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裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 原告は、「被告が昭和四七年三月二八日、同庁昭和四五年審判第三九三九号事件
についてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被
告は主文第一項同旨の判決を求めた。
第二 請求原因
一、特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和四二年二月一日、別紙(一)の構成からなる商標(以下「本願商
標」という。)につき、指定商品を商標法施行規則第三条別表第一一類電気機械器
具その他本類に属する商品として、商標登録出願したところ、昭和四四年一二月八
日拒絶査定を受けたので、審判を請求した(昭和四五年審判第三九三九号)。特許
庁は、これに対し、昭和四十七年三月二八日「本件審判の請求は成り立たない。」
との審決をし、その謄本は同年五月二二日原告に送達された(出訴期間三月附
加)。
二、審決理由の要点
 本件商標の構成、登録出願年月日および指定商品は、前項掲記のおりである。
 これに対し、別紙(二)の構成からなり、商標法施行規則第三条別表第一一類電
気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するのを除
く。)、電気材料を指定商品とする商標(以下「引用商標」という。)が昭和三八
年七月一二日登録出願され、昭和四一年七月二八日登録されている(登録第七一四
八七六号)。
 そこで、本願商標と引用商標の類否について判断すると、本願商標を構成する
「GENERAL CONTROLS」の文字を全体として称呼するときは「ゼネ
ラルコントロールズ」と冗長にすぎるものである。そして「GENERAL」と
「CONTROLS」との間には二字程の間融があり、両文字が一体となつて一つ
の熟語的な意味を形成するものではなく、これを一連に称呼しなければならない格
別の事情は認められない。したがつて、簡易迅速を旨とする取引の経験則に照らせ
ば、本願商標は、単に「ゼネラル」の称呼をも生ずるものと認めるのが相当であ
る。
 これに対し、引用商標は、その構成上「ゼネラル」の称呼を生ずることが明らか
である。
 してみれば、本願商標と引用商標は、外観および観念の点について論ずるまでも
なく、「ゼネラル」の称呼を共通する類似の商標といわざるを得ない。また、その
指定商品も互に抵触することが明らかである。
 よつて、本願商標は、商標法第四条第一項第一一号に該当するものであつて、登
録することができない。
三、審決を取消すべき事由
(一) 引用商標の構成、指定商品、登録出願および登録年月日が審決認定のとお
りであること、引用商標が「ゼネラル」の称呼を生ずること、本願商標と引用商品
が互に抵触することは認める。しかし、審決は以下に述べる理由により違法である
から、取消されるべきである。
(二) 本願商標の構成のうち「GENERAL」は「一般的な」または「全般的
な」という意味の英語である。そして、米国においては、この語は商品の「多様
性、広範囲性」を示す叙述語として、他の語と一体をなして多数の商標中に広く使
用されており、商品の出所を識別する力をほとんど失つている。
 わが国においても、本願商標の指定商品である商標法施行規則第三条別表第一一
類に属する商品については、引用商標のほか「GENERAL ELECTRI
C」が既に登録されている。また同表の他類においても、同一類中に「ゼネラル」
または「GENERAL」の語を含む商標が多数登録されている。このことから明
らかなように、わが国においても、「ゼネラル」、「GENERAL」の語は商品
の出所を識別する力を失つているといわなければならない。また、「GENERA
L ELECTRIC」、「GENERAL MOTORS」の商標は、わが国に
おいても周知であるが、実際の取引上は「ジー・イー」(G・E)、「ジー・エ
ム」(G・M)と略称され、「ゼネラル」の略称は全く使用されていない。このこ
とは「GENERAL」の語がわが国においても商品を識別する力を失つているこ
とを証明するものである。
 本願商標の構成のうち「CONTROL」は「制御」または「調節」を意味する
技術用語として広く使用されている。特にその複数形である「CONTROLS」
は機械装置を調節する手動機構の意味に用いられる。したがつて、「CONTRO
LS」は特殊的かつ個性的な言葉であり、商品の出所を識別する十分な力を有す
る。
 そして、識別力のないまたはこれの少ない語は、十分な識別力を有する語と一体
となつてはじめて商標としての機能を果すことができ、この場合前者は後者に吸着
されて商標としての単一概念が構成される。また、本願商標の「ゼネラルコントロ
ールズ」という称呼は、他の二語の結合からなる既登録商標と比較し、特に冗長で
あるとはいえない。したがつて、本願商標は「ゼネラルコントローズ」という一連
不可分の称呼だけを生ずる。仮に簡略化されるとしても、識別力の高い「CONT
ROLS」の語で称呼され、識別力のない「GENERAL」の語で称呼されるこ
とはあり得ない。
 したがつて、本願商標は「ゼネラル」という称呼を生ずるとした審決の認定は誤
りである。
(三) 本願商標は、ゼネラル・コントロールズ社(現在の商号 I・T・Tゼネ
ラル・コントロールズ社)がその製造販売する電磁弁その他の電気式自動制御機器
に使用しているものであるが、原告は昭和四三年同社の全株式を取得し、本願商標
に関する権利を譲り受けた。ゼネラル・コントロールズ社は昭和三五年一一月同社
製品のわが国における販売について、サンレー冷熱株式会社との間で独占的販売契
約を締結した。それ以後同会社はわが国においてゼネラル・コントロールズ社の電
磁弁等の製品(ただし、これらは本願商標の指定商品に属しない。)を、本願商標
を附して販売しているが、本願商標は取引上「ゼネコン」と略称され「ゼネラル」
と略称されたことはない。このため、ゼネラル・コントロールズ社の製品と他社の
製品について誤認混同が生じたことはない。
 したがつて、本願商標は「ゼネラル」という称呼を生ずるとした審決の認定はこ
の点においても誤りである。
(四) 仮に本願商標が引用商標に類似する商標であるとしても、本願商標の登録
を拒絶することは、商標法第一条に規定された同法の目的に反する。すなわち、米
国において「GENERAL」の語を有する商標が極めて多数登録され、それらを
附した商品が多数販売されているのに、これら多数の商標をわが国において拒絶す
るとすれば、これらの商標を附した商品をわが国において販売することが不可能と
なる。その結果特定の企業の独占をまねき、健全な自由競争を基礎とする産業の発
達を阻害し、需要者の利益を害する。
 また、工業所有権の保護に関するパリ条約第六条の五A(1)は、「本国で正規
に登録された商標は、この条約で特に規定する場合を除くほか、他の同盟国におい
ても、そのままその登録を認められ、かつ、保護される。」と規定している。これ
は、同一の商品については、同一人に同一の商標を国際的に使用させることを目的
とした規定である。この規定の趣旨に照らせば、米国の取引社会において、「GE
NERAL」の語を有する他の多数の商標と非類似の商標として使用されている本
願商標の登録を拒絶することは許されない。
 したがつて、本願商標の登録を拒絶すべきものとした審決は、特許庁がその権限
を濫用したものである。
第三 被告の答弁
 本件の特許庁における手続の経緯、本願商標の構成、指定商品、登録出願年月
日、審決理由の要点が原告主張のとおりであることは認める。審決は正当であり、
原告主張の違法はない。
第四 証拠(省略)
       理   由
一、本件の特許庁における手続の経緯、本願商標の構成、指定商品、登録出願年月
日、審決理由の要点が原告主張のとおりであること、引用商標の構成、指定商品、
登録出願および登録年月日が審決認定のとおりであること、引用商標が「ゼネラ
ル」の称呼を生ずること、本願商標と引用商標の指定商品が互に抵触することは、
いずれも当事者間に争いがない。
二、そこで、原告主張の審決を取消すべき事由の有無について判断する。「ゼネラ
ル」(GENERAL)という英語は「一般的な」または「全般的な」を意味する
ものとしてわが国において広く知られている。原告は、この語が米国においては商
品の出所を識別する力をほとんど失うほど多く使用されている旨主張するが、この
ような外国の事情は審決を取消すべき事由の有無とは関係がない。そして、わが国
において「ゼネラル」(GENERAL)の語が商品の「多様性、広範囲性」を意
味するものとして広く知られ、その結果商品の出所を識別する力を失つていると認
めるに足りる証拠はない。もつとも、原告主張のとおり、商標法施行規則第三条別
表の同一類中に「ゼネラル」または「GENERAL」の語を含む商標が多数登録
されていることは、被告の明らかに争わないところであるが、このことから直ちに
前記の事実を推認することはできない。また、「GENERAL ELECTRI
C」、「GENERAL MOTORS」の商標がわが国においても周知であり、
取引上は「ジー・イー」(G・E)、「ジー・エム」(G・M)と略称されている
ことは、被告の明らかに争わないとろである。しかし、これらの商標が米国の著名
な巨大企業の商標であることは当裁判所に顕著であるところ、これらの略称がわが
国においてはじめて生じたものであることを認めるに足りる証拠はない。したがつ
て、前記の事実は「ゼネラル」(GENERAL)の語がわが国において商品の出
所を識別する力を失つていると推認する資料とはならない。
 一方、成立に争いのない甲第九号証の一、二、三、第一〇号証の一、二によれ
ば、「CONTROL」の語が「制御」または「調節」を意味する技術用語として
わが国において広く使用されていること、その複数形である「CONTROLS」
が機械又は装置の動作を制御又は調節する手動又は自動の機構を意味することが認
められる。そうだとすると、「CONTROLS」の語は、商品の品質、用途を示
す普通名詞として一般に認識される可能性もないとはいえないから、商品の出所を
識別する力が特に大きいといえない。
 そして、本願商標を「ゼネラルコントロールズ」と一連に称呼するときは、取引
の実際において冗長に過ぎるであろうことは、社会通念に照らし明らかである。
原告は二語の結合からなる他の既登録商標と比較し冗長ではないと主張するが、こ
れらの既登録商標は取引上はいずれか一語によつて略称されることがあり得るから
この比較は無意味である。
 そうだとすると、本願商標を本願の指定商品に使用するときは、他の略称が生ず
る特段の事情が認められない限り、取引の実際においては「コントロールズ」のほ
か「ゼネラル」の称呼をも生ずるものと認めるのが相当である。
三、そこで、本願商標が前記の称呼のほかの略称を生ずるか否かについて判断す
る。成立に争いのない甲第一五、第一六号証、第一七号証の三および五、証人
【A】の証言によれば、次の事実が認められる。
 ゼネラル・コントロールズ社(現在の商号はI・T・T・ゼネラル・コントロー
ルズ)は本願商標を使用して電磁弁その他の自動制御機器を製造販売し、わが国に
もその製品の一部を輸出していた。同社は昭和三五年一一月サンレー冷熱株式会社
との間でいわゆる総代理店契約を締結し、同社の製品がわが国において独占的に輸
入し販売させることを約した。同会社はそれ以後ゼネラル・コントロールズ社の製
品である電磁弁および緊急遮断弁(いずれも自動制御機器)を輸入し、わが国にお
いて本願商標を附して販売している。その販売先は、これらの商品の性質上、ボイ
ラーおよびバーナーの製造業者、ガス製造業者等特定の業者に限られている。そし
て、これらの商品の取引にあたつては、本願商標は「ジー・シー」(G・C)また
は「ゼネコン」と略称され、「ゼネラル」と略称されたことはない。
 以上の事実が認められるところ、前記の電磁弁および緊急遮断弁が本願の指定商
品に属しないことは原告の自認するところである。そして、本願の指定商品である
電気機械器具等の中には、これらの商品とは流通経路、販売先を著しく異にするも
のが含まれることが明らかである。また、前記「ジー・シー」(G・C)または
「ゼネコン」という略称がゼネラル・コントロールズ社の製造販売するその他の電
気機械器具等についてその商標の略称として一般需要者に周知であることを認める
に足りる証拠はない。したがつて、前認定の事実からは、本願商標を本願の指定商
品に使用した場合に、取引上「ジー・シー」(G・C)または「ゼネコン」と略称
され、「ゼネラル」の称呼を生じないと推認することはできない。
 そうだとすると、本願商標は「ゼネラル」との称呼をも生ずるとした審決の認定
は正当であるといわなければならない。
四 以上のとおりであるから、本願商標は引用商標と類似する商標であることが明
らかであり、指定商品が互に抵触することは前叙のとおり当事者間に争いがない。
そうだとすると、本願商標を登録すれば、一般需要者の間に商品の出所の誤認混同
を生じ、競業秩序が乱れ、登録商標の出所表示機能を信頼する一般需要者の利益を
害することが明らかである。したがつて、本願商標の登録を拒絶することが商標法
第一条に規定された同法の目的に合致することはいうまでもない。これが、同法の
目的に反する旨の原告の主張は、同法の目的の誤解に基づくものであつて、到底採
用することができない。
 また、工業所有権の保護に関するパリ条約第六条の五A(1)は、原告主張のと
おり、同一の商品については同一人に同一の商標を国際的に使用させることを目的
とするものである。しかし、同条Bは、前叙のような引用商標がわが国において既
に登録されている場合は、その商標権者の既得権を害しないため、これと類似する
外国登録商標の登録を拒絶することができる旨を定めている。したがつて、同条A
の立法趣旨のみを援用して本願商標の登録を拒絶することは許されないとする原告
の主張は、採用の限りではない。(なお、本願はパリ条約第六条の五Aに基づく出
願ではなく、同条約第二条に基づく出願であることは、弁論の全趣旨により明らか
である。)
 したがつて、審決は特許庁がその権限を濫用したものであるという原告の主張
は、探用できない。
五 以上のとおり審決には原告主張の違法はない。よつて原告の請求は失当である
からこれを棄却し、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法者八九条、第一五八条第二
項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 古関敏正 瀧川叡一 宇野栄一郎)
別紙(一)
別紙(二)
<11835-001>

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