弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人小倉隆志の上告理由第一点ないし第三点について
 一 本件について原審が確定した事実関係は、おおよそ次のとおりである。
 1 昭和四〇年当時、D自動車工業株式会社(以下「D自工」という。)には、
従業員約七五〇〇名で組織するC1労働組合(以下「C1」という。)C2支部(
以下「C2支部」という。)が存在し、C2支部は同社から、a、b、cの各工場
に一か所ずつの組合事務所及び大型、小型掲示板の貸与を受けていた。
 2 同年五月D自工と上告会社との合併が発表されてから、C2支部の内部では
右合併への対応をめぐつて意見の対立が生じ、そのような状況のなか、昭和四一年
二月、三月に臨時大会が開催され、C1からの脱退、従前の中央執行委員一一名全
員(いずれも専従職員)の解任と職場復帰などを内容とする決議が行われ、組合の
名称もE自動車工業労働組合(以下「E労組」という。)と変更することになつた
(その後、昭和四一年八月一日の合併に際しF労働組合と改称し、更に昭和四二年
六月G労働組合(以下「G労組」という。)に組織統合された。)
 3 これに対し、C2支部の中央執行委員のうちH委員長ほか五名(以下「Hら
六名」という。)は、右決議を含む一連の手続はC2支部の規約に基づかないもの
であるとして、一五二名の組合員を招集して臨時全員大会を開催し、従来のC2支
部と同一性を有する組合であるとの見解のもとにC2支部の名称を使用した組合活
動を続けた。これが、参加人C2支部(以下「参加人支部」という。)である。
 4 昭和四一年三月二日、E労組とD自工との間で、労使間の諸慣行は従前どお
りこれを尊重する旨の確認がされ、従前C2支部がD自工から貸与を受けていたa
等三工場における組合事務所及び掲示板についてはE労組の組合員らによつて使用
が継続されることになり、同組合員らが、Hら六名の執務していた組合事務所に押
し掛け、その占有を排除して、事務所の使用を開始した。
 5 参加人支部は、同年四月一一日、D自工に対し、合併に伴う要求事項のほか、
組合事務所不法占有の排除及びHら六名に対する職場復帰催告等について団体交渉
を申し入れたが、D自工は、C2支部は既に脱退により消滅したとして、これを拒
否し続け、合併後の上告会社も同様に参加人支部の団体交渉申入れを拒んだ。
 6 その後、参加人支部の申立により団体交渉を命ずる救済命令や仮処分決定が
発せられたことなどもあつて、上告会社は参加人支部の団体交渉申入れに応ずるこ
ととなり、昭和四二年三月二二日、再開された団体交渉において、参加人支部が組
合事務所・掲示板(以下「組合事務所等」ともいう。)を貸与するよう要求したの
に対し、上告会社は、C2支部の前記臨時大会において職場復帰の決定がされてい
ること及び専従者数が多すぎることを理由にHら六名の専従者を職場復帰させるよ
う求め、右問題(以下「専従問題」という。)が解決しない限り、貸与についての
交渉に応じる意思のない旨回答した。その後、同年八月、九月、翌四三年一月の団
体交渉においても、右貸与問題が取り上げられ、参加人支部は、専従問題を棚上げ
し、それとは別個に組合事務所等の貸与問題を解決するよう促したが、上告会社は、
あくまでも専従問題の解決を抜きにすることはできない旨主張し、進展がなかつた。
 7 その後、昭和四四年から同四五年にかけて、被上告人において、当時係属中
の配転問題等に関する不当労働行為申立事件とともに組合事務所等の貸与問題も和
解の対象とされることになり、被上告人会長から検討を求められた上告会社は、同
会長に対し、右申立事件を含めた懸案四件の一括解決を前提に、これを貸与する用
意がある旨一定の提案をしたが、結局、四件一括和解は成立しなかつた。
 8 参加人支部は、昭和四六年七月、被上告人に対し、組合事務所等の貸与につ
き本件不当労働行為救済の申立をした。昭和四九年七月、再度和解が勧告され、上
告会社は被上告人会長に対し、専従問題との同時解決を条件として、組合事務所は
a地区又はc地区のいずれかのうち地続きの構外で上告会社が指定する場所に一か
所を、掲示板は合計二枚を、それぞれ貸与する旨の和解案を提案したが、a等三工
場に組合事務所を貸与するよう求めていた参加人支部は、これを拒否し、右和解も
不調に終わつた。
 9 以上のような和解交渉が行われている間も、参加人支部は上告会社に対し、
再三、貸与問題について団体交渉をするよう求めたが、上告会社は、和解進行中を
理由にこれを拒否し、組合事務所等の貸与に関する団体交渉を行つていない。
 10 E労組は、前記のとおり、昭和四一年三月以降、a等三工場における組合
事務所等の使用を継続し、組織統合後は、G労組が上告会社からこれを借り受けて
使用を継続しているが、その貸与の交渉に際しては、殊更条件が付されたり、また
何らかの前提となる取引が行われたりしたことは認められない。現在、a、cの各
工場では、会社敷地の一画を塀で仕切つた部分に建てられた建物が組合事務所とし
て什器備品も併せて貸与されており、b工場では、組合専従者の常駐がないため、
倉庫の一個が連絡用事務所として貸与されている。また、掲示板は、三工場を通じ
て各職場毎にその実情に応じた大きさのものが貸与されており、その合計は大小を
合わせ一八二個である。
 11 一方、参加人支部は、組合事務所等が貸与されないため、会議や連絡のた
めの場所を欠き、教宣活動も十分できないなど、その組合活動に大きな支障をきた
している。なお、a等三工場における昭和四八年当時の組合員数は、G労組員八五
九五名、参加人支部組合員八九名である。
以上の事実関係は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することがで
き、その過程に所論の違法はない。
 二1 ところで、労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団
体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであり、使用者は、労働組合に対
し、当然に企業施設の一部を組合事務所等として貸与すべき義務を負うものではな
く、貸与するかどうかは原則として使用者の自由に任されているということができ
る。しかし、同一企業内に複数の労働組合が併存している場合には、使用者として
は、すべての場面で各組合に対し中立的な態度を保持し、その団結権を平等に承認、
尊重すべきであり、各組合の性格、傾向や従来の運動路線等のいかんによつて、一
方の組合をより好ましいものとしてその組織の強化を助けたり、他方の組合の弱体
化を図るような行為をしたりすることは許されないのであつて(最高裁昭和五三年
(行ツ)第四〇号同六〇年四月二三日第三小法廷判決・民集三九巻三号七三〇頁)、
使用者が右のような意図に基づいて両組合を差別し、一方の組合に対して不利益な
取扱いをすることは、同組合に対する支配介入となるというべきである。この使用
者の中立保持義務は、組合事務所等の貸与といういわゆる便宜供与の場面において
も異なるものではなく、組合事務所等が組合にとつてその活動上重要な意味を持つ
ことからすると、使用者が、一方の組合に組合事務所等を貸与しておきながら、他
方の組合に対して一切貸与を拒否することは、そのように両組合に対する取扱いを
異にする合理的な理由が存在しない限り、他方の組合の活動力を低下させその弱体
化を図ろうとする意図を推認させるものとして、労働組合法七条三号の不当労働行
為に該当すると解するのが相当である(右合理的な理由の存否については、単に使
用者が表明した貸与拒否の理由について表面的、抽象的に検討するだけでなく、一
方の組合に貸与されるに至つた経緯及び貸与についての条件設定の有無・内容、他
方の組合に対する貸与をめぐる団体交渉の経緯及び内容、企業施設の状況、貸与拒
否が組合に及ぼす影響等諸般の事情を総合勘案してこれを判断しなければならない。)。
 2 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、上告会社は、G労組と
の間では、貸与は際し特段の条件を付したり前提となる取引を行つたりすることな
く、いわば無条件で組合事務所等の貸与に応じていながら、参加人支部からの貸与
の申入れに対しては、専従問題の解決が先決であるなどとして具体的交渉に応じる
ことなく、一貫してその要求を拒否し続けているものであるところ、専従問題は、
必ずしも組合事務所等の貸与と関連性を有するものでなく、貸与問題と同時解決を
図らなければならない程の緊急性があるともいえないことからすると、参加人支部
が右専従問題の解決に消極的であつたことは、組合事務所等の貸与についてG労組
と参加人支部とを差別する合理的な理由とはいい難いし、また、上告会社が本訴に
おいて主張する両組合員間の紛争の増加ないし激化のおそれとか(そのようなおそ
れが認められないことは、原審の適法に確定するところである。)、上告会社の生
産方針に対する参加人支部の非協力的態度などの点は、いずれもG労組と差別して
組合事務所等の貸与を拒否する合理的な理由とはならないというべきであつて、本
件において、上告会社がG労組に対して組合事務所等を貸与しながら、参加人支部
にはこれを貸与しないという異なる取扱いをすることに合理的な理由が存するもの
とはいえないとした原審の判断は、正当として首肯することができる。
 したがつて、上告会社が参加人支部に対して組合事務所等の貸与を拒否すること
は、これによつて参加人支部の組合活動に支障をもたらし、その弱体化を図ろうと
する意図を推認させるものとして、労働組合法七条三号の不当労働行為に当たると
いうべきであつて、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、
原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例の趣旨に抵触するところもない。右違
法があることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、ひつきよう、
原判決を正解せず若しくは独自の見解に基づいて原判決を論難するか、又は原審の
専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用すること
ができない。
 同第四点について
 労働委員会は、使用者の不当労働行為によつて生じた侵害状態を除去、是正し、
正常な集団的労使関係秩序の回復、確保を図るために、個々の事案に応じて必要か
つ適切と考えられる是正措置を決定し、これを命ずる権限を有するものであつて、
かかる救済命令の内容の決定については、広い裁量権が認められているものといわ
なければならない。したがつて、裁判所は、労働委員会の救済命令の内容の適法性
が争われる場合においても、労働委員会の右裁量権を尊重し、その行使が右の趣旨、
目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であつて濫用にわたると
認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではないというべきである(
最高裁昭和四五年(行ツ)六〇号、第六一号同五二年二月二三日大法廷判決・民集
三一巻一号九三頁参照)。
 これを本件についてみるに、本件において不当労働行為とされるのは、上告会社
が、G労組には無条件で組合事務所等を貸与しておきながら、他方、参加人支部に
対しては、専従問題の事前解決に固執して合理的な理由なく組合事務所等の貸与を
拒否し続けることによつて、参加人支部の活動に支障を与えようとしていることに
あるのであり、本件貸与に関する交渉の経緯、内容などに照らせば、かかる差別状
態を是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るための実効的な
措置として、専従問題の事前解決に固執することなく組合事務所等を貸与すべきこ
とを命じたとしても、救済の必要性を超えるものということはできない。しかし、
貸与すべきであるとはいつても、その場所・規模・個数など貸与の具体的な内容・
方法については、必ずしもこれを一義的に決し得ないのであつて、この点は、結局、
労使間の協議に委ねざるを得ない。本件救済命令が、組合事務所等の貸与を命ずる
とともに、その具体的条件について合理的な取決めをすべきことを命じているのも、
円滑な団体交渉を通じての労使関係秩序の確立という観点から、右労使間の協議を
通じて貸与の具体的な実現を図るべきものとする趣旨にほかならないのであり、貸
与の具体的な内容等が確定されていないからといつて、本件救済命令の内容に不明
確の違法があるということはできない。なお、G労組と参加人支部とでは組合員数
に大幅な差異があることに照らすと、ここに合理的な取決めとは、必ずしもG労組
に対するのと同一の内容を意味するものでないことはいうまでもなく、組合員数、
会社施設の状況など労使双方の事情を総合考慮して、社会通念上合理的と認められ
る内容・方法のものであれば足りると解すべきであつて、本件救済命令の理由中に
示されたc・a工場の地続きの構内に一か所ずつの組合事務所、c工場に二か所、
a・b工場に各一か所の掲示板の貸与が相当であるとの判断も、右命令を発した当
時における前記のごとき労使双方の事情を基礎とし、右労使間における協議の指針
ないし目安として示されたものにすぎず、必ずしも右の内容に限定されるわけのも
のではないというべきである。
 以上のとおりであり、本件救済命令の内容が、労働委員会に委ねられた裁量権の
範囲を超え、あるいは著しく不合理であつて濫用にわたるということはできない。
原判決の説示するところも以上と同旨に帰するのであつて、本件救済命令の主文に
違法の点はないとした原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨
は、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    林       藤 之 輔
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香   川   保   一

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