弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中「当審における未決勾留日数中、六〇日を原判決の本刑に算入
する。」との部分を破棄する。
     原審における未決勾留日数中二日を本刑に算入する。
     その余の部分に対する本件上告を棄却する。
         理    由
 東京高等検察庁検事長Aの上告趣意は、判例違反を主張するけれども、原判決は
論旨引用の判例に相反する判断、すなわち刑の執行と重複する未決勾留日数を本刑
に算入することが違法ではないとの判断を示したものとは解せられないから、所論
判例違反の主張は、前提を欠き、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。
 しかし職権により調査すると、次の事実が記録上明らかである。
 被告人は、本件につき、起訴前である昭和三九年四月八日に勾留状の執行を受け、
同年五月二一日勾留の執行停止により釈放されたが、その期間満了後の昭和四〇年
五月三〇日に収監され、その後一、二審を通じ、引き続き勾留を継続されていたも
のであるが、これよりさき、昭和三九年三月一八日東京地方裁判所で競馬法違反の
罪により懲役四月に処せられ、これが同年七月三〇日に確定した後、昭和四〇年七
月一三日から右刑の執行を受け、同年一一月一二日にその執行を受け終つたもので
ある。そして被告人は、本件第一審の判決に対し、右刑の執行開始後である昭和四
〇年七月一七日に控訴を申し立てたが、原裁判所は、これに対し同年一一月一五日
控訴を棄却するとともに、原審における未決勾留日数中、六〇日を本刑に算入する
旨の判決を言い渡したものである。
 ところで、右のように勾留と刑の執行とが競合している場合、その重複する部分
の未決勾留日数を本刑に算入することが違法であることは、当裁判所の判例(昭和
二九年(あ)第三八九号、同三二年一二月二五日大法廷判決。刑集一一巻一四号三
三七七頁。)の示すところであるから、原審における未決勾留日数のうち被告人の
本刑に算入しうべき限度は、右刑の執行終了の翌日である昭和四〇年一一月一三日
から、原判決言渡の前日である同年一一月一四日までの二日にすぎない。しかるに
原判決が、これを超えて、原審における未決勾留日数中、六〇日を本刑に算入する
旨言い渡したことは、刑法二一条の適用を誤つたものであり、原判決中右の部分は、
刑訴法四一一条一号により破棄を免れない。
 よつて刑訴法四一三条但書により、原判決中「当審における未決勾留日数中、六
〇日を原判決の本刑に算入する。」との部分を破棄し、刑法二一条に則り、原審に
おける未決勾留日数中二日を本刑に算入することにし、原判決その余の部分に対す
る検察官の上告は、上告趣意としてなんらの主張がなく、したがつてその理由がな
いことに帰するから、刑訴法四一四条、三九六条によりこれを棄却すべく、当審に
おける訴訟費用は、同一八一条一項但書により被告人に負担させないことにし、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 平出禾公判出席
  昭和四一年四月二六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    下   村   三   郎

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