弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人若林清の上告趣意第二点について。
 刑法第二四一条前段の強盗強姦罪は、強盗犯人が強盗の機会において婦女を強姦
することをその要件とすること所論のとおりである。しかるに、原判決は被告人が
判示Aを強姦する際強盗の犯意があつた事実は認定しなかつた許りでなく、却つて
同女を強姦し終つた後強盗の犯意を生じ同女からその所持金十五円を強奪したとい
う事実を認定しているのであ。
 しからば、被告人の判示所為は右強盗強姦罪に該当しないことは明らかである。
尤もこの点について原判決は「被告人の行為は婦女を強姦し、その畏怖に乗じて金
品を強取したもので、犯情の点において他人を畏怖させて金品を強取したものがそ
の畏怖に乗じ婦女を強姦した場合といさゝかも異らないから強盗強姦罪を構成する」
と説明するのであるが、それは原審の誤れる見解と云わねばならぬ。けだし被告人
の行為が強盗強姦罪を構成するかどうかということゝ、その犯情が強盗強姦罪と同
じであるということゝは自ら別の事柄である。原審が婦女を強姦した後その畏怖に
乗じて更らに同女から金員迄も強奪した被告人の本件犯行を、その情状において強
盗犯人が婦女を強姦した場合といさゝかも異らないとするものであれば、その点は
被告人に対する量刑上十分に考慮すれば足りるのである。次に又、強盗強姦罪は強
盗罪と強姦罪との結合犯であるから、強姦罪と強盗罪に該当する行為とが同一機会
に行はれさえすれば強盗強姦罪を構成するというのであれば、それは結合犯の概念
を正解しないものと云うの外なく到底採用に値しない。
 以上のとおりであるから、原判決の確定した被告人の本件所為は強姦罪と強盗罪
との併合罪をもつて処断すべきところ、強姦の点については昭和二十二年八月九日
告訴の取消があつたことは本件記録により窺われるのであるから、或はこの罪につ
いて原審は旧刑訴法第三六四条第五号により公訴棄却すべき場合であつたかも知れ
ない。以上これを要するに、被告人の本件所為をもつて強盗強姦罪に問擬した原判
決は、判決に影響を及ぼすことの明白な法令違反があるか又は理由齟齬の違法ある
ものというべく全部破棄を免れないものと云わねばならない。
 よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し、なお右の違法は事実の確定に影響を
及ぼすものであること明らかであるから、刑訴施行法第二条、旧刑訴第四四八条の
二を適用して主文のとおり判決する。
 この判決は全裁判官の一致した意見である。
 検察官 岡本梅次郎関与
  昭和二四年一二月二四日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    粟   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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