弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人A、同B、同C、同Dに関する部分を破棄する。
     被告人Aを懲役四月に、同Bを懲役三月に、同Cを罰金十万円に、同D
を懲役八月及び判示第二の一の(イ)第二の二につき各罰金五万円、第二の三の
(イ)につき罰金十万円に各処する。
     被告人A、同Dの原審における未決勾留日数の全部を右本刑に算入す
る。
     被告人C、同Dにおいて右罰金を完納することができないときは、いず
れも金千円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
     被告人Dに対し押収にかかるE丸(広島地方検察庁昭和二六年領置第五
九三号)を没収する。
     当審における訴訟費用中国選弁護人本間大吉に支給した分は被告人A
の、原審における訴訟費用中国選弁護人栗原良哉に支給した分の五分の一及び当審
における訴訟費用中国選弁護人椢原隆一に支給した分の二分の一は被告人Bの、原
審における訴訟費用中証人B、F、G(以上昭和二六年一二月三日出廷の分)、
H、I(以上昭和二七年一月二二日出廷の分)に支給した分は被告人Cの、原審に
おける証人Jに支給した分は被告人Dの各負担とする。
     被告人K、同L、同M、同N、同O、同P、同Qの本件各控訴を棄却す
る。当審における訴訟費用中国選弁護人椢原隆一に支給した分の二分の一は被告人
Lの負担とする。
         理    由
 検察官坂本杢次及び被呉人Kの弁護人本間大吉、被告人Lの弁護人椢原隆一、被
告人Mの弁護人馬場照男、被告人Cの弁護人竹内虎治郎、吾野金一郎、被告人N、
同Oの各弁護人伊藤仁、被告人Pの弁護人三浦強一、被告人Qの弁護人鈴木惣三
郎、勝部良吉、被告人Dの弁護人高木尊之の各控訴趣意は、いずれも記録編綴の各
控訴趣意書記載のとおりであるから茲にこれを引用する。
 一、 検察官の控訴趣意第一点(被告人Dに関するE丸不没収の違法)について
 <要旨>関税法第八三条第一項は「第四七条第七五条若ハ第七六条ノ犯罪ニ係ル貨
物、其ノ犯罪行為ノ用ニ供シタル船舶(中略)ニシテ犯人ノ所有又ハ占有ニ
係ルモノハ之ヲ没収ス」と規定している。そして右の没収に関する規定は、所有関
係にかかわらず犯人の占有に係るものについても没収し得ることとしたこと及びそ
の没収はいわゆる必要的没収である点において刑法第一九条の没収規定に対する特
別規定を為すものであり、関税法が右のような特別規定を設けるに至つたのは、関
税の取締の必要上特に船舶の没収はこれを犯則者ないし所有者の手許に保有せしめ
ることが再び犯行を繰り返す虞があり、将来の危険を防止する等の目的で保安処分
の意味においてこれを没収することとしたものと解せられるのであるが、しかしい
かに取締上必要があるからと言つても、他面所有者の権利を保護する必要も十分存
するのであるから、所有関係にかかわりなく犯人の占有に属することだけで没収す
るいわゆる占有没収においては、その犯人の占有が元来所有者の意思に基かないも
のであるとき(例へば所有者が強窃盗によりその所持を奪われたものであるとき)
又は所有者に何等過失の責むべきものがない場合には没収し得ない例外があると解
する。けだし所有者が強窃盗等によりその意思によらないで占有を奪われたものに
ついては、たとえそれが犯罪の用に供されたとしてもこれを没収されるいわれがな
いしまた所有者に何等の過失の責むべきものもないのに没収を科することは、たと
え保安処分の意味があるとしても、没収もまた刑罰の一である以上刑罰法規の解釈
として到底合理的なものとは言い難く、且つかく解すべきことは同条第二項の規定
の趣旨からもこれを窺知するに十分なものがある。そして如何なる場合がこの例外
に属するかは、船舶に関する法令の特殊性を考慮に入れ、各個の事実関係に基いて
これを決すべきである。
 ところで本件は記録によると、所論のE丸は当時Rの所有に係り、被告人Dは右
船主に雇われ同船の船長としてこれを占有中、同船を使用して本件犯行を犯すに至
つたものであることが認められるのであるが、この場合原判決は所論摘示の如く説
明して結局右E丸は没収すべきものではないとしその言渡をしなかつたのであるけ
れども、右は前記関税法第八三条の解釈適用を誤つた違法があるものと認めざるを
得ない。即ち原判決は、被告人Dにおいて前記のように右船主に雇われ同船の船長
としてこれを占有しているうち本件犯行に及んだものであることを認めながら、し
かも右犯行は船主の不知の間に所定の航海区域に違反して本件密航をなしたもので
あつて、船主の全然関知しなかつたところであるのみならず、すでに昭和二五年一
〇月頃E丸の運航につき信頼し難しとして同被告人に下船を求めていたのにかかわ
らず同人はこれに応ぜず密かに本件犯行に及んだものであることが認められるか
ら、船主の善意の立証された本件の如き場合においては、船主の船舶所有権はこれ
を剥奪すべきものではないと判示しているけれども、船主の善意をもつて免責事由
としたことはたやすく同意し難く所有者が同条による没収を免れるがためには、前
記のように強窃盗の如く、犯人の占有が元来所有者の意思に基かないものであつた
こと又は所有者に何等の過失の責めらるべきものも存在しなかつたことが証明され
るのでなければならないのである。然るに所論の被告人Dの大蔵事務官に対する第
一、二回質問調書、同人の副検事に対する第二回供述調書並びに証人Jの原審公判
廷における供述等を綜合考察すると、同被告人は昭和二一年暮頃前記同船の船長と
なり、爾来右船主からこれが運航は勿論同船による運送業務その他船員に対する給
料の支払等まで一切のことを任かされ、あたかも支配人的立場において万事を処理
して来たものであつて、船主も一々これを指図し或は監督等を加えることもなく殆
んど同人に放任していた状況であつたことが認められる。尤も前記証人Jの供述を
記載した公判調書によると、昭和二五年一〇月頃即ち最初の本件犯行の頃E丸が二
ケ月あまり消息を断つたので、船主は遭難したのではないかと心配し捜索願を出そ
うとしたけれどもこれを提出しないうちに同年一二月頃帰港したが、その際船主は
被告人に対し船を降りてくれと申した旨の記載があるけれども、同供述記載による
も右は解雇を申し渡したわけではないというのであつて、その後も同被告人は引続
き船長としてその占有を続け、同船により本件第二、第三の犯行を繰り返すに至つ
たものであり、犯罪防止について必要な処置をとらなかつたことが認められるか
ら、右犯行は船主の何等関知しなかつたところであるとしても、その間船主として
被告人の選任、監督等につき過失の責むべきものがなかつたとは到底認め難い。
(単に右の如く下船を求めただけでは船主として必要な措置ないし注意をつくした
ものとは認められない。)そして被告人の右占有を以て強窃盗の場合と同一視する
ことはもとよりできないから、右は所有者の意思に基かない不法の占有であるとい
うこともできない。従つて本件はさきに説明した没収を免かるべき場合ではないと
いわねばならない。然るに原判決が前記の如く判示して本件E丸を没収しなかつた
のは、前記同条の解釈適用を誤つた違法があるに帰し、右の違反は判決に影響を及
ぼすことが明らかである。論旨は結局理由がある。
 二、 弁護人三浦張一の控訴趣意第一、二点(被告人Pに関するS丸没収の違
法)について
 関税法第八三条第一項の船舶没収の性質及びその没収要件等については、前記一
の検察官の控訴趣意第一点に対する判断において示すとおりである。
 そして本件S丸は、所論のようにTの所有に係り、本件犯行は同船の船長である
被告人Pが右船主の不知の間に同船を使用して犯したものであつて、船主の関知し
なかつたものであることは記録上認め得るところであるけれども、元来同被告人は
前記船主に雇われ船長として適法に右船舶を占有していたものであるから、たとえ
本件密航は所論のように船主の意思に反したものであつたとしても、同人の占有を
以て強窃盗又は使用窃盗の場合と同一に論ずることはもとよりできないのである。
そして記録によるも、同被告人が船長として右船舶を占有中本件犯行を犯すに至つ
たことにつき、その間右船主においてこれが選任監督等について過失の責むべきも
のが全然なかつたとは到底認め難く、且つその証明もないところであるからこれが
没収を受くるもやむを得ないものというべく、これを以て刑罰の社会的妥当性を欠
くものということはできない。
 なお前記占有没収における犯人の占有は、所論のように裁判時においても存しな
ければならないと解すべきであるが、記録によると、本件S丸は右被告人の占有中
犯行の発覚と共に差押処分を受け、右差押処分は原判決の言渡まで持続され、没収
に関する点においてはその間占有関係に移動のないものというべきである。従つて
原判決が前記条項に基きこれが没収を言渡したのは正当であつて、所論のような違
法のかどはない。論旨は理由がない。
 三、 検察官の控訴趣意第二点(被告人B、同Cに対する事実誤認)について
 原判決は、被告人B、同Cに対する本件公訴事実中、無免許輸出幇助の点を認め
ながら同輸入未遂幇助の点については犯罪の証明がないとして無罪を言渡したこと
は所論のとおりである。そして右輸出幇助は、右両名において、K等が沖縄に密輸
出するため使用するものであることを知りながらM所有のU丸の傭船を斡旋し以て
同人等の密輸出を幇助したというのであり、又輸入未遂幇助の点は、前記K等が右
密輸出の複航において沖縄から真鍮屑等を日本に密輸入しょうとしてこれを同船に
積載し、広島県佐伯郡a町沖合まで運んだとき発見せられその目的を遂げなかつた
というのであつて、右輸出と輸入とは所論のように前記被告人等の斡旋にかかるU
丸の一航海における往路と復路の関係に当るものであること及び所論指摘の各証拠
に徴するときは、右輸入未遂の点についても同様その幇助罪を認定し得るところで
あるから、原判決が右輸入未遂幇助の点につき犯罪の証明がないとして無罪を言渡
したのは判決に影響を及ぼすべき事実誤認の違法があるものといわざるを得ない。
論旨は理由がある。
 四、 弁護人椢原隆一の控訴趣意第一、二点(被告人Lに対する事実誤認、法令
適用の誤)について
 しかし、沖縄は関税法上外国と看做されることは、関税法第一〇四条の明定する
ところであり、当時同被告人において沖縄は外国でないと思つていたとしても、右
は結局法の不知に過ぎないのであるから犯意を阻却するものではない。なお所論は
右関税法の規定を以て憲法違反の規定であると主張するけれども、何等憲法に違反
する点を見出し得ない。なお憲法のいかなる条章に違反するというのかその法条等
を明示しないから、これに対する詳細な説明は与えるに由がない。論旨は理由がな
い。
 五、 弁護人竹内虎治郎、同吾野金一郎連名の控訴趣意第一占、(被告人Cに対
する事実誤認)について
 しかし、原判決挙示の証拠を綜合すれば、原判決摘示の犯罪事実を認めることが
できるのであつて、記録を調査するも右の認定に誤があるとは認められない。所論
は要するに原審が採用しなかつた証拠等に基き、原審が適法に採用した証拠の価値
判断を非難するものであつて採用し難い。それ故論旨は理由がない。
 六、 検察官の控訴趣意第三点(被告人A、同Bの前科に関する事実誤認)につ
いて 所論の被告人A、同Bに対する各前科調書(この前科調書は当審において初
めて検察官から提出されたものである)によれば、右被告人等にはそれぞれ所論の
ような前科の存することが認められる。従つて原審が同被告人等には前科はないも
のと認め各その懲役刑につき執行猶予を言渡したのは、判決に影響を及ぼすべき事
実誤認の違法があるものといわざるを得ない。論旨は理由がある。
 七、 弁護人本間大吉の控訴趣意、同椢原隆一の控訴趣意第三点、同馬場照男の
控訴趣意、同伊藤仁の控訴趣意(被告人N、同Oの両名に対する分)同三浦強一の
控訴趣意第三点、同鈴木惣三郎、勝部良吉連名の控訴趣意(以上いずれも量刑不
当)について
 各所論に鑑み、記録を調査して諸般の情状を検討し、所論の諸点を勘案するも、
原判決の科刑はいずれも相当であつて、不当に刑が重過ぎるものとは認められな
い。論旨はいずれも理由がない。以上検察官の被告人D、同B、同C、同Aに対す
る各控訴はいずれもその理由があるから、右被告人四名に対する検察官並びに弁護
人の量刑不当に関する論旨についてはその判断を省略し刑事訴訟法第三九七条によ
り原判決中右被告人四名に関する部分を破棄し同法第四〇〇条但書に従い当審にお
いて左のとおり自判する。又その余の被告人等の各控訴はいずれもその理由がない
から同法第三九六条によりこれを棄却し、なお当審における訴訟費用(被告人Lの
国選弁護人として椢原隆一に支給した分)は同法第一八一条第一項に従い主文のと
おり被告人Lに負担させることとする。
 一、 被告人A、同Dの本件の罪となるべき事実及び証拠の標目は、それぞれ原
判決記載のとおりであるから、茲にこれを引用する。
 二、 被告人B、同Cの本件の罪となるべき事実は
 被告人Bは被告人Kの養子であり、同Cは船舶のブローカーをしているものであ
るところ、右両名はいずれも被告人K等が無免許で関税法上外国である沖縄との間
に貨物の密輸出入をするために使用するものであることを知りながら同人の為、昭
和二五年一二月中旬頃広島市内において被告人M所有のU丸傭船の斡旋を為し、よ
つてK等をして同船を使用して原判決第一の一〇の(イ)及び(ロ)記載の如く貨
物の密輸出及び密輸入未遂の犯行を為すに至らしめ、以て右犯行を容易ならしめて
幇助したものである。右事実の認定証拠の標目は、原判決記載の第一の十及び第二
の事実に対する証拠として掲記されているものと同一であるから茲にこれを引用す
る。
 三、 法令の適用
 ◎被告人Aに対し
 関税法第七六条第一項、刑法第六〇条
 刑法第四五条前段、第四七条、第一〇条
 刑法第二一条
 刑事訴訟法第一八一条第一項
 ◎被告人Bに対し
 関税法第七六条第一項第二項、刑法第六二条、第六三条、第六八条第三号
 刑法第四五条前段、第四七条、第一〇条
 刑事訴訟法第一八一条第一項
 ◎被告人Cに対し
 関税法第七六条第一項第二項、刑法第六二条
 刑法第四五条前段
 刑法第一八条
 刑事訴訟法第一八一条第一項
 ◎被告人Dに対し
 関税法第七六条第一項第二項、刑法第六〇条
 刑法第四五条前段、第四七条、第一〇条
 刑法第一八条、第二一条
 関税法第八三条第一項
 刑事訴訟法第一八一条第一項
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 伏見正保 判事 尾坂貞治 判事 村木友市)

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