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平成27年11月12日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成26年(行ケ)第10239号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年9月8日
判決
原告株式会社ミクニ
同訴訟代理人弁護士小林幸夫
同弁理士國分孝悦
同栗川典幸
同関直方
同佐久間邦郎
被告株式会社デンソー
同訴訟代理人弁理士碓氷裕彦
同中村広希
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2012-800141号事件について平成26年9月30日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,平成15年7月11日,発明の名称を「回転角検出装置」とする
発明について特許出願(特願2003-273606号。以下「本件出願」という。
平成12年5月19日にした特許出願(優先権主張日:平成11年11月1日及び
平成12年1月31日,日本国。特願2000-147238号)の分割出願)を
し,平成18年8月25日,特許第3843969号(請求項の数1。以下「本件
特許」という。)として特許権の設定登録を受けた(甲12,13)。
(2)原告は,平成24年8月31日,本件特許について特許無効審判(無効2
012-800141号事件)を請求し,被告は,同年11月30日付けで本件特
許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正請求(以下「第1次訂正」という。
)をした。特許庁は,平成25年5月20日,上記無効審判事件について,「訂正
を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」と
いう。)をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。
(3)原告は,平成25年6月25日,第1次審決の取消しを求める訴訟を提起
し,知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10174号審決取消請求事件とし
て係属し,同裁判所は,平成26年2月26日,第1次審決を取り消すとの判決を
した。
(4)特許庁は,さらに無効2012-800141号事件について審理したと
ころ,被告から,同年5月22日,特許請求の範囲の訂正請求がされ(以下「本件
訂正」という。なお,本件訂正がされたことから,特許法134条の2第6項の規
定により,第1次訂正は取り下げられたものとみなされた。),同年9月30日,
「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記
載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年10月9日,原告
に送達された。
(5)原告は,平成26年11月5日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである。以下,請求
項1に係る発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る明細書(甲12)を,
図面を含め,「本件明細書」という(なお,「/」は原文の改行部分を示す。以下同
じ。)。
磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの
磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し
且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子の出力を外部
に取り出し,また1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1
つは前記磁気検出素子を外部に接地するための,少なくとも4つの外部接続端子と
を備えた非接触式の回転角度検出装置であって,/前記磁気検出素子の3つの端子
は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子であり,前記
複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置されて3つの端子は前記磁気
検出素子の同一面より引き出され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つ
の端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一
位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の端子は各磁気検
出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子
のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子と接続されていることを特
徴とする回転角度検出装置。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,①本
件特許の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明
に記載したものであることとの要件に適合するものといえるから,本件特許は,特
許法36条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)を満たして
いる,②本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる
程度に明確かつ十分に記載しなければならないとの要件に適合するものといえるか
ら,本件特許は,同法36条4項1号に規定する要件(以下「実施可能要件」とい
う。)を満たしている,③平成17年4月20日付けでした手続補正(以下「本件
補正」という。)は,本件出願の願書に添付した特許請求の範囲及び明細書(以下
「出願当初明細書」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的
事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえないから,本件
特許は,同法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出
願に対してされたものであるとはいえない,④(a)本件発明は,下記アの引用例1
に記載された発明(以下「引用発明1」という。)と実質的に同一であるとはいえ
ず,(b)本件発明は,引用発明1及び下記イの引用例2に記載された発明(以下
「引用発明2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとも
いえず,(c)本件発明は,引用発明1,引用発明2並びに下記オ及びカの周知例に
記載された周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるともい
えず,(d)本件発明は,引用発明1並びに下記イの引用例2及び下記ウないしオの
周知例に記載された周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであ
るともいえないことから,本件発明は,同法29条1項3号に該当するものである
とはいえず,また,同法29条2項の規定により特許を受けることができないもの
であるともいえない,などというものである。
ア引用例1:特開平5-157506号公報(甲1)
イ引用例2:実願平1-61302号(実開平2-150585号)のマイク
ロフィルム(甲2)
ウ周知例1:特開平9-294060号公報(甲3)
エ周知例2:特開平8-135466号公報(甲4)
オ周知例3:子供の科学47巻5号(昭和59年5月1日発行)(甲5)
カ周知例4:子供の科学48巻7号(昭和60年7月1日発行)(甲6)
(2)本件審決が認定した引用発明1は,次のとおりである。
スロットルバルブの開度を検出するスロットルポジションセンサであって,/
永久磁石15が固定され,スロットルバルブに連動して回動するロータ5と,/
ロータ5の回転に伴い永久磁石15の磁界を感磁して,スロットルバルブの開度に
応じた検出信号を発生する,2個のホール素子21,22と,/プリント基板に実
装された4個のターミナル24を備え,/プリント基板27には,センサ回路とし
て,ホール素子21用センサ回路50とホール素子22用センサ回路60とが形成
され,上記4個のターミナル24の内,2つのターミナル24a,24bが,各セ
ンサ回路50,60からの検出信号出力端子として使用され,他の2つのターミナ
ル24c,24dが,外部からの電源供給用端子,即ち電源電圧(Vcc)供給用
の端子及び接地(Gnd)用の端子として使用され,/2つのホール素子21,2
2は同形状で,同じ配列の4つの端子(リード)を有し,4つの端子(リード)は,
ホール素子21,22の同一面(プリント基板27と対向する面)を起点としてプ
リント基板27の方向に引き出され,2個のホール素子21,22は,プリント基
板27に位置決め固定されるが,ホール素子21の4つの端子(リード)のうち2
つの端子(リード)と,ホール素子22の4つの端子(リード)のうち2つの端子
(リード)とは,それぞれ反対方向に折り曲げられてからプリント基板27に固定
され,/ホール素子21の4つの端子(リード)は,ホール素子21用センサ回路
50の駆動回路により定電流で駆動するための一対の端子(リード)及びホール素
子21用センサ回路50により差動増幅されてセンサ回路50からの検出信号出力
端子(ターミナル24a)の検出信号となる,一対の出力電圧端子(リード)であ
り,ホール素子22の4つの端子(リード)は,ホール素子22用センサ回路60
の駆動回路により定電流で駆動するための一対の端子(リード)及びホール素子2
2用センサ回路60により差動増幅されてセンサ回路60からの検出信号出力端子
(ターミナル24b)の検出信号となる,一対の出力電圧端子(リード)であり,
/2個のホール素子21,22がロータ5の回転軸と直交する磁界を感磁して同レ
ベルの検出信号が得られるように,各ホール素子21,22は,永久磁石15の中
空部内にて,ロータ5の回転軸に沿った面に並行で,しかも回転軸を中心に対称な
位置に配設される,/スロットルポジションセンサ。
(3)本件発明と引用発明1との対比
本件審決が認定した本件発明と引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとお
りである。
ア一致点
磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの
磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つ又は4つの
端子を有し且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,2つは前記磁気検出素子
の出力を外部に取り出し,また2つは磁気検出素子を駆動する電圧を得るための,
1つは電源電圧を外部から印加し,さらに1つは外部に接地する,少なくとも4
つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置であって,前記磁気検
出素子の3つ又は4つの端子は,磁気検出素子を駆動する電圧を印加する一対の
端子,及び1つ又は差動増幅される2つの信号出力用端子であり,前記複数の磁
気検出素子は,下面(磁気検出素子から端子を引き出す起点を有する面)が同じ
方向(法線の方向)を向くように近接して配置されて3つ又は4つの端子は前記
磁気検出素子の同一面より引き出され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前
記3つ又は4つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少な
くとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記磁気検出素子を駆動する
電圧を印加する一対の端子は,引き出されて,磁気検出素子を駆動する電圧を得
るための,1つは電源電圧を外部から印加し,さらに1つは外部に接地する,2
つの外部接続端子と接続されていることを特徴とする回転角度検出装置。
イ相違点
(ア)相違点1
本件発明では,「少なくとも4つの外部接続端子」のうちの2つの「外部接続端
子」は,「1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは前
記磁気検出素子を外部に接地するため」のものであるのに対し,引用発明1では,
「4個のターミナル24」のうち「ターミナル24c,24d」が,「電源供給用
端子,即ち電源電圧(Vcc)供給用の端子及び接地(Gnd)用の端子として使
用され」ているものの,ホール素子21は,「ホール素子21用センサ回路50の
駆動回路により定電流で駆動」され,ホール素子22は,「ホール素子22用セン
サ回路60の駆動回路により定電流で駆動」されており,「ターミナル24c,2
4d」は,ホール素子21,22に電源電圧(Vcc)を外部から印加するもので
も,ホール素子21,22を外部に接地(Gnd)するためのものでもない点。
(イ)相違点2
本件発明では,「複数の磁気検出素子」が「同じ配列の3つの端子を有し」,「磁
気検出素子の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接
地用の端子であ」るのに対し,引用発明1では,「2個のホール素子21,22」
が「同じ配列の4つの端子(リード)を有し」,「ホール素子21の4つの端子(リ
ード)は,ホール素子21用センサ回路50の駆動回路により定電流で駆動するた
めの一対の端子(リード)及びホール素子21用センサ回路50により差動増幅さ
れてセンサ回路50からの検出信号出力端子(ターミナル24a)の検出信号とな
る,一対の出力電圧端子(リード)であり,ホール素子22の4つの端子(リー
ド)は,ホール素子22用センサ回路60の駆動回路により定電流で駆動するため
の一対の端子(リード)及びホール素子22用センサ回路60により差動増幅され
てセンサ回路60からの検出信号出力端子(ターミナル24b)の検出信号となる,
一対の出力電圧端子(リード)であ」る点。
(ウ)相違点3
本件発明では,「前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され
て3つの端子は前記磁気検出素子の同一面より引き出され」ているのに対し,引用
発明1では,「端子(リード)は,ホール素子21,22の同一面(プリント基板
27と対向する面)を起点としてプリント基板27の方向に引き出され」ているも
のの,端子(リード)の本数が「4つ」であることはともかくとして,「2個のホ
ール素子21,22がロータ5の回転軸と直交する磁界を感磁して同レベルの検出
信号が得られるように,各ホール素子21,22は,永久磁石15の中空部内にて,
ロータ5の回転軸に沿った面に並行で,しかも回転軸を中心に対称な位置に配設さ
れ」ることが示されているだけで,ホール素子21,22が,並列に180度逆方
向で配置されていることは示されていない点。
(エ)相違点4
本件発明では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各
磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置され
た各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の端子は各磁気検出素子の同一位
置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧
を印加する信号入力用端子及び接地端子と接続されている」のに対し,引用発明1
では,端子(リード)の本数が「4つ」であることはともかくとして,「端子(リ
ード)は,ホール素子21,22の同一面(プリント基板27と対向する面)を起
点としてプリント基板27の方向に引き出され」ているものの,ホール素子21の
4つの端子(リード)のうち2つの端子(リード)と,ホール素子22の4つの端
子(リード)のうち2つの端子(リード)とは,それぞれ反対方向に折り曲げられ
てからプリント基板27に固定されており,さらに,「ホール素子21」を「定電
流で駆動するための一対の端子(リード)」は,「ホール素子21用センサ回路50
の駆動回路」を介して「ターミナル24c」つまり「電源供給用端子,即ち電源電
圧(Vcc)供給用の端子」と,「ターミナル24d」つまり「接地(Gnd)用
の端子」に接続され,「ホール素子22」を「定電流で駆動するための一対の端子
(リード)」は,「ホール素子22用センサ回路60の駆動回路」を介して「ターミ
ナル24c」つまり「電源供給用端子,即ち電源電圧(Vcc)供給用の端子」と,
「ターミナル24d」つまり「接地(Gnd)用の端子」に接続されている点。
4取消事由
(1)サポート要件及び実施可能要件についての判断の誤り(取消事由1)
(2)特許法17条の2第3項違反についての判断の誤り(取消事由2)
(3)新規性判断の誤り(取消事由3)
(4)進歩性判断の誤り(取消事由4)
第3当事者の主張
1取消事由1(サポート要件及び実施可能要件についての判断の誤り)につい

〔原告の主張〕
(1)サポート要件について
ア本件審決は,サポート要件について,おおむね,以下のとおり判断した。
本件明細書の第1実施例には,「磁気検出素子および外部接続端子の組み付けを
簡単にすることのできる回転角度検出装置を提供」することを目的課題とし,「リ
ードフレーム33を含めた2個のホールIC31,32の組み付けが簡単になる」
効果を得るために,ホールIC31,32は同じ配列の3つのリード線を有し,か
つ,同形状を有する2つのホールIC31,32を,並列に180度逆方向で配置
し,複数のホールIC31,32がそれぞれ有する3つのリード線の内の各ホール
IC31,32の同一位置に配置されたリード線の少なくとも2つの同一位置に配
置された各リード線は各ホールIC31,32の同一位置に配置されたリード線毎
に同じ方向へ引き出されてリードフレーム33のいずれかと接続されていること,
及び上記「各ホールIC31,32の同一位置に配置されたリード線の少なくとも
2つの同一位置に配置された各リード線」は,「電源電圧を印加する信号入力用の
リード線」及び「接地用のリード線」であって,それぞれリードフレーム33の
「信号入力(VDD)用端子40」及び「接地(GND)用端子43」に接続され
ることが開示されているから,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許を受けよ
うとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることとの要件に適合し,サ
ポート要件を満たしている。
イ本件発明の特許請求の範囲には,「前記信号入力用及び前記接地用の端子は
…端子毎に同じ方向へ引き出されて」との記載があるところ,別紙1の参考資料2
のような構成が,上記要件を充足することは明らかである。このように,信号入力
用端子と接地用端子が,それぞれ間に別の端子を挟まないような形でまとめられて
それぞれ別々の方向に引き出されるような引き出し方が,「前記信号入力用及び前
記接地用の端子は…端子毎に同じ方向へ引き出されて」に該当すると解すべきであ
る。
しかるに,本件明細書の第1実施例を斜視図で表したものが,別紙1の甲7の1
であるが,2個の磁気検出素子を並列に180度逆方向で配置し,全ての端子をた
だ単に真っすぐに引き出したという構成にすぎず,信号入力用端子と接地用端子の
端子毎の同じ方向への引き出しにはなっていないことから,第1実施例は,「前記
信号入力用及び前記接地用の端子は…端子毎に同じ方向へ引き出されて」との構成
を開示するものではなく,他に各磁気検出素子の接地用の端子(リード線)を,端
子毎に引き出す構成は,本件明細書,図面には一切記載されていないし,当該構成
によって何故「組み付けを簡単にする。」という効果と結び付くのかが,【004
0】を含め本件明細書の記載及び技術常識をもってしても理解することができない。
むしろ,別紙1の参考資料2のような図面の場合や,斜めに同じ方向へ端子を引き
出した場合などは,組付けは困難になるとも思える。
以上のとおり,第1実施例の構成は,特許請求の範囲の文言上,明らかに「端子
毎の」引き出しには該当しないものであり,当該構成をサポートするものでもない。
したがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず,サポー
ト要件に違反するものであって,本件審決の前記アの判断は誤りである。
ウ被告は,この点について,別紙2の参考図2が本件発明に含まれる旨主張す
る。
しかし,被告は,本件特許に対する第1次審決の取消請求事件の平成25年11
月12日の弁論準備手続期日において,第1次訂正後の請求項1に係る発明におけ
る「各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配
置された各端子…は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向に引
き出されて」との構成は,第1実施例に示されているように「磁気検出素子31,
32のそれぞれの3つの端子が何れも一方向に真っすぐ延びている構成」を意味す
るものであり,原告が主張する「まとめられた2種類の端子は同じ方向ではなく,
別々の方向に引き出される構成」は含まないとの陳述を,被告代理人弁理士が,熟
慮の上,裁判官の面前で行い,当該陳述は調書に残された(甲15)。これは,本
件特許が無効にされるのを免れるべく,第1実施例により本件発明がサポートされ
ていることを明らかにすべく行った被告の権利解釈を示すものである。したがって,
以後の訴訟手続等において,被告がこれと矛盾する権利解釈を主張することは,禁
反言の法理に照らし,許されない。
そうすると,別紙2の参考図2は,「磁気検出素子31,32のそれぞれの3つ
の端子が何れも一方向に真っすぐ延びている構成」ではないが,「信号入力用及び
接地用の端子」の端子毎の同じ方向への引き出しに該当する旨の被告の上記主張は
禁反言の法理に照らし許されない。
(2)実施可能要件について
ア本件審決は,実施可能要件について,以下のとおり判断した。
前記(1)アのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の第1実施例は,本件発明
の具体的な態様を記載しているから,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が
その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない,と
の要件に適合し,実施可能要件を満たしている。
イ前記(1)のとおり,第1実施例(図5~図7)は,明らかに,「前記信号入力
用及び前記接地用の端子は…端子毎に同じ方向へ引き出されて」との構成にはなっ
ておらず,第1実施例の図面と,これに関する本件明細書の【0040】の記載の
みからは,「前記信号入力用及び前記接地用の端子は…端子毎に同じ方向へ引き出
されて」との構成や,その構成によって,「2個のホールICの組み付けが簡単に
なる」という効果が得られることを理解することは不可能である。
そして,前記(1)のとおり,端子毎の同じ方向への引き出しとは,端子の種類毎
にまとめて間に別の端子を挟まずに,かつ,それぞれ別々の方向へ引き出すことを
いうものと解されるところ,第1実施例の接地用端子がそのような形態となってい
ないことは明らかである。
そうすると,当業者であっても,端子をどのような引き出し方とすれば「組み付
けが簡単になる」という効果が得られるのか,本件明細書の記載からは理解するこ
とができない。
したがって,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,当業者が実施することがで
きる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから,実施可能要件に違反す
るものであって,本件審決の前記アの判断は誤りである。
〔被告の主張〕
(1)サポート要件について
本件発明が目的とする,磁気検出素子及び外部接続端子の組付けの簡単化は,磁
気検出素子を外部接続端子に直接接続することにより達成され,この直接接続が本
件発明の大きな特徴であり,その上で,本件発明は,2つの磁気検出素子が同じ配
列の3つの端子を有し,かつ,同形状であること,及びこの2つの磁気検出素子を
並列に180度逆方向で配置した際,3つの端子が磁気検出素子の同一面より引き
出されることを利用して,外部接続端子を含めた磁気検出素子の組付けをより一層
簡単にしている。
そして,本件発明の第1実施例は,左右に並んだホールIC31,32の下面か
ら入力用端子(中央で左右に並んだ端子)と接地用端子が,それぞれ下方向に向け
て引き出され,2個の磁気検出素子を並列に180度逆方向で配置することにより,
リードフレーム33を含めた2個の磁気検出素子の組付けが簡単になる構成を開示
しており,本件発明の特許請求の範囲が第1実施例によりサポートされていること
は明らかである。さらに本件発明は第3実施例によってもサポートされている。
原告は,別紙1の参考資料2のように,信号入力用端子と接地用端子が,それぞ
れ間に別の端子を挟まないような形でまとめられてそれぞれ別々の方向に引き出さ
れる引き出し方が,「前記信号入力用及び前記接地用の端子は…端子毎に同じ方向
へ引き出されて」に該当すると解すべきである旨主張するところ,この参考資料2
の形態は本件明細書の第1実施例と同一ではないが,そもそも本件発明を参考資料
2の形状に限定すべき根拠はない。なお,参考資料2は磁気検出素子のみの記載で
あり,外部接続端子との接続構造が不明であるため,属否は判断できないが,磁気
検出素子が外部接続端子ではなくプリント基板に接続される構成であれば,本件発
明には含まれない。
本件発明の典型的な例は第1実施例の形態であるが,本件発明が実施例の形態に
限定されるべきものでないことはもちろんである。別紙2の参考図2は,複数の磁
気検出素子が外部接続端子に直接接続される例であるが,この参考図2においても,
2つの磁気検出素子の信号入力用及び接地用の端子は図中下面からそれぞれ下方に
引き出されて,外部接続端子の信号入力用端子と接地用端子に接続しているのであ
って,本件発明の構成を全て備えるとともに,磁気検出素子及び外部接続端子の組
み付けを簡単にするという本件発明の作用効果を奏することから,参考図2の形態
は本件発明に含まれることとなる。
(2)実施可能要件について
原告は,第1実施例が,端子の種類毎にまとめて間に別の種類の端子を挟まずに,
かつ,それぞれ別々の方向へ引き出す例となっていないことから,本件発明には実
施可能要件違反がある旨主張する。
しかし,本件発明を,原告主張の別紙1の参考資料2の形態に限定すべき根拠が
ないこと,及び本件発明の第1実施例,さらには第3実施例が本件発明をサポート
していることは,前記(1)のとおりである。
したがって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明において,当業者が実
施可能な程度に明確かつ十分に説明されており,実施可能要件を充足する。
2取消事由2(特許法17条の2第3項違反についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件審決は,本件補正が特許法17条の2第3項に違反するか否かについ
て,おおむね,以下のとおり,判断した。
本件明細書と出願当初明細書の相違(補正箇所)は,特許請求の範囲,【000
9】(特許請求の範囲に対応する記載),【0048】(第3実施例の記載箇所)及び
【0095】(符号の説明)のみであって,第1実施例の記載箇所(【0010】~
【0042】及び図1~7)は,補正されていない。そうすると,出願当初明細書
に「各磁気検出素子の…少なくとも2つの同一位置に配置された各端子…は…端子
毎に同じ方向へ引き出されて」との構成が記載されていると判断できることは,前
記1〔原告の主張〕(1)と同様である。したがって,本件特許は,出願当初明細書
の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技
術的事項を導入する補正をした特許出願に対してされたものとはいえず,特許法1
7条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされ
たものではない。
(2)しかし,前記1〔原告の主張〕(1)イのとおり,第1実施例は,全ての端子
がただ単に同一方向に真っすぐ引き出されているだけで,「各磁気検出素子の…少
なくとも2つの同一位置に配置された各端子は…端子毎に同じ方向へ引き出され
て」との構成になっておらず,特に接地用端子はそうなっていない。そうすると,
第1実施例は,本件補正によって補正された請求項1の「各磁気検出素子の…少な
くとも2つの同一位置に配置された各端子は…端子毎に同じ方向へ引き出されて」
との構成を開示するものでないことは明らかである。
請求項1のように,各磁気検出素子の少なくとも2つの同一位置に配置された各
端子を,端子毎に同じ方向に引き出す構成としているのは,本件明細書の第1実施
例とは異なる,2個のホールIC31,32を直列に同方向で配置した図8の第2
実施例(【0043】,【0044】)である。この図8の第2実施例の斜視図は,別
紙1の参考資料3のとおりである。
したがって,本件補正は出願当初明細書の記載の範囲を超えるものであり,新規
事項の追加として特許法17条の2第3項に違反するから,本件審決の前記(1)の
判断は誤りである。
〔被告の主張〕
本件出願は,特願2000-147238号の優先権を主張する分割出願であり,
出願当初は第1実施例及び第3実施例に対応する複数の磁気検出素子を並列に18
0度逆方向で配置する発明を請求項1で記載し,第2実施例に対応する複数の磁気
検出素子を直列に同方向で配置する発明を請求項2で記載していた。本件補正及び
平成18年6月21日付け手続補正書による補正は,請求項2を削除する補正とそ
れに伴う明細書の補正であって,第1実施例に関しては補正されていない。
原告の主張は,請求項1の発明は別紙1の参考資料2のように解すべきであって,
第1実施例を含んでいないとする独自の解釈に基づくものであって,同主張が誤り
であることは,前記1〔被告の主張〕(1)のとおりである。
したがって,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしているとの本件審
決の判断に誤りはない。
3取消事由3(新規性の判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)相違点1は実質的な相違点ではないこと
引用例1の【0020】の記載から明らかなように,引用発明1のターミナル2
4a,24bが本件特許の構成のうち「2つは前記磁気検出素子の出力を外部に取
り出すための外部接続端子」に相当し,ターミナル24cが前記構成の「また1つ
は前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加するための外部接続端子」に相当し,
ターミナル24dが前記構成の「さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地する
ための外部接続端子」に相当するものであり,本件審決が挙げる相違点1は実質的
な相違点ではない。
(2)相違点2は実質的な相違点ではないこと
引用発明1の各ホール素子21,22が有する端子は4つであるが,これは信号
入力用端子,接地用端子のほかに,信号出力用端子が2つあるからであり,本件発
明と同様に信号入力用端子,接地用端子,信号出力用端子を有していることに変わ
りはなく,また,本件発明では「3つの端子を有し」となっていて4端子を排除し
ていないから,この点は本件発明との相違にならない。したがって,本件審決が挙
げる相違点2も実質的な相違点ではない。
(3)相違点3は実質的な相違点ではないこと
本件明細書中には,本件発明の構成要件中「並列に180度逆方向」の明確な定
義がなく,このような場合には,各語の一般的解釈からその意味を理解すべきであ
る。そして,広辞苑によれば,「並列」は「並びつらなること」と,「逆」は「方向
が反対であること」と,それぞれ解説されている。したがって,本件発明の「磁気
検出素子は,並列に180度逆方向で配置され」は,2つの磁気検出素子を,並べ
て180度逆の向きに配置する構成を意味することになる。
ところで,引用例1の図1,3,5,6及び【0014】の記載から明らかなよ
うに,永久磁石15の中空部内にてロータ5の回転軸に沿った面に平行で,しかも
回転軸を中心に対称な位置に配置されている2つのホール素子21,22の配置関
係は,上記の2つの磁気検出素子を,並べて180度逆の向きに配置する構成に該
当するから,ホール素子21,22は,並列に180度逆方向に配置されているこ
とになる。
そして,各ホール素子21,22のそれぞれの端子は,ホール素子21,22の
同一面より,全て同じ方向(引用例1の図1,図5ではプリント基板27の方向)
に引き出されてプリント基板27上で外部接続端子である電源電圧(Vcc)供給
用の端子であるターミナル24c,接地(Gnd)用端子であるターミナル24d,
検出信号出力端子であるターミナル24a,24bに接続されている。したがって,
引用例1には,信号入力用,信号出力用,接地用の端子を有する複数の磁気検出素
子を,並列に180度逆方向に配置し,かつ各端子を磁気検出素子の同一面より引
き出すとともに,信号入力用及び接地用端子を信号入力用及び接地用の外部接続端
子に接続する構成が開示されている。
また,「並列に180度逆方向」の配置とは,本件発明の図6のような磁気検出
素子の配置を意味するとしても,この配置と全く同じ配置が周知例1の2つのホー
ル素子31,32の配置関係を示す図4に明確に開示され,また,周知例3及び4
にも一般技術として記載されており,このような配置は周知・慣用技術にすぎない。
したがって,本件審決が挙げる相違点3も実質的な相違点ではない。
(4)相違点4は実質的な相違点ではないこと
相違点4では,ホール素子21,22の4つの端子のうち2つの端子が,それぞ
れ反対方向に折り曲げられてから固定されていることを相違点としているが,端子
毎の同じ方向への引き出しについて,本件発明の第1実施例のようなただ真っすぐ
に端子を引き出す構成が含まれるとすれば,実質的な相違点ではない。また,ホー
ル素子21,22の端子が,センサ回路50,60の駆動回路を介してターミナル
に接続されていることも相違点としているが,この点も実質的な相違点ではない。
(5)作用効果に相違がないこと
引用発明1が2個のホール素子を備えることにより得られる効果は,本件発明の
「一方のホールICが故障しても他方のホールICによりスロットル開度を検出で
きるようにするためと,一方のホールICの誤作動を検出できるようにする」との
効果(本件明細書の【0042】)と全く同じであるし,2個のホール素子の組付
けが簡単であるとの効果も同様である(同【0040】)から,作用効果上も,引
用発明1の開示事項と,本件発明との間に相違はない。
(6)小括
以上によれば,本件審決による相違点の認定及び本件発明が特許法29条1項3
号に違反しないとの判断は,誤りである。
〔被告の主張〕
(1)本件発明は磁気検出素子が直接外部接続端子に接続する構成であるのに対
し,引用発明1はホール素子がプリント基板27に取り付けられる構成となってい
るので,本件審決は,この点を相違点1,相違点2及び相違点4として認定した。
また,本件発明は複数の磁気検出素子を外部接続端子に接続する上での,磁気検出
素子の配置上の工夫点を規定しているのに対し,引用発明1にはそのような示唆が
ないことから,本件審決は,その点を相違点3として認定した。
本件発明は,複数の磁気検出素子を外部接続端子に直接接続することで組付けを
簡単にするものであり,相違点1,相違点2及び相違点4はこの根幹に係る相違点
であって,実質的な相違点である。
(2)相違点2について
原告は,本件発明は4端子のホール素子を文言上除外していないと主張するが,
本件審決もホール素子の端子の数のみで引用発明1と本件発明との差別化を図って
いるものではない。ホール素子の端子の数が問題となるのは,ホール素子21,2
2が外部接続端子に接続されるか,センサ回路50,60の駆動回路及び差動増幅
回路に接続されるかという相違を認定した相違点2であるが,センサ回路50,6
0と接続する上ではホール素子21,22が4つの端子を持つことが必要となるの
であって,相違点2においても本質的な相違は,端子の数ではなく,ホール素子2
1,22が外部接続端子に直接接続するのか,プリント基板27のセンサ回路50,
60に接続するのかであって,この点は実質的な相違点である。
(3)相違点3について
第1実施例と第2実施例との対比より,「並列に180度逆方向で配置」とは,
ホールIC31の下面とホールIC32の下面とが左右に隣接して並べられ,かつ,
ホールIC31の下面の扁平な台形とホールIC32の下面の扁平な台形との上下
が逆さまとなる配置であり,また,本件明細書の【0021】,【0041】の記載
を参照すれば,ホールIC31とホールIC32との感面の向きが磁界の方向に対
し逆向きで,2つの磁気検出素子の下面それぞれにおける3つの端子の起点が一列
に並ぶように配置されているものということができる。これに対して,引用発明1
のホール素子21,22は,ロータ5の回転軸を中心に対称な位置に配置されてい
るものであって,本件発明の上記配置でないことは明らかである。したがって,相
違点3を認定した本件審決に誤りはない。
4取消事由4(進歩性の判断の誤り)について
〔原告の主張〕
仮に相違点1ないし4を相違点と認めたとしても,以下のとおり,引用発明1に
基づいて,本件発明に想到することは容易である。
(1)本件発明は,引用発明1及び引用発明2から容易に発明できたものである
こと
ア本件審決の判断
本件審決は,本件発明が,引用発明1及び引用発明2から容易に発明できたもの
であるか否かについて,おおむね,以下のとおり,判断した。
引用発明2は,ホールIC4の3つの端子を有する面と,ホールIC5の3つの
端子を有する面は,それぞれリードフレーム1のベース1aの表面側と裏面側にあ
るから,本件発明の「前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置さ
れ」の要件を備えていない。
引用発明2は,一対のホールICの出力を共通接続して検出出力しているから,
本件発明の「磁気検出素子の出力を外部に取り出す「2つ」の外部接続端子」を備
えていない。
引用発明2のリードフレーム1に接続される「ワイヤ」は,「ホールIC4,
5」から上下別々の方向に引き出されているから,本件発明の「前記複数の磁気検
出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された
端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び
前記接地用の端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引
き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端
子と接続されている」の要件を備えていない。
以上のとおりであるから,引用発明1と引用発明2とが「磁気検出素子を用いた
検知技術」という同じ技術分野に属するとしても,故障診断のために2つの素子を
設けた引用発明1に,両方向(N極及びS極)を検出することを目的として一対の
ホールICの出力を共通接続して検出出力とするようにした引用発明2を適用すべ
き理由はなく,仮に,引用発明1に引用発明2を適用しても,相違点3及び相違点
4の要件が導かれることにならない。
したがって,本件発明は引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に
発明できたものではない。
イ引用発明2の認定の誤り
引用発明2において,磁気検出素子であるホールIC4,5は互いに背中合わせ
の状態になるように並べられ,磁気検出素子(ホールIC4,5)から端子(ワイ
ヤ)を引き出す起点を有する面は,ホールIC4と5で磁界に対する感面が磁界に
対して互いに逆方向となっているから,引用発明2は,「前記複数の磁気検出素子
は,並列に180度逆方向で配置され」との構成を開示している。
引用発明2では,ホールIC4,5の信号出力端子がリードフレーム3に共通に
接続されているが,使用目的によって信号出力端子から別々に出力をとることは適
宜なされることである。引用発明1との組合せに際して,引用発明1は出力を2つ
とるように構成されているから(ターミナル24a,24b),当然に引用発明2
の信号出力端子は共通化することなく,ホールIC4,5のそれぞれの信号出力端
子を外部接続端子であるリードフレームに接続することになる。したがって,引用
発明2が,本件発明の「磁気検出素子の出力を外部に取り出す「2つ」の外部接続
端子」を備えていない点は,本件発明との実質的な相違ではない。
引用発明2では,ホールIC4,5の信号入力用及び信号出力用の2つの端子は,
リードフレーム2,リードフレーム3の方向に引き出されている。この点で,本件
発明の「2つの同一位置に配置された端子は…端子毎に同じ方向へ引き出されて」
との要件を具備している。確かに,引用発明2において,接地端子は,まず上下に
引き出されているが,その後,共にリードフレーム1の方向に引き出されていると
いう点で,同一方向へ引き出されているということができる。また,この構成によ
り磁気検出素子及び端子の組付けが簡単になるという本件発明の目的と同一の目的
が達成できている。そして,同一方向に引き出されているのが信号出力端子か接地
端子かの相違は,当業者がその目的に応じて設計する選択事項にすぎない。したが
って,この点は実質的な相違点にはならない。
ウ容易想到性の判断の誤り
ホール素子に代えてホールICを用いることができること,ホール素子が4端子
であるのに対して,ホールICが3端子であることや,それによって各端子の役割
が異なることなどは,引用例2及び周知例1を参照するまでもなく,技術常識であ
る。また,磁気検出素子として3端子のホールICを用いることは,引用例2に開
示されている。したがって,引用例1の一対のホール素子を,引用例2や周知慣用
技術に基づいて,一対のホールICで置き換えることは当業者にとって容易である。
そして,相違点1,2,4は,結局,ホール素子とホールICの違いに起因する
もので,引用発明1の2個のホール素子を引用例2のホールICに置き換えれば,
必然的に解消する相違点である。そして,2個のホール素子を2個のホールICで
置き換えれば,同様の効果が得られることは技術常識であるから,これを置き換え
ることは当業者にとって容易である。
この点,引用発明1と引用発明2とは,いずれも本件発明と同様に磁気検出素子
を用いた検知技術に関するものであって技術分野が共通し,かつ,2つの磁気検出
素子を逆向きにして逆方向の磁界を検出するという目的も共通しているから,両者
を組み合わせることに技術的困難性はなく,引用発明1の回転角度検出装置に,引
用発明2を組み合わる動機付けがあり,これを組み合わせれば,本件発明の全ての
構成が容易に得られる。
なお,引用発明2は,本件発明の実施例と同様にホールICであるから,引用例
1のセンサ回路50,60はホールICに内蔵されているため不要になる。したが
って,引用発明1と引用発明2を組み合わせれば,本件発明の図5~7の第1実施
例と同じ構成が得られる。
以上より,本件発明は,引用発明1及び引用発明2から容易に発明できたもので
あり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)本件発明は,引用発明1に周知例1を適用することで容易に発明できたも
のであること
本件審決は,引用発明1の「ホール素子21,22」の配置を,周知例1記載の
技術のように,「それぞれ逆方向の磁束を検知しうるように」,「互いに並んで接触
するように逆向きに配設」したのでは,ホール素子21とホール素子22とで,ロ
ータ回転角θ(deg)に対するホール素子出力VH(mV)が正負反対の値とな
ってしまい,引用発明1の課題である「スロットルポジションセンサの故障診断を
確実に行う」こととは相容れない変更となってしまうから,相違点3について,引
用発明1に周知例1記載の技術を適用する動機付けがなく,相違点3は当業者が容
易になし得たことではない旨判断した。
しかし,2つのホール素子の出力を比較して故障診断するには,出力の大きさを
比較すれば足りるのであって,符号の正負は関係がなく,2つのホール素子の出力
の符号が同じ構成の場合は両出力の差を計算し,2つのホール素子の出力の符合が
異なる構成の場合は両出力の和を計算すれば,それぞれ故障診断ができる。このこ
とは,本件明細書の【0041】,【0042】からも明らかである。
そうすると,引用発明1に周知例1を適用して,2つのホール素子の出力が正負
反対になったとしても,引用発明1の課題である「確実に故障検知する」という効
果を奏することができるから,引用発明1に周知例1を適用する動機付けがないと
する本件審決の認定は誤りである。引用発明1も周知例1も本件発明と同様に磁気
検出素子を用いた検知技術に関するものであって,技術分野が共通するから,これ
らを組み合わせることに技術的困難性はない。
また,本件審決は,周知例1には端子の引き出し方の具体的記載がない旨認定し
たが,本件発明の第1実施例の端子は,全ての端子を買ったときのまま真っすぐ引
き出しているだけで,何ら特徴のない引き出し方であり,引用発明1に周知例1を
適用することで本件発明が構成されることは,当業者であれば容易に想到できる。
したがって,引用発明1に周知例1を適用することで,本件発明が構成されるか
ら,本件発明に進歩性はない。
(3)本件発明は,引用発明1に引用発明2や周知例3及び4記載の周知慣用技
術を組み合わせれば,容易に発明できたものであること
2つの磁気検出素子を本件明細書の第1実施例の図6のごとく,「並列に180
度逆方向」に配置する構成は,「リードフレーム33を含めた2個のホールIC3
1,32の組み付けが簡単になる」ためのものであるところ(【0040】),この
ような配置は周知例1の図4,周知例3及び4に開示されている周知慣用技術であ
るから,引用発明1にこの周知慣用技術を適用して,第1実施例の図6のごとくす
ることは容易である。
また,周知例3及び4は,周知慣用の2つの素子の組付け技術を示したものであ
り,本件発明や引用発明1のように,2つの磁気検出素子と端子の組付け技術が必
要になるものに,やはり2つの素子の端子を含めた組付けを容易にする周知例3及
び4の上記周知慣用技術を用いるのに何らの困難性もなく,また,組付けを容易に
するという点で,周知例3及び4記載の周知慣用の技術は本発明と目的を共通する
ものであり,十分に適用の動機付けがある。
〔被告の主張〕
(1)本件発明は引用発明1及び引用発明2から容易に発明できたものではない
こと
ア本件審決の引用発明2の認定に誤りはないこと
本件審決は,引用発明2の一対のホールICが反転していることは認めており,
並列配置を,磁気検出素子の同一面から引き出される3つの端子が横一列に並ぶよ
うな配置と捉え,かかる並列配置が引用発明2に開示されていないとしたのであっ
て,この本件審決の認定に誤りはない。
引用発明2は,N極とS極との有無を検出する二方向磁界タイプとするために,
磁電変換ICの電源入力及び出力をそれぞれリードフレームに共通接続し,その出
力を共通出力して検出出力とするようにしたものであって,出力端子を1つにまと
めて共通化することは,その課題達成のための主要構成であって,決して適宜選択
するようなものではない。したがって,引用発明2は「2つ」の外部接続端子を備
えないとした本件審決の認定に誤りはない。
引用発明2は,2つの磁気検出素子(ホールIC)を並列に配置したものではな
く,外部接続端子(リードフレーム)信号出力用端子も共用するものであるから,
そもそもワイヤの引き出しをホールICの同一面から行う必要も,信号入力用端子
及び接地用端子を同じ方向へ引き出すニーズもない。したがって,引用発明2には,
本件発明の「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各磁気検
出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端
子であって前記信号入力用及び前記接地用の端子は各磁気検出素子の同一位置に配
置された端子毎に同じ方向へ引き出されて前記外部接続端子のうち電源電圧を印加
する信号入力用端子及び接地端子と接続されている」の要件が備わっていないとし
た本件審決の認定に誤りはない。
イ容易想到性の判断について
相違点1,2,4は,ホール素子とホールICの違いに起因するものではなく,
引用発明1のようにホール素子をプリント基板のセンサ回路に接続するのか,本件
発明の様に磁気検出素子を外部接続端子に接続するのかの違いに起因する,磁気検
出素子の組付けの根幹に係る相違である。
引用発明1は,2つのホール素子をプリント基板のセンサ回路に接続するもので
あり,これに対して,引用発明2は2つのホールICを共通のリードフレームに接
続して1つのセンサとして検出出力とするものである。したがって,いずれも2つ
の磁気検出素子を4つ(2つの出力,1つの入力,1つの接地)の外部接続端子に
接続することについては開示も示唆もない。この引用発明1と引用発明2とを組み
合わせても本件発明を想到し得ないことは明らかである。
引用発明1は,出力信号からセンサの故障を検出できるようにすることを目的と
するものであるため,2つの素子がそれぞれのセンサ回路を経て2つの検出信号を
出力することが,引用発明1にとって必須の構成である。これに対して,引用発明
2は,2方向磁界タイプのセンサ提供が目的であり,2つのホールICの出力は単
一のリードフレームからまとめて検出出力とすることが求められている。この使い
方の相違は,それぞれ引用発明1及び引用発明2にとって基本的な事項であり,単
なる検出出力の用い方の相違ではない。したがって,引用発明1に引用発明2を適
用すべき理由はない。
(2)本件発明は引用発明1に周知例1を適用することにより容易に発明できた
ものではないこと
本件発明は,2つの磁気検出素子を4つの端子を備えた外部接続端子に直接接続
するものである。これに対して,引用発明1は,ホール素子をプリント基板のセン
サ回路に接続しており,相違点1,2,4が認められる。周知例1に関しても,ホ
ール素子12,13はセンサ回路15に含まれているので,センサ回路15,定電
圧回路16,表示出力回路17,保護回路18を構成するプリント基板に接続され
ると理解される。
したがって,ホール素子がプリント基板に接続される引用発明1に,同じくホー
ル素子がプリント基板に接続される周知例1を組み合わせたとしても,2つの磁気
検出素子を外部接続端子に直接接続する本件発明が得られるものではない。
しかも,周知例1は2つのホール素子12,13を1つにまとめて出力するもの
であるから,検出信号は1つの出力端子Voutから出力される。したがって,周
知例1の外部接続端子は,入力Vcc(+)と,接地GNDと出力Voutの3つ
であり,本件発明のように4つの端子を備えるものでもない。
このように,周知例1は引用発明2と同様,ホール素子自体は2つ備えるものの
センサとしては1つの検出信号を出力するものである。引用発明1が,出力信号か
らセンサの故障を検出できるようにすることを目的とするものであるため,2つの
素子がそれぞれのセンサ回路を経て2つの検出信号を出力することが必須の構成で
あることは,前記(1)イのとおりである。そのため,検出信号が1つである周知例
1を組み合わせる動機付けがない。
(3)本件発明は引用発明1に引用発明2や周知例3及び4記載の周知慣用技術
を組み合わせても容易に発明できたものではないこと
周知例3及び4はいずれもトランジスタをプリント基板に接続する事例であり,
外部接続端子と直接接続するものではない。しかも,本件発明の磁気検出素子は2
つの素子が検出する磁気を同様とするため隣接配置されることが求められているの
に対し,トランジスタではプリント基板のどこに配置されてもスイッチング機能に
差が出るものでもない。したがって,トランジスタをプリント基板に接続する例か
らは,磁気検出素子の配置に関して何らの示唆も受けない。
しかも,引用発明1でホール素子21,22がセンサ回路50,60に接続され
るのは,故障診断機能を奏するとの意味を持つものであるから,単なるトランジス
タのプリント基板接続技術が引用発明1に組み合わされるものではない。
したがって,ホール素子をプリント基板のセンサ回路に接続する引用発明1に,
トランジスタをプリント基板に接続する周知例3及び4の技術を組み合わせたとし
ても,2つの磁気検出素子を4つの端子を備えた外部接続端子に直接接続する本件
発明が導かれるものではない。
第4当裁判所の判断
1本件発明について
(1)本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりであるとこ
ろ,本件明細書(甲12)の発明の詳細な説明には,おおむね,次の記載がある(
下記記載中に引用する図のうち,図1,2,4~8は別紙3を参照。)
ア技術分野
【0001】本発明は,被検出物の回転角度を検出する非接触式の磁気検出素子を
ロータコアに設けられた磁石に対向して配置した回転角度検出装置に関するもので,
例えば自動車の回転弁の回転角度を検出するホール素子,ホールIC等の非接触式
の磁気検出素子を備えた回転角度検出装置に係わる。
イ背景技術
【0002】従来より,スロットル弁等の回転弁の回転角度を検出するスロットル
ポジションセンサとしては,特開昭62-182449号公報および特開平2-1
30403号公報に開示された構造のものがある。先ず,特開昭62-18244
9号公報で開示されたスロットルポジションセンサは,スロットル弁のシャフトの
先端に可変抵抗体部を有する絶縁基板が固定されてスロットル弁のシャフトの回転
に伴ってシャフトと一体的に回転し,センサケース側に固定された固定端子と接触
することで,外部へ出力するものである(第1従来例)。
【0003】また,特開平2-130403号公報で開示されたスロットルポジシ
ョンセンサは,スロットル弁のシャフトの先端に磁界発生源である永久磁石とヨー
クを保持部材を介して固定してスロットル弁のシャフトと一体的に回転するように
構成され,スロットル弁のシャフトの回転角度を検出するホール素子と信号処理回
路部は基板に配置され,リードフレームを介してコネクタに接続され,外部へ出力
するものである(第2従来例)。
ウ発明が解決しようとする課題
【0004】ところが,第1従来例のスロットルポジションセンサのセンサケース
側には,樹脂一体成形等で配設された入出力用のコネクタピンと樹脂成形後に何ら
かの機械的手段で固定された固定端子とが設けられているが,上記の絶縁基板との
組み付けに関し,センサケース側に特別な工夫を施した構成を有していない。これ
により,センサケース側の固定端子とスロットル弁のシャフトと一体的に回転する
絶縁基板との位置関係がズレ易く,スロットル弁の開度の検出精度が低下するとい
う問題があった。
【0005】一方,第2従来例のスロットルポジションセンサにおいて,基板,リ
ードフレーム,コネクタ等の電気部品は樹脂による一体成形でモジュール化され,
スロットルボディにねじ固定される。このとき,スロットルボディ側にはモジュー
ルの収容部の取り付け精度を上げるための機械加工が成されている。このような組
み付けでは,スロットル弁のシャフトのスラストガタの影響が残るという問題や,
種々の部品組み付けに先立つ加工の精度や加工工数が必要となるという問題がある。
【0008】本発明の目的は,磁気検出素子および外部接続端子の組み付けを簡単
にすることのできる回転角度検出装置を提供することにある。
エ課題を解決するための手段
【0009】請求項1に記載の発明によれば,磁石の磁力を受けて被検出物の回転
角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し且つ同形状を有する磁気検出素子の3つ
の端子は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及び接地用の端子であり,
複数の磁気検出素子を,並列に180度逆方向で配置されて,3つの端子は磁気検
出素子の同一面より引き出され,複数の磁気検出素子が夫々有する3つの端子の内
の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置
された各端子であって信号入力用及び接地用の端子は各磁気検出素子の同一位置に
配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて外部接続端子のうち電源電圧を印加す
る信号入力用端子及び接地端子と接続することにより,外部接続端子を含めた磁気
検出素子の組み付けが簡単になる。
オ発明を実施するための最良の形態
(ア)第1実施例の構成
【0010】発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図1な
いし図7は本発明の第1実施例を示したもので…ある。
【0011】本実施例の内燃機関用吸気制御装置は,内燃機関(エンジン)への吸
気通路を形成するスロットルボディ(本発明のハウジングに相当する)1と,この
スロットルボディ1内に回動自在に支持されたスロットル弁(スロットルバルブ)
2と,このスロットル弁2のシャフト部であるスロットルバルブシャフト(以下シ
ャフトと略す)3と,シャフト3を回転駆動するアクチュエータ4と,このアクチ
ュエータ4を電子制御するエンジン制御装置(以下「ECU」という。)とを備え
ている。
【0012】…また,内燃機関用吸気制御装置は,スロットル弁2の開度を電気信
号(スロットル開度信号)に変換し,ECUへどれだけスロットル弁2が開いてい
るかを出力する回転角度検出装置5を備えている。
【0014】スロットル弁2は,本発明の被検出物(回転体)に相当するもので,
エンジンに吸入される空気量をコントロールするバタフライ形の回転弁で,シャフ
ト3の外周にねじ等の締結具を用いて固定されている。…
【0015】シャフト3は,被検出物(回転体)のシャフト部に相当するものであ
る。このシャフト3の一端部には,樹脂ギヤ16をインサート成形したロータコア
17がかしめ等の手段を用いて固定されている。…
【0019】回転角度検出装置5は,所謂スロットルポジションセンサで,磁界発
生源である円筒形状の永久磁石6と,樹脂成形品(センサカバー)7側に一体的に
配置された2個のホールIC31,32と,これらのホールIC31,32と外部
のECUとを電気的に接続するための導電性金属薄板よりなるリードフレーム(複
数のターミナル)33と,2個のホールIC31,32への磁束を集中させる鉄系
の金属(磁性材料)よりなる2分割されたステータコア34とから構成されている。
【0020】永久磁石6は,スロットル弁2およびそのシャフト3と一体的に回転
する鉄系の金属(磁性材料)製のロータコア17の内周面に接着剤等を用いて固定
され,あるいは樹脂と一体モールドにより固定され,回転角度検出装置5の磁気回
路に磁束を与える部品である。本実施例の永久磁石6は,着磁方向が径方向(内周
側がN極,外周側がS極)の半円弧形状の磁石部分と,着磁方向が径方向(内周側
がS極,外周側がN極)の半円弧形状の磁石部分とから構成されている。…
【0021】2個のホールIC31,32は,本発明の非接触式の磁気検出素子に
相当するもので,永久磁石6の内周側に対向して配置され,感面にN極またはS極
の磁界が発生すると,その磁界に感応して起電力(N極の磁界が発生すると+電位
が生じ,S極の磁界が発生すると-電位が生じる)を発生するように設けられてい
る。本実施例では,図5および図6に示したように,2個のホールIC31,32
を並列に180度逆方向で配置している。
【0022】リードフレーム33は,図5および図6に示したように,コネクトホ
ルダー35およびセンサカバー7内に埋設されて位置決め保持されており,導電性
金属(銅板等)よりなり,信号入力(VDD)用端子40,2枚の信号出力(OU
T1,OUT2)用端子41,42および接地(GND)用端子43等から構成さ
れている。信号入力用端子40は,電源電圧(例えば5Vのバッテリ電圧)を2個
のホールIC61,62にそれぞれ印加する導電板である。
【0028】そして,センサカバー7の側面には,コネクタ49が一体的に設けら
れている。そのコネクタ49は,センサカバー7の側面に一体成形された絶縁樹脂
製のコネクタシェル50,リードフレーム33の信号入力用端子40,信号出力用
端子41,42および接地用端子43の先端部(コネクタピンを構成する)51~
54,およびモータ9のモータ用通電端子22の先端部(コネクタピンを構成す
る)55,56等から構成されている。
(イ)第1実施例の組付方法
【0030】導電性金属薄板をプレス成形することによって所定の形状のリードフ
レーム33を形成する。そして,図5および図7(a)に示したように,2個のホ
ールIC31,32のリード線36,37と信号入力用端子40,信号出力用端子
41,42および接地用端子43とを電気的に接続する。
【0031】そして,図7(b)に示したように,2個のホールIC31,32の
リード線36,37,信号入力用端子40,信号出力用端子41,42および接地
用端子43よりなる電気配線部品の一部(接続部分)を,例えばPBT樹脂による
一体成形(射出成形)によって一体化する(1次成形工程)。…
【0032】そして,図7(c)に示した2分割されたステータコア34を第1樹
脂成形品35の外周にそれぞれ嵌め合わせて固定する(組付工程)。…
【0033】そして,図1に示したように,2個のホールIC31,32のリード
線36,37,信号入力用端子40,信号出力用端子41,42および接地用端子
43,ステータコア34,モータ用通電端子22を,例えばPBT樹脂による一体
成形(射出成形)によって一体化する(2次成形工程)。…
(ウ)第1実施例の効果
【0040】また,本実施例のスロットル弁2へ直接組み付ける構成の回転角度検
出装置5では,図5および図6に示したように,2個のホールIC31,32を,
並列に180度逆方向で配置することにより,リードフレーム33を含めた2個の
ホールIC31,32の組み付けが簡単になる。
【0042】ここで,2個のホールIC31,32を使用する理由は,一方のホー
ルICが故障しても他方のホールICによりスロットル開度を検出できるようにす
るためと,一方のホールICの誤作動を検出できるようにするためである。
(エ)第2実施例
【0043】図8は本発明の第2実施例を示したもので,2個のホールICとリー
ドフレームとの接続部分を示した図である。
【0044】本実施例では,2個のホールIC31,32を,直列に同方向で配置
することにより,リードフレーム33を含めた2個のホールIC31,32の組み
付けが簡単になる。
(オ)変形例
【0088】本実施例では,非接触式の磁気検出素子としてホールIC31,32,
61,62,95を使用した例を説明したが,非接触式の磁気検出素子としてホー
ル素子または磁気抵抗素子等を使用しても良い。…
(2)前記(1)の記載によれば,本件明細書には,本件発明に関し,以下の点が開
示されていることが認められる。
本件発明は,被検出物の回転角度を検出するホール素子,ホールIC等の非接触
式の磁気検出素子をロータコアに設けられた磁石に対向して配置した回転角度検出
装置に関する(【0001】)。
本件発明は,同じ配列の3つの端子を有し,かつ,同形状を有する複数の磁気検
出素子と,2つは磁気検出素子の出力を外部に取り出し,また1つは磁気検出素子
に電源電圧を外部から印加し,さらに1つは磁気検出素子を外部に接地するための,
少なくとも4つの外部接続端子とを備えた非接触式の回転角度検出装置において,
磁気検出素子及び外部接続端子の組付けを簡単にすることを目的とする(【000
8】,【0009】)。
本件発明は,①磁気検出素子の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用,
信号出力用,及び接地用の端子であり,②複数の磁気検出素子は,並列に180度
逆方向で配置されて,3つの端子は磁気検出素子の同一面より引き出され,③複数
の磁気検出素子がそれぞれ有する3つの端子のうちの各磁気検出素子の同一位置に
配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置された各端子であって,信号入
力用及び接地用の端子は,③-(a)各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎
に同じ方向へ引き出されて,③-(b)外部接続端子のうち,磁気検出素子に電源電
圧を外部から印加する信号入力用端子及び磁気検出素子を外部に接地するための接
地端子と接続されている,ことを特徴とする回転角度検出装置であり,かかる構成
とすることにより,上記目的を達成しようとするものである(【0009】)。
そして,第1実施例は,非接触式の磁気検出素子に相当する2個のホールIC3
1,32が,永久磁石6の内周側に対向して配置され,感面にN極又はS極の磁界
が発生すると,その磁界に感応して起電力を発生するように設けられ,図5及び図
6のとおり,2個のホールIC31,32を並列に180度逆方向で配置し,リー
ドフレーム33が,導電性金属(銅板等)よりなり,信号入力用端子40,2枚の
信号出力用端子41,42及び接地用端子43等から構成され,図5及び図7
(a)のとおり,2個のホールIC31,32のリード線36,37と信号入力用
端子40,信号出力用端子41,42及び接地用端子43とを電気的に接続する
(【0021】,【0022】,【0030】~【0033】)。そして,2個のホール
IC31,32を使用する理由は,一方のホールICが故障しても他方のホールI
Cによりスロットル開度を検出できるようにするためと,一方のホールICの誤作
動を検出できるようにするためであって,第1実施例においては,2個のホールI
C31,32を,並列に180度逆方向で配置することにより,リードフレーム3
3を含めた2個のホールIC31,32の組付けが簡単になるとの効果を奏する
(【0040】,【0042】)。
2取消事由1(サポート要件及び実施可能要件についての判断の誤り)につい

(1)サポート要件について
ア特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許
請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載さ
れた発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載によ
り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,ま
た,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題
を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ
る。
イ原告は,本件発明の「前記信号入力用及び前記接地用の端子は…端子毎に同
じ方向へ引き出されて」とは,別紙1の参考資料2のように,信号入力用端子と接
地用端子が,それぞれ間に別の端子を挟まないような形でまとめられてそれぞれ別
々の方向に引き出されるような態様を意味するものと解すべきところ,かかる引き
出しの態様について,第1実施例はかかる構成を開示するものではなく,そのほか
本件明細書には一切記載されていない上,当該構成によって何故「組み付けを簡単
にする」という効果と結び付くのかが理解できないことから,本件発明は,発明の
詳細な説明に記載されたものとはいえず,サポート要件に違反する旨主張する。
ウそこで,検討するに,特許請求の範囲の「前記信号入力用及び前記接地用の
端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」
とは,各磁気検出素子の信号入力用の端子は同じ方向へ引き出され,また,各磁気
検出素子の接地用の端子は同じ方向へ引き出されるという意味であることは,文言
上,明らかである。
したがって,本件発明の「前記信号入力用及び前記接地用の端子は各磁気検出素
子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」には,①各磁気検出
素子の信号入力用の端子の引き出し方向と,接地用の端子の引き出し方向とが同じ
であるために,各磁気検出素子の信号入力用の端子と接地用の端子がいずれも同じ
方向へ引き出される態様(以下,この引き出し態様を「同方向引き出し態様」とい
う。)と,②各磁気検出素子の信号入力用の端子の引き出し方向と,接地用の端子
の引き出し方向とが異なるために,各磁気検出素子の信号入力用の端子と接地用の
端子が別々の方向へ引き出される態様(以下,この引き出し態様を「別方向引き出
し態様」という。)とが含まれることになる。
原告は,この点について,本件発明の「前記信号入力用及び前記接地用の端子は
…端子毎に同じ方向へ引き出されて」とは,別紙1の参考資料2のように,信号入
力用端子と接地用端子が,それぞれ間に別の端子を挟まないような形でまとめられ
てそれぞれ別々の方向に引き出されるような態様,すなわち,別方向引き出し態様
に限定される旨主張するけれども,特許請求の範囲の文言上も,本件明細書の記載
からも,このように限定解釈すべき理由はない。
そして,同方向引き出し態様が,第1実施例として本件明細書の発明の詳細な説
明に記載されていることについては,当事者間に争いがないから,別方向引き出し
態様が発明の詳細な説明に記載され又は記載されているに等しいか否かについて検
討する。
エ前記1(1)オ(ア)ないし(ウ)において摘示した本件明細書の第1実施例に関
する記載中には,別方向引き出し態様についての記載はない。
ところで,第1実施例は,2個のホールIC31,32を,並列に180度逆方
向で配置することにより,リードフレーム33を含めた2個のホールIC31,3
2の組付けが簡単になる構成であるところ(【0040】),当該構成とは異なり,
請求項1の実施例ではないものの,本件明細書は,第2実施例として,2個のホー
ルIC31,32を,直列に同方向で配置することにより,リードフレーム33を
含めた2個のホールIC31,32の組付けが簡単になる構成を,【図8】(別紙3
の【図8】)とともに開示している(【0043】,【0044】)。上記【図8】によ
れば,第2実施例には,各磁気検出素子の信号入力用の端子と接地用の端子が別々
の方向へ引き出される別方向引き出し態様が記載されていることが認められる。
確かに,第2実施例は,請求項1が「複数の磁気検出素子は,並列に180度逆
方向で配置され」と記載されているのに対して,「複数の磁気検出素子は,直列に
同方向で配置され」と記載されていること以外は,発明特定事項を共通にする請求
項2の実施例として記載されたものであり,請求項2は,本件補正により補正され,
平成18年6月21日付け手続補正書による補正によって削除されたものの,第2
実施例の記載は本件明細書にそのまま残されたものであって(甲8,11),第2
実施例自体は,本件発明に係る請求項1の実施例ではない。
しかし,第2実施例は,ホールIC31,32の配置態様が請求項1とは異なる
ものの,組付けが簡単になる効果を奏する構成を提示するものであり(【004
4】),第2実施例においても第1実施例のように同方向引き出し態様を採用するこ
とに何らの技術的困難性がないにもかかわらず,あえて別方向引き出し態様を記載
していることからすれば,当業者であれば,第2実施例の別方向引き出し態様は,
第1実施例の同方向引き出し態様の別例として示され,同様に組付けが簡単になる
効果を奏するものと理解するというべきである。このように,本件明細書において,
別方向引き出し態様は,第2実施例のホールIC31,32の配置態様(第1実施
例のように並列に180度逆方向で配置するのではなく,直列に同方向で配置する
こと)とは区別して理解し得る技術的事項であるから,当業者であれば,第2実施
例の別方向引き出し態様を,第1実施例のホールIC31,32の配置態様に適用
することは,容易に理解し得る技術的事項であるということができる。
したがって,本件明細書の全体をみれば,本件発明に関しても,別方向引き出し
態様が記載されているに等しいと認められる。
オそうすると,本件発明は,前記ウのとおり,同方向引き出し態様及び別方向
引き出し態様のいずれをも含むものであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明
には,同方向引き出し態様が記載されているのみならず,別方向引き出し態様も記
載されているに等しいということができ,かつ,これらの引き出し態様によって,
組付けが簡単になるという本件発明の課題を解決できることが認識できるから,本
件発明は,サポート要件を充足するというべきである。
カ原告の主張について
原告は,被告が,本件特許に対する第1次審決の取消請求事件の平成25年11
月12日の弁論準備手続期日において,第1次訂正後の請求項1に係る発明は,同
方向引き出し態様を意味し,別方向引き出し態様を含まない旨陳述したことから,
以後の訴訟手続等において,請求項1が別方向引き出し態様を含むとして,上記陳
述と矛盾する権利解釈を主張することは,禁反言の法理に照らし,許されない旨主
張する。
しかし,前記ウないしオのとおり,特許請求の範囲請求項1は,文言上,同方向
引き出し態様のみならず別方向引き出し態様をも含むと解され,本件明細書の発明
の詳細な説明においても,同方向引き出し態様のほか別方向引き出し態様がサポー
トされており,別方向引き出し態様を除外する記載及び示唆は見当たらない以上,
被告の第1次審決の取消請求事件の平成25年11月12日の弁論準備手続期日に
おける上記陳述内容は,客観的にみて,特許請求の範囲請求項1の文言解釈として,
当裁判所において採用することができないものである。よって,直ちに禁反言の問
題は生じない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2)実施可能要件について
ア原告は,本件発明の「前記信号入力用及び前記接地用の端子は…端子毎に同
じ方向へ引き出されて」とは,別方向引き出し態様に限定されるところ,第1実施
例は,同方向引き出し態様を開示するにすぎず,第1実施例からは,別方向引き出
し態様の構成や,その構成によって,組付けが簡単になるという効果が得られるこ
とを理解することは不可能であるから,当業者であっても,端子をどのような引き
出し方とすれば組付けが簡単になるという効果が得られるのかを理解できず,本件
明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に違反する旨主張する。
イしかし,前記(1)のとおり,本件発明は同方向引き出し態様のみならず別方
向引き出し態様をも含むものであるから,原告の上記主張は,その主張の前提にお
いて失当である。
そして,前記1(1)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,発明を実施
するための最良の形態として,第1実施例の構成(【0010】~【0012】,
【0014】,【0015】,【0019】~【0022】,【0028】),第1実施例
の組付方法(【0030】~【0033】),第1実施例の効果(【0040】,【00
42】)が記載され,さらに,前記(1)エのとおり,第2実施例において,別方向引
き出し態様が開示され(【0043】,【0044】,【図8】),これにより,請求項
1に関しても,別方向引き出し態様が本件明細書に記載されているに等しいと認め
られる。
そうすると,当業者であれば,かかる本件明細書の記載及び本件特許の優先権主
張日当時の技術常識に基づいて,本件発明を実施することが可能であったというべ
きである。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を
充足する。
(3)小括
以上によれば,本件発明は,サポート要件及び実施可能要件に違反するものでは
ないから,取消事由1は理由がない。
3取消事由2(特許法17条の2第3項違反についての判断の誤り)について
(1)本件補正は,次のとおり,下記アの本件出願当初の請求項1について,下
記イのとおり補正したものである(甲8,9)。
ア本件出願当初の請求項1
磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの
磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出する複数の磁気検出素子と,こ
の磁気検出素子の出力を外部に取り出すための外部接続端子とを備えた非接触式の
回転角度検出装置であって,/前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向
で配置されていることを特徴とする回転角度検出装置。
イ本件補正後の請求項1
磁石を有し,被検出物の回転に伴って回転するロータコアと,このロータコアの
磁石の磁力を受けて前記被検出物の回転角度を検出し同じ配列の3つの端子を有し
且つ同形状を有する複数の磁気検出素子と,少なくとも1つは前記磁気検出素子の
出力を外部に取り出し,または1つは前記磁気検出素子に電源電圧を外部から印加
し,さらに1つは前記磁気検出素子を外部に接地するための3つの外部接続端子と
を備えた非接触式の回転角度検出装置であって,/前記複数の磁気検出素子は,並
列に180度逆方向で配置され,前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの
端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位
置に配置された各端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向
へ引き出されて前記3つの外部端子のいずれかと接続されていることを特徴とする
回転角度検出装置。(下線部は,本件補正による補正箇所である。)
(2)原告は,本件補正により,請求項1には「各磁気検出素子の…少なくとも
2つの同一位置に配置された各端子は…端子毎に同じ方向へ引き出されて」との構
成が付加されたが,出願当初明細書の第1実施例は,全ての端子がただ単に同一方
向に真っすぐ引き出されているだけで,「各磁気検出素子の…少なくとも2つの同
一位置に配置された各端子は…端子毎に同じ方向へ引き出されて」との構成になっ
ておらず,第1実施例は,本件補正によって補正された請求項1の上記構成を開示
するものではないから,本件補正は,出願当初明細書の記載の範囲を超えるもので
あり,新規事項の追加として特許法17条の2第3項に違反する旨主張する。
しかし,出願当初明細書と本件明細書との相違(補正箇所)は,特許請求の範囲,
【0009】(特許請求の範囲に対応する記載),【0048】(第3実施例の記載箇
所)及び【0095】(符号の説明)のみであって,第1実施例の記載箇所(【00
10】~【0042】,【図1】~【図7】)及び第2実施例の記載箇所(【004
3】,【0044】,【図8】)は,補正されていない(弁論の全趣旨)。
そして,本件補正により,請求項1に付加された「各磁気検出素子の…少なくと
も2つの同一位置に配置された各端子は…端子毎に同じ方向へ引き出されて」との
構成は,同方向引き出し態様及び別方向引き出し態様のいずれをも含むものであっ
て,本件明細書には,第1実施例において同方向引き出し態様が記載され,第2実
施例の開示によって,別方向引き出し態様が記載されているに等しいと認められる
ことは,前記2(1)のとおりであるから,いずれの引き出し態様も,同じく,出願
当初明細書に開示された技術事項であったということができる。
したがって,本件補正は,出願当初明細書の記載の範囲を超えるものということ
はできず,特許法17条の2第3項に違反しない。原告の上記主張は,採用するこ
とができない。
(3)小括
以上によれば,取消事由2は理由がない。
4取消事由3(新規性判断の誤り)について
(1)引用例1(甲1)には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用す
る図のうち,図1,2,5,6,8は別紙4を参照。)。
ア特許請求の範囲
【請求項1】内燃機関のスロットルバルブの開度を検出するスロットルポジション
センサであって,/上記スロットルバルブに連動して回転するロータと,/該ロー
タの先端に固定され,該ロータの回転軸と直交する磁路を形成する磁石と,/該磁
石により形成された磁路に配設され,該磁路での磁界方向を検出する2個の磁電変
換素子と,/各磁電変換素子により得られた検出信号を各々処理して外部に出力す
る2個の信号処理回路と,/上記各部を収納するハウジングと,/を備えたことを
特徴とするスロットルポジションセンサ。
【請求項3】上記2個の磁電変換素子がホール素子であり,各ホール素子を,上記
ロータの回転軸に沿った面に平行且つ該回転軸を中心に対称に配設してなることを
特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスロットルポジションセンサ。
イ産業上の利用分野
【0001】本発明は,内燃機関のスロットルバルブの回転軸に取り付けられ,ス
ロットルバルブ開度を検出するスロットルポジションセンサに関する。
ウ従来の技術
【0002】従来より,内燃機関のスロットルバルブの開度を検出するスロットル
ポジションセンサとして,例えば,…特開平2-298802号公報に開示されて
いる磁気検知方式による非接触型のスロットルポジションセンサが知られている。
エ発明が解決しようとする課題
【0004】…磁気検知方式によるスロットルポジションセンサは,非接触型であ
るため,耐久性が非常に高く,可変抵抗器型のような問題はないが,磁電変換素子
からの検出信号に対して増幅等の処理を施す信号処理回路が設けられているため,
センサ内で磁電変換素子や回路素子の故障或は断線等の異常が発生しても,何等か
の信号が出力されることとなり,その出力信号から故障診断を行うことができずに,
スロットルバルブ開度を誤検出してしまうことがあった。…
【0005】本発明はこうした問題を解決するためになされたもので,磁電変換素
子を使用した非接触型のスロットルポジションセンサにおいて,その出力信号から
センサの故障を容易に検出できるようにすることを目的としてなされた。
オ課題を解決するための手段
【0006】即ち,上記目的を達成するためになされた本発明は,内燃機関のスロ
ットルバルブの開度を検出するスロットルポジションセンサであって,上記スロッ
トルバルブに連動して回転するロータと,該ロータの先端に固定され,該ロータの
回転軸と直交する磁路を形成する磁石と,該磁石により形成された磁路に配設され,
該磁路での磁界方向を検出する2個の磁電変換素子と,各磁電変換素子により得ら
れた検出信号を各々処理して外部に出力する2個の信号処理回路と,上記各部を収
納するハウジングと,を備えたことを特徴とするスロットルポジションセンサを要
旨としている。
カ実施例
【0009】図1~図4に示す如く,本実施例のスロットルポジションセンサは,
樹脂製で中空のハウジング1を備えている。ハウジング1の中心部には,ベアリン
グ3が埋設されており,このベアリング3には,磁性材からなる中空のロータ5が
回転自在に設けられている。…
【0012】またロータ5の内周部には,同心円筒状で,ロータ5の回転軸と直交
する方向に着磁された,Nd-Fe-B系等の希土類からなる永久磁石15が,磁
力及び接着により固定されている。次に永久磁石15の図1における上方には,…
ケース20が配設されている。またこのケース20の更に上方には,ホール素子2
1,22,各種回路素子23,及び4個のターミナル24が実装され,且つホール
素子21,22を収納しているホルダ25が固定されたプリント基板27が配設さ
れている。…
【0014】…本実施例では,ホール素子21,22がロータ5の回転軸と直交す
る磁界を感磁して同レベルの検出信号が得られるように,各ホール素子21,22
は,永久磁石15の中空部内にて,ロータ5の回転軸に沿った面に平行で,しかも
回転軸を中心に対称な位置に配設されている。
【0017】このように構成された本実施例のスロットルポジションセンサにおい
ては,レバー7がスロットルバルブの回転軸に連結され,その回転に伴いロータ5
が回転する。するとこの回転に伴い永久磁石15が,ホール素子21,22の周り
を回転するため,ホール素子21,22の感磁面に対する磁界方向が図6に示すよ
うに変化する。
【0019】次にこうした出力特性が得られるホール素子21,22を動作させて,
検出信号を取り出すためのセンサ回路は,プリント基板27に形成された回路パタ
ーンとプリント基板に実装された回路素子23とにより,図8に示す如く構成され
ている。
【0020】図に示す如く,プリント基板27には,センサ回路として,ホール素
子21用センサ回路50とホール素子22用センサ回路60とが各々独立して形成
されており,上記4個のターミナル24の内,2つのターミナル24a,24bが,
各センサ回路50,60からの検出信号出力端子として使用され,他の2つのター
ミナル24c,24dが,電源供給用端子,即ち電源電圧(Vcc)供給用の端子
及び接地(Gnd)用の端子として使用される。
【0021】そしてこの電源供給用端子となるターミナル24c,24dからの電
源供給ライン,即ちVccライン及びGndラインは,プリント基板27上で回路
素子に接続される前に2つに分割され,上記各センサ回路50,60に個別に電源
供給を行なうようにされている。…
【0022】次に上記各センサ回路50,60は,夫々,以下のように構成されて
いる。即ち,まずホール素子21用センサ回路50は,正の温度特性を有する感温
抵抗器R1と抵抗器R2~R6とからなり,ホール素子21駆動のための基準電圧
V11を発生する温度補償回路51,演算増幅器OP1と抵抗器R7とからなり,
温度補償回路51からの基準電圧V11に基づきホール素子21を定電流駆動する
駆動回路52,演算増幅器OP2,OP3と抵抗器R8~R10とからなり,ホー
ル素子21の各出力端子電圧を通過させるバッファ回路53,演算増幅器OP4と
トランジスタTR1と抵抗器R11~R17とからなり,バッファ回路53を通過
してきた各出力端子電圧を差動増幅する差動増幅回路54,演算増幅器OP5と抵
抗器R18,R19とからなり,抵抗器R18,R19により電源電圧VCCを分
圧した基準電圧V12により差動増幅回路54の増幅出力電位を増加させる基準電
圧生成回路55,及び,コンデンサC2と抵抗器R20,R21とからなり,差動
増幅回路54からの増幅出力をスロットルバルブの開度を表す検出信号V1(負荷
抵抗RL1両端の電圧)として外部に出力するフィルタ回路56により構成されて
いる。
【0023】またホール素子22用センサ回路60は,ホール素子21用センサ回
路50と同様,正の温度特性を有する感温抵抗器R31と抵抗器R32~R36と
からなり基準電圧V21を発生する温度補償回路61,演算増幅器OP11と抵抗
器R37とからなり基準電圧V21に基づきホール素子22を定電流駆動する駆動
回路62,演算増幅器OP12,OP13と抵抗器R38~R40とからなるバッ
ファ回路63,演算増幅器OP14とトランジスタTR11と抵抗器R41~R4
7とからなる差動増幅回路64,演算増幅器OP15と抵抗器R48,R49とか
らなり基準電圧V22を生成して差動増幅回路64の増幅出力電位を増加させる基
準電圧生成回路65,及び,コンデンサC12と抵抗器R50,R51とからなり,
差動増幅回路64からの増幅出力をスロットルバルブの開度を表す検出信号V2
(負荷抵抗RL2両端の電圧)として外部に出力するフィルタ回路66により構成
されている。
【0026】以上説明したように本実施例のスロットルポジションセンサにおいて
は,ハウジング1内に2個のホール素子21,22と,各ホール素子21,22を
夫々動作させて検出信号を出力する2個のセンサ回路50,60とを組み込み,ス
ロットルバルブ開度に対応した2つの検出信号V1,V2を出力するようにされて
いる。
【0027】このため本実施例のスロットルポジションセンサからの検出信号V1,
V2に基づきエンジン制御等を行なう制御装置側では,これら各検出信号V1,V
2を比較することにより,スロットルポジションセンサの故障診断を行なうことが
可能となる。
【0033】また本実施例では,磁電変換素子にホール素子21,22を使用し,
各ホール素子21,22を,ロータ5の回転軸に沿った面に平行且つ回転軸を中心
に対称な位置に配設しているため,ホール素子21,22の各感磁面に印加される
磁界強度を常に等しくすることができる。このため各センサ回路50,60から出
力される検出信号V1,V2を等しくすることができ,故障診断を高精度に行うこ
とが可能となる。
キ発明の効果
【0038】以上説明したように,本発明のスロットルポジションセンサにおいて
は,2個の磁電変換素子と,各磁電変換素子からの検出信号を処理して外部に出力
する2個の信号処理回路とを備え,各信号処理回路から2つの検出信号を出力する
ようにされている。このため本発明のスロットルポジションセンサにおいては,各
信号処理回路から出力される2つの検出信号に基づき,スロットルポジションセン
サの故障診断を,簡単且つ正確に行うことが可能となる。
(2)そして,引用例1には,前記第2の3(2)のとおりの引用発明1が記載され
ていると認められることは,当事者間に争いがない。
原告は,前記第2の3(3)イ記載の本件発明と引用発明1との相違点1ないし4
が実質的相違点には当たらず,作用効果上も,引用発明1の開示事項と本件発明と
の間に相違はないことから,本件審決による相違点の認定及び本件発明が特許法2
9条1項3号に違反しないとの判断は誤りである旨主張することから,以下,検討
する。
(3)相違点1について
前記(1)の引用例1の【0020】~【0023】の記載及び【図8】によれば,
引用発明1においては,電源電圧(Vcc)供給用の端子であるターミナル24c
は,ホール素子21用センサ回路50及びホール素子22用センサ回路60内の電
源供給ラインを介してホール素子21,22のそれぞれ4つの端子のうちの1つの
端子と接続されて,ホール素子21,22に電源電圧(Vcc)を外部から印加す
るとともに,接地(Gnd)用の端子であるターミナル24dは,ホール素子21
用センサ回路50及びホール素子22用センサ回路60内の接地ラインを介してホ
ール素子21,22のそれぞれ4つの端子のうちの別の1つの端子と接続されて,
ホール素子21,22を外部に接地(Gnd)し,また,検出信号出力端子である
ターミナル24aは,ホール素子21用センサ回路50内の検出信号ラインを介し
てホール素子21の4つの端子のうちの残り2つの端子と接続されて,ホール素子
21の出力を外部に取り出し,さらに,検出信号出力端子であるターミナル24b
は,ホール素子22用センサ回路60内の検出信号ラインを介してホール素子22
の4つの端子のうちの残り2つの端子と接続されて,ホール素子22の出力を外部
に取り出す構成とされていることが認められる。
本件審決は,この点について,「ホール素子21は,ホール素子21用センサ回
路50の駆動回路により定電流で駆動され,ホール素子22は,ホール素子22用
センサ回路60の駆動回路により定電流で駆動されており,ターミナル24c,2
4dは,ホール素子21,22に電源電圧(Vcc)を外部から印加するものでも,
ホール素子21,22を外部に接地(Gnd)するためのものでもない」と認定し
た。
しかし,ホール素子21用センサ回路50及びホール素子22用センサ回路60
は,ターミナル24cと接続されて,電源電圧(Vcc)が印加され,これをホー
ル素子21,22に印加するとともに,ターミナル24dと接続されて,ホール素
子21,22を外部に接地(Gnd)するものであり,ホール素子21用センサ回
路50及びホール素子22用センサ回路60自体がホール素子21,22への電源
電圧(Vcc)の印加及びホール素子21,22の接地(Gnd)を行うものでは
ない。ホール素子21,22への電源電圧(Vcc)の印加及びホール素子21,
22の接地(Gnd)については,ホール素子21用センサ回路50及びホール素
子22用センサ回路60は,電源電圧(Vcc)供給用の端子であるターミナル2
4c及び接地(Gnd)用の端子である24dと,ホール素子21及び22とを電
気的に接続する中継手段にすぎない。
したがって,引用発明1においても,4つのターミナル24aないし24dのう
ちの2つのターミナル24c,24dは,1つ(ターミナル24c)はホール素子
21,22に電源電圧(Vcc)を外部から印加し,さらに1つ(ターミナル24
d)はホール素子21,22を外部に接地(Gnd)するためのものであると認め
られる。本件審決の上記認定には誤りがある。
したがって,本件発明の外部接続端子と引用発明1のターミナル24c,24d
とは,磁気検出素子に電源電圧を外部から印加し,さらに磁気検出素子を外部に接
地するためのものであるとの目的及び機能において,同じ構成と認められるから,
相違点1は実質的な相違点ではない。
(4)相違点2について
ア本件発明の特許請求の範囲において,磁気検出素子については,「3つの」
端子を有する複数の磁気検出素子であると特定されているのに対して,外部接続端
子については,「少なくとも4つの」外部接続端子であるとして,文言を区別して
特定されていることからすれば,本件発明の「3つの端子を有…する複数の磁気検
出素子」とは,端子数が3つの磁気検出素子,すなわち3端子の磁気検出素子を意
味するものと解するのが相当である。
ところで,本件明細書の【0001】,【0088】には,磁気検出素子には,ホ
ールICのほか,ホール素子が含まれる旨の記載がある。しかし,ホール素子につ
いては,乙1(特開平2-130403号公報)に,「ホール素子は,周知のよう
に4端子の磁束検出素子で,一方の端子対に電源とアースが接続され,これにより
他方の端子対から磁束密度に対応したホール電圧信号が出力される」旨記載されて
いるように,信号入力用及び接地用の端子がそれぞれ1つ,信号出力用の端子が2
つの合計4端子であること,これに対して,ホールICは,信号入力用,接地用及
び信号出力用の端子がそれぞれ1つの合計3端子であることは,本件特許の優先日
当時,周知の技術事項であったということができる。そうすると,3端子の磁気検
出素子として特定されている本件発明の「磁気検出素子」に,ホール素子が含まれ
る余地はないというべきである。
したがって,本件発明の「磁気検出素子」とは,ホールICを意味し,ホール素
子を含まないと解される。
イ前記第2の3(2)のとおり,引用発明1のホール素子21,22のそれぞれ
4つの端子は,ホール素子21用センサ回路50又はホール素子22用センサ回路
60の駆動回路により定電流で駆動するための一対の端子及びホール素子21用セ
ンサ回路50又はホール素子22用センサ回路60により差動増幅されてセンサ回
路50又はセンサ回路60からの検出信号出力端子(ターミナル24a又はターミ
ナル24b)の検出信号となる一対の出力電圧端子である。
そして,前記(3)のとおり,引用発明1においては,ホール素子21,22のそ
れぞれ4つの端子のうちの一対の端子は,ホール素子21,22に電源電圧(Vc
c)を外部から印加するために,ホール素子21用センサ回路50及びホール素子
22用センサ回路60内の電源供給ラインを介して電源供給用端子であるターミナ
ル24cと接続されるとともに,ホール素子21,22を外部に接地(Gnd)す
るために,ホール素子21用センサ回路50及びホール素子22用センサ回路60
内の接地ラインを介して接地用端子であるターミナル24dと接続され,また,ホ
ール素子21の4つの端子のうちの一対の出力電圧端子は,ホール素子21の出力
を外部に取り出すために,ホール素子21用センサ回路50内の検出信号ラインを
介してターミナル24aと接続され,さらに,ホール素子22の4つの端子のうち
の一対の出力電圧端子は,ホール素子22の出力を外部に取り出すために,ホール
素子22用センサ回路60内の検出信号ラインを介してターミナル24bと接続さ
れている。
このように,引用発明1において,ホール素子の端子は,電源電圧を印加する信
号入力用の端子,接地用の端子及び信号出力用の端子の3種類ではあるが,その端
子の数は4つである。そうすると,前記アのとおり,本件発明の磁気検出素子は3
端子を意味するところ,引用発明1の4端子であるホール素子21,22とは端子
数が異なるから,相違点2は実質的な相違点というべきである。
ウ原告は,この点について,引用発明1の各ホール素子21,22が有する端
子は4つであるが,これは信号入力用端子,接地用端子のほかに,信号出力用端子
が2つあるからであり,本件発明と同様に信号入力用端子,接地用端子,信号出力
用端子を有していることに変わりはなく,また,本件発明では「3つの端子を有
し」となっていて4端子を排除していないから,この点は本件発明との相違点にな
らない旨主張する。
しかし,前記アのとおり,本件発明の磁気検出素子は3端子を意味し,本件発明
の「前記磁気検出素子の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力
用,及び接地用の端子であり」とは,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,
接地用の端子がそれぞれ1つの合計3端子であることを意味するのであって,電源
電圧を印加する信号入力用の端子,信号出力用の端子及び接地用の端子の3種類の
端子を有するという意味ではない。また,本件発明の磁気検出素子は3端子に限定
されるのであるから,4端子のものを排除することは明らかである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(5)相違点3について
ア引用発明1においても,ホール素子21,22のそれぞれ4つの端子は同一
面より引き出されているから,当該構成は,本件発明の「端子は前記磁気検出素子
の同一面より引き出され」との構成と一致する。そうすると,相違点3は,本件発
明では,「前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され」るのに
対し,引用発明1では,「2個のホール素子21,22は,…ロータ5の回転軸に
沿った面に並行で,しかも回転軸を中心に対称な位置に配設され」る点をいうもの
と解される。
イところで,本件発明は,「前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方
向で配置され」と規定し,本件明細書において,本件発明の実施例である第1実施
例においては,ホールIC31とホールIC32とがそれぞれ幅の狭い面を相隣接
させて並べられ,ホールIC31の下面の3つの端子の起点とホールIC32の下
面の3つの端子の起点とが横一列に並んでいる配置態様(【図6】)をもって,「並
列」と表記している(【0040】)。これに対して,前記2(1)エのとおり,請求項
1が「複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され」と記載されてい
るのに対して,「複数の磁気検出素子は,直列に同方向で配置され」と記載されて
いること以外は,発明特定事項を共通にする請求項2の実施例として記載された第
2実施例は,平成18年6月21日付け手続補正書による補正によって請求項2が
削除された後も本件明細書にそのまま残されたものであるが,この第2実施例にお
いては,ホールIC31とホールIC32とがそれぞれ幅の広い面を相隣接させて
並べられ,ホールIC31の下面の3つの端子の起点とホールIC32の下面の3
つの端子の起点とが前後二列に並んでいる配置態様(【図8】)をもって,「直列」
と表記している(【0044】)。
そうすると,本件発明の「前記複数の磁気検出素子は,並列に180度逆方向で
配置され」とは,2つの磁気検出素子が,180度逆方向で,それぞれ幅の狭い面
を相隣接させ,それぞれの3つの端子の起点が横一列になるように並べて配置する
ものを意味すると解するのが相当である。
ウこれに対して,引用発明1においては,ホール素子21,22は,ロータ5
の回転軸に沿った面に並行で,しかも回転軸を中心に対称な位置に配設されるとさ
れ(【0014】),ホール素子21,22が,ロータ5の回転軸を中心として18
0度逆方向で,それぞれ幅の広い面を相隣接させて並べられ,ホール素子21の下
面の4つの端子の起点とホール素子22の下面の4つの端子の起点とが前後二列に
並んでいる配置とされている(【図5】,【図6】)。
そうすると,引用発明1のホール素子21,22の配置態様は,本件発明におけ
る「並列」に該当するものではなく,本件発明の実施例ではない,第2実施例の
「直列」に該当するものというべきである。
したがって,相違点3は実質的な相違点というべきである。
エ原告は,この点について,本件明細書中には,本件発明の構成要件中「並列
に180度逆方向」の明確な定義がなく,このような場合には,各語の一般的解釈
からその意味を理解すべきであるところ,広辞苑によれば,「並列」は「並びつら
なること」と,「逆」は「方向が反対であること」と,それぞれ解説されているこ
とから,本件発明の「磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され」は,2
つの磁気検出素子を,並べて180度逆の向きに配置する構成を意味し,引用発明
1のホール素子21,22の配置態様はこれに該当する旨主張する。
しかし,本件明細書においては,磁気検出素子の配置態様について,「並列」と
「直列」とを,前記イのとおりの各配置態様を意味する語として明らかに使い分け
ているのであるから,請求項1の「並列に180度逆方向で配置され」との解釈に
おいても,本件明細書のかかる用語例をしんしゃくすべきことは当然である。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(6)相違点4について
ア相違点4には,その技術的観点から,以下の2つの相違点が含まれていると
解することができる。
①相違点4-1
本件発明では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各
磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置され
た各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の端子は各磁気検出素子の同一位
置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて…いる」のに対し,引用発明1で
は,「端子(リード)の本数が「4つ」であることはともかくとして,「端子(リー
ド)は,ホール素子21,22の同一面(プリント基板27と対向する面)を起点
としてプリント基板27の方向に引き出され」ているものの,ホール素子21の4
つの端子(リード)のうち2つの端子(リード)と,ホール素子22の4つの端子
(リード)のうち2つの端子(リード)とは,それぞれ反対方向に折り曲げられて
からプリント基板27に固定されて…いる」点(以下,この相違点を「相違点4-
1」という。)。
②相違点4-2
本件発明では,「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの端子の内の各
磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位置に配置され
た各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の端子は…前記外部接続端子のう
ち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子と接続されている」のに対し,
引用発明1では,「ホール素子21」を「定電流で駆動するための一対の端子(リ
ード)」は,「ホール素子21用センサ回路50の駆動回路」を介して「ターミナル
24c」つまり「電源供給用端子,即ち電源電圧(Vcc)供給用の端子」と,
「ターミナル24d」つまり「接地(Gnd)用の端子」に接続され,「ホール素
子22」を「定電流で駆動するための一対の端子(リード)」は,「ホール素子22
用センサ回路60の駆動回路」を介して「ターミナル24c」つまり「電源供給用
端子,即ち電源電圧(Vcc)供給用の端子」と,「ターミナル24d」つまり
「接地(Gnd)用の端子」に接続されている点(以下,この相違点を「相違点4
-2」という。)。
イ相違点4-1について
相違点4-1に係る本件発明の「前記信号入力用及び前記接地用の端子は各磁気
検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」との構成は,
前記2(1)ウのとおり,電源電圧を印加する信号入力用の端子,信号出力用の端子
及び接地用の端子の全ての端子が単に同じ方向へ引き出された態様を含み得るもの
であるところ,引用発明1のホール素子21,22のそれぞれ4つの端子も,同様
に,ホール素子21,22の同一面(プリント基板27と対向する面)を基点とし
て,プリント基板27の方向へと引き出されている。
相違点4-1に係る本件発明の構成は,磁気検出素子の同一面からの各端子の引
き出し方向を特定するものであるところ,引用発明1においては,上記のとおり,
各端子の同一面からの引き出し方向は同じプリント基板27方向であって,このよ
うに同じ方向へ引き出された後に,端子の先端部が折り曲げられているからといっ
て,前記構成を満たしていることが覆るものではない。
このように,引用発明1は,ホール素子21,22のそれぞれ4つの端子が同じ
方向に引き出されている点において,本件発明の「前記複数の磁気検出素子が夫々
有する前記3つの端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なく
とも2つの同一位置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の
端子は各磁気検出素子の同一位置に配置された端子毎に同じ方向へ引き出されて」
との構成と一致している。
したがって,相違点4-1は実質的な相違点ではない。
ウ相違点4-2について
(ア)ホール素子は,ホール素子(のチップ)のみを端子の一端部とともにパッ
ケージしたものであって,信号処理回路がパッケージされていないため,ホール素
子を使用するに当たっては,増幅回路等の信号処理回路に別途接続することが必要
であるのに対し,ホールICは,ホール素子(のチップ)と信号処理回路を端子の
一端部とともにパッケージしたものであることから,外部接続端子と直接に接続さ
れるものであることは,本件特許の優先日当時,周知の技術事項である(甲2,1
7,乙2,弁論の全趣旨)。
そして,前記(4)アのとおり,本件発明の「磁気検出素子」とは,ホールICを
意味し,ホール素子を含まないと解される以上,本件発明の「前記複数の磁気検出
素子が夫々有する3つの端子の内の…前記信号入力用及び前記接地用の端子は…前
記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子と接続され
ている」の「接続」とは,その記載から,直接に接続することを意味すると解する
のが相当である。
また,本件明細書には,ホールIC31,32の各3つの端子と外部接続端子4
0ないし43とが直接に接続されている形態しか開示されていない(【0019】,
【0022】,【0030】)。ここで,本件発明の目的は,磁気検出素子及び外部接
続端子の組付けを簡単にすることのできる回転角度検出装置を提供することにある
ところ(【0008】),上記課題は,ホール素子と信号処理回路部が基板に配置さ
れ,リードフレームを介してコネクタに接続されて外部へ出力する構成である従来
例の場合,種々の部品組み付けに先立つ加工の精度や加工工数が必要となるなどの
問題があったこと(【0003】,【0005】)に対応して設定されたものであるこ
とが認められる。したがって,本件発明においては,磁気検出素子と外部接続端子
とを直接に接続することによって,磁気検出素子及び外部接続端子の組み付けを簡
単にするとの効果を生じさせているものということができる。さらに,「2個のホ
ールIC31,32を,並列に180度逆方向で配置することにより,リードフレ
ーム33を含めた2個のホールIC31,32の組み付けが簡単になる。」(【00
40】)との記載によれば,本件発明においては,複数の磁気検出素子と外部接続
端子とを直接に接続するに際して,複数の磁気検出素子を並列に180度逆方向で
配置することにより,磁気検出素子の端子毎にまとめやすくすることで,より組付
けが簡単になるとの効果を生じさせているものということができる。
以上のとおり,特許請求の範囲の記載からも,本件明細書の記載からも,本件発
明の「前記複数の磁気検出素子が夫々有する3つの端子の内の…前記信号入力用及
び前記接地用の端子は…前記外部接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端
子及び接地端子と接続されている」の「接続」とは,直接に接続することを意味す
ると解するのが相当である。
(イ)これに対して,引用発明1においては,前記(4)イのとおり,ホール素子
21,22のそれぞれ一対の端子は,信号入力用の外部接続端子に相当するターミ
ナル24c及び接地用の外部接続端子に相当するターミナル24dとセンサ回路5
0,60を介して接続されていることから,磁気検出素子と外部接続端子とが直接
に接続されていない。このように,本件発明と引用発明1とは,磁気検出素子の端
子と外部接続端子との接続態様が直接に接続されているか否かの点で相違する。
したがって,相違点4-2は実質的な相違点というべきである。
(7)作用効果について
原告は,引用発明1が2個のホール素子を備えることにより得られる効果は,本
件発明の「一方のホールICが故障しても他方のホールICによりスロットル開度
を検出できるようにするためと,一方のホールICの誤作動を検出できるようにす
る」との効果(本件明細書の【0042】)と全く同じであるし,2個のホール素
子の組付けが簡単であるとの効果(【0040】)も同様であるから,作用効果上も
引用発明1の開示事項と本件発明との間に相違点はない旨主張する。
たしかに,引用例1には,ホール素子21,22をロータ5の回転軸に沿った面
に平行かつ回転軸を中心に対称な位置に配設することにより,検出信号V1,V2
を等しくすることができ,これら各検出信号V1,V2を比較することにより,ス
ロットルポジションセンサの故障診断を高精度に行うことが可能となる旨記載され
ており(【0027】,【0033】),本件発明の「一方のホールICが故障しても
他方のホールICによりスロットル開度を検出できるようにするためと,一方のホ
ールICの誤作動を検出できるようにする」という上記効果との間に相違はない。
しかし,引用例1には,2個のホール素子の組付けが簡単であるとの効果の記載
はない。本件発明において,磁気検出素子の組付けが簡単になるのは,前記(6)ウ
(ア)のとおり,磁気検出素子と外部接続端子とを直接に接続すること,及び,その
際に,複数の磁気検出素子を並列に180度逆方向で配置することにより,磁気検
出素子の端子毎にまとめやすくすることに基づく効果である。これに対して,引用
発明1においては,2個のホール素子21,22と外部接続端子であるターミナル
24aないし24dとは,センサ回路50,60を介して接続されており,これは,
前記(6)ウ(イ)のとおり,本件明細書の【0003】,【0005】において従来例
として記載された,ホール素子と信号処理回路部が基板に配置され,リードフレー
ムを介してコネクタに接続されて外部へ出力する構成と同じであって,かかる構成
を採用する引用発明1においては,2個のホール素子21,22の組付けが簡単で
あるとの効果を奏することはない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(8)小括
以上によれば,本件発明と引用発明1との間の相違点のうち,相違点1及び4-
1は実質的相違点ではないものの,その余の相違点2,3及び4-2は実質的な相
違点というべきであるから,本件発明は引用発明1と同一であるということはでき
ない。
したがって,取消事由3は理由がない。
5取消事由4(進歩性判断の誤り)について
(1)引用発明1及び引用発明2に基づく容易想到性について
ア引用発明2について
(ア)引用例(甲2)には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する
図のうち,第1,2,4図は別紙5を参照。)。
a実用新案登録請求の範囲
一対の磁電変換ICと,前記一対の磁電変換ICが夫々取付方向を反転させて両
面に取付けられたリードフレームと,を有し,
前記磁電変換ICの電源入力及び出力が共通接続されて夫々リードフレームに接
続され,2方向の磁界を検出するようにしたことを特徴とする磁電変換素子。
b考案の分野
本考案はN極及びS極を検出する磁電変換素子に関するものである。
c課題を解決するための手段
本考案はN極及びS極を検出する磁電変換素子であって,一対の磁電変換ICと,
一対の磁電変換ICが夫々取付方向を反転させて両面に取付けられたリードフレー
ムと,を有し,磁電変換ICの電源入力及び出力が共通接続されて夫々リードフレ
ームに接続され,2方向の磁界を検出するようにしたことを特徴とするものである。
d作用
このような特徴を有する本考案によれば,リードフレームの保持面の両面に夫々
検知方向が反転するように磁電変換ICを取付け,その出力を共通接続して検出出
力とするようにしている。こうすれば磁石のN極とS極とを表面又は裏面のいずれ
かの磁電変換ICによって検出して出力するようにしている。
e考案の効果
そのため本考案によれば,極めて簡単な構成でN極とS極とを検出することが可
能となる。従って専用のICを設計する場合に比べて大幅に価格を低減することが
でき,又専用ICを用いず外付け回路で二方向磁界タイプとする場合に比べ大幅に
小型化することが可能となる。
f実施例の説明
…第1図(a),(b)は本考案の一実施例による磁電変換素子の夫々異なる方向
からの斜視図である。この磁電変換素子はリードフレーム1~3を有し,リードフ
レーム1のベース1a上には後述する構造を有するホールIC4が取付けられ,そ
の3つの端子が夫々リードフレーム1~3にワイヤボンディングにより接続されて
いる。そしてこのリードフレーム1のベース1aの裏面にも同様の構造を有するホ
ールIC5が取付けられ,その各端子はリードフレーム1~3にワイヤボンディン
グによって接続される。…
第2図はこのホールIC4,5とリードフレームとの接続を示す回路図である。
本図に示すようにホールIC4,5は夫々定電圧回路4a,5aを有しており,定
電圧がホール素子4b,5bに供給される。ホール素子4b,5bは相異なる方向
の磁界の強さを検出するものであり,その出力は夫々増幅回路4c,5cを介して
シュミットトリガ回路4d,5dに与えられる。シュミットトリガ回路4d,5d
は所定の閾値で増幅出力を弁別し出力トランジスタ4e,5eを介して外部に出力
するものである。さてリードフレーム2(判決注:第2図では「3」と記載されて
いる。)にはこの出力トランジスタ4e,5eのコレクタ端が共通に接続されてお
り,ホールIC4,5の電源の正及び負の入力端が夫々共通接続されてリードフレ
ーム3(判決注:第2図では「2」と記載されている。)及び1に接続されている。
このように構成された磁電変換素子においては,…第4図(a)に示すような出
力が得られることとなる。このように2つのホール素子をリードフレームの両面に
設けることによってN極とS極との双方に対して感度を持つ磁電変換素子とするこ
とができる。
(イ)前記(ア)の記載によれば,引用例2には,以下の引用発明2が開示されて
いることが認められる。
一対のホールICが夫々取り付け方向を反転させて両面に取り付けられたリード
フレーム1~3を有し,/リードフレーム1のベース1a上にはホールIC4が取
り付けられ,その3つの端子が夫々リードフレーム1~3にワイヤボンディングに
より接続され,このリードフレーム1のベース1aの裏面にも同様の構造を有する
ホールIC5が取り付けられ,その各端子はリードフレーム1~3にワイヤボンデ
ィングにより接続され,こうしてリードフレーム1のベース1aの両面にホールI
C4,5を取り付けた電磁変換素子であって,/ホールIC4,5の電源の正及び
負の入力端が各々共通に接続されてリードフレーム3及び1に接続され,ホールI
C4,5の出力トランジスタ4e,5eのコレクタ端が共通にリードフレーム2に
接続されて,/磁石のN極とS極とを表面又は裏面のいずれかのホールICによっ
て検出し,N極とS極との双方に対して感度を持ち,磁石の回転角に応じたオンオ
フを出力する,電磁変換素子。
イ原告は,引用発明2において,磁気検出素子であるホールIC4,5は互い
に背中合わせの状態になるように並べられ,磁気検出素子(ホールIC4,5)か
ら端子(ワイヤ)を引き出す起点を有する面は,ホールIC4と5で磁界に対する
感面が磁界に対して互いに逆方向となっているから,引用発明2は,「前記複数の
磁気検出素子は,並列に180度逆方向で配置され」との構成を開示している旨主
張する。
しかし,前記4(5)イのとおり,本件発明の「前記複数の磁気検出素子は,並列
に180度逆方向で配置され」とは,2つの磁気検出素子が,180度逆方向で,
それぞれ幅の狭い面を相隣接させ,それぞれの3つの端子の起点が横一列になるよ
うに並べて配置するものを意味すると解される。
これに対して,引用発明2においては,ホールIC4,5は,リードフレーム1
のベース1aを挟んでそれぞれ幅の広い面を対向させて配置されている。したがっ
て,引用発明2のホールIC4,5の配置態様は,本件発明における「並列」に該
当するものではなく,「直列」に該当するものというべきである。
そうすると,引用発明2は,本件発明の「前記複数の磁気検出素子は,並列に1
80度逆方向で配置され」ている構成を開示するものであるとはいうことはできず,
原告の上記主張は,採用することができない。
ウそこで,引用発明1及び引用発明2に基づいて,本件発明と引用発明1との
相違点に係る本件発明の構成に至ることが容易であるか否かについて検討する。
(ア)引用発明1は,前記4(7)のとおり,2つのホール素子21,22をロー
タ5の回転軸に沿った面に平行かつ回転軸を中心に対称な位置に配設することによ
り,ホール素子21からの検出信号V1とホール素子22からの検出信号V2とが
等しくなる環境を作り,これら2つの磁気検出素子がそれぞれのセンサ回路50及
び60を経て検出信号V1,V2を各出力し,この2つの検出信号を比較すること
により,スロットルポジションセンサの故障診断を行うことを目的とするものであ
る。
これに対して,引用発明2は,前記アのとおり,2つのホールIC4,5を反転
させて対向配置した上で,ホールIC4,5の出力トランジスタ4e,5eのコレ
クタ端をリードフレーム2に共通接続して,各ホールIC4,5の検出信号を統合
することにより,N極とS極の双方に対して感度を持つ1つの磁電変換素子(磁気
検出素子)とすることを目的とするものである。
このように,引用発明1と引用発明2とは,「磁気検出素子を用いた検知技術」
という同じ技術分野に属するものではあるものの,発明の目的及び効果を異にする
ものであって,故障診断のために2つの磁気検出素子を設ける引用発明1に,N極
及びS極の双方向に対して感度を持つことを目的として,一対のホールICの出力
を共通接続して1つの磁気検出素子として検出出力するようにした引用発明2を適
用すべき動機付けがないというべきである。
(イ)また,この点を措いても,前記イのとおり,引用発明2は,本件発明と引
用発明1との相違点3に係る本件発明の構成を開示するものではないから,仮に引
用発明1に引用発明2を適用したとしても,少なくとも相違点3に係る本件発明の
構成に想到することはできないというべきである。
エ小括
したがって,本件発明は,引用発明1及び引用発明2から容易に発明できたもの
であるということはできない。
(2)引用発明1に周知例1を適用することによる容易想到性について
ア周知例1について
周知例1(甲3)によれば,周知例1には,次の技術が開示されていることが認
められる(下記記載中に引用する図のうち,図1,2,4は別紙6を参照。)。
それぞれ逆方向の磁束を検知し得るように,互いに逆向きに配設された2つのホ
ール素子と,これら2つのホール素子に駆動電圧を印加する電源回路と,ホール素
子に作用する磁束の変化による,ホール素子の出力電流の変化に基づいてホール素
子が磁束を検知した場合,検出信号を出力する検出回路とを含んでいることを特徴
とする無接点型磁気スイッチの発明であって(【請求項1】),2つのホール素子1
2,13を互いに逆向きに配置した上で,各ホール素子の出力端子12a,13a
を1つにまとめ,各ホール素子の検出信号を統合することにより,検出すべきマグ
ネットの磁気極性がいずれの方向であっても,確実に位置検出が行われ得るように
することを目的とするものであり,2つのホール素子を互いに背中合わせに接触さ
せて配置する態様(引用発明1のホール素子21,22の配置態様に相当するも
の。)と,2つのホール素子を互いに並んで接触するように逆向きに配置する態様
(本件発明の「並列に180度逆方向で配置」する態様に相当するもの。)とは,
相互に置換可能なものである(【0011】~【0013】,【0015】,【001
7】,【0024】,【図1】,【図2】,【図4】)。
イそこで,引用発明1に周知例1記載の技術を適用することにより,本件発明
と引用発明1との相違点に係る本件発明の構成に至ることが容易であるか否かにつ
いて検討する。
(ア)引用発明1は,前記4(7)のとおり,2つのホール素子21,22をロー
タ5の回転軸に沿った面に平行かつ回転軸を中心に対称な位置に配設することによ
り,ホール素子21からの検出信号V1とホール素子22からの検出信号V2とが
等しくなる環境を作り,これら2つの磁気検出素子がそれぞれのセンサ回路50及
び60を経て検出信号V1,V2を各出力し,この2つの検出信号を比較すること
により,スロットルポジションセンサの故障診断を行うことを目的とするものであ
る。
これに対して,周知例1記載の技術は,2つのホール素子12,13を互いに逆
向きに配置した上で,各ホール素子の出力端子12a,13aを1つにまとめ,各
ホール素子の検出信号を統合することにより,検出すべきマグネットの磁気極性が
いずれの方向であっても,確実に位置検出が行われ得るようにすることを目的とす
るものである。
このように,引用発明1と周知例1記載の技術は,「磁気検出素子を用いた検知
技術」という同じ技術分野に属するとしても,発明の目的及び効果を異にするもの
であって,故障診断のために2つの磁気検出素子を設け,検出信号を各出力して比
較する引用発明1に,検出すべきマグネットの磁気極性がいずれの方向であっても,
確実に位置検出が行われ得るようにすることを目的として,2つのホール素子の出
力端子を1つにまとめて検出出力するようにした周知例1記載の技術を適用すべき
動機付けがないというべきである。
(イ)上記の点を措いても,周知例1記載の技術における磁気検出素子はホール
素子であるところ,前記4(4)アのとおり,ホール素子が4端子であることは,本
件特許の優先日当時,周知の技術事項であったから,周知例1記載の技術は,相違
点2に係る本件発明の「複数の磁気検出素子」が「同じ配列の3つの端子を有し」,
「磁気検出素子の3つの端子は,電源電圧を印加する信号入力用,信号出力用,及
び接地用の端子であ」るとの構成を開示するものではない。
また,周知例1記載の技術の磁気検出素子はホール素子であるから,前記4(6)
ウ(ア)のとおり,これを使用するに当たっては増幅回路等の信号処理回路に別途接
続する必要があるのであって,実際にも,周知例1の【0016】の記載及び【図
2】によれば,2つのホール素子は,センサ回路15,定電圧回路16,表示出力
回路17,保護回路18を介して外部接続端子である信号入力用端子(図中のVc
c(+)端子),信号出力用端子(図中のVout端子)及び接地端子(図中のG
ND端子)と接続されている。このように,周知例1記載の技術においては,2つ
のホール素子の端子は,各回路を介して外部接続端子と接続されるものであり,外
部接続端子と直接に接続するものではない。そうすると,周知例1記載の技術は,
相違点4-2に係る本件発明の「前記複数の磁気検出素子が夫々有する前記3つの
端子の内の各磁気検出素子の同一位置に配置された端子の少なくとも2つの同一位
置に配置された各端子であって前記信号入力用及び前記接地用の端子は…前記外部
接続端子のうち電源電圧を印加する信号入力用端子及び接地端子と接続されてい
る」構成を開示するものではない。
そうすると,仮に引用発明1に周知例1記載の技術を適用したとしても,少なく
とも相違点2及び4-2に係る本件発明の構成に想到することはできないというべ
きである。
ウ小括
したがって,本件発明は,引用発明1に周知例1記載の技術を適用することによ
って容易に発明できたものであるということはできない。
(3)引用発明1に引用発明2,周知例3及び4記載の周知慣用技術を組み合わ
せることによる容易想到性について
ア引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはなく,仮に引用発明1に引用
発明2を適用したとしても,少なくとも相違点3に係る本件発明の構成に想到する
ことはできないから,本件発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発
明できたものであるということができないことは,前記(1)のとおりである。
イ周知例3及び4(甲5,6)には,2つのトランジスタが互いに逆向きで一
直線上に配置され,両トランジスタのエミッタ端子が端子板のピンに共通して接続
する配線構造が記載されている。そして,トランジスタは電子回路を構成する基本
的な部品であり,引用発明1及び引用発明2の「磁気検出素子を用いた検知技術」
という技術分野における当業者であれば,当然に接する技術であるということがで
きる。
しかし,引用発明1においては,ホール素子21,22は,ロータ5の回転軸と
直交する磁界を感磁して,同レベルの検出信号を得られるようにするものであるか
ら,ロータ5の回転に伴う磁石からの磁界の変化を精度良く検出できるよう,磁気
検出素子の配置に関しては,その向き(感磁面の方向)が重要な要素となる。これ
に対して,トランジスタは,そもそも素子の向きが問題とならないのであって,周
知例3及び4に,2つのトランジスタを互いに並列に逆向きで配置し,両トランジ
スタのエミッタ端子を,端子板のピンに共通して接続する配線構造が記載されてい
るからといって,当該技術を適用することによって,引用発明1の「ロータ5の回
転軸と直交する磁界を感磁して同レベルの検出信号が得られるように,各ホール素
子21,22は,永久磁石15の中空部内にて,ロータ5の回転軸に沿った面に並
行で,しかも回転軸を中心に対称な位置に配設される」「2個のホール素子21,
22」の配置を,本件発明のように「並列に180度逆方向で配置」するように変
更する動機付けがない。
また,本件発明において,2個の磁気検出素子を使用する理由は,一方の磁気検
出素子が故障しても他方の磁気検出素子によりスロットル開度を検出できるように
するためと,一方の磁気検出素子の誤作動を検出できるようにするためであり(本
件明細書【0042】),2つの磁気検出素子が,180度逆方向で,それぞれ幅の
狭い面を相隣接させ,それぞれの3つの端子の起点が横一列になるように並べて配
置するとの相違点3に係る構成を採用することによって,感磁する磁界強度を常に
等しくして各磁気検出素子からの検出信号が等しくなる環境としているものと解さ
れる。しかるに,周知例3及び4においては,2つのトランジスタは,端子板のピ
ン間隔によって離間した配置となっており,この配置態様をもって「相隣接させ」
たものということはできないから,相違点3に係る本件発明の構成を開示するもの
ではない。
そうすると,仮に引用発明1及び引用発明2に周知例3及び4記載の技術を適用
したとしても,少なくとも相違点3に係る本件発明の構成に想到することはできな
いというべきである。
ウ小括
以上によれば,本件発明は,引用発明1に引用発明2や周知例3及び4記載の技
術を組み合わせることにより容易に発明できたものであるということはできない。
(4)前記(1)ないし(3)によれば,取消事由4は理由がない。
6結論
以上によれば,原告主張に係る取消事由は全て理由がないから,原告の本訴請求
は棄却を免れない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官田中芳樹
裁判官柵木澄子
別紙1
甲7の1
別紙2
参考図2
別紙3
【図1】【図2】
【図4】【図5】
【図6】【図7】
【図8】
別紙4
【図1】【図2】
【図5】【図6】
【図8】
別紙5
別紙6
【図1】【図4】
【図2】

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