弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     被告人C、同D、Aを各懲役五月に処する。
     被告人Aに対し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     押収の現金二万円(証第一号)を没収する。
     原審の訴訟費用は被告人等三名の連帯負担とする。
         理    由
 被告人Aのための弁護人戸毛亮蔵、被告人Cのための弁護人竹野竹三郎、被告人
Dのための弁護人元林義治の各上告趣意は、末尾に添えた別紙記載の通りである。
 (一) 戸毛弁護人の論旨第一点は、原判決の挙げた証拠によつては本件贈賄幇
助の事実は証明できないから、原判決は理由不備だ、というのである、しかし原判
決が証拠として挙げたところを綜合して判断すれば、被告人Aが被告人BからEを
介し警察への寄附金名義で警察署長Fに贈賄するために金二万円を受取りその旨を
右署長に伝達した事実を認定するに足るのであつて、原判決は証拠によらずして事
実を認定したものだというのは、ひつきよう証拠の証明力について独自の見解によ
り異論をさしはさむにほかならず、論旨は理由がない。
 (二) 同論旨第二点は、原判決は、本件贈賄の相手方を単に新庄町警察署長F
と判示するだけで、同人が判示食糧管理法違反被疑事件について如何なる権限を有
するのかを明かにしていない、すなわち同人の権限職務の内容を判示していないか
ら、理由不備である、というのである。しかし、判示新庄町警察署長は自治体警察
の警察署長であるから、警察法第四九条の定めるところにより、警部補以上の警察
吏員たると市町村警察署長がこれを兼ねている場合たるとを問はず、警察署長とし
て上司の指揮監督を受けて管轄区域内における警察事務を執行し部下の職員を指揮
監督する権限を有するのであつて、警察事務は、警察法第一条により、犯罪の捜査
と被疑者の逮捕とを含むことが明かであるのみならず、同法附則第一九条は「他の
法令中警察官に関する規定は、当該警察官及び警察吏員に関する規定とする」とし
ているので、旧刑事訴訟法第二四八条の適用上判示警察署長が犯罪捜査の権限をも
つことは、むしろ当然である。それゆえ、原判決が単に新庄町警察署長としただけ
でその職務権限の内容を具体的に説き示していなくとも、被告人Aに対する贈賄幇
助の事実の判示として何等欠けるところがなく、所論のように理由不備の違法があ
るとは言えない。
 (三) 同論旨第三点は、原判決は被告人Aが賄賂を提供したと判示したが被告
人のどういう行為を以て提供と判断したかを明示していないから、理由不備である、
というのである。なるほど刑法第一九八条には「賄賂ヲ供与シ又ハ其申込若クハ約
束ヲ為シと」あつて、「提供」という言葉が用いられていないが、この規定は昭和
一六年法律第六一号で改正されたもので、改正前の法文には「賄賂ヲ交付、提供又
ハ約束」とあつたのである。そしてこの「提供」というのは利益を現実に収受し得
べき状態に置く場合に限らず、口頭を以て相手方に対し賄賂の収受をうながす意思
を表示する場合を含む、と解釈されていたのであつて、その意味で現行法文の「申
込」は口頭提供に当り、原判決が「提供」と言つたのは被告人が賄賂の申込をした
のを指すこと明白であり、理由不備の論旨は理由がない。
 (四) 同論旨第四点は、原審が刑法第一九七条ノ四を適用して「押収の現金二
万円を没収する」と判決したのは違法である、と非難するのであるが、この論旨は
正当である。刑法第一九七条ノ四は「収受シタル賄賂ハ之ヲ没収ス」というのであ
るが、本件における問題の二万円は相手方によつて収受を拒否されたのであつて、
すなわち「収受シタル賄」ではないのであるから、同条によつて没収し得べきもの
ではないのである。すなわち原判決はこの点において違法であつて、破棄をまぬか
れない。
 (五) 同論旨第五点は、本件公訴事実は被告人Aが金二万円を収受したという
のであるのに、原判決が被告人は金二万円につき贈賄の幇助をしたと判決したのは、
審判の請求を受けなかつた事件につき審判した違法の判決である、と非難する、し
かしながら、所論の公訴事実と原判決の認定事実とは範囲を異にせず、すなわち被
告人B両人が警察署長に贈賄せんとしたその橋渡しが被告人Aだつたという事実は
全然同一なのであるが、Aが公安委員であるため、これを警察がわなる贈賄の相手
方と見ての起訴だつたところ、取調の結果Aが贈賄者がわの幇助者であることが判
明した次第であつて、原判決に公訴の範囲に属しない事実を認定した違法があると
は言い得ず、論旨は理由がない。
 (六) 竹野弁護人の論旨第一点は、前段(五)と結局同趣旨であるから、その
理由のないことについても、前段の説明を援用する。
 (七) 同論旨第二点は、前掲(二)と結局同趣旨であるから、その理由のない
ことについても、その部分の説明を援用する。
 (八) 同論旨第三点は、賄賂の提供は犯罪を構成せず、かつ贈賄の意思が相手
方たる新庄町警察署長に伝達されていないから、被告人Cは罪にならない、という
のである。しかし贈賄の提供が刑法第一九八条ノ四の「賄賂の申込」を含むことは、
前掲(三)に説明した通りであり、そして贈賄の趣旨が被告人Aを経て新庄町警察
署長に伝達されたことは、原審が証拠によつて認定したところであつて、論旨は理
由がない。
 (九) 同論旨第四点は、前掲(四)と同趣旨であつて、その論旨が理由のある
ことは、その部分で説明した通りである。なほ論旨は、押収の二万円につき証拠調
をしなかつたことを違法とするが、それを犯罪認定の資料として証拠に採用する場
合でなければ、押収物について公判廷で証拠調をする必要はないのである。また、
没収が何人に対して命ぜられたのか判文上知り得ない、と非難するが、問題の二万
円が一万円ずつ被告人B兄弟の支出であること、従つて没収が右両名に対して命ぜ
られたものであることは、判文上明白である。(昭和二三年(れ)第一一二号同年
七月一四日最高裁判所大法廷判決参照)
 (一〇) 同論旨第五点は、原判決には採証の法則と経験則とに反したるまたは
理由不備の違法がある、というのである。しし所論は原判決の採用しない被告人ら
の供述または供述記載を基礎として原判決の事実の認定を非難するものであつて、
上告の適法な理由にならず、また原判決が採用した証拠についても、採証法則経験
則違背または理由不備の違法があるとは認められない。
 (一一) 同論旨第六点は、原判決が証拠に供した被告人Aの供述および被告人
Cの供述記載はいずれも判示のごとき趣旨ではない、と言うのであつて、これまた
採証法則違背、経験則違背および理由不備の主張である。しかし、所論の供述なら
びに供述記載はいずれも原判決摘録と同趣旨と解されるのであつて、所論のような
趣旨とは考えられず、論旨は理由がない。
 (一二) 同論旨第七点については、原判決原本の日附が昭和二四年五月一日で
ない場合には撤回する旨の附記があるところ、右の日附は記録によれば、明白に「
五月一〇日」となつているゆえ、論旨は撤回されたものと了解する。
 (一三) 元林弁護人の論旨第一点は、結局「提供」という用語についての議論
であるが、その点はすでに前掲(三)において説明したところであつて、論旨は理
由がない。なお提供という用語は公文書平易化の要求に反するという所論が上告の
理由にならないことは、言うまでもない。
 (一四) 同論旨第二点は、(甲)として、原判決の挙げた証拠によれば本件二
万円が警察への寄附金として提供されたことは認められるが警察署長Fへの賄賂と
して提供されたことは認められ得ない、と言い(乙)として、たとえそれが賄賂と
して認められ得るとしても、提供者は被告人Cのみであり、被告人Dの提供意思は
警察署長に伝達されていなというのである。しかし、本件二万円が寄附金名義で実
は賄賂として提供されたものること、およびその提供者がC同Dの両名であること
は、原判決が証拠によつて認定したところであつて、その認定は採証法則あるいは
経験則に反するものとは考えられず、論旨は理由がない。
 (一五) 以上の各論旨は、(四)および(九)に挙げたものを除いては、すべ
て理由なきものと認めるのであるが、右両段に述べた通り、原審が刑法第一九七条
ノ四を適用して「押収の現金二万円を没収する」と判決したのは違法であつて、論
旨は理由があり、この点において原判決は破毀をまぬかれない。しかし刑法第一九
七条ノ四は同法第一九条を排斥するものではなく、問題の現金二万円は贈賄の「犯
罪行為ヲ組成シタル物」として刑法第一九条により没収せられ得べきものであるか
ら、その処置を執るのを適当と認める
 よつて、旧刑訴法第四四七条により原判決を破毀する。しかし、原判決の違法は
法条の適用に存し、事実の確定に影響を及ぼさないものと認めるから、同法第四四
八条により当裁判所自ら判決することとし、原判決が証拠によつて確定した事実を
法律に照らすに、被告人C、Dの所為は刑法第一九八条第六〇条に、被告人Aの所
為は同法第一九八条第六二条に夫々該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選
択し、被告人Aについては同法第六三条第六八条第三号に則つて従犯による減軽を
し、各々その所定刑期の範囲内において、各々懲役五月に処し、被告人Aに対して
は同法第二五条を適用して三年間右刑の執行を猶予し、押収にかかる現金二万円は
本件賄賂申込罪の組成物件で、犯人以外の者に属しないから同法第一九条第一項第
一号第二項本文に従つて、これを没収し、原審の訴訟費用は旧刑訴法第二三七条第
二三八条を適用して被告人等三名をして連帯して、これを負担させるものとする。
よつて、主文の如く判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年一二月六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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