弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、
二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判
決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は左のとおり附加する
ほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
 (控訴人の主張)
 一、 控訴会社は昭三七年一二月一日被控訴会社に対しその主張のような本件代
金の一部二八〇、七三〇円を支払つた事実はないから、これにより債務承認の効果
が発生するはずはない。被控訴会社が右金員を受領したとしても、それは当時控訴
会社の債権者らがAから受けとつた八〇〇万円(Aは控訴会社との間の即決和解調
書により一、〇〇〇万円を支払うことにより控訴会社所有建物を取得した、と称し
ているが、控訴会社はそのことにつき同人と係争中であることは、原審で主張した
とおりである)を勝手に山分けした一部であつて控訴会社の関知しないところであ
る。かような事実をもつて債務の明示または黙示の承認ということはできない。こ
れがもし承認となるのであれば、第三者の一部弁済によつて時効が中断するという
不合理も生ずる。
 二、 控訴会社が昭和三九年五月二〇日本件残代金の支払催告を受けたとの点も
否認する。
 三、 被控訴会社の経営規模が後記被控訴人主張のとおりであることは認める。
 (被控訴人の主張)
 被控訴会社は資本金四、四八〇万円、従業員数二三〇名、いわゆる子会社の従業
員数も七〇名の規模を有し、その業務も高級印刷物の印刷販売を目的とし、その技
術も高度であつて、大阪の印刷業界にその実績を誇る有数の会社である。
 (証拠)
 被控訴代理人は甲第四号証を提出し、控訴代理人は当審での控訴会社代表者B本
人尋問の結果を援用し、右甲号証の成立は認める、と述べた。
         理    由
 一、 次の事実は当事者間に争いがない。
 (一) 被控訴会社は、資本金四、四八〇万円で従業員二三〇名を有し、更に従
業員数七〇名の子会社をもようし、高度な印刷技術を要する高級印刷物の印刷販売
を目的とする大阪の斯界に実績を誇る有数の会社であること。
 控訴会社は旅館業を営むこと。
 (二) 被控訴会社は控訴会社から昭和三七年四月初旬同社経営旅館「白雲閣」
宣伝用パンフレツトの製作注文を受け、代金は月末払いの約定で左記のとおりパン
フレツト合計三〇、三五〇枚、代金合計五六一、四七五円を控訴会社に納入したこ
と。
     (納 入 日)      (数   量)    (代  金)
 (イ) 昭和三七年四月二六日    四、〇〇〇枚    七四、〇〇〇円
 (ロ) 同年五月一日       二四、九五〇枚   四六一、五七五円
 (ハ) 同年同月一九日       一、四〇〇枚    二五、九〇〇円
 二、 控訴人は、被控訴会社の本件代金債権は民法第一七三条第一号所定の「生
産者が売却シタル産物ノ代価」または第二号所定の「製造人ノ仕事ニ関スル債権」
に該当するとして、同条所定の二年間の短期消滅時効を援用するので検討する。
 <要旨>(一) まず第一号に関する控訴人の主張について按ずるに、本号は専ら
生産者、卸売商人、小売商人らのなす類型的な産物、商品取引における売却
代価の迅速決済の必要性に着眼して、特に短期の消滅時効を定めたものと解するこ
とができるから、同号にいわゆる生産者とは必らずしも農業のような一次産業(原
始産業)従事者だけを指すと解したり、経営規模の大小を考慮する必要はない(大
審院昭和一二年六月二九日判決参照。)。しかし、右代価発生の原因は売買契約か
または少くとも重要な部分に売買的要素を含む有償契約であることを要し、他人の
個人的な注文に基いて物を産出するような場合まで包含するものでないと解するの
が、同号の文言に照らし相当である(請負人の工事債権につき民法第一七〇条第二
号に別の規定がある点参照。この限りで、こゝに産物、商品とは主として代替的な
流通商品を指すものということができる)。
 前記当事者間に争いない事実と当審での控訴会社代表者本人尋問の結果によれ
ば、本件旅館白雲閣宣伝用のパンフレットは控訴会社が被控訴会社のセールスマン
の個別的な注文取りに応じて注文したものである点等を考えると、その作成納入に
ついては、単に既成商品を売買する場合とは異なり、その内容、体裁等についても
控訴会社の具体的な注文をきいてこれに当つたと推認するに難くない。これらの事
情を綜合すると、本件契約は売買的要素が全くないとまではいえないとしても、そ
の実質は相当高度の仕事を目的とする請負類似の契約と認めるのが相当である。そ
うすると、本件では被控訴会社をもつて本号にいわゆる生産者ということはできな
い。
 もつとも、本号の趣旨が専ら商取引の迅速決済の必要性のみに存するとすれば、
本件のような取引についても本号のような短期消滅時効を適用することも必らずし
も合理性がないとはいえないけれども、同条第二号、第三号列挙の場合と比較検討
し、また一般に被控訴会社のような経営規模(前記の判示参照)の会社では会計帳
簿も完備し、債権の存在を示す証拠の保全にも欠けるところはないのが通常であ
り、この限りにおいては短期消滅時効を適用すべき意義の少ない点等を考えると、
本件のような場合について強いて本号を適用すべき実質的理由はない。
 (二) 次に、第二号について考えるのに、同号は一般に債権が少額で、それ故
に通常その証拠保全も不十分である場合について特に短期の消滅時効を定めたもの
と認められるから、こゝにいわゆる製造人とは靴屋、建具屋、指物師等専ら手工業
的、家内工業的な小規模経営の製造人を指し、近代工業的な機械設備による製造業
者などはこれを含まないと解すべきである(同号の「居職人」について最判昭和四
〇年七月一五日参照)。前記の通り被控訴会社は資本金四、四八〇万円で、その従
業員数は二三〇名をようし、大阪の印刷業界でも有数の高級印刷会社であるという
のであり、その経営規模やそれによつて容易に推認しうる高度の機械設備の存在等
の点に照らし到底前記第二号所定の「製造人」と認めることはできない。この点に
関する控訴人の主張もまた失当である。
 そうすると、控訴人主張の二年の短期消滅時効の抗弁は爾余の判断をなすまでも
なく理由がない。
 三、 よつて、本件代金五六一、四七五円のうち金二八〇、七四五円とこれに対
する履行期後である昭和三九年一二月四日から支払いずみまで商事法定利率年六分
の割合による遅延損害金の支払いを求める被控訴会社の本訴請求は理由があるから
これを認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は失当として棄
却を免れず、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文
のとおり判決する。
 (裁判長判事 石井末一 判事 竹内貞次 判事 畑郁夫)

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