弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
     右部分につき被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 一 上告代理人藤井俊彦、同篠原一幸、同根本眞、同石井宏治、同北野節夫、同
麻田正勝、同小林秀和、同美濃谷利光の上告理由一について
 所論は、要するに、所有権の登記のない不動産(不動産の表示の登記のないもの
を含む。)について不動産登記法(以下「法」という。)一〇四条により所有権の
処分制限の登記の嘱託があつた場合には、同条の特殊性から、その嘱託とその嘱託
前にされた不動産の表示の登記(以下「表示登記」という。)の申請又は所有権保
存の登記の申請との間には、目的不動産が同一の場合でも、法四八条の適用される
余地がないというのである。
 しかしながら、法四八条は、同一不動産に関しては、その登記が不動産の表示に
関するものと権利に関するものとを問わず、すべての登記について強行規定として
適用され、したがつて、当該申請(嘱託を含む。)に却下事由の存しない限り、必
ず申請書(嘱託書を含む。)の受付番号の順序に従つて登記をすべきものと解する
のが相当である。原審の判断は、同一不動産に限定しなかつた点において、同条の
解釈を誤つた違法があるものというべきであるが、右違法は判決に影響を及ぼさな
い。論旨は、結局採用することができない。
 二 同二について
 所論は要するに、表示登記のない不動産について、表示登記の申請と同時にされ
る所有権保存の登記の申請は、本来却下されるべきものであり、申請人の便宜を図
る見地からこれを却下せず、表示登記がされたときに所有権保存の登記をすること
とする便宜的取扱いも、法一〇四条による所有権の処分制限の登記の嘱託があつた
場合には許されないので、被上告人の所有権保存の登記の申請は却下を免れず、被
上告人が登記官の行為によつて損害を被つたものとはいえない、というのである。
 原審は、(1) 被上告人は、昭和四七年三月一三日訴外D(以下「D」という。)
から本件建物を買い受けた、(2) 被上告人は、本件建物が未登記であつたため、
同月二四日福岡法務局西新出張所に対し、被上告人所有名義の表示登記及び所有権
保存の登記の各申請を同時にし、前者が同日受付第一二七六三号、後者が同第一二
七六四号として受け付けられた、(3) 被上告人は、本件建物の所有権をDから売
買により取得したにもかかわらず、表示登記の申請に際し、申請人の所有権を証す
る書面として、本件建物の建築主が被上告人である旨の記載のある建築請負人及び
附帯工事人(左官)ら作成の建築工事完了引渡証明書等を提出した、(4) このた
め、登記官は、同月二七、八日頃書類審査を終わつた段階で、実地調査が必要であ
ると判断して処分を保留した、(5) 福岡地方裁判所は、E航業株式会社(以下「
訴外会社」という。)からの所有者(債務者)をDとする本件建物に対する仮差押
命令の申請に基づき、同年四月四日仮差押えの決定をし、同月六日前記出張所にそ
の仮差押えの登記の嘱託をし、右登記嘱託は同日受付第一五四七一号として受け付
けられた、(6) 登記官は、同日職権により嘱託書の記載に従つて本件建物の表示
登記及びDのための所有権保存の登記をしたうえ、訴外会社のために仮差押えの登
記をした、(7) 登記官は、同月二八日いわゆる二重登記となることを理由として
被上告人の表示登記の申請を法四九条二号により却下した、(8) 被上告人の所有
権保存の登記の申請は、登記官の勧告により取り下げられた、との事実を確定した
うえ、法四八条は、権利に関する登記相互の間に限らず、不動産の表示に関する登
記相互の間、更には右各登記相互の間においても、登記申請書又は登記嘱託書の調
査及び登記がいずれも受付番号の順序に従つてされなければならない趣旨を定めた
ものと解されるところ、登記官は、被上告人の各登記申請の受否の決定が保留され
ていることを看過して、右の登記嘱託に基づき、本件建物について表示登記及び所
有権保存の登記をしたうえ仮差押えの登記を実行し、被上告人の各申請につき却下
又は取下を余儀なくさせ、被上告人の本件建物の所有権取得を訴外会社に対抗しえ
なくさせたのであるから、上告人は、被上告人が本件建物の所有権取得につき対抗
要件を具備する機会を喪失したことによつて被つた損害を賠償する義務がある旨判
示している。
 しかしながら、原審の右判断を是認することはできない。その理由は、次のとお
りである。
 所論指摘のように、未登記不動産について、表示登記の申請と同時にされた所有
権保存の登記の申請は本来却下すべきものであり、前記のような便宜的取扱いは法
の予定するものではない。しかし、右の所有権保存の登記の申請を、その前提とし
て同時に申請された同一不動産の表示登記がされた時に受け付けてその処理をする
便宜的取扱いは、これを肯認しても登記事務処理上許容し難い弊害を生ぜしめるも
のではないので、法の絶対的に容認し難いものと解する必要はなく、このことは、
所有権の処分制限の登記の嘱託が併存している場合にも特に別異に解すべき必要は
ない。
 ところで、前記一に説示したところによれば、登記官が、受付番号が前である被
上告人の本件建物の表示登記の申請について先に処理することなく、受付番号が後
である仮差押えの登記の嘱託に基づき表示登記及びDのための所有権保存の登記を
職権でしたうえ仮差押えの登記をしたことについては、右の申請及び嘱託に係る建
物がいずれも同一の本件建物である以上、形式的には法四八条に違背するものであ
るといわざるを得ない。
 しかし、法九三条二項は、建物の表示登記の申請書には申請人の所有権を証する
書面を添付することを要するものとしているところ、前記の事実関係によれば、被
上告人の建物の表示登記の申請書に添付した所有権を証する書面の記載内容は真実
と符合しないものであり、かかる書面を添付してした右申請の欠缺は、即日補正し
得ない性質のものであるから、被上告人の表示登記の申請は法四九条一〇号、八号
により却下を免れなかつたというほかない。
 そして、もし登記官が受付番号の順序に従つて被上告人の表示登記の申請につい
て実地調査等の審査をし、前記のとおりその申請を却下することなくその登記をし
たとしても、その登記完了前の嘱託に係る仮差押えの登記をするときは、目的の建
物が同一であるから、右の被上告人の申請に係る表示登記のされた登記用紙に職権
で嘱託書の記載に従つてDのための所有権保存の登記をしたうえ仮差押えの登記を
し、右登記用紙の表題部に所有者として記載された被上告人の表示を朱抹すること
となるので(法一〇三条参照)、右の登記嘱託後に受け付けられたこととなる被上
告人の所有権保存の登記の申請は、その申請者が法一〇〇条一項各号掲記の者に該
当しないことを理由として却下されることになるのである(法四九条三号、四号参
照)。
 したがつて、被上告人の表示登記の申請は、本来却下を免れないものであり、ま
た、仮に法四八条に従いその申請が先に処理されてその登記がされたとしても、あ
るいは誤つて仮差押えの登記の嘱託に基づく登記が先にされようと、被上告人の所
有権保存の登記の申請が却下を免れないことは同じであるから、登記官が嘱託に係
る仮差押えの登記を先にした点については、形式的に法四八条の違背があるとして
も、結局嘱託に係る仮差押えの登記をしたことには違法はないものというべきであ
り、被上告人の本件建物の所有権取得をもつて訴外会社に対抗しえなくなつたのは、
登記官の違法な行為によるものではないというべきである。
 以上のとおりであるので、被上告人が本件建物の所有権取得をもつて訴外会社に
対抗しえなくなつたことによつて被つた損害につき上告人に損害賠償義務があるも
のと認めた原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法が判決に影響
を及ぼすことは明らかであるから、論旨は結局理由があるものというべく、原判決
中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した前記の事実
関係及び右に説示したところによれば、被上告人の本訴請求は、その余の点につい
て判断するまでもなく失当であり、被上告人の本訴請求を棄却した第一審判決は結
論において相当であるから、前記の部分につき被上告人の控訴を棄却することとす
る。
 三 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条一項、九六条、八九条に
従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    香   川   保   一
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭

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