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平成23年6月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10004号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年5月10日
判決
原告アイテック阪急阪神株式会社
訴訟代理人弁理士稲岡耕作
川崎実夫
松井宏記
竹原懋
被告特許庁長官
指定代理人豊田純一
野口美代子
田村正明
主文
特許庁が不服2009−14507号事件について平成22年11月3
0日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
主文同旨
第2事案の概要
1原告は,本願商標について商標登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたの
で,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたこ
とから,その取消しを求めた。争点は,引用商標との類否(商標法4条1項11号)
である。
2特許庁における手続の経緯
原告は,平成20年6月12日,下記本願商標につき,商標登録出願(商願20
08−46209号)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判
請求をした。
【本願商標】
・指定役務
第42類
「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機システムの
企画・設計・作成・構築及び保守,インターネットにおけるウェブサイト
の作成又は保守及びこれらに関する助言,電子計算機システムの設計・作
成又は保守に関する指導及び助言,電子計算機用プログラムの提供」
特許庁は,同請求を不服2009−14507号事件として審理した上,平成2
2年11月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄
本は平成22年12月10日,原告に送達された。
3審決の理由
審決の理由の要点は,本願商標と下記引用商標1及び2は類似の商標であって,
指定役務も同一又は類似であるから商標法4条1項11号に該当する,というもの
である。
【引用商標1】(商標登録第3253573号)
・指定役務
第42類
「医療機関の管理・運営のための医療情報の電子計算機による情報処理,
医療機関の管理・運営のための電子計算機システムに関する相談,医療機
関の管理・運営のための電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,
医療機関の建物・設備に関する調査・研究,医療施設に関する建築物の設
計又は建築物内の設備の設計」
・出願平成4年9月29日・登録平成9年1月31日
・商標権者アイテック株式会社
【引用商標2】(商標登録第3253574号)
・指定役務
第42類
「医療施設に関する建築物の設計又は建築物の設備の設計,医療機関の管
理・運営のための電子計算機システムの設計・作成又は保守,医療機関の
管理・運営のための電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医療
機関の管理・運営のための医療情報の電子計算機による処理,医療機関の
管理・運営のための電子計算機システムの設計・作成又は保守に関する助
言」
・出願平成4年9月29日・登録平成9年1月31日
・商標権者アイテック株式会社
第3原告主張の審決取消事由(商標法4条1項11号の解釈適用の違法性)
1本願商標並びに引用商標1及び2の構成
本願商標の構成は,やや右側に傾斜し,二重線で表した「i−TEC」の文字と,
この文字の右斜め上から右横にかけて欧文字「h」を2つ重ねたような図形(以下
「図形」という。)を青色で表し,この「図形」の右横に横書きされた「アイテッ
ク阪急阪神」とそれよりやや小さく横書きされた「株式会社」の文字を黒色で表し
てなるものである。
引用商標1は,黒色で「アイテック株式会社」の文字を横書きしてなるものであ
り,引用商標2は,黒色で「ITEC」の文字を横書きしてなるものである。
2結合商標の類否判断の基準
本願商標のように,複数の構成部分からなる結合商標の類否判断について,最高
裁平成20年9月8日第二小法廷判決(裁判集民事228号561頁・つつみのお
ひなっこや事件)が,「法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商
品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者
に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏
まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標
と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の
商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者
に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めら
れる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認
められる場合などを除き,許されないというべきである。」という基準を示してい
ることからすると,結合商標の一部を分離抽出して把握することは,「その部分が
強く支配的な印象を与えると認められる場合」や「それ以外の部分から出所標識と
しての称呼,観念が生じないと認められる場合」などのような例外的な場合に限ら
れるべきである。
しかるに,審決は,①本願商標中の「i−TEC」の文字及び「図形」と,「ア
イテック阪急阪神」及び「株式会社」の文字部分とは,色が異なることから,視覚
上分離されて看取される,②「i−TEC」の文字と「図形」とは大きさが異なる
ことからして,視覚上分離して看取される,③本願商標の各部分は,全体として特
定の意味合いを看取される等,これらを常に一体不可分のものとして看取しなけれ
ばならない特段の事情は認められない,④青色の「i−TEC」の文字及び「図形」
についても,「図形」が「i−TEC」の文字をモチーフにしたもの等とは認めら
れないことから,これらが互いに関連があるとはいえず,「i−TEC」の文字と
「図形」とを常に不可分一体のものとして捉えなければならない特段の事情は見出
せない,として,本願商標から「i−TEC」のみを分離抽出し,引用商標1及び
2と対比したもので,誤りである。
3本願商標の分離観察の可否及び外観・称呼・観念等
(1)本願商標の外観的特徴及び称呼について
「i−TEC」の文字は,青色で表されているものの,その大きさからして突出
した印象を看者に与えるものではない。本願商標の中でひときわ目を惹くのは「i
−TEC」の文字のすぐ右横にそれと同じ青色でまとまりよく表された「図形」と,
それらよりも濃い黒色で大きく表された「アイテック阪急阪神」の文字部分又は「ア
イテック阪急阪神株式会社」の文字である。よって,需要者や取引者は,まず,こ
の黒く大きく目立つ態様で書かれ,かつ,日本語で一番読みやすい「アイテック阪
急阪神」の文字部分又は「アイテック阪急阪神株式会社」の文字をもって「アイテ
ックハンキュウハンシン」又は「アイテックハンキュウハンシンカブシキガイシャ」
と称呼するものである。それより小さく「アイテック阪急阪神」の文字部分等と「図
形」に添えられるように表された「i−TEC」の文字は,「アイテック阪急阪神」
の文字部分等や「図形」に従属するものとして需要者等に捉えられる。「i−TE
C」の文字のみに着目すれば,構成文字に相応して「アイテック」と読まれること
はあり得るかもしれないが,本願商標はあくまでそれ以外の外観上顕著な構成部分
を有する商標なのであり,これらの他の部分を念頭におくことなく需要者等が本願
商標を捉えることはないものである。換言すれば,需要者や取引者が本願商標に接
したとき,この「アイテック阪急阪神」の文字部分等や「図形」に気付かず「i−
TEC」の文字だけに着目することはありえない。
(2)本願商標の観念について
「アイテック阪急阪神株式会社」の文字を構成する「阪急阪神」の語は,阪急阪
神ホールディングス株式会社及びこれを中心とする関西の巨大な私鉄系企業グルー
プ(阪急阪神グループ)を指し示す表示として著名であるという取引界の実情があ
る。また,「アイテック」なる言葉は一般の辞書に見当たらない造語であり,「株
式会社」は会社の組織形態を表す語であることから,本願商標の「アイテック阪急
阪神株式会社」の部分から「阪急阪神グループに属する「アイテック阪急阪神(株
式会社)」という名称の会社」という観念又はイメージが生じる。
「図形」は,一見して何を表したのかは理解できず,そこから何ら具体的な称呼
・観念は生じないものの,それが「阪急阪神」のイニシャルに由来する2つの「h」
の文字をモチーフにしたと無理なく理解されること,世上一般に,会社名とそのシ
ンボルマークとを組み合わせて表すことが広く行われていることから,この「図形」
は原告「アイテック阪急阪神株式会社」のシンボルマークを表したものと需要者,
取引者に無理なく受け止められる。
「i−TEC」部分は,原告による造語からなるものであり,具体的な観念は有
しない。
(3)小括
以上からすると,本願商標は,著名な阪急阪神グループに属する原告の社名「ア
イテック阪急阪神株式会社」とそのシンボルマーク(アイテックの称呼を生じ社名
との関連性が見て取れる「i−TEC」の文字と阪急阪神のイニシャル「hh」を
モチーフにし社名との関連性が看取される「図形」)とを一体的に表したものとし
て需要者等に受け止められると考えるのが自然であり,常に,その一体的な記憶,
印象,連想等のもとで需要者等に捉えられるところである。このように,本願商標
について,その構成中の一部分を取り出して分離観察することを正当化するような
事情を見出すことはできず,その構成部分全体を対比すべきである。
4引用商標1及び2の外観・称呼・観念等
引用商標1は,黒色で「アイテック株式会社」の文字を横書きしてなるものであ
り,その構成に相応して,「アイテックカブシキガイシャ」と称呼される。また,
引用商標1は,「株式会社」部分が法人の組織形態を示す自他識別力の弱い部分で
あることから省略され,「アイテック」と略称され得るところ,「アイテック」な
る言葉は一般の辞書に見当たらない造語である。したがって引用商標1からは具体
的な観念は生じず,「アイテックなる(株式)会社」といった総合的な印象で需要
者等に捉えられる。
引用商標2は,黒色で「ITEC」の文字を横書きしてなるものであり,その構
成に相応して,「アイテック」又は「イテック」と称呼される。「ITEC」なる
言葉は一般の辞書に見当たらない造語であり,引用商標2からは具体的な観念は生
じない。
5本願商標と引用商標1及び2との対比
本願商標は,外観上一体的に捉えられるべきものであるから,外観から明らかに
引用商標1及び2と区別することができる。また,本願商標は,全体として,著名
な阪急阪神グループに属する原告の社名とそれと密接に関連するシンボルマークと
をまとまりよく表したものとして需要者等に一体的に受け止められるものであり,
阪急阪神グループとのつながりが見て取れない引用商標1及び2とは,需要者等に
与える印象,記憶,連想等は全く異なる。したがって,本願商標に接する需要者等
は,本願商標が使用された役務の出所と引用商標1及び2が使用された役務の出所
とを明確に区別する。
6本願商標の周知性と出所混同のおそれの欠如
(1)本願商標の周知性
知財高裁平成17年4月19日判決(平成17年(行ケ)第10103号・BA
LMAIN事件)等の判決においては,出願商標が周知である等の特段の事情によ
って出所の混同が生じるおそれがない場合には,類似性を否定すべきとされている。
本願商標には,原告の商号が含まれるところ,原告は,昭和62年の設立から約
23年もの長きにわたり,コンピュータプログラムの設計・作成又は保守,コンピ
ュータプログラムの提供等を主たる業務とし営業を行ってきている。また,原告は,
平成19年10月に,商号を「アイテック阪神株式会社」から「アイテック阪急阪
神株式会社」に変更したが,その前後である平成16年度から平成21年度までの
売上は,年間約123億円ないし約189億円である。加えて,原告は,広告宣伝
として,コンピュータプログラムの設計・作成又は保守等に関する,パンフレット
の配布,各種展示会への出展,ホームページの公開等を行い,平成20年度及び平
成21年度にはそれぞれ8000万円以上の広告費を支出した。さらに,原告のホ
ームページには,平成22年に15万件以上(1日当たり400件以上)の閲覧数
がある。このホームページにも,本願商標から「株式会社」のみを省略した商標が
使用されており,原告の商号の要部である「アイテック阪急阪神」の知名度は高ま
っている。このほかにも,原告の業務活動は,阪急阪神グループの数社が原告に統
合され「アイテック阪急阪神株式会社」へ社名を変更したことを伝える平成19年
7月の新聞報道に加えて,各種新聞,雑誌,コンピュータプログラムシステム関連
の他社ホームページ等において採り上げられている。
本願商標の需要者層は,企業のシステム担当者や役員等の,コンピュータプログ
ラムによるシステム管理や各社製品に関してある程度の知識がある,比較的限られ
た範囲のビジネスパーソンである。このことと,上記の原告の売上実績,広告費,
広告宣伝の態様,各種メディアにおける掲載実績等を勘案すると,原告の商号は,
審決日である平成22年11月30日までには需要者等の間で相当程度周知になっ
ていた。
(2)従前も出所混同がなかったこと
引用商標1及び2の商標権者であるアイテック株式会社は,昭和56年に設立さ
れ,総合医療経営コンサルティングを主たる業務とし,その一環として病院用に特
化した管理運営システムを提供しており,平成16年度から平成20年度の売上は
年間約11億円から約20億円である。
また,平成4年のいわゆるサービスマーク登録制度導入時に,原告(当時の商号
「アイテック阪神株式会社」)の有する下記商標(商標登録第3334183号)
と,引用商標1及び2との重複登録が認められた。
このように,長年にわたり両社が大々的に営業し,下記商標と引用商標1及び2
を並行使用してきているのにもかかわらず,需要者等において,両社の取り扱う役
務等につき出所の誤認混同が起こり,誤発注がされたというような事実は全くない。
このことは,各商標が使用された役務等につき需要者等において出所の誤認混同が
何ら生じておらず,今後もその可能性が極めて低いことを示している。
したがって,本願商標と引用商標1及び2との間で,需要者等が出所の誤認混同
を生ずるおそれはなく,これらは非類似の商標である。
(平成4年登録の原告登録商標)
第4被告の反論
1本願商標の外観,称呼,観念,取引の実情
(1)本願商標の外観
本願商標の構成は,やや右側に傾斜し,二重線で表した「i−TEC」の青色の
文字と,その右斜め上から右横にかけて青色の欧文字「h」を2つ重ねたような幾
何図形と,その図形の右側に横書きされた「アイテック阪急阪神」とそれよりやや
小さく横書きされた「株式会社」の黒色の文字を配してなるものである。このうち,
青色で描かれた「i−TEC」の文字及び図形と,黒字で書された「アイテック阪
急阪神」及び「株式会社」の文字部分とは,色が異なることから,視覚上分離され
て看取されるものといえ,かつ,青色で描かれた「i−TEC」の文字と図形とを
みても,「i−TEC」の文字と図形とは大きさが異なる上,文字と図形との違い
があることから,視覚上分離して看取されるものといえる。
(2)本願商標の観念
本願商標の構成中「i−TEC」の文字は,原告の商号である「アイテック阪急
阪神株式会社」中の「アイテック」の部分を欧文字と「−」をもって表示したもの
と認識し得るものであるが,本願商標を構成する「i−TEC」の文字,図形,「ア
イテック阪急阪神」の文字部分及び「株式会社」の文字部分が,構成全体として特
定の意味合いを認識させる等,これらを常に一体不可分のものとして看取しなけれ
ばならない特段の事情はない。
また,「図形」が,欧文字「h」を2つ重ねたような態様であるとしても,本願
商標の構成中の「阪急阪神」を表示したものと判断しなければならない事情はなく,
かつ,青色で描かれた「i−TEC」の文字と「図形」とをみても,「図形」が「i
−TEC」の文字をモチーフにしたものである等,「i−TEC」の文字と「図形」
とが互いに関連を有するものとはいえず,「i−TEC」の文字と「図形」とを常
に不可分一体のものとして捉えなければならない特段の事情は見出せない。
「i−TEC」の文字と,原告の商号の一部である「アイテック」の文字部分と
は互いに関連を有しており,「i−TEC」の文字は,原告の略称やその取扱いに
係る役務の出所表示とも看取され得るものといえる。
(3)本願商標の称呼
本願商標の構成文字全体から生ずる「アイテックアイテックハンキュウハンシン
カブシキガイシャ」や,その他「アイテックハンキュウハンシンカブシキガイシャ」
等の称呼は冗長であることから,必ずしもこれを常に一連に称呼しなければならな
い特段の事情があるとはいえず,その構成文字中の一部の文字部分のみを捉えて,
称呼する場合もあると判断するのが相当である。
(4)取引の実情
原告のウェブサイトを参照すると,原告が提供する役務の名称として「i−TE
CWebソリューション」,「i−TECSERVER」,「i−TECT
echnology」の文字が使用され,これらの構成中の「Webソリューショ
ン」,「SERVER」及び「Technology」の各文字は,役務の内容や
提供の用に供する物を表示するもので,出所識別標識として機能しない部分である
から,「i−TEC」の文字部分が,原告の取扱いに係る役務の出所を表示するも
のとして使用されていることがうかがわれる。
(5)小括
上記(1)∼(4)からすると,簡易迅速を尊ぶ取引の実際にあっては,本願商標に接
する需要者等は,本願商標の構成中の「i−TEC」の文字を捉え,これを本願商
標の要部の一つとして認識し,「i−TEC」の文字に強く印象をとどめ,この部
分のみをもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。
よって,本願商標は,構成文字全体に相応した「アイテックアイテックハンキュ
ウハンシンカブシキカイシャ」や,その他「アイテックハンキュウハンシンカブシ
キガイシャ」等の称呼のほか,独立して要部たり得る「i−TEC」の文字部分に
相応した「アイテック」の称呼をも生ずるものであって,かつ,特定の観念は生じ
ないものといえる。
2引用商標1及び2の称呼,観念
引用商標1は,「アイテック株式会社」の文字を書してなるところ,「株式会社」
の部分は法人の組織形態を表すもので,自他役務の識別機能が弱く,省略されて称
呼されることは一般的に行われている。したがって,引用商標1は,その構成文字
全体に相応して「アイテックカブシキカイシャ」の称呼が生ずるほか,「株式会社」
部分が省略され,構成中の「アイテック」の文字部分に相応して,「アイテック」
の称呼をも生ずるものであり,かつ,特定の観念は生じない。
引用商標2は,「ITEC」の欧文字を書してなるものであり,その構成文字に
相応して,「アイテック」の称呼を生じ,かつ,特定の観念は生じない
3対比
本願商標と引用商標1とは,互いに特定の意味合いを看取させるものではないか
ら,観念については比較できず,また,外観において類似しないとしても,「アイ
テック」の称呼を共通にする。
本願商標の要部である「i−TEC」の文字と引用商標2の「ITEC」の文字
とは,「−」の有無に相違点があるものの,「I(i)」,「T」,「E」,「C」
の文字綴りを全て共通にするものであるから,外観上近似する印象を与える。また,
本願商標から生ずる「アイテック」の称呼と,引用商標2から生ずる「アイテック」
の称呼とは同一である。したがって,本願商標と引用商標2とは,互いに特定の意
味合いを看取させるものではないから,観念については比較できないものであると
しても,本願商標の要部である「i−TEC」の文字と引用商標2の「ITEC」
の文字とは,外観が近似しかつ,「アイテック」の称呼を共通にする。
4「本願商標の周知性と出所混同のおそれの欠如」に対し
(1)本願商標の周知性
原告は,その売上高等について主張するところ,市場占有率が明らかではないか
ら,売上高のみをもって,本願商標が周知性を有するとはいえない。ちなみに,平
成20年度のSI開発(コンサルティング,システムインテグレーション)の市場
規模は,2兆7502億円とされており,この数値と対比すると,原告の市場占有
率が高いとはいえない。
原告が実施する宣伝広告は,販売促進用パンフレットの作成やイベント・展示会
への出展が主であって,マスメディアを利用したCM等が行われているのかが不明
であり,広告宣伝の回数,一般紙,業界誌,雑誌又はインターネット等における記
事掲載の回数についても,提出された証拠からはうかがい知ることができない。
さらに,本願商標を付した役務を提供した地域,証明若しくは譲渡の数量や需要
者の本願商標の認識度を調査したアンケートの結果等の提出もない。
したがって,仮に,本願商標の構成中に「阪急阪神ホールディングス」の取扱い
に係る商標として,広く需要者等に知られている「阪急阪神」の文字を有すること
から,原告が「阪急阪神」傘下の企業であると認識するとしても,かかる事実のみ
をもって,「アイテック阪急阪神株式会社」の商号が,原告を表示するものとして,
需要者等の間に広く認識されているものと判断しなければならないとはいえない。
(2)「従前も出所混同がなかったこと」に対し
アイテック株式会社は,昭和56年に設立された,病院経営に関わる情報システ
ム(電子カルテ)等を支援する企業であり,その取扱いに関する役務に,引用商標1
及び2を実際に使用している。そして,同社は,北海道,宮城県,東京都,石川県,
愛知県,大阪府,島根県,広島県,福岡等にある病院や,海外向けにも役務を提供
している。
したがって,本願商標及び引用商標1及び2の取引の実情をみても,本願商標の
周知性と引用各商標の周知性とに,格別な差異を有するとは判断することができず,
その出所について誤認混同を生ずるおそれがあるといえる。
なお,仮に,原告が主張するように,現時点において原告とアイテック株式会社
の取り扱う役務等につき出所の混同が生じていないとしても,本願商標と引用商標
1及び2が互いに類似する商標であることにかんがみると,今後,出所の混同が生
じるおそれが否定されるものではない。
第5当裁判所の判断
1判断基準
商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似
の商品又は役務に使用された場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずる
おそれがあるか否かによって決すべきであるが,そのためには,まずその外観,観
念,称呼の対比を基準にして需要者等に与える印象,記憶,連想等を総合し,要部
が抽出できるならばそれに基づいて考察すべく,その商品又は役務の取引の実情を
明らかにし得る場合には,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。
2本願商標の要部
本願商標は,中央から右端にかけて,やや大きな「アイテック阪急阪神」の文字
と小さな「株式会社」の文字が黒色で横書きされ,その左側に,「h」の欧文字を
2つ重ねたものと理解することができるか,あるいは,上下の波形のようにも見え
る青色のやや大きな図形を表し,その図形の左下に,青色で右に少し傾いた小さな
「i−TEC」の二重文字を横書きしてなるものである。そして,①「アイテック
阪急阪神」の文字が,同じ大きさで一体として記され,中央の大きな面積を占めて
いること,他方で,②「株式会社」の文字は小さく,会社組織を示す一般的な語で
あること,③「i−TEC」の文字は,小さく左下隅に配されており,しかも,「ア
イテック」の称呼が生じることからすると,中央の「アイテック阪急阪神」の文字
部分のうち「アイテック」の部分を欧文字で表すものとして,「アイテック阪急阪
神」の文字部分に従属するものと理解されること,④図形部分も一見しただけでは
いかなる意味を持つか理解しにくいものであることからすると,本願商標に接した
需要者等は,中央の「アイテック阪急阪神」の文字部分を一体のものとして強く意
識することが多いものと認められる。
また,「アイテック阪急阪神」の文字部分からは,「アイテックハンキュウハン
シン」の称呼を生じるが,この程度であれば,商標として冗長というほどではない。
加えて,「i−TEC」の文字や「アイテック」の文字部分は造語ではあるものの,
特徴的な外観,観念,称呼を有するものではない。そして,「i」がインフォメー
ションの頭文字として多方面で使用される欧文字であり,「TEC」もテクノロジ
ーなる科学技術一般を指す単語を表す3文字の欧文字として思い付きやすく語呂の
よい文字群であって我が国で広く使用されていることから,「i−TEC」の文字
はこの2つを結び付けたにすぎないものとして,識別力において強い印象を与えな
いのに対して,「阪急阪神」の文字部分は,関西を本拠とする著名な私鉄である阪
急と阪神を中心とし,近時村上ファンドの動きにより実現した企業グループのホー
ルディングスとして世間の耳目を集めた阪急阪神グループの略称であって,特に強
い印象を与えるものである。
このような本願商標においては,「アイテック阪急阪神」の文字部分が一体とし
て把握され,強い自他商品識別力を有するものと理解し,そこに要部を認めるのが
自然であり,「i−TEC」の文字や「アイテック」の文字部分だけを抽出して他
人の商標との類否を判断するのは相当ではない。次の3における判断においては,
この要部を中心に対比するのが相当である。
3外観,観念,称呼による引用商標との対比
(1)外観
本願商標は,前記のとおり,中央から右端にかけて,やや大きな「アイテック阪
急阪神」の文字と小さな「株式会社」の文字が黒色で横書きされ,その左側に,「h」
の欧文字を2つ重ねた,あるいは,上下の波形のように見える青色のやや大きな「図
形」を表し,その「図形」の左下に,青色で右に少し傾いた小さな「i−TEC」
の二重文字を横書きしてなるものであるのに対し,引用商標1は,「アイテック株
式会社」の文字を横書きしてなるもの,引用商標2は,「ITEC」の欧文字を一
連に横書きしてなるものであり,引用商標1及び2には少なくとも「阪急阪神」に
相当する部分がない。したがって,本願商標と引用商標1とは「アイテック」と「株
式会社」の文字部分が,本願商標と引用商標2とは「I(i)」と「TEC」の欧
文字部分が共通するものの,全体として本願商標と引用商標1及び2との間で外観
は相違するといえる。
(2)観念
「アイテック」,「i−TEC」及び「ITEC」は造語であって前記2で示し
たように識別力は弱く,情報技術との意味を超えて特定の観念を看取することはで
きないのに対し,「阪急阪神」は著名な企業グループを表す語であり,「株式会社」
は会社組織の一形態を表す語である。したがって,本願商標からは,「阪急阪神グ
ループに属するアイテックという会社」という観念が生じることになるが,引用商
標1からは「アイテックという会社」という観念のみが生じ,引用商標2からは具
体的な特定の観念は生じないことになるから,本願商標と引用商標1及び2とは観
念が異なるといえる。
(3)称呼
本願商標からは「アイテックハンキュウハンシン」又は「アイテックハンキュウ
ハンシンカブシキガイシャ」,引用商標1からは「アイテック」又は「アイテック
カブシキガイシャ」,引用商標2からは「イテック」又は「アイテック」の称呼が
それぞれ生じ得るものであり,本願商標と引用商標1及び2とは,称呼において共
通する部分があるものの前記のとおり識別力が強くない部分にすぎず,全体として
みれば称呼が異なる。
4取引の実情の検討を踏まえた小括
以上に判示したところによれば,本願商標と引用商標1及び2とは外観,観念,
称呼において異なるので,取引の実情において特段の事情が認められない限り,両
者は類似するものではないといわなければならない。
被告の主張立証するところによっても,引用商標1及び2が「アイテック」の称
呼において自他商品(役務)識別力を顕著に獲得し,前記のようにそれだけでは強
い印象を与えない「アイテック」の称呼が部分的に共通することにより,本願商標
との間で誤認混同を生じさせるまでに需要者,取引者の間に浸透しているなどの事
実を認めるに足りない。原告が取引において本願商標以外に「阪急阪神」の文字部
分を含めずに「i−TEC」の文字を含む商標を使用している事実は証拠上認めら
れるが(乙1の1∼1の3),この事実は,本願商標についての取引の実情に関す
るものではないので,上記判断を左右するものではない。
よって,本件において本願商標と各引用商標との類否を判断するに際して斟酌す
べき取引の実情の事実は認めることができず,本願商標と引用商標1及び2とは類
似しない。
第6結論
以上のとおり,引用商標1及び2との対比において商標法4条1項11号該当性
を肯定した審決の判断は誤りであり,その誤りは結論に影響を及ぼすものである。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
清水節
裁判官
古谷健二郎

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