弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人辻本幸臣、同松井康浩並びに被告人の上告趣意は末尾添附別紙記載のとお
りである。
 弁護人所論第一点並びに被告人の所論は、原審が病気のため出頭できないとして
所定の診断書を添附して公判期日の変更を求めている私選弁護人佐藤菅人の求めに
応じないで、第一回公判期日を開き、その当日弁護人を国選して先に提出されてい
る控訴趣意書に基いて弁論させ結審したのは被告人の弁護権を奪つたもので憲法三
七条三項に違反するというのである。
 しかし、記録によると原審弁護人佐藤菅人は昭和三〇年八月頃から乳糜病のため
全身衰弱が甚しいというのに漸く原審の第一回公判期日(同年一一月一八日)の三
日前に公判期日の変更申請をしたに止まり(右公判期日の通知は二ケ月余りの余裕
を以て右弁護人になされている。)、添附の診断書によればなお二ケ月の安静加療
を要するものとされている。控訴審において弁護人は控訴趣意書に基いて弁論をす
るものであるが、佐藤弁護人の控訴趣意書には量刑不当の主張があるに止まり、事
実の点については争がないのである。その控訴趣意書には被告人の名誉職就任につ
いての数種の証明書が添附されているが、それについて事実の取調の請求があつた
ものとは解することができない。これらの被告人の地位については既に一審で弁論
の対象とされており、一審で証拠調の請求ができなかつたという何らの疎明もない
ところである。その上被告人は判決言渡期日には出頭しておりながら右の原審第一
回公判期日の手続につき何ら異議を述べることもなく、また佐藤弁護人からも書面
による異議の申立もされなかつたのである。このような事情の下では原審の手続は
違法とはいえず違憲の主張はその前提を欠くものである。
 所論第二点は、右証明書類について事実の取調の請求があつたことを前提として
これを取り調べなかつたことを以て訴訟法違反であると主張する。
 しかし、所論の証明書類については控訴趣意書に添附されているだけてあつて到
底事実の取調の請求があつたものとは解せられないばかりでなく、裁判所に取調の
義務を生ずるために刑訴三九三条、三八二条の二に従つて一定の疎明がなければな
らないのに、何らの疎明もされていないのであるから所論の法令違反は存しない。
 所論第三点並びに被告人の所論は、量刑不当の主張に止まる。その他記録を調べ
ても刑訴第四一一条を適用すべきものとは認められない。よつて同四一四条、三八
六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
  昭和三三年五月六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    垂   水   克   己

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