弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用中補助参加人の参加により生じた部分は補助参加人の負担と
し、その余は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄
却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、「本件買収処分に関する
瑕疵は重大あり、かつ明白であるから、本件買収処分は無効である。」と述べた
外、すべて原判決事実摘示記載(原判決添附目録をふくむ)のとおりであるから、
これを引用する。
 証拠として、被控訴代理人は、甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証、
第四、第五号証の各一ないし三、第六号証(写)、第七号証、第八号証の一、二
(二は写)、第九、第十号証の各一ないし三、第十一号証の一、二、第十二号証を
提出し、原審証人A、Bの各証言、原審並びに当審における原告(被控訴人)本人
尋問の結果を援用し、乙各号証の成立を認め、控訴代理人は、乙第一号証の一ない
し四、第二号証を提出し、原審証人C、D、E、当審証人F、G、Hの各証言を援
用し、甲第二号証の二、三、同第八号証の一の成立は不知、同第六号証及び第八号
証の二の原本の存在並びにその成立、その余の甲各号証の成立を認めると述べた。
 控訴人補助参加人は、「本訴訟事件の買収農地は、参加人の父(亡)Iが訴外A
から被控訴人を通し昭和二十年七月賃借期間は三ケ年以上、賃料は一年玄米九俵
(四斗入)毎年末払の約定で借り受け耕作して来たものである。Iは昭和二十八年
五月三日死亡し、参加人外七名がその相続をした。右土地は、昭和二十二年十月二
日国によつて買収され、Iが国からこれを賃借していた。同人の死亡後は参加人が
これを国から一ケ年の賃料金二千九十円で賃借しているものである。これより先昭
和二十三年四月二十日Iは国に対して本件土地買受の申込をなし、参加人らは右申
込人たる地位を承継した。よつて本件訴訟の結果は参加人に重大な利害関係がある
ので、控訴人を補助するため、本件訴訟に参加する。」と述べた。
         理    由
 控訴人群馬県知事が高崎市a町bc番地のd、田、二反八畝十三歩(以下本件農
地と呼ぶ)につき、登記簿上の所有名義人であるAをその所有者であるとし、本件
農地は自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第一号(いわ
ゆる不在地主の所有する小作地)にあたるものとして、昭和二十二年十月二日附で
買収処分をしたことは、当事者間に争がない。
 被控訴人は、右買収処分には重大かつ明白な瑕疵かあるから無効である、と主張
しているので、本件農地につき買収処分がなされるまでの経過について調べるの
に、成立に争のない甲第七号証、甲第九、第十号証の各一ないし三、乙第一号証の
一ないし四、原本の存在並びにその成立について争のない甲第六号証、原審証人B
の証言、同証言によつて真正に成立したと認める甲第八号証の一、原審証人Dの証
言、及び原審並びに当審における原告(被控訴人)本人尋問の結果を綜合すれば、
高崎市f地区農地委員会においては、昭和二十二年四月中本件農地の買収計画を樹
立するにあたつて、既に本件農地の真実の所有者は被控訴人であることが判明して
いたのであるが、公簿上Aの所有名義になつていたため、これが買収計画を樹立し
たこと。これに対し、被控訴人は、正式に異議の申立をなし、右農地委員会委員B
において調査した結果、同委員は、昭和二十二年八月十八日開催されたf地区農地
委員会において、「本件農地はJ氏(被控訴人)が十六年前にこれを買い受け、当
時約一万円の金を支払い、当時非常に無理があつて、婿(A)によつてこれを登記
し、昭和十六年漸く借金の弁済は済んだが、すでにその時は登記不能であつた。J
は買い受けてから約三年間堤ケ岡の某氏に貸し、一年半自作し、その後I氏に貸し
たものである。」旨の報告をなした(以上乙第一号証の三参照)もので、右農地委
員会は、本件農地の所有権は被控訴人がこれをKから買い受けた時から被控訴人に
属し、被控訴人は買受当時その女婿Aからその代金の一部五千円を借り受け、これ
が返済まで同人の名義にしておいたもので、被控訴人はその後右借受金を返済した
が、農地等管理令の公布により登記ができないでいたことを確認していたこと、さ
らに右昭和二十二年八月十八日の農地委員会の席上、議長は、「Jさん(被控訴
人)の居る所は元f地区になつて居りまして不在地主ではないと思います。」と発
言しており、右農地委員会は、本件農地は自創法第三条第一項第一号にいわゆる不
在地主の所有する小作地にあたらないことを確認していたに拘らず、農地委員会
は、当時群馬県下で一番もめ事が多いということであつたことから、農地委員会と
して本件も何とかして納めたいという考慮から、被控訴人に対し、形式上本件農地
の買収はするが、売渡のとき本件農地を被控訴人に売り渡すことを約束して被控訴
人をしてそのなした異議申立を取り下げしめたこと、かくして本件農地の買収計画
は確定し、これによつて控訴人群馬県知事はAに対し本件農地の買収令書を交付し
ようとしたが、同人はこれが受領を拒絶したため控訴人群馬県知事は、群馬県公報
にその旨を公告して、買収令書の交付に代えたこと、を認めることができる。
 なお高崎市f地区農地委員会が本件農地が被控訴人の所有に属することを確認し
ていたことは、本件農地と同じく登記簿上Aの所有名義になつていた高崎市a字b
e番地畑三畝十二歩につき如何なる理由で買収計画を樹立しないかとの群馬県農地
部長の照会に対する同農地委員会会長Cの回答(前掲甲第六号証)によつても、こ
れを認め得るところである。しかして、前段認定の右農地委員会の確認したところ
と同じく、本件農地が右買収計画樹立当時Aの所有でなく被控訴人の所有に属する
ものと認むべきことは、成立に争のない甲第二号証の一、原審証人Aの証言、同証
言によつて真正に成立したと認める甲第二号証の二、三、原審における原告(被控
訴人)本人尋問の結果によつて明らかなところである。
 しからば、本件農地をAの所有に属するものとし、同人を被買収者として定めた
本件買収計画は、所有者従つて被買収者を誤つた点において違法であつてその瑕疵
は重大であるというべく、固より本件農地は買収計画樹立当時Aの所有名義に登記
されていたのであるから、それだけでは右買収計画を法律上当然に無効であるとい
うことはできないけれども、(最高裁判所昭和二九年一月二二日言渡判決民集八巻
一号一五三<要旨第一>頁参照)本件においては右過誤を買収計画を樹立したf地区
農地委員会において知りながらあえて買収計画を樹立しこれを維持した
のであるから、右瑕疵はひとり重大なばかりでなくまた明白であつたということが
できるのであつて、この点において本件買収計画は法律上当然に無効であるとなす
を相当とすべく、しかして自創法による農地買収手続の如き一連の行政行為にあつ
ては、たとい当該行政行為すなわち買収処分そのものには瑕疵がなくてもこれに先
行する行政行為すなわち買収計画に瑕疵あるときは後行行為は先行行為の瑕疵を承
継するものであるから、(最高裁判所昭和二九年一月二二日言渡判決民集八巻一号
一七二頁参照)本件買収計画そのものが重大かつ明白なる瑕疵を有するため当然無
効である以上、これに基きなされた本件買収処分もまた当然無効であるというべき
である。
 もつとも真実の所有者が、自己の所有農地について誤つて買収処分が行われたこ
とを知り、若しくは知り得べき状態に在つたと認められるにかかわらず、その取消
を求めるため法律上許された異議、訴願又は出訴等一切の不服申立の方法を採らず
期間を徒過したような場合には、その後において訴によりその違法を主張すること
は許されないと解するのが相当であるけれども、(最高裁判所昭和三〇年四月二六
日言渡判決民集九巻五号<要旨第二>五六九頁参照)本件のように買収処分の基くと
ころの買収計画を樹立した農地委員会が買収計画の違法を知り、かつ買
収計画に対してなされた真実の所有者の異議申立を、当該農地をその売渡にあたつ
て真実の所有者に売り渡すべきことを約してこれを取り下げしめたような場合に
は、真実の所有者は、たとい結局において異議申立、訴願、出訴等の不服申立手続
をとらなかつたことになつたとしても、しかもなお後日訴を提起して当該買収処分
の無効を主張しうべきものと解するを相当とする。けだし、このような場合は、処
分行政庁が、自ら処分の違法なることを知りながら、ことさら不服申立の道をふさ
いだ場合と異ならず、このような場合には行政処分の当然無効を認めるのでなけれ
ば、法による行政を担保することはできないこととなるからである。
 従つて本件においては、本件農地の真実の所有者である被控訴人において本件農
地買収処分の無効確認を求める本件請求は許容さるべきものである。よつてこれと
同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきもので
ある。なお控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十四条、第九十五条
を各適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 大江保直 判事 猪俣幸一 判事 古原勇雄)

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