弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人伊藤静男、同福島啓氏、同井上祥子の上告理由書(一)ないし(三)記載
の上告理由について
 上告人らは、戦傷病者戦没者遺族等援護法(以下「援護法」という。)は、旧軍
人軍属等及びその遺族を適用対象者とし、これらの者に対してのみ援護の措置を講
ずるもので、上告人らのような一般民間人被災者を適用の対象から除外している点
において、憲法一四条、一一条、一三条、一五条及び一七条に違反するとし、援護
法を改正して、一般民間人被災者を同法の適用対象者に含めるか、又は一般民間人
被災者を適用対象者とする援護法と同等の立法をすることが憲法の命ずるところで
あるとの前提に立つて、この立法をしない国会ないし国会議員の立法不作為が国家
賠償法一条一項の適用上違法であると主張している。
 ところで、国会議員は、立法に関し、原則として、国民全体に対する関係で政治
的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うも
のではなく、国会ないし国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)は、立法の内
容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行
うというがごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法
一条一項の適用上、違法の評価を受けるものではないと解すべきものであることは、
当裁判所の判例とするところである(昭和五三年(オ)第一二四〇号同六〇年一一
月二一日第一小法廷判決・民集三九巻七号一五一二頁参照)。
 そこで、この見地に立つて本件をみるに、憲法には前記主張のような立法を積極
的に命ずる明文の規定が存しないばかりでなく、かえつて、上告人らの主張するよ
うな戦争犠牲ないし戦争損害は、国の存亡にかかわる非常事態のもとでは、国民の
ひとしく受忍しなければならなかつたところであつて、これに対する補償は憲法の
全く予想しないところというべきであり、したがつて、右のような戦争犠牲ないし
戦争損害に対しては単に政策的見地からの配慮が考えられるにすぎないもの、すな
わち、その補償のために適宜の立法措置を講ずるか否かの判断は国会の裁量的権限
に委ねられるものと解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかというべ
きである(昭和四〇年(オ)第四一七号同四三年一一月二七日大法廷判決・民集二
二巻一二号二八〇八頁参照)。
 そうすると、上告人らの前記主張にそう立法をしなかつた国会ないし国会議員の
立法不作為につき、これが前示の例外的場合に当たると解すべき余地はないものと
いうべきであるから、結局、右立法不作為は、国家賠償法一条一項の適用上、違法
の評価を受けるものではないというべきである。
 また、上告人らは前記主張にそう法律案を国会に発案しなかつた歴代内閣総理大
臣及び国務大臣の不作為をも違法であると主張し、右主張は歴代内閣の前記法律案
不提出の違法をいう趣旨に解されるところ、立法について固有の権限を有する国会
ないし国会議員の前記立法不作為につき、国家賠償法一条一項の適用上違法性を肯
定することができないものであること前記のとおりである以上、国会に対して法律
案の提出権を有するにとどまる内閣の前記法律案不提出についても、同条項の適用
上違法性を観念する余地のないことは当然というべきである。
 以上のとおりであつて、上告人らの国家賠償法一条一項に基づく請求は、その余
の点につき判断を加えるまでもなく棄却を免れないものというべきであるから、こ
れと同旨の原審の判断は、結論において是認することができる。
 なお、記録に照らすと、その余の請求に係る上告人らの訴えを不適法として却下
した原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
 論旨は、判決の結論に影響を及ぼさない点について原判決を非難するか、又は独
自の見解に基づいてその違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    林       藤 之 輔
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香   川   保   一

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