弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       1 原判決中被上告人に関する部分を破棄する。
       2 被上告人の主位的請求につき本件控訴を棄却する。
       3 被上告人の予備的請求につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
       4 第1,2項についての控訴費用及び上告費用は被上告人の負担
とする。
         理    由
 上告代理人高芝利仁,同亀屋佳世乃の上告受理申立て理由第一点について
 1 原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) Dは,証券会社である上告人(旧商号はA証券株式会社)に所属していた
外務員であり,昭和58年9月から上告人のE支店に勤務していた。被上告人は,
同月,同支店に取引口座を開設し,証券取引を始めた。
 (2) Dは,自己の担当する顧客から預かって個人的に流用していた金銭の返済
に窮し,昭和61年ころ,顧客に対し,「客方」という実際には存在しない上告人
の取引口座の存在をかたって勧誘を行い,金銭の預託を受け,これを個人的に運用
することを思い付いた。
 (3) 被上告人の妻であるFは,昭和61年4月1日ころ,Dから「客方」とい
う上告人の取引口座の利用の勧誘を受けた。Dの説明では,「客方」は通常より有
利な利率で運用される特別な枠で,この口座は限られた顧客のみが利用できるもの
であり,その金利は年7.5%程度であり複利で運用されるというのであった。D
からFに対し,「客方」についてこれ以上の詳しい説明はなかったし,説明資料が
交付されることもなかった。Fは,Dを信用して「客方」口座を利用することとし
,被上告人の出えんの下,Dに対し,同日から平成3年11月1日まで,28回に
わたり合計3110万3990円を「客方」に入金する意思で交付した。また,被
上告人は,Fを通じて,昭和63年3月から平成5年6月ころまでの間に,Dから
,合計956万3355円の返還を受けた。
 (4) 被上告人が上告人との間で行っていた正規の取引では,有価証券等の購入
時に預り証が,取引の翌日に「取引報告書・計算書」が,売買代金精算時に「お取
引明細書」が,それぞれ上告人から被上告人に交付又は送付されていた。また,上
告人は,被上告人に対し,少なくとも年に1回,預かった金銭や有価証券等の残高
を記載した「対客照合通知書」を交付していた。上告人から被上告人に交付された
これらの書類には,「客方」に関する記載が全くなかった。Dは,被上告人からの
「客方」への入金について,被上告人に交付したノートにその取引経過を記載し,
Dの印鑑を押なつする方法で記録に残していた。
 (5) 上告人は,DがFに対し「客方」口座に金銭を預託するよう勧誘していた
ことに気付かないでいたが,平成5年12月に他の顧客から問い合わせがあったこ
とから,Dの不正を発見した。
 2 本件訴訟において,被上告人は,上告人に対し,主位的には,被上告人と上
告人との間に「客方」口座を利用するための預託契約が成立したとして,これに基
づきDへの交付額から既返還額を差し引いた残額の返還を求め,予備的には,使用
者責任に基づく損害賠償を求めている。Dの権限につき,被上告人は,「客方」で
の金銭の預託が,証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの。た
だし,昭和63年法律第75号の施行前にした金銭の交付については同法律による
改正前のもの。)64条1項にいう外務員が証券会社に代わって行う「その有価証
券の売買その他の取引」に当たると主張したのに対し,上告人は,Dの行為は,一
定の利払の約束の下に顧客から消費寄託又は消費貸借として金銭の預託を受ける行
為であり,同項に規定する上記取引に当たらないから,上告人はDのした行為につ
いて契約責任を負うものではないと主張した。
 3 第1審は,被上告人の主位的請求を棄却し,予備的請求を一部認容した。こ
れに対し,原審は,概要次のとおり判断し,第1審判決を変更して,被上告人の主
位的請求を認容した。
 Dは,被上告人に対する「客方」を利用した取引の勧誘に際し,被上告人の預託
する資金は会社が運用するものであり,その口座を利用して会社がどのような商品
を購入するかは任せてもらうとの説明をしており,現にDは預託を受けて「客方」
に入金した金銭で被上告人のため株式を購入した事実もある。これらの事実からす
ると,この取引は,上告人が証券会社として取り扱う株式,投資信託等の各種商品
に対する投資資金を,その投資の対象とする商品の選択を上告人側に一任するとい
う形で上告人に預託するという形態の取引であったと考えられる。そうすると,被
上告人の「客方」口座を利用した取引は,証券会社である上告人の業務の範囲外の
取引であるとすることはできない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 前記事実関係によれば,Dが被上告人に説明した「客方」という取引口座は,上
告人において実際には存在せず,「客方」を利用する顧客の入出金の経過は,上告
人が正規の取引について作成していた書類には全く記載がなく,Dが被上告人に交
付したノートに記載されていたにすぎないし,その口座での取引内容を具体的に確
定するための説明資料や詳しい説明もなかった。Dの説明では,「客方」に入金さ
れた金銭は,上告人が運用するというのであって,商品(有価証券)の売買による
損益が被上告人に帰属するとの説明があったことはうかがわれず,入金された金銭
には複利の金利が付されるというのであり,その説明から「客方」なる取引口座に
おいて被上告人のための証券取引が行われるものと解することは困難である。
 【要旨】このような事情の下においては,Dの説明する「客方」口座の利用は,
原審のいうような形態の取引ではなく,上告人が証券会社として行うことのできる
取引としての実体を何ら有しない架空のものであったというべきであり,前記規定
にいう「その有価証券の売買その他の取引」に当たらない。なお,「客方」に入金
したとされる金銭により株式の買付けがあったとしても,その買付けは,被上告人
からDに交付された金銭について「客方」から出金した処理をした上行われた別個
の取引であるというべきであるから,このことは上記判断を左右するものではない。
 そうすると,被上告人が「客方」への入金のためにDへ交付した金銭につき上告
人が返還義務を負う理由は認められない。これと異なる原審の判断には,判決に影
響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。原判決中被上告人に関する部分は破
棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の主位的請求は
理由がないから,同請求については,被上告人の控訴を棄却すべきである。被上告
人の予備的請求については,更に審理を尽くさせる必要があるから,本件を原審に
差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田
宙靖)

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