弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴人は、「一、原判決を取消す。二、控訴人が被控訴人に対し期間の定めのな
い雇用契約に基づく権利を有することを確認する。三、被控訴人は控訴人に対し、
昭和五〇年一〇月四日以降控訴人を復職させるまで毎月二五日限り金九万五八一五
円を支払え。四、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決並び
に右三、四項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求め
た。
 当事者双方の主張並びに証拠関係については、左に附加、訂正するほか、原判決
事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正)
 原判決一四枚目裏四行目「製造部」の次に「管理課」を加え、二二枚目裏六、七
行目「第三製造部」を「日野工場第三製造部管理課」と、三〇枚目裏一〇行目「一
条」を「第七条」と、三二枚目裏六行目「原告主張」を「被控訴人主張」とそれぞ
れ改め、三九枚目表七行目「原告が」の次、同八行目「Aが」の次及び同一〇行目
「同僚が」の次にそれぞれ「控訴人の職場の仲間達を」を加え、九一枚目裏二行目
の「職務」を「勤務」と、九八枚目表五行目の「退職金手当規定」を「退職手当金
規定」とそれぞれ改める。
(控訴人の主張)
1 控訴人は、本訴において、控訴人が被控訴人に対し期間の定めのない雇用契約
に基づく権利を有することの確認を求めているのであるが、その期間の定めのない
雇用契約関係の法律的性格について、控訴人は、第一次的には控訴人が正社員とし
ての地位を有すると主張し、第二次的に、正社員でないとしても、準社員でもな
く、いわば第三の身分であるが、いずれにしても期間の定めのない雇用契約関係に
あると主張しているのである。
2 控訴人が被控訴人会社の正社員としての地位を取得したと考えるべき理由は、
次のとおりである。すなわち、判例や行政解釈は、仕事の内容が正社員と同一で、
かつ何回も契約が更新されている臨時従業員の労働契約上の地位について、期間の
定めのない労働契約と同一に考えるべきであるとしている。本件の場合、控訴人の
仕事の内容が正社員のそれと同一であつたばかりか、控訴人の地位自体当初正社員
への登用を前提として準社員であつたのであり、なおかつ契約期間を自動更新して
いるという考え方自体当事者双方になかつたのであるから、控訴人に対する第一次
解雇(傭止め予告)を撤回した後の昭和四六年四月二〇日に期間の定めのない雇用
契約が成立したと考えるべきであり、仮に被控訴人主張のとおり、当事者間に雇用
契約期間を昭和四六年四月二〇日から同年七月一九日までとする再雇用契約が成立
したとしても、右雇用期間経過後である同年七月二〇日以降も被控訴人において控
訴人の就労を認めてきたのであるから、遅くとも同年七月二〇日には当事者間に期
間の定めのない雇用契約が成立し、控訴人は正社員としての地位を取得したと考え
るべきである。
3 控訴人は、労働組合法(以下、「労組法」という。)第一七条によつて、被控
訴人会社の正社員としての諸権利、換言すれば、賃金、有給休暇等の労働条件上の
権利や労働組合員資格及び社員職場総会への参加資格を有するのである。すなわ
ち、労組法第一七条によれば、同条所定の労働協約中労働者に有利なものは協約外
の少数労働者にも拡張適用されると解されている。本件の場合、被控訴人と日野自
動車工業労働組合(以下、単に「組合」という。)との間の労働協約中には、従業
員の賃金、有給休暇について規定しているから、これらの規定は、非組合員である
控訴人にも適用されるのであり、また、社員職場総会への参加による職場離脱が勤
務懈怠とならない取扱いを受けるという権利が前記労働協約によつて認められてい
ることは、被控訴人自身主張しているのであるから、右のような取扱いを受ける権
利は、非組合員である控訴人にも認められるのであり、このことは、労組法第一七
条の解釈上明らかである(なお、前記労働協約の効力が控訴人にも及ぶことは、被
控訴人自身就業規則に関する合意事項の効力が控訴人に及ぶ理由として主張してい
るのであり、右は先行自白に該当するものというべく、控訴人は、これを援用す
る。)。
 従つて、控訴人が延長職場総会へ参加し、その間業務に従事しなかつたことは、
控訴人に対する懲戒解雇の理由とはなり得ない。
(被控訴人の主張)
 控訴人の前記2、3の主張は争う。
       理   由
 当裁判所も、原審と同様、控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れないと判断
するものであつて、その理由については、左のとおり附加訂正するほか、原判決の
理由中の説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決四三枚目裏九行目の「記載する」を「記載した」と改め、四六枚目裏八
行目の次に左のとおり加える。
 控訴人は、第一次的に控訴人が被控訴人会社の正社員としての地位を取得したと
主張する。しかしながら、被控訴人会社においては、雇用期間の定めのある準社員
から雇用期間の定めのない正社員になるには、社員登用試験に合格することが必要
とされているのに、控訴人が右試験に合格した事実のないこと、被控訴人において
控訴人に対する傭止めの予告を撤回した後も控訴人の雇用を継続し従業員として処
遇してきたのは前認定のような事情によるものであること等前認定の諸事実に徴す
れば、当事者間に控訴人を正社員とする旨の雇用契約が成立し、控訴人が正社員と
しての地位を取得したものと解する余地はない。
 次に、控訴人は、第二次的に控訴人が正社員でも準社員でもないいわば第三の身
分として期間の定めのない雇用契約関係にあると主張するが、弁論の全趣旨によれ
ば、被控訴人会社の従業員(工員)には、雇用期間の定めのない正社員、雇用期間
の定めのある準社員、期間工の区別があるものの、それ以外に控訴人の主張するよ
うな正社員でも準社員でもなく、しかも雇用期間の定めのない工員といつた身分の
従業員は他に存在しないことが認められるのみならず、控訴人においてかような身
分を取得するに至つたことを認めるに足る証拠は全くないから、右主張も採用の限
りではない。
2 四六枚目裏一〇行目から四七枚目表三行目までの記載を、左のとおり改める。
 控訴人は、本訴において、控訴人が被控訴人に対し期間の定めのない雇用契約に
基づく権利を有することの確認を求め、控訴人がその権利を取得したことの理由づ
けとして、第一次的に正社員の地位を取得したとし、第二次的に正社員でも準社員
でもないいわば第三の身分として期間の定めのない雇用契約関係にあると主張する
のであるが、右主張のいずれも採用し得ないことは、前段説示のとおりである。し
かし、控訴人の右請求中には、予備的に期間の定めのある雇用契約に基づく権利を
有することの確認請求をも含むものと解する余地があるので、以下に控訴人がかよ
うな権利を有するか否か、換言すれば、控訴人が三か月の期間の定めのある雇用契
約(準社員契約)上の地位を有するか否かについて検討する。
3 四七枚目裏六行目の「前掲乙第一二号証」を「証人Bの証言によつて成立を認
める乙第一二号証」と、同七行目及び四八枚目表一行目の「六月」をいずれも「三
月」と改める。
4 五二枚目表五行目の次に左のとおり加える。
 以上のとおり、控訴人において六回にわたり上司の作業指示に反していわゆる延
長職懇へ参加し、その間業務に従事しなかつたことが明らかであるところ、控訴人
は、労組法第一七条により非組合員である控訴人についても、組合員である従業員
と同様、延長職懇への参加による職場離脱が勤務懈怠とならない取扱いを受けると
いう権利が認められるから、右延長職懇への参加は解雇の理由とはなり得ない旨主
張する。
 しかし、前認定のとおり、延長職懇は、組合がその活動として勤務時間中に開催
することを被控訴人から許された組合員の職場総会であつて、非組合員についてま
でその参加を認める趣旨のものではないから、右延長職懇の開催を認めることが労
働協約の内容をなしている(前掲乙第一四号証によれば、右延長職懇の開催につい
ては、「労働時間中の組合活動に関する申合せ事項」として、労働協約の附属文書
中に明記され、協約の内容をなしていることが認められる。)としても、右が非組
合員である控訴人についてまで拡張適用されるとは解し難い。けだし、労組法第一
七条の趣旨とするところは、協約当事者である労働組合及びその組合員の団結権の
保護にあるのであつて、協約外の少数労働者の保護を直接の目的とするものではな
いから、当該労働協約が協約外の少数労働者に拡張適用されるか否か、換言すれ
ば、当該協約の拡張適用につき、協約外の労働者と協約当事者である労働組合の組
合員たる労働者が前記法条にいう「同種の労働者」にあたるか否かは、作業内容の
性質によつてこれを決すべきではなく、労働協約の趣旨や協約当事者である労働組
合の組織等の関連においてこれを決するのが相当であると解されるところ、前掲乙
第一四号証及び証人Cの証言によれば、本件の場合、組合は控訴人のような準社員
は組合に加入させず、その組織範囲から排除しており、しかも、労働協約のうち、
少なくとも前記の「労働時間中の組合活動に関する申合せ事項」の部分は非組合員
にまでこれを適用することは予定していないことが認められるから、右の事情を考
慮すれば、前記延長職懇の開催に関する労働協約の適用については、控訴人のよう
な非組合員と組合員とは「同種の労働者」とはいえず、従つて、協約中少なくとも
右の部分は控訴人に対しては拡張適用されないと解されるからである。
 なお、控訴人は、前記労働協約の効力が控訴人にも及ぶことは、被控訴人自身就
業規則に関する合意事項の効力が控訴人に及ぶ理由として主張しているのであつ
て、右は先行自白に該当する旨主張する。しかし、被控訴人は、控訴人が午前八時
までに職場に到着して作業に就くべき義務を負うことの理由づけとして、社員規則
についての組合との了解事項として、前記労働協約第一〇条の規定を受けて、就業
時間に関し原判決別紙(二)記載のとおりの合意があり、右了解事項は実質的には
協約の効力を有するから、労組法第一七条により非組合員である控訴人にも及ぶと
主張しているのであつて、前記協約によつて、延長職懇への参加による職場離脱が
勤務懈怠とならない取扱いを受けるという権利が控訴人にも認められるということ
を自認しているわけではないから、控訴人の右主張はその前提を欠くものであつ
て、採用することができない。
5 五二枚目裏一〇行目の「土曜日」の前に「労働時間」を加え、五六枚目表一行
目の「もとより」から同裏四、五行目の「従つて、」までの記載を、「右甲第三五
号証及び控訴本人尋問の結果のみをもつてしては、控訴人の右主張事実を肯認する
に足らず、他に該主張事実を認めるに足る証拠はない。仮りに、」と改め、五七枚
目表八、九行目及び五九枚目表四行目の「被告日野工場」をいずれも「少なくとも
控訴人の所属していた被控訴人会社日野工場第三製造部」と改める。
6 五九枚目裏一行目から六〇枚目表六行目までの記載を、「一般に労働基準法第
三二条の「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮、命令の下に拘束されている時
間をいうものと解されている。ところで、労働者が現実に労働力を提供する始業時
刻の前段階である入門後職場到着までの歩行に要する時間や作業服、作業靴への着
替え履替えの所要時間をも労働時間に含めるべきか否かは、就業規則や職場慣行等
によつてこれを決するのが相当であると考えられる。けだし、入門後職場までの歩
行や着替え履替えは、それが作業開始に不可欠のものであるとしても、労働力提供
のための準備行為であつて、労働力の提供そのものではないのみならず、特段の事
情のない限り使用者の直接の支配下においてなされるわけではないから、これを一
率に労働時間に含めることは使用者に不当の犠牲を強いることになつて相当とはい
い難く、結局これをも労働時間に含めるか否かは、就業規則にその定めがあればこ
れに従い、その定めがない場合には職場慣行によつてこれを決するのが最も妥当で
あると考えられるからである。そこで、本件についてこれを検討するに前掲乙第一
二号証によれば、控訴人に適用される準社員就業規則には、始業時刻を午前八時と
定めているものの、右の点については何らの定めのないことが認められるとこ
ろ、」と改め、六一枚目裏五行目の「しかし、」から六二枚目表一行目の「解する
余地はない。」までと、同裏五、六行目の「労働時間は」から同八行目までの記載
を削り、六三枚目表七行目の「成立していたのであつて、」を「成立していたので
ある。右慣行に照らせば、本件の場合、入門から職場までの歩行の所要時間が労働
時間に含まれないことは明らかであり、また着替え履替えの所要時間も、それが被
控訴人の明示若しくは黙示の指示によつてなされるものであるとしても、右指示は
前記(原判決説示)のとおり職場における従業員の安全確保のためにとつた使用者
の便宜的措置であることを考慮すれば、右は労働時間に含まれないと解するのが相
当である。そして、」と改める。
7 六八目表六、七行目の「前記のとおりである。」を「当事者間に争いがな
い。」と、七一枚目表六行目及び同末行の「六月」をいずれも「三月」と、七三枚
目表二行目の「第二四号証の一ないし六、成立に争いのない」を「成立に争いのな
い甲第二四号証の一ないし六」と、同裏一行目の「五回」を「四回」と、八六枚目
裏六行目の「甲第九号証」を「甲第一三号証」とそれぞれ改める。
 以上の次第で、控訴人の本訴請求は、これを失当として棄却すべきであり、これ
と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すること
とし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のと
おり判決する。
(裁判官 杉田洋一 中村修三 松岡登)

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