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平成25年7月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(行ケ)第10244号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年7月4日
判決
原告株式会社安川電機
同訴訟代理人弁護士松尾和子
相良由里子
佐竹勝一
小林正和
同弁理士大塚文昭
倉澤伊知郎
被告日本電産サンキョー株式会社
同訴訟代理人弁護士新保克芳
髙﨑仁
近藤元樹
洞敬
井上彰
酒匂禎裕
同弁理士村瀬一美
佐藤和彦
主文
1特許庁が無効2009-800081号事件につい
て平成24年5月31日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係
る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな
いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,
後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)被告は,平成12年3月23日,発明の名称を「ダブルアーム型ロボット」
とする特許出願(特願2000―82983号)をし,平成19年6月22日,設
定の登録(特許第3973006号。請求項の数11)を受けた(甲23。以下,
この特許を「本件特許」という。)。
(2)原告は,平成20年10月27日,本件特許の請求項1に係る発明について,
特許無効審判を請求したところ,平成21年6月26日,当該発明に係る特許を無
効とする審決がされた(以下「前審決」という。)ため,被告は,審決取消訴訟を
提起したが,知的財産高等裁判所は,平成23年1月25日,請求棄却の判決をし
て,同判決は,その後確定した(甲40。以下「前判決」という。)。
(3)原告は,平成21年4月17日,本件特許の請求項1ないし11に係る発明
について,特許無効審判を請求し,無効2009-800081号事件として係属
した(甲25)。
被告は,平成24年3月22日,訂正請求をした(以下,「本件訂正」といい,
本件訂正に係る明細書(甲23,24)を,図面を含め,「本件明細書」とい
う。)。
(4)特許庁は,平成24年5月31日,本件訂正を認めた上,「本件審判の請求
は,成り立たない。」旨の本件審決をし,同年6月8日,その謄本が原告に送達さ
れた。
2特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項の数は,10になったところ,請求項2な
いし11に記載の発明(以下,請求項2ないし11に係る発明を,請求項の番号に
応じて「本件発明2」ないし「本件発明11」といい,これらを併せて「本件発
明」という。)は,次のとおりである。
【請求項2】ハンド部と,前腕と,上腕と,前記ハンド部と前記前腕を連結するハ
ンド関節部と,前記前腕と前記上腕を連結する肘関節部と,前記上腕の前記肘関節
部とは反対側に設けたアームの基端の関節部と,前記各関節部を連結駆動して回動
させる回転駆動源とを有するとともに,前記ハンド部が一方向を向いて,前記上腕
と前記前腕とを伸ばしきった伸長位置と前記上腕と前記前腕とを折り畳み前記ハン
ドを引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備えたダブルアーム型ロボ
ットにおいて,前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる第1及び第2の支持部
材と,前記第1及び第2の支持部材を上下方向に移動可能に保持するコラムとを含
む移動機構を備え,前記アームは前記アームの基端の関節部が互いに上下に異なる
高さで配置された前記第1及び第2の支持部材にそれぞれ取り付けられると共に,
前記アームの基端の関節部はともに前記第1及び第2の支持部材の間に配置され,
前記アームを前記縮み位置に移動させたときに,当該アームに取り付けられたそれ
ぞれのハンド部が前記アームの基端の関節部の間に位置し,かつ,二組の前記肘関
節部を二組ともに前記ハンド部の移動方向に関して同方向でかつ水平方向側方に突
出させ,前記ハンド部の移動方向に関して前記肘関節部が突出する方向と反対側に
前記移動機構を配置し,前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み
位置の間を移動するものであって,前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前
記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させるものであるダブルアーム型ロ
ボットであって,前記第1及び第2の支持部材は共に前記ハンド部の移動方向と直
交するように前記コラムから側方に突出して前記コラムに保持され,前記ハンド部
は前記移動機構によって前記コラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で上下に移
動可能とされ,前記第1及び第2の支持部材は前記第1の支持部材が上側であると
共に前記第2の支持部材が下側であって前記二組のアームのうちの一方のアームの
基端の関節部は前記第1の支持部材の移動方向下側の面に取り付けられると共に前
記二組のアームのうちの他方のアームの基端の関節部は前記第2の支持部材の移動
方向上側の面に取り付けられて前記二組のアームは前記第1と第2の支持部材の間
に配置され,前記アームを前記縮み位置に移動させたときに前記ハンド部が前記コ
ラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で前記第1の支持部材の移動方向下側の面
に取り付けられた前記アームの基端の関節部と前記第2の支持部材の移動方向上側
の面に取り付けられた前記アームの基端の関節部の間に位置し,前記ハンド部が前
記ワークを載置しての前記伸長位置と前記縮み位置との間の前記移動は前記第1及
び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関し
て直交する方向であり,且つ,前記移動の際に前記ハンド関節部及び前記ワークの
前記ハンド関節部側端部の少なくとも一部が共に前記コラムと前記第1の支持部材
と前記第2の支持部材とで囲まれた空間を通過し,前記縮み位置に移動した前記ワ
ークを前記コラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で前記第1の支持部材の移動
方向下側の面に取り付けられた前記アームの基端の関節部と前記第2の支持部材の
移動方向上側の面に取り付けられた前記アームの基端の関節部との間に位置させる
ものであるダブルアーム型ロボット。
【請求項3】前記二組のアームは,前記支持部材の間に互いに干渉することなく上
下方向に対称に配置されるものである請求項2記載のダブルアーム型ロボット。
【請求項4】前記二組のアームがそれぞれ対面するように配置されることを特徴と
する請求項2または3記載のダブルアーム型ロボット。
【請求項5】前記基端の関節部は前記アームの回転中心となる回転中心軸を備え,
前記二組のアームは前記回転中心軸が同軸方向に重なるように取り付けられたこと
を特徴とする請求項2から4のいずれか1つに記載のダブルアーム型ロボット。
【請求項6】前記基端の関節部は前記アームの回転中心となる回転中心軸を備え,
前記二組のアームの基端の関節部の回転中心軸が同軸に重ならないものである請求
項2から4のいずれか1つに記載のダブルアーム型ロボット。
【請求項7】前記移動機構は旋回機能を有するものである請求項2から6のいずれ
か1つに記載のダブルアーム型ロボット。
【請求項8】前記アーム基端の関節部は前記アームの回転中心となる回転中心軸を
備え,前記アーム基端の関節部におけるアームの回転中心軸は,前記移動機構の旋
回中心軸を中心として旋回可能である請求項7記載のダブルアーム型ロボット。
【請求項9】前記移動機構は回動可能な台座部に設けられており前記台座部の回動
中心である旋回中心軸と平行な軸に沿って前記支持部材を移動可能に保持したこと
を特徴とする請求項7または8に記載のダブルアーム型ロボット。
【請求項10】前記アームの基端の関節部の回転中心軸は,前記移動機構の旋回中
心軸から前記二組のアームの伸縮方向と直交する方向で偏心させ,前記二組のアー
ムの伸縮動作に伴い移動する前記アーム基端の関節部以外の関節部の位置を前記旋
回中心軸に近づけるものである請求項7から9までのいずれか1つに記載のダブル
アーム型ロボット。
【請求項11】前記二組のアームは複数の関節部を有し,水平多関節型ロボットで
あることを特徴とする請求項2から10までのいずれか1つに記載のダブルアーム
型ロボット。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,後記引用例に記載された発明及
び後記周知例1ないし6等に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたものということはできない,というものである。
ア引用例:特開平4-87785号公報(甲1)
イ周知例1:特開平11-208818号公報(甲2)
ウ周知例2:特開平4-85812号公報(甲3)
エ周知例3:特開平6-126663号公報(甲4)
オ周知例4:特開昭55-90290号公報(甲5)
カ周知例5:特開平6-320464号公報(甲6)
キ周知例6:特開平11-333768号公報(甲7)
(2)本件審決が認定した引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)
並びに本件発明2と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明:ハンドと,第2アームと,第1アームと,前記ハンドと前記第2
アームを連結する軸部,軸受と,前記第2アームと前記第1アームを連結する軸,
ボス部と,前記第1アームの前記軸とは反対側に設けた第1アームの基端のボス部,
第1駆動軸と,前記第1駆動軸,ボス部,軸部を連結駆動して回動させる第1モー
タ,第2モータとを有するとともに,前記ハンドが一方向を向いて,前記第1アー
ムと前記第2アームとを伸ばしきった伸長位置と前記第1アームと前記第2アーム
とを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備え
た搬送装置において,前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる搬送チャンバの
上板部材,下板部材と,アーム部及びハンド全体の基端部が昇降する機能を備え,
前記アームは前記第1アームの基端のボス部,第1駆動軸が互いに上下に異なる高
さで搬送チャンバの上板部材,下板部材にそれぞれ取り付けられると共に,前記第
1アームの基端のボス部,第1駆動軸はともに前記搬送チャンバの上板部材,下板
部材の間に配置され,前記アームを前記縮み位置に移動させたときに,当該アーム
に取り付けられたそれぞれのハンドが前記第1アームの基端のボス部,第1駆動軸
の間に位置し,かつ,二組の前記軸,ボス部を水平方向側方に突出させ,前記ハン
ドは基板を載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものである搬送装
置において,前記搬送チャンバの上板部材,下板部材は,上板部材が上側であると
共に下板部材が下側であって,前記二組のアームのうちの一方のアームの基端のボ
ス部,第1駆動軸は前記搬送チャンバの上板部材の下側の面に取り付けられると共
に前記二組のアームのうちの他方のアームの基端のボス部,第1駆動軸は前記搬送
チャンバの下板部材の上側の面に取り付けられて,前記二組のアームは前記搬送チ
ャンバの上板部材,下板部材の間に配置され,前記ハンド部が前記ワークを載置し
ての前記伸長位置と前記縮み位置の間の移動は軸,ボス部突出方向に対し直交する
方向であるものである搬送装置
イ一致点:ハンド部と,前腕と,上腕と,前記ハンド部と前記前腕を連結する
ハンド関節部と,前記前腕と前記上腕を連結する肘関節部と,前記上腕の前記肘関
節部とは反対側に設けたアームの基端の関節部と,前記各関節部を連結駆動して回
動させる回転駆動源とを有するとともに,前記ハンド部が一方向を向いて,前記上
腕と前記前腕とを伸ばしきった伸長位置と前記上腕と前記前腕とを折り畳み前記ハ
ンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備えたダブルアーム型ロ
ボットにおいて,前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる第1及び第2の被取
付部材と,前記アームの上下移動機構を備え,前記アームは前記アームの基端の関
節部が互いに上下に異なる高さで配置された前記第1及び第2の被取付部材にそれ
ぞれ取り付けられると共に,前記アームの基端の関節部はともに前記第1及び第2
の被取付部材の間に配置され,前記アームを前記縮み位置に移動させたときに,当
該アームに取り付けられたそれぞれのハンド部が前記アームの基端の関節部の間に
位置し,かつ,二組の前記肘関節部を水平方向側方に突出させ,前記ハンド部はワ
ークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであるダブルアー
ム型ロボットであって,前記第1及び第2の被取付部材は第1の被取付部材が上側
であると共に第2の被取付部材が下側であって,前記二組のアームのうちの一方の
アームの基端の関節部は前記第1の被取付部材の下側の面に取り付けられると共に
前記二組のアームのうちの他方のアームの基端の関節部は前記第2の被取付部材の
上側の面に取り付けられて,前記二組のアームは前記第1及び第2の被取付部材の
間に配置されるものであるダブルアーム型ロボット
ウ相違点1:
本件発明2は,
(ア)「第1及び第2の支持部材(以下「両支持部材」という。)を上下方向に
移動可能に保持するコラムとを含む移動機構」を有し,二組のアームが両支持部材
の「移動方向」下側,上側の面に取り付けられ,「両支持部材は共にハンド部の移
動方向と直交するようにコラムから側方に突出してコラムに保持され」,「ハンド
部は移動機構によってコラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で上下に移動可能
とされ」ており,すなわち「コラム型」を前提とし(以下,当該構成を,「相違点
1(ア)に係る構成」という。),
(イ)「二組の肘関節部を二組ともに前記ハンド部の移動方向に関して同方向に
突出させ」,「ハンド部の移動方向に関して前記肘関節部が突出する方向と反対側
に移動機構を配置し」,すなわち「肘関節部突出方向」を特定し(以下,当該構成
を,「相違点1(イ)に係る構成」という。),
(ウ)「ハンド部がワークを載置しての伸長位置と縮み位置との間の移動は両支
持部材の移動方向及び支持部材がコラムから伸びる方向に関して直交する方向であ
り」,「移動の際にハンド関節部及びワークのハンド関節部側端部の少なくとも一
部が共にコラムと両支持部材とで囲まれた空間を通過し」,すなわち「伸縮移動経
路」を特定し(以下,当該構成を,「相違点1(ウ)に係る構成」という。),
(エ)「縮み位置に移動したとき」「ワークを前記二組のアームの前記基端の関
節部の間に位置させる」とともに,「ワークをコラムの上下方向の長さと重なる範
囲以内で両アームの基端の関節部との間に位置させ」,「ハンド部がコラムの上下
方向の長さと重なる範囲以内で両アームの基端の関節部の間に位置」する,すなわ
ち,「縮み位置におけるワーク,ハンド部の位置」を特定するものであるが(以下,
当該構成を,「相違点1(エ)に係る構成」という。),
引用発明は,
(ア)二組のアームは「搬送チャンバの上板部材,下板部材」に取り付けられ,
コラムを有さず,上下移動機構が,アーム部及びハンド全体の基端部を昇降する機
能を有するが,アームごとか二組のアームに共通かを含めその詳細は明らかでなく,
(イ)二組の肘関節部が同方向に突出させるか不明であり,
(ウ)伸縮移動経路は肘関節部突出方向に対し直交するものであり,
(エ)縮み位置に移動したときのワークの位置,ハンド部の位置が明らかでない

(3)本件審決が認定した本件発明7と引用発明との相違点は,相違点1のほか,
次のとおりである。
相違点2:本件発明7は,「移動機構は旋回機能を有する」が,引用発明は,そ
のようなものでない点
(4)本件審決が認定した本件発明8と引用発明との相違点は,相違点1及び2の
ほか,次のとおりである。
相違点3:本件発明8は,「アーム基端の関節部は前記アームの回転中心となる
回転中心軸を備え,前記アーム基端の関節部におけるアームの回転中心軸は,前記
移動機構の旋回中心軸を中心として旋回可能である」が,引用発明は,そのような
ものでない点
(5)本件審決が認定した本件発明9と引用発明との相違点は,相違点1及び2の
ほか,次のとおりである。
相違点4:本件発明9は,「移動機構は回動可能な台座部に設けられており前記
台座部の回動中心である旋回中心軸と平行な軸に沿って支持部材を移動可能に保持
した」ものであるが,引用発明は,そのようなものでない点
(6)本件審決が認定した本件発明10と引用発明との相違点は,相違点1及び2
のほか,次のとおりである。
相違点5:本件発明10は,「アームの基端の関節部の回転中心軸は,前記移動
機構の旋回中心軸から前記二組のアームの伸縮方向と直交する方向で偏心させ,前
記二組のアームの伸縮動作に伴い移動する前記アーム基端の関節部以外の関節部の
位置を前記旋回中心軸に近づけるものである移動機構は回動可能な台座部に設けら
れており前記台座部の回動中心である旋回中心軸と平行な軸に沿って支持部材を移
動可能に保持した」ものであるが,引用発明は,そのようなものでない点
4取消事由
本件発明の容易想到性に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1本件発明2の容易想到性に係る判断について
(1)引用発明並びに一致点及び相違点1の認定について
ア引用例の第1図は,設計図面ではないものの,引用例に記載された発明の概
念を示す図面であるから,当該図面から「二組のアームの肘関節がともに同方向に
突出する」構成や「基板が二組のアームの基端のボス部,第1駆動軸の間に位置す
る」構成を読み取ることは可能である。
したがって,引用例には上記各構成が開示されていないとする本件審決の認定は
誤りである。
イ前記アのとおり,本件審決の引用発明の認定が誤りである以上,本件発明2
と引用発明との一致点及び相違点1の認定もまた,誤りである。
(2)相違点1に係る判断について
ア引用例に記載された発明は搬送チャンバに係る発明であって,引用例の第1
図の実施例のように,各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動
可能であるような発明であることを前提とした本件審決の相違点1に係る判断は誤
りである。
イ引用例に記載された発明の基板処理装置自体はクリーンルーム内に設置する
ことも想定されており,引用例には,搬送装置が搬送チャンバ内に設置されること
や搬送チャンバの上板部材及び下板部材にロボットを配設することを必須とする旨
の記載はない。
ロボットの用途は様々であって,360°旋回可能という仕様が常に必要とされ
るものではない。引用例に記載された発明も,チャンバ内のあらゆる位置に任意の
方向に向けて順次移動可能という機能を必須とする発明ではないから,そのような
機能があることを前提に,その機能が失われるからコラム型の移動機構(以下「コ
ラム型」という。)を採用できないとする本件審決の判断は,前提自体が誤りであ
る。
また,搬送チャンバ内の移動機構としてコラム型を採用することは,周知技術に
すぎない。
コラム型においても,旋回機能を採用することによって,あらゆる位置に任意の
方向に向けて順次移動可能とする機能を維持することは可能である。
ウ引用例に記載された発明において,アーム部及びハンド全体の基端部は対向
する面に設けられているところ,設計の容易性や製造費用を考慮するならば,引用
例に記載された発明に接した当業者が,上下のロボットのハンドを互いに重ねるよ
うにして同時に各処理室へ挿入でき,基板の処理室内への出し入れを同時に行って
基板の搬送時間を格段に短縮できる等の利点を有する引用例に記載された発明の構
成をあえて設計変更することは,不自然である。
引用例に記載された発明の特徴は,複数のロボットを上下に相対向して配設する
構成を採用した点にあり,当該構成によって,上下のロボットのハンドを互いに重
ねるようにして同時に処理室へ挿入することが実現されるものであるから,コラム
型を採用する際,引用例に記載された発明の特徴的な構成を変更するのが自然であ
るとはいえない。
引用例に記載された発明にコラム型を採用したからといって,アーム部及びハン
ド全体の基端部を対向する面に設ける構成を採用することに,格別の困難性やこれ
を阻害する事由がない以上,同一側面に設ける構成に変更しなければならない必然
性も存在しない。
エなお,被告は,本件特許の請求項1に係る特許の無効の確定に伴い,訂正に
より請求項1を削除し,その従属項に係る請求項2に係る発明を,独立項として書
き改めたものであり,相違点1は,無効とされた本件特許の請求項1に係る発明に
新たに付加された構成ではなく,請求項1に係る発明が有していた構成に関する相
違点であるところ,本件審決は,前審決及び前判決において既に判断済みの争点で
ある,引用例に記載された発明に移動機構としてコラム型を採用することができる
か否かについてのみ実質的に判断し,前審決及び前判決とは異なり,コラム型を採
用することはできないとした。
しかしながら,本件審決と同一の審判体による前審決及びこれを是認した前判決
の判断は,法的安定性の観点から,原則として尊重されなければならないのであっ
て,これに反する本件審決の判断は誤りである。
(3)以上のとおりであるから,本件発明2は,引用例に記載された発明及び周知
技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
2本件発明3ないし11の容易想到性に係る判断について
前記1のとおり,本件審決の本件発明2に係る判断が誤りであり,引用例に記載
された発明にコラム型を採用することは当業者が容易に想到し得たものである以上,
このような誤った判断を前提とする本件審決の相違点2ないし5に係る判断も,同
様に誤りであるというほかない。
したがって,本件発明3ないし11も,引用例に記載された発明及び周知技術に
基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
〔被告の主張〕
1本件発明2の容易想到性に係る判断について
(1)引用発明並びに一致点及び相違点1の認定について
ア引用例の第1図は,第1アームと第2アームとの重なり部分において,第1
アーム輪郭線が破線になっており,第2アームとハンドとの重なり部分においても
第2アームの輪郭線が破線になっているから,同図は,上から順にハンド,第2ア
ーム及び第1アームが配置されている「一組」のアームの態様を開示しているにす
ぎない。引用例には,「ここで,待機姿勢とは,第1図において符号Rで示すよう
に,ハンドを駆動部側に後退させた状態であり,各アームとハンドによって三角形
が作られるような姿勢のこと」との記載があるから,第1図で全てのアームが破線
となっているRの状態は,単に「待機姿勢」を示したものであって,別組のアーム
を示すものではない。引用例には,基板が二組のアームの基端のボス部,第1駆動
軸の間に位置する点についての記載や示唆はなく,第1図には待機姿勢における基
板載置部や基板は図示されていない。待機姿勢における基板(ワーク)とボス部
(基端の関節部)との位置関係は不明である。
また,引用例の第2図のように,ロボット2台が上下面挟設構造にて設置されて
いる場合,通常は,制御プログラムを含めて同じ機構のロボットが対向して設置さ
れるため,同図の上から俯瞰すると,2つのロボットの肘関節の突出方向は逆にな
る。何ら死角(障害物)がなく,アーム動作の自由が確保されている引用発明にお
いて,制御プログラムを含めたロボットの機構変更を行ってまで,突出方向を同一
とする必要は認められず,引用例にはこれを示唆する記載はない。むしろ,引用例
には,上下のロボットにおけるプログラムデータの互換等のためにはロボットを同
軸上に配置することが必要な条件である旨の記載がある。
さらに,本件発明2は,アームの上下移動機構としてコラムの存在を前提として
おり,コラムと干渉しないように限られたスペースにおける待機姿勢が省スペース
化という課題との関係で問題となるのに対し,引用発明には,コラム自体が存在し
ないから,省スペース化の動機もまた,存在しないし,具体的解決手段であるコラ
ムとハンド,アーム,支持部材との位置関係が記載されているものでもない。
したがって,二組のアームの肘関節がともに同方向に突出する点及び基板が二組
のアームの基端のボス部,第1駆動軸の間に位置する点は,いずれも引用例には記
載されていないというべきであって,本件審決の引用発明の認定に誤りはない。
イ前記アのとおり,本件審決の引用発明の認定が誤りではない以上,本件発明
2と引用発明との一致点及び相違点1の認定もまた,誤りがあるということはでき
ない。
(2)相違点1に係る判断について
ア引用発明は,半導体基板等の基板に対してエッチング等の処理を施す処理装
置における基板の搬送装置に関する発明であり,人体に有害な腐食剤によるエッチ
ング処理のためにはチャンバの存在は不可欠である。実際,引用例の第1図及び第
2図においても,搬送チャンバ,処理チャンバ及び搬入搬出用チャンバが記載され
ている。また,引用例には,発明が解決しようとする課題として,繰り返しチャン
バ特有の問題・課題が挙げられている。
引用発明が搬送チャンバ内における基板搬送装置であることは,引用例の記載か
ら明らかであって,搬送チャンバ内における発明とは限らないとの原告主張は引用
例の具体的記載に反する。
また,引用発明は,搬送チャンバの上板部材及び下板部材にロボットを配設する
ことにより,ハンドを各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動
させることができるという作用効果を奏するものであって,引用発明が死角を有し
ないように構成され,各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動
可能であるように,搬送チャンバの上板部材及び下板部材にロボットを配設するこ
とが必須の構成であることも,明らかである。
イチャンバの存在を不可欠の要件とし,チャンバ内で死角を有しないように,
ハンドを各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能にした引
用発明において,コラム型を採用すると,コラムがアーム動作の障害物となって,
引用発明の課題を解決することができなくなるから,引用発明にコラム型を採用す
る動機付け自体が存在せず,むしろ阻害事由が存在する。
一般論として,搬送チャンバ内の上下移動機構としてコラム型を採用する可能性
までは否定できないが,ロボットアームをクリーンルームの天井と床とに取り付け
るという構成を有する引用発明において,コラム型を採用し,上下移動可能な支持
部材を上下に配置し,さらに近接して対面するようにロボットアームを取り付ける
という本件発明2の構成は,当業者であっても容易に想到できるものではない。
したがって,引用発明にコラム型を採用して相違点1(ア)に係る構成に到達する
ことは容易でないとする本件審決の判断に誤りはない。
ウ原告は,引用発明においてコラム型を採用しても,あらゆる位置に任意の方
向に向けて順次移動可能とする機能を維持できると主張する。しかし,そのような
機能を維持するためには,コラム型の移動機構だけでなく,さらにコラムに旋回機
能を適用することに伴う様々な技術的課題を解決しなければならないから,当業者
が引用発明の特徴であるあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能とする機
能を維持しようとする場合,技術的課題を解決する必要のないテレスコピック型の
移動機構(以下「テレスコピック型」という。)を採用するはずである。
エ引用発明の被取付部材である搬送チャンバの上板部材及び下板部材は,移動
機構を構成するものではないから,上板部材及び下板部材とは別の移動機構として
は,引用発明の特徴を維持するために,テレスコピック型を採用することになる。
仮に,コラム型を採用した場合,本件発明2と同様の構成を実現するためには,二
つの支持部材とコラムとを含む移動機構が必要となるところ,そのような機構とし
て当業者に知られている構成は,周知例1ないし3に記載されている上面載置構造
のものであって,いずれも,「昇降する支持部材」への二組のアームの配置として
は,支持部材の上側面,すなわち同一側面に取り付けて配置するものである。当業
者が,引用発明において周知例1ないし3に記載された構成を採用する場合,二組
のアームを同一側面に設けることになるから,このような構成を採用することをも
って,引用発明の設計変更であるということはできない。
また,引用発明において,肘の出る方向は俯瞰図的には別々であるところ,アー
ムを支持部材の対向面に設けたまま,本件発明2と同様の構成を採用する場合,肘
の出る方向が揃うように,システム構成から変更する必要が生じてしまうが,同一
側面に設けるのであれば,同じロボットをそのまま使用することができ,設計の容
易性や製造費用を考慮しなくてもよい。
オ複数の公知技術が存在していたことをもって,直ちに当業者がその組合せを
容易に行えたと判断することはできず,引用発明と当該技術を適用する示唆や動機
付けが必要であるところ,引用発明は,死角のない動作を行うことを特徴としてお
り,当該特徴を前提としたままコラム型を採用するように変更することは当業者に
は困難である。原告の主張は,本件発明2を知った上での後知恵にすぎない。
したがって,本件審決の相違点1に係る判断に誤りはない。
(3)以上のとおりであるから,本件発明2は,引用発明及び周知技術に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
2本件発明3ないし11の容易想到性に係る判断について
前記1のとおり,本件審決の本件発明2に係る判断に誤りはなく,相違点1と技
術的に一体不可分である相違点2ないし5に係る判断も,同様に誤りがない以上,
本件発明3ないし11も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明を
することができたものということはできない。
なお,前判決の拘束力は,本件訴訟に及ぶものではない。また,本件発明は,訂
正により特許請求の範囲が減縮されており,新たに付加された構成によって技術的
特徴が明瞭になるとともに,格別な作用効果の発揮も確実となっているから,本件
審決と前審決及び前判決における容易想到性の判断が異なることは当然である。
第4当裁判所の判断
1本件発明について
本件発明の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件
明細書(甲23,24)には,おおむね次の記載がある。
(1)発明の属する技術分野
本発明は,ワークの取り出し及び供給を行うダブルアーム型ロボットに関する発
明である(【0001】)。
(2)従来の技術
従来,液晶用のガラス基板や半導体ウェハ等の薄板状のワークをストッカから取
り出したり,ワークをストッカに供給するために,ダブルアーム型ロボットが利用
されている(【0002】)。
このダブルアーム型ロボットによれば,アームによりハンド部がワーク取り出し
・供給方向に移動して,ワークをストッカから取り出したり,ワークをストッカに
供給することができ,一方のアームを供給用,他方を取り出し用とし,ワークの供
給動作と別のワークの取り出し動作とを同時に行うことを可能としている。また,
液晶用のガラス基板等のワークは塵埃を避ける必要があるため,ダブルアーム型ロ
ボットの作業は全てクリーンルーム内で行われる(【0008】)。
(3)発明が解決しようとする課題
従来のダブルアーム型ロボットは,両アームが縮んだ際,両肘関節部が左右対称
に突出して,ロボットの旋回領域が大きくなってしまうという問題点がある。さら
に,2つのハンド部が接触することがないように,コの字型コラムが基台上部の旋
回中心の外側に向かって突出しており,ロボットの旋回半径がさらに大きなものと
なってしまうという問題点や,コの字型コラムの重量が大きく,ロボットが大型化
してしまうという問題点があった(【0009】)。
そのため,他の装置にぶつかることがないように,ロボットの周囲に十分なスペ
ースを設ける必要が生じ,クリーンルーム内の占有スペースの増大化によるコスト
高,レイアウトの自由度低下という支障が生じる。(【0010】)。
近年,液晶用ガラス基板の大型化により,ガラス板の撓みも大きくなり,それに
伴い,ストッカの各段の間隔を大きくする必要が生じるため,ロボットの上下方向
のストロークを大きくする必要がある。
従来のダブルアーム型ロボットでは,アームの縮み動作に伴い,両肘関節部が左
右対称に突出するため,設置スペースを考慮すると,アームの移動機構はアームの
下側に配置する必要があるが,上下移動機構として従来採用されている多段テレス
コピック機構では,上下方向のストロークを大きくするほど複雑大型化するなどの
問題が生じる(【0011】)。
本発明は,旋回半径が小さく,また,装置の大型化・複雑化を伴わない上下移動
機構により構成可能なダブルアーム型ロボットを提供することを目的とする(【0
012】)。
(4)課題を解決するための手段
このような目的を達成するため,本件発明2ないし11は,請求項2ないし11
に各記載の構成を有するものである(【0013】)。
(5)発明の実施の態様
本発明の実施形態としてのダブルアーム型ロボットは,アームが設けられている
支持部材を上下に移動させる移動部材を備え,アームの上下位置を調整可能として
いる。移動機構の台座は回転可能に設けられ,ロボットを旋回して向きを変えられ
るようにしている(【0027】)。
二組のアームは,互いに干渉しないように,上下方向に対面するようにスライダ
に配置されるため,互いに接触することなく,かつ接近させて配置することが可能
となり,従来のように,一方のアームに接触防止用のコの字型コラムを設ける必要
はない。また,アームが縮み位置に移動する際,肘関節部がハンド部の移動方向の
側方に突出する方向を同方向となるようにしているため,従来のように両肘関節部
が左右対称に突出することはない(【0032】【0033】)。
二組のアームをスライダに取り付ける位置を,肩関節部の回転中心が台座の回転
中心の偏心位置で肘関節部と反対側かつワークの取り出し・供給方向と直交する方
向にあるようにオフセットすることにより,ハンド部が縮み位置にある場合におい
ても,台座を回動させる際にダブルアーム型ロボットの周囲に必要となる最小領域
円から肘関節部やハンド部が突出することがないようにしている(【0034】)。
さらに,上下移動機構は,ワークの取り出し・供給方向,すなわちアームの伸縮
方向の側部に位置しており,また,二組のアームを上下対称に重ねて配置し,ハン
ド部が縮み位置に移動する際,肘関節部が突出する方向を同方向としているので,
アームの肘関節部が突出しない側部に上下移動機構を配置することができる(【0
035】)。
本発明のダブルアーム型ロボットは,二組のアームによりハンド部を伸縮させ,
必要に応じて,上下移動機構により上下位置を調整し,また台座の回動により旋回
し,さらに位置を調整して,ワークの供給作業及び取り出し作業を的確かつ効率良
く行うことができるのみならず,ロボットの占有スペースを小さくすることが可能
である(【0036】)。
二組のアームは上下対称に配置されており,基端の肩関節部の回転中心軸が同軸
上に配置され,さらにハンド部が縮み位置に移動する際,肘関節部が突出する方向
が同方向となるようにしているので,従来のように両肘関節部が対称に突出するこ
とはない。したがって,ロボットの旋回半径は従来に比して小さくなり,占有スペ
ースを減らすことができる(【0037】)。
また,二組のアームは,上下対称に配置されており,互いに干渉することがない
ため,一方のアームに重量の大きい従来のコの字型コラムを設ける必要はなく,ロ
ボットの小型化が可能となる(【0038】)。
肩関節部の回転中心と台座の回転中心とをオフセットすることにより,台座を回
動させる際,ロボットの周囲に必要となる最小領域円から肘関節部やハンド部が突
出することがなくなり,ロボットの旋回半径を小さくすることができる(【003
9】)。
スライダをコラムの側面でスライド移動させるように構成しているので,上下移
動方向を大きく設計する必要があった場合でも,多段テレスコピック機構等で上下
移動機構を構成する場合と比較して,機構を複雑化・大型化することなく対応する
ことが可能となる(【0040】)。
(6)発明の効果(【0047】)
ア本件発明2によると,上下移動方向のストロークを大きく設計する必要があ
る場合でも,機構を複雑化・大型化することなく対応可能であり,また,二組のア
ームを上下対称に重ねて配置しているので,上下移動機構をアームの側面に配置し
ても,配置スペースを大きく占めることはない。
また,アームを縮み位置に移動させた際,当該アームに取り付けられたそれぞれ
のハンド部がアームの基端の関節部の間に位置し,かつ,二組の肘関節部をハンド
部の移動方向に関して同方向に突出させているので,アームが縮んだ位置でのワー
クとハンド部と支持部材の回転中心とが同じ領域に重なって配置され,旋回半径を
小さくすることができる。
さらに,本件発明2によると,ハンド部の高さを互いに変えるためのコの字型コ
ラムを設けることは不要であり,その分だけ旋回半径の径方向外側への突出物が減
少し,さらに旋回半径を小さくすることが可能となるし,アームを縮め位置に引き
込んだ際,アームの基端の関節部,すなわち肩関節部の間にハンド部を収容させて
旋回中心近傍にハンド部,ひいてはワークを配置することができるので,旋回半径
の最小化が可能となる。
イ本件発明3及び4によると,二組のアームを互いに接触することなく,かつ,
接近させて配置することが可能となり,ワークの供給動作と別のワークの取り出し
動作とを効率良く行うことができる。
ウ本件発明5によると,二組のアームが互いに干渉することなく,同軸に肩関
節部の回転中心軸を配置することにより,更に旋回半径を小さくすることができる。
エ本件発明6によると,二組のアームの基端の関節部の回転中心軸は,同軸で
なくとも,上下に配置されているだけでその重なり分だけ旋回時におけるアームの
突出量を少なくして旋回半径を小さくし,ロボットの占有スペースを減らすことが
できる。
オ本件発明7によると,移動機構の回転によりアームの向きを変更できるので,
任意の方向にアームを伸縮させることができる。
カ本件発明8によると,移動機構の回転中心に対してアーム基端の関節部の回
転中心軸がオフセットして旋回する状態となるので,アームの伸縮方向の側方に突
出する関節部がロボットの旋回中心軸たる移動機構の回転中心に近づくことにより,
ロボットの旋回半径を小さくすることができる。
キ本件発明9によると,アームが縮んだ位置でのワークとハンド部と支持部材
の回転中心とが同じ領域に重なって配置され,ロボットの旋回半径に関して旋回中
心となる台座部に対して移動機構,ひいてはアーム基端の関節部の回転中心がオフ
セットすることにより,ワークとハンド部の中心と旋回中心とがより接近可能とな
り,ロボットの旋回作動領域を小さくすることができる。
ク本件発明10によると,ロボット全体の旋回中心となる台座部の回転中心あ
るいはその近傍を通ってハンド部を伸縮動作させることができるので,旋回半径を
小さくすることができる。
ケ本件発明11によると,水平多関節型ロボットの小型化,省スペース化を実
現することができる。
2引用例及び周知例について
(1)引用例について
引用例(甲1)には,おおむね次の記載がある。
ア特許請求の範囲
駆動部と該駆動部の一側面に沿って動作するアーム部とよりなるロボットを備え,
前記アーム部の先端に設けられたハンドに基板を載せて移動させる基板搬送装置で
あって,前記一側面が相対向するようにして上下に前記ロボットが配設されている
ことを特徴とする基板搬送装置。
イ産業上の利用分野
本発明は,半導体基板等に対してエッチング等の処理を施す処理装置における基
板の搬送装置に関するものである。
ウ従来の技術及び発明が解決しようとする課題
半導体基板等にエッチング処理を施す装置において,基板を載せるハンドが先端
に設けられたアーム部を有するロボットを有する搬送装置が用いられているところ,
このような搬送装置は,従来,ロボットを1台しか搭載しておらず,基板の搬送に
要する時間が長く,処理装置のスループット(単位時間当たりの基板処理枚数)が
低下するという問題があった。
2台のロボットを並べて搬送装置を構成すると,ロボット相互の干渉により,ス
ループットを向上させることができないのみならず,基板処理装置が横方向に大型
になり,高価なクリーンルームにおいて占める面積が増大する。
エ課題を解決するための手段
本発明の基板搬送装置は,駆動部と該駆動部の一側面に沿って動作するアーム部
とよりなるロボットを備え,アーム部の先端に設けられたハンドに基板を載せて移
動させる基板搬送装置であって,一側面が相対向するようにして上下にロボットが
配設されているものである。
オ作用
本発明の基板処理装置は,各ロボットのそれぞれのアーム部がどの方向に動作し
ても,アーム部,ハンドあるいはハンドに載せた基板が互いに干渉することはなく,
しかも,上下のロボットのハンドを相互に重ねるようにして同時に処理室へ挿入す
ることができる。ロボットは上下に配設するので,設置スペースは少なくとも従来
と同様に小さく維持できる。
カ実施例
本発明の一実施例は,第1図ないし第5図のとおりである。
本発明のロボットは,ハンドが二次元的にしか動作できないものに限られず,例
えば,ハンドがアーム部に対して昇降する機能を有していたり,アーム部及びハン
ド全体が昇降する機能を有していてもよい。
キ発明の効果
本発明によると,基板の搬送時間は従来よりも大幅に低減され,基板処理装置の
スループットを格段に向上することができる。
また,ロボットを上下に配設するので,横方向の大きさは少なくとも従来と同じ
であり,基板処理装置のクリーンルーム内に占める面積が従来よりも大きくならな
いという効果を奏する。
(2)周知例について
ア周知例1(甲2)は,保管庫に関する発明についての文献であるところ,図
2には,コラム型を有する移載機の構成が開示されている。
イ周知例2(甲3)は,半導体製造装置に関する発明についての文献であると
ころ,第3図には,2組の昇降機構が上下に移動するコラム型の構成が開示されて
いる。
ウ周知例3(甲4)は,複腕ロボットに関する発明についての文献であるとこ
ろ,図1には,ボールスクリューを用いて支持部が上下に移動するコラム型を有す
るロボットの構成が開示されている。
エ周知例4(甲5)は,ハンドリング装置に関する発明についての文献である
ところ,第1図には,昇降コラムとキャリッジからなるコラム型を有するシングル
アーム型ロボットの構成が開示されている。
オ周知例5(甲6)は,産業用ロボットのハンド装置及びワーク搬送方法に関
する発明についての文献であるところ,図7には,昇降軸からなるコラム型を有す
る産業用ロボットの構成が開示されている。
3本件発明2の容易想到性に係る判断について
(1)引用発明並びに一致点及び相違点1の認定について
ア原告は,引用例の第1図には,「二組のアームの肘関節がともに同方向に突
出する」構成や「基板が二組のアームの基端のボス部,第1駆動軸の間に位置す
る」構成が開示されていると主張する。
しかしながら,引用例の第1図では,第1アームと第2アームとの重なり部分に
おいて,第1アームの輪郭線が破線とされているから,第1アームの上方に第2ア
ームが存在することを図示しているということができる。同様に,第2アームとハ
ンドとの重なり部分において,第2アームの輪郭線が破線とされており,第2アー
ムの上方にハンドが存在することを図示しているということができるから,同図は,
上から順にハンド,第2アーム,第1アームが配置されている,一組のアームの態
様を図示しているというべきである。
また,引用例には,「待機姿勢とは,第1図において符号Rで示すように,ハン
ドを駆動部側に後退させた状態であり,各アームとハンドによって三角形が作られ
るような姿勢のこと」を意味する旨の記載があるから,第1図で全てのアームが破
線で記載されているRの状態は,待機姿勢を図示したものであって,別組のアーム
を図示するものではないというべきであるから,同図は,二組のアームの肘関節が
ともに同方向に突出する構成が図示されているということはできない。
さらに,引用例には,「基板が二組のアームの基端のボス部,第1駆動軸の間に
位置する」点に係る記載がなく,第1図にも,待機姿勢における基板載置部や基板
は図示されていないから,「基板が二組のアームの基端のボス部,第1駆動軸の間
に位置する」構成が開示されているということはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができず,前記2(1)によれば,引用
例には,前記第2の3(2)アのとおりの引用発明が記載されているということができ
るから,本件審決の引用発明の認定に誤りがあるということはできない。
イ原告は,本件審決の引用発明の認定が誤りであることを前提として,一致点
及び相違点1の認定もまた,誤りであると主張するが,前記アのとおり,原告の主
張はその前提を欠く以上,本件審決の一致点及び相違点1の認定に誤りがあるとい
うことはできない。
(2)相違点1に係る判断について
ア相違点1(ア)に係る構成について
(ア)引用発明は,基板の搬送時間の短縮及び基板処理装置のスループットの向
上並びに基板処理装置のクリーンルーム内に占める面積の減少を目的として,一側
面が相対向するようにして上下にロボットが配設される構成を採用するものである
ところ,引用例には,ハンドが二次元的にしか動作できないものに限らず,「ハン
ドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」
を有してもよい旨が記載されており,しかも,引用例の特許請求の範囲に記載され
た発明特定事項にチャンバは含まれていないから,相対向するロボットに上下移動
機構を採用し,作業範囲を増加させることについて,動機付けが認められる。
また,前記2(2)によれば,本件特許の出願当時,コラム型を有する産業用ロボッ
トは,周知技術であったということができる。
したがって,当業者が,引用例の記載から,実施例において開示された搬送チャ
ンバ内に上下一対に配設されたロボットについて,搬送チャンバとは無関係に,
「ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する
機能」を有する構成を実現するため,アーム部とハンド部とを支持部材を介して上
下移動機構に組み合わせる際に,周知技術であるコラム型の上下移動装置を採用す
ることも,容易に想到し得るものということができる。
(イ)被告は,引用発明は搬送チャンバ内における基板搬送装置を前提とする発
明であり,当然に上板部材及び下板部材が存在しているものであるところ,その作
用効果は,各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能になる
ことであって,コラム型を採用すると,コラムがアーム動作の障害物となって,引
用発明の課題を解決することができなくなるから,引用発明にコラム型を採用する
動機付け自体が存在せず,むしろ阻害事由が存在する,引用発明においてコラム型
を採用し,任意の方向に向けて順次移動可能とする機能を維持するためには,コラ
ムに旋回機能を適用することに伴う様々な技術的課題を解決しなければならないか
ら,当業者は技術的課題を解決する必要のないテレスコピック型の上下移動機構を
採用するはずである,仮にコラム型を採用した場合,本件発明2と同様の構成を実
現するためには,二つの支持部材とコラムとを含む移動機構としては,周知例1な
いし3に記載されている上面載置構造を採用するものである,引用発明において,
肘の出る方向は俯瞰図的には別々であるところ,アームを支持部材の対向面に設け
たまま,本件発明2と同様の構成を採用する場合,肘の出る方向が揃うように,シ
ステム構成から変更する必要が生じるなどと主張する。
しかしながら,引用例の特許請求の範囲に記載された発明特定事項にチャンバは
含まれておらず,チャンバの存在を前提とする「エッチング」についても,従来技
術においてロボットが用いられている工程の例示として指摘されているにすぎない
こと,引用発明の目的は,クリーンルーム内等でのロボットの占有面積を減少させ
る点において本件発明と共通するところ,当該目的自体は,チャンバの有無とは無
関係であることからすると,引用例には搬送チャンバ内における基板搬送装置を前
提とする発明のみが開示されているとする被告の主張は,その前提自体を欠く。ま
た,引用例には,各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能
になることが,引用発明の解決課題として記載されているものではないし,当該機
能を実現するために,当業者が当然にテレスコピック型を採用するとまでいうこと
はできない。
なお,被告は,コラムに旋回機能を適用することに伴う様々な技術的課題の詳細
について具体的に主張しないが,テレスコピック型かコラム型かにかかわらず,旋
回機能を設ける周知技術(甲7~9,19~21)を採用すれば足りるものである。
また,引用発明において,肘の出る方向を揃えるための変更が必要であったとし
ても,そのこと自体が引用発明にコラム型を採用する場合の阻害事由となるとまで
いうことはできない。
したがって,被告の前記主張は,いずれも採用することができない。
イ相違点1(イ)に係る構成ないし相違点1(エ)に係る構成について
本件審決は,相違点1(ア)に係る構成,すなわち引用発明にコラム型を採用する
ことが困難であることを前提として,相違点1(イ)に係る構成ないし相違点1(エ)
に係る構成も,同様に,引用発明及び周知技術から容易とすることはできないとす
るが,前記アのとおり,その前提自体が誤りである以上,本件審決の上記判断を直
ちに是認することはできない。
なお,念のため,以下,上記各構成についても検討する。
(ア)相違点1(イ)に係る構成について
本件発明2及び引用発明のいずれも,二組のアームの突出方向に干渉が生じるこ
とを防止することが共通の課題とされているところ,肘関節部の突出と上下移動機
構との干渉を回避するために,移動機構を,アームと接触しない位置,すなわち,
ハンド部の移動方向に関して肘関節部が突出する方向と反対側に設ける構成を採用
することは,設計事項にすぎないものということができる。
その場合,二組のアーム部の肘関節部が突出する方向も,相互の干渉や上下移動
機構との干渉を防止するために,同方向とすることはむしろ当然であって,肘関節
部が突出する方向を同方向とすることもまた,設計事項というほかない。
したがって,相違点1(イ)に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものという
べきである。
(イ)相違点1(ウ)に係る構成について
相違点1(ウ)に係る構成のうち,「ハンド部がワークを載置しての伸長位置と縮
み位置との間の移動は支持部材がコラムから伸びる方向に関して直交する方向」で
あることは,前記(ア)と同様,設計事項にすぎないものということができる。
また,「ハンド部がワークを載置しての伸長位置と縮み位置との間の移動は両支
持部材の移動方向に関して直交する方向」であることは,移動機構が垂直方向にお
ける移動を前提とする機構であり,ハンド部の伸張方向が水平方向である以上,む
しろ当然である。
さらに,「移動の際にハンド関節部及びワークのハンド関節部側端部の少なくと
も一部が共にコラムと両支持部材とで囲まれた空間を通過」する構成についても,
本件明細書において,当該構成に係る技術的意義が明らかにされているものではな
く,当業者が適宜設計可能な事項ということができる。
(ウ)相違点1(エ)に係る構成について
本件審決は,「ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させ
る」ことは,テレスコピック型においては周知(甲7~12)であるが,コラム型
との関係で特定することは困難であるとする。
しかしながら,二組のアーム部及びハンド部を支持部材を介してコラム型の移動
装置と組み合わせる場合,上下二組のアーム部及びハンド部の配置としては,それ
らの支持部材に対して,上側と上側,下側と下側,上側と下側,下側と上側の4と
おりの配置が想定できるところ,引用例において,上下二組のアーム部及びハンド
部を相対向するように設けることが開示されているから,引用発明において,コラ
ム型を採用する際,上下二組のアーム部及びハンド部をそれらの支持部材に対して
下側と上側に配置することは,当業者が容易に想到し得るものということができる。
当該構成を採用すると,ハンド部がワークを載置して縮み位置に移動した場合,
「ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」構成となるこ
とについて,技術上の格別の困難性を見いだすことはできない。
また,「ワークをコラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で両アームの基端の
関節部との間に位置させ」る構成及び「ハンド部がコラムの上下方向の長さと重な
る範囲以内で両アームの基端の関節部の間に位置」する構成は,相対向する二組の
ロボットを支持部材を介してコラム型の上下移動機構と組み合わせた場合,縮み位
置におけるワーク及びハンド部の位置として,当然に想定される構成にすぎない。
ウ以上のとおり,本件審決の相違点1に係る判断は誤りである。
4本件発明3ないし11の容易想到性に係る判断について
本件審決は,本件発明2が引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明
することができたとはいえない以上,本件発明2に従属し,その発明特定事項を全
て含む本件発明3ないし11も,同様の理由により,当業者が容易に発明をするこ
とができたものということはできないとするが,前記3のとおり,その前提自体が
誤りである以上,本件審決の本件発明3ないし11の容易想到性に係る判断を直ち
に是認することはできない。
5結論
以上の次第であるから,本件審決は取消しを免れないものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官土肥章大
裁判官田中芳樹
裁判官荒井章光

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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