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平成13年(ネ)第1035号商標権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方
裁判所平成10年(ワ)第10438号、平成13年4月19日口頭弁論終結)
        判      決
  控訴人(原告)     宝醤油株式会社
       訴訟代理人弁護士     吉   武   賢   次
       同            神   谷       巌
       補佐人弁理士     小   泉   勝   義
       被控訴人(被告)     寳酒造株式会社
       訴訟代理人弁護士     三   山   峻   司
       同            小   野   昌   延
       補佐人弁理士     樋   口   豊   治
        主      文
      本件控訴を棄却する。
      控訴費用は、控訴人の負担とする。
        事実及び理由
第1 控訴人の求めた判決
 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙第1ないし第3目録記載のラベルを付した容器に
入れた「煮魚お魚つゆ」、「煮物万能だし」、「煮物白だし」を販売してはならな
い。
  3 被控訴人は、控訴人に対し、金2000万円及びこれに対する平成10年
5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 次の2、3のとおり当審における当事者の主張の要点を付加するほか、原判
決の「第二 事案の概要」のとおりである。
 控訴人は、被控訴人が被控訴人の業務に係る商品である「だし」、「つゆ」(被
告商品)に、「タカラ本みりん入り」の表示がある原判決別紙第1ないし第3目録
記載のラベル(被告各標章)を付して販売する行為が、控訴人の有する本件各登録
商標(指定商品を「醤油」、「だしつゆ」等とし、「宝」、「TAKARA」、
「タカラ」等の標章からなる原判決別紙商標公報記載のもの)と類似の商標の使用
に当たり、控訴人の本件各商標権(原判決別紙商標権目録記載一ないし九)を侵害
し、かつ、控訴人の周知の商品表示である本件各登録商標と類似の商品表示を使用
した商品の譲渡に当たり、不正競争防止法2条1項1号に該当すると主張して、商
標権及び不正競争防止法に基づいて、被告商品の販売の差止め並びに損害賠償金及
びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から民法所定の遅延損害金の各支払を求め
た。
 原判決は、被告各標章における「タカラ本みりん入り」の表示部分の表示態様や
被控訴人が被控訴人の業務に係る商品である「本みりん」に使用している「タカラ
本みりん」の商標は、「本みりん」に関するブランドとして、日本国内において著
名である事実等を認定した上で、被告各標章における「タカラ本みりん入り」の表
示部分は、専ら本件の被告商品(「だし」、「つゆ」)に「タカラ本みりん」が原
料ないし素材として入っていることを示す記述的表示であって、商標として自他商
品の識別機能を果たす態様で使用されたものではなく、商標ないし商品表示の使用
に当たらず、また、上記の表示は、原材料を普通に用いられる方法で表示する場合
(商標法26条1項2号)に該当するので、本件各商標権の効力が及ばないと判断
し、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないとして棄却した。
 2 当審における控訴人の主張の要点
 (1) 被告各標章における「タカラ本みりん入り」の表示部分は、専ら商品に
「タカラ本みりん」が原料ないし素材として入っていることを示す記述的表示とは
いえず、商標として自他商品の識別機能を果たす態様で使用されたというべきであ
る。
 (2) 被告各標章中の「タカラ本みりん」の文字の部分は、被控訴人が商品
「本みりん(みりん)」について自他商品の識別機能を果たすことを目的として採
用し、商標登録出願をし、自他商品識別標識としての機能を果たす商標であると認
められて登録されている。そして、被控訴人の「タカラ本みりん」の商標は、被控
訴人の商品「本みりん(みりん)」について使用され、トップシェアを有するほど
になっているものである。
 そして、被控訴人の「タカラ本みりん」の商標は、その構成中の「本みりん」の
文字の部分は、商品の普通名称を表示したもので、自他商品識別標識としての機能
を果たし得ない部分であり、「タカラ」の文字の部分が自他商品識別標識としての
機能を果たす部分である。そして、この「タカラ」の文字の部分は、被控訴人「宝
酒造株式会社」の業務に係る商品である「酒、焼酎、缶チューハイ」等を自他識別
するための商標として使用され、需要者、取引者間に広く知られている「宝」、
「タカラ」、「TaKaRa」の文字よりなる商標と同一の称呼、観念を有するも
のであり、これらと共に被控訴人の業務に係る商品を表示する自他商品識別標識と
しての商標として一般に認識されるというのが相当である。
 (3) 商標には、「出所表示機能」、「品質保証機能」、「広告的機能」があ
るといわれているところであり、被控訴人が被控訴人の商品「本みりん」に使用
し、需要者間に広く知られている商標である「タカラ本みりん」は、「タカラ」の
文字の部分において自他商品識別標識としての機能を有し、「タカラ」の文字の部
分において、「出所表示機能」、「品質保証機能」、「広告的機能」を果たしてい
るというべきものである。
 そして、「出所表示機能」、「品質保証機能」、「広告的機能」を果たしている
被控訴人の商標「タカラ本みりん」に「入り」の文字を結合しても、「タカラ本み
りん」が商標として有していた各機能を喪失することはないといわなければならな
い。すなわち、被告各標章中の「タカラ本みりん入り」の文字の部分は、「タカラ
本みりん」の文字と「入り」の文字とは、明らかに書体、文字の太さが異なり、
「タカラ本みりん」の文字と「入り」の文字とが分離して見られるように構成され
ているものである。そうしてみると、「タカラ」の文字の部分において自他商品識
別標識としての機能を有し、「タカラ」の文字の部分において、「出所表示機
能」、「品質保証機能」、「広告的機能」を果たして需要者間に広く知られた商標
「タカラ本みりん」を表示していると一般に認識されるのが通常である。
(4) 商品「つゆ」、「だし」について、「本みりん入り」、「本みりん使
用」、「本みりん」、「みりん入り」、「みりん使用」、「みりん」の文字は、一
般的な原料ないし素材の表示として使用されているが、「タカラ本みりん入り」又
は「タカラ本みりん」の文字は、一般的な原料ないし素材の表示として使用されて
いないというのが、この種商品の取引における実情である。
被告各標章をみると、その右側に、「原材料/しょうゆ(本醸造)、砂糖、本み
りん、発酵調味料、清酒、酵母エキス」と表記されているように、「つゆ」、「だ
し」における一般的な原料ないし素材の表示は、「本みりん」又は「みりん」であ
る。
 このように、被控訴人自身が一般的な原料ないし素材の表示と明らかに異なる表
示であることを認識し、かつ被控訴人の商標として需要者間に広く知られた商標
「タカラ本みりん」を使用していることを認識しているというべきであり、これに
接する一般需要者も、被告各標章中の「原材料/しょうゆ(本醸造)、砂糖、本み
りん、発酵調味料、清酒、酵母エキス」の表示における一般的な原料ないし素材の
表示としての「本みりん」と「タカラ本みりん」との差異に容易に気付き、「タカ
ラ本みりん」の文字の部分は、被告商品の特徴や長所を説明的に示していると理解
されるということはなく、被告商品の自他商品識別標識としての商標として認識す
るというのが相当である。
(5) 被控訴人は、原審において、「被告は日本における「みりん」のトップ
シェアを有し、「タカラ本みりん」は、「みりん」の中でも消費者の支持を確立し
た優良なイメージを有する商品である。このような優良なイメージを有する「タカ
ラ本みりん」が調味料の原料として使用されていることを「タカラ本みりん入り」
の文字は意味しているにすぎないものである。」旨主張している。
 しかしながら、被控訴人の使用する商標「タカラ本みりん」は、被控訴人の業務
に係る商品を表示する商標として使用され、自他商品識別標識としての商標として
広く知られ、認識されているものである。
 このように使用され、広く認識された商標は、商標の持つ本質的な機能である
「出所表示機能」、「品質保証機能」、「広告的機能」に由来する大きな顧客吸引
力(グッドウィル)を持つといわれているところであり、被告各標章中の「タカラ
本みりん入り」の文字の部分は、「タカラ本みりん」の顧客吸引力を被告商品に利
用する目的で使用しているといわざるを得ず、これに接する需要者は、被控訴人の
広く知られた商標を見て、被控訴人の業務に係る商品を表示し、自他商品を識別す
る商標と認識するというのが相当である。
 3 当審における被控訴人の主張の要点
 (1) 控訴人が控訴の理由として主張する点は、原判決の判示内容を正解せず
に、控訴人の一方的な論理を強弁するにすぎないものであり、失当である。
 (2) 控訴人は、商品「つゆ」、「だし」について、「タカラ本みりん入り」
又は「タカラ本みりん」の文字は、一般的な原料ないし素材の表示として使用され
ていないというのがこの種商品の取引における実情であると主張しているが、本件
における被控訴人の商品の販売状況も取引の実情の一つであって、控訴人の上記の
主張は、何の根拠も持たないものであって、到底首肯することができない。
 (3) 控訴人は、被告各標章中の「タカラ本みりん入り」の文字の部分は、
「タカラ本みりん」の顧客吸引力を被告商品に利用する目的で使用しているといわ
ざるを得ず、これに接する需要者は被控訴人の広く知られた商標を見て、被控訴人
の業務に係る商品を表示し、自他商品を識別する商標と認識するというのが相当で
あると主張しているが、被控訴人が本件の「だし」、「つゆ」の被告商品に、消費
者が優良なイメージを有する「タカラ本みりん」を原料として使用していることを
表示することが、なぜ控訴人が主張するように被告商品の「だし」、「つゆ」の商
標として使用することに結び付くのか不明であり、控訴人の上記主張には論理上の
飛躍がある。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被告各標章中の「タカラ本みりん入り」の表示部分は、専ら被
告商品に「タカラ本みりん」が原材料として入っていることを示すものであって、
被告商品「だし」、「つゆ」について、その出所を表示し、自他商品の識別機能を
果たす態様で使用されておらず、商標ないし商品表示の使用に当たらないから、控
訴人の本訴請求はいずれも理由がないと判断する。
 その理由は、次の2のとおり付加訂正し、また、次の3のとおり控訴人の当審
における主張に即して判断を示すほかは、原判決が「第三 争点に対する判断」で
説示するとおりである。
 2(1) 原判決18頁7行目の「記載されている。」を、「記載され、「原材
料」の表記中に「本みりん」と表示されている。」と訂正する。
  (2) 原判決22頁1、2行目「「タカラ本みりん」の商標は、本みりんに
関するブランドとして、日本国内において著名である。」の次に改行して、下記の
判示を加える。
 「なお、被控訴人は、いずれも指定商品を旧第31類の「調味料、その他本類に
属する商品。但し、しょうゆ、食酢、ウスターソース、ケチャップ、マヨネーズソ
ース、ドレッシング、酢の素、ホワイトソースを除く。」とし、「TAKARA」
の文字からなる商標(昭和45年9月2日商標登録出願、昭和57年12月24日
設定登録、商標登録第1558517号)、「寳」の文字からなる商標(昭和45
年9月2日出願、昭和57年12月24日設定登録、商標登録第1558518
号)「タカラ/宝」の文字からなる商標(昭和56年1月20日出願、昭和63年
7月22日設定登録、商標登録第2066598号)につき登録を得ている(弁論
の全趣旨)。」
  (3) 原判決23頁9、10行目の「「だし」「つゆ」等の調味料にみりん
を入れることはごく自然であると解されること等、」を、「「だし」、「つゆ」の
商品に、その調味料(原材料)として「みりん(本みりん)」を入れることはごく
自然であると解され、被告各標章(ラベル)の右側の「原材料」表記にも「本みり
ん」と明記されていること等、」と訂正する。
3 控訴人は、被控訴人の使用する商標「タカラ本みりん」は、被控訴人の業務
に係る商品を表示する商標として使用され、「出所表示機能」、「品質保証機
能」、「広告的機能」を果たしており、自他商品識別標識としての商標として広く
知られ、認識されているものであり、被告各標章中の「タカラ本みりん入り」の文
字の部分は、「タカラ本みりん」の顧客吸引力を被告商品に利用する目的で使用し
ているといわざるを得ず、これに接する需要者は、被控訴人の広く知られた商標を
見て、被控訴人の業務に係る商品を表示し、自他商品を識別する商標と認識すると
いうのが相当である旨主張している。
しかしながら、原判決が認定するとおり、被控訴人が被控訴人の業務に係る商品
である「本みりん」に使用している「タカラ本みりん」の商標は、「本みりん」商
品に関するブランドとして、日本国内において著名となっていると認められ、控訴
人もこの認定事実を前提として上記の主張をしているものであるところ、この認定
事実に、被控訴人が業として製造、販売している被告商品「だし」、「つゆ」に付
された被告各標章中の「タカラ本みりん入り」の表示部分の表示態様及びこれに接
する一般需要者の通常の認識状況として原判決が詳細に認定する事実を総合すれ
ば、被告各標章中の「タカラ本みりん入り」の表示部分は、専ら被告商品「だ
し」、「つゆ」に「タカラ本みりん」が原材料として入っていることを示すもので
あることは明らかであるというべきである。被控訴人の商標「タカラ本みりん」が
商品「本みりん」につき著名であることから、「タカラ本みりん入り」の表示部分
が被告商品「だし」、「つゆ」について顧客吸引力を有しているとしても、この表
示部分自体は、被告商品「だし」、「つゆ」の原材料として被控訴人の「タカラ本
みりん」が用いられていることを表示する態様のものであり、その原材料に関する
顧客吸引力を利用するにすぎず、それを超えて商品「だし」、「つゆ」について、
その出所を表示し、自他商品の識別機能を果たす態様では使用されておらず、商品
「だし」、「つゆ」に係る商標ないし商品表示には当たらないと解されるのであ
る。
控訴人の上記主張は、被控訴人が使用する「タカラ本みりん」の標章が、本件で
は問題とされていない商品「本みりん」に使用され、該商品「本みりん」について
「出所表示機能」、「品質保証機能」、「広告的機能」を果たす商標として使用さ
れているという事実を根拠として、「だし」、「つゆ」の被告商品についても同じ
く商標として使用されていると主張するものであり、この主張は、「タカラ本みり
ん」の標章が付されている商品が、一方が「本みりん」であり、他方は「だし」、
「つゆ」であり、別個のものであることや、それぞれの商品において、「タカラ本
みりん」の標章が使用されている具体的態様の差異、特に、「だし」、「つゆ」の
被告商品においては、原判決が判示する態様で「タカラ本みりん入り」と表記され
ている点などについて、十分な考察を加えていないものであり、その主張を首肯す
ることはできない。
したがって、控訴人の上記主張は、原判決の上記認定事実を根拠として、被告商
品に付された被告各標章中の「タカラ本みりん入り」の表示は、被告商品に係る商
標ないし商品表示に当たらないとする原判決及び当裁判所の判断を左右するもので
はなく、失当というべきである。
4 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし
て、主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第18民事部
  裁判長裁判官   永   井   紀   昭
           
         裁判官   塩   月   秀   平
         
         裁判官   橋   本   英   史

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