分の構成については,それによる取出性の向上が図ら
れるというにとどまり,第1円弧状部分の構成によって保持性の向上が図られるも
のであるとまで記載されていると認めることはできない。
エこの点につき,原告は,第1円弧状部分の構成が採用されることによって,
ティッシュペーパーの保持性と取出性とが両立することが本願明細書(【000
5】【0016】【0034】【0035】等)に記載されていると主張するが,
本願明細書における保持性の記載についてみるに,取出口の長手縁部に羽部を設け
たことと,その羽部を円弧状としたことによって保持性にどのような影響があるか
全く考慮されていないものであって,上記羽部が円弧状に張り出すように形成され
たことをもって取出性及び保持性のいずれにも寄与しているとの原告の主張は採用
することができない。
また,原告は,第1円弧状部分の構成が採用されることによって,ティッシュペ
ーパーの取出性と保持性との両立が図られていることが,原告実験の結果からも認
められると主張するが,原告実験(甲14,22)は,取出口の形状が異なる3つ
の収納箱で実験をしたものであるところ,これらは,いずれもティッシュペーパー
収納箱の取出口の長手方向の長さを178㎜とするものであって,取出口①は第1
円弧状部分及び第2円弧状部分の構成を有するもの,取出口②は第1円弧状部分の
構成を有するが第2円弧状部分の構成を有しないもの,取出口③は第1円弧状部分
及び第2円弧状部分のいずれの構成も有しないものである。そして,原告実験は,
そのような3つの異なる取出口の比較から,第1円弧状部分と第2円弧状部分との
両方を備えることによる効果を検証しようとしたにすぎないものであるから,原告
の主張するように第1円弧状部分の構成によって保持性と取出性との両立が図られ
るとする根拠となり得るものではない。仮に,原告の主張を,原告実験によると,
取出口①及び②と比べて取出口③については二重取りが多く発生したとの結果が示
されているとして,第1円弧状部分の円弧状の構成によって保持性が増していると
の趣旨であると理解しても,原告実験については,ティッシュペーパーを引き出す
際の力,速度,角度等のその他の実施条件がすべて同一であったとの検証が必ずし
もできていないものであることに加え,取出口の短手方向の最小長さにつき,取出
口①及び②では6㎜であるのに対し,取出口③では25㎜であって,この取出口の
短手方向の最小長さの違いが,保持性と関係するとされる二重取りの回数に影響を
与えるものと考えられることからすると,第1円弧状部分の円弧状の構成が保持性
の向上に寄与するものと直ちに結び付くものではないというべきであって,原告の
主張はいずれにしても採用することができない。
(2)第1円弧状部分の構成について引用発明に基づいて容易に想到することが
できるとした判断の誤りについて
原告は,引用発明では,ティッシュペーパーの取出性の改善のため,滑剤を用い
る手法が採用されているものであるのに対し,本願発明では,ティッシュペーパー
の取出性の改善のため,取出口の形状を円弧状にする手法が採用されているもので
あって,両者は課題に対する解決方法を異にするものであるから,引用発明は,本
願発明に係る技術を示唆するものではないと主張する。
アそこで,引用発明についてみると,引用例(甲1)の発明の詳細な説明によ
ると,引用発明は,従来のティッシュペーパー収納箱のオープニング部には,内部
から円滑かつ連続的にティッシュペーパーを取り出せるように,オープニング部の
長手方向に切れ筋を入れたプラスチック製(多くの場合はポリエチレン製)のフィ
ルムを張り付けているところ(【0002】),このプラスチック製フィルムの使
用をなくし,大量に排出されるティッシュペーパー収納箱の回収・再生を容易にし,
廃棄物回収・再生運動に資するようにしようとするものであって(【0006】),
そのために,長方体の紙製箱の一面の中央部において,あらかじめその一部を短冊
状に除去可能に加工し,さらにこの短冊状部分の2長辺に平行して両側に,紙製箱
の一部をスリーブ部として短冊状に観音開きに折り曲げ可能に加工し,少なくとも
上記スリーブ部の裏面部分に滑剤を塗布すること(【0007】)によって,引き
出されつつあるティッシュペーパーは,スリーブ部に沿ってより緩やかなカーブを
描いて引き出されることになって,単に収納部の上面の中央部に設けるオープニン
グ部の型を短冊状スリットとした収納箱の場合のように厚紙のエッジで擦られるこ
とがなく(【0009】),また,オープニング部の両側に設けたスリーブ部の裏
面とスリーブ部の付近の収納箱の裏面とに滑剤を塗布することによって,引き出さ
れるティッシュペーパーと収納箱の本体からスリーブ部に移行するエッジあるいは
スリーブ部の裏面との摩擦を少なくすることができ(【0013】),その結果,
従来のオープニング部に切れ筋を入れたプラスチック製のフィルムがなくとも,そ
のような構造の収納箱と同じく,収納箱からティッシュペーパーを連続的に引き出
すことができるとの効果(【0016】)を有する材質が紙のみで構成されている
ティッシュペーパー収納箱に関する発明(【0001】)であるというのである。
イ以上の記載によると,引用発明は,ティッシュペーパーの取出性を向上させ
るために,少なくとも一対の短冊状のスリーブ部の裏面に滑剤を塗布するというも
のであるのに対し,本願発明は,前記(1)ウのとおり,ティッシュペーパーの取出
性を向上させるために,取出口の長手縁部に設けた一対の羽部を円弧状とするとい
うものであって,両者は,ティッシュペーパー収納箱からのティッシュペーパーの
取出性を向上させるという共通の課題に対し,その解決手段を異にする発明という
ことができる。
ウしかるところ,ティッシュペーパー収納箱の通常の使用状況では,ティッシ
ュペーパーは,収納箱の取出口から直角な方向へ引き出されると考えられるところ,
取出口に張り出した一対の羽部の形状について,これを引用発明のような短冊状に
したままでは,ティッシュペーパーが取出口に引っ掛かり易く,そこで,引用発明
は,その状態を解消するために,短冊状のスリープ部の裏面に滑剤を塗布すること
としたものということができるが,短冊状とするよりも,本願発明のような円弧状
としたほうが,引き出されつつあるティッシュペーパーと接する部分が少なくなり,
また,羽部の角がとがっていないことから,ティッシュペーパーが引っ掛かりにく
くなることは,当業者においては容易に想像することができる技術常識というべき
である。そして,このように,ティッシュペーパー収納箱の取出口の少なくとも一
部分に円弧状の構成を採用することは,周知例2∼4にもみられるところである。
エそうすると,ティッシュペーパー収納箱の製作という共通の技術分野におい
て,ティッシュペーパーの引っ掛かり性を少なくし,その取出性を向上させたいと
いう共通の課題の下において,引用発明のように羽部の形状はそのままにしてスリ
ーブ部の裏面に滑剤を塗布することに代えて,当業者が,上記のとおりの技術常識
を勘案して,羽部の形状それ自体を本願発明のような円弧状とするとの構成を適用
することは容易ということができるものであって,これを阻害する事情があるとは
認められない。
オこの点につき,原告は,第1円弧状部分の構成について引用発明に基づいて
容易に想到することはできないとして,引用発明は,ティッシュペーパーの取出性
の一部を解決するにすぎず,ティッシュペーパーの保持性と突出部の形状との関係
について示唆するものではないと主張するが,前記(1)ウのとおり,そもそも本願
発明につき,羽部の形状を第1円弧状部分の構成としたことによって保持性が向上
したとの関係を認めることができない以上,原告の主張は採用することができない。
また,原告は,本願発明の作用・効果の看過との主張において,第1円弧状部分
及び第2円弧状部分が採用されたことにより,本願発明では,ティッシュペーパー
は,中央部と両端部とで各々逆向きにカールされ,ティッシュペーパーと取出口と
の接触長さが長くなっているため,ティッシュペーパーの保持性が向上されるもの
と思料されると主張するが,上記のとおり,本願明細書には原告主張のような接触
長さが長くなって保持性が確保されるとの記載も,これを示唆するような記載もな
く,かえって,本願明細書の実施例のすべて(【0024】∼【0034】)は,
どのようにすればティッシュペーパーの取出抵抗値を低くすることができるかにつ
いて実験をするものであって,本願発明について,ティッシュペーパーと取出口と
の接触長さが長くなっているためティッシュペーパーの保持性が向上されるとの原
告の主張を認めることはできない。
(3)周知技術1及び2を勘案して相違点1に係る本願発明の構成とすることが
容易想到であるとした判断の誤りについて
原告は,周知技術1及び2を勘案して相違点1の本願発明の構成とすることが容
易想到であるということはできないと主張するが,上記(2)ウのとおり,ティッシ
ュペーパーの引っ掛かりの少ない形状として,引用発明の短冊状のスリーブ部の形
状を円弧状とすることは,特に周知技術1及び2を待つまでもなく,当時の技術常
識を勘案すれば,容易であるということができ,本件審決もその旨を説示するもの
でもあるから,周知技術1及び2についての本件審決の判断の当否について進んで
検討するまでもなく,相違点1について容易想到であるとした本件審決の判断に誤
りがあるということはできない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
原告は,相違点1についての本件審決の判断には誤りがあるから,本件審決の相
違点2についての判断も前提を欠くものとして誤りがあると主張するが,上記1の
とおり,相違点1についての本件審決の判断に誤りがあるとすることができないか
ら,原告の主張は理由がない。
3取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について
(1)本願発明における第2円弧状部分の構成の採用理由についての判断の誤り
について
原告は,本願発明の第2円弧状部分の構成と,同部分と第1円弧状部分とが切取
口の全周にわたって連続してループ状となっている構成に関する技術的意義は,テ
ィッシュペーパーの保持性と取出性とを両立させることであって,テッィシューペ
ーパーが取出口に引っ掛からないようにするなどの通常に知られた目的でその構成
を選択したものではないと主張する。
ア本願明細書の記載をみても,本願発明における取出口の対向する一対の短手
縁部が円弧状となって第2円弧状部分を構成することによって,ティッシュペーパ
ーの取出性や保持性とどのように関係するかの記載はなく,本願明細書の記載に基
づいて,第2円弧状部分が保持性と取出性とを両立させているとみるべき技術的意
義を認めることはできない。
イ以上によると,第2円弧状部分及び蓋部を切り取って形成される切取口の縁
が全周にわたって連続してループ状となっていることをもって,保持性と取出性と
の両立が図られているということはできず,原告の主張は採用することができない。
ウこの点につき,原告は,上記の保持性と取出性との両立は,本願明細書の実
施例1∼4及び原告実験の結果に示されていると主張する。
しかしながら,上記実施例1∼4(本願明細書【0024】∼【0033】)は,
取出口の長手方向の長さ(L),収納箱の長手方向の長さ(A)に対する同(L)
の割合(α),長手縁部の羽部の頂点と他方の長手縁部との間の間隙(a)の値を
どのようにすれば,ティッシュペーパーの取り出し抵抗値を低くすることができる
かについての実験であって,第1円弧状部分及び第2円弧状部分の構成との関係で,
保持性及び取出性を両立させることができるかについて実験したものでも,同両立
について示すものでもない。
また,原告実験(甲14,22)も,前記1(1)エのとおりのものであって,共
に第1円弧状部分を有し,第2円弧状部分の有無が異なる取出口①と②とを比較実
験したところ,第2円弧状部分を有する取出口①では二重取りが発生しなかったの
に対して,第2円弧状部分を有さない取出口②では二重取り,シート倒れが発生し
たとするものであるが,原告実験については,ティッシュペーパーを引き出す際の
力,速度,角度等のその他の実施条件がすべて同一であったとの検証が必ずしもで
きていないものであることに加え,特定の寸法条件における保持性を示すものにす
ぎず,そもそも,本願明細書には,第2円弧状部分について保持性及び取出性を両
立させるとの効果の記載がないことも併せ考慮すると,原告実験の結果をもって,
第2円弧状部分に保持性と取出性を両立させる技術的意義があるとすることはでき
ない。
(2)ティッシュペーパー取出口全体の形状についての判断の誤りについて
原告は,第2円弧状部分は,ティッシュペーパーの取出性と保持性とを両立する
作用・効果を有するが,周知技術3及び4の各長手方向端部の円弧状部分は第2円
弧状部分の構成とは異なるものであり,第2円弧状部分の作用・効果を有するもの
でもないから,「前記蓋部の前記長手方向両側に該長手方向外側に向けて張り出す
円弧状部分が形成」されるようにすることは周知技術に該当しないと主張する。
しかしながら,上記(1)のとおり,第2円弧状部分が保持性と取出性とを両立す
る作用・効果を有するものと認めることはできないものであるから,原告の主張は,
前提を欠くものとして採用することができない。
4取消事由4(作用・効果を看過した判断の誤り)について
原告は,本願発明は,第1円弧状部分と第2円弧状部分との組合せの相互作用・
効果によって,ティッシュペーパーの保持性と取出性の両立が図られたものである
にもかかわらず,本件審決は,このような組合せの相互作用・効果を看過している
と主張する。
しかしながら,特許出願に係る発明の作用・効果を看過した審決の判断の誤りが
独立して当該発明の進歩性を否定した審決の取消事由となり得るものであるか否か
はおくとして,前記1及び3のとおり,本願発明においては,第1円弧状部分と第
2円弧状部分との組合せにより,保持性と取出性との両立が図られているものと認
めることはできないのであるから,その作用・効果を検討するまでもなく,原告の
主張を採用することはできない。
5結論
以上の次第であるから,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,原告の
請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官浅井憲

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